強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士

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人事と核兵器

 今日はアンドルー軍曹の壮行会兼、ダミアン中尉の送別会をやった。アンドルー軍曹は怪我が完治した後、北米ウェストポイント士官学校に入学予定だ。……バージルの後輩になるのか。こいつ、バージルより1歳年上じゃなかったっけ。一方のダミアン中尉は、つい朝方に少尉に、そしてつい3時間前に中尉に昇進したので、その昇進祝いも兼ねている。……突然上官になった、ちょっと前までの部下に、クリス少尉がいろいろ遠慮してるのが笑えた。

 彼らはまだ先の戦いで負った、大怪我が癒えていない。特にダミアン中尉は、左目の眼帯と、今は人工物になってしまった左脚膝から先が痛々しかった。しかし車椅子に乗った彼は、周囲を気遣わせない様にいつも通り豪快に笑っていたのだ。……たとえ彼が、本当はつらく、悲しく思っていたとしても。

 しかし怪我人を宴会に誘うのは何だなあと俺も思うのだが、彼らは明日シャトルで地球に降りるから仕方なかった。皆、おおいに飲み食いして騒いだ。怪我人がいるし、未成年もいるので、アルコールは無し。ビールかけの類は避けたので、かわりにアンドルー軍曹のギプスにみんな落書きする。最後は写真撮って、みんなで分けた。

 主役の2人が病室へ引き上げた後、俺たちは会場の跡片付けをする。祭りの終わりは、いつも寂しい、とは誰の台詞だったか。

 

「やれやれ……。俺の隊から、1人欠けるたぁなあ……。」

「……。」

「いやユウ、奴は戻ってくるけどよ。そんときゃ少尉様だし、俺の小隊にそんとき空きが無きゃ、配属されねえだろ。……俺に取っちゃ、初めての部下だ。流石に感じ入る物があるわな。」

「……。」

「はぁ……。士官学校と言や、サマナの奴、今頃何してるかね。必死に勉強してるんだろな、奴の事だし。」

 

 ユウとフィリップ中尉が喋っているのを聞きながら、俺は整備兵たちと一緒に、折り畳みテーブルを定位置にもどして無重力用のベルトで固定する。レイラたちは、空中にただよっている食べカスやゴミを掃除機で取り除いていた。いや、遠心重力ブロックの部屋は、小部屋はともかく大部屋は予約いっぱいで取れなかったんだよね。

 

「部隊長……。ゼロ少佐。」

「お、なんだ?クリス少尉。」

「ダミアン曹……中尉の送別会が終わったばかりで、この様な話をするのは、その……。不謹慎かと思うのですが……。」

 

 俺はピンときた。

 

「補充兵の話か?」

「は、はい。」

「気にする事はない。大事な話だしな……。ただ、ダミアン中尉の代わりになる人材と言ってもなあ……。すぐには見つからん。新兵ならすぐ見つかるかも知れんが……。

 レビル将軍やツァリアーノ大佐とは、レーザー通信でしばらく実戦は無理だって同意してもらったけどな。MSもボロボロだし。ハイザック・カスタムはそれでもすぐ直るけど、俺とユウのアレックスはなあ……。」

「アンドルーの代わりは、新兵でもいいぜ、ぶたいちょ。」

 

 ユウとの話を切り上げてきたのか、フィリップ中尉も話に加わって来た。

 

「勿論、徹底的にしごいてケツについた卵の殻を、削ぎ落す必要はあるだろうけどよ。」

「わかった。ツァリアーノ大佐とも話しておく。」

「了解です、ありがとうございます。ゼロ少佐。」

「こっちも、ありがとうございます。ぶたいちょ。」

 

 クリス少尉は生真面目に、フィリップ中尉はくだけた様子で、礼を言ってくる。まあ、補充兵は早期に着任してもらわんと、命に関わるからなあ。世知辛いとは思うけどな。俺は再度、ダミアン中尉とアンドルー軍曹の事に、思いを馳せた。

 

 

 

