強化人間物語 -Boosted Man Story- 作:雑草弁士
撃つ、撃つ、躱す、躱す、躱す、斬る、斬る……。何度繰り返しただろうか。だが、この敵強化人間パイロットの能力は恐ろしく高く、なんとか敵機の左腕を斬り落としたものの、こちらもシールドを敵のクローで失い、そして未だ決着はついていなかった。
この敵は、技量自体はそこまで高いわけではない。なんとか高く見て、一流の中ほどだ。だが反射神経が動物的に高く、その上で人工的ニュータイプ能力でそれが増幅されていやがる。……肉体的な強化の度合いは、もしかして俺よりも上かもしれない。なんてこった。
しかし、それでも分はこちらに有利だった。ニュータイプ能力では、こちらが高く、強化人間としての総合力ではほぼ互角。そしてこちらには一年戦争を潜り抜けて来た戦闘経験がある。
この敵とやり合うために、全体指揮を次席指揮官であるユウに委譲せざるを得なかった。……大丈夫だろな?いや、ユウは指揮能力では俺をはるかに上回る。きっと大丈夫……。
『……!!』
『なんだぁ!?ちっ、了解っ!!こちら第3小隊フィリップ中尉!3-0だ!ユウの奴が強敵相手で身動きが取れなくなった!これより俺が全体の指揮を執るぜぇっ!』
……!?感じる!!あっちにも強化人間が!!こっちよりかは若干人工的ニュータイプ能力は弱いが、隠すのが上手い……。くそ!ユウとマリオンに頼むしか無いか……。
2人も強化人間を投入してきてるだなんて、敵も本気だ。だが、焦るな、焦るな!こいつは強い!俺の方が強いが、それでも下手すればひっくり返りかねない差でしか無い!
レイラ機がジム・ライフルで、乱入しようとしたハイゴッグを破壊する。ィユハン曹長機が、通常型ゴッグと撃ち合い、ビームキャノンで敵機を撃破するものの、シールドを1撃目のメガ粒子砲で破壊され、2撃目のメガ粒子砲で左腕を撃ち抜かれる。ああ、せっかく直したのに。
俺は凄まじく動きの速い、黒塗りのズゴックEを撃つ。それを奴は躱す。そのハンドビームカノンが、コクピットの俺を正確に狙う。俺のアレックス3は、それを躱す。らちが明かない。ビームライフルのエネルギーも、そろそろ底をつく。
と、ズゴックEから戸惑った様な気配が。そして突進してクローを突き出して来る。俺はアレックス3にビームライフルを捨てさせてビームサーベルを抜かせた。
そして、ズゴックEは胸部のコクピット付近を穴だらけにされ、右腕を斬り落とされて大地に頽れる。勝負の決め手になったのは、いつものゼロ距離からの左腕90mmガトリングだ。俺のアレックス3は、頭部V字アンテナの片方を折られる程度で済んだ。
敵パイロット、強化人間は絶命したのを確認している。だが俺は、強化人間の最後の……最期の絶叫をニュータイプ感覚で聞き、嫌な想像に囚われていた。
(やめて!おねがい、もう堪忍して!博士、マコー……。)
この強化人間、女だったのか……。一年戦争ではジオン軍の女パイロットも大勢殺したから、その事については若干しか思う事は無い。まあ、若干は嫌な気分になるが。だが、この女……。最後になんて言いかけた?マコー……とか言いかけていた。まさか、「マコーマック博士」じゃないだろうな。
くそ、今はそんな事気にしてる場合じゃない!
「敵機撃破!これより1-0が再度指揮を執る!」
『こちら3-0、了解!指揮権お返ししますぜ!報告!あと残ってるのは、ユウたちの所だけだぜっ!』
「了解だ!敵は異常に強力だ、1-0と1-1がこれより支援に向かう!それ以外は近づかずに残敵がいないか確認と警戒にあたれ!」
『『『『『『了解!』』』』』』
俺はレイラ機を伴って、ユウたちがいる戦場に向かう。勿論その前に、捨てたビームライフルを拾って行くのは忘れない。林を回り込むと、ユウたちが戦っているのが見えて来た。
なんてこった、マリオン機は頭部を失って、しかしそれでもニュータイプの感覚で正確に支援射撃している。ユウの機体は左腕とジム・ライフルを失い、ビームサーベルで白兵戦をしていた。敵機は同じく黒塗りのズゴックEのカスタム機だ。右腕を失っている。
ユウ機のビームサーベルが一閃!ズゴックEはそれをぎりぎりで跳んで躱した。だが、それがミスだ!俺のアレックス3は、ビームライフルでそのズゴックEを狙撃した。……!?
