施しの英雄   作:◯のような赤子

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待ってくれていた方がいるか分かりませんが、お待たせしてすみません(汗

(評価とお気に入りの数々の期待に応えようとした結果がこれだよ!!本当にありがとうございます!)

それとこの場を借りて、感想を中々返せなかったことを謝罪します。
全部目を通して、書く為の燃料となっているのでこれからもよろしくお願いします。

これからも遅い更新となりそうですが、どうかお付き合いいただけると幸いです



戦士の約定

――酒が進む。とにかく酒が進む。

 

次から次へと缶やビンが二柱の足下に無造作に転がり、手が次の酒を求めて止まない。それはこの美しい景色の合間に聴こえる木々が風に煽られ、川のせせらぎに鳥のさえずりが木霊する自然が奏でるオーケストラに酔いしれている――からではない。

 

 

「…最高だ」

 

 

帝釈天が手に持った缶を掲げ、己が居城である須弥山へと伸ばしながらニヤリと笑う。

 

二人が()にしているもの。それはカルナと初代が織りなす闘争の気配。

 

かつてならば当たり前に行われていた、神々に捧げるに値する戦いは、この時代ではそうそう無い。それと比べ、今須弥山の麓で繰り広げられているこの讃美歌に等しい奏で合いの素晴らしき事。

 

 

「だからこそ悪いんだよ(・・・・・)。これじゃあ中途半端だ。斉天のお猿さんも、だいぶ鈍ってたんだねぇ」

 

 

本来ならば、この戦いと破壊を司る二柱が戦いを前に、酒を飲むことなどない。何故なら闘争こそが天上にすら存在しない美酒そのものであり、極上の肴となるからだ。

 

だが…今行われている程度(・・)では酔えない。更に言えば、中途半端に身体が火照り、悪酔いのような状態になりそうだった。ならば酒を飲み、まぁアテとしては上出来だと、どこからそんな量用意したんだお前等と言いたくなるほどの数をまだまだ開けながら、二柱は軽く雑談を始める。初めは誰ならば、呪いすら解けたカルナを相手にできるのか?それに次々と、互いに懐かしき英霊達の名を上げていき、次第に酔っ払い達の話の内容は今の世界…つまり“神器”やそれをばら撒いた聖書の陣営へと変わっていく。

 

 

「カルナには話したの?“神器”のこと」

 

「あぁ、眼ぇ輝かせて話聞いてた」

 

「へぇ、そうなんだ。ふぅん…――可哀想に…」

 

 

ポツリと誰となくシヴァが呟いたその言葉は、これからカルナと出会う“神器”所有者に対してか、はたまた“上位神滅具”でもってすら、満足できる戦いができるかどうか分からない程に強すぎるカルナに対してか…だが、何故だろうか。

 

帝釈天がシヴァの言葉に思い出したのは、己が蒼天を仰がせた、今のカルナとそう歳の離れていない少年――己の中に流れる英雄の血を受け入れ、自らもまた英雄を目指し、同じ思想、同じ苦悩を抱いた仲間を救うべく、今は力を付け、技を磨いている最強の神滅具…“神滅具(ロンギヌス)”の由来となった槍を持つ、今だ()を探しきれていない英雄の卵(・・・・)の事――。

 

ふと思い出せば、見つけた時期がカルナの時期と重なっていた為、あまり会う事ができていない。何より自分もいつまでもカルナにばかり構っていられないのだ。

 

 

(…ちょっと一人にしてみるか。どうせ何かあったら、あの馬鹿(スーリヤ)が手を貸すだろ……貸すよな?)

 

 

最強の放任主義者を思い浮かべ、取りあえず結界でも張っておくかと、頭を抱え悩んでいると――。

 

 

「…終わったね」

 

 

シヴァの言葉に現実に戻され顔を上げると、確かに先程までここまで届いていた熱は次第に退き始めていることが分かる。すると帝釈天はどこからともなく携帯電話のようなものを取り出し、誰かへ電話をかけ始めたではないか。

 

 

「――おし、今三蔵の野郎に猿を拾うよう言った。丁度玉龍(ウーロン)も来たみたいだしな。流石に閻魔帳から名前を消したアイツが死ぬとは思えんが…カルナだからな」

 

