施しの英雄    作:◯のような赤子

28 / 36
明けましておめでとうございます(白目)
今年の目標は「投稿速度をあげる」「今年中に完結させる」です。

コミケの入稿&本の仕上がりが来るまで気が気じゃなく書けませんでした(汗
(そのくせワンピースの方で挿絵を描くというね)

いつも通り難産ではありましたが、第二話に貼っていた伏線みたいなものをようやく回収できて満足です。



舞台に上がるのは赤の槍兵

人は時折あまりに突然すぎる出来事に対して驚きを通り越し、むしろ冷静になり、更に周囲がよく見えることがある。

それはどうやら、悪魔も同じだったらしい。

 

 

カルナなりの賛辞を受け取ったサーゼクスは今、全てがスローモーションのように遅く見えていた。

 

視界の横では最愛の妹リアスの思い人、いずれ義弟として迎えたいと思っているイッセーが、自らの為に怒り、その拳を握りしめている様子が見える。またリアスも眉間に皺を寄せ、背後でも常に傍にいてくれる妻にして己の女王(クイーン)であるグレイフィアが、怒り心頭である気配が感じられる。それだけではない。この場に集まった多くの悪魔達が、自身にかけられた言葉に対し怒ってくれている様子、その雰囲気が空気を通して伝わってくる。

冷静に私は果報者だなと考えながら、サーゼクスは並の悪魔では目にもとまらぬ速さで動き出す。

 

 

 

――今にも殴りかかろうとするイッセーを止める為だ。

 

 

「テメェ!サーゼクス様に何てことを…っ!サーゼクス様!?」

 

 

動きの始点を潰すように体を密着させ、握られた拳の上からサーゼクスが手のひらで包み込んだことにより、ようやく目の前に誰かが立ったと分かったイッセーは怒号を驚きの声へと変え、何故だと言うようにサーゼクスの顔へ視線をやる。

その表情にいつも浮かべている笑みはなく、どこか咎めるような色が浮かんでいた。

 

 

「イッセー君、私の為に怒ってくれることは、大変嬉しく思う。けどここは大勢の目が集まる場で、彼は須弥山代表である帝釈天殿の従者だ。たとえ彼が私を唐突に馬鹿にしようと、それだけはいけないよ」

 

 

イッセーと目を合わせてそう言い聞かせ、次に「君たちもだ」と周囲にも視線をやる。その様子はまさしく為政者たるものだ。だが彼を知る者が見れば、その姿は違和感を抱かざるを得ないものだろう。しかし勘違いしてはいけない。

 

サーゼクス・ルシファー。彼は確かに担がれただけの男だ。

担がれ神輿とされ、それ以外ではその悪魔としては異常としか言いようのない、“超越者”と呼ばれる力だけを求められるだけの存在だ。彼の本質は優しく、また夢想家だ。

 

だがしかし…彼は政治家だ。どれほど無能で神輿であることだけを求められていようと、彼が冥界を思う気持ちだけは本物なのだ。ここでの不祥事、それも一目だけで各勢力に気に入られているカルナに何かあれば、それは彼が愛する冥界に、マイナスを与えてしまうと、彼は冷静に引き延ばされた思考の中で悟ったのだ。

 

 

その間もイッセーは、彼に掴まれた手を振りほどこうとするが、まるで万力に締め上げられたかのような、イッセーでは到底太刀打ちできない握力によりそれは叶わない。

 

リアスやグレイフィアも滅多に見ないその姿に驚き動けない中、サーゼクスは再びカルナの方へ顔を向ける。

 

 

「さて、急な騒ぎが起こり申し訳ない。だがカルナ、君に一つ聞かせてほしい。何故君は突如、私を馬鹿にしたのかな?誰かにそう言えと頼まれていたのかい?」

 

 

