施しの英雄    作:◯のような赤子

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皆様メリクリウス。アクタエストファーブラ!

カルナサンタさんに元気を貰ったので更新ストップしていたお詫びに一話だけ出来たので投稿です。


※予約投稿したのに何故か同じものが二つ投稿されていたので片方を削除しました。
教えてくださった皆様ありがとうございますm(__)m



染まりゆく永久の世界

ポタポタと細く白い指先から、黒い雫が透明な瓶へと滴り落ちていく。底の方でその雫は僅かに身じろぐように蠢き、やがて小さな蛇となる。

 

 

我が身を引き裂き続ける行為であるにも関わらず、無限龍――阿頼耶識(グレート・レッド)の前身オーフィスは色の浮かばぬ表情のまま、目の前の並べられた中身の無い瓶を己を切り離し次々と満たしていく。

 

満たす(切り離す)

満たす(我が身を)

満たす(我が)

満たす(閉じていく)

 

 

もはや繰り返すつどに五度では済まされない。最近は特にそうだ。

 

曹操が仲間と呼ぶ神器所有者達に今、何をしているのかは知っている。だがオーフィスはそれを止めるつもりなどなく、また誰もがその力をのみを求め接触し、心を教えてこなかったが故に純粋に過ぎるこの龍神は、その行いが善か悪など分からない。

 

 

だが一つだけ、オーフィスにも分かることがあった。

 

 

「……我、もうグレート・レッドに勝てない。もう…届かない」

 

 

ポタっと瓶へと血が落ちれば、まるでオーフィスの心を代弁するかのように蛇が小さく鳴き、すぐさまその形を失った。

 

 

今はこのように幼女の姿をしたオーフィスではあるが、その本質は力の塊――ドラゴンだ。だからこそ分かる。

 

オーフィスが切り離した蛇の総量は、無限の名を持つ彼女からすれば刹那にも満たない。だがその刹那を失う以前でもグレート・レッドに勝てず、こうして居場所を奪われたのだ。

 

常人には比べようもない小さな差が、この二匹の間に隔絶した差を生み出していた。

それを理解していなかったわけではない。憐憫とも取れる笑みと共に「力を貸そう」との声に、その手を取った時にはもう分かっていた。

 

【禍の団】と名乗る彼らないし彼女達はただ、自分を利用したいのだろうと――それでもオーフィスは蛇を与える事を止めない。それは一種の諦めからの足掻きだったのかもしれない。

 

けど本当は……オーフィスはただ、信じたかったのかもしれない。

初めて求められた、初めて頼っていいと誰かに言われたようなものだったのだ。

 

混濁とした無限。誰よりも無垢で幼い彼女の心は無意識の内に報いたいと思ったのかもしれない。

 

仮にも龍神、“神”を関するのだ。求める声に与えようとしても何もおかしくない。

 

 

「嫌だ。我、今のここ…キライ。曹操の近く…ヤダ」

 

 

“神”のままだったなら、このようなことを言い出さなかっただろう。

だが【禍の団】は無限の龍神を首領へと落とし、ただ“蛇”を生み出すだけの道具へと貶めた。

 

きっかけは間違いなくグレート・レッドなのだろう。だが透明のキャンパスに色を差し(欲望という感情を吐き)続けたのは【禍の団】だ。

 

 

無色の世界が色鮮やかに染まる(オーフィスが感情を表す)のはある種必然だった。

 

そして更なる色相を求める事も。

 

 

 

「――オーフィス?どうした、すまないが俺は今戻ったばかりでこの通り、かなり疲れているんだが」

 

「アルビオン。我、ここキライ。我、ドライグにもう一度会ってみたい――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪魔500柱対英雄カルナの試合から数週間が経った。あれからリアス経由でサーゼクス様から上位レーティングゲーム陣から多数の応募が殺到して、かなり大変だったらしいとの報告を受けた。つい最近まで入院していたサイラオーグさんもすぐに退院して再び鍛錬を始めたという話も聞かされた。きっとあの試合をテレビで見ていたのだろう。

 

