施しの英雄    作:◯のような赤子

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…たった一日で何があったし

仕事から帰るとそこには凄まじい速さで5000突破しそうなU・Aと、増え続けるお気に入り登録がガggg…ッ!!

ありがとうございます


タグが文字制限で追加できないので、この場で言わせてもらいますが
この作品は独自解釈・独自設定のオンパレード(カルナさんに優しいインドラを書きたかったんです…(汗)

原作キャラの性格改変などがありますので、平にご容赦ください
(あとであらすじにも足しておきます)


それとこの場を借りて言わせていただきたいのですが

作者はぶっちゃけマハーバーラタに詳しくありません。カルナさんやアルジュナ、インドラの事も、Fateやwiki、二次創作でしか知りません

なのでここ叙事詩からしたらおかしくね?等があっても目を瞑って見逃してください
あくまでカルナさんに優しい世界とインドラを描きたいだけなので(大切なk

マハーバーラタに関しても、「こんなのあんぞゴラァ!!」と教えていただければ幸いです



帝釈天ではなく、インドラとして

カルナの転生、その異常にいち早く気づいたのは他でもない帝釈天だ。

 

 

(何だ…この気配…いや、俺はコイツを知っている…?)

 

 

初めは分からなかったが、徐々に思い出す。

この神格、この熱量。しかしその表面はまるで水底のように透明で涼やか――間違いない。

 

 

「…カルナ…なのか…?」

 

 

呟いた彼の表情は何とも言えないものであった。

 

“カルナ”――彼の古巣であるインドに伝わる世界三大叙事詩『マハーバーラタ』に描かれた己の息子、『授かりの英雄』ことアルジュナと対を成す『施しの英雄』

 

かつてまだ自分がインドラであった時、好敵手として敵対した太陽神・スーリヤの子にして己がその在り方を辱めた不撓不屈、真の英雄であった男…。

 

 

帝釈天――インドラはカルナの転生に気づき、頭を抱えた。

 

今の時代に、カルナという大英雄の存在はあまりにも重すぎる(・・・・)のだ。古代インドのように神秘が溢れ、神と人とが近かった時代ならともかく今は信仰も色褪せ、最大宗教の唯一神が滅び世界バランスがかなり崩れている。

 

もし、本当にあのカルナが蘇ったのなら、その施しの精神はあまりにも尊過ぎる。

 

 

「あの馬鹿野郎ォ…何考えてんだ!クソッ!!」

 

 

スーリヤに悪態をつくのもしょうがなかった。

カルナは死後、スーリヤと同化していたハズだ。どんな存在…例え無限や夢幻であっても己が認めたあのライバルを相手にそうおいそれと手を出せるワケがなく、またカルナを甦らせようなどあの自己中自由気ままなドラゴン共がそもそも考えるワケないのだ。ならば此度の異変カルナの転生は父親スーリヤの仕業に間違いない。

 

 

思わず太陽に向かって己が所持する“本物のインドラの槍”を5・60発撃ちこみたい衝動に襲われたが、とにかく落ち着けと己を律する。何よりこの瞬間、様々な問題が発生していたのだ。

 

 

(あの馬鹿にはいつか抗議するとして…今はカルナだ、どうする…?)

 

 

『マハーバーラタ』おいて、無類の知名度を誇るカルナだが、その名は世界に対しそこまで知れ渡っていない。しかしその身に宿した最高クラスの神性や、研鑽した武勇は比類なき大英雄のソレだ。もし比肩できるとしても、それは彼の神々と人の訣別を行った最古の英雄王ギルガメッシュ。またはギリシャ神話が誇る人類史上最大の英雄ヘラクレスのみだろう。

 

聖書の神が死に、世界に“神器”をバラまいた。

その所為で人間界でも様々な問題がおき、自分達他神話の連中も戦力増強と“神器”を宿した人間を自陣営に取り込んでいた。自分もまた、その中でも最強の槍を所持した少年に目を付けたばかりだ。

