カミーユが女だったら鬱でもニヤニヤできる   作:Fabulous

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みんな大好きカプセル回


カプセルの中

 アレキサンドリア艦長室

 

 ジャマイカン・ダニンガンにとってバスク・オムは直属の上司であり自身の地位の後ろ楯に等しい存在である。だからこそ通常の上官以上の気遣いが必要であるがティターンズNo.2のその男に未だジャマイカンは恐怖を抱いていた。

 

 ティターンズ(巨人)の名に相応しい見る者全てを威圧する巨体と不気味な印象を与えるゴーグルを光らせ数々の非道な行いを命じてきた冷酷な将。それがバスク・オムである。

 そんないつ自分を切り捨ててもおかしくない男の機嫌を伺い忖度して気配りをするのは大きな疲労だった。その精神的苦痛で後数年もすれば自分もあの見事な剃髪になりそうなのが最近の悩みでありその腹いせとして部下や一般兵に不遜な態度を取り優越感に浸ることを楽しみとしているが改める気は毛頭ない。

 

「我が軍の所属ではない軍艦を捕捉しましたバスク大佐。恐らくはガンダムMk-IIを奪ったエゥーゴの母艦と思われます」

「十中八九エゥーゴだ。Mk-IIとブレックスもきっといるはず⋯⋯フランクリン大尉の娘もいると思うが最悪は諸共始末する。だがMk-IIはできれば無傷で奪還したい」

 

 カミーユ・ビダンがMk-II奪取の下手人であることはとっくにバスクの耳にも入っていた。民間人がMk-IIを操作して他のMk-IIを破壊して逃げたと報告を受けた時はエゥーゴのスパイにしてやられたと受話器を握り潰しそうになるバスクだったがそれが自軍の優秀な技術者の娘だと知るや否や彼はすぐさま命令を出してカミーユの両親を半ば拘束に近い形で船に乗せた。

 本来、軍属だが研究者であるビダン夫妻を戦闘が予想される船に乗せて出撃させるなど強奪犯の両親とは言ってもまず考えられない行為だが、バスクの命令を部下のジェリドに一部だけ伝えたジャマイカンはその真意を知っている。

 

 思わず怯んでしまう程の冷酷な作戦内容にジャマイカンはあまり乗り気はしてはいない。

 乗り気はしないが意見するつもりもない。たかが技術屋とその娘の命、ティターンズの大義や己の保身に比べれば安い物。

 

「ブレックスのようなスペースノイド贔屓の逆賊にこれ以上の好き勝手を許せばジャミトフ閣下の信用にも差し障りひいてはティターンズの名に泥を塗ることになる。なんとしてもここで沈めろ、少佐」

 

 バスクをよく知らない者は冷酷無比な卑劣漢と揶揄するが実際は少し違う。彼は要塞の奥深くに籠らず常に実戦の現場に赴いて直接指揮を取る超が付く現場主義なのだ。単に戦いを好んでいる訳ではなく彼にはどうしても達成したい願い、エゥーゴ殲滅を叶える為に陣頭に立っている。その証拠に今回のエゥーゴによるMk-II強奪に始まったこの追撃戦でも反抗勢力を決して許さない強硬なバスクは直ぐ様に部隊を編成し自らも旗艦に乗船している。

 

 そして何よりスペースノイドを憎みアースノイドのことを想う狂人でもある。コロニーの中に反抗勢力が立て籠ったのならば平気でコロニーごと抹殺するのが彼のやり方である。それは時として大局を省みず不和と怨念を撒き散らす蛮行だが、本人にしてみれば至って正常な正義なのだ。

 

 ティターンズの狂気的な姿勢を支える根幹は、強烈なアースノイド至上主義によって支配されている。

 一年戦争から7年の月日を()()、と取るのか()()、と取るのかは人それぞれだがことバスクにとってそれは屈辱の歴史だった。

 今や彼のトレードマークになっている常着のゴーグルも彼が一年戦争時にジオン兵たちから受けた拷問によって失った視力を矯正するための装備であり伊達や酔狂では決してない。むしろ彼の敗北の証であり肉体のみならず魂にまで刷り込まれた怨みがバスク・オムという人間を形作りスペースノイドの権利を主張するエゥーゴの存在など断じて認められるはずがなかった。

 

