施しの英雄    作:◯のような赤子

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 新しい仕事見つけて北九州から名古屋に二か月研修行って大分に飛ばされたりまた北九州戻ってきたりして趣味が一人旅になっていたりしたらマジかよ、久々にハーメルン開いて感想見たら一年経っとるやん(汗)
 
 待ってくれる人ってすごくありがたいと改めて思いました。
本当にありがとうございます。
 それと今まで勘違いしていたのですが、“グレード・レッド”じゃなくて“グレート・レッド”だったんですね…どこでそう間違えてたし(汗)
この件含め毎回誤字脱字報告してくださる皆さま方ありがとうございます。



再会 壱

 「それで、一体貴女様のような悪魔風情が、我が主の元へ如何様な事があって御越しいただけたのでしょうかや」

 「え…あ、あの……」

 

 

 カルナの家にいた弥々と名乗った女性の一見丁寧にも聞こえる問いかけ。

 しかしその中には確かに悪魔に対する蔑みが含まれており、即座に悪魔と見破られたことと隠された罵倒に気づいたロスヴァイセは咄嗟に返事が出来ないでいた。

 

 

 「用事がなければお帰りいただけますか?主はただいま出張らっておりますので」

 

 

 そんなロスヴァイセの心の揺らぎを弥々は見逃さず、暗に帰れと再びガラガラと横開きの扉を閉めようとするが流石にそれは看過できなかったのだろう。

 

 

 「あっ、あなたこそ一体誰なんですか!?ここはカルナ様のお家のはずです!」

 「先ほど伝えたはずですが?主の小間使いのようなものをさせてもらっていると」

 

 

 感情のままに口から出た言葉は、即座に鋭利な返しで切り捨てられた。

 しかしロスヴァイセも引くわけにいかない。

 何せ彼女がここに来た理由は命よりも大事な物(“英雄眼福の会”会員証)を探すことであり女性として、社会的尊厳を守り抜くためである。その為には家に上げてもらわなければならず、カルナが家にいない今は目の前の女性を何とか説得するしかない。

 

 

 “――で、でもどうしたら…うう、良い方法が思い浮かばない。”

 

 

 立場的には此方の方が下だ。

 何せ突然押し掛けたようなものなのだから。

 

 軽く下を俯きつつ唸りながらなんとか方法を探そうと弥々を見る。

 

 そもそも彼女はなんだ?

 つい先日一瞬ではあるがカルナと共にいた女性であることは間違いない。というかカルナに従者が付いていたなんて話聞いたこともないし髪と瞳の色こそ違えどその顔立ちは間違いなく見慣れた日本のものだ。それに微かに京都でも感じた妖怪特有の気配もある…京都にはカルナもいた。ということはこの双方で何かしらの取引があり、そこで彼女はカルナに仕えるようになったのか…。

 

 いや、そもそも…。

 

 

 “ ――すごく綺麗な人だなぁ。”

 

 

 後ろではなく前に流すように金具で纏められた長い金髪。

 身体のラインがはっきり分かる服装をしているためか、かなり強調される形で押し上げられた胸部は同年代と比べても比較的胸の大きいロスヴァイセをして完敗の文字が浮かぶほど。

 長い睫毛に彩られた目元と碧眼は知的な印象を思わせ、また現代にしては少し太めの眉毛は奥ゆかしい古き良き大和撫子を彷彿とさせる。

 

 

 “――も、もしかしてカルナ様って美形好き?いやいやでもあの人に限ってそんな!…で、でも英雄色を好むと言うし…。”

 

 

 本来なら絶対にありえないと言い切れる妄想。

 しかし突如目の前にこれほどの美人が現れ、しかも色々な意味で焦っているロスヴァイセには悶々としたものしか思い浮かばない。

 

 だから当然、それを切り捨てる役目は彼女だった。

 

 

 「はぁ…何をお考えか顔を見れば分かりますが正直不愉快です。先ほども述べたように弥々は精々が小間使いであって身体を許したことなど誰にも一度もありません」

 「っ!あ…す、すみません!別にそんなつもりじゃ!」

 

 

 流石に同じ女性として拙いと思ったのか。

 何度も頭を下げるロスヴァイセの姿に、今度は弥々がその動きを止める番となり、しばらくしてもう一度、更に深く溜息を吐いた。

 

 

 「はぁ……本当に、何をしに来たんだか。それに随分と悪魔らしくない」

 

 

