強化人間物語 -Boosted Man Story-   作:雑草弁士

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(ラグランジュ)5方面への救援

 凄まじいGが俺の身体をリニアシートに押し付ける。たぶん間違いなく、レイラも同じ状態だろう。俺とレイラの2機のGP03は、今『オニマル・クニツナ』隊の本隊を離れて先行していた。全天スクリーンの下面、俺から見て眼下に、サイド1近傍宙域での戦いが映し出されている。

 連邦軍部隊の主力はジムⅡだ。装甲材はチタン・セラミック複合材であるが、装甲強度以外のカタログデータは一年戦争時のガンダムに匹敵するか凌駕する、極めて優秀な機体である。……である、のだが。

 

(……くっ。ジムⅡがまた()ちた!間に合うか!?)

(急ぎましょう、ゼロ!)

 

 レイラの思念が脳裏に響く。俺とレイラは各々、GP03の(メイン)スラスターを全開にして戦場へ突入して行った。目標は、デラーズ・フリートの部隊先頭に立って連邦軍のジムⅡ部隊をズタズタに斬り裂いている、巨大MA(モビルアーマー)だ。

 

(レイラ!奴はIフィールド搭載機だ!武装は実体弾兵器を選択!)

(了解よ!)

 

 そうなんだ。敵の先頭に立っているMA(モビルアーマー)は、ノイエ・ジールだった。あいつはIフィールドを装備しているから、ビームライフルがメインのジムⅡだと相性が悪すぎる。しかしGP03には、フォールディング・バズーカ、大型集束ミサイル、コンテナミサイルなどと言った実体弾兵器が売るほど搭載されているんだ。

 俺とレイラは、未だこちらに気付かずにジムⅡ部隊を(なぶ)っているノイエ・ジールに向けてミサイルとバズーカを叩き込んだ。巨大なMA(モビルアーマー)の機体が、爆光に包まれる。俺はとどめとばかりにゼロ距離にまで突っ込むと、すれ違いざま大型ビームサーベルでノイエ・ジールを真っ二つに斬り裂いた。俺の人工ニュータイプ感覚に響く、敵パイロットの断末魔の叫び。

 この声……アナベル・ガトーじゃ無いな。やはりガトーはドズルと共に、おそらくアクシズ勢力に逃げ込んでいるんだろう。デラーズの配下には、居ないみたいだな。もし居るならば、貴重なノイエ・ジールを任されないはずが無い。

 しかしノイエ・ジールは記憶によれば、アクシズ勢力からのデラーズ・フリートへの戦力支援だったはず。方針はデラーズとは異なれど、支援しないほどに不仲ではない、と言う事か……。

 俺は生き残ったジムⅡ部隊へ通信を入れる。

 

「こちらレビル将軍直属部隊ツァリアーノ連隊第01独立大隊『オニマル・クニツナ』隊大隊長、ゼロ・ムラサメ中佐だ。随分やられてしまった様だな……。すまない、こちらも全速力で救援に来たんだが……。」

『こちら地球連邦軍宇宙要ザザザッコンペイトウ所属、第17MS中ザザッ中隊長、ジーニー・ダンフォード大尉です。お久しぶりですね、ゼロ中ザザザッ。おかげで命拾いしました。』

 

 うん、気配で分かってた。士官学校での同期生、ジーニー・ダンフォード女史だって。いや、レイラさん、俺には君だけですからね。その冷たい気配は、ちょっと抑えてもらえませんか?おねがいです。

 思念での必死の言い訳が功を奏したか、幸いにもレイラの雰囲気は柔らかくなる。うん、ほっとした。

 

「ジーニー大尉、残存部隊を取り纏めて再編してくれ。俺たちは強敵や敵の母艦を叩いて来る。」

『了ザザッしました。ご武運を……。』

「ああ、ありがとう。そちらも!」

 

 そして俺とレイラは各々のGP03のスラスターを噴かし、敵の母艦……この周辺の敵旗艦と思われるティベ級目指して吶喊した。

 

