カミーユが女だったら鬱でもニヤニヤできる 作:Fabulous
アーガマ級強襲用宇宙巡洋艦 アーガマ ブリッジ
「それでガンダムMk-IIは一機確保できたのか」
「そのようです。それとパイロットが一人」
カミーユの住むコロニー『グリーン・ノア1』から少し離れた宙域の宇宙に、巨大な白い船体が浮かんでいる。それは先の大戦で伝説となった戦艦『ホワイトベース』を模して設計された反地球連邦政府組織『エゥーゴ』の旗艦アーガマである。
その艦内では『エゥーゴ』の指導者ブレックス・フォーラとアーガマ艦長ヘンケン・ベッケナーが無事帰投してきたクワトロ小隊について話題にしていた。彼らが宿敵ティターンズの兵器を奪取することに成功したとの報告をブリッジから聞いた時は大いに喜んだ、しかし奪取したのがモビルスーツだけでなく女の子も一人いるとクワトロから報告された時はブリッジクルー全員が耳を疑った。
「ティターンズなのかね?」
「いえ、なんでも民間人の、それもまだ小さい少女のようです」
「やれやれ。クワトロ君も罪な男だな」
「ニュータイプの考えることは突飛ですよ」
同艦 ドック内
「放せよ! 放せよ人殺し共! 放せぇぇえ!」
アーガマのハッチでクルーたちに両腕を掴まれ連れられて行くカミーユをリック・ディアスから降りたクワトロが遠目で眺めていた。
カミーユを生で見てまだ成人もしていない若さと少女と言って差し支えない小柄な体躯に驚いた。とてもグリーン・ノアで見せた大立回りをやってのけた人間とは思えない。だがクルーを殴り倒す勢いの今のカミーユを見て納得がいく。子供特有の不安定な精神と熱くなりやすい気性はクワトロの苦手とするものだ。
そんな彼に一人の整備士が近づき栄養補助飲料を手渡した。
「アストナージか、酷い暴れようだな」
「他人事みたいに言わないで下さいよ大尉」
「その瘤、派手にやられたな」
クワトロはアーガマの整備士の一人であるアストナージ・メドッソ曹長の額にピンポン玉程のたん瘤ができているのを見つけた。笑いながら指摘さればつが悪そうにたん瘤を撫でるアストナージは思い出したくもないように顔をしかめた。
「笑い事じゃないですよ。あの娘がコックピットハッチを開けないからシステムハックして無理矢理こじ開けた瞬間に思いっ切り殴られたんですよ? ありゃ何か拳法でも習ってるパンチです!」
「それは災難だったな」
「本当ですよ。全くとんでもない女の子です。一体どうするんですかあんな娘を誘拐して」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。とにかく彼女のことは私に任せてくれ」
「言われなくても任せますよ。もうあの娘に近づくのは懲り懲りです。可愛いからって油断したのが間違いでした」
(…………やはり、似ている)
あり得ない、と思いつつクワトロは逡巡していた。
カミーユとララァとでは何もかも違う。
唯一の共通点は少女であることくらい。
あとは目を背けたくなる有り様だ。一目で分かる不安定な精神。怒りや悲しみを抑えられない幼さ。今にもクルーに噛みつきそうな勢いのカミーユと深窓の姫のように穏やかなララァ、余りにも対極的な存在同士だ。
「この! 触るな! ボクに触るなよ!」
「離してやれ。彼女は私が受け持つ」
泣きそうになりながらも暴れるカミーユを見かねてその前に立ったクワトロは自分の迂闊さに奥歯を噛み締めた。頭でいくらララァとの相違点を挙げ連ねても実際に目の前で対峙すると、彼女の強いニュータイプ的思念が彼の心を掻き立てる。
自然とララァにしていたようにその頬に触れようとした自分の手に気づき無性に腹が立った。死んだ人間を生きている人間に投影するなど馬鹿げている。これでは余りにも女々し過ぎる、とクワトロは軍人としての顔を張り付けカミーユを一室へ案内した。
