強化人間物語 -Boosted Man Story- 作:雑草弁士
俺たち「オニマル・クニツナ」大隊は、GP01、GP02、GP04、GP05の地上における運用試験終了後、GP01-FbとGP03およびGP03Sの運用評価試験を行う前に、とりあえずと言う感じでジャブロー基地に呼び戻された。本来であれば、トリントン基地から直接に宇宙に上がり、そこでメッチャー大尉のネルソン級MS軽空母サフランⅢ、マイケル中尉の同級シスコⅣと合流、コンペイトウまで出向いてGP03を2機受領するはずだったんだが……。
先に旧ジオン公国軍突撃機動軍ロバート・ギリアム大尉たちに殺害された、カメロン・キャンベル広報部中尉とハリソン・ハマートン広報部少尉の親御さんが、なんかジャブロー基地勤務だったらしくて……。しかも、そこそこのお偉いさんで。なんか色々とツァリアーノ大佐に頼み込んで、脅し賺し宥めて、どうしても俺と面会したいと……。
これが俺に文句を付けたいとか言うのであればともかく、なんか息子たちが最後と言うか最期にお世話になっていた人間……つまり俺に、最後の息子たちの様子を聞きたいって話だったから……。いや、毅然として断る事もできたんだが、事が事だけにツァリアーノ大佐も断りかねて、俺にボールを投げてよこしたのだ。無論、断るなら断っても良い、と俺に対し言質を与えた上で。
いや、断ろうかとも思ったんだが、実際大して手間が増えるわけでもないし。俺たちの乗艦である改ペガサス級なら、ぶっちゃけトリントン基地からジャブローまでなら、さほど時間かからないし。いや、いっその事ジャブロー基地から打ち上げた方が、打ち上げカタパルトの数が多い分、一気に打ち上がるし。
それになあ……。こう言った事の前例って、多くは無いものの、しっかりあるらしい。地球連邦軍は前例主義なところ、あるから……。しかも向こうの親御さんは、ゴップ派の中堅で、へそを曲げられるとウチじゃなくゴップ派がヤバいらしい。中間管理職と言うよりは、上にも下にも顔が利くと言う、マルチな中堅幹部だとの事。
今回の事も、一度ゴップ大将まで話が上がって、そして回されてきた話らしい。うちのトップであるレビル将軍にも、ゴップ大将から「これこれ、こういう話なんだが、ツァリアーノ大佐に通してもいいか?」と根回しがされた上で、俺まで下りて来た話だからなあ。
うん、ぶっちゃけ断りづらい。良いも悪いも、連邦軍っぽい話だ。ツァリアーノ大佐も、こう言うのは苦手な方だからなあ。
って言うか、ゴップ派のトリントン基地司令、下手すると俺が弁護してやらにゃならんのか。ゴップ派と、レビル派の蜜月を破綻させないために。うわぁ。
でもって俺は、カメロン広報部中尉とハリソン広報部少尉のご両親たちと、ツァリアーノ大佐を交えて歓談した。いや、最初は相手も我慢してたんだけど、そのうちに感極まって泣き出しちゃったんだよな。具体的には、相手の御母堂2名が。犠牲者の父親であるキャンベル大佐、ハマートン少佐は、なんとかかんとか奥さんたちを慰めようとしていたんだけどな。
幸いなことに、彼らは仇が旧ジオン公国の旗を仰ぐ者たちだけである事を理解していた。好きにはなれないものの、旧ジオン公国からの亡命者や、スペースノイド一般に対して怨みを抱くつもりは無いそうだ。かと言って、目の前に連れて来たら何言い出すかわからなかったから、副官であるレイラは連れて来なかったんだが。
まあ、なんとかかんとか、会談は終了した。俺とツァリアーノ大佐は、会談の場として提供されていたツァリアーノ連隊の連隊本部棟にある応接室で、被害者の遺族たちをお見送りする。母親たちはともかく、父親たちはこれからすぐに任務に逆戻りだそうだ。山の様な書類仕事が、彼らを待っている。……だからこそトリントン基地まで、もしくはルナ2基地まで彼らが出向いて来ずに、俺たちを呼びつける形になったんだが。
「ふぃ~、やぁれやれ、だ。済まんな、ゼロ中佐。お前さんも大変だったろうに。ほんっと~~~に、済まん。」