君の槍(インドラの槍)もあるしねぇ。“神すら滅ぼしうる(・・・・・)聖遺物”と“神すら確実に殺せる(・・・・・・)槍”。あーヤダヤダ、他神話から文句来たら全部君に任せるよ」

 

「おう、こればかりは俺の責任だ。それに…言ったハズだぞ?泥でも何でも被ってやる。これがインドラとしての最後の仕事だと…来たな」

 

 

帝釈天が天を仰ぐと、太陽に黒点がポツリと一つ見え始め、徐々にそれは大きなり、こちらへと向かって来――。

 

 

「――戻ったぞ。…酷い有様だな」

 

 

フワリと地上に降り立つカルナだが、すぐに出た言葉がこれだ。

 

辺りはアルコールの匂いで充満し、酒の銘柄が綴られた缶や瓶が至る所に転がっていた。

 

 

「おかえりー。中々良いツマミになったよ」

 

 

カラカラと笑いながら、カルナを迎え入れるシヴァを見て、どういう事かと首を傾げつつも理解する。

 

 

「…そういうことか。神々が満足できるような武を披露できたなら、オレとしても、これ以上の賛辞は無いに等しい」

 

 

続けてシヴァは、カルナに手を差し出し。

 

 

「じゃあ出して。君が約束を破るワケなんてないけど、一応ね?」

 

 

「心得た」と、カルナが後ろに手をやり取り出したのは、罅だらけの煙管。それを手に取り、しげしげと眺め。

 

 

「ふぅん、これなんだ。僕はてっきり棍とか金環とか、そういう有名なものを持って来るとばかり」

 

「それがオレに傷を付けた唯一のものであり、ゆえにオレは、それこそが貴方に捧げる供物であると断じた。…確かに棍を手にしていたが、あの御仁はそれほどまでに有名なのか?」

 

 

え?と呟き驚くのは、何もシヴァだけではない。帝釈天もまた、二人のやり取りを見ながらカルナの一言に、サングラスがずり落ちるのを止める事ができなかった。

 

 

「おまッ!西遊記くらい知ってるだろ!?」

 

「西遊記?何のことだ?」

 

 

カルナは本気で理解していないようだが、これには少し事情がある。

 

カルナを拾った養父母は山に住む農家だ。その所得は少なく、本を買う余裕があれば生活費に回す程。しかし子供(カルナ)の為にと彼等は何とか生活費を切り崩し、古代インドとまるで変わってしまった文字を教え、教科書の類を買い与えていたのだ。娯楽に回す金など無いに等しかった。

 

 

「…ねぇインドラ」

 

「あぁ、取りあえず西遊記や三国志からだな」

 

 

どこか疑問を浮かべるような顔をするカルナに、帝釈天は軽く咳払いをし。

 

 

「あー、まぁあれだ、気にすんな。それより猿はどうした?」

 

「倒せとは言われたが、殺せとは言われていないのでな、置いて来た。何より勝者が敗者に手を貸す事程、侮辱に等しい行いは無い」

 

 

それは暗に、初代を戦士として、ある程度認めたと言っているようなものだ。その表情はどこか満足気に見え、それを見た帝釈天も、初代に対し、労いを心の内で唱える。なにせ本気を出す間も無かったにしろ、インド神話でも上位の力を持つカルナが認めたのだ。だがどうせなら、須弥山ごと焼き払ってくれれば御の字かなと思っていたシヴァは、面白くないと言った表情を見せるが……約束は約束だ。何より今は、スーリヤもこちらを見ている。下手に嘘など吐けば、インドラと等しき力を持った太陽神までもが敵と成り得る。

 

 

(まぁそんなつもり端から無いんだケドね)

 

 

満足ではないが、久方ぶりに滾るものがあった。ならば礼を返さねばと、シヴァは手をカルナの前に持って行き、約束を果たす。

 

 

「では施しの英雄カルナよ。この破壊神シヴァの名を持って、お前にかけられた呪いをこの場で破壊(・・)するとしよう」

 

「あぁ、よろしく頼む――」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

――大地が燃えている。轟々と音を立て、燃え上がる焔が地面ですら朱に染め、仰向けに空を見上げる初代の視界で大空へと舞い上がる。その様はまるで、龍のよう。

 

 

次第に炎は雨雲を呼び、辺り一帯を鎮めるように雨が降り出す。それでも初代は静かに空を仰ぐ事を止めない。

 

 