 とは言っても、ダミアン中尉やアンドルー軍曹の事ばかり考えてもいられないのが、上官としての責務。宴会が終わったら即座に俺は、補充兵の選抜に入る。だが手元にあるのは新兵の書類ばかりだ。今日はもう遅いので、明日一番にレーザー通信でツァリアーノ大佐に、熟練兵を探してもらえる様に頼まねば。

 

「……妙に女性兵の志願者が多いな。なんでだ?」

「1つにはゼロ少佐の人気がありますね。一年戦争のトップエースの1人であり、若い上に独身。」

「……悪いが、うちの部隊には既に女性兵が多い。今でさえ、他から色々噂されてるらしいし。俺が好色だとか。俺が職権乱用してるとか。英雄色を好むとか。

 独身……。結婚かあ……。家庭を持つのは、事が一段落してからと思ってたが……。入籍だけでもしておくか?」

「あ、え、きゅ、急に言われても!いえ、言われましても!御冗談を!」

 

 本気だったんだが。そう思ったら、思念が漏れていたらしい。既にちょっと赤かったレイラの顔は、今度こそ真っ赤になる。

 

「あ、後は……。後は、それこそ我々の部隊には女性が多い事があげられますね。女性兵を積極的に欲しがる実戦部隊は、そう多くありません。秘書役の副官やオペレーター、後方でなら多いのですが。ですので一縷の望みを抱いて、と言う事もあるかと。」

「うーん、だがこちらとしては、向こうの望みにばかり沿うわけにもいかんな。第一、フィリップ中尉がやりづらいだろう。自分以外が女性になってしまえば。

 実際、自分以外の2人が女性兵な第2小隊は、ユウの奴がけっこう苦労したみたいだし。と言うか、今も苦労しているらしいし。女の子だけの第4小隊には、新兵を配属するわけにはいかないからな。」

 

 そして俺は、2通の書類を抜き出す。

 

「こいつと、こいつ……。どっちがいいかな。両方採るわけにはいかないし。

 こっちは成績優秀だが、ちょっと典型的なエリート様だな。まあ叩き直せば済む事だが。こっちは先のやつよりも技量は低いが性格は大丈夫、最初から馴染めるし、何よりデータ見た感じでは伸びしろはこっちの方がずっと上だ。

 意見、聞かせてくれるか?」

「はい。個人的には、後者の方がよろしいかと。多少腕が立つとは言っても、結局は新兵です。叩き直さねば、使える物ではありません。どうせ叩き直すのであれば、伸びしろが大きい方がお得です。」

「性格は基本、かまわんのか?」

「どうせ叩き直すんです。よっぽど変で無ければ、悪癖は矯正されます。無理ならば差し戻して、新たに選び直すだけです。結局は新兵なのですし。」

 

 俺はそれに頷き、最初の書類をファイルに戻して後の方の書類を机にマグネットで留める。

 

「イェルド・ショールバリ伍長、18歳……。自分の事は棚に上げるけど、若いな。」

「自分の事は棚に上げますけど、本当に。」

 

 最近のMSパイロットは他兵科からの転科よりも、新規採用してるって話だからなあ。その新規採用の兵なんだろな。他兵科は、どんどん削減してるとも聞くが。軍縮か……。今の時点で軍縮して、大丈夫なのかね。いや、せざるを得ないのも理解できなくもないんだったりするんだが。

 

 

 

 MM-008のところに顔を出した。今日のオヤツはルナ2のPXで出してるカップケーキだ。実はもう1つ、彼女にお土産がある。

 

「よう、MM-008。」

「こんにちは。」

「あら、プロト・ゼロに彼女さん。いらっしゃい。」

 

 はっはっは、このマセガキ。とりあえず俺は、持って来たカップケーキと、紅茶の紙パックを、独房の扉に開いた食事トレイ受けわたし口からわたす。

 

「ほれ、今日のオヤツだ。まあ、地球上で売ってるやつには届かないけどな。でも前線で戦う将兵のために、後方の人たちが必死でがんばって味を調整して、なおかつ安く上げる工夫をした、苦労の味がするぞ。」

