強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士

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裏切った男

 ブランリヴァルの乗員全員が、ノーマルスーツを着用して戦闘待機の状態だ。俺は副官であるレイラと共に、艦のブリッジに上がっている。無論、2人ともパイロット用ノーマルスーツを着用していた。

 

「進路クリア!ターラント少尉、ヴィンセント少尉、発進よろし!」

『リディア、アイザック、行きます!』

『ホーリー・ヴィンセント、アイザック、出ます!』

 

 艦の両舷側前方にある2つのMSデッキから、カタパルトで2機のアイザックが射出される。それをブリッジから見ながら、俺は祈る様な気持ちで言う。

 

「目標の宇宙基地……敵拠点は、場所も規模もわかっている。武装も多少、艦砲……副砲クラスを流用した物が追加されているだけである事も判明している。

 となれば、後は仮称デラーズ・フリートから貸し出されている、哨戒艦隊規模の小艦隊とそれに搭載されているMSか……。彼女らがそれの居所を見つけてくれれば……。」

「ああ。そうすれば、俺たちは有利な条件で敵を攻撃できる。殲滅する事も不可能じゃない、いや確実にやらねばならん。MSや艦艇の性能差から算定するに、数が互角ならば勝利は動かん。そしてその後に、艦砲で敵基地を破壊すれば完了だ。」

「仮に見つからなかった時の策は?」

 

 ブライト艦長はオペレーターに命じ、モニター画面に現場宙域の略図を表示させる。

 

「これが目標の元連邦基地だ。はっきり言って、小規模で艦砲でもぶち込めば、数発で終わる。しかし前回はMS、ドラッツェがスクランブルして来て、こちらが射程距離に入る直前に足止めされた。」

 

 宙図に、赤い点が表示された。そして続いて、何本かの色の違う矢印が映し出される。

 

「これが、足止めされた地点だ。赤くて細い矢印が敵MS。そして前艦長は、艦砲による目標の破壊を断念、MSでの攻撃に切り替えた。青い矢印が味方MSだ。半数を艦の直衛、MS隊Aとしてドラッツェの対処にあたらせ、もう半数のMS隊Bを目標へと向けた。

 そして目標をMS隊Bが包囲した直後に……。この太い赤の矢印の様にチベ艦、中ぐらいの3本の赤の矢印の様にムサイ艦3隻が現れた。」

「もろに待ち伏せくらってるな。」

「言うなよ。分かっている。後は乱戦だ。前艦長がブリッジで倒れ、俺が指揮権を掌握して、なんとか脱出した。出来る限りMS隊も救助したんだが……。」

 

 ブライト艦長は、唇を噛む。俺はだが、感嘆のため息を吐いた。

 

「凄いな。俺が指揮を執っていたら、MS隊も艦隊も、あの損害では救う事はできなかっただろうな。」

「……済まんな。さて、敵が2匹目の泥鰌を狙って来た場合は簡単だ。今回はこの航路を取る。そうすれば、いざと言う時にまともに撤退戦ができる。敵の戦力次第では、艦隊戦、MS戦で勝利して、改めて敵拠点を破壊する事も可能だ。ただ、敵の戦力次第では普通に撤退するしかないな。

 そうでなかった場合、となると可能性は少ないんだが……。敵が既に基地を放棄し、仮称デラーズ・フリートとやらに合流した場合だな。この場合は、任務を果たすのは簡単だが……。表向き任務は果たせても、実際には敗北に等しいな。敵戦力を丸のまま、本陣に合流させてしまうのだから。」

「俺だったら、逃げて仮称デラーズ・フリート合流だな。」

 

 そう言ったら、レイラ以外に驚かれた。ブライト艦長、あんたまで驚かんでくれないか。

 

「驚いたな。「オニマル・クニツナ」隊ゼロ・ムラサメ部隊長は、猛将だと聞いていたんだが……。」

「俺は臆病者だよ?」

「前回の戦闘を見る限りでは、そうとも思えんが……。」

「ははは。」

 

 俺は自分が臆病だと思ってるんだがなあ。自分が死ぬの嫌だし。部下が死んだらとか、考えるのも嫌だ。あと、レビル将軍直卒部隊時代の仲間たち、ツァリアーノ大佐、アレン少佐、ラバン、デリス、ロン、はじめての部下であるバージル。彼らが死んだら、平静でいられないだろうな。

 そしてレイラ……。この娘が死んだら、俺は復讐に走って完遂後に自殺する自信がある。たとえそれが戦争と言う、誰に責任がある事で無くとも、彼女を殺した相手を殺し、殺した陣営を滅びに導くまで暴走を続けると思う。……あれ?猛将だとか臆病だとか以前に、ただのヤバい奴じゃないか。

