強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士

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マスドライバー施設の攻防

 ルナ2の通信室で、俺とブライト艦長はジャブローのレビル将軍と、レーザー通信で話していた。本題は、前回の任務を完了した報告と、次回任務の命令を受ける事だが。

 

「……将軍。またパイロットスーツで……。」

『いや、な。さっきまで実機で若い者を少し絞ってやっていたんだが……。わたしの腕が落ちた、かな?相手を撃墜するまでのタイムが……。』

「素直に褒めてやったらどうです?若いのの技量が伸びたって。」

『いやいや。少し増長が見られたのでな。天狗の鼻を折ってやるつもりだったのだよ。で、折れたのは良いが、タイム的にはわたしとしては満足行くものでは無かったな。アレックス1を使わなかったせいかもな?』

 

 この老人は……。あ、ブライト艦長が痺れ切らした。

 

「ごほん!あー、閣下。元連邦軍小規模宇宙基地の破壊は完了し、残党の兵員多数を捕虜といたしました。既に報告書の写しはそちらへ届いているかと思いますが……。」

『うむ、来ているよ。ルナ2尋問官の追加報告書もな。……エルランが、な。デラーズ・フリートに合流しておったか。ジュダックはどうしても口を割らんようだな。だが他のソドン巡航艇で逃げ出した人員は、デラーズ・フリートから派遣された者たちであった様だ。そやつらが、口を割ったよ。』

「では……。」

 

 だが映像の中のレビル将軍は、首を横に振る。

 

『しかしそ奴らは、こちらが今もっとも知りたい情報……。デラーズ・フリートが……いや、エルランが連邦軍の誰と通じておるのか、知らされてはいなかった様だ。

 エルランめ……。連邦軍との交渉や連絡は、自身やその手駒だけで行い、デラーズには情報や物資を渡すのみであったらしい。そしてデラーズも、それを良しとした様だ。万一の際、知らない事は漏れようが無いからな。今回の様に。』

「ジュダックはどうなのですか?」

『完全黙秘で、扱いに難儀しておるようだ。いざとなれば、諜報部では最後の手段も検討しておるとの事だな。だが、それで確実に情報が手に入ると言い切れんのが……。』

 

 最後の手段と言うのは、おそらくジュダックへの自白剤投与だろう。だがそれはこの場合、ジュダックの立場などから法的には許される範囲をクリアしてはいるが、証拠能力としては自白よりも落ちる事になっている。悔しいが。

 だが決定的証拠としては使えないかも知らんが、更なる捜査を進める根拠には充分なはずだ。いざとなれば……。

 将軍は俺たちの次の任務に、話を切り替えた。

 

『ところで君たちの次の任務なのだが……。本当であれば、いましばらく休みを与えたかったが、そうもいかん様だ。』

 

 俺とブライト艦長は、気を引き締めて次の言葉を聞いた。

 

 

 

 第42独立戦隊は、第41独立戦隊とのランデブー・ポイントに急行していた。第41独立戦隊とは、改ペガサス級強襲揚陸艦セントールを旗艦とし、サラミス改級巡洋艦マダガスカルⅡ、フィラデルフィアⅢ、フジ級輸送艦スルガⅡを僚艦とする小艦隊と、それに搭載されたMS1個中隊で構成される独立部隊だ。

 ブランリヴァルのブリッジで、俺はため息を吐く。

 

「ふう……。まさかこの状況で、各地のジオン残党が動くとはな。」

 

 そして思う。だが、その規模は正史のそれよりも、格段に小さい、と。……あたりまえだ。そうでなければ、俺が……俺たちがやった事の意味が無い。ったく、何が「インビジブル・ナイツ」だ。何が見えない騎士団だ。……何が『水天の涙』だ。……怒り方、俺っぽくないかもな?

 だが最初とは、俺の戦う意味もかなり変わって来た様に思う。最初は、死なないためだけだった気がするが、仲間たちのために戦う事の方が、大事になって行った。だけどそれだけじゃなく、いつの間にか……。

 たぶん、『俺』と『私』が融合してからだろう。うん。それらの動機と共に、ジオンに対する憎悪が思いっきり強くなってきてて……。ニュータイプ研に擦り込まれたソレじゃなく、いや、ソレはまだ残滓があるが、そうじゃなく『ゼロの元になった少年』の憎悪だと思う。

 コロニー落としにより全てを失った。そしてニュータイプ研に収容され、強化人間にされた。実験で、「壊され」た。そりゃ、俺だって怒るわ。いや、『俺』の事なんだけど。ジオンを憎んであたりまえだ。ただ『私』が混ざる事で、ある程度マイルドになってるとは思うんだが。

