施しの英雄    作:◯のような赤子

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まず感謝を。
皆様のおかげでUA100万、お気に入り1万、感想数1000超えという何か色々ヤベェ数字を突破する事ができました。
正直全てが雲の上の出来事だと今まで思いながら書いていたので本当に感謝です、ありがとうございます!

初めは感謝企画でこれ書く前に考えていたギル様本人D×D世界転生でも軽く投稿するかとも思いましたが、早く続き書けやコルルァと私のゴーストが囁いたので本編です。
遅れた理由?いつもどおりの書き直しですが何か?

イッセー対サイラオーグは飛ばしてます。
じゃないと文字数がドエライ事になったので。

それと感想で言われて気づいたのですが。
カルナさんの年齢は23~25くらいです。
読み直されるとあれ、おかしくね?と絶対になるのですが、脳内補間ということでどうか(汗

今回行けるとこまで行きたかったので少々長いです。
ではどうぞ。




邂逅、後に再会

――耳を澄ませば大歓声が、その戦いの結果を見ていない者達にも伝えてくれる。

 

 

『す、凄まじい歓声の上がり方です!ですがそれもしょうがないのでしょう!素晴らしい試合でした!勝ったのは赤龍帝!勝者はリアス・グレモリーチームです!!』

 

 

実況のナウド・ガミジンの声が廊下にあるスピーカーから流れ、勝敗が決まった直後、すぐに席を立ち、今こうして要人用の観戦室へと向かう俺――アザゼルは、その結果を目の当たりにしていたにも拘わらず、思わずガッツポーズをしてしまう。

 

イッセーが、イッセー達が勝った。あのサイラオーグ・バアルにだ。それも相手の土俵に等しいガチンコ勝負でだ。これを嬉しく…そして誇らしく思えないなら、俺はあいつ等の教師失格だ。もう長い事生きちゃいるが…長い堕天使生、その中でも一位か二位を競うほどに良い戦いだった。

気付かず握りしめていた拳を一度見つめ、嬉しさのあまりふっと笑ってしまい、拳を解く。

 

 

それを自身の合図にして思考を、表情を、イッセー達の教師から堕天使総督へと変化させる。

 

試合中、解説をしていた為に席を外せなかったが、部下からの連絡で「例の者」がここアグレアスドームにある要人用の観戦室に姿を現したと一報を受けていた。

個室となっているそこはいくつも会場内に用意されており、今回はそれがフルに活用されたようだ。それだけ今回の一戦が、神々にとっても興味引かれるものだったのだろう。その証拠に、オーディンの爺さんは「ヴァルハラ」専用に、試合前に姿を見せていたゼウスやポセイドンなどは「オリュンポス」専用に、そして姿をまだ見ていないシヴァは「インド」専用に調度されたそれぞれの観戦室に護衛を付けて入室しているはずだ。

 

その要人用の一部屋に俺は歩みを進めていると――丁度俺がお邪魔する予定だった部屋から二つの人影が出て来るのが見えた。

一人は目的の相手。五分刈りの頭に丸レンズのサングラスとアロハシャツ、首から数珠をジャラジャラと鳴らしながら掛けるその姿は、まるで要人とは思えない姿をしている「例の者」――帝釈天。そして二人目は……。

 

(…コイツ…何者だ?知らない顔だぞおい)

 

 

普段帝釈天はこういう場に顔を出す際、連れて来る従者は同じ天部である事が殆どだ。だが帝釈天の少し後ろ、出て来てすぐにこちらに気づき、射抜くように見つめて来るこの男は今まで見た事がない。それどころか真紅のコートを肩にかけ、明らかに高そうなダークスーツを着こなすその姿はまるで、この男の方が要人にさえ見えてしまう。

 

 

「インドラ、どうやらお前に客のようだぞ」

 

 

――!?今コイツ何つった?しかもタメ口だと!?

 

 

「あん?おー、Yo!堕天使のお兄さん!」

 

「これは奇遇ですな帝釈天殿、ゲームは如何でしたかな?」

 

 

後ろに控える男の、どう聞いても敬いの見えない言葉に驚きの表情を浮かべてしまうが何とか取り繕い、俺は帝釈天に声をかける。

 

 

「イカした試合だったZE!現魔王派と癒着してる堕天使兄さんにとっちゃ『教え子』ってのが勝って良かったンだろぉ?グレモリーチームだっけ?まぁまぁじゃねぇの?悪魔同士なら(・・・・・・)ありゃ並のメンツじゃ歯が立たねぇだろうNA」

 

 

……相変わらず皮肉の利いた事言ってきやがる。だがはっきりと俺はコイツに言い返す事が出来ない。それはコイツの言った事が正しいからじゃない。

全勢力のトップ陣営でも最高クラスの実力者。『天空神』『天帝』、闘いの神“阿修羅”…そして当時、神々でさえ手を焼いた全盛期の“ヴリトラ”を相手に勝利した最強の武神…それが帝釈天、それがこの男、帝釈天(インドラ)だ。

だが俺はどうしても訊きたい事があった。それは先日京都であった英雄派のテロに関わる事、そして…。

 

 

「訊きたい事がある」

 

「HAHAHA!ンだよ、正義の堕天使総督さん!そんな怖ェ顔してよぉ!俺様で良かったらなんぼでも答えてやんZE?」

 

「…神滅具所有者のことを、曹操のことを俺達よりも先に知っていたな?」

 

 

この男の配下である初代孫悟空が曹操の事を知っていたとイッセー達から聞いている。つまり帝釈天は――曹操の事を以前から知っていた。最強の聖槍を持つあの男と、接触を持っていた。

そう問うと、帝釈天は口の端を歪めつつ、愉快だと言いたげに笑みを見せる。

 

 

「で、それがどうした?俺様があのクソガキを知っていたとして、何が不満なんだ?報告しなかったことか?それとも…通じていたことかぁ?」

 

 

この野郎……ッ!自らバラしやがった!?

