鳴響高校 〜君と奏でる九重奏〜 作:Layru
高校野球の聖地 阪神甲子園球場
全国47都道府県の中で、負けたら終わりのノックアウトトーナメントを勝ち上がった代表校が一堂に会し、高校球児の頂点を決める大舞台『全国高等学校野球選手権大会』。グラウンドという舞台に描かれたピッチャーマウンドの上に、俺は立っていた。
9回表2アウト1・3塁。カウント3-2。
スコアは2-1。俺たちが1点リードしているものの、一本出たら相手が逆転するという緊迫の場面…。
しかも、よりにもよって相手は4番バッター。ここまでいくと、運命の巡り合わせか野球の神様の遊戯とでも言えるような状況に俺は立たされている。
既に球数が120球を超えたこともあり、夏の暑さと相まってマトモに立ってられない。利き腕からは激痛が走り、少し動かすだけでも腕から悲鳴があがる。手の感覚も無くなりつつあり、ボールを掴むことさえも厳しくなってきた。
霞んだ目からは、キャッチャーの出すサインを碌に見ることはできず、恐らくチームメイトが俺に呼びかけているであろう言葉も、今の俺の耳には入ってこない。
満身創痍、そして孤独。ピッチャーとは孤独な生き物であると言うが、まさに今、その孤独を味わっている。
でも、それがどうした……!
俺はマウンドの側にあるロージンバックを拾い、手に松ヤニをつけて下に落とした。
本当は投げ捨てるくらいしたかったが、最後に投げたのがボールではなくロージンバックになるのは居た堪れない。
俺は、あいつに約束したんだ!
輝きを失った野球部に光を取り戻すと!!
みんなが託してくれた背番号「1」の責務を全うすることを!!
アルプススタンドから応援してくれている少女に、「優勝」の2文字を届けると!!!!
ここで投げずに倒れることが出来れば楽になれるだろう、でもそれではダメなのだ!!
せめて、この一球を投げ終えるまでは倒れられない…。
これが利き腕で投げる最後の一球になっても構わない!
だから俺の腕、この時だけでいいから…頼むから保ってくれ!!
ここを抑えて優勝旗を手にする事が、俺達のために尽くしてくれた"彼女"への最大の恩返しなのだから!!
-side another-
「……唯の応援ラッパが何をするものかと思っていたけど、侮れないね。これが、君たちの言う"鳴響のキズナ"というやつか…
どうやら、ラッキーだけでここまで勝ち上がった訳ではないらしい。」
一方のバッターは、打席の外でそう独りごちる。
息を整え、バッターボックスに入り、バットを構える。何度もやって来た一つ一つのその所作が、やけに重々しく感じるのは、自分たちが追い詰められているという心の重圧と、一本打って点差をひっくり返すという1選手としての思いの板挟みにあっているからだろう。
(こういう時、一番やってはいけないのは、バットを握る手に力を入れすぎること。余分な力はいらない。力を入れるのは、バットとボールがアジャストした時だけ。回数も9回で、相手の制球も衰えてきている。ストライクとボールを見極めて、来た球を打つ…いつもやっていることじゃないか)
甲子園の魔物は、冷静さを失ったものに容赦なく襲いかかる。平静を保ち、力を抜かなければ、観客の雰囲気とともにたちまち自分は魔物に飲み込まれるだろう。
(平静を…余計な力を抜くんだ。)
-side out-
「プレイ!」
球審のコールと共に、プレーが再開された。
ピッチャーがセットポジションから投球モーションに入る。
バッターも同時にバットを後ろに引き、打つ体制に入る。
「この一球に全てを!!!!」
「これで、君に引導を渡す!!!!」
向かってくる一球に対して、バッターはバットを最短距離で振り抜く。
一投手が選手生命をかけて投げ込んだ1球は、キャッチャーミットには収まっていなかった…。
(ッキィンッ!!)
という金属音と同時に白球は大空へと舞い上がったからだ。
この時、甲子園が示した球速は
108km/h
高校生のストレートにしては、あまりに遅すぎた…。
驚嘆、唖然、絶句
4万5千人以上の人が居るはずなのに、甲子園球場はまるで誰もいないような静寂に包まれた。
アルプススタンドからの応援やブラスバンドの演奏すらも、時が止まったかのようにぴたりと消えた…。
そして大きく舞い上がった打球は…
何処かへと消えていった。
「ーーくん!?ーーくん!!!!」
そう呼びかける少女の目線の先には、マウンドで腕を抑えて倒れ込む一人の少年の姿があった…。
これは、野球で甲子園を目指す少年と、甲子園での応援を夢見る少女の青春シンフォニックストーリー。
音楽と野球、二つの調べが混ざり合う時、弱小校は大空へと羽ばたく。
実況パワフルプロ野球 〜君と奏でる
パワプロアプリの鳴響高校と音吹奏ちゃんが好きすぎて書いてみました!
不定期更新ですが、よろしくお願いします。