目が覚めたら朝になっていた。
今日も夜遅くまで働くのかと憂鬱になりながらも出勤の準備をしようとメガネを探し、布団から起き上がる。
そういえば昨日お風呂はいらなったしシャワーを浴びようとか今日は目覚ましならなかったなとか寝起き特有のごちゃごちゃした思考で周りを見渡すとそこはよく写真で見るような和室が広がっていた。
私は夢かと思い目を擦るもそれは変わらずに存在している。
おかしい、絶対におかしい。
寝惚けた思考をフル回転させなんでこのような場所に居るのか考える。
そういえば!と昨日の出来事を思い出したと同時に部屋の襖が開く音がする。
「お目覚めになったかしら?」
「あ、あ、あ…」
昨日黒い穴から無数の手を出して私を誘拐した人物がさも友人顔で体調を伺ってくる。あまりの恐怖に腰が抜けた私は彼女に向かってそばにあった枕を投げつける。
しかし反抗虚しく枕は突如現れた黒い穴に吸い込まれていくだけだった。
「あら、突然…そんなに手荒な真似は致しませんわ」
「だ、誰なんですか!?ここはどこなんです!?」
目の前女性は待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべて私と対面するように正座する。
にっこりと微笑むその顔からは胡散臭さと浮かれたような印象を受けるが何より人間離れした技のようなものを目の当たりにしたせいで全て恐怖にしかならなかった。
女性はいつの間にか取り出した扇子を口元に置き、こう続ける。
「ここは幻想郷、忘れられたものが行き着く楽園、そして私はその幻想郷における妖怪の賢者、八雲紫と申しますわ」
「げんそ…えっと…何が何だか…」
「困惑するのも無理はありませんわね、私が突然外の世界から連れてきてしまったんですもの…そのことに関しては申し訳ないと思っておりますわ、でもあなたでなければこの幻想郷を救えなかったのよ」
「えっと……」
この人は何を言っているんだ。
金髪の女性、もとい八雲紫から話を聞くにはこうなっていらしい。
その昔、とある人間離れした強さの巫女が妖怪と人間が対等に戦うことが出来る決闘法を考案した。
しかし巫女も人間、己の寿命には勝てるわけもなくこの世を去ってしまう。
それからというもの何代かは続いたこの決闘法自体を反発していた妖怪達によって葬られ、現在では誰一人としてこの決闘法を使うものがいなくなってしまったらしい。
今では人間を身勝手に襲う輩も多くなり、前の穏やかで美しい幻想郷の影はない。
それを懸念した妖怪の賢者達は再びスペルカードルールを制定しようと試みたのであった。
「それがなんで私を連れ去るってことになるんですか…?」
「実はここ最近巫女が引退することになったのだけれど…博麗の巫女候補が見つからなくて困っていたのですわ」
「だからってこんな誘拐みたいなこと…け、警察呼びますよ!?」
「威勢がいいことは素晴らしいことですわ、でもあなたは…」
そこまで言いかけた八雲紫は咄嗟に口を噤んだ。
何か言ってはいけない事だったのだろうか、動揺したように目線を泳がせていた。
次に見た彼女は口に扇子を当て、ふふっと笑うと私の頭に扇子を軽く落とす。そしてそのまま金色の瞳を私に合わせると頭の中に映像が浮かび上がる。
飛び散る光の弾、それをすり抜けていくように軽やかに宙を舞う紅白の少女。そして彼女から発せられる光の御札が規則正しく、時には不規則に咲き乱れる。
美しかった、ただそれだけだった。
「今のは弾幕ごっこのほんの一部、あの紅白の少女はスペルカードルールを作った巫女本人、簡単に言うとこのゲームは美しさを競うゲームで貴女はこれからあれを復活させるのよ、悪い気はしないでしょう?」
「い、いやそれでも…そもそも私巫女って歳じゃ…」
「大丈夫よ、貴女は若いからパッと見では10代の少女に見えますわ」
サムズアップで気にしていることをズバッと言われた。
頭に血が上る感覚がわかったがここは一旦感情を抑えなくてはと必死に心を落ち着かせる。
それも束の間、八雲紫はこんなことを言い出した。
「それとももしかして…怖いのかしら?私の見込み違いだったかしらね?」
その一言で何かが切れた私は叫ぶ。
それはもうアルコールでも回っているのかと言わんばかりに声を張り上げる。
「さっきから言わせておけば!!!スペルカード?ルール?くらい復活させて見せますよ!!!!!かかってこい!!!妖怪ども!!!!」
「その意気ですわ白峰レイ、応援してますわ」
自分でもなんてことを言ってしまったのだと後々になって後悔している。
続く
続きです。
遅くなってしまい申し訳ありませんでした。