 

 

「何故俺様がテメェ等クソ共に、報告などせにゃならねんだ?ンな義務、俺様(神々)なんざにありゃしねぇZE?おう、ついでに言うとな?神滅具を持ったアイツを外に出したのはこの俺様DA。しばらく連絡なんぞしてねぇが、コイツからも報告を聞いて、随分愉快なお友達と楽しい事してるみてぇだNA」

 

 

「テメェ…インドラァ…ッ!!」

 

 

俺は怒気を含んだ声でその名を呼んだ。すると帝釈天が不敵に笑いを見せ――。

 

 

「HAHAHA!!――おう、誰がその名で呼んでいいと言った?」

 

 

次の瞬間、俺が見せた怒気を遥かに上回る怒気が圧となり、俺に襲い掛かって来た…っ!

 

 

「テメェ如きが俺様をそう呼んでんじゃねぇよタコ。確かにアザ坊、テメェの事はそれなりに認めてるZE?だがなぁ、コイツだけだぜ」

 

 

そう言って帝釈天は圧を若干弱め、従者とおぼしき白髪の青年の肩に手をかける。…何だか青年の方が少し、嫌がっているようにも見えるが…。

 

そのまま帝釈天は冷や汗を流す俺に、指を突き付けて来る。

 

 

「一つ教えてやるぜ若造。最近はどの勢力も和平や和議なんてもんを謳ってやがるがな、腹の底じゃ『俺らの神話こそ最高!他神話なんぞ滅べクソが』って思ってンだよ。例外はインド神話や日本神話くらいだZE。日本は特異に過ぎやがるし、インドはいずれ“カリ・ユガ”で滅び第十の化身(カルキ)が現出する事が確約してるからNA」

 

 

「まぁその前にアイツとだけは決着はつけるが」と僅かな間だけ真顔になり、それもすぐに消え再び帝釈天は俺にニヤリと笑いかけ。

 

 

「オーディンのクソジジイやゼウスのクソジジイだってそうだ。最近は甘々なだけだったがこれからは違う。互いが互いに牽制し合い、手出しできなくなる。そうなるよう、俺様は須弥山での戦闘を見せたからな。てかよ、テメェ等(聖書陣営)が一体どれだけの神話を民間伝承レベルにまで蹴落としたか分かってっか?各種神話でも見直せや。――…神ってのは相手を選ばず呪いや祟りを仕掛けてくるからな」

 

 

ふっとその言葉を最後に錘のように圧し掛かっていた圧が消える。…分かってんだよそんな事は。俺達聖書の陣営がどれだけの神話を害したかくらい。今だってそうだ。はぐれ悪魔や俺の目から隠れ、堕天使達は好き勝手にやらかしている。でもなぁ…恥知らずだと罵られようがこれだけは叫ばせてほしい。それでも今は建前ってのを張らねぇといけない時期だろうが…っ!

 

勢力図が変われば、人間界は簡単に滅ぶんだ…ッ!!

 

 

「ま、最近少し目立ち過ぎたからな。しばらくはテメェ等他神話と足並み揃えてやンよ。また明日な、アザ坊。あぁ、勘違いされるのが気に食わねぇから先に言っとくが、オーフィスが邪魔なのは俺様も同じだ。あとアイツは好きにした、だからテメェ等もあのクソガキを好きにしろ」

 

 

そう言って俺の横を、帝釈天は従者の男を連れて後にしようとする。…アイツってのは、曹操の事か?つまり今現在、帝釈天は曹操に…最強の神滅具たる“黄昏の聖槍”に興味がない…?

 

 

「――いや待て帝釈天!最後にもう一つ、訊きたい事がある!」

 

「…まぁなんぼでも答えるっつったのは確かに俺様か。良いぜ、何DA?」

 

「その男、その従者はお前が京都に使者として送った者…そうだな?」

 

 

初めは曹操の事だけを訊こうと思っていた。だがあの男を見た瞬間、その特徴がイッセー達から聞いていたものと同じだと、すぐに分かったのだ。

 

 

「あぁ、そうだ。確かにオレは一度、このインドラの命で遣いとして、京都に赴いた」

 

 

問いかけると、白髪の男は此方に一歩踏み出し、肯定してきた。

 

 

「お前は一体何者だ。さっきから気配を探っちゃいるが“神器”も宿していない、ただの人間にしか感じねぇ。だがそれじゃおかしいんだ。普通の人間が瘴気に犯される事なく、何故平然としていられる?イン…帝釈天と対等のように接するその姿も異常だ。何故それが許される?…英雄派が暴れた後、俺はもう一度京都に、“裏京都”に足を踏み入れた。イッセー達から話は聞いている。お前だろう?“裏京都”を焼き払ったのは…っ!」

 

「問いかけに一貫性がまるで無いぞ。堕天使の長ならば、もう少し整理して問う事をお勧めしよう」

 

 

コイツ…ッ!喧嘩売ってんのか!?

