強化人間物語 -Boosted Man Story- 作:雑草弁士
執務室で、レビル将軍は難しい顔をしていた。俺の報告を受けて、考え込んでしまったのだ。
「ゼロ少佐の戦闘データを移殖されたらしきスゴックE……。しかし、自爆装置で証拠は隠滅された、か……。」
「一年戦争中に、アムロ曹長……現候補生の、RX-78-2ガンダムのデータをRGM-79ジムのコンピューターに移殖してOSを強化した事があったはずですが、それと同様の技術かと。」
「ゼロ少佐のデータを持って行ったのはマコーマック博士……。こちらにも原本のデータはある事はあるが、そのままでは使えない未処理の生データだ。ますますニュータイプ研への疑いは、濃くなったな……。」
ニュータイプ研の内偵調査は、順調に進んでいる。あと少しで、確証が得られると言う所まで来ているのだ。確証が得られれば、一気に内部査察を行い、証拠を押収する。そして違法研究の咎で研究員や所長を逮捕できるのだ。
更にレビル将軍の命に反し、強化人間を追加で「制作」あるいは「生産」していた場合はもっと重い罪に問える。またはデータを横流ししていたり、あるいは最悪な事に強化人間そのものを外部提供してデータを取ったりなどしていた場合は……その相手如何に関わらず、国家反逆罪で逮捕できる。ましてや相手がジオンの残党だったりすれば……。
「だが強化人間の件、まだ完全にニュータイプ研のしわざと決まった事ではないのが歯がゆいな。」
「たしか、諜報部の者たちがフラナガン機関に突入し、被験者を救出した際に……。研究データを奪取もしくは破棄、被験者は全員救出できたものの……。」
「うむ。彼らは目的を最低限達すると、撤退せざるを得なかった。警備の兵士や妨害する研究員程度は彼等でも倒せたが、専門の戦闘部隊が来れば彼らでは太刀打ちできん。それが来る前に撤退したので、生き残りの研究員が多数おるはずなのだ。
終戦後、あらためてフラナガン機関は接収したが……。研究員の数は……。」
将軍と俺は、少しの間黙り込む。
「最悪の予想をしてしまった顔をしておるぞ。」
「はい。生き残りの研究員と、ニュータイプ研が接触していたなら……。」
「うむ……。」
俺たちは暗い顔になった。ニュータイプの能力で感じ取れる将軍の感情……今は隠していないが、それも重苦しい物を感じさせる。だが将軍は、頭を振って気持ちを切り替えた様だ。
「ところで、諜報部の報告書によれば少佐、君はキシリア・ザビより伝言を預かったそうだが?内容は報告書にも別紙で添付されておったが、まずは君から聞こうと思ってな。そちらは読んでおらんのだ。」
「はい。では……。」
俺はキシリアが話した内容を、一言一句違えずにレビル将軍に話した。……あれ?俺ってこんなに記憶力良かったっけ……?そういや、この疑問は士官学校在学中にも何度か……。俺ってこんな頭良かったかって……。それでも他の候補生になんとか並ぶ程度だったが。
ま、まあいいや。間違えずに話せた事が、まずは重要だ。
「うむ……。そうか、キシリアがな……。」
「はい……。」
「ふう……。戦前に……。開戦前に、気付いていてくれれば、な。いや、色々と不満は持っておっても、今まで何もできなかった……。しなかった……。わたしの言える事では無いが……。
それでも、開戦前に気付いてくれていたなら……。」
俺は、何に対する不満が将軍にあったのか、などとは訊かなかった。当然ながら、地球連邦政府の方針に対する不満である事は百も承知、だからだ。その不満は、『私』と『俺』が完全融合を果たしてからの1年と少しで、むくむくと俺の中にも育っている。
自分でも、自分のキャラがブレブレだとは思うが、けっしてブレない人間なんていないと思う。色々派手な経験もしたし、『俺』『私』の融合もしたし、仕方ないだろー!
