施しの英雄    作:◯のような赤子

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すみません、予想外の反響に第五話を書き直し、仕事が忙しく時間がかかりました(毎日残業3時間て…)


それと皆様のおかげで、日間ランキング二位になることができました。本当にありがとうございます!これも全てカルナさんのおかげですね!流石幸運A+!(なお自己申告)


前回のあらすじ

シヴァ
「スーリヤに連絡取れる?」

帝釈天
「…着拒された」

その頃のスーリヤ
「よっしゃぁぁああ!!カルナたんレベルに絆マックス!!待ってろやぐだイベェェエエ!!」※作者はfgoやってません(やる暇がないんです…(泣)



破壊神からの試練

カルナを育てた養父母の下から離れた後、二人は更に山奥へと向かっていた。

 

 

「どこに連れていくつもりだ、インドラよ」

 

「帝釈天だ。まずは住む場所が必要だろうが」

 

 

帝釈天がカルナを保護したのは、何も悪魔や堕天使、他神話からカルナを隠す為だけではない。

 

【あとは任せた】――己に対し、あの馬鹿(スーリヤ)が最後に言った言葉の意味は、まだしかと理解はしていない。が、ともかく娯楽の一つも知らぬ、そして今のこの世界の在り方を理解していない大馬鹿野郎に、帝釈天はまず常識を叩きこむことにしたのだ。

 

 

着いた場所はインドでありながら、まだインドラであった時代から使っていた場所。そこは四方を山に囲まれ、部外者はそうそう入って来ず、カルナを保護すると決めた時から少しづつ用意し、コテージのような建物が建っていた。

 

 

「…オレの知る住居とは、だいぶ違うのだな」

 

「当然だ、お前が死んで何年たってると思ってやがる」

 

 

中に入ると、キョロキョロと辺りを軽く見渡しスゥっと息を吸い込み

 

 

「木々に囲まれているのか…土壁ではない、森の匂いがする」

 

 

ほのかに笑みを浮かべるカルナに、帝釈天が話しかける。

 

 

「おい、荷物は取りあえずここに…って、そういえばお前、荷物それだけ(・・・・)だったな」

 

 

コクリと相槌を打つカルナの手には、一本の棒切れが握られていた。

粗削りながらも、おおよそ長槍と見られるその棒は、カルナが唯一養父母に求めた物だ。

 

彼等が父と母として、まずカルナに求めたものは「何が欲しい?」という問いかけだった。それに対しカルナが返した言葉は「何も」。

 

 

【この身はすでにたくさんの施しを受けている。スーリヤの加護たる我が鎧。そしてあなた方という掛け替えのない両親。これ以上は貰えない】――これに困ったのは養父母だ。『施しの英雄』であるカルナの伝説は知っていたが、まさかここまで無欲だったとは。

 

苦労しながら何とか聞き出し、そしてプレゼントしたのがこの棒だ。クシャトリヤ(戦士階級)として、己が研鑽を積んだ武を忘れず、また彼等を守りきれるようにとカルナが唯一求め、養父が彼が成長しても手に馴染むよう、そして槍としての実用性を兼ねた重さと長さを追求し、夜なべして作成したのだ。今やこの木で出来た何の変哲の無い棒が、カルナにとってスーリヤから授かった黄金の鎧と同意義で、所有する唯一無二の宝となっていた

 

 

「あぁ、これだけで充分だ。それと置くなどできない。父から授かったこの槍はすでに、オレの身体に等しいものだからな」

 

 

グっと握るその箇所は、おおよそ幼い頃から何度も握ってきたのだろう。粗削りとは無縁な、しかし膨大な数の素振りを重ねた証拠である手垢と共に、薄く光を反射し。カルナの手はすでに、齢にして14、5歳でありながら、戦士のそれであった。

 

帝釈天がその棒きれを見て、笑うことはない。戦士がそれを槍と言ったのだ。ならばその矜持を、武を司るこの神が笑うことはない。むしろ帝釈天はサングラスの奥に隠した眼を細め

 

 

(…懐かしい手だ、そうだ。これこそがクシャトリヤ――英雄の手だ)

 

 

別に帝釈天は、今の人間の在り方を否定しているワケではない。ギルガメッシュが神と人とを訣別した時から、いつかこの時が来ることは分かっていた。しかし軍神、天部の1尊であったとしても、やはり懐かしいものは懐かしいのだ。

 

 

「だが今は置け。別に放置しろと言ってるワケじゃねーぞ?やることがまずあるからな」

 

 

 

ごそごそと、何やら部屋の隅に置かれた段ボールを漁る帝釈天に、カルナは僅かに首を傾げ何をしているのかと問いを投げると、彼はニヤリと笑いながら振り向き

 

