強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士

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MSVコンビ三度あらわる

 改ペガサス級強襲揚陸艦ブランリヴァルのブリッジでは、緊張が渦を巻いていた。メインの大モニターには、シーラ中佐のこれも緊張した顔が、ミノフスキー粒子によるノイズ入りで映し出されている。

 

『ザッずかに……。静かに進むんだよ?アイツらを刺激しなザザザッにね。あたしらの任務は戦う事ザザッない。』

「わかって、おります。万一スタリオンとアルビオンに積まれた核兵器に損失が出たなら……。」

『その通ザザザッだよ。こっちの兵力を見ザッ、撤退してくれるんならば、ありがたザザザッ事さね。ただ……。』

 

 ブライト艦長の返答に満足してみせたシーラ中佐は、しかし顔を険しくして、言い放つ。

 

『もしトチ狂ってかかって来るザザザッ、そんなバカが出たら……。手加減は無用だ。一気に叩き潰すよ。1機たりと、1隻たりと逃ザザッない覚悟でねぇ……。』

「「了解。」」

 

 俺とブライト艦長は、異口同音に応えた。事は、3時間前まで遡る。

 

 

 

 今から3時間前、宇宙世紀0082、1月4日の09:00時、第42独立戦隊旗艦ブランリヴァルでは、核兵器移送部隊旗艦トロイ・ホースへと定時連絡を行っていた。

 

「ヒルッカ伍長、トロイ・ホースとの定時連絡を。」

「はい、艦長。……こちら第42独立戦隊旗艦ブランリヴァル。トロイ・ホース、応答願います。……はい。こちらは……。いえ……。変ですね?再度チェックしてみます。ノイズが……。」

「「ノイズだと!?」」

 

 ブリッジに詰めていた俺と、そしてブライト艦長が、一斉に声を上げた。

 

「あ、はい艦長。通信にノイズ……もしかして!?」

「全センサー!い、いや訂正する!全パッシヴセンサーを全開にして、周辺宙域をチェックしろ!周辺宙域の電波傍受から逆算したミノフスキー粒子濃度を至急報告せよ!第42独立戦隊各艦に通達、第3種戦闘配置!」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 俺はオペレーター席に着いているマリー曹長に命令を発する。

 

「マリー曹長!第5小隊アイザック隊に緊急の出撃命令だ!ただしカタパルトは使わず、格納庫の上部ハッチを使って甲板上に上げさせろ!ブランリヴァルの甲板上から、パッシヴセンサーで周囲を観測させて、怪しい物があったらカメラガンで確認させるんだ!」

「了解です、たいちょ!」

 

 通信オペレーターのヒルッカ伍長が、再度の報告を行って来る。

 

「艦長、トロイ・ホースの方でも気付いたと見えて、パッシヴセンサーでの周辺宙域のチェックをこちらに命じてきました。自分たちでもやっているそうですが。こちらが既に取り掛かっていると返答したところ、流石だ、と。」

「向こうも歴戦の軍艦乗りだけあるな。」

「まったくだ。で、第3種戦闘配置だから俺とレイラはMSデッキに向かった方がいいな?」

「いや、第1種に移行するまではここに居てくれ。直接意見を聞きたい。」

「了解。」

 

 やがてアイザック隊のリディア、ホーリー両少尉から報告が入ってくる。その内容は、俺たちが内心予想した通りだった。アイザック2機のカメラガンが、チベ級ティベ級の重巡洋艦に率いられた、隠密航行中の艦隊を発見したのだ。その数は次の通り。旗艦であるティベが1隻、それに随伴するチベ1隻、ムサイ通常型1隻、ムサイ後期型1隻、ムサイ最終型1隻、商用輸送艦を改装した仮装巡洋艦2隻の計7隻。