 

 

「HAHAHA!!最ッ高だなお前!普段はマジ殺してぇくらいウゼェが、聴いてるだけだと愉快痛快だな、こりゃ!」

 

「何がお前をそこまで抱腹絶倒にさせるのか良く分からないが、オレは当然の事を言ったまでだ」

 

 

キレそうな俺を置いて、互いに話し出す。そこには部下といった雰囲気はなく、まるで親しい間柄のようにさえ見える。

 

 

「おい待てよ!話を聞けお前等!」

 

「明日で良いだろ?どうせさっきアザ坊、テメェがコイツに訊いた事は全て、明日の試合終了後のパーティーで分かンだからよ」

 

 

そう言って今度こそ、帝釈天は背中を向けて再び観戦室から伸びる廊下を歩き出す。当然従者だろう男も帝釈天の後を追い…途中此方を振り向き。

 

 

(マスター)であるインドラが、お前に吐いた数々の失礼極まりない言葉を謝罪しよう。それとお前が“裏京都”と呼ぶあの異界、確かに崩壊寸前にまで追い込み、そこに住む者達を殺したのはこのオレだ」

 

「な…ッ!?やっぱりそうかよテメェ…!何でだ!何であんな事をした!あそこに住む連中が、一体何をしたってんだ!?」

 

何も(・・)。第三者たるお前からすれば、それは至極当然の怒りなのだろう。…聖書は読ませてもらったが、やはり書物に描かれたお前達とこうして出会い、話す姿は違うのだなと良く分かる」

 

「質問に答えろ!イッセー達から聞いたが、お前真の英雄を名乗ったそうじゃねぇか。けどな、俺は見たんだ!“裏京都”で焼け焦げた死体の数々を、その前で涙を流す遺族の数々を!一体お前のどこが英雄ってんだ!」

 

「堕天使の長よ、お前の言う事は尤もだ。だがお前がどれだけオレを貶そうと、オレが英雄である事に変わりない。それだけは変われない(・・・・・・・・・・)。たとえ何度蘇ろうとだ。それと何故、彼等を殺したかなど、決まり切っている。オレが殺すと決めたから殺した(・・・・・・・・・・・・・・)。それだけだ」

 

 

――絶句する他無かった。この男は、自らの意志であれだけの数を殺したのか?それでなお、自身は英雄だと!?

 

 

「…狂ってるよ、お前」

 

「だろうな。だがこういう生き方しかオレは知らない」

 

 

その言葉を最後に、今度こそ男は帝釈天の後を追っていく。

 

…俺はただ、その後ろ姿を見ているだけしか出来なかった…――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優しい男なのだな。お前が認めたあの男、アザゼルとやらは」

 

 

帝釈天の後ろを付き添い、カルナは初めて会ったアザゼルについて感想を呟く。

 

カルナが堕天使に会ったのは初めてだ。しかもそれが長ならば、さぞ強者なのだろうとカルナは考えていた。それはカルナがこれまで会った頂点に立つ者達が、シヴァやこのインドラ(帝釈天)などの長足るに相応しい実力を持っていたからだ。しかし実際にあぁして会い、カルナはアザゼルが並の戦士(クシャトリヤ)にさえ劣ると見抜き幻滅…したワケではない。むしろ彼の中で、アザゼルに対する評価はかなり昇っていた。

 

一勢力を纏め上げる者でありながら、力ではなく知恵での統率――力で抑え込む者は見た事がある。力と知恵で強欲に王座を欲した永遠の友の姿をカルナはすぐ傍で見て来た。しかしまさか、知恵回りだけで長の座に着くとはと、カルナは勘違いした(・・・・・)のだ。

 

 

「はっ、ありゃ優しいンじゃねぇ。甘ェだけだ」

 

 

そう言いながら帝釈天は片手をポケットに突っ込み、もう片方の手にはいつの間にか握られていた短剣を――一閃。

廊下が広がる景色が僅かにずれ、次の瞬間には何事もなかったかのように戻る。

 

 

「チッ、覗き魔オーディンめ…明日まで待てねぇのか」

 

「成程、先程の視線はかの北欧の主神、オーディンのものか。だが解せない。何故オレの正体を隠そうとする」

 

 

先程のアザゼルとの邂逅の際、カルナは名乗りを上げていない。何故なら今の(マスター)である帝釈天が、それを望んでいないと見抜いたからだ。

 

 

「サプライズだよ、サプライズ。てか一々誰か来る度にテメェの事を聞かれるなんざ、面倒ったらありゃしねぇ」

 

「…神々がオレに注目を?今回彼等がここに集ったのは、先程のブリテンの守護龍を宿した転生悪魔と、ギリシャ神話に名高きネメアの獅子を従えたあの悪魔を見る為ではなかったのか?」

 

「表向きはそうだ。でも実際は違う。どいつもこいつもテメェに夢中さ。須弥山でテメェが見せた戦いが、余程琴線に触れたらしい。…自覚しろカルナ、そんだけお前って英雄(存在)は重いんだよ」

 

 

どこか納得のいかない顔をカルナは浮かべる。彼からすれば“己程度の英雄はまだまだ存在するだろうに”と口に出さず、心の中で呟く。

その心境を帝釈天は悟ったのだろう。

 