 話が逸れた。『水天の涙』作戦。月のマスドライバー施設を奪い、大質量弾により地上の目標を攻撃する計画。ニュータイプ能力の「超能力じみた」現象による予知と言う事でレビル将軍には伝えてあり、その段階で可能な限りの防衛体制を月のマスドライバー施設には敷いている。そのはずだった。

 思わず愚痴が出る。

 

「馬鹿かまったく……。」

 

 連邦軍の某将官は、せっかくレビル将軍が手を回し、マスドライバー施設の防衛に回した戦力を、勝手に引き抜いてこっそり別任務に充ててしまったのだ。アナハイム・エレクトロニクスと繋がりの深い将官だったらしく、アナハイムからの依頼で輸送艦の護衛任務に使い、更にその後も戻さず使いまわしている様だが……。

 それに気付いたレビル将軍が、急ぎ俺たちと追加でもう1個中隊を派遣したわけだが。そのもう1個中隊……第41独立戦隊のMS隊を借りるのに、他の将官に借りを作ってしまったらしい。レビル派子飼いの戦力で手が空いていて、その上で今宇宙にいるのは俺たちぐらいだ。他は皆、地上のジオン残党に対処するために地球に降りてしまった。

 ……よく考えなくても、アナハイムは臭いな。将軍もわかってるとは思うけど、あとできちんと進言しておこう。だが、諜報部……。級数的に仕事増えてるが、大丈夫だろうか。アボット少佐宛に、桃缶の詰め合わせでも贈ろうか。ドリンク剤の方がいいかな。

 

「あまり苛立つな、ゼロ少佐。気持ちは痛いほどわかるが。」

「艦長……。そうだな、済まない。」

 

 ブライト艦長が、心配して?声をかけてくれた。隣にいるレイラも、そっと意識の手を伸ばして俺の心に触れて来る。うん、あまり怒ると健康に悪いだけじゃなく、皆に心配かける。落ち着こう。よし、落ち着いたぞ。

 

「そろそろランデブー地点か?」

「ああ。と言うか、もう着いた。あとは向こう待ちだ。」

 

 おお、いつの間にか。

 

「そうか……。たしか通称、「F.O.T.A.」隊だったか。「Flame of the Avenge」の略……。復讐の炎、か。」

「少しやり切れん物があるが……。理解はできる。」

「ああ……。」

 

 この部隊、レビル将軍が設立の進言を他所から受けて、躊躇して設立実行してなかった部隊そのものなんだよな。ジオン公国による一年戦争開戦当初の奇襲攻撃によって壊滅したサイド1、2、4、5の奇跡的な生き残りや、連邦宇宙軍とかの士官学校行ってた同サイド出身者とかを集めて編制された、「スペースノイドによるジオン残党狩り部隊」……。

 俺の発言とか受けて、レビル将軍が演説で叫んだ言葉、「ジオン公国はスペースノイドの裏切り者である」を合言葉にした部隊だ。それに彼らは、実際ジオンに家族を殺されているわけだからな。怒りのほどは、痛いほどわかる。いや、俺も魂の「半分」はコロニー落としで酷い目に遭ってるし。だから気持ちは痛いほどわかる。

 

「レーダーに感あり。識別信号、改ペガサス級セントール、および僚艦のサラミス改マダガスカルⅡ、フィラデルフィアⅢ、フジ級スルガⅡです!」

「言ってる間に来たな。向こうとレーザー通信回線を開けるか?」

「了解、今やります。」

 

 艦長の指示に従い、オペレーターがセントールとの回線を開いた。正面の大型モニターに、向こうのブリッジが映る。俺たちは敬礼をした。

 

「こちらは改ペガサス級強襲揚陸艦、第42独立戦隊旗艦、ブランリヴァル艦長のブライト少佐です。そちらは第41独立戦隊旗艦、セントールでしょうか?」

『こちら第41独立戦隊旗艦、改ペガサス級強襲揚陸艦、セントール艦長のリード大尉。ははは、お久しぶりですな少佐。ついに階級を抜かれてしまいましたな。』

「り、リード大尉!一年戦争以来ですね、ああ、いや、以来だな。」

『そうです。下の階級の者に、敬語は基本的に使ってはいけませんぞ。ははは。』

 

 うわ、リード中……大尉。昇進してるよ。しかも改ペガサス級艦長。

 

『こちらは当戦隊所属のMS隊、「F.O.T.A.」隊部隊長、フェリクス・グスキ大尉。大尉、挨拶を。』

『了解、艦長。こちら「F.O.T.A.」隊部隊長、フェリクス・グスキ大尉であります。』

「……自分は現在、第42独立戦隊に出向中の、レビル将軍直属部隊ツァリアーノ連隊所属、第01独立MS中隊「オニマル・クニツナ」隊部隊長、ゼロ・ムラサメ少佐だ。よろしく頼む。」