 「全く」と呟きながら何を思ったのか。

 先ほどと変わり弥々はまるでロスヴァイセを家に招くように閉じようとしていた扉を開け始めた。

 

 

 「へ?あの…」

 「お上がりなさいな、どうやら主様自身に用事がないようですし」

 「い、いいのですか!?」

 「ええ、それくらいは主様より許されておりますので」

 

 

 

 

 

 昨日と今日、これで二度目となる来訪はしかし、一度目とは違う緊張をロスヴァイセに与えていた。

 

 お茶を用意してくると土間とは別にキッチンでもあるのだろうか、弥々がその奥へと消えたのを見届けるとロスヴァイセはここに来た本来の目的の為即座に動き出した。

 

 

 「えっと、確か私が昨日座っていたのはこの辺だから…あ、あったぁ!」

 

 

 ソファーの下というテンプレ的な場所に隠れていた会員証を見つけると、思わず頬擦りしたくなるほど舞い上がりそうになるがともかく今は我慢だとすぐに財布の中に戻し元居た場所に座りなおすロスヴァイセ。

 その勘は見事に当たり、息を整えると同時に弥々が戻ってきた。

 

 

 「どうぞ、粗茶ですが」

 「あ、ありがとうございます!」

 

 

 コトリと机の上に僅かに湯気を上げながら淹れたてのお茶が置かれる。

 しかしかなりタイミング的にギリギリだったせいかロスヴァイセは湯呑に手を伸ばさず、ただジっと見つめるだけだ。

 その姿に弥々は何を思ったのか「ああ」と呟いた。

 

 

 「安心なさいな、毒など入れてませんよ。何なら弥々がまずは飲んでみせましょうか?」

 「はい?い、いえ大丈夫です!はい!いただきます!…あッつ!?」

 

 

 何も考えず咄嗟に返事をした勢いで酒を流し込むように(飲まずにはいられないッ!)一気に喉へ流し込む。

 当然のように淹れたての緑茶は熱く、すぐに噎せ返ってしまう。

 

 

 「ケホ、ゲホっ!」

 「何をしているんですか全く…折角万が一の為に仕入れておいた上物でしたのに。もう少し風情を味わいなさいな」

 「はい…()()せん」

 

 

 最大限譲歩して口に含んだものを出さなかったのは及第点だと冷めた目で見つめつつ、汚されては堪らないとテッシュを渡す弥々。

 それを受け取り軽く鼻を噛むロスヴァイセの姿は、どう見ても情けなさに溢れていた。

 

 

 「ありがとうございます…でも、今更ですけど本当によろしかったんですか?私を家に上げて」

 

 

 (カルナ)不在でいたということは、恐らく彼女は家の守りでもしていたのではないだろうかと思ったのだ。

 そんなロスヴァイセに、弥々は冷たい薄っすらとした笑みを浮かべて答えを返した。

 

 「都合5回」

 「…?」

 「弥々が貴女を()()()()()()()。その湯呑も先ほど尋ねた際に毒見をさせればよろしかったのに…本当に淹れておけばよかったですね」

 

 “――()()()()()()()()()()。”

 

 

 その言葉に戦乙女としての本能が警鐘を鳴らす。

 つまり彼女は本気でそう言っているのだと。

 

 ロスヴァイセの意識とは別に、身体が即座に臨戦態勢を取ろうとする。だが、

 

 

 「っ!?」

 「遅い。やられると思ったのなら後ろに逃げず、前に出なさいな」

 

 

 ロスヴァイセが戦乙女の装束に身を包むより早く、弥々は現代の服から着物姿に変わり口元を袖で隠し、同時に()()()()()()()()()注意しながら嗤う。

 

 その臀部からは()()の狐の尾が出現しており、その内の一本は毛を針のように逆立てロスヴァイセの喉元に突きつけられていた。

 

 

 「判断が遅い。まだお若いのですね。それに人の世に未だしかと慣れていない。いや悪意に鈍感だと言うべきか…だからこうも容易くその命を取ることも……」

 

 

 ツゥと冷や汗がロスヴァイセの顎を伝う。

 対して弥々は悦に浸るような嘲笑を浮かべていたが、徐々にその声は尻すぼみになり喉元に突きつけられていた尾も彼女の後ろへと戻されていく。そして今度は弥々が表情を消して汗を流し始めた。

 

 

 「…()()()()()()()

 「え…」

 

 

 小さく掠れるような声で囁かれたその後悔の念は、ロスヴァイセには聞こえず彼女はただ茫然と態度の変わった弥々を見つめる。

 