「いえ、このぐらいは、どうと言う事はあります。」
「あるのかよ。」
ツァリアーノ大佐に諧謔を飛ばしつつ、しかし俺の肩は少し落ちていたらしい。どん、と大佐から背中を引っ叩かれた。
「なんだなんだぁ?不謹慎だがよ、2人死んだ程度で。一年戦争で、何人周囲の人間が死んだと思ってやがる。」
「いえ、久しぶりでしたからね。それに俺は腕が良かったもので。周囲の人間、あまり死なれる事は多くなかったものですから。」
「言いやがるよ、コイツ。はあっはっはっは。……む?」
おや、ツァリアーノ大佐の携帯端末が鳴ってる。いや、鳴ってると言うか、マナーモードで振動してるんだ。だが俺の耳は強化人間故か、かなり鋭いのだ。マナーモードとは言え、振動すれば微妙に音は出る。しかし大佐が通話しようと手を伸ばした瞬間、携帯端末は沈黙した。……ワン切りか?いや、阿呆か俺は。軍用の携帯端末は一般用の携帯電話やなんかと違うんだぞ。
ツァリアーノ大佐の顔が顰められる。
「ああ、俺は少々用事が……。いや、枯れ木も山の賑わい、とも言うな。これまた済まんが、ちょっと付いて来てくれるか?」
「かまいませんが……。」
「そうか。ああ、少し待て。……ああ、レビル将軍の執務室か?こちら直属大隊の大隊長、フェデリコ・ツァリアーノ大佐だ。……いや、こちらの伝言をお伝えしてくれるだけでいい。「動いた」とな。
……さあて、行くかゼロ中佐。」
大佐は携帯端末ではなく、この応接室に備え付けてあった机上の端末を使い、レビル将軍の執務室に電話をかけた。どうやら、将軍と何かしら内密の打ち合わせをしてあった案件であるらしい。
「どちらへ?大佐。」
「ん?ティターンズ本部棟だ。」
大佐の言葉に、俺は驚きを面に出すのを堪えるのに苦労した。
そして俺は、レビル将軍とツァリアーノ大佐と言う、俺直属の上司2人の後に付いて歩いていた。俺の隣では、レビル将軍の副官やってる眼鏡の中佐が、『君も大変だね』的な苦笑いを俺に送って来る。まあぶっちゃけた話『ギレンの野望・アクシズの脅威V』で「ご指示を、お願いします。」と毎回言ってるあのヒトなんだが。あとは将軍の護衛の人が2名。
将軍……護衛、少ないです。個人的には最低4人必要かと思います。俺やツァリアーノ大佐みたいに専門の護衛訓練受けてない人物じゃなく、きちんと訓練受けた人材を。いや、いざと言う時に将軍を護れと言われれば、護り切る自信はあるけどさ。
「……。何か、嫌な雰囲気がしますね。」
「君も感じるか、ゼロ中佐……。いや、君はわたしよりも感受性は鋭いはずだからな。感じて当然か。」
「我々が行く先から、悪意を感じますね、将軍。直接我々に向いた悪意では無いですが……。
……!!」
悪意が爆発し、そして再度凝縮して行く。これは……。誰かが誰かを殴ったな。
「急ごう。」
「「「はっ!」」」
俺とツァリアーノ大佐、そして眼鏡の副官が異口同音に言う。そして俺たちは、ある部屋の前までやって来た。部屋には鍵が掛かっている。しかしレビル将軍のキーカードで開かない部屋は、稀にしか存在しない。ほぼ存在しない、と言った方が良いのかも知れないが。
そして開いた扉の向こうから、誰かが誰かを殴る音が聞こえた。そして銅鑼声が響く。
「誰だ!勝手に入って来るなと……レビル、将軍!?」
「うむ。急に済まないな、バスク大佐。少しばかりジャミトフ中将に用があってな、出向いたのだが……。扉の前を通った時に、誰かが殴打される音が聞こえて来てな。何事かと思い、ついつい、な。」
「い、いえ……。し、失礼いたしました。この者たちを、修正しておっただけですので……。」
「ほう?」
そう言ったのは、ジャマイカン・ダニンガン少佐である。そして他にその場に居たのは、ブラン・ブルターク少佐、フォルド・ロムフェロー大尉、エイガー大尉、エマ・シーン中尉、カクリコン・カクーラー中尉、ジェリド・メサ中尉、あと数名の名前を知らん中尉や少尉だ。ジャマイカン少佐以外は、皆顔を腫らしている。……そう言えば、エイガーの姓、苗字、家名、俺知らんぞ?