 

「勉強だよ、勉・強」

 

 

 

 

 

 

 

「―――そうか、オレの下に来た蝙蝠。あれが聖書とやらの悪魔だったのか」

 

 

帝釈天が言った勉強。それは今の時代における各神話の説明であったり、人間界の常識など色々だ。

 

 

「という事は、オレは()のマーラに喧嘩を売ったに等しいのか」

 

「いや、あんな雑魚と覚者ですら悩ませる超級の大悪魔とを比べてやるな…流石に可哀想で何も言えんわ」

 

 

特に教え込んだのは、今現在、世界最大規模の信仰を受ける聖書の陣営、その3大勢力。

そして今の世界において、もっとも価値がある――

 

 

「神器(セイクリッド・ギア)?」

 

「そうだ、聖書の神が死に際に残した聖遺物とでも言おうか。色々とあるぞ?例えば『龍の手(トゥワイス・クリティカル) 』。こいつは所有者の力を二倍から、数倍に高めると言った力がある。割りとポピュラーな神器だな。分かりやすいが、その分所有者次第で、力量が大分変る」

 

 

他にも帝釈天がどのような神器があるかを言うと、カルナは眼を輝かせ、頷きながら聞いていた。元々カルナは戦うことが好きだ。己が極めんと鍛え続けた武の境地、己の中に有る業を解き放てる強者と出会えるかもしれないという期待が、カルナにはあった。

 

 

「もっとも強いのはどれだ?」

 

「『神滅具(ロンギヌス)』だ。今の所13しか確認されておらず、文字通り神すら殺しうると言われてる神器だな。だがそれ以前に、普通の神器でも“バランス・ブレイカー”と呼ばれるものがあって――あん?どうした?やけに嬉しそうじゃねぇか」

 

 

帝釈天が言う通り、今のカルナはとても嬉しそうだった(まぁ、相変わらずの無表情で、雰囲気でしか分からないが)

 

カチャリと身に纏う鎧と、耳飾りを鳴らしながら椅子から立ち上がり、机の横に掛けていた木の槍を持ち、外へ向かおうとしたカルナを、帝釈天が呼び止めようとするが。

 

 

「どこ行くんだよオイ!」

 

「修行だ。クシャトリヤとして、そしていつか出会おうであろう、今生における我が好敵手の為に…オレは更に強くならねば」

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

木々の隙間、コテージの目の前に広がる盆地。

 

普段なら、立ち寄った者を風のせせらぎが癒しを与えてくれる空間が、この時ばかりは違っていた。

 

 

手にした木の槍を、カルナはゆっくりとした動作で振るう。

 

 

「――ふぅ…ッ!」

 

 

それはまるで初めて歩く赤子の如く。亀ですら追い抜きそうな速度で、一つ一つの動作を確認するように。しかし本来なら、どこかぎこちない動きになるであろう速度でありながら、その動作はまるで流れる流水のようであった。

 

 

「スゥ、……ふっ!!」

 

 

次第に動きが激しくなる。先程とは違い、息を短く吸い、吐いた後、流水のようであった動きはまるで、嵐が過ぎ去った後のような激流を思わせるそれへと変貌していく

 

 

まるで獣。その眼は確かにこの場にいないハズの誰かを思い描き、その急所の一つ一つに必殺を持って応戦していると、演武を眺める帝釈天ともう一人(・・・・)には見えた。

 

 

「…で、何でテメェがここにいんだよ―――シヴァ」

 

 

シヴァ――と、帝釈天が呼ぶ少年。見た目は今のカルナとそう変わらない14、5歳に見え、美しく輝く黒髪を、そよ風に靡かせている。

 

 

「良いじゃないか。僕は確かにカルナを君が引き取ることは了承したけど、会いに行かないとも、見に来ないとも言っていない。確かに君とあいまみえたらと約束はしたけど…ここは戦場ではないだろう?」

 

 

にこりと子供のように笑いながら、シヴァは再びこちらに気づかず槍を振るうカルナを見る。

 

 

「誰かな相手は…君の息子かな?」

 

「いや違う。あれはジャラーザンダだな」

 

 

かつてカルナが戦い、制した相手ジャラーザンダ。

その身を別々の母から、肉体の全てを半分に別って生まれたマカダ王国に生まれた王。気味悪がった母親達から捨てられ、その後、羅刹(ラークシャサ)の女に育てられた彼は、その身を三度引き裂かれてもなお死なず、剛の者にして賢君としてマカダ王国に君臨した。

 

『マハーバーラタ』において、そんな彼を御したのがカルナだ。友ドゥルヨーダナの命で不死身として恐れられた彼を、たったの一合で負けを認めさせた。

 