 デラーズ・フリートとしては今現在で即座に動かせる全力を投入してきたのだろうな。全部で7隻の豪華布陣……。しかも最新型のティベ級やムサイ最終型まで混じっている。7隻中2隻は戦力価値の低い仮装巡洋艦とは言え、5隻は正規の軍艦なのだ。しかも仮装巡洋艦が混じっているために正確な数は判然としないが、MSがおそらく……最大で40機近く。つまり1個MS大隊に2~3個小隊足りない程度だ。

 対してこちらの戦力は……。改ペガサス級5隻、サラミス改2隻、ネルソン級1隻。まあ改ペガサス級のうち2隻は戦闘参加させられない上に保護対象だが……。搭載してるMSの機数は次の通り。トロイ・ホースに第1中隊が3個小隊9機、グレイファントムに第2中隊が3個小隊9機。第42独立戦隊の各艦に「オニマル・クニツナ」隊が、4個小隊とアイザック2機の14機。つまりMSの合計は32機だ。

 MS数では若干敵が勝り、艦の数や質ではこちらが勝る。そして俺の人工ニュータイプ感覚によると、感じるプレッシャーは……。

 

「……平均して、強くも無く、弱くも無い。だが振れ幅が大きいな?まずい……か?」

「どうした?ゼロ少佐。」

「ああ艦長……奴らの放つプレッシャーから受けた「感じ」なんだが。平均してそれこそ平均的な部隊だ。けれど頂点と下とで、差がありすぎる。まあそれこそが、ジオン残党の「残党」たるところなんだろうが……。」

「ふむ……。」

 

 ブライト艦長の表情が厳しくなる。俺の危惧したところを、きちんと受け取ってもらえた様だ。

 

「ゼロ少佐が危惧してるのは、敵兵のうちでも下っ端レベルの暴発だな?」

「ああ。最も多い、普通のベテランクラスは特に心配ないだろう。暴発してこちらを襲ってくる程、「若く」は無い。命令されれば襲ってくるだろうけどな。

 ちょっと危ういのが、トップレベルのエースクラス……。自分の力量に酔ってるタイプの奴は、それこそ「暴発」して好き勝手やるかもしれない。まあ頭の中もエースクラスに相応しい本物なら、デラーズ・フリートが今は一兵でも一機でも惜しい時期だと理解してるだろうけどな。逆に上の方に意見をして、数で互角のこちらを襲うのを止めようとするだろう。」

「ふむ……。」

「一番「暴発」しかねないのが、力量も無いのに理想に燃えてる奴とか、あるいは上昇志向の強い奴だな。」

「それは……わかるな。昔実際に、そういう手合いの敵とかち合って、痛い目に……遭ったからな。だが、それが無ければ……。いや、すまん。忘れてくれ。

 オペレーター!ヒルッカ伍長!トロイ・ホースに回線を開け!シーラ中佐に報告して、今後の方策を……。」

 

 ああ、0079のサイド7遭遇戦か。あのときシャアの部下だったジーンの暴走を、その上役だったデニムが制止できなかったのが、「機動戦士ガンダム」の全ての始まりだったものな。……そうなんだよなあ。ああ言う手合いが、敵艦隊に含まれていなければ良いんだが。

 ……ところで「忘れてくれ」って言われたって事は、サイド7遭遇戦の一件はまだ機密指定されてるのかな?

 

 

 

 それから3時間。俺たち第42独立戦隊とシー……ラ艦隊は、アルビオンとスタリオンを艦隊の中核に置いて、静々と航宙していた。敵には動きは無い。灯火を消し、ミノフスキー粒子に隠れて、あちらも粛々とこちらを追尾しているだけだ。こちらに存在を気付かれた事に、気付いていない模様。

 やはり敵は、戦力的に互角のこちらを襲撃するのを躊躇している。それはそうだろう。デラーズ・フリートにとって、7隻の……ことにその内5隻含まれてる正規の戦闘艦は、万が一撃沈されでもしたら泣くに泣けないはずだ。敵に取って、核を奪取するだけではなく艦隊の保全を成し得て、はじめて勝利と言える。だが戦力的に互角のこちらと戦えば、損害は免れない。