今、ズゴックEは残された左腕を大きく振って、強引に1G環境下でAMBACを使用、ぎりぎりでビームを避けやがった。あれは、俺がG-3に乗っていた頃に、陸戦でよく使っていた回避方法……!!しかも動きまで精密にコピーされていた。まさかあのズゴックE、俺の戦闘データをコピーされてる?
しかしレイラ機が、俺に呼吸を合わせてジム・ライフルを撃つ。さすがにズゴックEも、2度は躱せなかった。いや、俺だったらもう1度強引にAMBAC機動使って避けるが、俺はG-3時代そこまで追い詰められた記憶は無い。つまり俺の戦闘データには、2度連続して地上でAMBAC機動使ったデータは残っていない。
腹部から胸部を撃ち抜かれ、俺に取って幸いな事に爆散はせずに、ズゴックEは駆動系だけをやられて動きを止めた。俺は個人回線で、レイラ、ユウ、マリオンだけに命令を下す。
「そいつは強化人間だ。たぶんマインドコントロールされてるから、降伏はしたくてもできんだろう。降りて行って捕らえるしか……!?離れろみんな!!」
『……!!』
『了解!』
『はいっ!!』
皆の機体が後方にブーストダッシュで下がった瞬間、黒塗りのズゴックEは爆散した。しかも通常のMSの爆発よりも、規模が大きい。……証拠隠滅のための、自爆装置だろう。俺が先ほど倒したズゴックEは、自爆しなかった。と言う事は、あちらには証拠になる様な機材は搭載されていないんだろう。……「横流しされた俺の戦闘データ入り、制御コンピューター」とかな。
俺は気分が重くなった。むざむざ証拠物件を失ってしまったのもそうだが、もう1つ気に入らない事があったのだ。
(あ……。ママだ……。きてくれた!ママ、きてくれたんだね!マ……。)
こっちの強化人間の、最期の思念。……子供の物だった。
「くそったれ……。」
『……ゼロ。気を落とさないでって言っても難しいかも知れないけれど……。』
個人回線で、レイラが俺に慰めの言葉をかけてくれる。そして彼女の思念が、一生懸命に俺を包み込もうと努力しているのが感じられた。レイラのニュータイプ能力は弱い。だが、それでも感じ取れるほどに、あの子供の強化人間の思念は強かった。だから彼女はすべて分かってくれているのだ。そしてその弱いニュータイプ能力を限界まで振り絞って、俺を支えようとしている。
「……もう大丈夫だ。ありがとう、レイラ。それより、お前は大丈夫か?奴を撃墜したのは、お前だろう。無理はするな……。」
『うん……。わたしは大丈夫。』
「そうか……。」
一瞬、全天モニターに映るレイラ機に、通信モニターに映るレイラの姿に、俺は宇宙を見た。……宇宙に上がりたい。ふとそう思った。
部隊の各員に報告をさせたところ、周囲に敵影は無く、安全が確認された。味方機で最大の損傷を被ったのはダミアン曹長のジム・キャノンⅡで、左腕を肩口から吹き飛ばされ、左肩のビームキャノンをえぐり取られた。
またカレン少尉機とマリオン軍曹機は頭部を飛ばされて、ユウ機とィユハン曹長機が左腕を失っている。その他にも、シールドや武器を喪失した機体は多い。敵が乾坤一擲の気合いを込めて強力なパイロットを多数投入したとは言え、損害が多い。だが1人たりとて人員の喪失が無かったのは幸いだ。
レイラが戦闘終了の通信連絡を入れて、やがてミデア改5機編隊が戻って来た。
もっとも近隣の連邦軍基地である、パナマ運河警備隊駐屯地から兵を出してもらい、アボット少佐による尋問が終了した捕虜を引き取ってもらう。また、パナマ運河警備隊が持つ旧式ミデアを借り、強化人間が乗っていた黒塗りのズゴックEを回収してジャブローに運ぶ事になった。
返す返すも、あのもう1機のズゴックEの自爆を許したのが惜しいと思う。証拠物件として、確実な物になり得ただけに。ちくしょう……。
そんなこんなで、ぶーたれている内に、丸1日が過ぎた。旧式ミデアの速度に合わせても、あと2日後にはジャブローに到着する。今は南米にある小規模な連邦軍基地で、燃料補給を行っているところだ。と、アボット少佐がやって来た。そろそろ来ると思ってたんだ。
「ゼロ少佐、よろしいですか?」
「かまいませんよ。……例の事ですか?」
「例の事です。キシリアが、話したいそうです。お時間は?」
「大丈夫です。ただ、レイラ少尉が一緒でかまいませんね?」
「む……。」
