強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士

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やあ、戦友

 宇宙歴0081、12月30日。ルナ2の格納庫で、ヤザンの歓声が響く。

 

「こいつぁいい!少佐ぁ!俺にこの機体、任せてくれんか!?」

「射程距離はハイザック・カスタムよりも短いですけれど……。」

「機体の運動性は、より高いわね。そして格闘能力は、こっちが圧倒してる。」

 

 ウェンディ伍長とクリス中尉が、レイラが手渡した機体の資料を見ながら呟く。俺はぼやいた。

 

「無茶振りが過ぎる……。作戦前日に、こいつ送って来るかね。」

「大丈夫だ!一年戦争のときなんざ、朝に受領したジムスナイパーカスタムを大戦果と引き換えにブチ壊しちまってな!替えの機体として夕方にはジムライトアーマーでブイブイ言わせてたときもあったんだぜ!!」

「いや、俺もG-3ガンダムを急遽配備されたアレックス3に1日で乗り換えた事はあったけどよ。

 だがこれを実戦で評価しろってんなら、もう少し日が欲しかったな。」

 

 俺たちの前には、頭部が尖がったスレンダーな、赤紫色の装甲でモノアイのMSが3機、鎮座していた。RMS-117ガルバルディβだ。当初この機体は、連邦軍では開発される事は無いと俺は思っていたのだが。

 だがしかし、覚えてる奴はいるだろうか。俺が敵のスパイだった事もあるジュダックを捕まえた時、奴がなんか書類の山を持っていた事を。あれを解読したところ、その中にジオン公国のMSであるMS-17ガルバルディαの設計書が含まれていたのだ。

 うん、その設計データが連邦の手に入って無かった上に、実機も大破したのしか無かったから、ガルバルディβは連邦じゃ作られないと思ってたんだよな。でもこれが手に入ったため、急遽プロジェクトチームが組まれてガルバルディαのコピー機が作られた。そして中々の物だと言う事で、連邦の技術を惜しみなく投入された改良機、ガルバルディβが作られたのだ。

 問題は、その実戦テストを俺たちの部隊に押し付けたどっかの馬鹿……レビル将軍じゃないんだが、その近くにいる開発関係に深く関わってる某技術士官のせいで、こんな作戦間近の機種転換訓練もできない状態で、3機のコレがおくりつけられて来た事にある。なあ、セキ技術大佐?

 

「大丈夫だって!俺を信頼しろよ!第一、こいつの武装はビームライフル、シールドに仕込まれたミサイル発射器、それにビームサーベルと、シールドミサイル以外は基本に忠実だ!使いこなすのに、そこまで無理はねえよ!」

 

 ヤザン……。こいつ、最初は俺に敬語らしきもの使ってたのに。プライベートでタメ口許したら、いつの間にか公の場でも乱暴な口調で喋る様になりやがった。まあ、こいつは仕方ないか。

 

「クリス中尉……。すまんがこの機体3機、第4小隊で実戦で使って評価してもらえるか?今度の任務から、機体をハイザック・カスタムからコイツに差し替えって事で……。」

「は!了解しました。では早速シミュレーター訓練を、そして多少慣れたら本日中に実機訓練に入りたいと思います。いくわよ!ヤザン少尉!ウェンディ伍長!」

「は、はい了解ですー!」

「は、了解です中尉どの!じゃあな少佐!」

 

 こいつ、クリスには敬語使うクセに……。敬礼して立ち去るこいつらを、俺とレイラは答礼で見送った。

 ちなみにウィリアム整備長には、機体の種類が増える事でさんざん文句を言われた。いや俺に文句言われても。まあ、部品の共有率が下がるとか、整備の煩雑さが増すとか、整備兵の教育が大変だとか……。解るは解るんだ。解るから、俺に文句を言うな。

 

 

 

 年が明けた。年越しを俺たち「オニマル・クニツナ」隊の面々は、艦の中で過ごす羽目になっていたりする。地球とルナ2間の航路は、通常航行で3日かかるのだ。というわけで、俺たちが乗った第42独立戦隊各艦は、0082の1月3日に間に合わせるため、0081の12月31日00:00時にはルナ2を出港していたのである。