 翻って我が方だが、実も蓋もない言い方をすればアルビオン、スタリオン両艦以外が壊滅しても、この2隻が無事にルナ2基地までたどり着けば戦略的勝利だ。まあ、俺個人にとっては大敗に等しいんだがな。俺にとって今現在の大目標は、大事な人たちを護り、自分も生き残らなきゃならん。そして大事な人たちのかなり多くが、「オニマル・クニツナ」隊に集中してるし。

 こちらを襲って来ないと言う事は、敵艦隊の司令部がその事を理解してるって事だろう。もしかしたらデラーズの奴に、無理はするなと言い含められてるのかも。いや、言い含める程度じゃなしに厳命されているかもな。

 

「とりあえず、敵のプレッシャーを感じるぐらいで抑えておかないとな。万が一相手にニュータイプ能力者がいたりすれば……。はっきりと思念を感じようとすると、確実にとは言えないが、こちらが敵に気付いていると言う事実を知られてしまう。」

「了解です、少佐。」

 

 レイラが頷く。彼女は俺の副官なので、いつも俺に付き従っているのだ。その彼女が口を開く。

 

「けれど……。敵が動くとすれば、そろそろかと。」

「そうだな……。これ以上襲撃を先送りするわけにはいかんだろう、あちらさんも。そうなれば、最大戦速出せばルナ2へ逃げ込めてしまうものな。

 となると、だ。ここで襲撃が無ければ敵は作戦を放棄して、逃げかえってくれるって事……。」

「少佐!アイザック隊から報告!敵艦隊は回頭して離脱しつつあります!」

「あきらめてくれたか……。オペレーター、シーラ中佐に報告してくれ……。」

 

 マリー曹長の報告に、ブライト艦長がほっとした様に言った、その時だった。俺の脳裏に閃光が走り、頭の中で蛇が蠢く様な頭痛が感じられる。レイラを見ると、彼女も焦った様な表情をこちらに向けて来た。たぶんマリオン軍曹も、気付いているだろう。ブリジットとウェンディの両伍長は、まだニュータイプ能力が低いので難しいか?

 俺はブライト艦長に叫ぶ。

 

「艦長!お……。」

「了解だ、ゼロ少佐!総員第1種戦闘配置!ゼロ少佐たちは急ぎMSデッキへ!敵に動きが確認でき次第、「オニマル・クニツナ」隊側の判断で出撃してくれ!」

「「了解!」」

 

 ブライト・ノア少佐……。さすが一年戦争をくぐり抜けた、歴戦の艦長だけある。ニュータイプ能力なんてかけらも無いのに、俺の言いたかったことを即座に理解して、最適な命令を下した。俺とレイラはヘルメットのバイザーを下ろしつつ了解を叫ぶと、急ぎMSデッキへと向かった。

 

「くそ、やはり末端のMSパイロットが暴走、暴発しやがったみたいだな。」

「みたいですね。なんというか、未熟さ?みたいな……。それを感じた気が。」

「間違いじゃないぞ。感じ取れた感覚は、まだ若造だ。だが若造だからと言って、手加減なんてしてやれないけどな。」

 

 ああ、いや。俺も若造だけどな。なにはともあれ、俺たちは自機のコクピットへとたどり着く。

 

「第5小隊!アイザック隊!リディア少尉、ホーリー少尉!報告を……。」

『こちらホーリーです!通常型のムサイ艦に動きが!宙域を離脱しようとしていたんですが……それは間違いないんですが!艦尾の発進口から不意打ち気味に、ザク改を射出しました!』

『こちらリディア少尉!ザク改射出後、各敵艦から次々にMSが発艦!ですが……フォーメーションもばらばら、統制が取れていない様に思えます。』

「了解だ。「オニマル・クニツナ」隊全機、発進せよ。第2、第4小隊は本艦隊に迫るMSを叩き墜とせ!第1、第3小隊は……。」

 