ちなみにブラン少佐は、ガンダム世界の正史においては外部協力者的な立場であり、ティターンズ入りはしていない。だがヤザンを俺の隊にもらっちまった影響か、この世界線ではティターンズ入りしている。ティターンズ自体正史と違って、連邦軍の綱紀粛正のための部隊だからな。ブラン少佐が引っ張られてても、おかしくないだろ。
レビル将軍が不思議そうな表情で言う。
「修正、かね。わたしの気のせいでなければ、フォルド大尉、エイガー大尉はつい先日、ジオン残党の『銀の槍』作戦を阻止した英雄ではないかね?更に言えば、ブラン少佐もまた、彼らを支援し、その阻止命令を出したと聞く。ティターンズが敵作戦の情報を掴んでいたにも関わらず、貴官は阻止命令を出しておらず、なおかつ他の大隊にも出撃しない様に脅迫まがいの手段を取っていたと聞くが?」
「き、脅迫など……。」
「ひっこんでいろ、ジャマイカン。レビル将軍閣下、事は高度に政治的な問題が絡んでおるのです。その件に関しまして、この場で口に出すのは、残念ながらはばかられますが。ティターンズ内の機密にも触れますのでな。」
レビル将軍は、困ったような顔を作る。内心ではほくそ笑んでいるのが、俺の人工的ニュータイプ感覚には手に取るようにわかるのだが。将軍も隠して無いし。
「政治的、かね……。では、そこの彼らが修正を受けていたのも、それに関係していると言う事かね?」
「無論ですな。こ奴らは、ティターンズの方針に逆らい、勝手に部隊を動かしたのです。軍人たる者、上の命令は絶対でしょう。増してやティターンズは、連邦軍内部の綱紀粛正のための独立部隊。その様な勝手を許して置いては、設立理念そのものが失われます。」
「むむむ……。」
バスク大佐、そしてその後ろでニヤニヤ笑いを隠さないジャマイカンの思惑は、手に取るようにわかる。何かこちらがねじ込めば、ジャミトフ中将を巻き込んで騒ぎにするぞ、と言ってやがるのだ、こいつらは。それをやったら、こっちもただじゃ済まないが、ジャミトフもただじゃ済まんって、わかってるんだろうか。
「ふう……。あい分かった。」
「くくく。ではご用はお済みでしょうかな?」
とっとと帰れ、そう言いたいのだろう。そして顔を腫らしているティターンズ士官たちの、レビル将軍に対する期待が大きな失望と共に、しおしおと萎れて行くのが感じられる。まあ待て君ら。君らの一番上、ブラン少佐は動じてないのがわからんか?
俺は彼らの中で唯一面識のあるエイガーに、こっそりと見つからない様にサムズアップをしてやった。彼は驚いた様子を見せ、それをバスク大佐とジャマイカン少佐に気付かれない様、必死で隠した。彼の中で、再度こちらに対する期待が膨らんで行く。
レビル将軍が、勝ち誇った顔の悪役顔どもに、にこやかに言った。こいつら、一年戦争の英雄で大将閣下である将軍に、不遜だぞ。
「いや、あと1つだけ。」
「……なんでしょうかな?」
「いや、これはわたしと言うよりも、こちらのツァリアーノ大佐の用事なのだがね。ツァリアーノ大佐に、力添えを頼まれておったのだよ。それ故に、わたし自ら、足を運んだのだがね。」
「……ツァリアーノ大佐の、ですかな?」
ここでツァリアーノ大佐が、前に出る。
「ああ、バスク大佐。実はな?お前さん麾下の、第01大隊を大隊ごと引き抜かせてもらいたいんだがな。」
「「なっ!?」」
「別にかまわんだろ?見たところ、お前さんの命令無視して修正くらってたぐらいだし。そんなのを綱紀粛正部隊であるティターンズに置いといたところで、示しがつかんだろ。
俺の連隊ぁ、本来は4個MS大隊+いくつかの独立部隊で構成されてるハズなんだがよ。第01、第02大隊はほぼ完全充足し、第03大隊がある程度まとまっては来たんだがよぉ。第04大隊がなぁ……。んで、お前さんとこの第01を、そっくりそのままこっちの第04に充当させてもらおうと思ってな。」