確かにすごい試合――光景だったと思う。

今まで俺だって、いろんな強いヤツと戦ってきた。その中にはロキのような神様なんかもいたりした。でも、その殆どはタイマンだったり仲間と戦ってようやく勝てたものばかりだ。もしある日、500もの悪魔と一人で戦えと言われたら…考える以前に無理だって思ってしまう。だって明らかに数が違うんだ。身近で言えば、駒王学園の全校生徒が立ち向かってくるんだ。どうやったって数の暴力に身が怯んでしまう。

 

なのにカルナは…あの人は戦った、そして勝った。圧倒的に。

 

神様の血が流れているという話は聞いている。あの人はインド神話の太陽神スーリヤの実の息子であり、あの黄金の鎧は破壊が絶対不可能で、全神話中でも最硬と名高いのだと。けどあの試合ではそのほとんどが関係なかった(・・・・・・・・・・・)。そりゃ流石に最初の攻撃は関係あったぜ?だってテレビ越しでも寒気がするくらいの膨大な魔力だったし。でも…その後だ。その後あの人はその身一つでまだ数百と残っていた悪魔達を次々と倒していった。それを可能にしたのは全神話中最硬の鎧があったからじゃない。だってカルナはあの試合中、ただの一度も攻撃を受けなかったのだから。

 

まるで全身に目があるかのように迫りくる攻撃を全て躱して、往なして…そして前へ前へと向かって…まるで洪水のように迫りくる悪魔達を次々と打倒していた。そこには彼が神様の父親を持つからだとか、英雄だから…特別だからしょうがないという慰めを誰にも許さない…。

 

ただひたすらに積み上げた“武”だけが映し出されていた。俺のような…そもそもが格闘戦を行わず、アウトレンジからの攻撃を得意とするリアスや朱乃さんですら言葉を失うほどの、一つの頂が……だからだろう。

 

 

 

だからきっとおっさんも、きっと我慢できなかったんだ。

 

 

今、職員会議でこの場にいないアザゼル先生とロスヴァイセ先生を除く俺達オカ研メンバーは部室に置かれたテレビを、瞬きすら忘れて見つめていた。

画面の中には再び赤の陣営の槍兵(ランサー)として、その手に槍を握るカルナの姿があった。それに相対するのは小山程の巨体。

 

鋭く伸びた爪と牙、その牙の間からは絶え間なく炎が漏れ出ていて、また縦に割れた瞳孔は口元と同じかそれ以上の熱量を感じさせる。何よりも特徴的なのは、その頭頂部から捻じれるように伸びる角と紫色の鱗に包まれた屈強な外観。

 

 

――“魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)”と名高き元6大龍王の一角、まぎれもない魔王級の力を持つ(・・・・・・・・・)タンニーンのおっさんが、気炎を吐きながらボロボロの姿(・・・・・・)で映し出されていた。それに対し、カルナは所々が煤けてはいるものの槍を静かに構えている。

 

果たしてどちらが勝っているのか…そんなもの、考えるまでもなかった。

 

 

「……嘘でしょう…?タンニーンなのよ?あのタンニーンがそんな…」

 

 

リアスが信じられないと呟くけど、それは全員が同じ気持ちだ。

稽古をつけてもらった時や、ロキと戦った時におっさんの実力は直でみんな見ていた。すごく強い、俺にとっての憧れ。ドラゴンとしてあるべき姿を常に見せてくれる…俺が目指したいと心から思ったドラゴンの王様が――、

 

次の瞬間、試合会場の中に沈んだ。

 

 

「うむ、決して恥ずべきところなどないが、改めてこう見るとまぁ…何と言うかやはり恥ずかしいものだな」

 

 

パタパタと羽を羽ばたかせながら、俺の横では人間界用に小さくなったタンニーンのおっさんが腕を組んでうんうんと頷いていた。

 

そう、この映像はタンニーンのおっさんが、おっさんが勝つと思い修行をしていた俺達の為、特別に持ってきてくれたものだった。

 

 

「タンニーン様、その……」

 

「少なくとも俺は本気だった(・・・・・)。本気であの男を殺す気(・・・)で戦い、そして負けた」

 

 

朱乃さんが聞きずらそうに尋ねかけると、そうおっさんは返してきた。殺すだなんて物騒だなと思ったけど、でもそれこそがドラゴンと英雄に相応しい、正しい関係性なのだと言うその目は真剣そのもので、悔しさなど微塵も浮かんでいない。