 そしてコロニー落としや地球侵攻作戦により人類の半数を死滅させた一年戦争は地球の人々にジオン国民のみならずスペースノイドへの拭い難い反感と偏見をこびりつかせている。彼らにとってジオンの残党を駆り立てスペースノイドに強権を振るうティターンズはまさに自分達の不満を代行してくれる正義の巨人なのだ。

 

「作戦目標を伝える。第一目標はエゥーゴの戦艦。第二目標はガンダムMk-II。そして第三目標はフランクリン大尉の娘、カミーユ・ビダンだ」

「カミーユ? それは救出なのでしょうか」

 

 暗に始末でなくて良いのかと伺うジャマイカンはこの残忍な指揮官がいくら子供とは言えMk-II強奪の実行犯を、それもスペースノイドを保護せよ、などと指示する訳がないと確信していた。

 そう言ったジャマイカンの態度を感じとったバスクは机からファイルを取り出した。

 

「カミーユの資料を見たか? 見ていないならば今すぐ確認しろ」

 

 渡されたファイルを開きカミーユの情報を閲覧するジャマイカンはバスクの不可解な命令の意味を知った。

 そこには今生見かけたことのない程の美少女がいた。何かの証明写真を流用したのか其処に写る彼女は無機質な表情だったがそれでも隠せない圧倒的な美を放っている。

 

「カミーユ・ビダン、実に目を引く容姿だ。この少女を使いエゥーゴの非道をアピールすれば世論は更にティターンズに傾く。格好のプロパガンダの材料だ」

 

 ティターンズは連邦政府の配下だがジオン残党狩りを名目にあらゆる特権を与えられその権力は監視者たるマスメディアをもコントロールしている。その為ティターンズの都合の悪い情報はシャットアウトし反抗勢力に都合の悪い情報は壮大に誇張して、あるいは創作を伴って広く宣伝して世論を形成している。

 バスクはその登場人物にカミーユを配役させるつもりなのだ。悲劇のヒロインとして。

 

「しかしこの少女や両親が協力するでしょうか?」

「あのフランクリン大尉がキャリアを自分で捨てる道を選ぶと思うか? 娘の方は救出したならば病院にでも入院させればいい。救出できなければ哀れな少女の命がテロリストによって散らされたとする。どちらに転んでもエゥーゴには悪になって貰い我々ティターンズが絶対の正義として君臨するのだ」

「流石ですバスク大佐。ジャミトフ閣下もお喜びになるでしょうな。では作戦指揮に戻ります」

 

 

 

 

 

 

 

 アーガマ艦内

 

 バスクたちが作戦の算段をしている時、当のアーガマではティターンズから遣わされた交渉人のエマ・シーン中尉とブレックスたちとの会談が行われていたが、エマが手渡したバスク直筆の親書の内容を読んだブレックスは内容の破廉恥さに苦虫を噛み潰した表情で必死に怒りを抑えていた。

 ブレックスの変容に驚いたエマだったが突き返された親書を初めて読むとその意味する所が分かった。

 

「カミーユ・ビダンと共にガンダムMk-IIを返さなければカミーユの両親を殺す!? まさか!」

「それがバスクのやり方だよ中尉。ティターンズはまるでヤクザの集まりだ」

 

 エマは驚愕した。今回の自分の任務はエゥーゴに奪われたMk-IIとカミーユ・ビダンを救いだす為の交渉を成功させることだった。反連邦組織であるエゥーゴに技術が流失することの重大さはよく分かっていたし、誘拐されたとジャマイカンから聞かされたフランクリン大尉の娘、カミーユのことを同じ女としてとても案じていた。だからこそ敵のど真ん中に一人で乗り込む危険な交渉人を率先して引き受けたのだ。

 

 しかし親書の中に記されたバスク直筆の恫喝に近い内容はエマの根幹を大きく揺らした。

 

「で、ですがあなた方がMk-IIを強奪してカミーユを誘拐した事実は変わりません」

 

 カミーユの立場は誘拐された人質だとエマは認識している。その救出の為に軍隊があらゆる手段を使うのはもちろん間違っていないが、救う側が更に人質を取ってあまつさえ言う通りにしなければ殺すと宣うなど正規の軍隊がして良い行いではない。エゥーゴがテロリストだとしても軍規も戦時国際法も完全に無視した無茶苦茶な要求に、何かの手違いで親書が間違ってしまったのかとも反論したかったが直筆のバスクの字にそれも苦しく冷静な彼女の頭脳は珍しく混乱していた。

