施しの英雄    作:◯のような赤子

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皆様方のおかげで、マハーバーラタやカルナさんに関する事がだいぶ分かってきました(これからもお手数おかけしますが、どうかよろしくお願いします)


それとここ数日、感想欄がほとんど初代を心配する声ばかり(汗

どうしてなんだ!?何故誰も初代が勝つとは思わない!?
あの初代なんですよ!?あの序盤、イッセー達が何とか勝てた英雄派(笑)を子供の手を捻るより簡単に倒しまくったあの初代!D×D総出でようやく勝てると言われた西遊記チームの主戦力であろうあの初代!どこからどう見ても帝釈天の使いっパシリにされているあの初代!!

作者は信じてます!初代の雄姿を!あの初代ならば、カルナさんに勝てるとそう信じ、この言葉を贈ります!!











初代ダイーン!!



技 対 義

飛翔する一つの流星。本来なら落ちて大地を穿ち、穴を空けるそれは落ちることなく大空を舞う。

 

 

「…成程、確かに便利だ」

 

 

飛行機雲を描いているのはカルナだ。

 

徒歩で行けばいいのかと聞いた際、シヴァから提案された“魔力放出(炎)”を用い、現在須弥山を目指していた。

 

 

(シヴァは猿と表していたな…という事はヴァナラ(猿族)…ハヌマーン神の眷属か?)

 

 

そう心の中で呟くカルナの手の中に、養父から授かった木槍は無く、帝釈天が前世において授けた“インドラの槍”が握られていた。

 

 

【――私にはこれくらいしかできず申し訳ない】

 

 

そう呟きながら、目元に隈を作り力無く笑う養父に首を振り、カルナは誓った。「この槍に誓い、今生はこれ(槍術)を極めよう」と。

 

無論カルナはかつて槍においてもその名を轟かせた。だがそれでは駄目だと彼は感じた。それではこの父が作ってくれた槍に見合わぬと――。しかし今握るのは“インドラの槍”、これは何故か?

 

カルナは理解しているのだ。物とは使い続ければ、いつか壊れるものだと。だが壊れるべき時に壊れるのと、壊れるべきではない時に、無意味に壊すのでは意味が違う。ハヌマーンの眷属であれば、養父には悪いが彼の作った槍では戦いに耐えられない。ゆえに神属には神槍をと持ち出した。それでも――。

 

 

「いつか必ず、我が好敵手と認めた相手には、父の槍を…」

 

 

心の中で今一度呟き、カルナは更に速度を上げる――。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

「で?何が目的だシヴァ」

 

 

カルナが飛び立った直後、二人は相対し、帝釈天の手にはヴァジュラ(金剛杵)。シヴァの手にはトリシューラ(三又の槍)が握られ、その場はもはや人や獣では息絶えてしまうほどに濃密な殺気が溢れている…のだが――。

 

 

「あはは!止めなよインドラ、そんな虚仮脅しの殺気なんて。くすぐったくて、たまんないよ」

 

 

トリシューラを一回転し肩にかけ、シヴァは戦意が無い事をアピールし。帝釈天もまた、ヴァジュラを空気に紛れさせるように掻き消す。

 

先程のはシヴァが口にしたように、ただの虚仮脅し(・・・・)だ。元より各神話がドン引きするインド神話。そこで派生した彼等にとって、他の者では耐えられない殺意の嵐など挨拶に過ぎない。

何より彼等は、このような場所での戦など望んでいない。戦いを司る神と、破壊の神。その時はまだだと理解しているのだ。

 

 

「チッ、つまんねぇ…。アザゼルなんかこの程度で顔を青くして、何かブツブツ呟き始めんのに。これだから元同郷はやりづれぇ」

 

「雑魚と同じにしないでくれる?確かにアザゼルは面白いし気に入ってるけど、前衛じゃなく後衛向けだしね、彼」

 

 

殺意が晴れ、森のせせらぎが戻ってくる中、帝釈天は頭を掻き。

 

 

「…俺が斉天の猿に(けしか)ける予定だったんだ。…それを先取りしやがって」

 

 

そう、元々は帝釈天も同じことを考えていた。ただ早いか遅いか、それだけ。

 

 

ガタリと帝釈天は乱暴に安楽椅子に腰かけ、シヴァは対面となる手摺りに座る。

 

 

「…どうなるかな。ねぇ、どっち(・・・)が勝つと思う?」

 

「ハッ、語るまでもねぇ」

 