 

「お前は知らないだろうが、アイツも確かな強者だった。いきなり己が宿敵クラスを相手とするでなく、徐々に慣らしていく所から始めるとは…マジメだねぇ…」

 

 

良く見れば、その相手は確かに二人にも見える。元々ジャザーランダは別々の母から肉体を二つに分かれて生まれた者だ。あの時は一合で負けを認めたが、もしそれが無く、またその身が二つになるという状況を想定し、カルナは槍を振るう。

 

そこから帝釈天とシヴァは何を言うでもなく、カルナの演武を見つめていた。するとポツリとシヴァが呟く。

 

 

「…これは良い、酒が飲みたい」

 

 

演武とは本来、神々に捧げる供物でもある。そしてカルナのそれは、父である太陽神・スーリヤに捧げられ、また近くで眺めるこの二柱にも、それは確かに届いていた。

 

純粋な闘気を込め、その白すぎる肌に汗を浮かべ明確な意志を持って前へ突き出す。無駄の無い動作で、一撃一撃が敵を倒すと告げていた。

 

 

「あれ、そう言えば弓は?」

 

 

シヴァがカルナの演武を見ていて、その疑問を抱くのはもっともだ。

クシャトリヤとは本来戦車を駆り、車上より穿つ弓矢で敵を討つことこそが本懐だ。しかしカルナが弓を出すような動作をすることは無く、ただひたすらに槍だけを振るっていた。

 

 

「インドラ、これはどういうことだい?カルナには、僕がパラシュラーマに授けた“ヴィジャヤ”があるハズだ。何故使おうとしない?」

 

 

“ヴィジャヤ”。それは古代インドにおいて、シヴァが弟子であったヴィシュヌ第6の化身パラシュラーマに授けた弓。担い手を勝利へと導き、またその弓を持つ者は、どんな傷を負う事もなく、またその弦は何をしても切れることがない。インド三大弓と称される宝具の一つ。

 

クルクシェートラの戦い、その17日目にカルナがそのヴィジャヤを取り出し戦場へ赴いた。その姿を見たパラシュラーマと同じヴィシュヌ第8の化身クリシュナは、同じ母から生まれた異父兄弟アルジュナに、「二人でもってしても、勝てない」と告げたそうな。三界ですら制することができる――それこそが弓を持ったカルナ本来の姿のはず、なのに…。

 

 

どこか呆れたような姿を見せる帝釈天は、やる気の無い顔をシヴァに見せたまま教える。

 

 

 

「あの弓なら、あの大馬鹿が養父母に渡した」

 

 

「へ…?はぁ!?」

 

「あー、分かるぞその気持ち。お前と同じなんて吐きそうだが、まぁしょうがないな」

 

「いや、だって…あれ僕が作るのにどれだけかかったと!?それに普通の人間に、正真正銘神々の宝物を渡すなんて…ッ!?」

 

「アイツ曰く、【オレにはすでに、この鎧(日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ))がある。ならば持ち主を守るこの弓は、父と母にこそ必要だ】なんだと」

 

 

空いた口が塞がらないとはこのことだろうか、現在の姿、子供のように大口を開けて呆れるシヴァに、帝釈天はフンと鼻を鳴らし教える。

あの槍は今生の養父が手ずから製作し、カルナに与えた物であると。どうやらカルナは養父から授けられたこの槍を、極めんとしているらしい。

 

 

「それに、弓なら問題ない。変わりのモンならもう持ってる」

 

 

その言葉と共に、帝釈天は安楽椅子に掛けたまま、いつの間にか握っていた剣をカルナへと投げる。

 

 

「――ッ!(アグニ)よ!!」

 

 

カルナがそれに反応し、弓をつがえるような動作をしたと思いきや、その手には炎が宿り、飛来してきた剣を燃やし溶かす。

 

 

「我が父に捧げる演武を邪魔するか、インドラよ。それとも何か、お前がオレの相手をしてくれると?」

 

「誰がンなメンドクセェ事を。夢中になりすぎだ、いい加減気付け」

 

 

その言葉に、ようやくカルナはこの場に招かれざる客がいたことに気づき、僅かに目を見開く。

 

 

「成程、確かにお前の言う通りだ。貴方の存在に気付けなかった事を、心から謝罪しよう…破壊神シヴァよ」

 

「いや、良いものを久しぶりに見せてもらった。だからその謝罪は必要ないよ?太陽神・スーリヤの子、施しの聖者カルナよ」

 

「おいテメェ、何でこの野郎には敬称つけて、俺様には無ぇんだよ!?」

 