 

「カミーユのご両親には心から謝罪する。私が彼女を巻き込んだからな」

「あなたが?」

 

 クワトロがエマに謝意を表した瞬間、艦内にアラートが響いた。すかさずブリッジへと向かうヘンケンたちに付いていくエマはブリッジの光学モニターに映し出された映像に言葉を失った。

 宇宙空間に浮かぶ小さなカプセル。目印となる規則的な発光信号を放ちながらアーガマの前方にフヨフヨと漂うその中には人がいた。

 

「バスクめっ⋯⋯貴様それでも人間か!」

「恐らくはカミーユの母親でしょうね」

 

「そんな! あ、あれは⋯⋯あれはホロスコープです。本物の訳がありません!」

 

 苦しい言い訳だった。

 確かにエマの言う通り通常ならば宇宙服も着ていない人間を見るからに脆弱なカプセルの中に閉じ込め宇宙に放つなど正気の沙汰ではない。たちの悪い冗談だと誰もが思うだろう。だが親書の内容といい目の前のカプセルといい、エマは自身が身に付けている制服に強烈な不快感を抱いた。

 

「Mk-IIが発進!? 許可してないぞ!」

 

 誰もが怒り唖然としているブリッジ内にオペレーターの動揺が伝わった。次の瞬間、バーニアを全開にして出撃するMk-IIの姿がブリッジの窓からも見えた。

 

「どうした!」

「ヘンケン艦長! それがガンダムMk-IIが勝手に出撃してしまいました。乗っているのはカミーユだそうです」

「なんと⋯⋯」

 

 誰よりもまずクワトロが驚いたがどうしてカミーユが出撃したのかは分かっていた。なにがしか母親のことを知ったのだろうが、彼が驚いたのはカミーユの操作技術だった。

 宇宙空間でのMS操縦は自動車を運転するような次元とは違う。AMBACに始まる姿勢制御や3次元戦闘を可能にする高い空間認識能力が要求されそれを習得するには一定の訓練と才能が必要とされている。しかしガンダムMk-IIの粗は目立つがすいすいと宇宙を泳ぎカプセル一直線に向かうカミーユの並のテストパイロット以上の技能に舌を巻くと共に危機感を覚えた。

 

(これではまるで本当にアムロ・レイではないか……!)

 

 かつての宿敵のようにガンダムを駆る少女の姿は眩しかった。ニュータイプの可能性を見せつけられた強い少年の瞳は今でも彼の心に焼き付いている。

 怨敵、ザビ家を打倒したあの日、ア・バオア・クーよりザビ家の遺児をアクシズへと送り届けた時点で既に彼はシャアとしての目標を失いかけていた。復讐と言う甘美な蜜を味わい尽くした後に残ったのはポッカリと心に大きな穴が空いたような虚無感と、人生の大半を懸けるほど燃え上がった熱が急速に冷めていく疲労感だった。

 あれほど復讐の炎に燃料を投下し続けてきた情熱が嘘のように消え去ると、自分はいったいこんな宇宙の片隅で何をしているのだと敗走するグワダンの中で自問した。部下を見捨て、友を謀殺し、恋人を喪い、一国の根幹を司る一族の多くをその手にかけた己の姿はシャア・アズナブルとしての栄光に彩られた半生が何処までも空虚で滑稽で欺瞞と憎悪に満ちた出来の悪い喜劇に感じられてしようがなかった。

 

 だがアクシズへと入港した際に出逢った一人の少女に感じたニュータイプの感応が沈みかけていたシャアの気力を呼び覚まし新たなる目標を彼に与えるきっかけとなった。

 

 復讐の為の人生が探求の為の人生に変わった。

 

 

 人類の革新は宇宙にあるのか? 

 それはニュータイプなのか? 

 ならば人はニュータイプに変われるのか? 