策謀はある種の政治の華だ。恐らくは聖書の陣営嫌いで有名かつ、従者としてカルナを引き連れこの場に来ている帝釈天が、此方を貶めるために仕込んだのではないかと、彼にしては珍しく頭を利かせ、問いかける。その際、たとえ否定したとしても何かしらのアクションがあるだろうと、サーゼクスはカルナの一挙手一投足も見逃さぬようにと、これまた珍しく真剣な雰囲気でカルナを見つめる……のだが。

 

 

「――?一体何のことだ、オレはこの冥界を統べるお前たち魔王を称えただけだ」

 

 

その表情もこのカルナの一言に崩壊し、サーゼクスもまた周囲と同じく眼を大きく開く。瞬間「ブフォっ」と何かを吐き出すような声と共に、帝釈天が身体をピクピクと痙攣させつつカルナの周りに築かれた輪から離れていったが、皆考え事をするように視線を斜め上にしていた為、幸いというべきか帝釈天がその醜態を晒すことはなく、しばらくするとアザゼルが顎を擦り前に出てきた。

 

 

「……えーと、つまりあれか?『独裁的ではなく、多数で意見を出し合い取り入れようとするサーゼクス達は素晴らしい為政者だ』と?…分かりにくいわ!!」

 

 

その叫びが聞こえたのだろう。壁をバンバン叩き、会場の隅では最強の武神(笑)が更に腹筋を一生懸命鍛えている。

 

 

「その通りだ。何か誤解が生まれ、お前達が不快な思いをしたというのならば謝罪しよう。許せ」

 

「ちょっと貴方!さっきから聞いていれば魔王様に対して口の利き方が全然成っていないわよ!一体何様なの?」

 

 

兄であり、魔王でもあるサーゼクスに対するカルナの物言いが、彼女の琴線に触れたのだろう。怒り心頭だと言わんばかりにカルナに言葉使いを正すよう求めるリアスだが、返ってきたのは彼女が思ってもいないものだった。

 

 

「何様でもない。オレはただ、誰かの求めに応じることしかできない過去の遺物に過ぎん。ならばリアス・グレモリー、その偉大な魔王とオレが話す中、その間に割って入ったお前は何様だ?」

 

 

まさしくリアスからすれば、痛烈な返しだった。そして帝釈天はとうとう部屋の隅で、物言わぬ時折ビクンビクンと跳ねる肉塊へと成り果てた。

 

 

どう返せばとリアスは悩む。

カルナという人物像が見えない。更に言えば、彼の言うことは間違っていないのだ。

確かに兄とカルナが話している最中、急に割り込んだのは自分だ。何より少し考えてみれば、彼らがいる場所は、この会場に来ていた神々の注目の場でもあった。そんな中に今回のレーティングゲームで結果を出したとはいえ、まだ学生の身である自分が躍り出てしまった。一体ここからどう返すのかと、注目はすでにリアスに集まっている。下手な返しはできない…どうすれば…何が正しい?

 

 

「決まってらぁ!俺達グレモリー眷属の素晴らしい主!リアス・グレモリー様に決まってんだろ!!」

 

 

唐突な追い風が、リアスの背後から彼女を守るように吹き上げた。

そこには絶対の信頼が込められており、リアスに絶対の安心を与え、彼女の悩みを吹き飛ばす。

【貧者の見識】がそれを捉えたのだろう、今度はカルナが腕を組みながらも目を見開き、しかと此方に近づく赤龍帝――兵藤一誠を見る。

 

 

「さっきからゴチャゴチャとめんどくせぇ!こっちはさっきのサーゼクス様に対する物言いにムカついてんだ!それとよくも俺のご主人様を苛めたな!?絶対ェ許さねぇ!!」

 

「…許さないか。ならば兵藤一誠、お前はどうする?お前は一体、何をオレに求めるというのだ」

 

 

カルナにしては珍しい、どこか試すような言い方ではあるが、事実カルナはこのイッセーを試していた。

このパーティーの発端となる試合を見て、最も興味をカルナが惹かれたのは、実はこのイッセーだ。聞けばこれまで数々の偉業を、格上を倒し、その中には北欧に名高きロキも含まれているというではないか。