「お前に敬称を付ける意味が理解できない。それにシヴァ神は、我が師であったパラシュラーマの師。つまりオレはこの方にとっての孫弟子だ。それにお前という神のことは、良く知っているつもりだ。それを踏まえ、付ける必要がないと理解した」

 

「あはは!君はホントに言葉を飾らないんだね」

 

 

青筋を立てながらカルナに近づく帝釈天とは反対に、シヴァは心底面白いと言った風に、カラカラと子供のように笑うだけだ。

 

 

「ヴィジャヤの事は聞いたよ?まったく、アレを君にあげたパラシュラーマもそうだけど、君も君だ」

 

「本来の持ち主であった貴方には、悪いと思っている。しかしオレ以上に父と母には必要だった、それだけだ。が、謝罪を求めると言うのなら、好きなだけ求めるがいい」

 

 

このインドにおいて、三大弓と称されるヴィジャヤ――あれを無償で誰かに授けるなど、果たしてこの聖者の他に誰ができようか。

 

眩しい…古代より様々な英雄を見、その失墜、栄華の極みの全てを視て来たシヴァをもってしても、カルナの施しの精神はあまりにも尊く感じられた。ゆえに思う。

 

 

面白い(・・・)――】

 

 

ゾワリと、帝釈天に何故か軽い寒気が襲う。咄嗟にシヴァの顔を見ると、そこには少年のような笑みはなく、残虐で容赦の無い、破壊神としての顔が張り付いていた。

 

止めろと口に出そうとするがもう遅い。

施しの英雄は施しを求め、神はその求めに応えた。

 

 

突如シヴァがカルナの眼を覗き、頬に手を添えられたカルナは微動だにせず、シヴァを見つめ返す。

 

 

「…へぇ、パラシュラーマの呪いは健在か」

 

 

シヴァが瞳を見つめたのは、その奥にある魂を覗き見ようとしたからだ。そこで彼は、今だにかつての弟子パラシュラーマがカルナにかけた呪い。『自らより格上の相手、もしくは絶体絶命に陥った時、授けた奥義を忘れる』というものが健在であると知り

 

 

「どうやらそのようらしい。だが彼を騙してまで奥義を授かろうとした、オレこそが罪人だ。ならばこれは、オレが負うべき咎だ」

 

「ダメ、それじゃあ僕が楽しめない(・・・・・)。君は仮にも僕の孫弟子で、僕は君の大師父だ。なら君には僕を楽しませる義務があると思わない?」

 

 

どんな理屈だと帝釈天が噛み付くが、二人がそれを気にすることはなく、すでに契約は交わされた。

 

 

「成程、確かに一理ある。ならばシヴァよ、オレは何をすればいい?」

 

「君には試練を与えよう。もし、乗り越えることができれば、パラシュラーマがかけた呪いだけじゃない、君にかけられた数々の呪いを僕が破壊しよう」

 

「是非も無い。だがオレからも条件がある」

 

「良いよ、言ってごらん」

 

「我が父と母に、貴方の加護を授けてほしい。彼等は普通の人であり、これより先、あの悪魔のようにオレを手にいれんと父と母を利用する者がいるかもしれない」

 

「それくらいお安いごようさ。君を“カルナ(英雄)”としてではなく、“カルナ(愛し子)”として育んでくれた彼等には、僕も感謝してるからね」

 

 

カルナは抑揚のない声で「感謝する」と伝えたが、最高神クラス3柱による加護など…あの地はいったいこれからどんな人外魔境へと変貌していくことだろうか

 

これは後の話になるが、確かにカルナが言ったように、悪魔の一部が彼を利用せんと養父母の下へ行き、彼等を攫おうとしたのだが……近づいたとたん、殺人光線と化した太陽光が空から降り、また嵐が吹き荒れどう見ても自分達が知る“滅びの魔力”とか目じゃねぇと破壊の権能吹き荒ぶ光景が広がったとかなんとか。

 

 

「では神託を告げるがいい。オレはどんな試練であっても、必ず乗り越えるとスーリヤの名に誓おう」

 

 

笑いながら、スっと指を向ける先。そこは遥か遠く、帝釈天がトップとして立つ須弥山を差していると何故か帝釈天には分かり、同時に冷や汗が止まらない。

 

 

「施しの英雄カルナよ。この先にいる相手、西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)という称号を持つ五大竜王が一匹、玉龍(ウーロン)――

 

 

 

 

 

――の傍にいるであろう、歳くった猿を倒した証を僕に持って来てくれるかい?」

 

 




帝釈天
「……(;゚Д゚)ハァ?」

シヴァ
「使えるものは使う。悲しいけどこれ、戦争なんだよね」



時間軸的にはまだ原作始まってないです

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