「……あ゛ぁ…負けちまった(・・・・・・)

 

 

初代は帝釈天が言ったように、かつて地獄の使者が寿命が尽きたと迎えに来た際、彼等に着いて行き、そこで閻魔帳に書かれた自らの名を墨で塗りつぶし不死の身となった。ゆえにいくら致命傷を受けようと、その身が亡ぶことは無いが、流石に太陽の化身とも言えるカルナの炎は別だったらしく、すぐさま“内気功”を用いねば、本当に危ない状況であった。

 

 

身体の中に今だ燻る炎の痛みに、初代は顔を歪めることすらせず、サングラスの間から見えるその瞳が映していたのは、先程までここにいたカルナの事だ。

 

 

 

【――すまない…オレは我が身可愛さに、何も知らぬ貴方と矛を交え、こうして偉そうに見下ろしている。戦えぬ者に手を出すのは、クシャトリヤの矜持に反する。ゆえにここに置いていく】

 

 

ふざけるなと思った。ゆえに声に出す。

 

 

「…ざけんな…ふざけるな!!」

 

 

どこまで自分を…この斉天大聖を馬鹿にすれば気がすむのだ!?生殺与奪を握っておきながらも、こうして生き恥を晒せと?更にカルナが勝者の証として、選んだのはこの首でも、今自らが握っている棍でもない。最後まで己であれと取り出した、ただの煙管だ。それがどれだけ腹立たしく、そしてどれだけ…自分を恥じた(・・・・・・)事だろうか……。

 

 

「ふざけんなよ孫 悟空…ッ!?何が斉天だ!!何が闘戦勝仏だッ!!」

 

 

生まれ、そして腕を磨き続け幾星霜。数々の旅をこなし、ついには仏の座にまで登り詰め…何故、その程度で満足してしまったのだろうか?

 

 

(あぁ…ッ!そうだ!満足した、満足しちまってたんだ…ッ!!)

 

 

仙術を戦闘に用いることでは、右に出る者は今でもいないと断言できる。しかし釈迦に喧嘩を売った時とは違い、彼は世界を知ってしまったのだ。

 

 

己程度では、頂点には昇れない――と。神々と、たかだか大妖怪風情から至った自分では、その差はあまりにも開きすぎていると…事実、かつて初代が若さに任せ、遊興の旅からここ中国に帰った際、帝釈天はこう言い放った。

 

 

【…組織の長としては、まぁその方が良いんだが…あれだな、つまんなくなっちまったな、猿】

 

 

かけがえのない師を持ち、心差しを共にする腐れ縁とも言える友を持った。子を育み、子孫繁栄を喜ぶ好々爺となった。

 

 

 

だが彼は男だ。

 

 

 

あの日何故、己はその言葉に激怒し殴りかかる事もせず、ただヘラリと笑ったのだろう。

あの時から研鑽を積んでいれば、あの男に…勝者にあんな申し訳ない顔をさせずにすんだというのに……。

 

 

分かっていた。あの今だ幼い面影を残す少年が、一切の本気を出していなかったことは。

 

槍の鋭さを見せてくれた。その時点で勝敗は決していたというのに、あの少年はこちらの覚悟に応えてくれるように、その力の一部をわざわざ使い、分身を消してくれた。彼は終始、こちらを気遣ってくれていたのだと、初代はそう感じたのだ。

 

それが悔しくて…最後にこんな老いた猿に見事と言ってくれた、戦士の言葉が嬉しくて…ッ!

 

 

初代が顔を隠すその横には、大地に一閃が入っていた。木槍と言う、あまりに脆いそれでカルナが魅せた(・・・)のだ。それは初代ですら今だ到達できていない境地――どこまでも完敗だった…何故己は、最後にたかだか軽い火傷を負わせた程度で勝者と名乗りを上げたのだろうか…ゆえに恥じるのだ。

 

 

「すまねぇ…ッ!すまねぇお師さん!!豚に河童もすまねぇッ!!オイラは…オイラは…ッ!!」

 

 

呟く謝罪は雨の音に消え、その隠した瞳から流れるソレも、雨に混ざり見る事は叶わない。

 

 

 

 

 

「――いいえ、貴方は負けてなどいませんよ…悟空(・・)

 

 

燃える大地を雨が穿ち、辺りを霧が包みだした頃、初代しかいないこの場に若い男の声が、初代の耳へと聴こえてくる。それはどこか安心するような、今まで何度も聴き、己を導いてくれた声――。

