強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士

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いざや月へ

 レビル将軍たちからの通信は、ちょっとばかり深刻な内容の様だ。と言うか、ルナ2通信室のスクリーンの向こうには、こないだ宇宙にまで来て一緒に任務をこなした、アーロン・アボット少佐がいる。はっきり言って、嫌な予感が。

 俺は敬礼をして、口を開いた。

 

「将軍、大佐、この度の緊急呼び出し、いかがなさいましたか?」

『まあ、待ってくれたまえ。まだブライト・ノア中佐が来ておらん。』

『一応中佐にも聞いてもらいてえからなあ。』

「はっ!」

 

 なるほど、第42独立戦隊が発展的解散をし、「オニマル・クニツナ」大隊専属として艦隊が再編されたが、ブライト艦長はその艦隊の頭脳だからなあ。俺としても彼の指示に従ってMS隊を動かすことに、異論はないし。

 あ、来たか。む?気配が2つある?片方はブライト艦長の物だが、もう1人は確か……。通信室の扉が開いた。

 

「遅くなって申し訳ありません、将軍、大佐。ゼロ中佐たちも済まない。」

『いや、きにせんでくれ。』

「こちらも気にしないでいい。……ガディ・キンゼー中佐!?」

「大隊の結成式以来でしたな、ゼロ中佐。」

 

 ガディ中佐……艦長は、キリッとした表情で、その場の全員に、几帳面に見事な海軍式の敬礼を送って来た。俺たちも、通信画面の中の将軍たちも答礼を返す。

 ブライト艦長が、彼について説明する。

 

「申し訳ありません、将軍、大佐。済まん、ゼロ中佐。彼は私個人の独断で、ここに連れて来ました。

 万が一わたしが倒れ、指揮が執れなくなった場合、わたしに代わり艦隊の指揮を執るのは次席指揮官である彼だ。その場合に備え、今後彼にもレビル将軍との通信の場にいてもらいたい。」

『なるほど。良いだろう、許可しよう。』

「「ありがとうございます!」」

 

 ブライト艦長とガディ艦長が、揃って見事な敬礼を行う。ツァリアーノ大佐が頷いて言った。

 

『おう、そんじゃ始めるぞ。』

『うむ……。諸君、実はティターンズの動きが不味い方向に進んでいる気配を察知した。いや、全体的には正しく連邦軍内部の綱紀粛正を行っておるのだが……。

 バスク・オム大佐だ。彼に率いられるごく一部が、暴走気味なのだ。スペースノイド出身の多い部隊などを狙い撃ちにして難癖をつけ、場合によっては……。』

『流石にレビル将軍の直属部隊である俺の隊や、てめえらの隊には手出しできんようだがな。』

「「「なんと……。」」」

 

 俺、ブライト艦長、ガディ艦長の声が重なる。レイラ?俺の隣で一生懸命速記を取ってるよ?

 

『そしてブレックス・フォーラ少将なのだが……。腹心と見られる数名の士官と共に、姿を消した。今消息不明になっておるのは、ブレックス少将の他にヘンケン・ベッケナー少佐、スレッガー・ロウ大尉が確認済みだな。

 他にも数名、欠勤が続いておる者がおるが、単なる欠勤なのかブレックス少将と共に地下に潜ったのか、それはわからん。』

『ったく、この士官不足の時に……。』

『それだけでは無いぞ。ブレックス少将は、軍人でありながら地球連邦政府議会の席も持っている。わたしの派閥でこそないが、彼は思想的にも協調し得る人物であった。それが地下に潜伏してしまったのは、痛いと言う他ないな。

 だが問題は、そこにあるのでは無いのだよ。アボット少佐、例の録音を。』

『はい、将軍。』

 

 通信画面の大スクリーンの中で、アボット少佐が何やら機器の操作を行う。そうすると、2人の人物が話し合っている会話の録音が、その場に流れ始めた。

 

『……バスク大佐を処断していただきたい!あなたには、彼の危険さがわからないのか!』

『……少将。残念だが、奴はあれでも多数将兵に対する人望が厚い。まだ利用価値があるのだ。そして排除してしまえば、将兵の反感はな……。それに、我々には奴に代わる駒は数少ない。