 

「昔はな。でも今は違う。かつてであれば、さっきのネメアを絞殺した大英雄ヘラクレス。たった一人で万軍を相手に立ち塞がったクー・フーリン。この世界の担い手を神々から人へと授けた英雄王ギルガメッシュ。これだけじゃない、俺達神々が心底惚れてやまない英雄なんざいくらでもいた。…アルジュナもな」

 

 

だが、と帝釈天は一拍置き。

 

 

「今はお前だけだ。大英雄と呼べる存在なんか、今じゃお前しかいねぇ。まぁ北欧のヴァルハラなんかに行けば簡単に会えるだろうぜ?でもな、生きた英雄ってのは、それだけで俺達(神々)は手元に欲しがるんだよ」

 

 

無論英雄を、死者を生き返らせる方法などいくらでもある(・・・・・・・)。だがそれをしてしまえば世界バランスそのものがいずれ壊れてしまう為、そしてハデスなどの冥府に連なる場所を管理する者達に、結局は押収される可能性が高い為、とある“神滅具(聖杯)”を宿した者達以外誰もそれを成そうとはしなかった。

だがカルナだけは例外だ。何せスーリヤの手が僅かに入っていたとはいえ、誰が前世の全てを洗い流す理そのものである輪廻の輪を潜り抜けてなお、その高潔さ故に前世の全てを引き継いで生まれる者がいようとは神々でさえ想像がつかなかったのだから。

 

だから神々は求めた。英雄の代わりになるやもしれない“神器”を。事実“神器”の中には、かつてを彷彿とさせる力を宿主に与えるものまである。ある意味飢えていた神々がそれに飛びつかないワケもなく、この帝釈天も以前はそうだった。

 

 

「ま、俺様はお前なんかいらねぇけどな。さっさとその人生を謳歌して、ちゃちゃっとあの馬鹿の下へ帰りやがれ」

 

「約束された帰還だ、ならばそう急ぐ事もないだろう。そういえば先程の会話で一つ、以前浮かんだ疑問を思い出した。オーフィスの事だ」

 

 

数年前、まだ帝釈天に引き取られたばかりの時、カルナは今の世界情勢を教えられている。その中には当然、無限と夢幻を司る二匹の最強のドラゴンの事も含まれていた。

 

 

「グレート・レッド…真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)はまだ分かる。あれはつまり、人々の無意識下の集合体なのだろう?」

 

「正解だ。今俺様が所属している仏教では“阿頼耶識”とも呼んでいる。認識できない領域に存在する、人間という存在の根本だ。だからアレだけには俺様達神々は手を出さねぇ。何故か自我を宿して大昔、オーフィスと大喧嘩した時は焦ったモンだが…まぁ基本俺様達は放置している。何よりあれはまさに夢幻そのものだ。もうどうにかしようとかいう次元じゃねぇしな」

 

 

帝釈天の歩きながらの講義にカルナはフムと顎に手を添え、軽く頷き。

 

 

「だからあの当時、あのような存在はいなかったのだな(・・・・・・・・・・・・・・・・)。まだ人類の数が少なく、また世界の管理が神々の手にあったが故に」

 

 

かつてドゥリーヨーダナの命で世界(インド)を制覇したカルナではあるが、彼はその際グレート・レッドなど聞いた事も見た事もなく、だからこそ、グレート・レッドはそれぞれ独立していた世界が繋がり、人類が神々の手から離れたが故に発生したものだとほぼ正解に近い答えへと辿り着いていた。

 

しかし、だからこそオーフィスの存在理由が分からない。

“夢幻”は確かに人が人として存在する為に必要なのだろう。では“無限”は――?

 

 

「ある種の(さか)しまだ。グレート・レッドが“人が存在するが故の結晶”であるのに対し、オーフィスは謂わば“世界が一つとなった象徴”だ。元々は各神話が治めていた世界――宇宙、真理とも呼べるモンが互いにぶつかり統合され、その時落ちた世界の欠片のようなものが集まったのが無限龍オーフィスだ。ある意味神々が秩序を担っていた過去の遺物とも言える。だからこっちは別にいくら手を出そうが今の世界に何ら問題無ぇし、だからアイツがいくら古巣である次元の狭間に帰ろうとしても、グレート・レッドが許さねぇし勝てねぇ。“蛇”と言われる所以はどの神話においても蛇が永遠の象徴だからだ。同時に様々な特徴も受け継いでいる。以前はジジイだったが、今はロリっ娘になってんのが良い証拠だ。ごちゃ混ぜなんだよ、色々と」

 

(アヒ)であるがゆえの帰巣本能。いや、この場合はオレとアルジュナのようなものか」

 

「…まぁンなモンだ。結晶体であるグレート・レッドと違い、オーフィスは謂わば無限に最も近いだけ(・・・・・・・・・)だ。それに元々はバラバラだった世界の集合体。“蛇”に形を変えた力を分け与えられンのも、その名残りだな。その分当然本体は弱体化するし、殺そうと思えば当然殺せる」

 

 

長話で疲れた――そう言葉を切り、背中をカルナへと向けたまま帝釈天は手をプラプラと気だるげに振り、伸びをしだす。

 

 

「さぁて、見るモン見たしさっさと悪魔共が用意したホテルに行こうぜ。さっき飲んで思ったが、意外と冥界の酒って美味いな。どうせ明日のパーティーまで暇なんだ。お前も付き合えカルナ。浴びる程飲んで寝れば、丁度夜になってンだろ」