 

 

「…なぁ、お前が今ここにいれば…何と言うのだろうな――…アルジュナ」

 

 

ここにいない、父親すら置いてこの世ともあの世とも言えぬ場所へと旅立った息子。『授かりの英雄』アルジュナの名を呟くインドラ。

 

あの当時、アルジュナとカルナは敵対し、また父親である自分達のように互いに研鑽の限りを尽くせる好敵手であった。

 

しかし己は戦神としてではなく、一人の父親として神聖な決闘を穢してしまった…今でも最後、実の息子から言われた怨嗟の声を忘れた日はない。

 

 

――インドラよ、我が父よ!!俺は……このような勝ち方だけはしたくなかったッッ!!!――

 

 

 

もう一度、息子に会いたい。会って抱きしめて、嫌われようとも何度も謝りたい。父として…愛しているのだと…そう伝えたい。

 

 

(いや…今はいない俺のガキの事ではなく、あの馬鹿が寄こした大馬鹿野郎のことだ)

 

 

己が権能を駆使し、たやすくカルナを見つけることはできた。今の時代に不釣り合いな神格の持ち主だ。探すだけなら苦などない。

 

そこから更に深く探り、聖書の神がバラまいた“神器”がその身に宿っていないことにホっとする。

何も帝釈天は宿敵の子が更に力を付けることを恐れたワケではない。あの高潔な英雄に、父親と自分が与えた神の力――部外者(・・・)にあの英雄が穢されることを何より恐れたのだ。

 

 

「…ハッ!馬鹿みてぇ…あの野郎を穢したのは他ならぬ俺様じゃねぇか…」

 

 

インドラに取って、カルナとは己の子であるアルジュナの次に目を掛けるに値する男だ。カルナがいたからアルジュナがあり、スーリヤがいたからインドラがいたと彼は断言する。確かにシヴァや阿修羅神族とも因縁がある。しかしそれとこれとは話が別だ。

 

自嘲しながらもこれからの事を考える。

あれほどの英雄を、今の各神話が放っておくワケなど無く、またうっとおしい聖書の三大勢力が、自身の宿敵であった太陽神の力を授かったカルナを放置するはずなどない。

悪魔は間違いなく“悪魔の駒”を用いて転生悪魔にさせようとするし、堕天使も自陣営に加えようと躍起になるだろう。天使達など、己の創造主たる聖書の神以外の権能を持つカルナを許さず、必ず害しようとするはずだ。

 

しかしカルナはその程度(・・・・)の戦力では負けない。

“悪魔の駒”などその身に宿した馬鹿の力で跳ね返せるし、鴉程度が何匹群れようと恒星そのものであるスーリヤの子に勝てる道理などない。それは鳩共もそうだ。

人でありながら、主神クラスの力――それが『マハーバーラタ』が誇る我が息子の好敵手カルナ。

 

 

目を瞑り、戦神としての戦略眼全てを用いて思考をフル回転させ――気づけば動き出していた。

 

部屋を飛び出すように出た彼を、お付きの者が問いただす。

 

 

「帝釈天様、どこへ…?」

 

「インドだ。シヴァやハヌマーン共と話がある」

 

 

慌てふためくお付きの彼等を放置し、帝釈天は広がる青空を――太陽へとサングラスの奥に隠した双眸を向け。

 

 

「…これが、インドラ(・・・・)としての最後の仕事だ馬鹿野郎。お前のことだ、何も考えずガキの事だけを思ってのことだろう?分かるよ」

 

故に――。

 

「無事、生を全うさせてお前の下へ返す。…俺が辱めたあの戦士の矜持を、もう一度胸に抱かせてな。だから…ガキだけは大切にしろ…我が好敵手スーリヤよ」

 

 

 

 

 

その後、帝釈天は供すら付けずインドに足を運んだ。アポも取らず、いつものように派手なアロハにグラサンと、完全に物見遊山な恰好で。

 