 ジャマイカン少佐が、少しでも使えればな……。あれは上にへつらい、下にあたる無能だ。いや、能力が無いわけでは無いが、あの思慮の無さが全てを台無しにしておる。』

『あなたは人間を駒だと言うのか……。』

『無論だ。わし自身すらも、わしは駒だと見ておるよ。ただ、わしは歳ゆえに先が無い駒だがな。燃え尽きる前に、地球圏にとって、必須の事をせねばならん。

 ……少将、地球が持たん時が来ておるのだ。力を貸せ、貴様の最終目的は、わしの目的とそう変わりはないはずだ。』

『……だめです。目的は近くとも、方法論が全く違う。あなたのやり方は、わたしには受け入れ難い。』

『いいや、どうあっても協力してもらう。貴様には逃れる術などないのだ。

 くくく、勘違いするでない。貴様の思惑はわかっておる。地下に潜り、スペースノイドたちの協力を得て、わしに対抗する組織を作るのだろう?』

『!!』

『それで良い。貴様かわしか、勝った方が目的を達すれば良いのだ。そして、わしらが戦ったその過程で、わしの目的は果たされるだろう。』

『あ、あなたと言う人はッ!!』

『話は終わりだ。さあ行くがいい少将。……願わくは、わしとティターンズを討ち果たせるだけの力を、貴様が手に入れん事を切に願う。』

『!!く……。失礼する。』

 

 アボット少佐はレコーダーを止めた。

 

『これが、諜報部員たちが手に入れた、ジャミトフ・ハイマン中将とブレックス・フォーラ少将の会話の一部始終です。』

『いったい、どうやって録音手に入れたんでえ……。』

『昔ながらの、アナログな方法ですよ、大佐。それが一番発見され難く、一番効果的です。』

 

 レビル将軍が、おもむろに口を開く。俺たちは居住まいを正して、将軍の発言を待った。将軍の言葉からは、隠しきれない苛立ちが滲み出している。

 

『いい大人が何をやっておるのか……。ジャミトフ中将、ブレックス少将、どちらが勝ったとて、多数の命が犠牲になる事は目に見えておる……。

 本当に……何をやっておるのか!!流れる血を考えずして、いやそれさえも計算に入れて!!……いや、済まんな。つい怒りに我を忘れてしまった。

 ……諸君らに命じる。「A.E.U.G.」……「エゥーゴ」。いや、その名前になるかどうかは分からんがな。ブレックス少将率いるソレの内偵を行ってもらいたい。

 アボット少佐と、彼率いる数名の諜報部員が高速艇でルナ2へ向かう。諸君ら「オニマル・クニツナ」大隊は少佐たちと合流し、月へ向かってもらう。詳しい事は、アボット少佐から聞いてくれたまえ。』

「「「はっ!了解いたしました!」」」

『頼むぞ……。』

 

 通信は終わった。

 

 

 

 そして今、俺は月へ向かっている。具体的には、月面基地グラナダだ。俺とレイラ、ブライト艦長、そしてアボット少佐も俺と共に旗艦ブランリヴァルのブリッジで待機している。

 

「……一応表の目的は、月面で弱重力下の実弾訓練を行う、と言う事だったな。」

「だがこう言った任務に、大隊は大き過ぎはしないか?」

「艦長、それは俺も感じていたが……。」

 

 俺たちの疑問に、アボット少佐が返してくる。

 

「それはわかっていますよ、中佐。今回の任務は、その大部隊が月面に駐留することで、「相手」がどう動くかを見るためです。それにより、「相手」の実態を調査します。

 申し訳ありませんが、今回「オニマル・クニツナ」大隊はエサです。釣り針は、わたしに同行した諜報部員たちですよ。主役は彼らです。」

「なるほどな……。では俺たちは、素直に訓練に勤しませてもらうとするか。」

「しかし大変ですよ……。諜報部は今、大車輪のてんてこ舞いです。探る相手が、デラーズ・フリート、ティターンズのみならず、今回の「相手」まで加わりましたからな。ああ、勿論デラーズに加担、合流していない他の潜伏ジオン残党も……。」

 

 俺、ブライト艦長は無言でうなずく。と、ふと疑念が湧いたので、俺はアボット少佐に訊ねてみた。

 

「なあ少佐。先ほどの話にアクシズ勢力が出てこなかったが……。」

「ああ、アクシズですか……。無論、調査は欠かしておりませんが……。なにぶん、アクシズは遠すぎます。そして諜報部はマンパワーが致命的に足りません。直近の予想される事態に対処するのが精一杯でして。

 今、諜報員を増員すべく徹底的に心身共に鍛えさせているのですがね。増員が成るのはいつの事やら……。だからと言って、アクシズ勢力を調査するために、隣のティターンズ、デラーズ・フリート、そして今回の「相手」を調べるのを手を抜いたら、本末転倒です。アクシズとの情報戦で後れを取るのは覚悟の上で、アクシズ相手はあえて手を抜いているんですよ。」