更に試合の中で見せた、まるで階段を駆け足で昇るどころではない…過程を飛ばしたような(・・・・・・・・・・)あり得ない成長性は、古代インドでも見たことのないものだったのだ。

 

ならばと思った。ならばこの男は己と戦えば、一体どれ程の可能性(姿)を見せてくれるのだろうかと…。

 

 

そしてイッセーは、カルナが求めていた答えを口にする。

 

 

「決まってる、俺と勝負しろ!大昔の英雄だか何だか知らねぇけど、折角俺達の為に用意されていたパーティーを台無しにされたんだ!我慢できっか!」

 

「良いだろう、やろう。お前のような男が今だに残っていた事に感謝する」

 

 

待ってましたと言わん速さでカルナは了承する。イッセーの物言いは、ただ我慢できないという子供の我儘のようなものだ。それは本来このような場で言うべきことではなく、その証拠にアザゼルなどはマジでやりやがったと若干顔色を悪くして、大勢が集まるこの状況でどうするかと頭を悩ませるが彼の思いとは裏腹に、イッセーの言動を咎めるような様子は神々からは見受けられない。それもそうだ。

 

 

何せカルナの存在が徐々に明るみに出るまで、何かと話題の中心であったイッセー(ドラゴン)カルナ(英雄)と戦う…神話の中でももはや見る事すら叶わない、ドラゴンと英雄の勝負…これが見られるかもしれないのだ。彼らの期待を体現するかのように、オーディンは町中でトランペットを眺める少年と変わらぬ熱い視線を二人へと送っている。

 

 

「ふむ…ならばその勝負、少し趣向を凝らしたものにさせてほしい」

 

 

その空気を感じとったのだろう、初めはこの話の流れに対し、口元を隠し考え事をするような仕草を見せていたサーゼクスだが、彼もまた悪魔だ。この勝負を見てみたいという欲望には勝てなかったらしい。

 

 

「ただの勝負ではつまらない…どうだろうカルナ、ここは我が冥界が誇るレーティングゲーム形式で勝敗を決めるというのは?」

 

 

願ってもない機会に、神々は興奮を隠しきれなかった。

三度目の喝采が会場を包む中、念を押すかのようにサーゼクスはもう一度どうかな?と声をかける。

 

当然、二人の答えなど決まっている。

 

 

「断る理由が無い、競い合いは久方ぶりだ」

 

「当然!俺もそっちの方が燃えてきたぜ!!」

 

「魔王様、レーティングゲーム形式ということは、私達も勝負に出れるということで良いのですね?」

 

「当然だとも。カルナ、君もまた仲間を呼ぶと良い。これはもはや個人の喧嘩ではなく、チームで競うものだからね」

 

 

やり方が上手い――この時、カルナや幾つかの神々はそう思った。いつの間にか内容がスポーツへと変化しているのだ。それはある意味悪魔らしい、言葉巧みな煽動とも言えた。だがカルナは今回のアグレアスドームで行われた試合に来る以前、帝釈天からこう聞かされている。

 

「レーティングゲームとは即ち、代理戦争のようなものである」と。ならば何も問題無い(・・・・・・・・・)。しかしこれだけは伝えておかねば。

 

 

「仲間と呼べる者など、この時代には存在しない。オレはオレだけで戦わせてもらおう」

 

 

強敵(とも)と呼べる者なら一人いる。宿敵とはまだ呼べない、だが再戦の約束を交わした男が…一度だけとはいえ、背中を任せた強い女性をカルナは知っている。

だがその二人は、インドラが所有している。チラリと壁際でのたうち回っていたインドラを見れば、その手に酒瓶をいつの間にか持ち、ニヤリと笑い、口元を「 イ ヤ ダ 」と敢えてゆっくり動かし告げてきた。

 

 

