~翌日~
今日は藤和コンクールの二次予選の日である。ちなみに、公正は屋上で飯を食っている所で、宮園たちに連行?されて行った。んで、俺と里香は、公正連行はお休みである。そんな事もあり、俺と里香は屋上で飯を食べている。
「……あいつら、コンクールで上手く弾けるのか?一度しか合わせてなかったし」
「大丈夫大丈夫。かをりちゃんが言ってたよ、有馬君と私が揃えば最強だ。ってね」
「宮園がそう言ってるなら心配ないか。何だかんだ、宮園が公正をフォローするような気もするし」
結果は、神のみぞ知るって所だろうか。
「話は変わるけど、翔太君は今日の放課後空いてるかな?ちょっと付き合って欲しい場所があるんだけど」
里香の話によると、今日の16時30分に、中学1年生の妹のピアノ部門コンクールが、佐崎ホールであるらしい。それに同伴してくれ。という事だ。
「……俺がピアノを拒絶してるの知ってるよね?てか、ホールの空気も好きじゃないし」
「もちろん。でも、妹に紹介するって言っちゃったんだよ。お願い!」
里香は、ぎゅっと目を瞑り、両手を自身の前で合わせる。
「……いや、そのだな。はあ……」
なんつーか、上手く乗せられてる気がするんだよなぁ……。
「……妹に会うだけだぞ」
「……え、演奏も聞いてあげたらなぁ、ってお願いしたいんだけど」
俺は深い溜息を吐く。
「……へいへい、わかりましたよ」
やたっ!って喜ぶ里香さん。ちなみに聞いた所、課題曲は、エルガー作曲『愛の挨拶』らしい。
俺はこの時、「コンクールで『愛の挨拶』ってマジで?」と思っていた。課題曲とはいえ、俺にとっては恥ずかしすぎる曲である。この曲は、エルガーが宗教や身分の差を乗り越え、周囲の反対を押し切って、ピアノの生徒であったアリスと結婚した際に記念として送った曲なのだ。
「……俺だったら悶絶もんだぞ」
「翔太君は弾かなそうだもんね、この曲」
里香は、あはは。と笑った。
ともあれ、放課後になり、俺と里香は佐崎ホールへ向かったのだった。
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~佐崎ホール、広場~
佐崎ホールでは既に演奏が始まっており、広場には観客が数える程しかいなかった。ちなみ、佐崎コンクールは、藤和コンクールと対なすものとも言われていたりする(豆知識)
「妹さんの演奏は何時から?」
今の時刻は16時20分である
「16時30分からだよ。ギリギリ間に合ったね」
会場内に入り、ステージの上ではピアノの音が奏でられていた。中学1年とは思えない位のレベルの演奏である。
そして、エントリーナンバー15番。『雨宮梨奈』の出番である。梨奈が音を奏でた瞬間、俺に電撃が走る感覚があった。
「……妹さん、俺の演奏に似てる?」
「そりゃそうだよ。梨奈の目標は君だもん。演奏を全部を模倣する事はないけどね、梨奈の音がなくなっちゃうから」
確かに、ただ模倣するだけとなってしまえば、機械仕掛けの人形になってしまう。だが、梨奈はそれを理解して、そこに自身の音も重ねている。
「……驚いたわ。こんなにズバ抜けて上手いなら優勝だろ……」
「んー、どうだろうね。梨奈が言うには、一人だけ強敵がいるらしいけど」
だが、その一人を除くと、他の演奏者は蹴散らす事ができるという事だ。演奏が終わり梨奈が舞台袖に戻っても、次の演奏者が現れる気配がない。
「……トラブルか?」
「見に行ってみる。なんか、面白そうだし」
「面白いって、お前なぁ……」
ともあれ、俺たちは関係者扉を開けたのだった。
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関係者扉を潜ると、其処ではスタッフがバタバタとしていた。
飛び交う話の内容を聞くと、次の演奏者が交通事故に捕まり、時間内に到着できないという事だ。
「お、お姉ちゃん!」
青色のドレスを身に纏った梨奈がやって来る。
梨奈は俺を見て、
「へ?何で、神矢翔太さんが居るの!?」
「約束通り、私が連れて来たからだよ。ちゃんと、梨奈の演奏も聞いてたよ」
梨奈はあたふたする。
「あ、あの。私の演奏どうでした?」
「かなり巧くて驚いたよ」
「あ、ありがとございます!神矢翔太さんは、私の目標なんです!」
「……そっか」
ピアノと向き合えっていう日なのかもなぁ。両親から尻を叩かれてる気分。と、俺は内心で思っていた。
――その時、スタッフの人が俺を見つけて、近づいて来る。
「あの……神矢翔太君。だよね」
「ええまあ。そうですけど」
「実はお願があるんだけど、いいかな?」
見た感じ、スタッフさんはかなり焦っている。もう成り振り構っていられないと言った感じだ。
「なるほど。俺を巻き込んで時間稼ぎ。ってことですか?」