 

プシュっと持ち込んでいた缶ビールのプルタブを開け、もう一つをシヴァに投げつけ。

 

 

「カルナだ。俺の息子でも本来勝てなかった、あの馬鹿から生まれた大馬鹿野郎だぞ?」

 

 

“斉天大聖 孫 悟空”

 

釈迦如来にすら喧嘩を売り、ついには花果山に封印され、玄奘三蔵の天竺を目指す旅に共付いた【西遊記】に語られる大妖怪。今は須弥山所属となり、長年生き、氣を操ることに関してはこの神仏修羅溢れる世界においても右に出る者はいない、帝釈天の使いとも言える右腕に等しい存在。…だが、それでも帝釈天は断言する。「勝つのはカルナ」だと。

 

“混世魔王”から“牛魔王”。唐であった時代の中国。今の時代においても恐怖の象徴として語り継がれる彼等に時には負け、しかし乗り越えついには到達した偉業を持つ初代。永きに渡る時の中、老いてはいるがその研鑽は一種の極致と言えよう。それでも――。

 

 

「うん、だから僕も倒した証(・・・・)を持ってこいとは言ったけど、殺せ(・・)とも再起不能(・・・・)にしろとも言ってない」

 

「だから見逃したんだよ、言ってたら俺様が止めてる。…あれは天才だ、そもそもあのクシャトリヤ嫌いで有名なパラシュラーマが認めた時点でおかしいんだ」

 

 

グビリと喉を鳴らし飲む帝釈天が呟いた言葉、それが全てだ。

 

 

全てのクシャトリヤ(戦士階級)を滅ぼすと誓い、そして本当に滅ぼした最強のバラモン(僧侶)パラシュラーマ。カルナに【己より強い者と相対し、絶体絶命に陥った際、奥義を忘れる】という呪いをかけた張本人は、しかしその直後、カルナに告げた言葉がこれである。

 

 

【だが、お前より強い者などそういまい】

 

 

「あー、そういえばそんな事言ってたね。パラシュラーマ今どこいるのかなぁ…目の前のグラサンかけたクソ坊主頭殺してくれないかな」

 

「若作りした下手すれば俺様より上のお前には言われたくねぇ。てかヤメロ。アイツは駄目ゼッタイ」

 

「分かってるよ。あんな戦士絶対殺すマンとか連れて来れるワケないじゃないか。師匠の僕でも下手すれば制御不能なバーサーカーなのに…そもそも今何処にいるかも分からないんだよ?もしかしたら、別の世界にでも行って戦士という名の存在全てを狩り尽くしてるかもね」

 

「Hahaha!!ンなワケねぇだろぉ?」

 

「あはは!だよねー」

 

「Hahahaha!!!」 「あはははは!!」

 

 

そのままどのくらいでカルナが戻って来るかの賭け事を始める二人。インドは今日も、良い天気であった。

 

 

 

 

~~???~~

 

「――バラモンン!!ズズ…噂か?一体どこのクシャトリヤが…まぁいい。次は…X×X

か、待っていろクシャトリヤよ!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

“須弥山”

そこは七つの金山と鉄囲山と八つの海に囲まれ、その忉利には帝釈天が住まう善見城がある。――その手前に五大竜王が一匹、西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)玉龍(ウーロン)と斉天大聖(以降は“初代”と明記する)が駄弁っていた。

 

 

『なぁ、猿ぅ…オイラ暇なんだけど』

 

「良い事じゃねぇか。お日様浴びてこうして呆けて、こういうのを幸せな一時ってぇんだよ。分かんねぇかなぁ…これだから若いのは」

 

『オイラ達ほぼ同い年だろう!?河童と豚は中々会いに来ないし、お師さんは…人間だよな?』

 

「仏だよ今は。まったく、俺ッチの子孫みたいな事言いやがって」

 

 

今はここにいない…正確には、あまりの修行の辛さに逃げ出した腰抜けの猿野郎を思い出し、煙管の煙をプカプカと吹かす初代。

 

 

『美猴、今何してんだろうなぁ…』

 

「なぁに、何でもいいさ。生きてようが死んでようが。ようはテメェのケツをしっかり拭けてりゃそれで充分…――ッ!?玉龍(ウーロン)!!」

 

 

突如初代が身を翻し、玉龍へと駆け出す。その顔には帝釈天と同じように、だがデザインが違うサイバーなイメージのサングラスをかけており、表情は伺えないが大量の汗を搔いて非常に焦っていることが分かる。