(だろうな。元よりお前の性格は承知している)

 

 

視線を細めてそう伝えれば、肩をすくめて酒を喉に流し込んでいる。それを最後に視線を切り、カルナはもう一度サーゼクスへ語り掛ける。

 

 

「オレは英雄だ。たとえ万の悪魔をそちらが用意しようと、オレは負けん」

 

「…分かった。後から文句を言われようと、此方はその一切を受け付けないよ?それでもいいのかい?」

 

「正に愚問だな。肯定したのであれば二度目のその問いは、まるで無意味だ」

 

 

水面のような瞳の中に、隠しきれぬ闘争への思いが浮かんでいる。それを見抜いたサーゼクスは「そうかい」と呟き。

 

 

「ではそのように。試合内容の詳細は追って後から連絡を入れさせてもらうよ。流石に、君が一人で戦うのであれば、従来の方式では成り立たないからね。カルナ、マハーバーラタに刻まれたその実力、遺憾なく発揮してほしいと私は君のファンの一人として、切に願っているよ」

 

「約束しよう。オレは全力をもって、お前達に相対すると――」

 

 

 

 

 

 

 

壁にもたれかかり、だらしなく持った瓶底を真上に掲げる。だが酒は一滴も落ちる事なく、帝釈天はそれを確認すると適当にその辺へと放り投げ、近くに置いてあった新しい酒を手に取る。

 

 

「全く、これでも僕達賓客なんだよ?もう少しビシっとしようと思わないの?ビシっと」

 

 

カランと鳴るはずの音が立つことはなく、鈴の音を転がしたような、子供の声が代わりに彼の耳へと届けられる。

 

 

「あーあ、折角の酒が不味くなっちまう。今更になってご登場かYO、シヴァ」

 

 

名を呼ばれニコリとだけ笑い返し、シヴァはよいしょと帝釈天の隣に座り、到着一杯と床に置かれていた酒を飲む。

 

 

「まぁね。だってさ、普通に来たら絶対質問攻めに会うじゃん?やれ須弥山(クソ)と組んだのかとか、やれ(ウ〇コ)と仲直りしたのかとか。ウ〇コが好きなインドの神様なんかいるワケないってのにさ」

 

「良し、表出ろ。いや今すぐ始めるぞすぐ殺るぞ。丁度殺してぇ連中も何匹か来てンだ。Let'sパーリィのお時間と行こうze」

 

 

ただ普通に面倒だからタイミングを見計らって来たと言えば良いだけだが、それに乗る方も乗る方だろう。

 

 

「お疲れさま。何はともあれ良かったね、インドラ」

 

 

並の神ですら死にそうな殺気を器用に二柱の間でのみ走らせていると、唐突にシヴァはそのように言い殺伐とした雰囲気を霧散させた。帝釈天もその意味を悟ったのだろう。

 

 

「まぁな…あぁ、疲れたさ。あの馬鹿の世話は」

 

 

10年に満たぬとはいえ、宿敵の子の世話を焼いた。一度は殺したに等しい行いを犯した相手が今度こそ生を謳歌できるよう、神々の間に楔を打った。おそらくここまで精力的に動いたのは、数千年ぶりではなかろうかと思いを酒と共に飲み干す。

 

 

「こっちも大変だったよ?何か勘違いした良い歳こいたガキ(・・)が勧誘しに行ったと思ったら、帰ってすぐに「あれは危険だ!」とか言い出してさ。無駄に力もあるから押さえつけるのも面倒で面倒で」

 

 

はぁっとため息を吐くその姿は本当に疲れたのだろうシヴァを見て、帝釈天は誰を指しているのかすぐ理解した。

 

 

阿修羅のガキ(マハーバリ)か。ハン、まだ俺様を逆恨みしてンのかよ」

 

 