 

 

 

 幸いなことに、2機のアイザックは任務を無事果たして帰還した。問題は、敵の数が推定の2倍に増えていた事だ。何それ。敵は2個小艦隊を、各々別の場所に潜ませていたのだ。2機のアイザックは、各々別の小艦隊を発見してきた。2機出してよかったよ……。

 

「まさか戦力不足のはずのジオン残党に、これだけの戦力補充能力があるとはな……。」

「甘く見ていた事は否めない。ただし、付け入る隙はあるな。」

「ほう?」

 

 ブライト艦長の言葉に、俺は内心驚く。

 

「敵は2個小艦隊を用意して、ここαポイントと、βポイントに伏せさせている。確実に俺たちの戦隊を挟撃し、逃さず宇宙の塵に変えるつもりだろう。あるいは鹵獲して物資にするか。

 だが……αポイントの近傍には、小規模な暗礁宙域が複数存在する。だから……。」

 

 唖然とした。だが、成功の目はある。

 

「無茶な作戦を立てるもんだな。ま、だがなんか上手く行きそうな気もするし、最初にそちらに従うって言ったからなあ。」

「ははは、頼んだ。そちら「オニマル・クニツナ」隊のMSにかなり依存したプランだからな。済まんとは、思っている。」

「なに、信頼されたと思って、やってみせるさ。」

 

 俺は笑って、安請け合いをした。

 

 

 

 俺たち「オニマル・クニツナ」隊は全機発艦し、αポイントの小艦隊に襲いかかった。

 

「このプランは俺たちがどれだけ早く、敵を殲滅できるかにかかってる!容赦するな、叩き潰せ!」

『ザザッ……!!ザッ』

『第3小隊、りょザザッ解!』

『ザッ第4小隊も了解ザザザザッ!!』

 

 ミノフスキー粒子によるノイズが鬱陶しい。こちらの奇襲に、チベ級重巡から4機、ムサイ後期型軽巡1隻から3機、パプア級補給艦改装の仮装巡洋艦から3機、民間輸送艦改装の仮装巡洋艦から3機の、計13機のMSが出撃してきた。だが遅い!俺たちの隊の、各々のハイザック・カスタムが持つビームランチャーからビームが迸った。

 と同時に、俺たちは上方、下方、3時、9時の方角に小隊ごとに分散する。そしてそこに開いた隙間から、後方に位置する改ペガサス級強襲揚陸艦ブランリヴァル、サラミス改級キプロスⅡ、グレーデンⅡ、そしてネルソン級MS軽空母ネルソンからの、濃密な艦砲射撃が敵艦隊と敵MS隊に襲いかかった。

 爆光が目を焼く。いや、全天モニターの光量調節が効いてるから、本気では焼けはしないんだけどな。数機の敵MS……シルエットから、ドラッツェだと思うんだが、それが吹き飛んだみたいだ。あと、敵チベ級もかなりの損害を受け、退避しようとしている。させん。

 

「ユウ!第1小隊とお前たち第2で、敵MSを殲滅する!第3で生きのいいムサイ後期型と仮装巡洋艦を潰すんだ!第4小隊!チベ級を逃がすな!」

『……!!ザザッ!』

『はいよ、お仕事、お仕事。まかせてザザザザッ!』

『こちら第4、了かザザッました!!任せてください!』

 

 レイラ機とィユハン曹長機が、各々1機ずつのザク改を爆散させる。性能差がありすぎて、一方的だ。時間稼ぎにもならない。で、俺の前にはガルバルディα……。いや、いいんだよ?強い相手を俺が受け持つのは、理想的だから。技量もなかなか凄い。エース級だ。だが、俺は幾多のエースを墜として来たんだ!

 ビームライフルを、細かく2連射。1撃目は左腕を犠牲にし、切り離して誘爆を避けたのは凄いが、2撃目が胴体を撃ち抜いた。死に際に相手が撃ったビームライフルは、悪いけどかすりもしない。

 俺たちは次の標的であるドラッツェ3機の小隊を見つけ、再び襲いかかる。そしてチベ級とムサイ後期型、仮装巡洋艦2隻が全て火球に変じた事で、ここの戦闘は終わった。こちらの損害は軽微。ムサイ後期型のメガ粒子砲が、ブランリヴァルの舷側をわずかにかすめ、少しだけ焼けこげをつけた程度だ。

 

俺はブランリヴァルのブリッジにアレックス3の手で触れて、接触回線で通話を行う。

 