でも、レイラを好きで、愛してるのは本当だ。そこはもうブレないと思う。それに元フラナガン機関の子供たちを不憫に思い、応援してやりたい、あいつらの道を切り開いてやりたいと願っているのも本当だ。俺だけでは手に余る仕事だが、皆で協力すれば、なんとか……。
あと世界の痛みを少しでも少なくしたいとも思っているが、それはそれこそ、俺だけでは手に余る。レビル将軍を少しでも助けて、その力になれれば、あるいは。あとは以前共振現象を起こして共感したニュータイプ能力者たちの協力があれば……。
そう言えば、そのうちの1人であるバージル、今どうしてるかな。北米の士官学校入ってるはずだが……。
「……さて、話は変わるが。君から幾度も申請のあった、ガンダムNT1アレックスに比肩するMSの、ユウ・カジマ中尉への支給なのだが……。頭の固い連中の説得に、ようやく成功したのでな。承認しよう。」
「それは!助かります。カジマ中尉も喜ぶでしょう。機体は何を?」
「いや、わたしの予備機として死蔵されていた、アレックス2だ。アムロ君の乗機であった、あの機体だよ。」
「ありがとうございます、将軍!」
正直、すごく助かる。ウィリアム整備長には文句を言われるかも知れないが、アレックスを2機揃えておけると言う事は、整備上でも色々融通が利く。あとは、そろそろ限界に達しつつあるマリオンの機体なんだが……。
「それとだな。最近新型機として採用された、RGM-79RジムⅡとRMS-106ハイザック……。だがコストはともかく、性能的に僅差でジム・カスタムに劣る。そのため君の部隊への配備は躊躇しておったのだが……。
RMS-106CSハイザック・カスタムの先行量産機1ロットがロールアウトした。これを君の部隊のジム・カスタムおよびジム・キャノンⅡと差し替えようと思う。」
「はっ。了解です。」
「それと君から以前提案のあった、ムーバブル・フレーム機の開発だが……。これについての研究は、既に一部で進んでいたよ。もっとも機体の全てではなく、腕部など一部に使用する程度だが……。
全身に使用するには、更なる研究が必要な様だ。フランクリン・ビダン技術中尉の論文だ。」
「そうでしたか……。」
ため息を吐いて、レビル将軍は頭を振る。
「フランクリン・ビダン技術中尉は、今の所アナハイム・エレクトロニクスに出向しておる……。アナハイムの戦後の膨張を抑えるべく、色々行ってはきているのだが、かんばしくない。おまけにビダン技術中尉はコリニー派閥に近い人物だ……。なんとかこちらに取り込みたいのだがな……。」
「は……。」
「コリニー派閥と言えば、もう1つ。ツァリアーノ大佐から、話は聞いたよ。ベルファスト基地で、スペースノイド出身士官やらスペースノイドに対して穏健な将兵らが、肩身が狭くなっていると言う事だな。司令官はカメロン・コネリー少将だったな……。
ベルファスト基地に関しては、現状こちらの派閥に取り込むことは困難だな。対ジオン残党に関しては協力できるが……。迫害されている将兵に関しては、ツァリアーノ大佐と相談して手を打つ事にしよう。」
と、ここでレビル将軍の顔が引き締まる。俺も、顔を引き締めて直立不動の姿勢を取った。
「ツァリアーノ連隊第01独立中隊「オニマル・クニツナ」隊に命じる。明後日の7月1日、貴官らはシャトルにて地球連邦軍宇宙基地ルナ2へ赴け。
その後貴官らは、改ペガサス級強襲揚陸艦ブランリヴァルを旗艦とする第42独立戦隊へ合流し、機種転換と空間戦闘の訓練に入れ。」
「了解いたしました。訓練期間はいかほど……?」
「42に合流後1週間以内ならば、あえて期限は設けん。ただし可能ならば、部下を早目に仕上げてもらいたい。重要な任務を与える予定なのでな。だがだからと言って、部下が新型機や宇宙空間に不慣れなままでは困る。見極めは任せる。」
「はっ。了解です。ところで、その重要任務とは?」
将軍は頷き、そして言った。
「一年戦争のソロモン宙域でのとき、あの精神世界で君に見せられた未来……。デラーズ・フリート本拠地、『茨の園』になる予定のサイド5暗礁空域……。いや、今頃は既に完成しておるやも知れんな、『茨の園』は……。
訓練が完了次第、君の部隊と第42独立戦隊には、『茨の園』推定宙域を含むサイド5暗礁空域の偵察任務を与える。宇宙でのジオン残党の動きから言って、まずあそこに拠点があるのは間違いないが、君たちにはその確証を掴んで欲しい。」
「了解しました。至急、宇宙へ上がる準備を命じます。」
「うむ。この偵察の結果で、連邦軍の将来の動きを決める事になる、重要な任務だ。頼むぞ。