 

 

 俺とレイラの2機のGP03は、獅子奮迅、八面六臂の活躍で戦場を駆け回り、デラーズ・フリートの母艦やMA(モビルアーマー)ヴァル・ヴァロの様な強力機を()として回った。その甲斐あってサイド1宙域での戦況は、当初押されていたものを盛り返し、こちら側が押している状態に持ち直している。

 そして『オニマル・クニツナ』隊の本隊が到着した。俺は部隊を半数に分け、第1、第2中隊と第3、第4中隊でそれぞれ戦場の火消し役として各所に派遣する。一方で、今まで全力戦闘を繰り返してた俺とレイラは、後方に陣取ったブランリヴァル、サフランⅢ、シスコⅣとランデブーして、補給と休憩を取っていた。ィユハン准尉や独立偵察小隊の面々は、ブランリヴァルの直掩に就いている。

 俺はサフランⅢの作業員たちに自分のGP03を引き渡して補給作業を急がせると、ラウンドムーバー……スペースムーバーとも言うが、個人用の宇宙空間移動用リフトジェットであるソレを用い、ブランリヴァルのMSデッキへと移動した。レイラもまた同じ様に、シスコⅣに自分のGP03を係留し、ラウンドムーバーを使ってブランリヴァルへとやって来る。ちなみに、いちいち機体から離れてブランリヴァルへと戻って来るのは、補給中万一のときは元々の乗機であるアレックス3やガルバルディβに乗り換えて出撃するためだ。

 俺たちはエアロックを通って、気圧が保たれているパイロット控室へと入る。そしてヘルメットのバイザーを解放、チューブ食とチューブのドリンクで、急ぎ栄養と水分を補給した。

 

「ふう、一息付けたな。」

「ですね。でも、まだ予断は許しませんね。」

「ああ。……しかし、GP03は強いんだが補給や整備がなあ。」

 

 2機のGP03は、艦に収容できないため、ネルソン級MS軽空母サフランⅢとシスコⅣの下面に懸架する形で係留し、半ば手作業でミサイルなどの詰まったコンテナを交換している。各艦所属の作業員たちは、はっきり言って大変な状況だ。これをまともに運用するには、やはり専用の母艦が必要かも知れない。

 と、パイロット控室の壁にある端末が音を立てる。俺は端末に飛び付いた。

 

「こちら右舷MSデッキ、パイロット控室、ゼロ・ムラサメ中佐。」

『こちらブリッジのマリー・アップルヤード准尉です。』

 

 相手は管制のマリー准尉だった。地上では彼女はホバートラックで大隊指揮小隊に随伴しているのだが、宇宙ではブランリヴァルのブリッジに詰めている。

 

「どうした?マリー准尉。何かあったか?」

『はい。観測班の報告では、敵の一部が突出して近傍まで来ている模様です。ブライト艦長が、万一に備えてGP03の機体に戻っておいて欲しいとの事です。』

「了解だ。補給はどこまで?」

『推進剤と、コンテナの換装で補充できる装備品は完了しています。ですが換装した使用済みコンテナの艦への収容が、まだ終了していません。それとバズーカ弾倉などの交換に手間取っていまして……。』

「……いざとなったら、使用済みコンテナは廃棄する事を覚悟しよう。それと、一応戦闘可能ならばかまわん。では俺たちは機体に戻る。」

『了解です。通信終わり。』

 

 俺はレイラに顔を向ける。レイラも頷いた。俺たちはヘルメットのバイザーを閉じる。

 

『よし、機体に戻ろう。』

『了解。』

 

 俺たちはパイロット控室のエアロックを潜ると、デッキのハッチを開けてラウンドムーバーで各自の機体へと飛んだ。……やっぱり、GP03の運用には専用艦が欲しいな。いちいち宇宙遊泳(EVA)して機体へ戻るのは……。

 

 

 

 俺たちがGP03各機のコクピットに戻って数分、ブランリヴァルのブリッジから通信が入る。

 