 

「おーおー、懐かしい顔ばかりじゃねぇか」

 

 

インドに着いた瞬間、彼を歓迎したのは完全武装したインド神軍だ。どの神話においても「あそこだけは手を出すな」と太鼓判を押されまくったキチガイ集団――破壊という概念を司る最高神格保有者シヴァを筆頭とした彼等は帝釈天に殺気を隠さず警戒していた。

 

何しろ仮想敵にしてその敵対勢力の長が、こうして古巣に戻って来たのだ。何より帝釈天――インドラは今現在も武を司る最強の武神。警戒するなという方がおかしい。

 

 

「やぁ、久しぶりだねインドラ」

 

「その名で呼ぶなシヴァ。今の俺様は帝釈天だ」

 

「どちらでもいいさ、問おう――何をしにきた?終末の時(カリ・ユガ)をついに引き起こす気にでもなったかい?」

 

「Hahaha!!馬ッ鹿じゃねぇの?今更何で俺様がカリ・ユガなんぞに興味を持たねばならんのだ」

 

 

心底アホらしいと馬鹿笑いする帝釈天に彼等は更に警戒を上げる。何故わざわざ敵対組織にこうして赴いたのか、その意図が全く読めなくなったからだ。

 

しばし笑い、ヒーヒーと脇を押さえ涙を拭うと――そこには先程までのふざけた雰囲気はなく、在りし日の戦神としての気配を晒し。

 

 

「――頼みがあってきた。どうか聞き届けてほしい」

 

 

頭を下げた(・・・・・)――もう一度言おう、あのインドラが頭を下げたのだ。

 

これにはさすがのシヴァも目を白黒させた。

 

 

「…何のつもりだインドラよ、キサマ・・・我等インド神話の顔に泥を塗るつもりか」

 

 

今は須弥山に所属を変えても、元は帝釈天もインド神話に身を置いた存在。その中でも文字通り、別格の格の持ち主だ。そんな彼が下げてはならない頭を下げた。

 

 

「そのつもりはない。が、泥なら俺がいくらでも被ろう。その程度でお前等が俺の頼みを聞いてくれるなら安すぎる」

 

 

騒めきが彼等の間に広がるが、シヴァが手を横に振り落ち着けと伝える。

 

 

「ふむ、ひとまず聞こうか。話はそれからだ」

 

「感謝する。我が怨敵シヴァよ」

 

「君からの感謝なんて唾を付けて唾棄するよ。早く言え」

 

「ならば__我が故郷インドが誇る神々よ、どうか頼む。どうか…聖書の三大勢力。いや、貴殿等以外の神話勢力全てがインド国内に入れぬよう、権能を用いてもらいたい」

 

 

元々このインドは他神話から見ても化け物だらけということもあり、各神話に喧嘩を売っている聖書の連中でもそうおいそれと手を出してこない。なのにこの神はそれを知っていながらわざわざ頭を下げて願い出た。

 

これに理解を示したのはシヴァであった。ゆえに問う「何がインドで起こっている」と。

 

インドラのことは1柱を除き、誰よりも詳しいと自負している。

かつてはゾロアスターの悪神でありながら、月の兎の死に涙した。戦を司る神として、誰よりも人の傍に侍り、その在り方も戦士のソレとして女を好み酒を好み、しかしどこか憎めない人間らしい神であった。

それを考えれば確かに自分達と袂を分かったのも分かる。問いに続き、更にもう一つどうしても気になることがあったため聞く。

 

 

「インドラ、お前のそれはもしやスーリヤと関係あるのか」

 

 

ピクリと僅かな反応を、シヴァが見逃すことはなく続けて言う。

 

 

「最近現世と袂を分かった神々の一柱にして、生命を育む太陽神・スーリヤの気配が以前とは比べものに…いや、意識さえこちらに向けることがなかった彼が今現在、確かにこちらの世界へと干渉している。インドラ言え、何を知っている?」