 戦闘になってしまったなら、仕方がない。敵に……デラーズ・フリートにとって、一番嫌な事をやってやる。

 

「俺たち第1小隊と第3小隊は、敵艦を沈める!第1目標は艦隊旗艦と思しきティベ!第2目標チベ!それを撃沈し終わったら、ムサイ艦から順に叩き潰すんだ!仮装巡洋艦は後回しでいい!正規の戦闘艦は1隻も逃がさないつもりでかかれ!」

 

 正規の戦闘艦から順に、全艦艇を破壊してやる。デラーズの奴には、大きな痛手だろう。それに、相手からすれば自分たちが襲う側だと言う意識がある。母艦が窮地に陥れば、泡を食うだろう。こちらの艦隊を襲うべきか、母艦を護るべきか迷うだろうしな。ま、それだけじゃなし、ティベ級チベ級の砲戦火力は放っておくとヤバいってのもあるが。

 

『ゼロ少佐、進路クリア!いつでもどうぞ!』

「ゼロ少佐、アレックス3、出るぞ!」

 

 俺のアレックス3は、宇宙空間へと飛翔した。

 

 

 

 アレックス3のビームライフルによる狙撃をエンジン区画に受け、ティベ級が爆沈する。多数の人間の、断末魔の叫びが精神に響き、同時に頭の中で蛇がうねった。俺は苦痛を振り払い、メインカメラ……アレックス3の頭をチベ級の方へ向ける。コクピットの全天モニターに、火球となって沈みゆくチベ級が映った。

 

『ひゃっほーい!ザザザッこちら3-0、フィリップ中尉ザザッ!イェルド伍長、よくやった!』

『え、あ!?ぼ、僕の戦果……?ザザッ……。』

『そーだ、よくやった!ザッ間違いなく、お前のスコアだザザザッ!』

「こちらでも確認した。よくやったな、イェルド伍長。レイラ!ムサイ艦は!?」

『ザッ今やるところ!。ィユハン曹長、合わせて!3、2、1……。』

『ザザッ了解っ!!』

 

 レイラとィユハン曹長のハイザック・カスタムが、ビームランチャーから閃光を放つ。その閃光はムサイ後期型の左右エンジンナセルに吸い込まれる様に消え、そして次の瞬間ムサイ後期型はエンジン部の大爆発に巻き込まれて消滅していった。

 そしてムサイ最終型と、通常型ムサイ艦、それに仮装巡洋艦のうち1隻が瞬時に、ほぼ同時に火球に変ずる。やったのはハイザック・カスタムに率いられた、ジムⅡやハイザックの混成部隊だ。

 

「お見事です、シーラ中佐。」

『ザッありがとよ。仮装巡洋艦は1隻逃しちまったけザザッねえ。ま、そろそろ出撃した敵MSがザザザッて来てる。そっちの相手をしないといけないよ。』

「了解です。艦隊の直掩に残した隊とで挟み撃ちにしてやりましょう。」

 

 数が半分以下になった敵MS隊が、逃げて行く仮装巡洋艦を必死で追っていく。無理もない。あれに逃走されては、MSの航続距離では『茨の園』まで戻れるわけが無い。奇跡的に戻れたとしても、酸素欠乏症まったなしだ。

 だが妙だな?さほど統制を喪失していない。力量のある指揮官でもいるのか?

 

『ザザッ少佐ぁ!』

「ヤザン少尉か!クリス中尉は!?」

『ちょい手ごわい相手がいザザッな、機体を損傷したんで小隊の指揮権を委譲ザザッて母艦に……グレーデンⅡに帰った。けど中尉は流石ザザッ相打ちで敵機撃墜したぜ。』

「そうか。無事なんだな?」

『おう。俺はそんとき別の強敵と闘りあってザザッな。こっちは無傷だが、相手も無傷だ。それを追ってザザザッ。』

 

 嘘だろ!?ヤザンとやりあって無傷!?しかもデラーズ・フリートの旧式機で!?