 

 

「……お師さん…?」

 

 

初代がそう呼ぶ者など、ただ一人しかいない。

 

天竺から経典を持ち帰り、その功績で仏の座へと招かれた。その名を“旃檀功徳仏”。つまり三蔵法師その人が、横たわる初代の隣に立ち、微笑んでいた。

 

 

「帝釈天様から聞きました。あのマハーバーラタに刻まれた大英雄カルナが、貴方の下へ行き、勝負したと」

 

「ボスが…?じゃあ……」

 

「えぇ、何故あの方が、シヴァが隣にいる状況で戦を始めないのか理解しかねます。ですが貴方が戦い、そして勝利した相手は確かに今生に再び蘇った施しの英雄カルナその人です」

 

 

三蔵法師は一度天竺…つまりインドを目指した者として、叙事詩に描かれたカルナを知っている。何より帝釈天が彼にカルナの存在を話したのだ。それが今回の事で、彼を隠すことが難しくなったと判断したのか、それとも己を信頼してのことかは三蔵には判断できない。

 

『勝者』と己を差した師に、初代は背を向け。

 

 

「…勝ってねぇ…勝ってねぇよ、お師さん。見ろよこの様」

 

 

身体を包んでいた金毛は全て焼け落ち、内気功で治す今も、見える火傷が痛々しい。だが三蔵は、背を向ける愛弟子に対し、言い放つ。

 

 

「いいえ、貴方の勝ちです。そもそも悟空、勝利とは何を持って指す言葉なのでしょうか?」

 

 

“悟空”と、帰依した時に捨てた名で、あえてそう呼び問答を投げかける師が何を考えているか分からず、初代はようやく師を見上げる。

 

それを見やり、師は再び弟子に教えを説く。

 

 

「私はかつて、この場にいない二人も含め、お前達に伝えたはずです。命ある者は、生を受けたその日より、戦場を渡り歩く戦鬼に他ならない。“生きる”という事は、即ち戦うことです。だからこそ羅刹とならぬべく、笑顔を浮かべ、この戦場を渡り歩けと、そう私はお前達に教えたはずですが?悟空(・・)。私はあえて、この名で今、お前を呼びましょう。悟空、貴方は最後、あのカルナを相手に笑えましたか?」

 

「…あぁ、笑った…笑ってやったさ。火の付いた煙草をよう、綺麗なあの顔に吹きかけてやった」

 

「ならば私は、お前こそが勝者であると賛辞を贈るとしましょう。…よくやりましたね、流石我が愛弟子」

 

 

そう告げる三蔵の表情は、仏が浮かべる悟りを開いた笑み(アルカイック・スマイル)ではなく、どこまでも世俗に満ちた…弟子を褒める師としての表情を浮かべ、笑っていた。それに釣られ、初代もまた下品ともとれる男らしい笑みを返す。

 

 

「…クッ、呵呵!!それが仏が浮かべる顔かよ、お師さん」

 

「仏がこうして笑ったのです。ならばこれもまた、悟りの先にあるものなのでしょう」

 

「なんでぇ、相変わらずケツ(・・)を取るのが上手いねい」

 

 

全てが黒く焼け焦げた世界の中心で、師弟は笑い声を響かせる。次第に霧は晴れて行き、日輪が彼等に後光となって降り注ぐ。

 

 

『おーい!!お師さんどこだー!猿―!猿どこだー?生きてるか~?』

 

「呵呵!玉龍の野郎、相変わらず空気を読めねぇ奴だ」

 

 

そう一人ごちながら、初代は辛うじて残った脚絆を探り、煙管を咥えようとするが、手はただ宙を探るだけだ。

 

 

「あ~…そうだった…」

 

「私が行きましょうか?幸い、シヴァは受け取らず、カルナが持ったままらしいですし」

 

 

カルナがもっとも無防備になるのは、父スーリヤに捧げる沐浴の時間。その時間に三蔵法師(・・)、つまりバラモンの階級が願えばカルナはそれを叶えようとする。

かつてインドラ(帝釈天)が利用したこの逸話はあまりにも有名すぎ、ゆえに帝釈天は今カルナがいる山に自ら結界を張り、その強度は上級悪魔でさえ触れた瞬間滅びる程だ。

 