 

 

言っていいのか?確かにカルナが成長するまでコイツ等に任せることこそが最優だろう。しかし間違いなく、スーリヤはインド神話に入ってほしくて自分のガキを転生させたワケではないはずだ。

 

何より…あの最後の日、スーリヤが俗世から離れ、最後に己の下へ来た日のことだ。

 

何を言ってきても受け入れる覚悟ができていた。カルナのことでいくら罵られようと、全てを受け入れ謝る準備もできていた己にあの宿敵(とも)は――。

 

 

 

【――あとは任せた】

 

 

 

 

「…言えない」

 

「何?」

 

「悪いなシヴァ、それを言うわけにはいかねぇ。でもどうかお願いだ。頼みを聞いてほしい」

 

 

言えないと伝えながら、変わらず頭を下げる帝釈天に噛み付く若武者がいた。父を殺された阿修羅神族の王子マハーバリだ。

 

 

「ふざけるな!!我が父を辱めながら、よく顔を出して不遜にもそのような態度を…ッ!!」

 

 

剣を振りかざし、首の皮一枚で止める。

 

 

「どうした!何故動かん!!俺はキサマを殺せる!!辱められる!!戦え戦神よ!!俺はキサマがどのような卑怯な手を使ってでも、勝ってみせるぞ!!」

 

 

しかし帝釈天は微動だにしない、剣に血が滴ろうとも決して武神の一面を見せず、ただただ頭を下げていた。

 

その様が信じられないとマハーバリは驚愕し、ポンとシヴァがその肩に手を置き下がらせようとするが――。

 

 

「~~~ッ!!何故だ!!何故今になって…ッ!!」

 

今だからだ(・・・・・)。…インドラとしての最後の務めを果たす為、貴公等に助力願いたい」

 

 

静かでありながら絶対の熱量をその眼に宿し、太古における神々の王は若き1柱へ言葉を紡ぐ。

その様があまりに己が知る姿とは違い過ぎて、マハーバリや神々は言葉を無くし目を背けるしかなかった。

 

代表し、シヴァがインドラを見下ろす。

 

 

「インドラと名乗り上げたということは、僕達インド神話も他人ごとではないんだね?」

 

「そうだ」

 

「なら君がどうにかすればいいじゃないか。まだその程度、3大勢力程度なら負けはしないだろう?」

 

「…俺が姿を晒すワケにはいかん。いや、本音を言おう」

 

 

スゥっと覚悟を決めるように息を吸い。

 

 

「…怖いんだ。あの馬鹿に何と声をかければいいか…まだ、心の整理が追い付かねぇ」

 

 

この時シヴァはおおよそでありながら、限りなく正解に近い答えを導き出していた。

 

誰にも聞こえないよう、帝釈天の耳元に顔を近づけ。

 

 

「…まさかカルナか?あの『施しの英雄』が現世に?」

 

 

答えは沈黙。しかし正解であると悟ったシヴァも、思わず天を仰ぐ。

 

 

(うわぁ…今?そりゃこの問題児でも頭を抱えるに決まっている)

 

 

そのまま太陽を睨みつけるが、スーリヤはただ佇むだけだ。

ハァっと溜息を吐き。

 

 

「分かった。なら、しょうがないね。僕は力を貸すよインドラ」

 

 

どよめきが起こり、何事かと神々がシヴァに問い詰めるが黙したままだ。

 

【カルナ】――その名はシヴァにとっても覚えがある。スーリヤの子にして大英雄

本来ならばこちらの陣営に入れるべきだ。何より帝釈天は「まだ」と言った。つまりいつかはカルナを迎えに行く気なのだ。敵対する須弥山に現代における最高クラス戦力が招かれる…ならば止めるべきなのだろうが…止めた。どう見てもインドラにその気があるようには見えないし…もう一度言おう。あのカルナ(・・・・・)だ。

 