 

 ニュータイプとは彼にとってコンプレックスと同時に強い憧れなのだ。

 

 ならばカミーユはその可能性があるのではないか? アムロやララァのような、それすらも凌駕する真のニュータイプの可能性があるのではないのか。

 

 クワトロはふと自分が希望を抱いていることに気づいた。

 

 

 

 宙域

 

 カミーユが無断で出撃した最中、カプセルを監視する二機のハイザックがいた。特徴的な頭部モノアイと緑のカラーは一年戦争の代名詞ザクを彷彿とさせる出で立ちである。

 巡洋艦アレキサンドリアから出撃したそれらはカプセルに一人で近づくカミーユのガンダムMk-IIを確認して役目を果たす為にマシンガンを構えた。

 

「敵機確認だジェリド。命令書を開け」

「了解だ。援護頼むぜカクリコン」

 

 ジェリドとカクリコンの乗る二機のハイザックは暗い宇宙の迷彩に隠れアーガマからは捕捉されていない。カミーユもまた冷静な判断ができる状況ではないし気づいたとしても母が目の前にいてただ手をこまねくだけなどどだい無理な話である。

 

「なになに……カプセルに近づく敵がいたらカプセルを撃てか。強力な爆弾なのか?」

「どっちでもいい。ガンダムMk-IIが近づいてる。安全装置を外せ」

 

 元よりグリーン・ノアでガンダムMk-IIに手酷くやられたカクリコンは些か冷静さを欠いていたが命令遵守が軍隊の規律だ。エリート兵であるジェリドもそこは弁えている。

 

 だがこの時ばかりは違った。

 

 カプセルを照準に捉え引き金に指を置いたジェリドは形容しがたい不安を感じたのだ。今さら臆病風に吹かれるほど新兵ではないと頭を振るジェリドだが態度とは裏腹に額からは玉の汗が一筋流れ息が荒くなる。

 

「な、なんだこのプレッシャーのような感覚は……! あのカプセルに何かあるのか?」

 

 その不安感はどちらかと言えば内ではなく外から発せられていると考えたジェリドは原因を探ろうとカメラの倍率を上げカプセルを注視する。命令にはない行動を取ったのだ。

 だがそれは悪手だったとジェリドはカメラの映像を見て後悔した。

 

「は、ははは……ジャマイカンの奴も趣味が、わ……悪いぜ。ホログラム装置なんてよっ」

 

 カプセルの中には今しがた出撃前に出逢ったカミーユ・ビダンの母親、ヒルダが入っていた。ジェリドはようやく命令書の意味を理解した。単なる映像装置ならばわざわざ自分達に対して秘密にする必要がない。つまりはそう言うことだ。

 

「ジェリドどうした。撃たないなら俺が撃つぞ!」

 

 戸惑うジェリドに対して事情を知らないカクリコンは率先して命令を実行しようとしている。それは通常ならば正しい行為だが今回だけは間違った行為だとジェリドの心が訴えた。

 

「カクリコンッ

 撃つな! 止め──ッ!」

 

 ハイザックがライフルを乱射したのと同時にジェリドの咆哮が轟いた。カクリコンの行為がどんな結果をもたらすのか、一体誰が死ぬのか、分かっていたがそれを止めることは叶わない。

 

 銃撃を受けたカプセルは一瞬張り詰めた風船のように膨らんだ後、宇宙の虚空で光を反射する無数の強化アクリルの破片を撒き散らし砕けた。それは何処か美しさを放つ光景だったが後もう一歩で手が届く所まで近づいていた少女にとっては非常なまでの残酷な光景だった。

 

「爆発しない? それじゃまさか本当に……」

 

 思わず目を背けたジェリドだったがカメラをズームしていたのが仇となり120mmマシンガンで撃ち抜かれ絶対零度の真空世界に突如投げ出された人間の末路をハッキリと捉えてしまった。

 

 教練で近代史の戦争における化学兵器や核兵器による人体の被害などを取り上げた映像資料を見たことのある兵士と言えども実際に生身の人間が死ぬ瞬間を間近で目撃するのは初めての経験だった。胃の底から込み上げる不快感に顔をしかめるなるジェリドはこんな命令を出したジャマイカンを心の中で罵倒した。

 

(ちくしょう! これじゃ俺はとんだピエロじゃないか。汚れ仕事を押し付けられたことも知らないでむざむざビダン夫人を⋯⋯)

 

 先ほどまで会話をしていたカミーユ・ビダンの母親が大宇宙の闇の中に命を散らしたなど今でも信じられない。あれは映像だ、連絡が遅れてすまない──とジャマイカンからの通信が来るのではと耳を澄ますもミノフスキー粒子によるノイズしかジェリドの耳には聴こえてこなかった。