「そうか、詮無い事を訊いたな。すまなかった。」

「ですが消去法ではありますが、おそらくはアクシズ勢力に逃げ込んでいると思いますよ。」

 

 俺は眉を顰める。

 

「ドズル・ザビ、デギン・ザビを始めとする、ザビ家の生き残りか……。」

 

 サイド3攻防戦で、逃がしてしまったのは痛恨だった……。いや、サイド3攻防戦に参加していたのか?今考えるに、やつらは戦いが始まる前に「何処か」へ脱出していた様に思う。

 いや、考えを戻そう。今回の作戦は、「オニマル・クニツナ」大隊の様な大規模部隊が一時とは言え駐留する事で、それによる反応を調査することで、ブレックス少将の組織を浮かび上がらせるのだ。月面、と言う事は……。アナハイム・エレクトロニクスと、その組織はやっぱり結びついている可能性が高いんだろうなあ。

 こう言うとき、前の中隊規模の「オニマル・クニツナ」隊みたいに、細々と使える部隊があると楽なんだがな。いやいやいや、中隊規模だけじゃない。小隊規模の独立部隊を雑用向けに編制しておくべきだ。小中大連隊と揃えてあれば、何があっても対応できる。

 ええと、聞くところによるとマット・ヒーリィ少佐のツァリアーノ連隊所属第02独立部隊「デルタ・スコードロン」中隊は、マット少佐が少佐に昇進した今も中隊規模を保っている。彼らも色々便利に使われてるらしいなあ。

 だが編制表には、小隊規模の独立部隊は載っていない。あえて言うなら俺の大隊に所属している独立偵察小隊がソレなんだが、編制上そうなっているってだけで、こっちの偵察小隊はアイザック主体なので、それだけで動けるってわけでもない。

 

「色々動くためには、やはり独立小隊が1個ぐらい欲しいな。いざと言う時には本隊から離れて、色々活動してくれる隊が。」

「ですが……。そう言った部隊の隊長になれる人材が、あまりいませんよ。」

 

 レイラの台詞に、俺は力なく首肯するしか無かった。そこへ、ブリッジオペレーターの1人、ヒルッカ伍長が声を掛けて来る。

 

「ホワイトベースの第01中隊、ペガサスの第02中隊、イルニードの第03中隊、メレディス・マコーマックの第04中隊から定時連絡です。メインスクリーンに出します。」

「了解だ。」

 

 メインスクリーンが4分割され、それぞれに各中隊長がアップで映し出される。

 

『こちらホワイトベースの第01中隊、クワトロ大尉です。隊も艦も異常ありません。』

『……。……。』

『こちらイルニードの第03中隊、レイヤー大尉。隊も艦も異常なし、いつでも行けます。』

『こちらメレディス・マコーマックの第04中隊、シロッコ大尉です。こちらも隊も艦も異常ありませんな。』

「ああ、全員ご苦労。こちらブランリヴァルの大隊司令部小隊も、独立偵察小隊も、異常無しだ。艦も万全、だよな?艦長。」

「ああ、完璧だ。」

 

 あれ、そう言えば……。シャリア・ブル大尉ってどうなった?シャリア大尉の手が空いてれば……小隊、とは言わずに特務部隊みたいな形で小規模の独立部隊を任せる司令官なり指揮官なりに抜擢できないか?

 

「なあ。クワトロ大尉。今シャリア大尉は何してるんだろな?」

『彼はジャブローのニュータイプ研に詰めていますな。かつて旧ニュータイプ研から接収した、不完全なニュータイプ専用ガンダム『ネティクス』を改良するためのテスパイを務めています。』

『ニュータイプ専用ガンダムだと?クワトロ大尉、機密指定されていなければ教えてもらいたいのだが?』

『シロッコ大尉。それはゼロ中佐のお考え次第だな。ゼロ中佐のIDならば、調べる事はできるはずですが……。』

 

 俺は頭を掻きながら、正直に謝った。

 

「済まん、色々他の事が忙しすぎて、実用の機体ならともかく、実験機は調べようとも思わなかったのが本音だ。ここにいる面々ならば、隊外秘と言う事で概略程度なら教えて構わない。

 クワトロ大尉、頼む。」

『了解です。RX-78NT-X/MRX003・ネティクス。主武装はビームサーベル、手持ちのマシンガン、右腕部に内装された連装ビームランチャー、そして目玉品の背部に2基装備の有線式大型ビットです。