「改めて自己紹介をしようか。私はエゥーゴの──」
「知ってます。コックピットにいたときアポリーって人とロベルトって人がクワトロ大尉と言っているのを聞きました。貴方があの赤いモビルスーツに乗っていたパイロットですね?」
意外にも理知的な対応に交渉がしやすいと感じたクワトロだったがその後カミーユは黙り込みただじっと前を見つめた。それは見ていると言うより目の前の男が安全なのか、信用できるのか、使えるのか、観察している動作であり大人を信用していない者のする目だった。
「まずは君を巻き込んでしまったことを謝罪しよう」
素直に頭を下げて謝罪すると怒りの感情が薄れた気配をクワトロは感じた。同時にここまで機微に感情が分かるほどのニュータイプの力にサングラスの奥の瞳を光らせる。
「……こちらこそ、いろいろすみません。さっき殴った方に後で謝らせて下さい」
「そうしてくれ、アストナージ君も喜ぶ。だいぶ落ち着いたようだな」
「それは…………」
実を言えばカミーユは恐怖に震えていた。
散々暴れ倒し精神を高揚させていた脳内麻薬はとっくに無くなり肉体の疲労も困憊していた。そしてようやく彼女は今更ながら自分のやってしまった数々の悪行に震えていたのだ。軍属でもない自分がモビルスーツの無断使用、器物損壊、殺人未遂、テロリスト幇助、いくら有力技師の娘でもどう考えたって銃殺刑まっしぐら。おまけに今の自分は世間ではテロリストと呼ばれるエゥーゴの船に半ば軟禁されている。取調室に拘束されながらも必死で弱みを見せまいとクワトロを睨みつけるカミーユだが机の下の手や足は小刻みに震えていた。
「……変態」
カミーユの両手首には無骨な手錠が嵌められていた。それを見て安心しきっている相手の男のふざけたサングラスを剥ぎ取ってやりたい衝動を覚えたが拘束されてはそれも出来ないので我慢していた。
「好きで手錠をかけた訳じゃない。だがグリーン・ノアやここに来てからの態度では致し方ない」
「これを外して下さい」
「まだできない。君が我々にとって安全と分かるまでは」
「これを外せ!」
外せと言われて外すと本当にこの少女は思っているのか、クワトロは再び獰猛な獣ような咆哮を上げた少女を見て手錠は必要だった再認識した。同時に小さな体から放たれる感情の発露は純粋なまでにカミーユ自身を傷つけていると彼は察した。
「女の子がそう声を荒げるものではない。それにそう不安がる必要はない。何も裸に引ん剝きはしないさ」
「……やっぱり変態」
「今のは失言だぞ大尉」
「ブレックス准将!」
唐突なエゥーゴ指導者の登場に座っていた椅子から立ち上がったクワトロと違いカミーユは髭面の怪しい男としか認識していない。准将と呼ばれた肩書きも、テロリストと相違ない立場のエゥーゴが使っていると知ればとても胡散臭い階級でしかない。
「やあカミーユ君、私はブレックス・フォーラ。エゥーゴの代表をやっている」
「知っています。父が貴方のこと電話で話しているのを聞きましたから」
「ほお、こんな可愛い子に知って貰えているとは光栄だな」
「ブレックスはもう終わりだ。バスクに蹴落とされた負け犬だって」
正直すぎる言動に側に立つクワトロはサングラス越しに目を丸くさせるが当の言われた本人は大笑いした。
「悔しいが半分正しい。だが私はまだ終わるつもりはないよ」
「それがボクたちのコロニーで銃を撃つことですか!」
「否定はしない。すぐに理解してくれと言うつもりもない。だがバスクの⋯⋯ティターンズの横暴をこれ以上のさばらせておけば全てのスペースノイドは駆逐され地球は腐った糠のように腐敗していくだろう」