これが命令書だ。内容は今語った事と変わりないが、一応目は通しておいてくれたまえ。では下がってよろしい。」
俺は命令書を受け取ると、レビル将軍に敬礼をする。レビル将軍も、答礼を返して来た。俺は将軍の執務室を退室すると、急ぎ自分の執務室へ向かう。宇宙へ上がるための書類を整えねばならないのだ。
ツァリアーノ連隊第01独立中隊、「オニマル・クニツナ」隊は、宇宙へ上がった。今、俺たちのシャトルはルナ2へ入港しつつある。シャトルは1隻じゃない。中隊全員のMSを含む機材も積まれているのだ、1隻じゃあ足りない。4隻だ。1隻につき、1個小隊の人員と機材が詰め込まれている。
「ルナ2も、1年以上来てないのか……。」
「わたしはだいたい、1年ぶりね。」
「手紙は時々来るが、それじゃわからない事もあるからなあ……。元気だといいんだが。」
「そうね……。」
俺とレイラが話しているのは、当然の事ながらフラナガン機関から救出された子供らの事だ。やつら手紙は定期的によこすが、なにせ子供の書く手紙だ。楽しそうにやっているのは分かるんだが、細かい近況と言う点ではわかりづらい。クスコ軍曹の手紙もあるのだが、さすがに13人もいると1人1人の事は細かく書けないし。
やがて俺直卒の第1小隊が乗ったシャトルが、定位置に固定された。俺たちはそろぞろと、シャトルを降りる。今は標準時でイチロクマルサン……16時03分だ。第42独立戦隊が入港して来るのは、明日正午の予定なので、到着の報告と書類仕事を終えたら、それまでヒマができる。あの子供らに、会いに行く時間がとれれば良いんだが。
ルナ2司令、ワッケイン中佐に面会して到着の報告を済ませた後、レイラと一緒に一生懸命になって、書類仕事を終わらせる。その結果なんとか夕飯前には時間が取れ、俺とレイラは焼き菓子を土産に子供らのところへ向かった。あらかじめ、クスコ・アル軍曹には電話連絡を入れてある。向こうは急な事で驚いていたが、嬉しそうだった。
「おう、来たぞ。ハリー、ケイコ、ジェシー、アルジャノン、カール、ブレット、ハワード、アーヴィン、リサ、ルーシー、メイジー、ニコラ、ルビー。お前らしばらく見ないうちに、でかくなったなあ、ははは。」
「ほんと。子供は成長が早いって言うけれど……。みんな、いい子にしてた?」
「あ!レイラさんと中尉さ……少佐さんになったんだよね、ごめんなさい!」
「あははは。少佐さんに、それは失礼だろー?」
あっと言う間に、俺たちは子供らに取り囲まれる。クスコ軍曹が、笑いながら敬礼をしてきた。ユウ中尉とマリオン軍曹が先に来ており、彼らも敬礼をしてくる。俺たちも答礼をした後、クスコ軍曹に話しかけた。
「久しぶりだな、クスコ軍曹。元気だったか?これ、土産の焼き菓子。」
「ありがとう。ええ、一応ね。この子らも、大人しいし。ただ、オヤツ時は騒がしくなるけどね。
ところで、半年前だかにもらった手紙では、付き合ってるのよね、あなたたち。式には呼んでよね?」
「うふふ。式だなんて、気が早いわよ。」
「そうでもないわ。わたしの周りでも、寿退社……。軍だから、退社とは言わないか。戦争も終わった事だし、結婚ラッシュだったわよ。おかげで忙しいったら。手が回らないときに子供ら見ててくれた、ウィッキンズ育児官には、頭が上がらないわ。」
ああ、そう言えばジャブローでもコーリン育児官とかいたなあ。ジャブローはあれだけでかい基地だから、将兵の子供らも大勢いるしな。育児センターとか、あるんだよな。ルナ2も同様か。
式……結婚式かあ。
「俺たちも、結婚したいはしたいんだけどな……。」
「わたしたちの様な部署にいるとね……。わたしたちの戦争は、終わって無いのよね。」
「そ……っか。そうだよね。わたしの方でも、ごく稀だけど、出戻って来る娘がいるもの。旦那が撃墜だか撃沈だかで……。表面的には平気な顔取り繕ってるけど、内面じゃ泣いてるのが感じられてさ……。
自分がパイロットの技能を最低限とはいえ持ってるのに、後方でのん気にオペレーターやってるのが、ちょっと気が重くなったりね。あはは、はぁ……。」
雰囲気が暗くなった。クスコ軍曹の重くなった気持ちを、俺とレイラ、マリオン軍曹は否応なしに感じ取れてしまう。ユウの様にニュータイプ能力を持たない者とて、そうやって暗くなってしまった雰囲気を感じる事ぐらいは可能だ。
そんな時、子供らの1人、メイジーがクスコ軍曹の手をぎゅっと握り締める。それを皮切りに、子供らがわらわらとクスコ軍曹の周りに集まった。クスコ軍曹の心が、たちどころにほぐれて行くのが分かる。
俺はメイジーに訊いてみた。