『こちらブランリヴァザザザッです。ゼロ中佐、レイラ中尉、応答願いザザッ。』

「こちらGP03-001、ゼロ中佐。」

『こちザザッGP03-002、レイラ中ザザザッ。』

『ゼロ中佐ザザッレイラ中尉、突出してきた例の敵部隊ですがザザザッ、あと5分ほどで接敵します。どうやら、離脱して来た味方部隊を追って来た模様です。補給作業を中断して、出撃してください。』

「ゼロ中佐だ。了解、作業員に退避命令を出してくれ。」

『こちらレイラ中尉。こちらも同様に願いザザザッ。』

 

 俺は作業員たちがサフランⅢの艦内に退避するのを見届けると、自分のGP03を出撃させる。

 

「ゼロ・ムラサメ、GP03-001、出るぞ!」

『レイラ・レイモンド、ザザッP03-002、いきます!』

 

 スラスターに火が入り、背中を蹴飛ばされる様なGが全身に掛かる。俺とレイラのGP-03は機体の後部より蒼い炎を噴いて、会敵予定宙域へと飛んだ。

 

 

 

 1分もしない内に、GP03のセンサーが味方部隊と、そしてそれを追う敵部隊とを捉えた。

 

(……ゼロ!この感覚……!!)

(ああ。間違いない。なんでMSに乗って前線に出てるんだ、彼女は。いや、そこまで追い詰められたって事か……。助けに行くぞ!)

(ええ!)

 

 俺たちは思念を凝らす。……敵が『()え』た。俺とレイラは、意識を同調させて敵位置を捕捉すると、それ目掛けてGP03のメガビーム砲の引き金を引いた。凄まじい光条が、馬上槍を思わせるメガビーム砲から放たれ、未だ遥か彼方の敵部隊に突き刺さる。爆光が広がり、複数の断末魔の悲鳴が脳裏に響く。そして『彼女』の、歓喜に満ちた声が聞こえた。

 

(……!!レイラ!?ゼロ!?)

(クスコ軍曹!助けに来たぞ!)

(無事!?)

 

 そう、ハイザックのビームライフル装備型に乗って味方の殿(しんがり)に就き、半壊した味方部隊を必死になって逃がしていたのは誰あろう、クスコ・アル軍曹だった。クスコ軍曹はフラナガン機関から救出された子供らを保護者として守り、子供らと一緒にサイド1のロンデニオンコロニーにある連邦軍基地に異動していたんだが……。

 それはともかくとして俺とレイラは、俺たちの攻撃に算を乱して逃げ惑うリックドムⅡやドラッツェ、ガルバルディα他を駆逐する。大方の敵を撃破し、残りもクスコ軍曹やまだ戦闘能力を残していた味方部隊が叩き潰した。俺は機体を、ボロボロの味方部隊に寄せる。1機の左腕を喪失したジムⅡが、残された右手でGP03の機体に触れた。いわゆる、『お肌の触れ合い会話』だ。

 

『こちらはサイド1駐留艦隊所属、第38MS中隊中隊長のジャレッド・ワトキンソン大尉……。救援、感謝する。凄い機体だな……。』

「こちらはレビル将軍直属部隊ツァリアーノ連隊第01独立大隊『オニマル・クニツナ』隊大隊長、ゼロ・ムラサメ中佐だ。試作新兵器のテスト中だったんだがな。その最中に今回の騒ぎだ。将軍が、新兵器をそのまま使ってもかまわんから至急救援に向かえって話でな。それでそのまんまルナ2を飛び出して来た。」

『そうか、いや、そうでしたか。ありがとうございます中佐。』

「……その様子だと、これ以上の戦闘は不可能だな。連邦軍基地がある近傍のコロニーまで、行けるか?」

『は。それは大丈夫です。それでは自分たちは、これにて。』

 

 ジャレッド大尉機が、GP03から離れて行く。ふと見ると、レイラのGP03もクスコ軍曹のハイザックと『お肌の触れ合い会話』をしていたらしく、クスコ機がレイラ機から離れて行くところだった。レイラの思念が、俺に伝わって来る。