 

『あのゲルググキャノンだザザッ。』

『ザッ……。……。』

「ユウも来たか。」

 

 ユウは、もう1機の強敵が乗った、リック・ドムⅡを追って来たとの事だ。だけどなあ……。なんか奴らの気配、覚えがあるんだよなあ。

 ありゃ?ゲルググキャノン、紅いぞ?リック・ドムⅡの方は基本色が白だし。……まさか紅い稲妻と白狼か?だけど……奴らから感じるプレッシャーが、以前とは違う。以前は俺ならばサクッと墜とせたけど、今は難しいかもしれん。

 ならば……。俺はシーラ中佐機の肩にアレックス3の手を乗せた。いわゆる「お肌の触れ合い会話」だ。

 

「シーラ中佐。ちょっと手を貸していただけますか。あの紅いのを叩きます。」

『あれは……。赤い?赤い彗星?』

「いえ、シャアは一年戦争末期にレビル将軍が直々に捕らえてます。直属の部下と一緒くたにね。あれはジョニー・ライデンですよ。たぶん。」

『ほぉう?紅い稲妻かい……。了解したよ。』

 

 そして同じくヤザン機の足首、ユウのアレックス2の肩口に触れ、接触回線を開く。

 

「ヤザン少尉、ユウを手伝って白狼を墜とすか捕まえてくれ。できるな?」

『白狼?ほほう、一年戦争中には出会う事が無かったからな。やってやるさ。こいつは楽しめそうだぜ。』

「あんま羽目を外すなよ?くくく。」

『……。』

「ああ、頼んだ。」

 

 俺たちは2組の即興のコンビを組み、機体を飛翔させる。狙いは紅い稲妻と白狼だ。更に俺はレイラとマリオン軍曹に思念を送る。

 

(レイラ、ィユハン曹長といっしょに俺とシーラ中佐機の後に付いて、サポートをしてくれ。マリオン軍曹は第2、第4の他のメンバーを率いて、ユウとヤザン少尉の方だ。紅いのと白いのは、強敵だからな。注意力散漫になるかもしれん。他のMSからのちょっかいを防いでくれ。)

((了解!))

 

 そして俺のアレックス3が、真っ赤なゲルググキャノンに追い縋る。相手機はAMBAC機動で姿勢を変え、ビームキャノン、ビームライフル、ミサイルを撃ち放って来た。各々微妙に、絶妙に射線を変えて撃って来ている。

 俺は敵機の射撃直前に攻撃意図を読み取り、アレックス3をビームキャノンとビームライフルの射線の間に強引に割り込ませた。そしての間隙を縫う様にして飛来するミサイルは、ビームサーベルを抜いて切り払った。

 

『うそーん……ザザッ。』

 

 だから敵への交信は、降伏勧告とかじゃないと軍法違反だっつーに。いや相手はジオン残党軍で、軍法もクソも無いか。……一瞬敵が呆けた隙をついて、シーラ中佐機のビームランチャーが放たれる。いや、普通よけられるタイミングじゃなかった。だが忘我の状態に陥っていた紅いヤツは、たぶん無意識で間一髪そのビームを躱していた。

 

『ザッ……チィッ!お替りだ!これでもくらいな!』

 

 シーラ中佐の機の2射目は、だが躱された。しかし通信モニターの中の中佐は、俺にニィッと笑っていた。ハイハイ、わかってますよ。俺のアレックス3は、紅いゲルググキャノンの「上」を取っていた。

 いや宇宙に「上」も「下」も無いけどさ。気分的な問題だよね。AMBAC機動で強引にこちらを向いた紅い稲妻だったが、既にそこにはアレックス3はいない。俺の機体は相手機の背後に回り込み、ビームサーベルを振るっている。だが敵もさるもの、ビームキャノンを斬り落とされる直前に左手でビームナギナタを抜いた。双方のビーム刃が干渉し合い、共に吹き散らされる。

 ……ビームサーベルの出力が足りない。もし、は無いがビームサーベルの出力が強ければ、今この瞬間に決着はついていたはずなのだ。

 