「ボクだってティターンズは嫌いです。でもあなたたちも嫌いです。あなたたちはボクの住むコロニーに穴を空けて友達の家を壊しました」
クワトロに連れ去られる際にカミーユは空高く上昇したガンダムMK‐Ⅱのコックピットから自分が暮らしてきた町の状況を見た。そこらかしこから黒煙や炎が舞い上がり流れ弾や撃ち落とされたモビルスーツの残骸が家々に被害を与えていた。その中には親友のファ・ユイリィの家や自分の自宅も酷く損壊した姿を高性能カメラがはっきりと捉えてしまった。
カミーユにとって自宅はあまり良い思い出がある家ではなかった。少なくとも家族の団欒などは望めない家庭環境、常に自室に閉じこもりプログラミングや機械いじりばかりしてきた空間だったがそれでも自分の帰る場所を失った事実は心に深く傷をつけた。
「重ね否定はしない。だがこれも地球、いや世界の平和の為の戦争なんだよ。君を怖がらせたことは謝罪しよう。申し訳ない。君の気が済むのなら殴っても構わんよ?」
言うや否やカミーユは飛びかかったが手錠と床を繋ぐワイヤーの長さが足りず拳は空を殴った。
「本当に殴る奴がいるか」
二人の間に入ったクワトロもまさか言葉通りカミーユが行動するとは思わず驚き半分呆れていた。手錠を嵌めた張本人として穴が開くほど睨み付けられるが銃弾を潜り抜けてきたクワトロには何処吹く風で素知らぬ顔をしていた。
「今日傷ついて、恐怖した人たちの分です! あなたみたいに、戦争するって決めた指導者が真っ先に戦場で戦って死ねばいいんですよ!」
「カミーユ、それ以上は──准将?」
尚も突っかかるカミーユにブレックスは自ら近づき頭を下げた。そうされると思わなかったカミーユは気が抜けたように椅子に腰かける。
「カミーユ君、コロニーに暮らす一人の少女の貴重な意見、ありがたく承ったよ。手錠はすぐに外させる。もう少し我慢してくれ」
その言葉通りクワトロたちと入れ替わりで女性士官が一人カミーユに近づきその手に触れた。拷問でもされるのかと身構えたが不安を感じてか女性はポケットとから鍵を取り出し笑いかけた。
「大丈夫よ。いま外すわね」
カチャリと言葉通り手錠が外れカミーユ解放感に浸る。ブレックスは約束を守ったようであった。
「ありがとうございます」
「気にしないで。レコア・ロンド少尉よ。大変だったわね」
差し出された手をカミーユは戸惑いながらも握り返しすとその手はとても温かかった。その温もりに触れて張り積めた緊張の糸が切れる。
初対面の人間の前にも関わらずカミーユは涙を流した。感情の杯から溢れ出る複雑に混ざりあったそれが頬を伝う。
レコアは自然とそんな少女を抱きしめ胸を貸す。同性だからこそ分かる感覚、レコアはカミーユの不安を黙って優しく受け入れた。
部屋を出たブレックスはその足でブリッジへ向かった。既にティターンズの追っ手はクワトロたちを追跡して近くまで来ている筈だからである。そうなれば一戦交えることにもなるが彼の心に降伏の2文字は端から存在してはいない。
捕まればどんな奇跡が起きても終身刑が上等の身の上だ。何より宿敵たるティターンズのバスク・オムとジャミドフ・ハイマンを討つ前に死ぬ訳にはいかなかった。
「ユニークな子だったな。君の所感を聞かせてくれ」
「……昔を思い出しました」
一年戦争の頃だと当たりをつけたブレックスの考えは半分的中していた。
カミーユのニュータイプとしての適性はかつてのアムロやララァを想起させるのに十分過ぎるほどだ。そしてもう一つ、手枷を嵌められながらも猛々しく命令した先程のカミーユの姿に彼は遠い日の自分自身を見ている錯覚だった。
───大佐! 邪魔です!
───命令する。これをはずせ!