「なあメイジー、いつもやってんのか?ソレ。」
「うん!クスコさん疲れてるときとか、気持ちが重くなってるとき、こうすると元気になってくれるんだよ!」
「そっか……。えらいぞ。皆もな。」
元気を取り戻したクスコ軍曹が、皆に号令をかける。
「さて、夕ご飯だよ!今日はたまにしか来られないお客もいる事だし、少しはりこんで、いいもの食べようか!」
「あ。今日は俺のカードで奢るよ。ユウやマリオン、レイラの分もな。この中で、一番高給取りなんだし。」
「そう?ありがとうね!」
いや、実はわかっているのだ。子供たちの生活費はきちんと出ているのだが、最近物価が上がったり、子供たちの食べる量が成長に伴って増えたりで、初期に算定された給付額では足りなくなってきているのである。足が出て彼女の持ち出しになった分は、領収書を提出すれば戻って来るが、戻って来るまでの間クスコ軍曹の財布は寂しい事になるのだ。
と言うわけで、俺たちは食堂へと向かう。
「そう言えば、サイド1ザーンでは比較的損傷軽微だったコロニーをニコイチで再生したりして、復旧が始められてるらしいね。あそこのロンデニオン・コロニーには、大掛かりな連邦軍基地も置かれるらしいし。」
その台詞にかぶせて、クスコ軍曹が念話を送って来た。一瞬驚いたが、子供たちのニュータイプ能力は、現状そこまで高くない。思念での会話を、傍受は難しいだろう。……つまり、子供たちにあまり聞かれたくない話なのか?
(ワッケイン司令から、ロンデニオン・コロニーが修復完了したらそこの軍事基地に移らないかって、打診されてるのよね。子供たちとわたしを確実に守るためらしいんだけど……。
そんなにきな臭いの?今の状況は。)
(……ちょっとな。きな臭い。レビル将軍と諜報部が色々調べてるんだが、尻尾はなかなか掴めなくてな。)
(……わかったわ。その話受けることにしましょ。まったく……。いっその事、パイロットに転向しようかしらね。そしたら、あんたらの部隊とかに引っ張ってもらえないかしらね。そうすれば、政治的には安心でしょ?
ああ、でも子供たちと離れちゃうのか、そうなると。)
(殺し合いは、できるなら慣れない方がいいぞ。ただし前線に出ると、どうしても慣れなきゃ潰れちまうがな。貴女には、子供たちの事をお願いしたいし。)
(……そうね。)
そして俺たち大人5人、子供ら13人の総勢18人は、ルナ2PXの飲食スペースへと乗り込んで行った。
ルナ2宇宙港に、第42独立戦隊が入港してきた。第42独立戦隊は、旗艦として改ペガサス級強襲揚陸艦ブランリヴァル、僚艦としてサラミス改級宇宙巡洋艦キプロスⅡ、グレーデンⅡ、そしてネルソン級MS軽空母ネルソンから成る。
ちなみにサラミス改は、正史におけるこの時期のサラミス改とは違い、MS1個小隊を搭載して運用が可能だ。正史では、この時期のサラミス改はΖガンダム時代のサラミス改と異なり、MS運用能力は無かったはずだ。俺は思う。『ギレンの野望』系世界の艦だなあ。
だが俺が知る限りでは、『ギレンの野望』には登場していない艦種もある。ネルソン級MS軽空母だ。これもまた、サラミス艦の改装型である。たしかMSVだかMSV-Rじゃなかったか、これの登場は。
サラミス改級が最大3機1個小隊のMS搭載数なのに対し、こちらは火力面では劣るが最大6機MSを搭載できる。更にMSを搭載できる艦体両舷側のカーゴベイは、前方にスライドして容積を拡大できるシステムを備えており、これによりこの艦は輸送・補給艦としても働けるのだ。
これほどまでに野心的な構造を持った艦なのだが、汎用性が思った程度では無かった様だ。実際に使う上では、汎用性はペガサス級や改ペガサス級の方がはるかに上であり、汎用に使うのでなければサラミス改級の方が使いやすかった、というわけだ。
この第42独立戦隊において、ネルソン級ネルソンはMS軽空母としてではなく、艦隊に随伴できる航行速度を持った輸送・補給艦として使われている。同時に、艦隊に搭載されているMS隊の整備や修理も受け持っている。旗艦のブランリヴァルでは間に合わない分を、補っているのだ。
「さて、行くか。」
「了解です、少佐。」
俺とレイラは「オニマル・クニツナ」隊隊長とその副官として、ブランリヴァル艦長兼、第42独立戦隊提督に挨拶するため、宇宙港にやって来ていた。と、ブランリヴァルやキプロスⅡ、グレーデンⅡから運び出されて行くMSが目に付く。
「……やられてるな。」
「……ひどい状態ですね。」
手足を失ったジム改が、何機も運び出されて行く。小隊長機や中隊長機と思しきジムスナイパーⅢやジム改高機動型も……!?
