原作も、うろ覚えが多いですし。
~翌日の放課後、音楽準備室~
俺と公正は、散らばった楽譜の中、仰向けになり天井を眺めていた。
「昨日はやっちまったなぁ……」
聞いた話だと、昨日俺たちが逃げた後のコンクールはカオスになったらしい。
「……僕も一度演奏を止めちゃって、宮園さんのコンクールを壊しちゃたよ」
公正の話によると、途中から音が聞こえなくなってしまって演奏を止めてしまったらしい。だが、その直後に宮園も演奏を中断して、公正と共に弾き始めたらしい。演奏も、ほぼ殴り合いの音だったという事だ。
そして、宮園は演奏後倒れてしまった。今日お見舞いに行く予定である。
「翔太も、時間稼ぎで出たんだよね?」
「まあな。つーか、里香と一緒に出たのはいいが、あれは主役を食ったかも知れん……マジでやっちまったよ……」
まあ、過ぎた事をとやかく言っても仕方ない。成るように成るだろう。
「た、大変だったんだね。と、ところで、翔太は毎報コンクールには出場するの?ピアノ弾き始めたんでしょ?」
「コンクールに出場予定はないな。ピアノも、皆に聞かせる為に弾き始めた訳じゃねぇから」
「……じゃあ、雨宮里香さんに?」
「どうだろうな。でも、出場する予定はないな」
「……そっか」
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~都津原大学付属病院、廊下~
「403号室、403号室……ここだ、あった!」
渡が部屋前の札を見て、部屋を指差す。
ちなみに、お見舞いに来ているメンバーは、俺、公正、渡、椿、里香である。
「うー、緊張するな」
「かをりちゃん元気かなぁ」
椿と渡がそう言ってから、ドアを無造作に開ける。……つーか、ノックをしようぜ。
開け放たれたドアの向こうでは、宮園が上半身裸で、背中を看護婦さんに拭いてもらっていた。
「きゃああぁぁ!」
と、宮園が声を上げ、看護婦さんに注意を受ける俺たち。で、渡と公正は椿の回し蹴りを食らって、視界をブラックアウトさせていた。
「はあ、ノックくらいしろよ……」
俺は呆れた声を上げ、
「んじゃ、里香さんどうぞ」
「う、うん……」
俺も里香の張り手を右頬に受け、視界を黒く染めたのだった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「ご、ごめんね」
申し訳なさそうな里香。
「いや、大丈夫だ。あの時の記憶が飛んだから」
また、話によると宮園は貧血気味で、偶に倒れる事があったらしい。この数週間無理があった為、こうなった。と言う事らしい。
「そうそう、翔太君と里香ちゃんも、私たちとは違うホールで演奏してたんだよね?」
宮園にそう言われ、俺は、
「まあな。繋ぎで演奏した感じだ。俗にいう、エキストラって感じか」
……里香さん。「そんな感じじゃなかったかも」って不安そうに言うのは止めてくれ……。
「へぇ、そうなんだ。課題曲は、『愛の挨拶』って聞いたけど、本当?」
なぜ課題曲を知っていると思ったが、コンクールをネット等で検索すれば、その辺の事を調べる事は可能だろう。
「まあ一応。てか、トラウマもんだな、あの曲は」
「あはは、愛の贈り物って感じの曲だからね。でも、弾き始めたらそんな感覚は無くなっちゃうでしょ?」
「まあな」
演奏中は、感覚で演奏してた感じだ。
「……まあ、色々な意味でやっちゃたから、今後に響いてこないか不安だけど……」
紘子さんからの電話。とかね……。そう、俺の師匠は世界屈指のピアニスト、
その時、俺のポケットに入っているスマホが震える。液晶画面には――瀬田紘子。とあった。
「悪い、電話だから外すわ」
俺は病室から出て、通話可能ルームまで移動し、スマホの通話口を右耳に当てた。
「……もしもし」
『久しぶりだな、翔太。ピアノをまた初めてくれて嬉しいよ』
……うわぁ、紘子さんの言葉に棘がある。
「……ピアノを弾き始めたといいますか、緊急事態だといいますか……」
『ほーん。中学1年のコンクールほぼを潰して、緊急事態と言い逃れるのか』
紘子さんの話によると、神矢翔太はコンクールをほぼ潰したのだから、ガラコンと毎報に出場(審査員の強制)して、そこで観客にお前の音楽を再び認めさせろ。ということらしい。
「い、いやいや。スタッフさんからのお願いでしたし、俺がガラコンと毎報に出場しなくても」
『へぇ、雨宮里香もなんだが。彼女のことは放っておいていいのかい?』
へ?と俺は声を上げる。
また、毎報は特別枠を用意してるらしい。毎報で、ヴァイオリンとピアノの伴奏とか特例すぎるし。
「……それ、ほぼ逃げ道がないじゃないですか」
『お前らの自業自得だ』
「ですよねぇ。……解りました。里香には俺から言っときます。それで、課題曲は決まってるんですか?」
『ガラコンの選曲は自由だ。毎報はまだ解らないな』
「了解しました」