それは亡くした最愛の女性と決別した己の過去が自分を責めているような感覚に近い。気分の良いものではなく普通ならカミーユの側には近づきたくもない。だが彼女とコロニーで出逢った時から強烈に惹かれている自分がいることも理解していた。
(私が引っ張られている? 思春期でもあるまいし、彼女はララァではない)
興味か、恐怖か、カミーユに対して抱く感情の名が分からなかった。分かりはしなかったがその疑問を圧し殺した。
しかし依然としてその胸中にはあの燃えるような怒りを孕んだ美しい瞳が爛々と輝いてる。
「美しい花には棘があると聞くが本当だったな」
「申し訳ありません。後できつく言い聞かせます」
「いやいや、久しぶりに目が覚めたような感覚だったよ。カミーユ君の様に普通に暮らす住民たちにとっては我々もティターンズもそう変わらないのだろうな。身に詰まされる思いだ」
ティターンズもエゥーゴもどちらも互いを反乱者として糾弾しているが時流はエゥーゴに不利だった。地球連邦政府のお墨付きを獲ているティターンズは官軍として広範なプロパガンダを展開し、エゥーゴはテロリストの扱いを受けている。だがジオン残党狩りを名目に数々の横暴かつ悪逆な行為を繰り広げてきたティターンズに反感を抱く者たちも多く、エゥーゴを支持する地下組織は地球圏に根付いていた。
今回のガンダムMk-II奪取作戦もティターンズの技術を取り入れ戦力増強を図るものであったがカミーユの怒りにブレックスはなんとも言えない哀しさを感じた。所詮はお互いに殺し合う軍隊と軍隊、平和を望む市民たちは頭上から落ちてくる砲弾がどこの軍の所属なのかなど考えはしない。
「ですがティターンズの大義は宇宙と地球、双方を滅ぼします」
「そうだ。戦いを止める訳にはいかない。彼女も我々の力になってくれればいいのだがな。大事に見てやれよ」
「彼女をモビルスーツに?」
さらりとカミーユをエゥーゴとティターンズの戦争に従事させると言ってのけたブレックスにクワトロは難色を示した。ブレックスは指導者としては優秀で人望も厚い、だがティターンズを打倒する為ならば肉親すら切って捨てる冷たさを持っていた。だからまだ成人もしていない少女を早々と戦力にカウントしているがその政治家気質な皮算用にクワトロは辟易した。
例えば彼女が男だったらここまで悩みはしないだろう。だがカミーユ・ビダンは女だ。それも人の目を引き付けてやまない美貌をしている。これではクワトロでなくてもその手に人殺しの機械を握らせることを躊躇う。しかしブレックスは使えるものは何でも使いティターンズを倒すことに邁進しているのでその辺の倫理観が曖昧になっていた。
「今は落ち着いているが自分たちの兵器を奪われたのだ。すぐにティターンズの追撃隊が来るぞ」
自分たちを正義の軍隊と公言するほど理想家ではない。だがティターンズは悪でありそれを討つ為のエゥーゴは多少の損害は目を瞑ってでも勝たねばならない。そしてその大義の犠牲になるのはブレックスではなく一兵士たちやカミーユのように巻き込まれる人々。そんな矛盾を真正面からぶつけられれば流石のエゥーゴ指導者も言葉とは裏腹にブリッジへ向かうその足取りは年相応に重いものであった。
ティターンズ 巡洋艦アレキサンドリア 艦内
ジェリド・メサ中尉は穏やかではなかった。グリーン・ノア1のエマージェンシーに対応した出撃で起こったエゥーゴによるガンダム強奪事件。突如現れたエゥーゴの赤いモビルスーツに意気揚々と挑むが結果は惨敗、他と違い撃墜はされなかったが代わりに連邦管轄の庁舎に突っ込み面目とともに機体は潰れてしまった。
更に友人のカクリコン・カクーラーが乗るガンダムMk-IIは敵の奪取したガンダムMk-IIによってスクラップにされる始末。これではエリート部隊ティターンズの名折れだと彼のプライドは酷く傷ついていた。
だからこそ雪辱を果たす腹積もりで追撃部隊に率先して志願した。彼の部隊はカクリコンも加え作戦指揮官のジャマイカン・ダニンガンの立案した作戦をミーティング室でイライラと足踏みをしながら聞いていた。敵の旗艦である白い戦艦を先行しているボスニアが捕捉しておきながら攻撃もせず自分たち本隊が来るまで待機していたからだ。