 

 「いえ……いつまで立っているのですか、さっさとお座りなさいな」

 「は、はぁ…」

 

 

 言われるがままに再び席につくロスヴァイセ。

 対する弥々は唇を噛み切らんばかりにきつく結び、理知的な眼は責めるように自分の胸元に向けられた後、両手を膝の上に乗せ、

 

 

 そして深く頭を下げた。

 

 

 「申し訳ありません。弥々はもうそのような立場ですらない温情を預かるだけの身だというのに…先ほども風情などと。一体どんな身代であのような…どうか謝らせていただけませんか」

 「え、いやあの…」

 「従者の態度で主の価値が決まることもあります。ですが違うのです、主様はそのようなお方では…っ、かくなる上はこの弥々の命をもって主と貴女様への謝罪とさせていただきとう存じます!」

 「ちょっ、ちょっと待って!ストップ!!」

 

 

 ガタリと座っていた椅子を蹴とばす勢いで立ち上がり、咄嗟にロスヴァイセが叫ぶように静止の声を上げるのも無理はない。

 何せ気づけば弥々は尾から毛を抜きそれを短刀に変化させ、自らの胸元に突き刺そうとしていたのだ。当然ロスヴァイセはそんなこと微塵も望んでいないし、何より突然カルナの家でスプラッターな光景を見るのは嫌だった。

 

 

 「ゆ、許してもらえるのでしょうかや?」

 「許します!というかそんなこと一切求めてないですし!」

 「ですがそれでは主様の尊厳が…」

 「カルナ様はカルナ様、貴女は貴女です!何よりそんな簡単に命を投げ出すものではありません!!」

 

 

 先ほどまでの凛とした雰囲気はどこへやら。

 泣きそうな顔で「でも」と何度も繰り返す弥々の手を、それ以上進まないようにロスヴァイセは必至に抑える。

 しばらく「それでも」と自害しようとする弥々とそんな彼女を何とか宥めようとするロスヴァイセの攻防はしばらく続き、ようやく納得したのか弥々は徐々に落ち着きを取り戻し始めた。

 

 

 「すみません…その、無様を晒しました」

 「ハァ、ハァ…つ、疲れた」

 

 

 恥ずかし気な表情をする弥々に対し、ロスヴァイセは言葉通りに机に突っ伏し肩で息をする始末。つまりそれだけ彼女が必死だったということだ。

 

 

 「全く…時代劇じゃないんですから、簡単に死ぬとか言わないほうがいいですよ、全くもう」

 「時代劇…ふふ、そうですか。時代劇ですか」

 

 

 どこか自虐めいた笑いを零し、自分用に用意していた冷めてしまった緑茶を口元を湿らすように弥々は一口飲む。

 

 

 「まだ200年も生きていないから若いと思っていましたがそうですか。やはり籠っていては分からないこともあるのですね」

 「2ひゃっ!?…コホン、弥々さんは最近此方に?」

 

 

 女性に年齢を聞くのは同姓でも失礼だ。

 なので咄嗟にロスヴァイセは話を変えることにした。

 

 

 「ええ、以前いた場所でちょっと…()()ありましたから」

 

 

 手元に視線を向けながら、しかしそこではない遠くを見つめるような眼差しで弥々は答える。

 また無意識なのか湯呑から離れた手は首を擦っていた。

 

 ()()と答えた弥々の心境は当然のことながらロスヴァイセに分かるはずはない。

 ただ一つ、言えることがある。

 

 

 実らぬ稲穂()は地に落ちた、それでも彼女はここにいる。

 だから彼女はどこにも行けず、ここにいることだけしか出来ない。

 

 

 ふと、弥々はなんとなしにロスヴァイセを見る。

 そもそも何故自分は今日初めて会った…それもあれほど嫌っていた悪魔に気づけば軽くにしろ身の上話のようなものを聞かせているのだろうか?

 

 立場や住む場所が変わったから?

大英雄のとはいえ、一介の従者に身をやつしたから?

 

 

 「そうなんですか。実は私も色々ありまして、元々は北欧神話に所属するヴァルキリーだったんです。それが何の因果か悪魔となりまして…あっ、別に今の生活が嫌というわけじゃないんですよ?お給料は良いし、何よりセクハラしてくるあのオーディン様(クソジジイ)はいないしで以前ほどストレスは感じていませんし!…でもあのジジイ次あったら絶対許さないんだから…ッ!」

 

 

 それとも彼女が今口にしたように、元々悪魔ではなかったから?