 

「…待てインドラ。お前まさか、明日の試合を見ないつもりか?」

 

「あん?そうだぜ。何だその意外そうな顔」

 

 

まさに帝釈天の言う通り、カルナは僅かに目を見開き、驚きの表情を作る。

 

 

「お前…明日はヴリトラが出るんだぞ。それをヴリトラハンたるお前が見ないなど…」

 

 

「ありえないだろ」――そう言いたかった。だがカルナは途中で言葉を止めざるを得ない。

振り向きカルナを見つめるその顔が、どこまでも無表情に染まりきり、カルナでさえその無貌に気圧されたからだ。

 

 

「おい、イイコト教えてやるよ。――ヴリトラなんざ、ここにはいねぇ。俺様が殺した。殺し尽した。それが全てだ。なら“神器”に宿ったアレは何かって?パチモンに決まってんだろ。死んだんだよ、ヴリトラは。俺様が滅ぼした。邪龍だぞ?アイツは。この俺様を殺す為だけに生み出された、この俺様が何よりも恐れた存在が…なぁ、それが実は生きていて?バラバラにされているとはいえあんな英雄ですらねぇ、クッッッソみてぇなガキ共に良いようにされるワケがねぇだろ」

 

 

それは所謂闘気でも、殺気でもない。ただドロドロとした感情が帝釈天から垂れ流され、空間が歪みを見せ始める。

 

普通ならばこの話はここで終わりだろう。だがカルナは…頑固に過ぎた。

 

 

「だがあれは間違いなくヴリトラだ。オレはかつて、お前とあの大いなる(アヒ)が死闘を演じた場所へ赴き、ヴリトラが残した気配を体感した事がある。オレでさえそうなのだ。それをお前が…ヴリトラハンたるお前が認めずして、誰があの(アヒ)をヴリトラだと認める」

 

 

珍しく食って掛かるカルナだが、そこにはカルナの…いや、あの時代を生きた一人の英雄としての思いがあった。

つまるところ…カルナは憧れたのだ。

 

彼が生まれる遥か以前に演じられたインドラとヴリトラの死闘。その場所へ赴いたカルナは目を瞑り、瞬間閉じた視界に映し出されたのは凄まじいまでの殺し合いの数々。

朝、昼、夜。更に形ある物では決して殺せない、スーリヤの鎧に下手をすれば匹敵する凄まじいまでの不死性を宿したヴリトラだが、帝釈天(インドラ)はかつて、夜明けに泡を用いてこの邪龍を討伐した。だが無論、ヴリトラとてただやられるばかりではない。海すら塞き止める巨体。彼を殺す為だけに生み出されたその身は、悍ましいまでの呪いに包まれ帝釈天(インドラ)を押し潰そうと迫り、帝釈天(インドラ)もまた負けじと泡の武器とヴァジュラを振り翳し、天すら揺らす咆哮を喉奥から轟かせ、まさに神々の王として立ち向かい、果てに何とか殺す事ができた。

 

カルナが視界を開けた時、彼はその場で最大限その戦いを讃え、称賛した。

 

まさにこれこそ、後世に残されるべき英雄譚だと――だからこそ、せめてインドラにだけは…古代インドの時代に生きた者達全てが憧れたヴリトラハンにだけは、そんな否定の言葉を吐いてほしくなかった。

 

 

「ヴリトラハンならもういねぇ(・・・)、その名は返上したからな」

 

 

だがその憧れた存在は…帝釈天がカルナに返した言葉は無常に尽きた。

 

 

「だから終わりなんだよカルナ。この話はこれで()めぇだ。…俺達の物語はあの時終わってたんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……耳を澄ませば大歓声が、この戦いの結果を見ていない者達にもどうか伝わってくれと願うようにこのアグレアスを包み込む。

 

 

『二日にかけて行われた、このアグレアスドームにおける第二試合スクランブル・フラッグ、何と何と!下馬評や予想を大きく覆し、勝利したのはシトリー眷属!ソーナ・シトリーチームの勝利です!!』

 

 

ソーナ・シトリーが率いる若き悪魔達は、その喝采を存分に浴び、また応えるように右手を大きく掲げる。それは当然の事。

 

勝者としての当然の権利を彼等は険しい試練を乗り越え、ようやく手に入れたのだ。だがソーナは勝って兜の緒を締める。

 

彼女の夢はようやく始まるのだ。

“誰でも身分に関係なく通える学校を創る”――これでようやく、目指す事ができる。

 

彼女達は今ようやく、始まる権利を得たのだ。

 

称賛が贈られる。だがその中でただ一匹、黒炎を燻らせるその邪龍は探せども見つからぬその姿を探し――。

 

 

(…そうか…やはりお前はもう、我の前に姿を見せてくれなんだか…)

 

 

一つの物語が今ようやく始まりを見せた時、かつて誰もが憧れた英雄譚はついぞ再び紡がれる事無く、誰の目にも止まらず泡沫のように消えていった。

 

 

 

 

 

 

レストルームへと通された俺は、普段慣れないその衣装――スーツへと袖を通していた。

 

と言うのもこれから二日にかけてこのアグレアスで行われたレーティングゲーム、その閉会式を兼ねたパーティーへと出席する為だ。

今回は多くの神様達が集まっているということもあり、普段正装として着用している制服ではなく、こうして明らかに高そうなスーツへと着替えているんだけど…。

 