 

 

「当然だ。俺はあの時、一匹のドラゴンとして(・・・・・・・・・・)戦い、そして英雄に打倒された(・・・・・・・・)のだ。あぁ、すまないが疑うことはお前達でも許さない。たとえそれが魔王であってもだ」

 

 

続けてタンニーンのおっさんは腕を組んだまま教えてくれた。

 

 

ドラゴンが英雄に挑み、そして英雄が…人間がドラゴンに挑んでくれたのだと。

 

 

「挑戦には様々な方法というものがある。知力を振り絞り狡猾な罠を張り巡らせ、ただひたすらに相手を弱らせて挑むこともまた立派な挑戦だ。はっきり言ってドラゴンとは理不尽そのもの(・・・・・・・)だ。存在するだけで神器のような世界そのものに対するバランス・ブレイカーだとさえ言える。だからこそ、俺のようなドラゴンに挑むときは、卑怯だと罵られてようやく土俵に立ったと言える。だがあの男は…お前達も見てくれただろう?」

 

 

武器を手に取り、その身一つで戦ってくれた。それが嬉しかったんだと、おっさんは唸るような満足気な笑みを浮かべた。

 

 

「でも、よくこんな短期間でゲームをセッティングできたわね。お兄様からは上位陣からの問い合わせが殺到して大変だって聞かされたのに」

 

「あぁ、だから俺の眷属全員を引き連れて直談判した(・・・・・・・・・・・・・・・・)のだ。我慢なんぞできんとな。どうだイッセー、どうだドライグ。羨ましいだろう?」

 

『あぁ…ずるい…お前だけそれはあまりにもずるいぞタンニーン』

 

 

右腕に宝玉だけが出現して、中にいるドライグの声が部室に響いた。ずるいと呟くその声は、本当に悔し気だった。

 

 

「その…俺にはまだよく…ただすごいとしか感想が出なくって……」

 

『相棒、言葉に出す必要なんかない。ただ感じればいいのさ』

 

 

おっさんと似た腹に響く笑い声をあげながらドライグがそうフォローしてくれた。でも…そうか。

 

 

「…俺達、あんなすごい人と戦うんだな」

 

「そうだ。だからお前達にこの映像を届けに来た」

 

 

俺の一言におっさんが肯定を入れてきて、改めて再び映し出されたおっさんとカルナの試合を誰が何を言うでもなく見返す。それはいずれ戦う相手を分析する為じゃない。気づけばそれを見ていた。

 

 

「強いぞカルナは。少なくとも俺より遥かにな。信じられるか?あれで全力で戦うために、全力で手加減していた(・・・・・・・・・・・)んだぞ」

 

「え…え、どういうこと…ですか?」

 

 

おっさんの一言に一拍置いて、木場がワケが分からないって顔をした。俺やリアス、オカ研全員が同じ顔をしていた。

 

 

「全力を出す為に全力で手加減していた?」

 

「うむ。古のドラゴンと英雄の作法に則り、殺意を持って俺は戦った。ならば敗者たるこの身は、殺されてこそ道理だと、俺は試合後すぐにカルナへ申し立てた。けどな――」

 

 

【お前を殺す気でいけば、この借りた槍がもたなかった。気づいてはいた。だがこの身は槍兵(ランサー)として相対していたのでな。お前のような誇り高き龍に対し、この非礼はいずれ詫びよう】

 

 

…今、俺は一体どんな顔をしているのだろうか。あの臆病者のギャスパーでさえ、怯えるような表情じゃなくて、ただただ信じられないと口を開けていた。

 

 

『クッ、クク…たまらないな』

 

「あぁ、たまらん。“魔龍聖”と呼ばれたこのタンニーンが、ドラゴンの王とさえ呼ばれるこの俺が…ッ!これに滾らずして何がドラゴンか!!」

 

 

宝玉からドライグが、目の前からタンニーンのおっさんが龍気を声に込めて笑い出す。とくにドライグの笑い声はいつものような感じじゃない。

 

二天龍の一角、ドラゴンとしての悦びが、そこには溢れていた。

 

 

「ドラゴンって、やっぱりすごい生き物なんですね。正直、私はできれば戦いたくないです」

 