「コクピット部分を貫かれてるな……。溶融具合からして、ヒート剣やヒートホークじゃなく、ビームサーベルか。」
「あれでは……。パイロットは……。」
「……行こう。」
俺たちはブランリヴァルの乗降口へ向かった。
ブランリヴァルの廊下でも俺たちは、重傷を負って艦を降りる、ストレッチャーに乗せられた状態のパイロットや、同様にストレッチャーに載せられて運び出される死体袋も見た。その後俺たちは、案内してくれるためにわざわざ出向いてくれたブリッジオペレーターの軍曹に連れられて、ブランリヴァルのブリッジへ上がる。
「自分はレビル将軍直属部隊であるツァリアーノ連隊所属、第01独立中隊、通称「オニマル・クニツナ」隊隊長のゼロ・ムラサメ少佐であります。こちらは自分の副官の、レイラ・レイモンド少尉です。」
「レイラ・レイモンド少尉であります。」
俺たちの敬礼に応え、初老の中佐が答礼を返して来る。
「うむ……。私がブランリヴァル艦長兼、第42独立戦隊提督のバスティアーン・デ・フリーヘル中佐だ。もっとも……。今、この瞬間までの話だがな。」
「「は……?」」
「実はな、今回の戦闘中に狭心症の発作が起きてな……。艦を降りて治療に専念せねばならなくなったのだ。治っても、再び艦に……いや、普通の宇宙船にすら乗れるかどうか。ふっ……。
貴官らも、健康診断は受けておいた方が良いぞ。」
中佐の言葉はおどけていたが、その裏にある身を切られる様な寂しさを直接感じられる俺たちには、たまらない物があった。だが中佐は気を取り直し、凛とした声で言う。
「副長、ここに来たまえ。彼が艦の指揮権を掌握した際、全ての艦の艦長で階級的に最上位であったため、私が倒れた直後から艦隊の指揮権をも代行した。我々のMS隊は、彼の指揮のおかげで、かろうじて全滅を免れたと言っていい。彼が今後、新しい艦長兼、提督だ。紹介しよう、ブライト・ノア少佐だ。」
「はっ!先ほど少佐に昇進したばかりですが、よろしくお願いします。ゼロ少佐。」
「……!!……ああ、自分の方が先任将校ではあるが、職分としてはそちらが重い。我々としては、そちらの指示に従うし、付き合いでは君、俺ではどうかと思うが、どうか?」
「……そうしてくれれば、ありがたいな。ゼロ少佐。」
不敵に笑うブライト新艦長。そうか、士官候補生のまま急遽任官したんで、単位が足りない分を学校に舞い戻って勉強してたと聞いたけど、その間ホワイトベースを空き家にしておくわけにもいかないもんな。ブランリヴァルの副長になってたのか。
なんにせよ、驚いた。唖然とした。はっはっは。……しかし、これは心強いな、と俺は内心で強く思った。
突然ブライトさんが艦長です。今まで大尉として、副長やってました。他の僚艦の艦長は、中尉だったりしたので、ブライトさんが第42独立戦隊の指揮権を掌握したのですねー。
しかしブライトさん、どうしてこう縁起の悪いナンバーの戦隊の指揮官になるんでしょうね。前は13番。キリスト教的には最悪の番号です。そして今度は42(タヒに)番です。