バスク大佐は血相を変える。ジャマイカンは顔面蒼白だ。
「ば、馬鹿な!」
「ふむ、別にかまうまい?ジャミトフ中将にまで話を通さねばならんかと思っておったが、ティターンズに居られなくなるほどの不祥事を起こしたとあってはな。いや、わたし直属連隊では多少脛に瑕があったところで、実力本位だ。気にはせんよ。いやはや、四方八方丸く収まりそうで、よかったな。」
「い、いや、それは……。」
「そんな事が許せるか!!」
レビル将軍の台詞にジャマイカン少佐が慌て、バスク大佐が怒声を発する。だがバスク大佐、それはまずいんじゃないかね。くっくっく。ツァリアーノ大佐と組んでこの顛末を仕組んだブラン少佐はともかくとして、他のティターンズ士官たちのレビル将軍に対する感謝の気持ちは、もう鰻登りだ。
このままだと俺は、付いて来ただけで終わりそうなので、そうならない様に思いっきり全身全霊の力量を込めて、バスク大佐に憎悪を乗せたプレッシャーを送ってやった。バスク大佐は、俺がプレッシャーの源だと理解したのか、顔面に脂汗を浮かべながら、それでも罵声を上げる。ジャマイカン少佐?気絶してるよ?
「き、きさま……。中佐風情が大佐に向かい……。」
「おやそうですか、大佐殿。ですが今しがた、あなたは何を仰いました?たしかレビル将軍に向かって、「そんな事が許せるか」こう仰いましたね?何か言い分はお有りですか?大将閣下よりもお偉い大佐殿?」
「き、貴様、きさま、下賤な……。」
俺は拳銃を抜く。というか、人工的ニュータイプ能力の超感覚で、こいつが「下賤な強化人間」と言いそうになったのは気付いていたんだ。レビル将軍も、同じく拳銃を構えている。たぶん純正品のニュータイプ能力で気付いたんだと思うが。
「下賤な、何、でしょうか?そこから先を開示する権限は、大佐におありでしょうか?……ある訳が無い。さあ、お口を滑らせなさい。そうすれば、自分があんたを撃つ大義名分が整う。」
「き、貴様、きさま、きさまきさまきさま……。」
「その辺にしてもらおうか、ムラサメ中佐。」
いや、この爺さんが来た事は、気配で気付いてたけどね。ぞろぞろと護衛引き連れて来てるし。要は演出だ、演出。バスク大佐が、喜色溢れる声でその爺さんの名を呼んだ。
「ジャミトフ閣下!」
「……控えろ、バスク。レビル将軍、わたしの部下が失礼をばいたしました。どうか、この場はわたしの顔に免じてお赦し願えませんでしょうか。
……ただで、とは申しません。ティターンズ、バスク連隊より第01大隊のツァリアーノ連隊への移籍を、わたしジャミトフ・ハイマンの名において承認いたします。バスクにも断じて妨害はさせません。なんでしたら、更に第01大隊の行いに対する賛同者が若干名おるのですが、その者たちも付けて転属させますが?」
「じゃ、ジャミトフ閣下!それではわたしの面子が!」
先程のが喜色溢れる声だったら、今度のは悲鳴に等しかった。だがジャミトフ中将は、バスクを怒鳴りつける。
「馬鹿者!相手は将軍、大将閣下だぞ!貴様、自分が何をしたのかわかっておるのか!」
「ッ!!」
「事を荒立てるわけにいかんこの時期に、余計な事をしおって……。わたしの権威が通じる相手かどうかも分からぬのか……。」
「……ッ!ま、まことに申し訳……。」
「将軍閣下に謝罪申し上げるのが先であろうが!!」
ジャミトフ中将の一喝に、バスクはギリっと歯ぎしりをしつつも、苦労して謝罪の言葉をひねり出す。
「!!……れ、レビル将軍におきましては、此度の暴言のほど、ま、まことに申し……申し訳、ございませんでしたッ!!」
「うむ。今後気を付けてくれれば、此度の事は不問に処すとしよう。ただ、二度はないぞ?」
「肝に銘じまして……。」
どう見ても、肝に銘じてる顔ではないのだが。いや、「何を」肝に銘じてるかにもよるな。こっちへの報復を決意してるのかも知れん。