 

しかし玉龍は何も感じていないようで、のほほんとした声と顔を向けるかつて玄奘三蔵の馬として活躍した彼を、初代は思いっきり伸ばした棍で殴りつける。

 

 

『どうした~?ついにボケt――うわらば!!?』

 

「馬鹿野郎!!今すぐ逃げろ!!早く!!」

 

 

そのまま頭に乗り、角を引っ張り無理やり方向を定め、そちらに全速力で向かわせる――その刹那――

 

 

 

――太陽が落ちて来た(・・・・・・・・)

 

 

 

凄まじい爆炎が広がり、木々は瞬時に消し炭となる。肺は人であれば空気を吸った瞬間燃え尽きる程の劫火が広がり、辺り一帯を灼熱地獄へと塗り替えていく。

 

 

『な……何だ!?』

 

 

互いに人ですらない身。玉龍は何事かと驚き、初代はその表情を固定したまま、爆心地の中心を見据え。

 

 

「…太陽が落ちて来やがった……おい玉龍、今すぐ悟浄と八戒を連れて来い」

 

『はぁ!?猿、お前一体何を…』

 

「早くしろい!!俺が……死ぬ前に!!」

 

 

棍を構え、傍にはすでに代名詞とも呼べる金遁雲が控えており、身体には氣を巡らせている。その姿はどこからどう見ても、全力での戦闘を行う準備が出来た斉天大聖――伝説の大妖怪がそこにはいた。

 

 

「――まさか避けるとは思わなかったぞ。いや、流石はヴァナラ(猿族)と讃えるべきなのだろうか」

 

 

玉龍は耳を疑う。それもそうだろう。何故なら生き物が生きていられない地獄が顕現した中心部から、声が聴こえてきたのだ。

 

クレーターの奥から具足を鳴らし、白髪の黄金輝く幽鬼。手には背丈を超える長槍が握られており、その身は今の時代、神々と比肩する程の魔力と神気を纏い、こちらを静かな瞳で見つめていた。

 

 

『…おいおいおい、猿。アレはヤベェぞ…ッ!?』

 

「だからアイツ等を呼べっつってんだよボケ。あと期待はしてないが、ボスも探して来い。須弥山が落ちるぞってなぁ!」

 

 

言葉と共に、初代は縮地――僅かに本物に届いていないものを用いてこちらを見つめる幽鬼のような少年に一瞬で駆け寄り、棍を振りおろす。

 

玉龍がそれを見ることは無い。すでに彼は初代に言われた通り、その身を空へやり、彼等の仲間を呼びにいったのだ。

 

少年は突然目の前に現れた初代の攻撃に、当たり前のように槍で防いで見せる。

 

ギチギチと鍔迫り合いをしながら、初代はその表情を凶暴に変え、幽鬼――カルナに話しかける。

 

 

「おうおうおう、どうしたんでぇ。お前さんなら撃ち落とせると思うんだがねぃ」

 

「オレが言われたのは、龍の傍にいるであろう猿を倒した証を持って来いということだけだ。何よりオレは何人相手でも、別に構わんぞ?」

 

「ハッ!!ほざけぇ!!」

 

 

キンっと鍔迫り合いを終え、瞬間再び金属音と衝撃が、辺りを更に破壊する。

 

一合、二合。いや、刹那の間に交わされた攻防の数々は、もはや数えることすら馬鹿馬鹿しい。

 

 

「伸びよ!棍!!」

 

 

一端距離を取り、初代は棍をカルナに向け、瞬時に棍は持ち手に意を汲みカルナに襲い掛かる。が、カルナもまた、それを一瞬で見やるやいなや、頭目掛けて飛来する棍を首を僅かに動かすだけで回避する。

 

 

「チィ、これでも駄目だってか!」

 

「確かに驚いた。が、それだけだ。しかしこれ程の棒術の使い手と会いまみえようとは…シヴァも良い試練を与えてくれた」

 

 

“シヴァ”――その名を聞き、初代は

 

(シヴァだと…!?てぇ事は、この坊主はインド神話の鉄砲玉かい!!)

