鳴響高校 〜君と奏でる九重奏〜   作:Layru

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第1話 8月1週 敗北から始まる物語

 

うちの県で、吹奏楽の名門校といえば10人中10人が「鳴響高校」と答えるだろう。

10年連続全国吹奏楽コンクール出場、金賞6回を誇る全国でも有名な高校だ。

 

学校OBであり、音楽一家の生まれで奏楽に精通する神成拓斗が指揮者に就任してからは、2年連続金賞を受賞するなどさらなる成長を見せており、全国の吹奏楽に関わる中学生や高校生に憧れの目で見られていた。

 

 

 

一方で鳴響高校の野球部は、過去に甲子園準優勝を経験したことがあるものの、名門校とは程遠い。有り体に言えば弱小校だ。

 

甲子園に出場した時は、全国有数の吹奏楽部の奏でる応援曲と、それに合わせて躍動する選手達に、多くの人が心を奪われた。

 

かく言う俺、大野 学(おおの まなぶ)もその一人だ。小学生の時分に甲子園で見た鳴響高校の選手と応援曲にすっかり虜になった。

 

「鳴響高校で、甲子園を優勝させる。」

が俺の口癖になった程だ。

 

しかし、俺が見た大会を最後に鳴響高校は弱小校へと様変わりした。

 

吹奏楽部と野球部の仲も悪化し、その時の輝きはすっかり失われてしまった…。

 

 

 

 

「ゲームセット!!」

 

審判の無情な宣言と共に、俺たちの今年の夏の甲子園への戦いは幕を閉じた。

 

「…まさか、地区大会二回戦で負けるとは」

「0-1、大野くんが折角8回まで無失点で抑えていたのに…援護できなくて申し訳ないでやんす。」

 

友人で一番センターの矢部明雄(やべ あきお)くんが、申し訳なさそうにこちらに話しかける。

 

「向こうのピッチャーも球が走ってたし、変化球のキレも良かったから仕方ないよ。それに一点取られたのも、元はと言えばランナーを貯めてしまった俺の責任だから。」

「…大野くんが全てを気負う必要はないでやんす。むしろ、大野くんのお陰で一回戦は勝てたでやんすから。」

「……そうか?」

「そうでやんす!」

 

矢部くんは慰めてくれるけど、実際今日の試合で点を取られた理由は、不必要なところで出してしまった四球とアンラッキーなポテンヒットが原因だ。あの四球が無ければと考えると、今日の試合に対する俺の責任は重い。

 

「みんな、お疲れ様。残念だったね…。」

 

少し黄昏ていると、一人の女子が俺たちに話しかけてきた。

 

「ごめん、奏。今年も甲子園に行けなかった…」

「申し訳ないでやんす。たった一人でトランペットを吹いて応援してくれてたでヤンスよね。」

「気にしないで!マナくん、矢部くん!

こっちこそごめんね。本当は、吹奏楽部全員で応援に来るべきなんだろうけど…」

「仕方ないよ。甲子園ならまだしても、地区大会の2回戦だし、奏が気にすることじゃない。」

 

彼女の名前は音吹 奏(おとぶき かなで)

吹奏楽部のトランペット奏者兼野球部マネージャーでついでに俺の幼馴染でもある。

トランペット奏者ながら歌声も流麗で、ついたあだ名が「ローレライ」。

最も、このあだ名は本人は気に入っていないらしい。

今日は休日だというのに、一人でスタンドでトランペットを吹いてくれていた。本当に感謝しかない。

 

「…にしても、吹奏楽部と野球部の対立構造はいい加減どうにかならないでやんすかね?明らかに、向こうさんはオイラ達を見下してる気がするでやんすし…」

「……」

「あ、ごめん、奏。こんなこと聞かせてしまって。矢部くんも悪気があって言ってるわけじゃないから。」

「ううん、気にしてないよ。マナくん。」

 

矢部くんの言葉を否定したいが、出来なかったのだろう。

奏は、悲しげな表情を浮かべて少し俯いた。

そんなどんよりした空気の中…

 

「先生!!先生!!」

 

という俺たちの状態とは正反対の明るい声が聞こえてきた。

うちの部活で、顧問以外の人を先生と呼ぶ人間は一人しかいない。

 

「シドレミか…どうした?」

 

うちの野球部の女子選手、志藤玲美(しどう れみ)だ。

走攻守全てに優れた外野手で、今日の試合も3打数2安打1四球と活躍した。

そして、何故か俺の事を先生と呼ぶ。

俺は先生と呼ばれるような柄でもないんだが、本人曰く…

 

「先生に悩んでいた打撃をアドバイスしていただいた事で、私の課題を克服することができました。

それに、先生にはまだ先生が気づいていない才能があるんです!