 

クツクツと怪しげに笑い続けるドライグとおっさんを見て、小猫ちゃんが関心しながら最後の方はポツリと呟いた。そういえば小猫ちゃんはカルナを最初見て、倒れたんだっけ。

 

 

「ねぇ小猫、氣を使う貴女から見て、彼はどう感じたの?」

 

 

リアスが足を組んだまま、小猫ちゃんに尋ねた。正直俺も気になる。あの時はまるで太陽のようだって言ってたけど。

 

 

「そのまんまですイッセー先輩。魔王様やタンニーン様でも、大きいと感じることはできます。でもあの人は…その大きささえ分からなくって…なんで人の姿でいられるんだろうって急に思って、ワケが分からなくなってそれで……すみません、意味不明なことを言って…」

 

「いや、お前のそれは正しいぞ小猫よ。俺がこの場にいないアザゼルから、そしてアザゼルが誰から聞いたかは分からないが、斉天大聖が一度カルナと戦ったらしい」

 

「え、あの斉天大聖の爺さんが!?」

 

「あぁ、その際彼は戦う前から死を覚悟したらしい。あの帝釈天の尖兵が、だ」

 

 

嘘だろ…あの爺さんが…だって曹操達“英雄派”が束でかかっても相手にすらならなかったってのに…。

 

 

「でも…その…すごく大きくて、すごく怖かったんですけど…でも、すごく温かくて…なのにあんな失礼なことを…にゃあ」

 

 

最後に軽く鳴いた小猫ちゃんは、そのまま少し顔を俯かせた。そう言われると、俺達あの時結構失礼な態度をしてたよな。あの人はなにもしていないのに……。

 

 

「そうね、改めて思い返すと悪いことをしていたわ。その時は私も一緒に謝らせてね?小猫」

 

「はい…!」

 

 

俯いていた表情が、少し明るくなった。その時は俺も一緒に謝らせてもらおう。

 

 

「さて、では俺も用事を済ませたことだし、そろそろ帰るとしよう」

 

 

部室の雰囲気が変わって丁度いいとタンニーンのおっさんがそう言い出した。本当に映像を持ってくるためだけに来てくれたんだよな。いや、俺達の激励も込みか。ホント、すごくありがたかったぜ。

 

 

「えぇ、本当にありがとうタンニーン。対戦相手の大きさが少しでも分かっただけありがたかったわ」

 

 

リアスが代表してお礼を言うと、タンニーンのおっさんは軽く頷いて冥界への魔法陣を開き、帰っていった。

 

 

負ける(・・・)って言いたかったんでしょうね、私達が。…その上で得られるものがあるから無駄にするなって」

 

 

映像を消して、静かになった部室の中でリアスが態々おっさんが持ってきてくれた理由が、こうじゃないかとみんなに教えてくれた。正直俺もそう思った。

 

おっさんが度々“魔王級”の実力を持つと言われるのは、何もその破壊力だけじゃない。

 

聖書に記されるほど大昔から、タンニーンのおっさんは戦い続けている。その経験値は膨大で、咄嗟の判断力も凄い。そして俺達は冥界きっての新人(ルーキー)でしかない。それでも上位悪魔と比べられるのはとんでもないことだけど、おっさんはその遥か上の存在だ。

 

そのおっさんが勝てなかった相手に、果たして俺達だけで勝てるのだろうか?

 

 

「敢えて口にはしないでおくわ。でも…そうね。最近は絶対に負けられない戦いや、負けたくない相手が続いていたけれどちょっと…うん、良い機会なのかもしれないわね」

 

 

少し、本当に少しだけ困ったような表情で笑いながら、リアスが俺達の(キング)として声に出してくれた。

 

つまりこれは、テレビゲームとかでいうところの“負けイベント”なのだと。

 

 

「あらあら、うふふ。珍しいですわねリアス。以前の貴女だったら上等じゃない、目にもの見せてあげるわ!くらい言いそうなものだったのに」

 

「少し失礼じゃない朱乃、私だって無理や無茶をしなくていい時くらい分かるわよ。それに…彼氏がどんどん先に行っちゃうんだもの。私だって早く追い付いて、彼にふさわしい女にならなくちゃいけないじゃない?」

 

 

少し言葉を溜めながら、僅かに頬を赤らめたリアスがこっちを見ながら朱乃さんに言い返した。それに俺も少し恥ずかしくなって、頬を軽く掻いてしまう。普段から別に隠してないし、皆当然のように知ってる…てか告白するとき普通に見られちゃったけど!でも、改めて言われると恥ずかしい…!