アボット少佐は一瞬詰まるが、頷く。俺とレイラは、アボット少佐に先導されてキシリアを監禁している部屋へと向かった。そして俺たちは、キシリア・ザビと向かい合っている。ちなみに、キシリアの監守兼護衛である、4人のゴツい女性兵士は、無表情のままキシリアを取り囲んでいたりした。
「……自分がこの部隊の指揮官、ゼロ・ムラサメ少佐です。キシリア・ザビ殿。こちらは自分の副官……。」
「……レイラ・レイモンド少尉、か。」
「!!」
「そうでしたね。貴女はフラナガン機関の後援者で設立の立役者、彼女の事は知っていてもおかしくないんでしたね。
そうです。彼女は自分に「救出」され、連邦へ亡命して連邦軍に志願しました。紆余曲折あり、今は自分の副官です。」
キシリアは、不敵に笑う。ただ、なんとはなしに儚げな物も感じさせる笑みだった。
「そうか……。わたしがキシリア・ザビ少将……いや、ジオン公国はもう無いのであったな。ドズル兄であれば、父デギンと自身がいる以上、まだ滅びてはいないと叫び続けるやも知れぬが……。
言い直そうか。わたしがキシリア・ザビ元少将だ。」
「……それで、貴女は自分に何を仰いたいのですか?そちらが自分に会見を望んだ、と聞きましたが。」
「連邦の誇るニュータイプの1人に、会ってみたかったのが1つ。そして伝言を願いたかったのが、1つだ。まさか、自分の罪の象徴の1人と出会えるとは、思ってもみなかったが。」
俺は苦笑を浮かべる。
「今、真の意味でのニュータイプなど、1人もいませんよ。自分とて、「ニュータイプ」ではありません。いるのはニュータイプ能力を持った、オールドタイプだけです。でなければ……。まあ、オールドタイプもあながち悪くはない物ですが、ね。
いえ、それで伝言、とは?」
「……レビルに伝えて欲しい。そちらの情報将校でも伝わるとは思ったのだがな。細かいニュアンスまで間違えずに伝えるには、貴殿の方がいいと、そう思ったのだ。」
「……聞きましょう。」
キシリアは、笑みを消して、はっきりとした口調で言う。
「レビルに伝えてくれ。「間違えるな」と。「踏み外すな」とな。……わたしたちは、誤った。兄ギレンの方針に賛同してしまった時点でな。……否。それだけではない。わたし自身も、誤った道を邁進してしまった。踏み外してしまった。
手段を選ばない、とはある意味で泥をかぶる事を厭わぬ、勇気ある決断にも聞こえよう。手段を選ぶ余裕が無かったと、言い訳もできよう。だが違う。この1年、獄中で考え抜き、今更ながらに、それがわかった。」
「……。」
「妙な言い方になるが、「手段を選ばない」とは、その後に「手段を選ぶ」道を選べなくなる事なのだ。そうだな……。
正道と、汚い手段と、2つの道があるとする。正道を進むものは、いざと言う時に汚い手段を選ぶ事もできる。だがいったん汚い手段を選んでしまった者が、正道を進むと言って、誰が信じる?手段を選ばない事は、単純な方法論としても、選択肢を狭める最後の手段なのだよ。」
キシリアは、苦笑いを浮かべる。
「馬鹿だった……。自分が賢いと、信じ切っていた馬鹿ほど、始末におえん物はないと言うのにな。
レビルに伝えてくれ。常に自らが正道を行っているか、自らに問いかけ、決して誤るなと。過ちを犯したならば、間に合ううちに軌道修正せよと。踏み外すな、邪道に頼るな、と。」
「……了解した。」
「おっと、ついでに付け加えるが……。わたしはまだ、「死んで」はおらぬ。レビルが過つ様であれば、たとえ獄中からでも、それこそ地獄の底からでも復活し、今度こそその首を取り……。今度こそ……。今度こそ、真にスペースノイドのために戦うとな。
以上だ。」
最後の言葉は、笑いを含んでいた。……一言一句間違えずに、レビル将軍に伝えよう。俺たちは、キシリアの部屋を後にした。
連邦軍ジャブロー基地に、俺たちはようやく到着した。キシリアは、4人のゴツい女性兵士に連れられて、ミデア改1番機を降りる。一瞬目が合ったが、それっきりこちらを見もせずに、何処かへ連行されていった。
そこへアボット少佐が近づいて来る。俺とレイラは、彼に敬礼をした。彼も俺たちに答礼を送って来る。
「やれやれ、想像していたよりも大変な旅でしたな。」
「……。」
「ジオン残党の強化人間が2人も出現した事になります。今後、我々がとてつもなく忙しくなりそうです。」
「間違いなく。自分の報告書は読んでいただけましたか?」
アボット少佐は、眉を顰めつつ口を開く。