だから私は、心から先生を尊敬しているんです!!!!」

 

とのことだ。

スイングに無駄があったからバットを最短距離で出すようアドバイスと軽い指導をしただけなんだけど…それを当の本人が大ごとに捉えているらしい。

 

「先生!まだグラウンドにいたんですね。良かった!!

それと、私のことはシドレミじゃなくて名前で呼んで欲しいって言ってるじゃないですか!」

「シドレミの方が呼びやすいし、語感が良いんだ。いい加減諦めてくれ。」

「むぅ、納得いきません…。」

 

確かに玲美と呼んだほうが短くて済むし楽なのだが、どうもシドレミの語感が良すぎて呼び方を変える気にならない。

今更変えるのも変な気がするし、本人には我慢してもらうことにする。

 

「で、どうかしたの?」

「あ、そうでした。ビックなニュースですよ!!先ほどベンチで顧問の先生と先輩方が話していたのですが、次のキャプテンは先生だそうです!!」

「え、マジ?」

「はい!!音吹さんも、先生なら適任って思いませんか?」

「そ、そうだね。あはは……」

 

シドレミの勢いに、若干タジタジの奏。

ただ、表情は不安と焦燥の色が見えるような気がする。

 

「まぁ、決まってしまったものは仕方がないか。取り敢えず監督の所に行こうか、矢部くん、シドレミ。」

「ヤンス!」

「だから、名前で呼んでくださーい!!」

「奏、じゃあまた後で!」

「あ…うん。」

 

3人がベンチへ戻っていくのを見届けた後、奏はスタンドで一人

 

(確かに、マナくんが率いるチームで甲子園に行けたら最高だけど…

このままやってても大丈夫なのかな?)

 

不安そうな面持ちを、隠せずにはいられなかった。

 

 

 

 

ー翌日ー

授業もホームルームも終わり、生徒が部活や委員会に向かい始めるころ…

俺の姿は、すでにグラウンドにあった。

というのも、部員が来る前に、先に軽いアップを行ってからブルペンで軽く30球程投げ込むのが、俺の毎日のルーティンなのだ。

 

制服の下に、アンダーウェアを着込んでおき、ホームルームで制服の上着を脱ぎ、終了と同時に走って部室へと向かう。先生の注意は右から左にながす。恐らく向こうも、余りに見慣れた光景である事から半分諦めてるだろう。

アップを始めたところで一人の部員がやって来た。

 

「今日もあんたが一番乗りかぁ、学。」

 

長く伸びた黒髪を後ろで束ね、特注のメガネを掛けて小脇にプロテクターを抱えた少女だ。

彼女の名前は達倉 光。鳴響高校2人目の女性選手だ。非力ながらも高い出塁率と卓越した守備力で鳴響ナインを引っ張る扇の要である。余りに塁に出ることに執着するのと、ささやき戦術を用いたねちっこいインサイドワークからついたあだ名が「ペテン師」。

…女性につけていいあだ名じゃない気がするが、実際そう言われても仕方ない程、相手からしたらタチが悪いから仕方がない。

 

「そういう光も、珍しく早いな。いつもならアップ終わりに来るのに。」

「いっつもあんたが早すぎるだけや。先にブルペン行って準備しよくで。」

「はいよ。」

 

アップを急いで終わらせた後、ブルペンに向かう。ブルペンといってもグラウンドの端っこにマウンドとベースを2つ置いただけの小規模なものをそう呼んでいるだけだが…。

入って軽く肩を動かした後、光には立って貰ったまま投球動作を行う。キャッチャーを座らせるのは、本格的な練習までしない。ここでの練習はあくまでウォーミングアップだからだ。