 

 半ば放心状態のジェリドを心配したカクリコンは通信を入れようとした瞬間、コックピット内に鳴り響いたロックオン警告に驚き咄嗟でバーニアを吹かした。間一髪の所でビームを回避したカクリコンのハイザックに猛スピードでMk-IIが接近してきた。

 

「貴様が! 貴様たちが! 母さんを!!」

 

 鬼気迫るとはこの事、Mk-IIはパイロットの怒りを体現したかのような荒ぶる軌道を描きカクリコンのハイザックに突撃してきた。迎え撃つ形となったカクリコンだが予想以上の機動力にライフルの照準をMk-IIに合わせる前に距離を詰められ振り抜かれたビームサーベルでライフルを持つ右手を切断されたばかりかそのままの勢いで放たれた強烈な蹴りによってまたもや制御不能となり戦線離脱を余儀なくされた。

 

「カクリコンっ───! い、いったいこれは!?」

「許さない! 絶対に許さない! 人殺し共!!!」

 

 突如として怒り狂う少女の声と共に友人を倒され頭が真っ白になったジェリドにMk-IIの敵意が向けられる。Mk-IIは武装のライフルを使いもせずサーベルの出力を上げ目の前のハイザックに迫る。

 

「カミーユ! 止しなさい!」

「戦闘中止だカミーユ! エマ中尉の指示に従え。これは命令だ!」

 

 だが寸前の所でMk-IIの前に一機のハイザックが割り込みその動きを強引に制止させた。直後にエゥーゴの赤いモビルスーツも背後から接近してMk-IIを宥めるように肩に手を置く。

 

「ジェリド、貴方も退きなさい。停戦よ!」

「エマ中尉か! 冗談じゃない、カクリコンがやられたんだぞ!」

「中尉! 小隊の指揮権は私にあります。武器を収め帰投しなさい!」

 

 ハイザックに乗っていたのはジェリドと同じくティターンズ所属の女性士官エマ中尉だった。どうしてここに? と訪ねるよりも何故自分を援護もせず敵を庇うような真似をするのかジェリドは納得がいかなかった。

 だがエマ・シーンとはそう言う軍人だ。優等生を絵に描いたようないちいち鼻に付く面倒くさい女だと陰で馬鹿にされている。本人も薄々気づいてはいるがそれでヒステリーを起こすほど小さくはないが愛想を振り撒くほど可愛げもなかった。

 

「離せ! あいつらを許せるもんか! 殺してやる!!!」

「カミーユ落ち着け! 停戦命令の無視は銃殺刑だぞ」

「ボクは軍人じゃない! 仇を討たせろよォ!」

 

 エマの命令に渋々ながらも従いカクリコンのハイザックを回収してアレキサンドリアへ戻るジェリドに対してその背にライフルを向けるMk-IIにそうはさせまじとエマとクワトロの機体がガッチリと動きを阻んでいる。

 だがモニター越しとは言え目前で母親が惨殺された瞬間を見てしまったのだ16の少女に冷静を保てと言うエマたちの主張は軍人として正論だが大人の傲慢とも言えるものだった。

 

「仕方ないっ カミーユを一旦君に預ける」

「良いのですか?」

 

 このままカミーユを暴れさせれば折角の停戦もなんの意味もなくなってしまう。強引にアーガマへ連れ帰れば重要な軍事機密が詰まった機体をバスクたちがほっとく訳がない。貴重なニュータイプのパイロットをみすみす手放す選択だがエゥーゴを守るためにはクワトロとしても苦渋の決断と言えた。

 

「だがその子を無体に扱えば私は君を許さん」

「ティターンズは軍隊です。民間人を傷つけはしません」

「生憎と信用できんな。君自身がその子の安全を私に保証しろ」

 

 クワトロも極短い間しかエマと接していないがバスクからの親書を読んだ時やカミーユの母親がカプセルに入れられているのを見た時の動揺は本当に信じられないものを見てしまったのと言った素振りであった。それは彼女の本質が心優しい女性である証拠であり同時に軍隊に正義を求めている実直な善人なのだと感じていたからこそカミーユを彼女に預ける選択を取った。

 

 

 だがその選択もカミーユを更なる絶望に突き落とすだけだった。

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