「それ、この間のシュークリームのときも言ってたわ。プロト・ゼロはしつこいのね。彼女さん、大丈夫?」

「え、あは、うふふふふ……。」

 

 はっはっは、このマセガキ。とりあえずもう1つのオミヤゲを……。

 

「思念が洩れてるわ。もう1つのオミヤゲ?」

「……とりあえず、お前の暫定的な戸籍だ。記憶喪失者のために、とりあえずの戸籍を申請する法律を適用した。ほら、書類の写しだ。」

「……!名前が……!」

 

 俺はにんまり笑う。レイラも、ほがらかに微笑んだ。

 

「今日からおまえはミチル、苗字はお前がどっかの養子とかに入る時につけるから、今のところないけどな。」

「……番号じゃ……ない……名前。」

「おう。」

「ええ。」

「……うっ。うぐ……。えっ……えぐ……。あ、あり、が、と……。うぇ……。」

 

 MM-008、いやミチルの両目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。俺たちには、それが嬉し涙だと言うのがはっきりとわかった。ニュータイプ能力ってのは、便利だ。頭はときどき、しょっちゅう、かなり、ものすごく痛いが。

 

「……喜んでもらえて、よかったよ。MM-010相手の時みたいになったら、どうしようかと思った。」

「……ひっく。……あの子にも?」

「ええ。そうしたら、「マコーマック博士に貰った、大事な僕の番号を、そんな名前で塗りつぶす気だな!?」って、凄い剣幕で怒って。」

 

 ミチルは、鼻紙で鼻をかんでから、答えてくれた。

 

「あの子は駄目、よ。マコーマック博士に忠誠を誓ってるもの。狂信的なまでにね。コマンダーに殺されかけたときは恐怖で嫌がったらしいけれど、博士に命令されたら喜んで死ぬわ。」

「マリオネットたちとは別な意味で壊されてる、ってわけか。」

「そう言えば、マリオネットたちはどうしたの?なんか、反応が返って来ないんだけど。」

「ああ……。あいつらは……。」

 

 俺は、この子に開示していい情報だったかどうかを思い返す。ええと、この子なら下手するとニュータイプ能力による感応現象で、あの2名のマリオネットの状況を知ってしまうかも知れないから、別に教えてもいい、って情報だったな。

 

「あいつらは、ジャブローに移設されたニュータイプ研……人員は全部一新されたけど、そこに移されて、そこで治療を受けてる。最初は何の反応も無かったが、昨日はじめて少し反応があったそうだ。なんでも2人のうち1人が、果物の香りに鼻をむずむずと動かし、瞼をぴくりとさせたって話だ。」

「嘘!反応があったの!?」

「片方だけだがな。」

「そう……。治ると、いい、わね。」

 

 頷いて、俺は付け加える。

 

「お前だって、治るさ。きっとな。」

「……うん。」

「ふふふ。ゼロの副作用の治療法、わたしも探すって約束してるの。きっとゼロを治してみせるって。ついでみたいで悪いけど、ミチルの治療法もいっしょに探してあげるわ。」

「……ありがとう。」

 

 ミチルは再び涙ぐむ。悲しみの涙じゃない。ミチルは綺麗な笑顔を浮かべている。まあ、マセガキで口の減らないガキではあるが。でも、あいつらと……フラナガン機関救出組の子供らと会わせてみたら、きっと仲良くなるだろうな。うん。

 それを実現可能にするためには、こいつにかけられてる心理ブロックや精神操作を何とか外さないと駄目だ。あるいはマコーマック博士を倒すか。俺に出来るのは、そっちの方だな。マコーマック博士か……。ほんとに何があったんだろうな。そこまで下衆でも外道でもなかったはずなのに。

 

 

 

 俺、レイラ、ユウ、マリオン軍曹、コーリー軍曹の5人は、今日もフラナガン機関救出組の子供たちに会いに来ている。

 

