強化人間物語 -Boosted Man Story- 作:雑草弁士
テキサス・コロニーがジャブロー近辺に落下した。不幸中の幸い、ジャブローに直撃はしなかった。けれどジャブローの地上施設は、破片と衝撃波とで大被害を受けている。直撃しなかったのは、コロニーが大気圏上層部で崩壊を始めて、それにより軌道が狂ったからだ。
『ジオン公国は、いやギレン・ザビはまたもコロニー落としを断行した!これを防げなかったのは、慚愧に耐えない……。不幸中の幸い、地上に落ちたコロニーは微妙に軌道を外れ、最初のコロニー落としほどは被害が出にくい場所に落下した。
しかし全く被害が出ないと言うわけでは無かった事も確かだ。此度のコロニー落としによって不幸に遭われた人々に、この事態を防げなかった事を重ねて謝罪する。それと共に、この極悪非道な行為の代償を、かならずやギレン・ザビとその一党に支払わせる事を約束……。』
作戦決行直前の、レビル将軍の演説が続く。これから俺たちは、サイド3ムンゾを攻略するのだ。
『……故に、決して赦してはならない!全軍に告ぐ!これより我が軍はジオン本土、サイド3ムンゾの攻略作戦を開始する!同胞たるスペースノイドを虐殺しておきながら宇宙市民の解放と独立を訴える厚顔さ!アースノイド、スペースノイド関わらず数十億人を殺すその狂気!この戦いをもって独裁者ギレン・ザビを打倒し、地球圏に平和を取り戻すのだ!』
俺はこの演説を、自機アレックス3のコクピットで聞いていた。と言うかレビル将軍も、この演説はアレックス1のコクピットから行っていたはずだ。俺たちの出撃順は比較的早いのだ。けれどまさか、突撃の急先鋒にレビル将軍を置くわけにはいかない。
だがレビル将軍は最前線で自らMSで戦う事で士気を鼓舞してきた経緯がある。そのイメージを裏切らないためにも、最後方で発進するわけにはいかない。よって、前衛でこそないにせよ、第1陣の中盤程度に俺たちレビル将軍直卒部隊は出撃する事になるのだ。
その時、他の機体から通信が入る。
『いよいよだな、中尉殿。』
「やめてくれ、ラバン。頼むから。普通に呼んでくれればいい、普通に。」
『そう言うわけにもいかんだろ、ゼロ中尉殿?まあ、第3小隊長なんだし。それにキリマンジャロ以来、戦果も一番上げてるし。しかも強敵は、みんなお前さんが倒してくれてるしな。』
そう、俺はこの会戦に先立って、中尉昇進していた。なんでまた、と思わざるを得ないが、『ギレンの野望』系世界であれだけ墜としまくれば、1つぐらい昇進するのも、むべなるかな。
同僚達からのやっかみは、驚くほど無い。最初にG-3使ってた事で、嫉妬されたのが嘘の様だ。代わりにからかい半分で、中尉殿中尉殿と連呼されるが。
だが俺は知っている。ラバンの奴はこの部隊の中では技量こそ低目だが、堅実なアシストで着実にポイントを稼いでいる事を。そして奴もまた、昇進が近い事を。レビル将軍とツァリアーノ中佐が相談してるの聞いたからな。
ぶっちゃけ化け物揃いのこの部隊だから目立たないだけで、他の隊に行ったら超エース級だぞ、こいつ。化け物筆頭が何を言うか、と言われそうだが。
『何にせよ、いよいよだな。』
「ああ。これでとりあえず一段落する。」
『……とりあえず?』
「……ああ。とりあえず、だ。言っちゃ悪いとはかけらも思わんが、連邦政府の腐敗、スペースノイド差別、その他諸々。そう言った事柄が解決しない限り、火種はくすぶり続ける。間違いなく、な。
平和は……まだ遥か遠い。」
『……。』
大きく息を吐き、俺はラバンに謝罪する。
「悪かった。空気が悪くなってしまったな。」
『いや……。お前の言う通りだ。俺たちは、戦後どう動くべきなのかな。二度とこんな悲劇を起こさないために。』
「そうだな。軍人には、できることは少ないな。だが、軍人にしかできない事もあるさ。この戦いが終わってから、ゆっくり考えよう。」
ラバンと会話しているうちに、レビル将軍直卒部隊の出撃順が巡って来た。ペガサスのブリッジから、通信士が指示を伝えて来る。
『ゼロ中尉、進路クリア!直近の敵影は薄いですが、前衛を突破してきた敵機が少数!出撃後、中尉のアレックス3はそれを排除し、味方の発艦を援護してください!』