 

(クスコの話によれば、子供たちは無事らしいわ。レビル将軍の派遣してくれた諜報部員や軍警察の護衛が護ってくれてるみたい。ただクスコ本人は、MSの操縦技術を持ってたので泥縄的に数合わせで招集されちゃったらしいのよ。)

(やれやれ、まいったな。クスコ軍曹、このままMSパイロットに転向させられないと良いんだがな。)

 

 フラナガン機関救出組の子供たちには、やはり保護者が必要だ。もしクスコ軍曹がこのままなし崩しにMSパイロットに転向させられでもしたら、子供らと一緒にいられる時間は大きく削られてしまうだろう。何か手を打っておかないといけないんだが……。俺たちにできる事は、出来る手段は、あるんだろうか?

 

 

 

 俺たち『オニマル・クニツナ』大隊が場を引っ掻き回したおかげで、劣勢だった連邦軍サイド1駐留部隊は何とかひと息つく事ができた。特にノイエ・ジール1機とヴァル・ヴァロ4機の合計5機を撃破したのは、かなり有効な一手だった様だ。この分なら、ルナ2から救援艦隊の本隊が到着するまで、充分に持ちこたえられるだろう。

 その後俺たちは、サイド4を攻めているデラーズ・フリートの後背を突く形で、サイド4防衛戦に参戦する事になった。いや、本当はコンペイトウ方面に行こうかと思っていたんだが、サイド4駐留部隊から悲鳴のような救援要請が舞い込んだんだよ。これまで優勢に戦況を保っていたらしいんだが、突出した一部が敵の罠にかかって、形勢がデラーズ・フリート側に有利な形へと逆転しちまったみたいなんだよな。

 まったく……。ルナ2からの救援艦隊本隊が来るまで、相手を抑え込んでるだけで良かったのに。欲張るからだ。ブライト艦長も苦虫を噛み潰した様な顔で、しかし艦隊全艦に最大戦速を命じた。なんとかサイド4を攻めてる敵の、旗艦あたりを沈められればいいんだが。

 

 

 

 なんとかなった。サイド4攻撃中のデラーズ・フリートは、旗艦のティベ級をヤザンとユウに撃沈され、一時的ではあるが混乱状態に陥ったのだ。まあ、さほど時間を置かずに、おそらくは次席指揮官が指揮権を掌握したのだろう、秩序を取り戻したが。しかし地球連邦軍のサイド4駐留部隊はその機会を逃さずに、押されていた部隊を再編。かっちりしっかり持久戦の態勢を整えた。

 俺たちはいったんサイド4駐留部隊と合流し、そちらの司令部と接触を取った。そしてもうすぐルナ2から救援艦隊がやって来る事を伝え、救援が来るまでは冒険を避けて護りを固めておく様に要請。サイド4駐留部隊は、今しがた痛い目に遭ったばかりだと言う事もあり、素直に要請を受け入れてくれた。

 そしてその後、俺たち『オニマル・クニツナ』隊は転進し、今は地球連邦軍宇宙要塞コンペイトウへと入港している所だ。いや、何故って言っても……。本当の事を言うならば、俺たちも前線に出て戦いたかったんだよ?だけどサイド1、サイド4と連戦し、各々の戦場で八面六臂の活躍をしたためもあり、継戦能力がほぼ完全に切れていたんだ、『オニマル・クニツナ』隊は。

 特に2機のGP-03は、艦に積んであったGP-03用物資のほぼ全てを使い尽し、もう1戦すらもできない状況だった。幸いにGP-03を開発したのはコンペイトウの工廠であったため、GP-03用の物資はコンペイトウには大量に存在する。その上、それらの物資を製造する生産ラインも存在し、GP-03用の予備パーツ類も多く保管されているのだ。

 

「さすがに補給と最低限の整備を済ませないと、もう1戦もできんな。」

「そうだな、艦長。補給が完了するまで、短くても6時間か……。ここまで空っぽになるまで戦ったのは、久しぶりだな。MS隊は、半分に分けて3時間ずつ仮眠を取らせるよ。」