 と言うわけで、今は1月1日。元旦である。ハッピーニューイヤー。そして新年早々、慣性航宙の合間を縫って、第4小隊の機体完熟のために、宇宙空間で実機演習だ。しかし何と言うのかヤザンの奴、水を得た魚と言うか、赤兎馬を得た呂布と言うか、ハイザック・カスタムとは動きが違う。違い過ぎる。

 ぶっちゃけ、第3小隊だと相手にならない。1機が新米で実戦未経験のイェルド伍長だって事もあるんだが、それでも小隊長のフィリップ中尉は以前実機演習で、格の劣るジム改高機動型で、アレックス1に乗ったレビル将軍の攻撃を耐えきった技量の持ち主だ。しかしヤザンは、格闘戦に持ち込んでとうとうソレに撃墜判定を与えてみせた。

 彼らは第5小隊ともやってみた。第5小隊のリディア少尉とホーリー少尉は、アイザック乗りだ。なので予備機のハイザック・カスタムを貸してやった。で、レイラが一時的に入って3対3だ。そしたら、驚くべき事に中盤までは、第5小隊が緻密な連携を披露して、第4小隊を圧しまくると言う光景が。ヤザンが切れて、自機の右脚と引き換えにリディア少尉を格闘戦で撃破するまでだったが。その後は驚くべき事に、クリス中尉をトップに変更し、ヤザンとウェンディ伍長の支援のもと、彼女がホーリー少尉を撃墜。その後時間切れで残り機数差で、第4小隊の勝利。

 そして第2小隊との対戦。……第2小隊の辛勝。って言うか、マリオン軍曹とコーリー軍曹が、クリス少尉とウェンディ伍長を苦労して下して勝ったのだ。あの2人も、マリオン軍曹やコーリー軍曹を苦労させるぐらいになったか。だが、ユウが俺以外に撃墜判定くらうのを、はじめて見たぞ俺。まあ、相打ちでヤザンも墜ちたが。

 で、ついに俺たち第1小隊との対戦だ。

 

『少佐ぁ!!あんたとヤってみたかったんだよぉ!!』

『ヤザン少尉!少佐は任せたわ!わたしはィユハン曹長を!』

『わ、わたしはレイラ少尉を抑えます!は、はやく助けに来てくださいね!』

 

 だが甘い。MSでの射撃はヤザンの方が技量がわずかに上で、MS格闘戦はほぼ拮抗している。ニュータイプ能力無しの状況でだ。しかしコレにニュータイプ能力を加味すれば、話は変わる。まあ最初は人工的に付加されただけの力だったが、俺はそれを必死になって努力で伸ばして来たんだ。遠慮なしに使わせてもらおう。

 

『うぉっ!?』

「さすがだな、ヤザンっ!!」

『うおははははは、さすがゼロ少佐!』

 

 く、殺気を消して撃ってるのに、それを読みやがる。別の殺気をぶつけても、それには騙されない。なんてやりづらい奴。しかしそれは相手も同じだと見えて、悉く俺はヤザンの射撃を躱す。ヤザンは苛立って、ビームサーベルを抜いて格闘戦に入って来た。……それを待ってた。

 

『ぬわぁっ!?』

「ち、はずした!」

『はずしたって言ったって、左腕を盾ごともってかれたぞ!?』

 

 いつもの馬鹿の一つ覚え、ゼロ距離からビームサーベルを抜くとみせかけての、腕の90mmバルカン斉射。だがこいつ、ニュータイプ能力者でもないのに左腕を犠牲にしただけで躱し切りやがった。なんてやつだ。

 あ。

 

『な、なんだぁ!?どこから!』

『す、すみません少尉~!レイラ少尉を抑えきれませんでした……。』

 

 うん、レイラが殺気の消し撃ちをしたんだ。遠距離から狙撃で。俺との戦いに夢中になってるヤザンを。あー、なるほど。ヤザンこいつ、MSの機動や腕部の動きとか見て、躱してやがったのか、至近距離で。銃口の向きを見てりゃ躱せるって、どこの人斬りだ、お前。

 でもって、視界外からのレイラ機の殺気が無い狙撃は、躱せなかった、と。ヤザン機、撃墜判定。

 

「さんきゅ、レイラ!」

『どういたしまして!』

『うおおおぉぉぉ!!不完全燃焼だ!!』

 

 叫ぶヤザンに、俺は反省点の指摘をしてやる。

 