「そうか……。もうすぐロンデニオン・コロニーに行くか。」

「さすがに寂しいわね……。」

「そうねー。でも、この子たち守らないといけないし。あと、コロニーの方がこの子達には環境いいし、ね。ここは軍事基地しか無いもの。」

 

 悲し気な、寂しげな俺たちの言葉に、クスコ軍曹が応える。向こうでは、女の子たちにユウがたかられており、マリオン軍曹がそれを引きはがそうとしていた。

 マリオン軍曹は、自分の気持ちに気付いているのだろうか。……あれは、無理だな。ユウが苦しそうにしてるから、引きはがそうとしているだけだと思い込んでる。自分の顔に、ちょっとだけ嫉妬が浮かんでる事に気付いてないわな。

 男の子たちは、最年長者ハリーがこの間手に入れた、中古の故障品のハロをバラして修理を試みているのを見るのに、夢中になっている。男の子は、ああいう物が好きだな。コーリー軍曹が、それにときどき口出して、アドバイスしている。なかなか優しいところもある。アーヴィンを膝の上にしっかりと抱き抱えていなければ、もっと良かったが。

 

「で、いつ出立なの?」

「再来週の金曜。」

「あまり時間、無いんだな。……ちょっといいか?」

「何よ?」

 

 投げかけた言葉に、怪訝そうな顔を浮かべるクスコ軍曹。俺は若干の懸念を伝えた。

 

「俺がニュータイプ能力の共振現象で、未来を見た事があるってのは話したよな?」

「ええ。」

「……0083の10月、デラーズ・フリートと呼ばれるかなり大規模なジオン残党の、一斉蜂起がある。そのとき、サイド1も占領下に置かれる可能性があるんだ。注意してくれ。」

「ええっ!?」

 

 驚くクスコ軍曹。俺は続ける。

 

「かなり前提条件を変えたし、それが現実になる可能性は低い。だが、前倒しで早まる可能性もあるんだ。このままルナ2にとどまっていてくれれば、とも思ったんだが……。ルナ2はルナ2で、別の組織の一斉蜂起で敵側の手に落ちる可能性が。何処にいても、結局同じなんだよな。」

「……了解。この身にかえても、子供たちは守るわ。」

「あなたも死んじゃだめよ?クスコ。」

「ふふ、可能な限り死なないわ。レイラ。」

 

 ほんとに……。なんとか戦闘に巻き込まれない地域は……。地球に降ろしたくはない。何故だか。子供の内に地球に降ろしたら、重力に魂を引かれたまま大人になってしまう気が、ひしひしとするのだ。

 向こうでは、ハリーがとうとうギブアップし、コーリー軍曹がアーヴィンに頼まれたのだろう、代理としてハロを修理している。だが、彼女でもわからないところはあるらしい。

 おい、それは内蔵ディスプレイのためのグラフィックボードだ。駆動系の制御ボードじゃない。シリアルバスの拡張カードでもない。おいそれは普通のメモリだ。OS用SSDのスロットに無理に突っ込むな。壊れる。駆動系とか動力とかには思いっきり詳しいのにな、彼女。

 

「仕方ない。レイラ、手伝ってくれ。」

「わたしもよくわからないところ、あるわよ?」

「2人いれば、なんとかなるだろ。」

 

 結論。なんとかなりました。ハロはハリーを主人と認めて、その周囲をゴロゴロ転がってたりする。そしてあまり引っ付き過ぎて、ケイコとジェシーの嫉妬を買うのだった。ハリー、両手に花って、けっこう厳しいぞ。つらいぞ。がんばれ。

 

 

 

 ブライト艦長の背中は、未だに煤けている。ここはルナ2の通信室。俺とブライト艦長は、レビル将軍とツァリアーノ大佐からのレーザー通信を受けていた。

 

『お前ら、覇気が無いぞ。』

「覇気が無いのはブライト艦長だけですが。」

「無くなりもする……。あ、いや。」

『で、だ。お前から要請のあった補充兵だが。なんでも熟練兵もしくは古参兵が欲しいとのこったな。できれば少尉未満で。』

 