どれほどの悲劇を背負い、どれほどの汚辱を背負おうと決して自身が定めた在り方をついぞ変えなかったインド神話が誇る最強の頑固者。それに、そんな息子を諫めるはずの父親は見ての通り、最強の放任主義者だ。たとえ須弥山に加わろうと、インドラですら御しきれるワケなどない。

 

 

悪人の中の悪人ドゥルヨーダナを友と呼び、父から授かった黄金の鎧を目の前の馬鹿にやった超大馬鹿野郎だ。

 

そんな彼が転生した。人類史が誇る頑固者が、主神クラスの力を携え現世に再び蘇ったのだ。死んだ聖書の神もこれには「マジふざけんな」とキャラ崩壊を起こすだろう(実際シヴァもだいぶキャラが崩壊していた)

 

 

「…ねぇインドラ、ちょっとスーリヤに連絡取れる?」

 

「…電話したけど着拒された」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

それから十数年、シヴァ達インド神群は約束通り三大勢力が入れぬような強固な結界を張り侵入を拒んだ。これには4大魔王サーゼクス・ルシファーが抗議しセラフォルーが外交官として赴いたが、「文句は帝釈天に言え」と取り付く島を与えず、悪魔側も聖書の陣営を嫌っていることで有名な帝釈天に文句など言えるはずもなく、インドは平和そのものだった。

 

 

その中で帝釈天とシヴァは時々会って、近況報告のようなものをしていた。まぁ近況報告とは言っても、お互い数分だけ会い、喋ることなく酒を飲むだけなのだがそれで充分だった。

 

互いに敵対しあう仲ではあるが、スーリヤの子という共通認識もあって以前ほどの嫌悪感は薄れていた。

 

 

そんなある日、いつものように黙って飲んでいるとシヴァが唐突に語り掛ける。

 

 

「…そろそろ行けば?」

 

「どうした、急に」

 

「いやね?この前弱すぎて結界に反応せず素通りした悪魔がいたんだけどさー。カルナが『梵天よ、地を覆え(ブラフマー・ストラ)』ぶっ放してさー…地形変えやがった」

 

「おい、悪魔とか聞いてねぇぞ!」

 

「いやそれどころじゃないでしょ。今のご時世にあれだけの神秘ぶちまけられたら堪ったもんじゃないよ。だから連れてって」

 

 

カルナの存在はインド神話、須弥山においてもこの二人しか認知していない。いくら帝釈天がギリシャ神話における死の神ハーデスや、北欧のオーディンと知り合いとは言っても秘密は持つものだ(まぁ、今回の悪魔の件は本当に偶々だったのだろう)

何より英雄を求める気質があるこの二つの神話が関わってくれば、間違いなく今以上にメンドクサイことになること間違いなし。

 

 

カラァン――と手の中で回したグラスに氷が当たり、それをしばし眺め。

 

 

「そうだな、明日行って来るわ」

 

 

クイっと呷る帝釈天をシヴァが見つめ

 

 

「覚悟、決まったのかい?」

 

「んぁ?いいや全然」

 

 

今でもスーリヤに連絡は取れず、あの馬鹿が何考えてるのか一切分からない。だが――。

 

 

「一つだけ、絶対なことがある…俺があの闘争を辱めた。死ぬはずだった我が子可愛さに、神々に捧げられる神聖な儀式をブチ壊したのは戦を司るこのインドラだ」

 

「そうだね、最高に最低な行為だったよ」

 

「でもな、後悔だけはしてねぇ。子供に生きてほしい、父親として当たり前のことだ。俺はあの時戦神ではなく、一人の父親として介入した…それでも後悔するとしたら…あぁ、そうだな。あの馬鹿のガキが予想を超えた大馬鹿だったことだ」

 

 

3大勢力の介入を帝釈天が恐れた理由。それは彼が利用した『正午の沐浴の際、頼まれれば断れない』という戒めだ。

 