「く……!!」

 

 俺は両腕の90mmガトリングと、頭部のバルカンを乱射。そのまま敵機の背後を取り続ける。敵は背後に回した左腕のビームナギナタをプロペラの様に回転させ、それを盾にして実体弾の乱射を打ち払った。無論、それで全ての弾丸を叩き落とせるわけがない。しかし背中のランドセルなど致命的区画を狙った弾は、はじき落とされてしまった。

 

「こいつ、ほんとにジョニー・ライデンか?技量が高すぎる。」

『ははは、いつまでザザザッ前のままの俺だと思うなよ!?お前には、ア・バオア・クーとジオン本国で借りがあったな!!ザザッ……。』

「ニュータイプ能力者でもないのに……。まるでこっちの喋った事、理解してるみたいだな。偶然なんだろうけどよ。」

『って、ありゃ?ひ、左手がザザッ……。』

 

 うん、ビームナギナタを盾にする発想は凄いと思うが……。回転の中心になってる左手の拳、それに握られてるビームナギナタ本体は、ビーム刃部分と違って、90mmガトリングはおろか頭部バルカンでも直撃くらえば吹き飛ぶだろ。ついでにランドセルとかにはあたらなかったけど、尻のスカート部分、脚部、右肩部など致命的じゃない区画には大量に命中弾が。

 それとな?俺ばかりに気を取られているのはマズいんじゃないかな。

 

『もらったあああぁぁぁ!!ザザッ……。』

 

 レビル将軍直属連隊第2大隊大隊長機のマークを描いたハイザックカスタム、シーラ中佐の機体がビームランチャーを撃ちながら突入してくる。後ろにばかり気を取られ過ぎたな。

 シーラ中佐機が、ビームサーベルで真正面からゲルググキャノンのビームキャノン、頭部、左右肩部を斬り飛ばした。俺は俺で、ビームサーベルで敵機の両脚を斬り飛ばす。紅いゲルググキャノンは、ダルマ状態になった。

 俺はダルマにアレックス3の右手を乗せて、「お肌の触れ合い会話」で降伏勧告を試みる。

 

「紅い稲妻、ジョニー・ライデンだな?降伏しろ。正当な裁判を約束する。」

『正当な裁判って言ったって、結局ゲリラ扱いなんだろ?まあ、ここまでやられりゃ仕方ないがね。本音では、タイマンで勝負決めたかったが……。

 まあ、わかった。降伏するぜ。だけどよ?司法取引で減刑ってアリかい?』

「む?アリだと思うが……。何か重要情報でも持ってるのか?」

『そりゃあなあ。俺が今回の襲撃作戦のMS隊指揮官、シン・マツナガが次席指揮官だからな。およ?シンちゃんもやられたか……。』

 

 見ると、ガルバルディβが両腕両脚が失われた白いリック・ドムⅡを牽引して、こちらへやって来る。その左右に、ユウのアレックス2とマリオン軍曹のハイザック・カスタムが。更にその後方に、第2、第4の面々の機体が見える。

 

『少佐ぁ!楽しかったぜ!ザッ……。』

『ザザッ……。……!……???』

 

 ヤザン少尉が満足げに叫ぶ。ユウはちょっと白狼の戦い方に疑問がある様だ。ジョニー・ライデンが苦笑混じりに通信を飛ばした。

 

『やっほー、シンちゃん。負けちまった。』

『ザザッ……その呼び方はよせと言ったろう。ザッそちらが指揮官か?』

「いや、俺じゃない。こちらのハイザック・カスタムの中佐が指揮官だ。」

『あたしが総指揮官のシーラ・ガラハー中佐ザザザッ。何の用だい?』

『そうザッ。自分はデラーズ・フリート第3MS隊次席指揮官、シン・マツナガ大尉。通信の中継をお願ザッザザッできますかな?部下たちに降伏の命令を出したい。ザザザッ……。』