 ツァリアーノ大佐が、手元の書類を見ながら話す。レビル将軍は、どっしりと構えて大佐の話が終わるのを待っているらしい。

 

「はい。2人必要なのですが、もう1人は我が隊を志願している新兵から選んで、人事課に直接書類を送りました。」

『そうか、一応変な奴の人事書類は送っていないはずだが、書類内容は確かめたか?』

「はい。」

 

 それはもう、しっかりと確かめた。「オニマル・クニツナ」隊はレビル将軍直下の部隊で、特に高い戦果を誇る部隊だ。2番目が、マット大尉の中隊だな、確か。その正体はあまり広まっていないが、俺、ゼロ・ムラサメ少佐が部隊長である事はいつの間にか広まっていたり。更に、ニュータイプ部隊だと言う噂まで。いや、ニュータイプや強化人間多いよ!?多いけど、それを目的として集めた部隊じゃないからね!?

 

『そんならいいんだ。だがこっちの方はちと時間がかかる。ダミアンの奴の代わりが欲しいんだろ?さすがになあ……。少しだけ待っててくれるか?』

「了解です。ただ可能な限り、急いでいただけると。」

「自分からも、どうか急いでくださる様、願います。「オニマル・クニツナ」隊が動けない現状、第42独立戦隊は遊んでいるも同然なのです。」

『任せろ。』

 

 大佐の話が終わったと見たか、レビル将軍が徐に前に出て来る。ツァリアーノ大佐は、場所を譲った。

 

『さて、諸君。この度、我々は予定を前倒しにして、「ガンダム開発計画」を実施することにした。』

「……!!」

『この計画の骨子は、5種類の再設計されたガンダム試作機を開発し、それによる新技術の研究と習得にある。

 試作1号機は、以下の様な……。』

 

 将軍の言葉によれば、次の様な開発計画によって5種類のガンダム試作機を開発する計画である様だ。5機というところからわかる様に、元々のガンダム開発計画をベースにしながらも、大幅に変わっている部分がある。

 

 

 

試作1号機:ムーバブル・フレームと従来のタイプのハイブリッドによる、現時点でも少数生産であれば可能な高性能機を開発する事に主眼を置く。具体的には腕部にのみムーバブル・フレームを使用し、他の部分は従来型となる。ただし、研究の進み具合如何によっては、胴体部以外はムーバブル・フレーム型に変更される可能性もある。またこの機体には、新型装甲材であるガンダリウムβを試験的に使用。

 

試作2号機:核兵器を運用するための、純然たる実験機。Mk-82核弾頭(レーザー水爆)を使用。バズーカで水爆級の核弾頭を発射するため、この機体は爆発の威力にある程度曝される。それに耐えるため、機体の特殊な構造と、対核冷却シールドを併用する。

 

試作3号機:拠点防衛用MAを、試作1号機タイプに近いMSをコアとして、それに追加兵装を加える形で開発する。RX-78-7ガンダム7号のオプション装備、重装フルアーマーが参考にされており、これに近い形でMAを構築する。更にIフィールドジェネレーターを始め、様々な新機軸の実験をこの機体で行うため、コアMSの換装、コンテナによる武装の換装を盛り込む。

 

試作4号機:完全ムーバブル・フレームの試作実験機。新型フレーム機の多角的方面からの検証のため、複数機を製作し、前線パイロットによる実戦テストを行う。フレーム材の一部と装甲材に、ガンダリウムβを使用。

 

試作5号機(ガンダムMk-Ⅱ開発計画):試作1号機から試作4号機までに得られた新技術を可能なかぎり用い、量産を前提にしてコストを抑え、かつ整備性や稼働率も含めた性能的にも満足のいく、連邦軍の新たなシンボルとなるMSを開発する。

 

 

 

 うん。試作4号機までは理解できる。でもガンダリウムβのあたりは予想だにしなかったが。アクシズに流れたはずの、ガンダリウムの開発技術者でも捕まえたか?あと完全ムーバブル・フレーム?フランクリン・ビダン技術大尉を囲い込めたとは聞かなかったが、成功したの?それとも彼の部下でも引き抜けた?