阿修羅神族が王子マハーバリは、かつてこの帝釈天に父であるヴィローチャナを殺されている。互いに戦車を操り、操舵を誤った隙をついて帝釈天は弓で射殺しており、その結果が息子としては不服なのだろう。だが帝釈天から言わせれば、それすらも戦なのだ。

 

 

「然り。己の全て、運さえも賭してこそが戦いだ。完全な引き分けなど無い。あるのは勝つか負けるかその二択。だから戦は美しい。だからクルクシェートラの後の君は、酷く醜かったよ」

 

 

でも――。

 

 

今は違う(・・・・)。この数千年、相手するだけ臭くてしょうがないクソみたいだった君が、かつての輝きをまた纏い始めている…神々の王、どうする?今の君ならその挑戦、受けてたつよ?」

 

 

それは先程の煽りとはまるで違う、どこか敬意すら伺わせる文面で、シヴァはしかし、悪童のような笑みを浮かべて帝釈天を試す。

 

 

今は違う(・・・・)。まだその時じゃねぇ、焦んなよクソ砂利。こっちはまだ誓いを果たし終えてねぇンだ。…あの大馬鹿野郎とのな」

 

 

己に誓い、そしてスーリヤに誓った。必ずお前の元へ息子を返すと。

 

おそらくはその一言を聞きたかっただけだったのだろう。シヴァは今度こそ満足した笑みを浮かべ、最後に残っていた酒を煽り立ち上がる。

 

 

「分かった、待ってるよインドラ。そうだね、不死の鎧があるとはいえ、不老じゃないんだ。たかだか数十年くらい、待ってやるよ」

 

 

「おう、待ってろ」――そう言わんばかりに帝釈天も最後の酒を煽り、杯を僅かに掲げる。

そのまま立ち去ろうとシヴァは歩き出そうとする。が、帝釈天がそれに待ったをかけるように、今度は杯を今も話しているカルナ……のほうではなく、その傍へ向け。

 

 

オーディン(アレ)、どうにかしろ。それくらいやれや、な?」

 

 

クイっと杯を動かす。すると先程まで余裕しか持たぬと笑みを浮かべ続けていたシヴァの表情が、凄まじく面倒&ウゼェと言わんばかりに歪んだではないか。

 

 

「えぇ………あの変態を…?狙われてんの君の甥でしょ?親戚なんだし君が預かってんだから、君が相手しなよ」

 

「はぁ?いや手伝うって前に約束しただろうがよ。てか始まりはあのスーリヤ(大馬鹿)カルナ(馬鹿)を転生させたからだろ?アイツ一応まだテメェら(インド神話)所属なんだから、トップとしてケジメくらいつけろや」

 

「いやいやいや、ウチのトップはブラフマーだから。僕は所詮代理だから、ここは正規の須弥山トップである君が相手するべきだろう!?嫌だよあんな変態ジジィ!」

 

「ハァ!?ンだそりゃふざけんなよテメェ!!てかトリムルティ(三神一体)に上下もクソもあるか!テメェもトップだろうが!俺だってあんな髭の相手なんかしたくないわヴァカがッ!!」

 

 

叫びながらヒソヒソと互いに周囲から気配を消しながら罵倒し合うという、ある意味無駄に高度な無駄に洗練された無駄な神業を見せつつ押し付け合う世界最強の二柱。(というかこの二人はそんなにオーディンの相手がしたくないのだろうか…したくないんだよなぁ…)

 

しばらくの間このやり取りを続けていたが、このままでは埒が明かないと思ったのだろう。荒い息を落ち着かせるように、同時に息を深く吸い、ゆっくりと吐き…拳を握りしめる。それだけで空間はギシリと軋み、シヴァはゆっくりと握った拳を後ろに引き、帝釈天は空いていた手のひらで創り上げた拳を包み込む。

 

これから行われるのは古来より行われてきた作法。一切の遺恨なく物事を幾度となく決定してきたその決闘(デュエル)とは即ち――っ!!