「コンペイトウ防衛戦は、ティアンム提督の座乗艦が撃沈されて一時劣勢にはなったが、なんとか戦況を持ち直してくれたからな。おかげでサイド1方面とサイド4方面に全力を注ぎこむ事ができた。言いたくは無いが、コンペイトウが危ういとなれば、サイド1やサイド4と天秤にかけなければならんところだったな。」

 

 コンペイトウのドックに入港中、俺とブライト艦長は現状と今後の予定について語り合っていた。そこへブリッジオペレーターの通信士、ヒルッカ伍長が声を掛けて来る。

 

「ブライト艦長、ゼロ中佐。要塞司令官ダグラス・ベーダー中将から通信が入っています。(メイン)スクリーンに回します。」

『よく来てくれた、ゼロ中佐、ブライト中佐。ひさしぶりだな、ゼロ中佐。』

「「はっ!」おひさしぶりです、中将閣下。」

 

 俺とブライト艦長は、スクリーンに映ったダグラス中将に敬礼を送る。ダグラス中将も、答礼を返して来た。

 

『来援、感謝する。諸君らのお陰で、サイド1方面とサイド4方面はひと息つく事ができた。これでよほどのヘマをしなければ、ルナ2からの救援艦隊が来るまで耐え抜く事が出来るだろう。

 諸君らには申し訳無いのだが、補給が済み次第再度最前線で敵を引っ掻き回してもらう事になる。短い間ではあるが、しっかり休んでくれ。』

「「はっ!了解です!」」

『うむ、入院中のティアンム中将にも諸君らの来援を伝えたところ、とても喜んでいたとの事だ。ではな。』

 

 ダグラス中将からの通信は切れた。さて、ではしっかり休んで、また働くとしようか。

 

 

 

 その後俺たち『オニマル・クニツナ』隊は、数日に渡り獅子奮迅の戦闘を繰り広げた。流石にGPシリーズの試作機は、実際の戦闘では負けなかったものの、長丁場の戦場においては機体の構造他が(こな)れていない事もあり、不具合が出たりもする。そのためウィリアム准尉率いる整備中隊は大忙しだった。不具合が現場の改修で解消されるまで、本来の乗機で出撃した事もあったな。

 ちなみに大活躍だったのは、整備中隊だけではない。ぶっちゃけた話、顕在化した幾つもの不具合を解決に導いた立役者となったのは、シロッコだったりする。奴は技術者としても超のつく一流だし、更にはパイロットとしての視点も持っているからな……。天才の名に相応しい力量を発揮してくれたよ、うん。この功績は、きちんと上申しておこう。

 

「シロッコ大尉がウチの隊に来てくれて、これほどありがたいと思った事は無いな。」

「いや、わたしの方も最新技術の結晶をいじり倒す事ができて、色々勉強になった。わたしに無い発想など、種々学ぶ事ができたとも。」

 

 俺とレイラは今、整備中隊の様子を見にコンペイトウの工廠へと出向いている。GPシリーズの整備は、特にGP-03は艦よりもコンペイトウの工廠の方が楽にできるからな。まあ、艦自体も連戦であちこち被弾したんで、応急修理中なんだが。シロッコはアストナージ曹長と意見交換をしていたが、中断すると俺の呟きに答えて来た。

 

「ただ、お前さんは実戦パイロットとしても指揮官としても得難い戦力なんだ。疲労を溜め込まれちゃ困るからな?」

「その言葉、そっくり返そう。ゼロ中佐も、レイラ副官も、休める時は休んで置くべきだな。」

「……ぐうの音も出ないな。わかった、俺たちもこの後に仮眠に入る。だからシロッコ大尉も適当に切り上げて休んでくれ。」

「わかった。」

 

 俺はシロッコに、持って来た差し入れのドリンクの紙パックを1つ放ると、残りのドリンク類をアストナージ曹長に手渡した。

 