「了解。ゼロ・ムラサメ、アレックス3!出るぞ!」
カタパルトが起動。強烈なGを感じる。アレックス3は俺を乗せて、漆黒の宇宙空間へと飛翔した。
前衛を突破してきた敵機の小隊は、さすがに強敵だった。MS-17ガルバルディα、新型も新型だ。しかも乗っているのは並のパイロットじゃない。無論学徒兵でもない。間違いなくエース級だ。
……だが、そこまでだ。向こうがエースなら、こっちは強化人間だ。しかも機体性能が違う。
「……そこまでだっ!」
3機のガルバルディαを、火球に変える。俺はペガサスに通信を入れた。
「ペガサス!今のうちに皆を出撃させてくれ!」
『了かザザッ!!レビル将軍直卒部隊、順次出げザザッてください!』
ペガサスの右舷デッキから、第1小隊が。左舷デッキからは第2小隊とバージルが。部隊の全機が発艦完了し、フォーメーションを整える。目指すはサイド3、1バンチコロニー……ズム・シティだ。
まあ、簡単にはいかないんだけどな。俺たちの前には、次々と前衛の守りを突破して、レビル将軍機アレックス1を墜とそうと、強敵ばかりがやって来る。パーソナルカラーが許されている機体も、ちらほらと見受けられるからには、エースパイロットなのだろう。
げ。紅いMS-06R-2高機動型ザクに、白いMS-06R-1A高機動型ザク……。ア・バオア・クーで紅い高機動型ゲルググと白い高機動型ゲルググを撃墜したからなあ。以前乗っていた機体で出撃してきたのか、「紅い稲妻」ジョニー・ライデンと「白狼」シン・マツナガ。
06R型のザクは、耐久性や火力では高機動型ゲルググに及ばない。だが単純に機動性だけを比べるならば、比肩し得るか勝ってさえいるのだ。しかも以前は別々に襲いかかってきたが、今回は違う。息を合わせて一緒に攻め込んできている。
『ザザッ……ザザザ、手前ぇ、ア・バオア・クーの恨みザザザッ!!』
『ザザザッやれやれ……。済まないが、付き合ってもらザザッようか。』
あ、こいつら軍法違反だぞ。基本、敵機に通信入れちゃいけないんだぞ。降伏勧告とか以外は。まったく、オープン回線使いやがって。なので俺は通信の返事を返さない。
だから返事代わりに、ビームライフルでの狙撃と、90mmガトリングの乱射をお見舞いする。ビームは紅い機体の片脚を捉え、ガトリングは白い機体の右腕を吹き飛ばす。いや、俺は胴体中央を狙ったんだが、こいつら流石に凄いわ。とっさに腕や脚を犠牲に、核融合炉とコクピットのある胴体を守った。
ちなみにこちらも相手の射撃を受けるが、殺気のラインが見え見えなのだ。こちとら強化人間だぞ。いや、向こうは知らないが。そんなわけで、あっさり攻撃を避ける。アレックス3の機動性は、相手の比では無い。
紅い機体は、爆発する脚部の切り離しに失敗する。胴体部まで誘爆する直前に、ラウンドムーバー……ノーマルスーツの後腰に着けて、宇宙空間を飛ぶためのアレを装備した、紅いノーマルスーツのパイロットが脱出する。武器を持つ右手を失った白い高機動型ザクが、それを拾って逃走した。
追い打ちをかけようかと思ったが、まだまだ敵は多い。と言うか既にレビル将軍の周囲まで、乱戦に巻き込まれている状況だ。前衛部隊ェ……。何やってんだ……。
結局のところ、前衛部隊がポカをやったので、俺たちレビル将軍直卒部隊が最前衛とならざるを得なかった。俺たちを矢じりの先端にして、敵陣を切り裂いて行く。……バージルの奴が疲弊してきた。帰艦命令を出そう。
「バージル!いったん帰艦しろ!なんか飲んで一休みして来い!」
『だ、大丈ザザッ、まだやれます!』
「馬鹿野郎!!命令だこれは!!
お前程度でも、ここで墜ちられたらみんな困るんだ!……それぐらいにはアテにしてるんだ。」
『……了解ザザザッ!!』
バージルのジムスナイパーⅢが、ペガサスへ帰艦する。その後ろを狙ってたMS-14JGゲルググJを撃墜。世話が焼ける……。
『さすが中尉さんザザザッ。面倒見がいいな。』
「からかうな、デリス。……来たぞ!」
『おおっと!?』
マシンガンの銃弾が、宇宙空間を飛ぶ。デリス機はぎりぎりで躱し、ロン機、アレン中尉機はシールドで受けた。流石ガンダムシールド、硬い。……あれは!?