 

 

「――じゃああん!!」

 

「けぇぇええん!!」

 

「「ポォォオンンン――ッ!!!」」

 

 

……勝敗は神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーから数日後、カルナと冥界が用意した選手達(・・・・・・・・・・)が行うレーティングゲームのルールを明確にすべく、サーゼクスはとある人物を自身の館へと招いていた。

 

 

「全く、毎回毎回お前という男は、何かをやらかして俺に尻拭いさせないと気がすまないのか?サーゼクス」

 

 

言うべくもなく、サーゼクス・ルシファーは魔王だ。そんな彼に今のように苦言を呈しながらも、まるで友人にように親しくできる存在など、この冥界でも3人しかいない。つまりこの人物もまた彼と同じ、魔王という存在なのだ。

 

 

「いや済まないね、アジュカ。でも君も相手をする予定だったシヴァに、こっそりと逃げられたじゃないか。その点ではお互い様だよ」

 

 

その言葉に魔王アジュカは苦虫を潰したような表情を見せ、それを隠すように今もサーゼクスの後ろで目を瞑り、気配を消しているグレイフィアが淹れてくれたコーヒーを口につける。

 

 

「それで、一体どういうゲームにしていきたいんだ?流石に既存のレーティングゲームでは、あの大英雄カルナを枠に入れるなぞ不可能だぞ」

 

 

事の顛末はここに来るまでの間に聞かされている。その上でアジュカは不可能だと断じた。この冥界最高の技術者でありレーティングゲーム、更には今の冥界の存続を担っている悪魔の駒(イーヴィルピース)さえ制作したあのアジュカがだ。

 

 

「まさか君がそこまで言うとは…僅かな間だけでも悪魔の駒(イーヴィルピース)を埋め込むことさえ不可能なのかい?」

 

「無理だ。お前の所の炎駒も確かに神格持ちだが…済まない、お前の眷属(ポーン)を馬鹿にするわけじゃないが、格があまりにも違いすぎる」

 

 

炎駒ができたならとサーゼクスとしては考えていた。だがカルナの持つ神格はこの星でも最上位に位置する太陽神のもの。更にもし埋め込もうとすれば、それだけで息子に全神話最強の鎧を与えた父親(スーリヤ)と、今やかつての遺恨が無くなったのように、あのインド神話とさえ不可侵を結んだ叔父(インドラ)が黙っているわけがないと、アジュカはサーゼクスを諭す。

 

 

「ふむ、やはりそうか。いや、此方も念の為に聞いてみたんだ」

 

「やはり?と言うことは他にも何か考えがあるんだな?よし話せ。俺としてもこんな楽しそうなイベント、成功させてみたいのでな」

 

「勿論だとも、我が友よ。どうだろう、覚えているかな?まだレーティングゲームができる前、悪魔の駒(イーヴィルピース)を君が生み出す以前、前魔王達が行っていたゲームだ」

 

 

その話は流石に昔過ぎたのだろう。アジュカ、そして話を後ろで聞いていたグレイフィアは少しの間考え事をするように顎に手を当て、そして思い出した。

 

 

「…あぁ、あれか。一人の悪魔を(マスター)とし、用意したクラスに応じて部下を従者(サーヴァント)として戦わせるという…」

 

「そうだ。クラスは全部で7つ。騎士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎手(ライダー)魔術師(キャスター)、そして狂戦士(バーサーカー)暗殺者(アサシン)。クラス別にそれぞれ一人、そして適性を持つ者を探す事の困難から、我々は新たにレーティングゲームを生み出した」

 

「そうだ、確かにそうだった。だがサーゼクス、何故今になってそんな大昔のルールを持ち出したんだ?レーティングゲームの形式は今や膨大だ。その中からでも良いものがあっただろうに」

 

 

ギシっと座る椅子に深く腰掛け足を組み、アジュカは暗にまだ考えがあるのだろうと言わんばかりに顎を軽くしゃくる。その仕草に隠し事はできないなと笑いながらサーゼクスは、自身が設計する将来の野望を友に告げる。