 それに試作5号機として、ガンダムMk-Ⅱ開発計画!?うわぁ。大幅に変わってやがる。ティターンズで開発される前に、自分たちで作っちまおうってか。まさかエゥーゴが盗みに来ないだろうな。

 

『この秘匿計画だが、ある程度いったところで……。そう、試作機体が一通り完成したあたりが良いか。そうしたら、重要機密から外す。無論新開発、研究された技術そのものは機密だがな。そして……一気に公表する。』

「公表!?2号機もですか!?」

『2号機も、だ。この試作2号機は、いかに理屈をこねたところで、核攻撃のための機体だ。であれば、配備機数や場所などは隠さねばならん。が、存在そのものは公表せねば、核抑止力にはならんであろうよ。

 ジオン軍は、南極条約があるにも関わらず、核兵器を使用することをためらわなかった。故に、我々が致命的な威力を持つ核と、その投射手段を共に持つ事を知らしめねばならん。……同時に、周囲に広まっている南極条約に関する誤解を払拭する。

 第1に、南極条約は核の所持や研究を制限するものではなく、実際の使用のみを禁じていた事だ。ガンダム試作2号機の開発は、南極条約違反にはならん。もしも2号機を奪取し、それによるテロ行為を働いたりすれば、明らかに違反であるが。

 第2に、南極条約はジオン滅亡と共に、既に失効した戦時条約である事だ。ジオンは滅びておらんと叫ぶ愚か者もおることだろうがな。もっとも、南極条約の精神は尊重され、様々な法律で現在も核兵器の使用は制限されておる。』

 

 驚いた。凄く驚いた。

 

『そして試作1号機から5号機ガンダムMk-Ⅱまでを発表することで、連邦軍の士気を上げたいと思ってもいる。ここのところのコリニー派閥の不祥事などで、一部を除き、少し士気が下がり気味なのが気にかかるのでな。』

『将軍……。おまけの様に……。』

「了解いたしました。それで我々は、何を。」

『完成の暁には、諸君らにはガンダム開発計画で製作された各機体を試験して欲しい。そして試験終了後に、諸君ら「オニマル・クニツナ」隊には試作4号機を複数機、配備する予定だ。……無論、試作2号機もな。ただし核バズーカの試験は、デラーズ・フリート殲滅後に回すが。

 そして核兵器は、試作2号機に使うMk-82核弾頭も含め、近日中にルナ2に全て移送し、封印する。Mk-82核弾頭のみは、後に一時的に封印を解き、試作2号機の核バズーカの試験を行うものとする。』

 

 なんと……。「オニマル・クニツナ」隊が、ガンダム開発計画全機体のテストを行うって?これは……。正史を知ってればわかるんだが、これは危険だ。だが、これだけ重要な役割を任されたとなると、気が引き締まらざるを得ない。

 

「はっ!了解しました!」

『ああ、それとな……。』

「はっ。」

 

 レビル将軍は、付け加える様に言った。

 

『核兵器のルナ2への移送計画だが、諸君ら第42独立戦隊と、「オニマル・クニツナ」隊に、宇宙空間での航路中の護衛を任せるからな、頼むぞ。』

『「「将軍……。おまけの様に……。」」』

 

 ほんとにおまけの様に言っちゃったよ、このヒト。今回いちばん大事な事だと思うんだけどね。

 

「大佐……。さっきの補充兵の件、急いでくださいね……。」

『了解した……。』

 

 核兵器のルナ2への移送計画、はたしていつ何時に発動するんだろうね?




うわぁ。レビル将軍てば、試作2号機の件を秘密にし過ぎたのが問題の1つだと、思い切り過ぎた様です。たぶん、デラーズ・フリートの脅威が去ったら、Mk-82核弾頭と試作2号機による核実験まで公開するつもりだよ、このヒト。
とりあえず、近場の山場はルナ2への核兵器移送計画。はたしてどうなる事か。

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