「貴方の戦闘モーション……。そのデータが盗まれて流用されている疑いが濃い、との事でしたね。しかも証拠隠滅のため、機体は制御コンピューターごと自爆、消滅。
貴方とは機動がまったく違うもう1機が、自爆装置を組まれていなかったのも、その疑いを濃くする一因だと……。」
「きっちり調べてください。下手をすると、大変な事です。」
「一度レビル将軍にまで上げる必要はありますが、間違いなく調査命令が出るでしょう。その件についてはご安心を。
それでは私はこれで。もし次回があるなら、貴方がたの様な精強な部隊とご一緒したいですな。できれば、貴方がたその物で。」
俺は笑いながら、アボット少佐に向けて言葉を発する。ちなみに笑ってはいるが、目は笑ってない自信があった。
「自分の方は、正直ご免被りますね。自分を含めて、味方をトラップのエサに使う人物とは。」
「……ほう?」
「貴方は、いえ諜報部の上は、どこから情報漏れが発生しているか、早急に確かめる必要に追われた。そして各々違う人物に、今回の護送ルートの情報を流した。それぞれ、切れ切れに一部のルートの情報だけを。
あとは簡単です。旅程の、どの部分で敵ジオン残党が待ち伏せているかで、誰が情報を漏らしているかわかる。まあ、情報を受け取っても動かない敵や、今回は情報を流さなかった者もいるかもしれませんが、少なくとも情報漏れルートの幾つかは、確実に特定できる。」
「……。」
アボット少佐は笑顔のままだ。その下の感情は、だがけっこう激しく動いていた。
「それだけじゃない。あんた……。いざ奪われそうになったら、キシリアを自分の独断で消す用意もしてただろ。」
口調をはすっぱにして、言ってやった。今度こそ、アボット少佐は驚いた。図星を刺されたのだ。顔は笑顔のまま動かなかったが。
「……ま、そんなわけですよ。ご自身の命さえ駒にしてしまう貴方といっしょでは、自分の命だけじゃない。部下の命も危うい。たまったもんじゃ、ありません。
命令とあらば、仕方ありませんけどね。」
「たぶん次があるならば、命令になるとは思いますよ。
しかし、全部見抜かれるとは思いませんでしたよ。」
「ほう?お認めになるので?」
「無論、冗談ですとも。わたしの同僚には、こう言った場合鉄面皮で黙秘する者とかもいますがね。わたしはこうやって認めてしまう事にしてるんです。無論、全部冗談ですけどね。」
「ははは、なるほど。」
疲れる男だった。俺は彼に敬礼を送る。レイラもそれに倣った。彼も答礼を返して来る。
「そろそろ失礼いたしますよ。自分個人としては、次にこの様な危険極まりない任務の時には、ぜひ貴方がたの部隊にお願いしたいです。と言うか、権限が許す限りで指名いたします。
それでは。」
「それでは。」
アボット少佐は、近場の軍用エレカ置き場まで歩いて行く。あそこでエレカを借りて、諜報部の入っている建物まで行くつもりなのだろう。
「やれやれ、ありがた迷惑だ。」
「ほんとね……。」
5機のミデア改と、借りものの旧型ミデアから、「オニマル・クニツナ」隊のMSや備品、第01独立小隊のMSや備品、そして鹵獲した敵強化人間のズゴックEのカスタム機などが運び出されて行く。その確認作業と書類仕事が終わったら、ツァリアーノ大佐とレビル将軍に報告に行かねばならない。
だがなんとか今回も、1人の犠牲も出さずに終わる事ができた。俺はごりごりに凝った肩を、ぼきぼきと音を鳴らして回す。流石に疲れたが、平の部隊員たちとは違い、俺と副官と小隊長たちはまだ休めない。やれやれだ。
「今日はお茶うけに、何か凝った物を作るから期待しててね。少佐どの?」
「お。そりゃ楽しみだな。うん。」
その言葉を聞いたとたん、俺の思考は既にお茶うけの菓子の事でいっぱいになっていたりする。そうと決まれば、さっさと仕事終わらさないとな!
ジャブローに到着です。でもレビル将軍への報告は、次話に回しますね。
ところで、タイトルが「狸と狐と強化人間と」ですが、順番は逆ですね。強化人間→狐→狸の順でした。
しかし、ユウが全力を発揮できないのはキツいですねー。あとマリオンもそろそろ機体能力の限界まで使い切ってる感じ……。この2人に、何か新型機を……。アレックス級のを……。そう考えてるんですが、なかなか候補が。いえ、ユウの方はもう決定しましたが、マリオンの新型機がなかなか。
それでは次回をお楽しみに。