 

 

「何、もっとレーティングゲームを広く、そして誰にでも楽しめるものにしたいと思ってね。知りたくないかいアジュカ、本当の最強は誰なんだろうってね」

 

「それは…まぁ俺も何故か、強者に数えられているらしいし、知りたくもある。だがそれを決めようとすれば、間違いなく世界が滅びるぞ」

 

 

言うまでもなくグレート・レッドやオーフィスはその中に数えられることはない。誰が世界という概念と、元とはいえ世界そのものだったものを相手に戦おうと思うだろうか。

 

 

「いや待て、そうかだからか!」

 

「そうさ、だからこそレーティングゲームという試合に落とし込めば、悪魔だけでなく神や名のある魔物、転生せずとも人間でも、神や我々人外と楽しく戦うことができる。僕達の大好きなレーティングゲームを、世界規模にすることができる。どうだ、ワクワクしないか?」

 

 

更に今では縮小傾向にある各神話の規模も、試合を通じて再び広がるかもしれないと、サーゼクスは夢を語ってゆく。

 

 

「レーティングゲームには悪魔の駒(イーヴィルピース)、つまり悪魔にならなければならないという考えを、まずは払拭する。その為には色々と模索する必要があり、だからこそまずはかつての模倣というわけさ」

 

「乗ったぞサーゼクス、俺も一枚噛ませろ」

 

「当然さ、勿論アザゼルも入れるとしよう。後からなんで誘わなかったと絶対文句を言ってくるだろうしね」

 

「でしょうね。それでサーゼクス様、初戦のカルナ様の対戦相手は、一体誰になさるおつもりで?」

 

 

まずはそれを決めないと始まらないと、これまで静かに控えていたグレイフィアが問いかける。

ふむと口元に手をやり、手元にアザゼルが以前人間界の技術を模倣したタッチパネルを取り出しリストを上げていき…スクロールしていた画面がある若手悪魔の元で止まった。

 

 

「じゃあ彼にしよう。この間話していた限りでは、カルナと因縁もあるようだし、バアル戦(・・・・)以来目立ったこともないしね――」

 

 

 

 

 

 

静かに目を瞑る。それは戦場ではありえない動作ながらも、競い合いというこの場では許される。

控室として通された場所でカルナは、一人静かに瞑想していた。外では大勢の歓声がすでに上がり、試合の開始を今か今かと待っている。

するとその声を割るかのように、今回も実況を任されたナウド・ガミジンがマイクを振り上げ自らの仕事を果たし出す。

 

 

『一体誰がこうなると予想していただろうか!?誰もが思ったことがないか!?神話に描かれたその雄姿、物語として語り継がれようと決して色褪せないその栄光!!今日の主賓は名を上げようとする新星(ルーキー)でも、ましてや今冥界を騒がせるおっぱいドラゴンでもスイッチ姫でもない!!神の手により現世に今一度蘇った奇跡の存在!英雄だぁああ!!』

 

 

ワァァ!!と歓声が上がる。だがこれでは足りない。これは普段行われるレーティングゲームではなくある種、神話の再現なのだとナウド・ガミジンは更なる熱狂を求め、観客を煽り続ける。

 

 

『刮目せよ!!これこそは新たな伝説の幕開け、新たな冥界の歴史がここに刻まれる!人間の英雄と我等が冥界が誇る英雄達の戦いをその魂に刻め!!では貴賓室から見守る魔王様方に代わりここに…ッ、【サーヴァントゲーム】の開始を宣言致します!!』

 

 

瞬間、会場が熱の伝播により、文字通り震える。それは観客席からだけではない。魔王達と同じく貴賓室にいる神々からも、悪魔達以上の熱が上がったからだ。それでも用意された椅子に座ることなく壁に寄りかかり、冥界側が貸し出した槍(・・・・・・・・・・)を握りしめるカルナが動じることはない。

 

 