 

俺のフォームは少々特殊、というかひと昔ふた昔前のフォームとよく言われる。

まず、投球体制に入る前に上半身の力を抜き、脱力しながら打者に相対する。

体の真正面で両腕を大きくかつ時間をかけて持ち上げた後に、素早く左足を上げ、左足を下ろすと同時に右足を捻って沈み込ませる。腕や肘、手首にはほとんど力を入れず、かといって最低限の力を維持するよう配分を調節しながら腕を振り切る。左足を上げてから腕を振り切るまでテンポよく早く動き、フォームから相手のリズムを乱すこともポイントである。

 

リリースポイントを野手に悟られ難いこのフォームは、例え俺の最高球速が球速が140km/hしか出ていなくても、急激に手元で伸びるような錯覚を引き起こし、打者のタイミングをずらす。

また、持ち前のスローカーブなどの変化球と合わせることで、140kmを体感で5km早く見せるといった投球術も、俺の真骨頂だ。

ただ、変化球の変化量がそこまで大きくないから狙われたら割と痛打されてしまうのが玉に瑕だが…

 

「うーん…なんか今日の球、ピリッとせんなぁ。どしたん?」

 

10球ほど投げ込んだところで、彼女はそう言った。

 

「はっはーん。もしかして主将になって不安でもあるん?」

「……まぁ、否定はしない。」

「ありゃ?適当に言ったら当ってしもうたわ。」

 

そうは言うが、大体目星はついていたのだろう。言葉の割に驚いた様子は欠片もない。寧ろ、揶揄うネタを見つけたといやらしい笑みを浮かべていた。

 

「別にいいだろ…後20球残ってるんだ。揶揄うのは後にしてくれ。」

「揶揄うのもそうじゃけど、球があんま来てないのも事実なんよ。若干ミットも動くし…」

 

確かに今日はキャッチャーミットがちょこちょこ動いてた気がする。コントロールで勝負している分、常に人並み以上に制球力には気を配っているつもりだったんだが…

 

「考え無しもいけんけど、考えすぎも良くないわ。ブルペンにいるときくらいは、肩の力を抜きんさい。あんたのフォームは脱力が命やろ?」

「……あぁ」

 

頭ではわかってるけど体までは素直にいかないみたいだ…。その後、投げ込んだ球もあまり良い感触とはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

「全員集合!!」

 

30球を投げ終え、グラウンドでストレッチをしている最中で監督から召集がかかる。いつの間にか、既に部員全員着替えてグラウンドに出ていたらしい。

走って集合すると、そこには二人の男の人が立っていた。一人は、我々鳴響高校野球部の監督なのだが、もう一人は…

 

(シドレミ、監督の隣にいるのって…。)

(音楽の神成先生です。吹奏楽部の顧問でもあります。何の要件でしょうか?

…あとシドレミはやめてください。)

 

近くにいたシドレミに確認を取ったがやはり、吹奏楽部顧問の神成先生らしい。後半の言葉をスルーしつつ、監督からの言葉を待つ。

 

(幾ら顧問とはいえ、野球部と吹奏楽部の不仲は理解している筈…今更何を?)

 

考えている内に、監督は言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。

 

「えぇ、先日の夏の大会は…1勝したとはいえ残念な結果に終わったが…

「監督、回りくどい話は無しにしましょう。」

 

次を急かすように、神成先生は監督の話に割って入った。

 

「分かりました。では神成先生、説明をお願いします。」

 

特に気分を害した様子も見せず、監督は先生にバトンを渡した。

コクっとうなづき、神成先生はこちらに向けて言った。

 

「いいか、お前ら!

この夏から、オレ達吹奏楽部が野球部の練習に協力する事になった!!」

 

 

 

 

 

 

「「「「「……えぇぇぇぇぇぇ!!!!!!?????」」」」」

 

 

 

 

俺たちの声は、グラウンド中に響き渡った。




鳴響は固定キャラクターが少ないので、どうしてもオリキャラが多くなりそうです。
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