“悪魔の駒”ではカルナを転生させることは不可能だ。その身に宿したスーリヤの神性は、悪魔に取って毒以上のものに等しい。しかし、もしその神聖を捨ててほしいと言われれば?あの馬鹿はあの時と同じく、頼まれるがままに父から受け継いだその力を捨てるだろう。もし堕天使が悪魔と天使を滅ぼすのに力を貸してほしいと言えば、カルナは力を貸すだろう。最悪なのは天使が他神話を駆逐するのに助力を願えばもはやインド神話、須弥山を巻き込んだ神話大戦の勃発だ。

 

 

「だから保護者が必要なんだ。そしてそれはあの馬鹿親子を誰より良く知る俺以外にいねぇ…誰にも譲るもんか、英雄の誇りを今こそ返す…!!」

 

 

誰となく呟く帝釈天をシヴァは静かに見つめた後、スっとグラスを掲げ。

 

 

「この数年、まぁ君との関係は悪くなかったよ」

 

「俺もだシヴァ。良い酒を飲ましてもらった――だが」

 

「あぁ、次にあいまみえるは」

 

「戦場の誉れを互いに掲げ」

 

「「死闘の果てに賛美の笑いを――!!」」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

「保護しにきた」と告げた帝釈天に、カルナが返した言葉はYesだ。

 

あまりにアッサリ言ってきたので流石の帝釈天もズレるグラサンを直すことを忘れていた。

 

言いたいことがあった、聞きたいことがあった。憎くないのか、恨んでないのか。アルジュナのことドゥルヨーダナのことを問いたださないのか。

 

そんな彼の内心を、『貧者の見識』を持つカルナは口に出して答える。

 

 

「あぁ、確かにこの俺とて色々聞きたいことがある。だがお前がそれを悩むなら、俺は何も聞かない。お前が語る勇気を持った際、改めて聞かせてもらおう」

 

 

それだけ言って、カルナは帝釈天に背を向け世話になった老夫婦へと足を進める。そんな彼を帝釈天は黙って見つめるだけだ。

 

 

「世話になった、俺は行く。元よりあの蝙蝠が来た時点で、俺は出て行くべきだったのだ」

 

 

それは幼い頃のような言い方であるが、この夫婦にはカルナの言いたいことが良く分かった。【あなた方にこれ以上迷惑をかけられない。もし、己のせいで何かあれば自分を殺してしまう】と。

 

 

幸せな一時だった。子を授かれず、しかし最愛の家族を天より授かった。

 

その身を包む黄金の鎧も気にせず彼等はカルナを強く抱きしめる。少しでも気持ちが伝わるように、少しでも自分達のことを覚えていてもらえるように。

 

温もりを感じれぬ鎧を通して、確かに彼等の暖かさがカルナの身体を包み込む。

 

 

「…必ず帰って来る。今生において、あなた方こそ我が父であり母だ」

 

 

無表情しか知らぬその顔に、僅かな微笑みを讃えたカルナが離れると、帝釈天が今度は夫婦に近づき。

 

 

「さっきは悪かったな。…良い家庭に拾われたなカルナ」

 

「あぁ、スーリヤは良い縁を運んでくれる」

 

「アイツの加護だけってのも何だ、俺の加護も与えてやる。太陽神と戦神の加護を持つ土地なんて、今じゃそうそうねぇぞ?…もういいか?行くぞカルナ」

 

 

帝釈天から声をかけられ、もう一度「必ず戻る」と誓いを立て、カルナは前世における宿敵の父の隣に並び、決して振り返らずに山道を歩き出す。

 

 

かつてなら絶対にありえなかった光景がそこにあり、スーリヤはただ嬉しそうに息子と宿敵(とも)を燦々と照らすだけであった。

 




カルナを眷属にしようとしたシヴァ曰く、弱すぎる上級悪魔の家は次期当主を失い、仕方無くヤンキーのような恰好とタトゥーを彫り込んだ分家のクソガキを渋々次期当主に指名したとかなんとか

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