スタッフさんは、力なくあはは。と笑う。予想的中である。
「審査員には上手く言っておくから、お願い!」
両手を突き出してパンと叩いて、お願いするスタッフさん。
つーか、断るにも断れない雰囲気なんですが……。てか、時間稼ぎしてくれ。っていう圧力が凄い……。
「いや、俺制服姿なんで、一瞬でバレますよ」
俺は溜息を吐く。こうなったら、道連れも必要である。
「じゃあ、雨宮里香も巻き込んで。ということならいいですけど」
へ!?と声を上げる里香。てか、お前が元凶なんだから、こうなるのは当たり前である。
溜息を吐き、里香も覚悟を決めたようだった。
「……ヴァイオリンありますか?翔太君と伴奏でならいいです」
「ってことです。時間稼ぎに協力しますよ」
「ほ、ホント!課題曲の『愛の挨拶』で頼んだよ!」
そう言って、スタッフさんは消えて行く。……てか、『愛の挨拶』とか勘弁してくれ。ベートヴェンとかにしてくれよ……。ともあれ、違うスタッフさんから楽譜を貰う俺たち。
「……とんでもない事になっちゃったね」
「そうだな。お前が、見に行こうって言ったせいでな」
うぅ。と声を上げる里香。
「もう過ぎた事は気にすんな。てか、ぶっつけ本番だけど、俺ら大丈夫か……?」
うん、一回も音を合わせた事ないんだよね……。
「お互いフォローする感じに弾けば何とかなる!」
客観的な言葉に、溜息を吐く俺。ともあれ、舞台袖まで移動する俺たち。ちなみに、里香の手には、ヴァイオリンと弓が握られている。先程、スタッフさんから渡されたらしい。
「お姉ちゃん、翔太さん。演奏、楽しみにしてます!」
楽しみにされてもなぁ。と、俺と里香の言葉が重なったのだった。
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舞台に上がると、ひそひそ声が凄い。
『おい、あれ神矢だろ』とか『神矢と一緒にいるヴァイオリニストは誰だ?』とか『神矢はピアノを辞めてたはずだぞ、表舞台に戻って来たのか?』とかである。
「(……なんつーか、この時点で主役を食ってる感じになってるんだが、大丈夫か?)」
そう。このコンクールの主役は、中学1年生のピアニスト。決して、俺たちではないのだ。
「(……う、うーん。たぶん、大丈夫……)」
頼りにならない言葉である。まあ、今更あれこれ言っても仕方ないので、腹を括ろう。
俺と里香は一礼し、楽譜を置いてから、俺はピアノの椅子に座り鍵盤に手を添え、
「(……久しぶりのピアノか)」
里香はピアノの前に立ち、ヴァイオリンを構えてチューニングを終えてから俺を見る。
「(やろう!きっと大丈夫、二人でなら)」
「(へいへい、お手柔らかに頼むぞ)」
そして、俺が鍵盤を叩き、里香が弦に置いた弓を押し当て、奏で始めた。
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何処までも澄み切った、美しく、愛情に溢れる音色に、観客たちの心は一瞬で鷲掴みにされた。
雨宮里香のヴァイオリンの音色と、神矢翔太のピアノの音色が絡み合い、エルガーが想像したであろう景色を創り上げ、愛する人への喜び、そして悲しみを体現する。そう、雨宮里香というヴァイオリニスト、神矢翔太というピアニストは
そして、審査員はこう思っていただろう。
『このコンクール、神矢翔太たちに食われてるぞ!』『これ以上の演奏はコンクール生を潰すんじゃないか』『いやいや、神矢翔太たちは時間稼ぎでしょ、続けましょうよ!』という賛否が分かれていたのだ。
曲も終盤に差し掛かり、ピアノとヴァイオリンの音色が深い愛情を帯びていった。最後のフレーズが演奏されると、音は静かに消えていった。
そして会場は、深い余韻に包まれ、静まり返っていた。
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演奏を終えた俺は、
「(……やべぇ。これやらかしたんじゃね)」
と、脂汗が凄い。おそらく、里香も同じだろう。
「(里香!逃げるぞ!)」
「(う、うん!)」
俺は立ち上がり楽譜を取り、楽譜を取った里香と並んで一礼してから、共に舞台袖に戻った。
戻った所で話を聞くと、演奏者は会場入りに間に会ったらしい。てか、早く逃げたい。気まずすぎる……。
そして、俺たちはスタッフさんたちに声をかけ、関係者扉から会場に出て、そそくさにホールを後にしたのだった。
翔太君たちが帰った後は、色々な意味でカオスだっただろうなぁ……(遠い目)
コンクールを完全とまではいきませんが、ぶっ壊しましたからね(笑)
では、また次回(@^^)/~~~
追記。
作者は音楽に対してはほぼ無知です。ご了承をm(__)m