『では早速選手達に登場してもらいましょう!まずは悪魔(サイド)、“黒の陣営”!サイラオーグ・バアルに完膚無きまでやられるも、今もその凶暴性衰えることなく!魔王様よりいただいたこのチャンスを、果たして彼は活かすことができるのだろうか!?【凶児】と恐れられたその本領が今日発揮される!サーヴァントとして登録された眷属を率い、マスターとして彼はどのような采配を我々に見せてくれるのだろうか!?ゼファードル・グラシャラボラスゥゥウウウ!!』

 

 

実況の通り、ゼファードル・グラシャラボラスが入場してきたのだろう。湧き上がる歓声の中に、カルナは己に向けられる微かな殺気を感じていた。だがカルナは相変わらず、不動のままだ。しかし同じくその殺気を、同じ空間で感じている彼女(・・)は違ったのだろう。

 

 

「不愉快ですね。汚泥の中からでさえ、蓮は美しい華を咲かせるというのに…」

 

 

その声にカルナはようやく閉じていた眼を片方だけ開き、視界に声の主、着物を着て臀部から獣の尾を生やす、帝釈天から預かった女性を視界に捉える。

 

 

「戦えばこの男が、どれほどの者なのか理解できるだろう。オレはただ、全力でもって相対するだけだ」

 

 

静かにそう告げるカルナだが、その声音には彼女があの日(・・・)あの京都(・・・・)で感じた熱が込められていた。

それを受け止めることさえ今は辛いと、女は着物の裾で顔を隠す仕草を見せつつ話題を変えようとする。その間も外では実況が続き、ついにその時がやってくる。

 

 

『今世間を騒がせている“英雄派”!!大昔の英雄の子孫やその魂を受け継いだと豪語する彼らだが、この男だけは違う!!強固な魂が、高潔すぎるその精神が、輪廻の輪さえ潜らせた!奇跡がここに降臨した!!その身は半神半人、父はインド神話に名高き太陽神スーリヤ!!彼は果たして父の威光届かぬこの冥界で、太陽の如き輝きを放つことができるのか!?――』

 

 

「良かったのですか…?字名(あざな)は御身のような戦人(いくさびと)にとって、何よりも神聖なもの。それがあのような…」

 

「構わない。たとえどのように呼ばれようと、オレはオレだ。何より太陽神の子であろうと人の子であろうと、英雄であろうとこの言い方から察するに、本質的には特に思うこともないのだろうよ。オレは両親との誓いを果たすだけだ」

 

 

それだけ言い残し、カルナは一度耳飾りを鳴らしながら出場門へと足を運ぶ。その背中に残された女性は深く頭を下げて送り出す。

 

 

「いってらっしゃいませ主様(・・)。その武功、どうか存分に発揮してくださいまし」

 

「あぁ、行ってくる――」

 

 

『“赤の陣営”!【赤のランサー】カルナ!!入場です――ッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

これはただの、序章に過ぎない。英雄はその姿でもって諸人を魅了し世界にその名を轟かせ、まだ見ぬ好敵手をいつしか彼の元へ連れて来るのだろう。

 

 

それこそが英雄譚(サーガ)

一度は終わりし叙事詩が再び続編を紡ぐ――その裏で。

 

 

「――ゥァァアアア゛ア゛ア゛!!!ふざけるな!!ふざけるな!!馬鹿野郎ォォオオオオ!!!」

 

 

英雄()に憧れ、英雄を目指して(理想に溺れて)いた青年が一人、嘆きの慟哭を上げていた。

 




出来れば年末にこの話を投稿したかった…(涙
プロレスとかである盛り上がる紹介文を目指したのですが難しスギィ!!
ちなみに決闘(デュエル)の勝敗は、この後シヴァがオーディンとO・H・A・N・A・S・Iしました。

それと活動報告に、コミケ情報と表紙を置いておきます。
頑張って描いたので、絵だけでも見てほしいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。