だがやはり帝釈天は部下である三蔵を信じたのだろう。彼の入山を許可していた。

 

 

話を聞き、しばし俯き考えるような仕草をした初代は、サングラスのブリッジを中指の腹で上げ。

 

 

「いや、オイラが行く。…どうしても言いてぇ事がある」

 

「そうですか…では、帰りましょう。ここでは貴方の治療などできませんし、氣での治癒も、もう限界でしょう?このままでは肉が腐り、生ける屍のようになってしまいますよ?」

 

「おう、もう空っぽだ。地脈もこれじゃあズタボロだしねぃ。それとそれはいけないねぃ。オイラのようなイケメンが、そんなになっちゃ女の子達を泣かせちまう」

 

 

軽口を叩きながら、彼等はようやく霧の迷宮から抜け出した玉龍の背に乗り、三蔵の住む庵を目指す。そんな中…おそらくは風の囁きを聞き間違えたのだろう。初代は微かに声が聴こえたような気がした。

 

 

 

 

――息子が世話になった――と。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

数日後。いつものように木槍を振るい、鍛錬を終えたカルナは父スーリヤに捧げる沐浴を行う為、近くにある水場へと向かっていた。

その肌には汗が滴り落ち、乱雑に伸ばした髪が顔にかかり、どこか憂いを帯びた表情を醸し出している。

 

余談ではあるが、この場にはすでにシヴァはいない。元々ここは須弥山が治める領地であり、彼は仮にも敵対する立場なのだ。呪いを解いた後、またねと言って帰って行った。

帝釈天もまた同じ。いつまでもカルナにばかり構っていられないと、一時己の居城へと戻っている。

 

 

静かに水の中に入り、汗を流すカルナを太陽(スーリヤ)は優しく、そして暖かく包んでいた。

すると水を梳く手をピタリと止め。

 

 

「…後をつけていたのは気づいていた。だが習慣付いたこれだけは止めるという事はできないのでな、許せ」

 

「なぁに、オイラが勝手にアポも取らず来たんだ。謝るのはオイラの方さ」

 

 

声が聴こえる方にカルナが水を掻き分け振り向くと、そこには身体中に包帯を巻き、新しいサングラスを掛けた初代がいた。

 

ニヤリを笑う彼に、カルナは変わらずの無表情を返し。

 

 

「あの時は、貴方の事を知らなかったオレの無知を許してほしい。素晴らしき御仁なのだな、貴方は」

 

 

そう、あの後帝釈天はすぐさまカルナに“西遊記”を読むよう本を渡し、世話になる身が文句など言えようはずがないと初代の旅路が綴られたそれを読んだのだ。そこに書かれていたのはインドラ(天帝)にさえ背き、釈迦に喧嘩を売り、掛け替えのない師と友と共に過ごした日々の数々。

 

 

「おう、でもまぁアレじゃ駄目だ。オイラのカッコよさが全然伝わってねぇ。もっと若いモン向けに、書き直した方が良いと何度も言ってるんだがねぃ」

 

 

阿阿!と笑いながら、手にした棍で肩をトントンと叩く。明らかに戦闘態勢が整っていると分かりながらも、カルナは身体を清める事を止めない。もとより戦いに来たワケではないと、雰囲気から察していたのだ。ならば…。

 

 

「生憎だが斉天大聖、闘戦勝仏よ。今のオレが頼みを聞くのはバラモン(僧侶)の階級だけだ。確かに貴方は仏とやらに至った身ではあるが…」

 

「あぁ、オイラはお師さんみたいな説教臭ぇクソ坊主じゃねぇさ。物欲塗れのただの猿よ」

 

「では何故そのような体(・・・・・・)で来た。オレはどこにも、逃げも隠れもせん」

 

 

どこか挑発するような言い方だが、それは暗に初代を心配しての声だ。その証拠に、今も新しく滲み出る血が包帯を赤に染めて行く。だが初代は気にしないと言いたげに、石の上に胡坐を掻き、棍を両肩に乗せ、その上に手を適当に置く。

 

 

「呵呵!おめぇさん、前世はさぞかし苦労したろう?そんな言い方じゃ、これから先苦労するぜぃ?」

 

「何を言う。オレは自分では、言葉を尽くしているつもりだが?…オレがカルナであると信じたのだな」

 

 