『……いいだろ。ちょっと待ってな。接触ザッザザッを開くからさ。』

 

 シーラ中佐のハイザック・カスタムが、右手を白いリック・ドムⅡの頭に乗せる。接触回線を開くんだろう。そして機体を静止させ、トロイ・ホースへとレーザー通信回線を開いた模様。トロイ・ホースを起点として、全宙域にシン・マツナガ大尉の声が響き渡った。

 

『デラーズ・フリート第3MS隊各機!わたしザッ、シン・マツナガ大尉だ!我々は敗北した!第3MS隊隊長のジョニー・ライデン少佐ザザッ、わたし同様捕虜になっている!これがわたしの最後の命令ザッ思え!貴官らは速やかに降伏、命をドブに捨てる様な真似は慎め!

 安心しろ。貴官ザザッ命と自由とを買い取る算段はつけてある。少なくとも命ザッ助けられるはずだ。けっして馬鹿な真似はするなザザザッ。』

「……なんか、マツナガ大尉の方が隊長っぽくないか?」

『人望はシンちゃんの方が上でさ。俺はシンちゃんの上にちょこんと座ってただけだからなあ。階級が上ってだけで。』

 

 周囲では、次々に敵MSが降伏信号を発する。あとちょっと遅ければ、あっちのザク改と向こうのケンプファー、あそこのガルバルディαなんか、危ないところだったろうな。それはともかく、俺はシーラ中佐に許可を取った上で、自分の隊に負傷者他の救出を命じる。シーラ中佐も自分の部下たちに救出作業を命じた。

 あとで聞いたところによると、シーラ中佐の部下にKIAは出なかったものの、やはり被撃墜で脱出を已む無くされた者は数名出たらしい。それでも全員命は無事だったんだから、たいした技量、たいした生命力である。元シーマ海兵隊員、おそるべし。

 

 

 

 そして宇宙世紀0082の1月6日、07:00時に俺たちはルナ2へ帰還した。各艦の甲板には、鹵獲した敵MSが山の様に露天係留してある。文字通り、山の様だ。まず最初に、一刻も早く始末をつけておきたい核弾頭を満載したアルビオン、スタリオンの2隻が真っ先に、次に俺たち第42独立戦隊と「オニマル・クニツナ」隊が、最後に今回の総責任者であるシーラ中佐麾下の艦隊が入港した。

 宇宙港へ最後に入港してくるシーラ中佐たちのトロイ・ホースを、レイラと共に自艦のブリッジから眺めながら、俺は呟く。

 

「なんとかなった、な。しかし、白狼……シン・マツナガ大尉、狼と言うよりも狐じゃないのか?まあ、司法取引で部下たちの命を買うために、差し出したモノがモノだからなあ……。」

「万が一のときのために準備してたって言ったわね。」

「ああ。」

 

 ジョニー・ライデン少佐が司法取引のため差し出した物……。デラーズ・フリートの内情に関する情報とかが、思いっきり霞んでしまうんだが。まあライデン少佐も、必死に部下の助命をこちらに願っていたけどな。

 マツナガ大尉はライデン少佐と共に成り行きで已む無くデラーズ・フリートに合流したものの、その主義主張……デラーズの禿頭が宣うソレにはどうにも同意できなかったとの事。それ故に、可能ならば他のジオン残党陣営に移るか、それが叶わなければ連邦に白旗を振るつもりで、様々な情報やその証拠を集めて、自機のコクピットに隠し持っていたのだ。

 

「白狼、おそるべし。」

「そうね……。」

 

 俺たちは、揃って溜息を吐いた。




やれやれ、ようやっと最新話投稿できました。少しずつリハビリ的に投稿していきたいと思います。
さて今回ですが、紅白の彼らが出て来ましたね。さて白狼シン・マツナガが提出した物は、紅い稲妻ジョニー・ライデンや、部下達の命や自由を買うに足りるのでしょうか。いったいその中身は何なのでしょう。その辺は、次話をお待ちください。

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