「……どうだ?」

『間違いありませんゼロ少佐。撃沈前にムサイが、レーザー通信をβポイントに送っています。内容はわかりませんが……。』

「了解だ。ではこれより、作戦の第2段階に移る。」

 

 そして「オニマル・クニツナ」隊は、もう一度秘密兵器であるアイザックを持ち出した。

 

 

 

 ブランリヴァル、キプロスⅡ、グレーデンⅡ、ネルソンは生存者を探すかの様に、戦闘後の宙域を右往左往していた。そこへ、βポイントの方角から、メガ粒子ビームが投射される。そちらを見遣れば、チベ級重巡1隻、ムサイ級軽巡洋艦1隻、仮装巡洋艦2隻の小艦隊がビームを撃ち放ちながら突入して来る。

 第42独立戦隊は、急ぎ陣形を整えつつ、整然と後退して行く。まだこの距離ではミノフスキー粒子の影響もあり、命中が見込めないため、こちら側は1発も撃たない。逆にジオン側は滅茶苦茶に発砲して宙域を荒らしつつ、突進して来る。

 なるほど、これはMSの発艦を妨害するための保険的な戦術か。色々考える物だな。だが連邦のMSは、かなり堅牢に出来ている。この程度空間が荒れたところで、発進できないほどヤワなのは、それこそレドームが繊細なアイザックくらいだ。……それにな。

 おっと、ムサイ艦が180度後ろを向き、艦尾を第42独立戦隊に向けた。そして尾部にあるMSデッキのハッチを開く。仮装巡洋艦も側面を開き、MSの発艦準備を始めた。

 チベ級も、艦首の下部ハッチを大きく開けた。チベはあそこがMSハッチなんだよな。元々はチベ級は、MS搭載艦じゃなかったんだが、設計変更したんだっけな。だからあんな……。

 

 

 

 あんな脆弱な構造になる。

 

 

 

 俺はアレックス3の左手を上げて、ハンドサインを部下に送った。第3小隊の3機のハイザック・カスタムが、ビームランチャーでチベ級のMS発進口を狙撃。今まさに出撃しようとしていたリックドムⅡが爆散、次々に内部で誘爆が起き、チベ級は一瞬にして火球と化した。

 同様にレイラ機とィユハン機のビームランチャーが、ムサイ艦から発艦しようとしていたザク改を狙撃、爆発させた。ムサイ艦のMS発進口はずたずたに破壊され、使い物にならなくなる。第2のマリオン軍曹機、コーリー軍曹機もまた同じく仮装巡洋艦を狙い、第4のクリス少尉機、ダミアン曹長機、ウェンディ伍長機も最後の仮装巡洋艦を狙う。

 一瞬にして、βポイントからやって来た新たな小艦隊は、MSの運用能力を喪失した。もっとも、あれだけ格納庫が破壊されていては、生き残っているMSがいるかも怪しいが。そして俺とユウは、俺のアレックス3がムサイ艦、ユウのアレックス2が仮装巡洋艦の1隻を狙う。ビームライフルで、ムサイ艦のエンジンナセルを撃ち抜き、それが誘爆。あっと言う間に爆沈する。

 見遣ると、ユウのアレックス2も仮装巡洋艦をあっさり沈めていた。残り1隻の仮装巡洋艦?逃げようとしたところを、ブライト艦長たち第42独立戦隊の艦砲の餌食になりましたが?

 そう、俺たちはαポイント近傍の、小規模な暗礁宙域に隠れ潜んでいたのだ。その上でアイザック2機のミノフスキー粒子広域散布機能を使い、センサーから身を隠していたのである。そして敵艦が暗礁宙域の傍らを通った時に奇襲攻撃をかけただけの話だった。

 まあ、敵が俺たちの目の前でMSを発艦させようとしたのは、ありがたい偶然だったが。いやほんとに。

 

 

 

 第42独立戦隊は、今まさに目標の元連邦軍宇宙基地、現ジオン残党拠点に、艦砲の照準を合わせていた。ブライト艦長の命で、通信士が降伏勧告を送る。仮称デラーズ・フリートから派遣されてきた艦が8隻も……そのうち4隻は、残党にとって極めて貴重な純正の戦闘艦艇だが、それが失われたとなると士気が下がる事この上ないだろう。だがこれで降伏しないなら、艦砲で粉砕するまでだ。

 と、ここでブリッジから連絡が入る。

 

『こちら0-0!1-0、2-0はただちに発進し、逃亡したソドン巡航艇を拿捕してください!進路クリア!』

「こちら1-0、了解!あとの指揮は3-0に委譲!」

『……!!』

『3-0、りょザザッ解したぜっ!!』

 