 

 

「あらあら、うふふ。見せつけちゃって焼けるわリアス。でもそういう理屈だったら、チームの強化の為に、私にも彼氏が欲しいですわ」

 

 

朱乃さんが何やら怪しい雰囲気を出しながらそう言って、近づいてきた次の瞬間――フニョンと柔らかい感触が、右腕を優しく包んでいた!

 

 

「ちょっと、朱乃!」

 

「あらあらリアス、そんな怖い顔をして…ねぇイッセー君、私だったらこんな事で一々怒らないし、な・ん・で・も…好きな事を好きな時に(・・・・・・・・・・)させてあげますのよ?」

 

「ムホ!?す、好きな事を…好きな時に…な、なんでもですと!?」

 

 

「えぇ」と朱乃さんが若干とろんとした目で俺を見つめてくる。その間も頬をなでなでされながら、気のせいかもしれないけど密着感が徐々に上がっているような…っ!

 

 

「イ、イッセー先輩、今すごくやらしい顔してますぅ…!」

 

「やらしい顔してるイッセー先輩、サイテーです」

 

「いやいや小猫ちゃん!?これは何と言うか不可抗力ですし!?それに俺のせいじゃ…」

 

「あはは…まぁうん、イッセー君のせいでいいんじゃないかな。ハーレム王を目指すなら、それくらい受け止めなよ」

 

 

木場ァ!お前まで!?お前も男ならこうなるのはしょうがないって分かるだろ!?あ、そういえばギャスパーも男だった。

 

 

「わ、私だってイッセーの為ならどこでも何でもしてあげられるわ!そのくらいで良い気にならないでちょうだい!」

 

 

フニョンと空いていた左手までもが柔らかい感触に包まれる。修羅場と気持ちいい感触の二つに包まれるだなんて…これがハーレム王を目指す者の宿命なのか…っ!!

 

 

「だいたい、いつも貴女は私とイッセーが二人きりになるのを邪魔してばかり!…って、あら?」

 

 

リアスが疑問を浮かべるような声をあげたので、リアスの視線の先を見ると再び魔法陣が展開されていた。

咄嗟のことだったので、みんな反応できずそのままの体制で魔法陣の光が収まるのを待っていると…。

 

 

「やぁ、こうしてゆっくり顔を見るのはパーティー以来だね」

 

 

サ、サーゼクス様!?その後ろにはメイド姿のグレイフィアさんまで!

 

 

「お兄様!?それにグレイフィアまで!?」

 

「うんリアス、久しぶり」

 

「お久しぶりでございますリアス様。それであなた方はまだ日も高いというのに一体何をしているのでしょうか?」

 

 

あ、リアスも俺と同じこと言ってる。なんか少し嬉しい…ってそれどころじゃないだろ!グレイフィアさんが俺達を見てすっげぇ怖い顔向けて来てる!

 

急いで膝をつこうとすると、手でやんわりとしなくていいと止められて、朱乃さんが急いで俺から離れて紅茶の準備をし始めた。それを見てグレイフィアさんがはぁと溜息を吐いてリアスを軽く睨んだ。すると今も俺にくっついていたリアスがビクリと身体を少し跳ねさせた後、名残惜しそうに離れてまたグレイフィアさんが溜息を吐いた…何も言えねぇ……。

 

 

「あはは、仲が相変わらず良さそうで何よりだよ」

 

 

サーゼクス様が笑いながら席に着いて、それに合わせて朱乃さんが紅茶を出してくれたことで、少し空気が変わってくれた。いやグレイフィアさんまじでこういう時怖いんだって。

 

 

 

「タンニーンが来ていたみたいだね」

 

 

リアスが席に着いて、朱乃さんがその横に立つ。忙しいのに何かあったのかとリアスが聞こうとすると、サーゼクス様の方から話を切り出した。

 

 

