『それっぽい技名を言うとそれっぽいことができる』個性 作:りふれいむ
俺は、いつも人に流され、自分から何かに挑戦したことはなかった。何かを成し遂げようとしたこともなかった。
そんな自分を変えたくて、勇気を振り絞って足を踏み出した。
だが、結局何もできなかった。
町中に突如現れた通り魔を捕まえて周りの人を守ろうと、自分の持っていたカバンを武器に向かっていったのだが、パニックに陥った人々の逃げる時間を稼ぐことさえできずに、ナイフで刺されてあっけなく倒れた。
かなり深く刺されたので、もうじき出血多量で死ぬだろう。
「あぁ……痛い」
それが俺の最後の言葉だった。我ながら情けないが、もう声を出す気力は残っていない。
もし、次があれば……何かを成し遂げることはできるのかな…。
そんなことを考えながら、俺の意識は闇に沈んだ。
◆
「……知らない天井だ」
目を開けると、俺は全面真っ白な正方形の部屋にいた。
「あれ、俺死んだんじゃなかったっけ?」
不思議に思いながらも周りを見回してみると、目の前に謎の赤いボタンがあった。他に何かないかと壁や天井の隅までよく見てみるが、どこにもシミ一つない。
埒が明かないから、このボタンを押してみようと思い、もう一度ボタンをよく見てみる。
すると、そのボタンの手前に、『転生に関する抽選ボタン』と書いてあるのを見つけた。
「ふ~ん、転生ねぇ……って、転生!?こんなちゃっちいボタンで大丈夫なのか!?いや、そんなことより本当に転生ってあったのか。架空の話だと思ってた」
前世に未練がないといったら大嘘になるので、もう一度生きられるというのは正直嬉しい。この転生特典抽選ボタンとかいうのが本物だったらの話だが。まあ本物だとして、問題は転生先と転生特典だ。ショボい特典でチートの集まりみたいな世界に行ったら、死ねる自信がある。
『転生に関する』なので、このボタン一つで転生先も特典も、すべて決まるのだろう。
「じゃあ、チート特典こい!」
意を決してボタンを全力で押すと頭上から一枚の紙が降ってきた。どういうシステムになっているのか非常に気になるが、今はそんなことより早く内容を見てみたい。
紙に書かれている文字を読んでみた結果がこれだ。
転生先:僕のヒーローアカデミア
転生特典:それっぽい技名を言うとそれっぽいことができる個性 ※大当たりおまけ付き
名前:神薙奏翔
書かれているのはこの三個だけだった。
上の二つはともかく、名前まで決められるのは意外だった。しかし、前世の自分の名を思い出そうとしても思い出せないから、現時点でもう俺は『神薙奏翔』なのだろう。不思議と身に染みる名前だが、まあ自分の名前だからかな。
「んー、ヒロアカの世界かー。…それにしても、個性最強じゃね?前世で得た漫画、アニメ、ゲームの知識をフル活用できるし、自分オリジナルの技も作れるってことだよな。めっちゃ楽しみ」
おまけというのはなんなのか見当もつかないけど、個性はとてもいいと思う。転生者らしいチート個性じゃないか。
「さあ、どんな技を作ろうかな」
これからのことを考えて想像を膨らましていると、急に目の前が真っ白な光でいっぱいになった。
みんな大好きなチート転生者です!
主人公の名前は「かんなぎかなと」と読みます。