そのマシンガンを撃ったのは、ガンダム面の青い機体。そして両肩の塗装が赤い。
『な、なんでジオンにザザッガンダムがあるんだよ!』
『む、あれは……ザザザッ。諸君!あれは戦争末期に入ったばかりの頃、ザザザ奪われたEXAMと言う新機構の試作実験機だ!若干の改修はなされているザザッだが……。』
『将軍!それは……ザッ。』
あれはRX-79BD-2……ブルーディスティニー2号機か!ニムバス・シュターゼンか!?……バージルを帰艦させておいて、良かった。対ニュータイプOS、EXAMなんかにあたらせたら、あっさり餌食にされてしまう。
俺はビームライフルを撃つ。そして90mmガトリングと頭部のバルカンで乱打し、ビームサーベルを抜いてブルー2号機に迫った。ブルー2号機は、ビームライフルのビームを肩口にかすらせる程度でぎりぎりで避け、ガトリングとバルカンの弾はシールドで防ぎ、同じくビームサーベルを抜く。
アレックス3は、ビームサーベルの出力差でブルー2号機のビームサーベルを散らし、その胴体に光刃を斬り込ませようとする。だがブルー2号機は絶妙な機体制御でシールドを持ち上げ、シールドの1/4を犠牲にしてこちらの攻撃を避けた。
(があああぁぁぁ!!!)
(わたしを……。壊す……。殺すの?)
(!?)
こいつ……暴走してる!今ここには俺とレビル将軍、最低でも2人のニュータイプ能力者がいる!それを感知したのか!
「レビル将軍、退避を!こいつ、EXAMは対ニュータイプ用OS!俺と将軍を感知して、殺そうと暴走しているんです!」
『ザッんだと!?』
ブルー2号機がアレックス3を躱してレビル将軍のアレックス1に迫ろうとする。俺はアレックス3の左足でブルー2号機を蹴飛ばし、方向を強引に変えさせた。ブルー2号機は、再度こちらに迫りくる。
それを支援せんとしてか、MS-09R-2リック・ドムⅡが3機、ジャイアント・バズを撃ちつつこちらに突っ込んで来る。第2小隊機のG-3仕様ガンダム3機がそれを防がんとそちら方面へ展開……。
だがその3機のリック・ドムⅡは、ブルー2号機によりあっさり撃墜される。
『なっ!み、味方を撃っザザッ!?』
「奴は暴走してるって言ったろ!?」
『……!!……避けろ。』
「!?」
殺気の無い射線が見えた。いや、殺気は無くは無い。だが極めて薄い。何かに抑えられている様だ。……機械仕掛けの殺気を抑えているのは、パイロットか。
上方向からマシンガンの弾が降り注ぐ。それを俺とレビル将軍は、楽々と避けた。ブルー2号機は半壊したシールドで受けるが、受けきれるはずも無い。3、4割は弾をくらった模様だ。……来たか、ユウ・カジマ少尉!
『……ザザザッ……。』
なんか喋れよ。いや、『ギレンの野望』系のユウ・カジマは喋らないんだったな。さっき「避けろ」と言ったのが奇跡的か。そして上方から高速で突っ込んで来る、ガンダムタイプの白いMS。RX-79BD-3……ブルーディスティニー3号機だ。
「いいか!ブルー3号機は味方だけど、パイロットが必死で暴走を抑え込んでるだけだ!近寄るな!
レビル将軍!将軍は特に駄目です!アレックス1と将軍なら勝てるとは思いますが……。」
『わ、わかっザザッ!』
『了解です。』
『うむ……ザッ。』
俺たちは、他の寄って来る敵を叩く事に専念する。バージル、今は戻ってくるなよ?
ブルー2号機とブルー3号機の戦いは、ブルー3号機に軍配が上がった。俺がブルー2号機のシールドを破壊していた事が、勝敗を分けたらしい。ブルー2号機は、頭部を完全破壊されて機能停止状態に陥っている。……これが普通のMSだったら、「メインカメラをやられたくらいで!」なんだがな。
だがEXAM機は頭部にEXAMを組んだコンピューターを搭載しているからな。頭部を失えば……!!