 

 

しかし解せない。これ程の攻防、これほどの破壊力を持ちながら、初代はこの男の正体が掴めないでいた。まぁそれもしょうがない。まさかインド神話が誇る大英雄が転生したと思いつけという方が無茶な話だ。

 

 

パチパチと、辺りが燃える音が響き、二人はこの時、ようやくしかと互いの姿を見やり――。

 

 

「老人…いや、老猿よ。お前の名を聞きたい」

 

「へっ、若ぇの。まずはお前さんから名乗るのが筋ってモンだぜぃ?名乗れやガキ、戦の作法はまずそれからだろう?」

 

 

槍を下し、そう聞いて来るカルナに対し、初代がその手に持つ棍を下すことも、構えを解く様子も一切無い。この時点で、両者の実力の開きが見て取れた。

 

 

「たしかにそうだ。今生において、オレは挑戦者であり、お前はそれを迎え撃つのだからな」

 

「今生…?何言ってんだい、おめぇさん…」

 

「知る必要は無い。今お前が欲するのはオレの名であり、オレが欲するのもまた、お前の名だ。では名乗ろう――我が名はカルナ。父に太陽神・スーリヤを持ち、今生において、養父母から授けられた名もまたカルナだ」

 

 

先程まで詰めていた初代の雰囲気が、僅かに揺らぐ。

 

 

「カルナ…だと?馬鹿馬鹿しい、俺が生まれる遥か大昔に活躍した大英雄だぞ!?あれか?もしかして最近流行りの、魂だけ受け継いだ別人だろい?お前」

 

「流行りかどうかは知らん。山の中で育ったのでな、都会のソレには疎い」

 

 

だが――と、カルナはこの時、初めて構えを見せ。

 

 

「このオレが本物か偽物か…それはこれより、この武を持って示そう…ッ!!」

 

 

ゴウッ!!と再びカルナを中心に、爆炎が広がる。それはまるで、決して初代を逃がさないというように彼等を囲い、その眼は一時も初代を捉えて離さない。

 

 

(これは…本格的にヤベェな…)

 

「次はお前だ。戦の作法に則り、名乗りを上げるがいい」

 

「…斉天大聖 孫 悟空」

 

 

短く返し、再び力強く棍を握りしめる初代。

 

 

「斉天大聖 孫 悟空か、良い名だ。自ら大聖を名乗るその気負い、オレにはとても真似できない。今生において、初めて死合うのがお前で良かった」

 

「それは…馬鹿にしてんのか?」

 

「まさか、そのままの意味に決まっているだろう?さて、作法は終わり、これより先は戦を始めようと思うが…どうだ?」

 

 

ズズズっと大気がカルナを中心に、膨大な魔力が渦を形成し、焔となる。

 

 

(ここが決め時か…)

 

 

初代はサングラスに隠された瞳を閉じ、思いを馳せる。

 

 

生まれて幾星霜。若かりし頃はヤンチャもした。師と呼べる男と旅をし、かけがえのない、今なお続く腐れ縁もできた。

 

子を成し、それは今も続き才のある子孫を持つ事もできた…ならば思い残す事など――

 

 

「…カッ、呵呵呵!!何を弱気になってるんでぃ!!」

 

 

否、断じて否!まだ己は生を楽しみきっていない、まだまだあの逃げ出した馬鹿弟子に伝えきれていない事など多々ある。何よりッ!!

 

 

(こんな楽しい喧嘩を、こうも簡単に終わらせていいものか!!)

 

 

己が磨いた武が通じない。それは当の本人である初代が一番分かっていた。達人はたったの一合手合わせしただけで、相手との差が分かるというが、まさにそれだ。――己では、この目の前の小僧に勝てない……だからどうした(・・・・・・・)

 

 

「おうおうおう!!目と耳があるなら、引ん剝いて聞きやがれ!!おっと、口は閉じておいてくれよ?それはオイラ(・・・)の仕事だからなぁ!!」

 

 

棍を頭上で回し、見得を切る初代。その姿をカルナは邪魔することなく、静かに見つめ返す。

 

 

「聞け!我こそは天を征し、大聖と己を定めた大妖怪!!西遊記に残されし我が武勇、我が誉れ!!斉天大聖 孫 悟空とはオイラの事だぁ!!」

 

 

続けて初代はサングラスの間から、凄まじい闘気を纏った眼を向け。

 

 

「さぁ!!喧嘩だ喧嘩!!お前がカルナだろうが、どうでもいい!!楽しい喧嘩をしようぜぃ?」

 

 

棍を向ける。これより先、言葉は無粋。しかし最後まで言わせてくれた礼だと、初代もまたカルナの言葉を待つ。

 

 