 

 俺が名乗ると、グスキ大尉は目を見開く。彼は満面の笑みを浮かべ、大声で言った。

 

『おお!あの一年戦争でのトップエースがご一緒とあれば、心強いですな!協力して、共にジオン残党を叩き潰しましょう!』

「ああ。頑張ろう。」

 

 いや、実はここで「俺たちの任務はマスドライバー施設の防衛で、ジオン残党の殲滅じゃないぞ」とか言おうかと悩んだんだ。だけど戦意に水を差したり、互いの関係にヒビを入れる事も無いし。実際の戦場で、俺たちが気を付けていればいいさ。たぶん。おそらく。きっと。だといいなー。

 

 

 

 で、今俺たちは艦のメインエンジンをブン回し、マスドライバー施設に向かっている。

 

「間に合えばいいが……。」

「……残念だが、難しいな。」

「多勢に無勢、ですからね……。」

 

 ブライト艦長も、俺も、レイラも、その顔色は暗い。マスドライバー施設から、悲鳴混じりの救援要請が来たのが、つい先ほどだ。ジオン残党がMS26機と言う大兵力を持ち出して、施設を襲撃したのだ。そして守備隊はわずか2個小隊計6機。本当であれば、レビル将軍が手配した1個中隊12機がこれに加わり、施設の砲台の援護や、個々の性能差から負けは無いはずであったのに。

 ここで、意を決した顔で、ブライト艦長が言う。

 

「俺にいい考えがある。」

 

 マテ、それは失敗フラグだ。

 

「乗ってくれるか?」

「……指示には従う、そう言っていたはずだが?」

「そうか、感謝する。」

 

 いや、ちょっと怖いけどな。何を考えた?ブライト艦長。

 

 

 

 今、俺たち「オニマル・クニツナ」隊の中から選抜されたメンバーのMSは、漆黒の宇宙空間をMSとは思えない速度で飛翔していた。選抜メンバーは、俺、レイラ、ユウ、マリオン軍曹、コーリー軍曹、ブリジット伍長、ウェンディ伍長の7名。

 何をやったかと言うとだな。本来宇宙空間の航行では、どんなに急いでいたって目的地との中間地点で逆噴射を行い、制動をかけなくてはならない。だけどブライト艦長は、その速度の頂点で、俺たち選抜メンバーを月面へ向けてカタパルトで撃ちだしやがったのだ。当然俺たちは、物凄い速度で月に向けて飛び出す事になる。更に、俺たち自身、ぎりぎりまで制動を遅らせる予定だ。

 計算では、俺たちはかなり物凄く凄い速度で、問題のマスドライバー施設上空をフライパスする事になる。そのフライパスする間に、可能な限り多くの敵MSを撃破しろって……。無茶だろ。いや、やるけどさ。残りの戦力は、彼らは彼らで急いで現場に急行する。彼らが間に合うかどうかは、俺たちがどれだけの敵機を墜とせるか次第なんだ。

 

「こちら1-0!全員、月に向けて全スラスターを噴射用意だ!制動のタイミング合わせろ!失敗すると、どっか他所の宇宙に飛んでって、良くて酸素欠乏症だぞ!?」

『お、おどかさないでくださいよー、1-0!』

『了解、1-0!』

『カウントダウン、お願いします!』

『……。』

『死んでたまるもんですか……。ジオン残党を倒して……。そしてアーヴィン君にもう1度会うんだから!』

『煩悩垂れ流しですね、2-2。』

「カウントダウン開始!10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、噴射!!」

 

 全開噴射のGが、俺たちを襲う。月がぐぐぐっと近づいて来る。しばらく噴射を続ける。ううむ、推進剤の残量がこころもとない……。ああ、スラスターの過熱が限度ギリギリだ。けど一応計算通り。

 よし、1機残らず予定軌道に乗った。凄まじい速度で、地表が流れる。約1.7km弱を、1秒で通り過ぎている計算になる。あー、無茶苦茶な事考えるな、ブライト艦長。普通、こんな速度で狙撃なんてできんぞ。やるけど。

 

「目的の施設を視認!射撃タイミングは各自に任せる!オール・ウェポンズ・フリー!!」

『『『『『了解!』』』』』

『……!』

 

 ユウ、こんな時ぐらいなんか喋れ。俺は精神を集中する。

 

「見える!」

 

 脳がきしむ様な痛みを訴えるが、それを精神から切り離して、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ……。連射し過ぎて、ビームライフルがオーバーヒートして、撃てなくなった。あらかじめ展開していた両腕の90mmバルカンを用意する。しかしこれは精密射撃には向かな……!?