「はい。彼が勝つと思い、私達は今回の“サーヴァントゲーム”を見ていなかったので…それをどこかから聞いたのでしょう。態々私達の為に持ってきてくれました」

 

 

そうかいと呟いて、サーゼクス様が少し深く腰掛け直した。

 

 

「正直に言おう。私を含め、聖書の陣営でまさかあれほど一方的に勝てるだなんて思った者はいなかった。なにせあのタンニーンだ。カルナはその前に500柱の悪魔に勝ったけど、それはタンニーンでもできることだ。だから良くてカルナは引き分けだろうとの声が多かった。まぁ、一部では腹いせな暴言も飛び交っていたけどね」

 

「あの、サーゼクス様。何で急にあんな試合を…正直、見始める時は気持ちのいいものじゃなかったです」

 

 

俺が言っているのは、カルナ対500柱の時の試合だ。サーゼクス様もすぐにそれがどの試合だったのか分かったのだろう。すまないと俺達に謝ってきた。

 

 

「すまない。それは私とアジュカ、そしてアザゼルの失態だ。我々が気付いた時にはもう止められない状況にまで進められていた。もう二度とそうならないようにしたいと思っていたんだけどね。あの後カルナ本人にも謝罪しに行ったけど、彼にはどうとないって逆に慰められたよ」

 

 

本当に悔し気な表情で、サーゼクス様はギュっと両手を組んでいた。魔王様達やアザゼル先生にも気づかれず動けるだなんて…それってつまり、裏で動いていたのは……。

 

 

「それ以上はイッセー君、言わないほうがいい」

 

 

“大王派”――口に出そうとすると、サーゼクス様が止めてきた。迂闊に犯人を言う事もできないなんて…いや、それ以上に魔王様でも簡単に止められないのか…彼らのことを。

 

 

「もう少し…あと少しなんだ。今冥界は凄まじい変革の時を迎えている。冥界だけじゃない。悪魔を含めた三大勢力も、各神話勢力も…その渦にいるのは君たちのような若い世代だと思っている。その為に私達も今必死になって動いているんだ。だからもう少し待ってほしい」

 

 

弱気にも取れる言葉だけど、その顔には少し悪い笑みが浮かんでいた。でも安心できる笑みだ。必死と言ったように、きっとサーゼクス様達は本当に冥界の未来の為に一生懸命裏で動いているのだろう。頑張ってくださいと心の中で応援させてください、サーゼクス様。

 

 

「サーゼクス様、本題に入らないとそろそろ時間が。ただでさえ仕事が溜まっているのに妹に会いたいからと無理を眷属達に押し付けて此方に来ているのですから」

 

「グレイフィア、折角決めたのに…もう少し妹や将来の義弟にカッコつけさせてくれてもいいじゃないか」

 

 

応援…していいのかなぁ…!?眷属の皆さん頑張ってください!

 

 

さっきまで少し堅苦しい話だったから肩に力が入ってたけど、どっと抜けた。

 

 

「あの、魔王様そろそろ此方に来た本題をお願いします。じゃないと後でスルト辺りからこっちに早く戻してくれと連絡が来そうなので…」

 

「それは大変だね。愛しい妹に迷惑なんかかけるワケにいかないし、じゃあ本題に入ろうか。いやなに、君たちに引っ越しの挨拶に来たいって連絡があったから、変わりにアポを取りに顔を見せに来ただけなんだ」

 

 

――?それだけ?それだけの為だけに、態々サーゼクス様自身が来たってのか?

 

それはみんな同じだったらしい。全員変な顔をしていた。

 

 

「魔王様、魔王様が動く程の誰かが、一体どこに引っ越して来るというのですか?」

 

「あぁうん、それはね――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「隣町に引っ越してきたカルナだ。よろしく頼む」

 




―軽い今後について―

書きたいものが多すぎる…!

東京喰種とハリポタのクロスオーバーだったりナルトで芸術家コンビに演出家を加えた暁メインものだったりイラスト描いたり…(汗
(今は漂白剤で構想中です)

とりあえず完結目指してぼちぼちやらせていただこうと思ってます。
プロット自体は最初期に出来上がってるんですけどねぇ…話が纏まらん(汗)


十中八九またかなりの期間が空くと思いますので、残り少ないですが皆さま良いお年を。


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