『……撃ってくれ。』
「おい!今度はお前を撃てって言うのか!?」
『……。』
くそ、とうとうユウ・カジマ少尉が暴走を抑えきれなくなったか。ブルー3号機は、マシンガンとCミサイル、ヘッドバルカンを乱射しつつ、俺を殺そうと突っ込んで来る。だがな、機械の殺気は分かりやすいんだよ!
アレックス3はぬるりとした機動で、ブルー3号機の攻撃を躱す。そして抜き放ったビームサーベルでその機体を切り払う。だが、あたりが浅い。至近距離でヘッドバルカンを撃って来るブルー3号機。俺はアレックス3に、シールドを突き出させる。次々にシールドに着弾が来る。
そして次の瞬間、ブルー3号機の頭部は粉砕されていた。アレックスには腕部に90mmガトリングが仕込まれているのだ。それを至近距離でぶっぱなした。いかにマリオン・ウェルチの意識を移殖されている対ニュータイプ用OSのEXAMとは言え、至近距離からの隠し武器は避けられまい。
……ユウ・カジマ少尉、生きてるかな。あ、コクピットが開いた。よろよろと、しかし、しっかりと生きているユウ・カジマ少尉が出て来た。俺はアレックス3の左手を差し出す。
「つかまれ。改ペガサス級強襲揚陸艦、ペガサスまで送る。」
『……。』
ユウ・カジマ少尉は大人しくつかまった。俺はレビル将軍に報告する。
「レビル将軍、弾切れ、エネルギー切れです。補給のため、ペガサスまで戻ります。」
『うむ。第1小隊もそろそザザッ補給したいと思っていた。ザザザッ第1、第3小隊は補給のためペガサスへ一時帰還する!』
『『「了解!」』』
第1小隊と第3小隊、と言っても第3は今俺だけで、バージルは先に一時帰艦してるが。それがペガサスに帰艦してる間、第2小隊はペガサス周辺まで後退し、第1と第3が再出撃してくるまで護りを固める。そして第1と第3が出て来たら、入れ替わりで補給に戻るのだ。
ペガサスはペガサスで、今まで敵のティベ級重巡洋艦とやりあっていたらしい。見事に沈めたが、ペガサスにも少々の被弾があった。こりゃ、この戦い終わったらドック入りしないとな。
ペガサスに帰艦次第、ユウ・カジマ少尉は医療班に運ばれて行った。アレがこの辺にいたって事は、フィリップ・ヒューズ少尉とサマナ・フュリス曹長もこの辺の宙域でがんばってるのかもな。
俺はアレックス3の補給を行っている間、何か腹に入れるべく、控え室へと向かう。レビル将軍たち第1小隊も、わらわらと控え室へと宙を飛んでいく。無重力だからできるんだが、あまりやらん方がいいんだがな。戦闘中だから、突然急な機動を艦が行ったら、事故が起きるかも知れん。
いや、マジな話、こんな所で事故起きて将軍倒れられたら困るんで、きちんと通路歩いて欲しいです、レビル将軍。
とりあえず、敵のエースパイロットと思しき連中を倒し、あるいは撃退したため、こちら連邦軍の士気はかなり高い模様だ。だが実はこちらもエース中のエース、ユウ・カジマ少尉が脱落している。EXAMに関わる機密事項のため、記録が抹消されてるけど、公表されてたら連邦軍でも5本の指に入る撃墜数なのだ。
まだサイド3ムンゾの戦いは続く。ここでユウ・カジマがドロップアウトしたのは、凄く痛い。EXAMは、戦術的には有効なのかも知れんが、マイナス面の方が大きいよな。うん。普通のジム系MSに乗せておけばよかったんだ。それこそジムスナイパーⅢとか。
俺は乗機たるアレックス3を見遣りつつ、ハンバーガーを齧りドリンクを飲む。まだまだ戦いは続くのだ。気合いを入れねばならない。……そう言えば、第2艦隊も今頃グラナダを攻めている頃だが、どうなっているだろう。向こうにはもうキシリアも居ない。あっさり片が付くか?それとも頑強に抵抗するか?抵抗しそうだよなあ……。
勝つことは間違い無いだろう。だが出る被害の大きさに、俺は頭痛を覚えた。いや、比喩的にじゃなく、本気で痛かった。いつもの頭痛、ほんとに治らないものかね。
今回は、ジオン本土サイド3攻略作戦の前半と言うか前哨戦と言うか、そんなもんです。さくっと終わらせようかと思ったのですが、やっぱりそうも行きません。
と言うわけで、「紅い稲妻」と「白狼」に賑やかしで登場してもらった上で、ブルー2号機と3号機に登場してもらいました。