 

「つぅ~!まだ身体中が軋んでイテェ!」

 

 

サイラオーグさんから受けたダメージが、まだ身体に残っている。パーティーに参加する為に、レイヴェルが作ってくれた“フェニックスの涙”を使わせてもらったにも拘わらずだ。

 

 

「あはは、僕もだよイッセー君。身体中が痛くて堪らないや」

 

 

木場も俺と同じく、鈍く続く、身体の奥から滲み出る節々の痛みに、眼尻に僅かに涙を浮かべながら、それでも俺達は笑顔で笑い合っていた。

 

互いに格上とも言えるサイラオーグさんを相手にこうして勝つ事が出来た――昨日はまだ実感が湧かなかったけど、一夜明けた今、ようやく沸々と喜びが溢れ出て、それが表情にも出てしまう。

 

と、少し急いで着替えないと。

パーティーの用意を始める前、レイヴェルから男は着替えを早く済ませ、後からやってくる女性のエスコートをするものだと言われたのだ。

 

それを思い出し、イタタと軽く口に出しながら今着ているシャツを脱ぎ、用意された上等なカッターシャツを着ていると。

 

 

「…すごく良い身体付きになったねイッセー君、少し触ってもいいかい?」

 

 

なんて事を木場が突然言い出して来た!

 

 

「な、何だお前!いきなり!?ま、まさか本当にそっち方面に目覚めたとか、そう言うんじゃねぇよな!?」

 

「いや、無いからね?流石に。ほら、僕って君と比べたら身体の線が細いじゃない?これでも男だし、やっぱり君みたいなガタイに憧れるんだよ」

 

 

それに木場はその戦い方の特性上、素早さを損なわないよう普段の筋トレでも、余分に筋肉が付きすぎないよう調整している。

多分、俺達グレモリー眷属の中で一番ストイックなのは木場だ。だから口ではこう言いながらも多分、木場がこれ以上筋肉を付けることはまずない。

 

 

だからだろうか?俺はこの友人兼、誰よりも誇らしい騎士様のお願いを聞くくらいならと魔が差したのだ。

 

 

「…まぁ、鍛えた筋肉を褒められるのは嫌いじゃねぇし、良いぜ。でも少しだけな?早く部長達を迎えに行かないと」

 

「ホントかい?ありがとう!大好きだよイッセー君!」

 

「だから止めろって!気持ちワリィ!…ほらよ」

 

 

ボタンを掛ける前だったシャツの前を大きく開く。すると「じゃあ遠慮なく」と木場が手をこちらに伸ばして来た――その時。

 

 

コンコンコンとノックが部屋に響く。

 

 

「イッセー先輩達、いつまで着替えてるんですか?男の人って早いイメージ…が………」

 

 

すぐに扉が開き、中に入って来たのはドレスコードを終えた小猫ちゃんだった。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

俺と木場は互いに無言のまま、伸ばした手とこれ見よがしにと開いた胸元をそのままに、小猫ちゃんに視線を集める。すると小猫ちゃんは頭部にある耳をピンっと何かに気づいたように伸ばし。

 

 

「スミマセン、お邪魔しました…にゃあ」

 

 

断りを入れてそっと扉を閉めようとし始めた…って待て待て待てい!!

 

 

「大丈夫ですイッセー先輩、部長にはちゃんと黙っておきますし、たとえ先輩と木場先輩がそういう関係でも大好きです。にゃあ」

 

「ありがとう小猫ちゃん!でも人の話はちゃんと聞いてほしいなぁ!?」

 

「そんな…僕にあれだけ無理やり触らせようとしながら…酷いよイッセー君、くすん」

 

「くすん、じゃねぇぞ木場テメェエエ!!ややこしい悪ノリなんかかましてんじゃねぇ!!」

 

 

お前マジぶっとばすぞ!?と割と本気でキレながら、急いで開けたシャツのボタンを閉める。すると木場がクスクスと笑いながらゴメンと謝って来た。お前ホント良い性格になったなぁ!?

 

 

「私も冗談ですよ?あ、でも急いだ方が良いのは本当です。そろそろ部長や朱乃先輩も終わる頃だと思うので」

 

「え、まじ?やべぇ、急ぐぞ木場!」

 

「うん。小猫ちゃんは外で待ってて?すぐ終わると思うから」

 

 

分かりましたと返事をして、小猫ちゃんが出て行き、今度こそ俺達はいそいそとスーツを着ていくのであった。

 

 

 

 

 

「お待たせイッセー。どう?似合ってるかしら」

 

 

何とか間に合う事が出来た。そう思っていると後ろから声がかかり、振り向くと部長を筆頭とした女性陣が!

 

 

「さ、サイコーに似合ってます部長!」

 

 

サムズアップしながら、思わず鼻の下を伸ばしてしまう。

紅色の髪の毛に良く映える、深紅のドレスを身に纏った部長は、活発そうなイメージと共に、令嬢然とした雰囲気を全面に押し出していた。特に目が行くのはやはりおっぱい!おへそのすぐ上まで空いたドレスの装いはも、もしかして…!