「と言うわけで、お前らの弱点は、やはり連携だ。まず最初に3人で俺たちの1機……ィユハン曹長機あたりを墜として、そうなってから俺に一騎打ちを挑むべきだったな!」

『何故俺です、たいちょ!?』

「お前、ウチの小隊で一番回避苦手だろ。狙撃は超一流だが。」

 

 と言ってるところで、ィユハン曹長機がクリス少尉に墜とされる。言った通りになった。ただィユハン曹長も、クリス機を相打ちで撃墜したが。

 

『ごめん、ウェンディ伍長。なんとか1人でゼロ少佐とレイラ副官を墜としてちょうだい!』

『む、無理ですよー!』

『連携に不安がある今の状況じゃ、1対1の3組に分けるしかなかったんだけど……。悔しいわね。と言うわけで、悔しいからなんとか勝って。』

『だから無理ですって!ホラ!』

 

 ウェンディ伍長機、ワガハイにより撃墜判定。だがここしばらくの訓練で、1機も欠けないで勝ってる……大破判定もらったりはあるが、撃墜判定された機体は無かった俺の小隊だが、ついに記録が途切れたな。ひさしぶりに撃墜機が出た。

 

『すいません、たいちょ。』

「現実で撃墜されなきゃ、かまわんよ。だから回避技量、もっと磨け。そうだ、これから1on1で絞ってや……。」

『ゼロ少佐、残念ですが時間切れです。速度微調整のため、艦隊が加速する時間です。艦に帰還しないと、このまま慣性航行したあげくに大気圏突入しますよ?』

 

 俺はレイラの声に、苦笑を漏らした。

 

「残念。バリュートも無しにソレはご免だな。全機帰艦せよ!各小隊長は、訓練報告書の提出を忘れるな!」

『『『『『『了解!』』』』』』

『……!』

 

 俺の部下達は、全員一糸乱れぬ?唱和をして、各艦へと帰投していった。助かったと思ってるィユハン君?キミは忘れている。艦にはシミュレーターと言う物もあるのだよ。

 

 

 

 さて、地球の軌道上だ。もうちょっと詳しく言うと、地球を普通に周回する高度1000km程度のLEO、低軌道なのだが。1月3日、05:00時に、ジャブロー上空に差し掛かる様に調整された軌道だ。はっきり言って、もうすぐである。

 俺とレイラは、今ブリッジに詰めている。パイロット用ノーマルスーツ姿で、ヘルメットは後襟に留めてある。ブライト艦長たちは、こちらは重装の一般用ノーマルスーツだ。

 ブリッジにある大型モニターに、俺たちから見て真下、地球表面の様子が映されている。と、そこに小さな影が4つ映った。その影は、徐々に大きくなる。こちらに上昇してくるのだ。ブリッジオペレーターが、ブライト艦長に報告する。

 

「改ペガサス級強襲揚陸艦スタリオン、アルビオン、グレイ・ファントム、トロイ・ホースの4隻を目視で確認しました。艦コードも受信、間違いありません。」

「了解だ。あちらが軌道に乗るのを待って、旗艦であるトロイ・ホースに交信を求めろ。」

「了解です。」

 

 そして4隻の改ペガサス級は、俺たちのいる高度までさくっと何事もなく上がって来た。ちなみに敵影はまったく無い。俺やレイラのニュータイプ能力にも、何の反応も無かった。

 

「通信、繋がりました。メインモニターに出します。」

『……あー、俺いや自分がトロイ・ホース艦長の、デトロイド・コッヘル少佐、だ。で、こちらが今回の核移送任務の総責任者、作戦司令を兼任する、MS隊大隊長の……。』

『お初にお目にかかる。あたしがレビル将軍直属部隊ツァリアーノ連隊第2大隊大隊長、シーラ・ガラハー中佐さね。』

「し、シーま……」

『『わーーー!わーーー!!』』

 

 ……シーマ・ガラハウ元ジオン公国海兵隊指揮官代理だったヒトと、デトローフ・コッセル元ジオン公国海兵隊所属ザンジバル改リリー・マルレーンかんちょだったヒト。お顔もちょっとしか変わって無いし、名前なんて元の名前とよく似てるじゃんか。

 