 くそ!守備隊のジム改が、ザク改に斬られた!とどめを刺す気だ!くそ、くらえ90mm!!あたってくれ!間に合え!

 

「……最後のは、確認できなかったか。こちら1-0。戦果は撃墜3、大破2、中破1、未確認1。」

『こちら1-1。撃墜2、未確認1です。』

『……。……。』

『こちら2-1です。撃墜1、中破1、小破1です。』

『こちら2-2。撃墜1です。』

『こちら3-2です。大破1。』

『こ、こちら4-2!た、大破1の中破1!』

 

 ユウは何者だ。ニュータイプ能力持って無いのに、撃墜3の中破2だぞ。しかしこれで、MS10機を撃破、9機に何がしかの損傷を与え、戦果未確認が2機。戦果が被っていたとしても、半数以上は損害を与えられた。上出来の部類だろう。

 しかし、味方の本隊がたどり着くまで、守備隊が持ちこたえられるかは、未だに不明だ。おそらく敵には、占領するための後詰の歩兵部隊もいる。……だが、もう俺たちには何もできん。あとは回収されるのを待ちつつ、月を回る周回軌道に乗っているしか無い。

 

 

 

 月を回る軌道で退屈していたら、ようやく迎えのネルソン級MS軽空母ネルソンと、フジ級輸送艦スルガⅡがやって来てくれた。ありがとう艦長のクレイグ・ウォルシュ中尉とダレル・サトウ中尉。

 

 

 

 ネルソンのブリッジに上がり、現場の状況を聞く。ああ、ちゃんと機体の冷却と推進剤の補充は頼んでおいた。ネルソンは輸送艦代わりに使われてるが、MS軽空母だからそれぐらいは軽く可能なんだ。

 なお、どうやら戦果の被りは無かったらしく、更に超高速での奇襲に敵は泡を食った模様。その間守備隊は態勢を立て直し、徹底的な時間稼ぎに方針を変更する。そしてなんとか、味方の本隊が到着するまで時間を稼ぐ事に成功したとの事。

 しかし被害が無いわけも無い。守備隊MSは6機中5機が被撃墜。残り1機も、全損の判定。更にパイロット6名中、3名が戦死し、1名がおそらくパイロットとしては復帰できないほどの重傷を負った。「F.O.T.A.」隊の部隊長、グスキ大尉がモニター画面の中で、悔し気に言う。

 

『俺たちがあと僅かでも、早く到着できていれば……。いや、うちの面々のうち、2~3人でもそちらの作戦に参加できる技量の者がいれば、こんな事には!ジオン残党め!』

「グスキ大尉。俺たちはできる事をやった。貴官もやれる限りの事はやったんだ。少なくとも、3人は俺たちと貴官らの働きで、命を拾った。マスドライバー施設も、陥落を免れた。

 失われた者を嘆くなとは言わない。けれど、救えた者も見ろ。……もう少し上手くやれれば、と思わない事は無理だ。俺も思ってしまう。だが……。」

『いえ、少佐。了解です。……お若いのに、流石ですな。超エースだけの事はある。』

「……何、受け売りさ。本音はヒミツだが、実はぐちゃぐちゃに思い悩んでたりするんだ。ヒミツだから、貴官にもナイショだけどな。」

 

 グスキ大尉は、ぶっと吹き出す。

 

『なんですか、そりゃあ。了解ですよ。こちらへの、お早いお着きをお待ちしております。』

「あと1時間でそちらに到着できるそうだ。ではな。通信終わり。」

 

 ……実は、グスキ大尉に言ったのは嘘ではない。あのとき救えたか不明だったジム改だが、実は救えていたらしい。しかし結局は戦死者リストに入ったとの事だった。ちょっと、いや、かなり悔しかった。ウォルシュ艦長に挨拶をして、MSデッキに降りる。

 デッキは輸送艦代わりに使われていただけあって、山ほどの貨物でいっぱいだった。片方のデッキに入るのはMS1機だけで計2機、残りは甲板上に露天係止またはスルガⅡに貨物扱いで載せてある。デッキに入ってるのは、俺とユウのアレックス3と2だ。ちなみにユウのアレックス2は、左デッキに入ってるので、ここには無い。

 俺は、アレックス3のコクピットに入ると、ハッチを閉めた。やっぱりここが落ち着く。やっぱり強化人間なんだなあ、と妙な感慨を抱いた。




ちょっとデラーズ・フリート関係をいったんお休みにして、水天の涙作戦のお話。なんかアナハイムが臭いと言うお話でもあります。アトラスの排気口のにおいと、どっちが臭いですかね。
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