 

 

「ふふ。えぇ、頑張ったアナタに喜んでほしくて、大胆にしちゃったわ。でもこのままだと、色んな人の視線に晒されちゃうから、ちゃんと私の隣で牽制して、ね?」

 

「は、はい!!お任せ下さい!!」

 

 

拳を握り、しっかりと部長のおっぱいを目に焼き付けながら宣誓する。すると右手にむにゅりと何やら柔らかな感触が伝わり、そっちに目を向けると朱乃さんが抱き着いていた!

 

 

「あらあら、リアスばかりズルイですわ。私だってイッセー君に見てほしくて、しっかりおめかししてきたのに」

 

 

そう言って怪しげな笑みを浮かべる朱乃さんも、自身の髪の毛の色を意識したのだろう。少し緑がかった所謂鴉の濡羽色に見える黒いドレスは深いスリットが入り太ももを大胆に晒したもので、同じ色の黒いレースのかかった手袋がまた危うい色気を醸し出している。

 

 

「いやいや!朱乃さんもスゲェ綺麗です!てかすごいエロイです!」

 

「ありがとう。初めの方はすごい嬉しいけど、でも最後のほうは全然ダァメ。お詫びに今からわ・た・しだけを始めから最後までエスコートしてくださると許してあげます♪」

 

 

は、初めから最後まで…だと!?そ、それはどこから始まりナニで終わると考えればいいのでしょうか…っ?

 

 

「う~…部長や朱乃さんばかり…!イ、イッセーさん!私もちゃんと見てください!」

 

「そうだぞイッセー。私達だってお前に見てほしくて、しっかりと見てくれを気にして来たんだ!さぁ、見ろ!穴が空くほど見て良いぞ!」

 

 

おっと、そうこうしていると今度はアーシアとゼノヴィアからも声が上がって来た!(てか見てくれなんて言い方、女の子から初めて聞いたぞ…)

なのでそっちの方を見てみると…おぉ!

 

 

「綺麗だよアーシア、すごい似合ってる!まるで絵本から出て来たお姫様みたいだ」

 

 

駒王が誇る二大お姉様とは違い、アーシアのドレスは純白の、いたって極普通のドレスだった。でもそれがアーシアの純情さを良く出していて、これ以上ない程似合っていた。

ゼノヴィアもそうだ。色は朱乃さんのような黒だけど、どこか小悪魔的な雰囲気のするデザインとなっている。

 

「えへへ、ほ、ホントですか?私、こういう雰囲気にまだあまり慣れていないので、今日はイッセーさんに傍にいてもらえるとすごい安心すると思うんですけど…」

 

 

「駄目ですか?」――そう言いながらこっちに近寄り、スーツの袖をちょこんと摘まみ上目遣いでこちらを見上げて来るアーシア。

な、何て高等技術を何時の間に!?一体誰がこんな事教えた!?マジグッジョブ!!

 

 

「……私の時は一切何の反応もしなかったクセに。胸ですか?やっぱり先輩はおっぱいしか認識できないんですか?サイテーです」

 

「ち、違うからね小猫ちゃん!?あの時はもうそれどころじゃなかったから!だからそんな冷めた目で俺を見ないで!お願い!」

 

 

そうやって必死に小猫ちゃんに頭を下げてると、「何かあったんですか?」とギャスパーが聞いて来た。…ってアレ?

 

 

「そういやお前、今までどこで着替えてたんだ?てか何でお前も女の子みたいなピンク色のドレス着てんだよ!?」

 

 

しかもミニスカート!すげぇ似合ってるし!

 

 

「ひ、酷いですよぉイッセー先輩。ボクも先輩達と同じ部屋でちゃんと着替えてたじゃないですかぁ!」

 

「はぁ?いやお前どこに…いや待てよ?確か部屋の隅でガサゴソと何か段ボールが擦れるような音が聴こえたような…」

 

 

ま、まさかコイツ、着替えまで段ボールの中で!?良く出来たなおい!

 

 

「あれだけ昨日暴れておきながら、皆元気ですねぇ。…まさかこれが若さの違い?わ、私もまだ一応10代なのに…」

 

 

一番奥では何故かロスヴァイセさんが項垂れていた。何やら黒いモヤのようなものが出ている気もするけど、それでも絵になるなぁなんて思ってしまうのは、流石美人だなと考えてしまう。

 

そうこうしていると、部長が手を鳴らして注目を集めた。

 

 

「ふふ。さて、私から始めてなんだけど、そろそろ行きましょ?何より今回の主役はイッセー、貴方よ。今日の試合で勝ったソーナ達もそろそろ向かう頃だし、私達だけかなり遅れるってのは流石に怒られるでしょうし、見に来た神々もきっと、早くイッセーとお話ししたいと思ってるに違いないわ」

 

 

はい!と眷属皆声を揃えて歩き始めた部長の後に続く。そうだよな、流石にみんなもう会場に入ってるだろうし、何より今回はオーディン様をはじめ、各方面の神様が大勢集まってるってアザゼル先生が教えてくれた。

 

 

「そう言えば部長、アザゼル先生は一緒じゃないんですか?この場に見当たらないですし」

 

「もう、イッセーしっかりしてちょうだい。彼なら先に行くって昨日の夜、報告しに来たじゃない」

 

 

…そういえばそうだった。

先生もあらゆる方面にコネを持った、所謂大御所だ。だから先に顔合わせしたい相手が多いからと、先に行って待ってるって言いに来た事を緊張からか、完全に忘れてた。

 

 

「ねぇリアス。やっぱり彼は今回来ないの?」

 