「――感謝しよう。この出会い、この一時に。あいにくと、オレにはお前のような異名は無い。人はオレを施しの英雄と言うらしいが…この場では、敢えてこう名乗らせてもらおう…クシャトリヤの誇りにかけ、スーリヤの子カルナ――

 

 

 

推して参る!!」  「来いやぁ!!」

 

 

 

先陣は初代が取った。毛を媒介とした分身を多数生み出し、まずはカルナの動きを封じにかかる。その数はおよそ20。上下左右、様々な場所からカルナに襲い掛かる。

 

 

一体目の分身は、棍を突き出しその胸元に赤く光る宝石目掛け突き出す――が、カルナはそれをインドラの槍で弾き、石突きで逆に突き、そのまま返す刀で後ろに迫っていたもう一匹の分身を壊しにかかる。

 

槍を振るい、時には穂先で射し、また時には分身の一つを槍で捉え、そのまま別の分身へとぶつける。まるで嵐のように、だがその動きは水面のように静かであり、カルナは今一瞬の攻防の間、ただの一歩も動かず全てを捌ききっていた。

 

 

「「「まだまだぁ!!」」」

 

 

が、更に分身が追加され、雨の如き止まない攻撃が再び開始される。

 

 

(…中々に厄介だ。成程、己の一部を媒介としたこの分身は、気配も本体と変わらぬか)

 

 

カルナは何も、ただ成すがままにされていたワケではない。

 

本体が紛れ、好機を狙っているのではと、この刹那に命を落とすであろう攻防の間でも、分身だけでなく、また本体を探すことを止めてはいなかった。何より――。

 

 

「楽しい…な」

 

 

ポツリと呟かれたその言葉、それが今のカルナの心の全てだ。

生まれて十数年、かつて師や好敵手達と磨き続けた己が技量。しかし今生では相手に恵まれず、一人槍を振るう毎日だった。一度だけ、悪魔が来たが…あれでは物足りない…。

 

だからこそ、カルナはこの瞬間を楽しんでいた。相手は多数、更にはまだ奥の手を隠しているであろう、誇りを携えた戦士。

 

 

(ならばこちらから、その奥の手を晒さしてみせよう…!)

 

「見事だ、斉天大聖よ。これ程の研鑽…積み上げたお前の歴史を今、この身で感じている所だ」

 

「へっ!ナメンじゃねぇよ!!」 「そもそもだ、言葉はもはや無粋と断じたハズ」 「オメェさんも気づいてんだろう?なら、そちらから出してみろよ」

 

 

異口同音。分身達が次々と吼えるが、そのどれもが同じことを語る。『やれるモンならやってみろや』と。

 

 

「ではそうしよう。まずは邪魔なこれ等からだ……(アグニ)よ!!」

 

 

カルナから発生した焔がリング状に広がり、炭と化した木々を灰という過程すら起きる事を許さず燃やし尽くす。それは近くでカルナを取り囲んでいた、初代の分身達も同じだ。だが――。

 

 

(この瞬間を待っていた!!)

 

 

どんな強者にも、必ずある僅かな油断の瞬間…それは大技を出し終えた後。

 

初代は分身を出し終えた後、それに紛れ一端退却。姿を自然に紛れ込ませ、ただひたすら氣を練っていた。

 

 

鋼気功を纏い、そのほとんどを右手に集め、金遁雲という、古くから頼りにし続けた相棒にその身を任せ――駆ける。

 

 

炎が身を焦がす。が、鋼気功を用い痛覚を誤魔化し駆け続ける。服が燃え堕ち脚絆のみとなり身体を包む毛もまた酷い匂いと共に焼け、皮膚が爛れていくのが分かる。カルナの前に突如現れたのは、火に包まれた初代。金遁雲はすでに燃え尽き、しかし今だ何とかかけられたサングラス、割れたそこから覗く眼は、酷くギラついていた。この様をもし、美猴が見たなら驚いただろう。

これほどまでに追い詰められた己が祖先。技術のみで駆け上がって来た男が見せる獣性――だがここにいるのは永き時の中で徐々に摩耗していった、弟子を育てる喜びを知った初代ではない。

 

“斉天大聖”――遥かな昔、釈迦にすら喧嘩を売った大馬鹿野郎。生きながらえるよりも、刹那の一時を愉しむ若かりし頃の孫 悟空がそこにはいた。

 

 