その言葉に何を思ったのか。初代は軽く俯きサングラスに隠した瞳を閉じ、次の開いた時には、真っ直ぐにカルナを見やり。

 

 

「…あぁ信じるさ。その鎧、その神性。何より…あぁ、オイラをここまでやっつけたんだ。オイラはおめぇさんがカルナだと信じるよ」

 

「感謝する。血は繋がっていないが、父と母より授かった誇りあるこの名を、信じてもらえないのはオレでも少し、思う所がある」

 

「そうかい、そりゃよかった。…っと、あんまりお邪魔するってぇのも悪い。ちゃちゃっと用を済ますとするかい。オイラから持ってった煙管、まだ持ってるかい?」

 

 

そう初代が問いかけると、カルナは腰に下げていた小さな麻袋から、今にも壊れそうな煙管を大切そうに取り出し、初代へと差し出す。

 

戦利品として持ち帰ったが、返せと言われれば返そうとは思っていた。だが、初代は首を横に振る。

 

 

「何故だ、貴方はこれを取り返しに来たのではないのか?」

 

「いんや?逆だよ、逆」

 

「…逆?」

 

 

おうと初代は、カルナが握る己の煙管を指さし。

 

 

「持ってろ。んでもって、今度はオイラがお前に挑戦する(・・・・)

 

 

ただそれだけを、初代はカルナに伝えに来た。

 

 

戦いに本来、次など無い。それは同格の力を持った者同士くらいでしか発生しないし、己はこの少年と比べ、遥か格下であると理解もした。だからどうした(・・・・・・・)

 

次が出来た。矜持も全て投げ出してでも、彼は再戦を望み、その証として、煙管を取り返しに来ると告げたのだ。

 

カルナが決して己を忘れぬ為の、楔として――。

 

 

玉二つ(・・・)持って生まれたんだ。見下げて見下ろすよりも、見上げて見下す連中を蹴り倒す方が面白いだろい?んで持って、オイラはお前に今度こそは勝ちてぇ…いや、勝つ。負けたまんまは性に合わねぇ」

 

 

カルナは僅かに目を見開きながら、その口元に微かな弧を描いていた。煙管を持たない手を握り、歓喜に震わせる。

 

この時代にもまだ、これほどの男がいたのかと。あれだけの実力の開きを正しく感じてなお挑み、己を更に上へと導いてくれる真の猛者がいたのかとッ!

 

 

「ま、まだしばらく先だけどな。ちぃとばかしやる事が溜まってんだ」

 

「あぁ、オレは先程も言ったように、どこにも逃げん。この生涯を通じ、オレは貴方との再戦の約定を忘れぬと誓おう」

 

「へへ、嬉しい事言ってくれるねぃ。おっと!別に千年後でも構わねぇだろう?そん時はよう、またこうして転生してこいや」

 

「構わない。その時は父スーリヤに願い出て、必ず三度あいまみえるとしよう。その時までこの煙管、確かに預かり受けた」

 

 

 

 

 

その言葉を聞き届け、初代はその場を後にした。

 

ただの口約束ではあるが、戦士と戦士が交わした約定だ。ならば自分は、あの男が将来幻滅せぬよう、更に腕を磨き上げるのみ。

 

 

「よう、久々に見たぜ、お前のそういう表情」

 

 

山を下る初代に、そう語り掛けるのは彼が所属する須弥山の頂点に君臨する戦の神、帝釈天。彼はずっと、彼らのやり取りを見ていたのだ。

 

 

「趣味が悪いぜボス、覗くなら女風呂の方が粋ってモンだぜぃ?」

 

「クカカ!だな。…良い顔だ」

 

 

元々帝釈天は、初代がただ年老いていく事を憂いていた。長い付き合いでもあるし、自分にすら逆らった彼が風化するような様はとても見ていられなかったのだ。

 

 

「だからカルナをオイラの所に?そりゃ良い!オイラは最高にクソっタレな上司を持てて恐悦至極でございますよ?クソアロハ」

 

「カカッ!!クソ猿のクセに生意気だなおい!」

 

 

帝釈天の事など気にしないといった風に、初代が再び歩みを進めると、それに付き合うように、帝釈天もまた隣を歩き出す。

 

 

「…良いだろう?あれが俺様のガキの宿敵だ。あの偉そうに俺様を見下ろす大馬鹿野郎のガキだ。俺様がインドラとして見て来た数々の英雄の中でも…とびっきり最高の大馬鹿野郎(大英雄)だ」