そう言ってから、俺は通話を切った。てか、ガラコン出場とか何年ぶりだよ……。
お見舞いを済ませた俺たちは帰宅する事になり、帰り道が途中まで同じ、里香と俺は歩道を歩いていた。ちなみに、俺が車道側である。
「え!?私たちが毎報とガラコン?」
「コンクールをぶっ壊した罰?だとさ。紘子さんにも苦情がきたらしいけど」
里香は目を丸くする。
「紘子さんって、あの世界屈指のピアニスト、瀬田紘子さんのこと?」
「ああ、その認識で合ってるぞ」
ちなみに紘子さんとは、両親が亡くなる前からお世話になってる先生だ。
「そっか。翔太君のピアノの秘密は、先生の教授によるものもあるんだね」
「まあな。んで、あの後妹さんはどうなん?」
「……うん。ちょっと巧くいってないかな。相座凪さんに負けて、スランプになっちゃた感じかな」
「スランプか……。てか、あの演奏の上が居るなんてな」
なるほど。里香が言っていた強敵とは、相座凪のことなのだろう。
「それでなんだけど、翔太君、梨奈のピアノのご教授お願いできないかな?」
「いや待て。俺が先生とか無理だ。無理だからな」
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……と、言っていた俺でした。
そしてやって来た家は、ザ・お嬢様!という家である。
「……でけぇな。里香って、何処ぞのお嬢様なの?」
「お嬢様かはわからないけど、結構大き目のグランドピアノがあるくらいだよ」
「……いや、大き目のグランドピアノだったら、そこそこするだろ」
大き目のグランドピアノといったら、100万位だろうか。たぶん、いや、知らんけど。
ちなみに、グランドピアノ専用の部屋もあるらしく、防音完備らしい。
「あと、私のヴァイオリンくらいかな」
「……お前のあのヴァイオリン、100万位のやつだろ。一回しか現物見てないけどさ」
「お父さんに頼んだら、すぐに買ってくれちゃった」
悪い子のように、舌をぺろっと出す里香。
……うん。今解った。里香の親父さんはかなりの親バカである。
「まあいいや、梨奈の所まで案内を頼んだ」
「りょうかいー。じゃあ、どうぞ」
俺は「お邪魔します」と言ってから、玄関を開けてから靴を脱いでから揃え、梨奈が練習している部屋に案内してもらう。てか、里香の母親に「里香の彼氏さん?」って言われて、俺と里香は取り乱したけど。……まあうん、かなり強力な母親だったなぁ。
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「お邪魔するぞー」
ノックをしてから、俺は部屋に入る。
「えっ?えっ?何で翔太さんがいるの!?」
椅子に座りながら梨奈は振り返り、俺を目を丸くする。
「いや、梨奈がスランプに陥ってるから助けてやってくれって、里香に頼まれてな」
「あ、ありがとうございます!そ、それに名前呼び」
「い、嫌だったか?嫌なら、苗字に戻すけど」
頭を振る梨奈。てか、ぶんぶん振りすぎてると首が捥げるぞ……。
「い、いえ、急だったから驚いてしまって、名前呼びで構わないです」
「そ、そか。んじゃ、隣少し空けてくれるか?」
梨奈が椅子のスペースを開け、俺は其処に座った。
俺は立て掛けられてる楽譜を見て、
「へぇ。ドビュッシー、月の光か」
「はい!私の中では、とても好きな曲なんです!」
「あの切ない感じが何とも言えないな。女性に贈った曲とも言われてるし」
「『愛の挨拶』もそうらしいですけど、翔太さんは苦手なんですよね?」
「まあな。『愛の悲しみ』とか『愛の喜び』は平気なんだが。んじゃ、通して弾いて見てくれ」
「はい!」
梨奈は深く息を吐くと、鍵盤に手を置き奏で始める。
「(……凄ぇな。でも、少し焦ってる感じか)」
弾き終わり、俺を見上げる梨奈。
「ど、どうでした?」
「かなり巧いよ。でも、勝つことに意識を裂き過ぎて力が入りすぎてると思う。所々強弱もバラバラの部分もあったし、感情に任せすぎて演奏に焦りもあったな」
「そ、そうですか……」
しゅんとする梨奈。
確かに、これが続けばスランプにもなるな。
「そうだなぁ。まずは勝つことなんて二の次にして自然体で弾いてみ。で、作曲家の意図も汲み取るように優しく、時には悲しくな」
「はい!」
再び、音を奏でる梨奈。
「(……マジか。一回の指摘でここまで改善するとか……才能、なんだろうな)」
弾き終わった所で、梨奈は俺を見る。
「ど、どうですか?」
「ああ。最初より改善できてるぞ。さて、練習練習」
「はい!あ、あの翔太さん、連弾しませんか?」
「月の光をか?」
はい。と頷く梨奈。
「いいぞ」
それからは、連弾しながら指摘しながらや、里香も合流してヴァイオリンと伴奏もしたりした。
ちなみに、ガラコンで演奏する曲が『月の光』になりましたとさ。
話がぶっ飛んでる所があったと思いますが、多めに見てっちょ(^_^;)
ではでは、次回(@^^)/~~~