流石のカルナも、まさか(アグニ)に包まれながら特攻してくるとは思わず、気付けば神珍鉄で出来た棍がその特性を活かし形を変え、カルナの身体に纏わりつき。

 

 

「届けぇぇぇええあああああ!!!」

 

 

練った氣の殆どを使った掌底が、カルナの鎧を通り抜け、ついに彼の身体を捉えた。

 

 

「ッゥ!?――ごほッ」

 

 

眼を見開き、身体をくの字に曲げるカルナを見て、初代の心に勝利の二文字が浮かぶ。事実初代の顔には、すでに笑みが浮かんでいた。それほどまでに完璧に決まった一撃だった。

 

しかしその身はとても勝者とは思えぬ程にボロボロだ。火傷していない箇所は無く、酷い所は骨まで炭と化していた。痛みを誤魔化す余裕も無く、一瞬のうちに気絶と覚醒を繰り返しながらも、初代は変わらず笑みを浮かべる。

 

 

(へへ…嗚呼、そうだ…オイラがあの馬鹿を育てようと思ったのは…こんな燃える喧嘩がしたかったからだ…)

 

 

満足した。だが同時にまだやり残した事があったと思い出した。

 

帰ったら、まずはあのケツの青い若造を探し出そうと初代が心の中で、そう決意を決める――のだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――見事な一撃だ。謝ろう、斉天大聖。オレはまだどこかで、貴方の事を侮っていたらしい」

 

 

聴こえぬハズの声が、目の前から聞こえてくる。

 

 

「カ、カカ…だよなぁ(・・・・)…」

 

 

分かっていた(・・・・・・)。確かに当てた最後の一撃。だが掌に伝わった感触は、まるでその身に纏う鎧に全てを吸収されるような感覚がしていたのだ。

 

カルナの皮膚と同化している鎧、【日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)】。攻撃であれば、その概念ですら十分の一にまで威力を下げるインド叙事詩『マハーバーラタ』が誇る、施しの英雄カルナのみに許された最硬宝具。練られた氣、“鎧通し”によって直接叩きこまれた内臓も、すでに完治していた。

 

 

 

ここに勝敗は決した。

 

 

 

今、カルナが手にしているのは“インドラの槍”…ではない。養父が作り授けた木槍が握られ――。

 

 

「オレが持つ中で、最高の武具だ。どうかこれを手向けとして受け取ってほしい」

 

 

好敵手ではない。しかしこの男には、最高の一撃を持って組するに値するとカルナは認め、ゆえに木槍を持つ。

 

 

馬鹿にしているのか?この男は最後まで、己を辱めるのかと初代は喉すら焼けた声帯で、そう吼えようとし…止めた。

余りにその眼が本音だと告げていたから。その手に握られた粗末な槍を、この男は本気で誇りに思い、手向けとしようとしていると理解したから――。

 

 

もう身体に力は入らず、赤々と燃え続ける大地も気にせず初代は座り、震える手で煙管を取り出し、焼け枯れた喉から声を絞り出す。

 

 

「…へ、へへ。最後の゛一服だ…ちぃっとばかし、待ってぐれ゛ても良い゛だろい?」

 

「良いだろう。存分に堪能するが良い」

 

 

火元などもはや要らない。煙草を詰め、一吸いすれば火が灯り――。

 

 

 

――プッ。

 

 

息を吐き出し、燃える煙草がカルナの顔に僅かな、だが瞬時に治る程度の火傷を負わせ。

 

 

「バァカ…オ゛イ゛ラ゛の゛…勝ちだぁ…」

 

 

その様はまるで、イタズラが成功した悪ガキのようだった。

 

カルナは数瞬眼を閉じ、開く。

 

 

「――見事」

 

 

掲げた木槍を、その剛腕を持って振り下ろす。初代は眼を瞑ったまま笑い続け、最後を静かに受け入れる。

 

 

轟音が辺りに鳴り響き、土煙が晴れるとそこにはカルナだけが口を真一文字にしたまま佇んでいた。その傍には、罅が多数入った煙管――。

 

 

 

 

どちらが勝者か…それはこの二人のみが知る。

 




アザゼル先生が好きな方には申し訳ありませんでした(作者も先生大好きです)


アーチャーなカルナさんや、ライダーなカルナさんを期待した方々には悪いですが
やはりカルナさんはランサー(ランチャー}が良いと、こうなりました。(弓は時々使います。無論、ランチャーの由縁も)




次回 『初代死す』 デュエルスタンバイ!(すでに終了している模様)

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