「んじゃ、アストナージ曹長。この差し入れ、皆で飲んでくれ。」

「はい、ありがとうございますゼロ中佐。」

「いやいやいや。んじゃ俺たちは仮眠を取る。」

 

 俺とレイラは、敬礼と答礼を交わして艦へと戻って行った。

 

 

 

 そんなこんなで幾多の激戦を繰り広げた後、ようやくの事でルナ2からの救援艦隊が到着する。この時点までにコンペイトウ、サイド1、サイド4を()とせなかった以上、デラーズ・フリートL5ポイント方面軍の勝ち目は無くなっていた。いや、俺たち『オニマル・クニツナ』隊、ほんとに頑張ったんだよ?あの後何度もサイド1、サイド4、コンペイトウ間を行ったり来たりして、味方がヤバい状況になったところを助けて回ったんだ。

 いや、たぶん俺たちがコンペイトウに到着してから後ならば、俺たちがここまで頑張らなくてもコンペイトウ、サイド1、サイド4の失陥は防げたとは思う。本気でヤバかったのは、俺たちがこの方面宙域に到着直前の状況だったからな。だけど、その後も俺たちが頑張った事で、味方の被害を防ぐ事ができたのは誇っていい事だと思う。

 デラーズ・フリートL5ポイント方面軍は、ルナ2からの救援艦隊が到着するより前に、ゆっくりと整然とコンペイトウ、サイド1、サイド4を撤退して行った。おそらくは斥候艦か何かを航路上に配して、救援艦隊がやって来るのを見張ってたんだろうな。

 

「何はともあれ、当初与えられた任務は達成できた、か。」

「ああ、ゼロ中佐。あとは地上をレビル将軍が取り戻して、それに使った戦力を宇宙に打ち上げたら、一気にデラーズ・フリートを叩き潰す。それまではしっかり護りを固めて置け、との事だったな。」

「ああ、艦長。本音を言えば、ア・バオア・クーやサイド5には、手出ししたいんだがなあ……。特にア・バオア・クー。捕虜になっている可能性がある、俺の戦友が待っているかと思うとなあ……。」

 

 レイラとブライト艦長が、気遣わし気な視線で俺を見る。うん、大丈夫だ。私情で動いたりはしないから。けれどア・バオア・クーに居たロン・コウ大尉……ロンの奴、生きてればいいんだがなあ。

 ブランリヴァルのブリッジで、俺たちは幾多の光点……ルナ2からの救援艦隊が、コンペイトウへと近づいて来るのを見つめていた。それを見つつ、俺は思う。考え無しの狂信者デラーズの野郎を必ず叩き潰してやる、そして生きてるならばロンの奴を必ず救い出す……と。

 だが今は、牙を研ぎすませて置く時だ。力を振るうのは、もう少し時を待たねばならない。本音では、ちょっと……いや、おおいに悔しいが。だが戦争は、俺1人でやるもんじゃないし、俺1人で勝てるもんでもない。ロン、生きてるんならもうちょっとだけ待っててくれ。俺は宇宙に(きらめ)く救援艦隊の光を見ながら、唇を噛み締めた。




随分投稿が遅くなって申し訳ありません。書かねば、書かねば、と思うだけ思って、しかし実際の執筆が進まないでいました。なんとか続編を出せたのは、読者の皆様のおかげです。

さて、主人公たち『オニマル・クニツナ』隊の八面六臂の活躍で、デラーズ・フリートは目論見をくじかれました。そして時間稼ぎをされてしまい、ルナ2よりの救援艦隊の到着を許してしまいました。このため、デラーズ・フリートのL5ポイント方面軍総司令官は、断腸の思いで作戦の失敗を認め、戦力保全のために撤退しました。
とまあ、それはいいんですが。ア・バオア・クー、サイド5は奪われております。主人公の一年戦争時代の戦友であるロン・コウ大尉もア・バオア・クーから味方を逃がすための撤退戦においてMIAになっています。捕虜になってでも、生きていてくれればいいのですが。

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