「あ、あー、自分は第42独立戦隊提督兼、この改ペガサス級ブランリヴァル艦長、ブライト・ノア少佐であります。こちらは、レビル将軍直属部隊ツァリアーノ連隊第01独立中隊中隊長の、ゼロ・ムラサメ少佐です。」

「お、お久しぶりです、シー……ら?中佐。」

『な、何のことだい!?あたしはアンタと会った事はないよ!?』

「いえ、サイド3攻略戦にて、レビル将軍機を共に護って戦ったでしょう……。俺は、戦友の気配は忘れませんよ。」

 

 シーラ中佐は、がっくりと肩を落とす。

 

『さすがは連邦のニュータイプの中でも、1、2を争うトップエースだねえ……。こんな整形、意味ないじゃないか。』

「……あの、なんでそんなすぐわかりそうな名前とか、前と似たお顔をしてらっしゃるんで?」

『名前は、うっかり呼ばれて返事した時に、前と似た名前だったら誤魔化しが効くって言われてさね。顔は、あまりガラっと変えると、心理的にストレスが溜まってひどい事になるってね。実際、大きく変えた奴もいるけど、ちょっと心を病んじまって編制から外して、病院通いさ。』

 

 あー……。それはツライ。なるほど、納得だ。

 

「それは……。大変でしたね。部下の方には……。」

『いや、いいんだよ。あんたほどの奴から戦友と呼ばれるとはね。あたしらも捨てたもんじゃないね。隣の娘は、彼女かい?』

「ですよ。副官でもありますが。それに戦場でも俺の背中を護ってくれる、頼もしい相棒です。」

『ほう?大事にしなよ?』

 

 俺は力強く頷く。レイラの顔は真っ赤だったり。と、ブライト艦長が話に割り込んで来る。

 

「すまんが、あの方は何なんだ?何か新聞か何かで、何処かで見た記憶があるんだが。整形とか前の名前とか……。」

『ちょ、お待ちよ。ちょおっとソレは……。』

「どうせオープン回線じゃないんだから、いいじゃないですか。互いのブリッジの面々しか見てません。そしてこっちの艦長は、それで動じる程ヤワじゃないですし。

 それこそ新聞で、見てるはずですよ。ブライト艦長?1~2年ぐらい前ですね。」

「何?……マテ。シー……ガラ……シーマ・ガラハウ少佐か!あの悲劇のヒロインか!」

 

 シーラ中佐は、酢を飲んだような顔つきになった。

 

『やめておくれよ。連邦軍のプロパガンダ作戦で、悲劇のヒロイン扱いされてさ。あたしはもう33、あとちょっとで34歳だよ?お姫様扱いされて喜ぶガキじゃないのさ。』

「あ、いや申し訳ありません中佐。全員!ここでの話は口外無用だ!いいな!」

「「「「「「了解!」」」」」」

『ほう?しつけが行き届いてるねえ?』

「いや、前艦長の薫陶の賜物ですよ。」

 

 ブライト艦長は、にこやかに笑い、そして言った。

 

「今回の作戦指揮は、お任せします。」

『……いいのかい?あたしはシーマ・ガラハウだった女だよ?敵国の海兵隊として、悪行の限りを尽くして来た女だって判明したのに、そいつに指揮を任せるのかい?』

「?……あたりまえでしょう。そちらは中佐、こちらは少佐2人です。そちらが指揮を執るのが、普通でしょう。」

 

 そしてシーラ中佐は、頷く。

 

『いいだろう。この作戦中、あんたらの命、預かったよ。』

「「はっ!」」

 

 俺とブライト艦長は、敬礼を送った。シーラ中佐も答礼を返して来る。そして彼女は叫んだ。

 

『野郎ども!ルナ2へ向けて発進せよ!ただし、大事なブツに傷をつけないように、ふんわりと優しくだよ!?』

『『『『『『了解!』』』』』』

「第42、独立戦隊も了解です。全ての艦に通達!ルナ2へ進路を取れ!」

 

 そして俺たちは、地球連邦軍宇宙基地ルナ2への帰途に就いた。これから3日間の航宙、何事もなければ良いんだけどな。




シーマの姐さん……。すっかりお茶目になっちまって……。まあ、幸せそうでよかった。こんな大事な作戦まで任されちゃって。
でもこれだけの厚い陣容なら、そう簡単に襲う事はできませんねー。もし情報漏れしてても、だからこそ断念しそうな防御網。
はっはっは。
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