 俺とユウの2機のアレックスは、いざと言う時に即座に発艦できる様にカタパルトに乗っていた。ハッチが開くや否や、俺は右デッキから、ユウは左デッキから発進する。凄まじい加速Gがかかり、俺たちのMSは、宇宙に飛び出していた。

 と同時に、基地からは降伏を意味する信号弾が上がる。なるほど、前を逃げて行く船は、アレは降伏をよしとしない奴らって事かね。ただ、指示は……ブライト艦長の指示は敵船の拿捕だ。彼の勘が働いたんだろう。ニュータイプ感覚の勘と違い、彼の勘は今まで学んだ知識や経験の集積物だ。どっちも重要だけど、この場合無視したら絶対に痛い目に遭う。

 ……いや、ニュータイプ感覚の勘も、捨てたもんじゃないな。頭痛は痛いが。俺はユウのアレックス2にハンドサインを送った。ユウ機もハンドサインを返して来る。そして俺は追跡を断念し、コロニーの残骸のほんの一部、ミラーの欠片と思しきデブリに機体を近づけていった。

 いたいた。あわてて隠れようとしたけど、見えてるってば。ジオンのパイロット用ノーマルスーツを着用し、スペースボート……超小型の、数人乗りの宇宙艇にしがみついている、男と思しき輩が居た。スペースボートの座席には、何やら複数のアタッシュケースっぽい気密ケースや、幾つもの小包みたいな箱が縛り付けられてやがる。

 

「これは……。あたり、か?」

 

 アレックス3右腕の、90mmバルカン砲を突きつけてやると、あっさりと相手は両手を上げた。俺はビームライフルを機体の腰にマウントし、MSの右掌を差し出してやる。相手は大人しくそれに腹ばいになった。俺はシールドもアレックス3の背中に回し、左手でスペースボートを抱えると、ブランリヴァルに戻って行った。

 

 

 

 ブランリヴァルの独房から溢れそうな、と言うか溢れてしまい、キプロスⅡやグレーデンⅡ、ネルソンまで使って収容した捕虜を連れて、俺たちはルナ2への帰途についていた。でもって、俺が捕まえて来た男は、尋問されても何も喋らなかったそうだ。仕方なしに、独房に閉じ込めたままにしてある。

 なお、奴が運ぼうとしていた荷物は、開けてみたところ箱からは金塊が、気密ケースからは何が書かれているか不明な、暗号化されていると思しき書類が出て来た。この書類と金塊、特に書類は、ひとまずルナ2に帰ったら地球のジャブローから上がって来た、諜報部員に引き渡すそうである。……アボット少佐じゃあるまいな。

 そして俺とレイラはブリッジへと上がっていた。

 

「ふうむ。では何もわかってないって事か。」

「ああ。なかなか頑張るが、本職の尋問官に渡せば……。」

「艦長、そいつの顔、見てみたいんだが駄目か?」

「む?かまわんが……。」

 

 ブライト艦長は、オペレーターに独房の映像を出す様に命令する。俺たちは吹き出した。

 

「こ、こいつ……。カメラがあるの知らないのか?」

「身体検査はしたんですけど……。」

「何処にこんな工具持っていやがったんだ!保安員に連絡して、急いでこいつの独房へ急行させろ!」

 

 オペレーターたちとブライト艦長が大騒ぎになる。そして俺も魂消た。レイラがお仕事モードで聞いて来る。

 

「どうしたんですか?ゼロ少佐?」

「こ、こいつジュダックだ……。」

「何!?知っているのかゼロ少佐!」

「知ってる……。いや、書類で見た覚えがあるんだ。」

 

 俺はブライト艦長の問いかけを、とりあえず誤魔化した。ガンダムのアニメで見た、なんて言えない。そう言えば、オデッサで水爆の阻止は不可能だったんだよな。つまりアイツもジオンに亡命してるわけで……。

 

「こいつがジュダックって事は、まさか……。まさか、まさか……。

 俺たちが相対してるのは、デラーズ・フリートじゃなく、エルランズ、フリートなのかッ!?」

 

 

 

 他の捕虜を尋問した結果、ちゃんとデラーズ・フリートだそうであった。エルランも居るが。ぶっちゃけ、ほっとした。




と言うわけで、デラーズ・フリートにはエルランがいました。あいつ、キシリア派閥だったよね?とか言わない。あいつは実際、どの派閥でもいいの。
でも、落ち目ったなあエルラン。水爆を止められなかったときには、我が世の春だったろうに。

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