そしてレビル将軍が好々爺然とした顔で、ティターンズ士官たちに向かい言った。いや、このヒト好々爺どころじゃないんだけどな、内実。
「さ、諸君らは解散したまえ。この場でも口頭で転属命令を出しておくが、可能な限り早急に転属の命令書を出して置くでな。では書類の件、頼んだぞ?」
「はっ!了解です。」
即座に了解したのは例の眼鏡をかけた中佐だ。まあ、専任の副官の中で、一番出番がある人だしな。ブラン少佐以下ティターンズ士官たちは、一斉に整った敬礼をして部屋を出て行く。我々も部屋を出ようとする。と、その時ジャミトフ中将が口を開く。
「ああ、そこまでお送りしましょう、レビル将軍。」
「む?うむ、頼むとしようか。」
「では参りましょうか。」
俺たちは、今度こそ部屋を出る。ジャミトフ中将は、バスク大佐の顔を一顧だにしなかった。そして俺たちが部屋を後にしてから数秒後、閉じた扉の向こうで、バスクのものであろう、激怒の感情が爆発したのが感じ取れた。
レビル将軍が、ぽつりと呟く。
「行方不明のブレックス少将は、今どこで何をしておるのかの……。」
「わたしの諜報網によりますと、月面ですな。月面の何処か、までは掴めておりませんが。」
ジャミトフ中将が答える。内心の驚きを、俺たちの誰もが外に出さなかった。レビル将軍が、ジャミトフ中将に訊ねる。
「歩み寄る事は、できぬかね?」
「無理でしょう。互いの方法論が、違いすぎます。」
俺には、「それは貴方との間でも、同じ事ですよ。」と言うジャミトフ中将の内心の声が聞こえた。たぶんレビル将軍にも、まず間違いなく聞こえただろう。将軍は、微妙に老け込んだ様に見えた。
しばし無言で、ティターンズ本部棟の廊下を歩く。と、ジャミトフ中将が沈黙を破った。
「しかし……。最初は単なる駒、いや……ちょっと性能の良い武器、程度にしか考えておらなんだが……。」
「なるほど、道理で扱いがぞんざいだったわけです、閣下。自分は……。」
「しかし、ここまでとはな……。」
無論、俺の事を語っている。この俺とジャミトフ中将の会話に、レビル将軍が割り込んで来た。
「いや、まだこの程度ではないぞ、中将?その秘めたる可能性は、まだまだ計り知れぬ。」
「ほほう……。手放してしまったことが、悔やまれますな。気付けば残った駒は、使い勝手の悪い少数か、使い物にならぬ幾多の物かしか無いではありませぬか。」
「駒ではない、よ。貴公が駒と見ていようといまいと、な。」
ジャミトフ中将は、溜息を吐く。
「……何にせよ、死ぬまでに地球圏にとって、必須の事を為さねばなりません。」
「死ぬまでに?死を前提にして、ではないのかね?」
「……くくく。可能であれば、避けたい選択肢ではありますがな。しかしこのままで行けば、それも已む無し、でしょう。
さて……。次の角で、わたしめは右です。出口は真正面ですな。」
分かれ道まで来ると、ジャミトフ中将は将軍に向かい、見事な敬礼を決める。将軍も答礼を返す。このまま無言で別れるか、と思った矢先に、ジャミトフ中将は口を開いた。
「ブレックス少将に、よろしく言って置いてくれますかな?わたし亡き後を、頼む……と。近いうちに、将軍へと連絡を付けて来るでしょうからな。」
「縁起でもない。」
「では。」
ジャミトフ中将は踵を返し、暗い廊下の中へと歩み去って行く。我々は我々で、ティターンズ本部棟の外へと向かった。そちらはそちらで、結局はジャブローは地下施設であるために薄暗いのだが。この事実が、どちらの行く道も暗く険しく厳しい……そんな事を暗示している様に思えてならなかった。俺もレビル将軍も、ツァリアーノ大佐も副官の眼鏡中佐も、護衛の者たちも皆、一言も喋らなかった。
今回、やっぱり影が薄い主人公。というか、前回とは違い、今回はまだまだ階級とか低いが故の影の薄さ。
それはそうと、今回の主役は主人公じゃなく、ジャミトフ閣下(笑)。
いや、笑いごとじゃないから。