 

ちょっと失敗したと、気を引き締めていると今度は朱乃さんが部長にそう聞き出した。

 

 

「えぇ、彼は…サイラオーグは来ないわ」

 

 

少し残念そうな部長の表情は、この場全員の心境を表していた。

サイラオーグさんとその眷属は、今回のパーティーに出席しない。そう聞いたのは昨日のベッドでだ。

 

 

【今回のパーティーはお前達、勝者を讃えるものだ。ならば敗者である俺が赴くのは、見当違いというものだ。楽しんで来い。そして存分に喝采を浴びてこい。お前達にはその権利がある】

 

 

残念だと思った。同時に勿体無いとも。

サイラオーグさんの夢、魔王になるという夢には、様々な困難と、同時に大勢の協力者がいる。だがその協力者達は昨日の試合でその殆どが離れてしまったとアザゼル先生が教えてくれた。でも、ある意味その頑固さは、あの人らしいなと納得できた。

 

どこまでも真っ直ぐで、どこまでも尊敬できる男。きっとこれから先の長い悪魔生、俺があの人を尊敬する気持ちはどこまでも変わらないのだろう。

 

 

「イッセー君、念の為に聞いておくけど」

 

「あぁ、大丈夫だ木場。今度はきちんと思い出した」

 

 

俺がサイラオーグさんに思いを馳せていると、木場がそう耳打ちしてきたので大丈夫だと頷く。

 

「帝釈天が来ている。それとお前達の前から姿を消した、あの使者もだ」――昨晩アザゼル先生にそう教えられた時には、思わずその場で文句を言いに行こうとした。でも相手は所謂国賓だと先生に止められ、また目を付けられないようにと今日も自重しろと言われたのだ。その最後の方で先生は、こうも言ってきた。

「あの使者には本気で関わらないほうが良い」と――何でも昨日俺達の試合のすぐ後、先生はその帝釈天の下へ行き、あの使者と顔を合わせたそうな。そう教えてくれた時の先生を思い出せば、そうおいそれと近づきたいとも思えなくなってしまった。

 

 

「…ごめんなさいイッセー。でもアザゼルの言う事は正しいわ。下手をすれば、お兄様たち魔王様方にも迷惑をかけてしまうし」

 

「いえ、誰よりも京都の事を残念に思っているのが部長だってこと、俺知ってますから。だから大丈夫です」

 

 

そうだ、この中で一番文句を言いたいのは、あの独特の文化を誰よりも愛した部長だ。

少しでも不安を取り除ければいいなと、軽く笑えば、笑い返してくれた。うん、やっぱり部長は笑顔が一番似合うぜ!

 

 

長い廊下を歩く。その道中、此方に気づいた悪魔の方達が軽く会釈をしてきて、こっちも返していると、ようやく目的の会場に到着できた。

 

 

「…ん?部長、あれってもしかしてアザゼル先生じゃ…」

 

「え、ホントだわ…アザゼル!どうしたの!?」

 

 

木場が気付き、部長の声をきっかけに皆一目散に会場前の扉に座り込む、アザゼル先生のもとへ向かう。

近づけば先生の顔が真っ青になっており、酷く項垂れていた。

 

 

「……よぉ、お前等か。まずはめでたい席だ。おめでとさん」

 

「今の貴方にそう言われても、全然嬉しくなんてないわ。一体どうしたのよ…」

 

 

部長が心配そうに顔を覗き込み、周りで心配していた給仕と思われる人達に何があったのか話を聞こうとすると、先生がへっと軽く笑い。

 

 

「すまねぇリアス、すまねぇお前等。…あぁそうだな、俺達はまんまとお膳立てに利用されたワケだ。クソ、昨日の時点でまずおかしいと気づくべきだった。本当にすまない」

 

 

何度もそう謝る先生に、俺達はただ戸惑うしかない。酷く後悔したような感じだけど、本当にこの短時間で何があったんだろう?

 

 

「釈迦の掌じゃなく、全ては帝釈天の掌だったのさ。この日の為、周到に用意された…な。酷い比較だぜこりゃ。イッセー、お前も立派な被害者だ。何せ赤龍帝と大英雄じゃ、比べものになんねぇからな」

 

「だ、大英雄…?さっきから先生、何の話をしてんすか!?」

 

「あぁ、そうだよな…ワリ。会場に入れ。俺の言いたい事がそこに全て、広がってる」

 

 

そう言って、先生はようやく立ち上がり、俺達を後ろから促すように押して来た。俺達も何があったのか知るために意を決し、会場の中に入る。

 

 

 

そこには京都で会った、黄金色のピアスが特徴的なあの使者の男と――試合を見に来ていたであろう全ての神々が、彼を取り囲むように群がっていた。

 

 

 




ようやくこの時まで持ってこれた…(泣
ホントにキャラ多すぎると途端に動かすのが難しくなりますね(汗


帝釈天に「返上」と表現させましたが、これこそが彼のヴリトラに対する思いを表してます。

流石にオーフィス達を拡大解釈し過ぎましたかね…?
一応詳しい解説を活動報告に乗せておきます。
何故か自分の中で【無限】=世界の理、【夢幻】=人の理みたいになったんです。
(笑えよ厨二全開だよ)

次回投稿はおそらく11月もしくは12月になると思われます。
ちょっと本気でイラスト書かなきゃいけないので。


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