 基本構造はガンダムNT1アレックスで、標準サイズのMSにサイコミュを搭載した奇跡的な機体です。所詮0タイプのサイコミュですが、それを標準サイズの機体に搭載可能にまで小型化できたのには技術的価値があります。ですがまだサイコミュが大きく、機体重量はかなりの代物ですな。

 今ニュータイプ研では、サイコミュの小型化と、有線式ビットの無線化、それと並行して有線式ビットの小型化と数の増加を研究しています。』

『……なんだ、つまらん機体だな。』

 

 シロッコ大尉が、急に興味を失った。クワトロ大尉の眉がピクリと動く。

 

『ああ、気に障ったなら謝罪しよう。シャリア大尉とやらとは親交があるのだな?その人物を揶揄したのではない。誤解を招く発言をした、それは認め謝罪する。

 研究としては価値がある。それは認めよう。だが兵器はドクトリンに従って開発されるべきであり、そのネティクスと言う機体は最初からその本流から外れていると言う物だよ。』

『では貴官はどの様な機体がニュータイプ用として相応しいと?』

『MS、もしくはMAの操縦補助にサイコミュを使う。ただし、あくまで補助だ。完全制御など、パイロットに負担がかかり、なおかつ装置自体も肥大化するだけだ。完全制御などしてしまっては、我々の手足は、何のために付いている?繰り返す。補助のみにサイコミュを使い、機体の基本性能を底上げし、下駄を履かせる。それが最良だ。

 有線であれ無線であれ、ビットだと?それも先ほどの完全制御と同様の欠陥を持っている。パイロットに負担がかかり、装置の肥大化を招く。

 たしかにオールレンジ攻撃は初見殺しかもしれん。だが研究し、対策すればたいした事は無いのも事実。ことにMSやMAの近距離戦闘でソレを使うのはどうかな。更に言えば、わたしレベルが相手ならばビットを使ったところで、その攻撃意図のラインを『視る』事で躱すのもビットを撃墜するのも容易い。

 まあ、小型化や低負担化がなされれば、操縦補助型サイコミュの補器として有線ビットなり無線ビットなりをオマケかオプション的に装備するぐらいはいいかもしれん。だが本当に強い者には、オールレンジ攻撃は役に立たんよ。

 ビットを研究するのであれば……。そう、だな。敵の艦船……補給艦なり輸送艦なりを相手に、高密度ミノフスキー粒子下か、超遠距離での狙撃用途、か。はっきり言って、それはMAN-08・エルメスと言う形で既に完成している。近距離格闘など考えぬタイプのMAで実現してしまっているのだ。あとはパイロットに対する負担軽減や、遠隔操作距離の延長を研究すれば良い。小型化など考え無くとも良いのだ……。

 いや、いっそのこと機体に搭載するのをやめてはどうだ?後方の基地にニュータイプ能力者と阿呆の様に大型のサイコミュ本体を置いて、それで超遠距離のビットを操作する……。いける、かも知れんな。基地に機材を置くならば、MSやMAに機載するよりも……。』

 

 シロッコは考え込み、そして急ぎ踵を返した。

 

『アイディアが新鮮なうちに、設計書にまとめる。失礼する。』

 

 そしてシロッコの映っていた画面がブラックアウトした。俺はため息を吐く。

 

「やれやれ……。」

『なんと言うか……。シロッコ大尉は自由だな。色々な意味で。』

『……。』

『君とは同郷の出身なんだ。……言わなくてもいい。わかっている。俺たちは、ここでは肩身が狭いからな。』

 

 なんか話に置いて行かれた2人が、定型会話を交わしてるぞ。レイヤー大尉ェ……。

 

「あー、肩身が狭いって?境遇に何かあるなら、待遇を改善するぞ?」

『……。』

『ああ、いえ。自分たちはニュータイプ能力者では無いので……。それで少々ばかり……。話に置いて行かれてしまいまして。』

「あー、すまんかった。」

 

 ぐだぐだになった雰囲気を湛えながら、俺たちの艦隊は月へと向かって加速していった。




ジャミトフとブレックスの不穏な会話……。
そしてブレックスの組織を探るために、「オニマル・クニツナ」大隊は月面グラナダ基地へと向かう!
そんな中、イベント発生「シロッコせんせいの、サイコミュ開発講座」。
そしてオチはレイヤー大尉とユウ(笑)。
こんなぐだぐだで良いのか!?いえ、良くありません。
なんとかシリアスさんに息吹き返してもらわないと。
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