 

「あぁ、最高だ。最高すぎて…なぁ、ボス。見てくれよ」

 

 

そう言う初代は今まで見た事が無いほどに、その身に氣を巡らせていた。身体は今もどこかぎこちない動きをしているが…今ならば、あの時以上に喰い付けると確かに感じさせる。

 

 

「だがまだだ。まだ先にテメェにはやってもらう事がある。インド神話にはシヴァを通してしばらく不戦の約定を交わした。美候を探すのもまだ後だ」

 

「…アンタ…遊んでたワケじゃないんだねぃ」

 

「たりめーだ。この俺様を誰だと思ってやがる」

 

「アロハで遊んでばかりの女好きの救えないオイラの上司さ。となると…」

 

「あぁ、まずはこの須弥山付近を伺う邪魔な聖書の陣営をつまみ出せ。ついでだ、修行がてら最上級悪魔の一匹や二匹潰して来い。ここらにいるヤツはこれに書いてある」

 

 

そう言いながら帝釈天は初代に紙切れを渡す。そこにはリストアップされた、以前からこの付近で目撃されていた悪魔の名が並んでいた。

 

 

「はっはぁ!こりゃいい!食い放題ってワケだ!!」

 

「そういうことだ。手が足りないなら、関羽にも言っておくがどうする?」

 

 

須弥山はその頂点に座す存在が戦神ということもあり、かなりの武闘派が所属している。これがインド神話ですら、そう手を出さぬ理由であり、その中には当然、古代中国で名を馳せた大英雄関帝こと関羽 雲長もいる。だがその言葉に、初代は獰猛に歯を剥き出し嗤いながら答える。

 

 

「おうおう、これはオイラの獲物だ。誰にもやるもんか、カルナにもな!…そういえばボス、カルナはいつまであそこに置いとくんで?あれほどの男だ、アンタもいつまでも山に籠らせるつもりなんて、ねぇだろう?」

 

 

そう言われ、しばし考えるように顎に手を添え――。

 

 

「…もう3、4年だな。常識を叩きこみながら、アイツの身体ができるのを待つ。後はタイミングを見計らってお披露目だな。その後は…そうだな、アイツの好きにさせるさ」

 

 

それは初代にとって、意外であった。もとより帝釈天は、須弥山にカルナを入れるべく動いているものとばかり思っていたのだ。

 

 

「違ぇよタコ。……俺様はただ、英雄の誇りをアイツに返す為、俺様の中で燻ってたモンを消化する為に、アイツを保護しただけだ。せっかく馬鹿(スーリヤ)が転生させたんだ、自由を満喫させてぇじゃねぇか」

 

「そうかい…じゃあなボス、身体を動かしてぇんだ。チョチョイと悪魔狩ってくるわ」

 

 

帝釈天を一瞥し、初代は金遁雲を呼び空へ駆け出す。それを見届けた帝釈天は一人――。

 

 

「…カルナに曹操。それだけじゃない、今だ世界には英雄ってのがまだまだたくさんいる。見ていて飽きねぇぜ?まぁ、今みたいに力に振り回されてるようじゃ、到底英雄なんぞ無理だがな」

 

 

それは誰に対し放った言葉なのか。しかし帝釈天のサングラスの奥の瞳に浮かぶのは、己が蒼天を仰がせた、最強の“神器”を持って生まれた少年。

 

 

今だ物語は始まってすらいない。だがドラゴンを中心に回るハズのそれは、すでに――。

 

 




オマケ

~【施しの英雄】第二話と第四話の文を型月で解釈すると?~


農作業に汗を流し、時にはかつて研鑽を積んだ武を忘れぬよう棒を振るい、またある時は神話として語られ続けた己の生涯を話し野山に入り精が着くよう獣を狩り――

「流行りかどうかは知らん。山の中で育ったのでな、都会のソレには疎い」


型月解釈

カルナさん、NOUMINとなってYAMAにてINOSISIを狩る日々。なお今はまだ、TUBAMEを切っていない模様



軽く聞きたい事があるのですが、【カルナにかけられていた呪いの全て】と【帝釈天が原作に初めて出た時期】を知りたいです。
(hsdd読み返そうにも時間が…(汗)

活動報告で聞いた方が良いですかね?

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