 

 

 「そうですか…正直話の半分は分かりませんし、分かりたくもありませんがきっとそれは良い変化だったのでしょう」

 

 

 言葉にして思う。

 なら自分は果たして変わったのだろうか?

 

 あの日、あの時あの場所で…どこかで見下していた英雄派を名乗る人間にやられ、同じ人でありながら本当の英雄に救われたあの日。

 間違いなく自分の世界はあそこで変わった。それが目の前の彼女が口にしたように良い変化だったとは、はっきりとは言えない。

 

 ただ後悔だけはないとこれから先も、はっきりと言えることは出来る。

 

 

 「はい!だから私、こうしてカルナ様に出会うことが出来たんです!」

 

 

 嗚呼…そうか。

 どうしてこのロスヴァイセという少女をどこか嫌いになれないのかようやく分かった。

 

 ()()()()()、この子も、自分と。

 それは嫌いになれるはずがない。

 

 ただ一つ違うのは、まだ自覚していないところだろうか。

どうかまだそれに気づかないでほしい、きっと無理だと分かっていても、やはり苦しいだろうから。

 

 そう、この弥々のように。

 

 

 「クスっ、そうですか」

 「あれ…私何かおかしなこと言いました?」

 「ふふ。いいえ、ごめんなさいな、ただ何となく笑いが込み上げてきて」

 

 

 京都を離れてから張り詰めていた気が霧散していくような感じがした。

思えば自然とこうして笑ったもの、果たしていつぶりだろうか。

 

 改めて手元を見れば、先ほどより暗いような感じがした。

 確認するため外を見れば、夕日がだいぶ地平線に近づいているように思える。

 

 

 「そろそろ帰りなさいな、女性一人の夜道は危険です。よかったら…また来なさいな。その時はまたお茶でもお出してもてなします」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 ロスヴァイセを帰した後、弥々は割烹着を上に来て調理に勤しんでいた。

 その姿は慣れたもので包丁で大根のかつら向きを行いつつも、同時に一品目の料理を作り終えようとしている。

 

 “――面白い娘だった。”

 

 生まれた土地が違うからなのか、それとも時代なのか。

 あれほど感情豊かな若い娘を見るのは楽しいし、少し羨ましくもある。

 人見知りなところがあり、毒を吐きがちな自分に対してもおどおどこそしてはいたものの物怖じせず疑問があれば素直に聞けるというところもまた良い。

 

 

 「…もしかして弥々は彼女を羨んでいるのでしょうか?いえ、どうでもいいですね」

 

 

 そもそもが詮無き事。

 自分は自分だし彼女は彼女だ。

 

 今はそれよりもしっかりと彼に美味しい御飯を作って出すことが大切だとおたまを使い、汁の上に浮かぶ灰汁を取り除く。

 

 

 「それにしても、今日は随分と遅いですね」

 

 

 出かけると前もって話は聞いてある。

 特にどこへとは聞かなかったがこれまでも何度かあり、夕方頃にはいつも帰ってきていた。しかし今はもう夜の帳が落ちるとこまで来ている。

 

 まさか何か事件に巻き込まれたのではないか。

 そう、思った時だ。

 

 外から土を踏みしめる足音が聞こえてきた。

 安堵と共に急いで手を拭き、玄関に急いで向かう弥々。

 

 

 「おかえりなさいませ、主さ……ま」

 

 

 ガラガラと横開きに扉を開けて、包み込むような笑みで出迎えた弥々はそこで言葉を失った。

 

 彼女が見たもの、それは――。

 

 

 「戻ったぞ、弥々」

 

 

 玄関の先にいたのはこの家の主、カルナその人で間違いないのだが……ここは敢えて弥々が見て感じたままに伝えさせてもらおう。

 

 腕は天高く顔の真横に掲げられその先、手は地表と並行に向けられながらも指先までピンと神経が張り詰め真っ直ぐに伸ばされてある。

 何故か両立ちではなく片足は身体のどこに触れるでもなく太ももは身体に対して垂直を維持し、不安定な片足でありながらも見事なまでの体幹は一切ぶれることなく直立したまま。

 

 その姿は大空を舞う猛禽類を彷彿とさせるが如し…つまりはそう。

 

 

 それはまさしく、一部界隈で有名な某荒ぶる鷹のポーズに相違なかった。

 




 何故こうなったのか、その原因は同時投稿しているもう一話の方で。
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