ジェリドにとってティターンズをバカにされていると感じると共に一般兵たちの腰抜け具合に同じ連邦軍として情けなく思った。
彼はエリートだ。厳しい適性試験をパスしてティターンズの制服に腕を通している。断じて伊達や酔狂ではないのだと自負している。だからこそ不真面目で他力本願の奴を見ると我慢ならない性分を持っていた。
「ジェリド中尉、聞いているのか?」
「勿論。ですが分かりませんね。なぜボスニアの連中は攻撃しないんですか?」
「人質がいるのだ。先程もいっただろ」
人質……その存在にジェリドは疑問符を浮かべた。テロリスト同然のエゥーゴの旗艦を討てる機会を人質を取られたくらいで強硬なバスク・オム大佐の腹心ジャマイカンが躊躇しているとはにわかに信じがたい。
「誰なんです、その人質。余程のVIPとか?」
「エゥーゴは卑劣にもガンダムと人質をとった。フランクリン大尉のご令嬢、カミーユ・ビダンをな」
エゥーゴを叩く大義の為なら人質の犠牲も仕方がないと考えていたジェリドにとってその名が与えた衝撃は痛烈だった。
カミーユ、つい先ほどグリーン・ノアの港で鉢合わせた記憶に強く残る美少女。儚げな見た目からは想像できない強さを内に潜めたカミーユはそれなりの女性経験を持つ彼でも目を奪われ思わず助けに入ってしまった程だ。
「人道的観点から先行しているボスニアも手が出せんのだ。まず交渉にエマ中尉が行く。お前たちはその後だ」
「クソッ エゥーゴめなんて奴らだ! 可哀想に、今頃震えてるだろうな。待ってろカミーユ、俺が助けてやるぜ」
「意気込むのは良いが命令は厳守しろよ。いいか、手書きの命令書は出撃した後に読むんだぞ」
作戦説明の際にジャマイカンはジェリドにだけ特別な命令書を手渡していた。その中身は当然ジャマイカンしか知らず出撃前に確認することは固く禁じられていた。
今まで受けたことのない奇妙な命令に戸惑うも彼の頭の中は如何にして囚われのお姫様を助けだした騎士になるかで一杯だった。
作戦会議が終わりジェリドは逸る気持ちを抑えきれずアレキサンドリアの中を意味もなく彷徨いた。エマ中尉は規則に厳しい実直な女だ。交渉役に相応しいことは分かる。だがいつエゥーゴの連中がカミーユに不埒な真似をするか分かったものではない。出来るならば今すぐ出撃したいがそれは叶わない。そんな焦るジェリドの背に一人の女性がぶつかってきた。
「気をつけろ」
「す、すみません……あの、カミーユが……」
妙齢の女性は軍艦に似つかわしくないスーツ姿でやや焦燥した様子だった。機密である筈の人質の名を呟く訳を聞けば、女はなんとカミーユの母親であると分かりジェリドは仰天した。
「成る程、ティターンズに呼ばれてこの船に来たのですね?」
「え、えぇ。警察からカミーユが誘拐されたと知って驚いているとティターンズから出頭の要請が突然来て夫と共に……」
ヒルダの戸惑いはもっともだった。いくら科学のエキスパートであり人質の親とはいえ戦闘宙域のど真中に非戦闘員を連れてくるなど例外中の例外だ。ヒルダは半ばパニックになりながらも必死で娘の無事を祈りながらアレキサンドリアを当てもなくさまよっていたのだ。
「任せてくださいビダン夫人。お嬢さんはこの俺が必ず救い出して貴女の下へエスコートしますよ。なんせ俺は精鋭のティターンズパイロットですから」
ジェリドにとっては正義感半分、気になる女の子の母親への功名心半分から出た自信だったが半ば強引にティターンズによって連行され夫すら頼れない状況の中で放たれた言葉は彼女の心を打ち涙を浮かべながら何度も何度もジェリドに娘の無事を願った。
ジェリド自身、人からここまで頼りにされたことなど今までなかったが故の大きな責任感と美しい少女を救う高揚感を胸に抱きいつでも出撃できるよう乗機のハイザックに向かった。
だが彼は知らない。
この出撃が彼を生涯に渡って苦しめその人生を大きく狂わせる切っ掛けになることを。