カミーユが女だったら鬱でもニヤニヤできる   作:Fabulous

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誰だ! エマさんの髪型を笑った奴は!?


エマの脱走

 娘がエゥーゴの船から無事に保護されたと聞いたカミーユの父親フランクリン・ビダンは急いで格納庫へと向かった。16の娘がエゥーゴに誘拐されたとバスクから知らされた時は妻と共に青ざめたフランクリンだったがその救出の為とは言え戦闘宙域に進む船に自分達まで強制的に乗り込まさせられたのには大いに不満を抱いていた。だがそれも娘と再び会えるならば些細な事だとこの時ばかりはフランクリンも楽観視してMk-IIの直ぐ真下まで辿り着くが直後、言葉を失う。

 

「人殺し共! ボクに触るな! 触るなー!」

 

 娘との感動の再会はフランクリンの思い描いていたものとは全く違った形となった。カミーユは大勢のティターンズ兵たちによってMk-IIのコックピットから強引に引きずり出されていたのだ。

 

「カミーユ……」

 

 自分の名を聞き慣れた声で呼ばれ顔を上げたカミーユはようやく父がいることに気付き薄暗くせせら嗤いながら安堵とも憎悪とも取れる目付きで睨みつける。

 娘から初めて向けられる本気の感情に言葉が出てこないフランクリンに、今しがた起きた惨状をカミーユが容赦なく告げる。

 

「……母さんが死んだよ」

「えぇ!?」

 

 フランクリンは大きく動揺し驚いた。側で見ていたエマも辛い事実に神妙な面持ちだがカミーユにとって父の振る舞いはどうしても偽善的に見えて仕方がなかった。

 

「そんなに驚くことかな? これで愛人と上手くいくね。マルゲリータって奴とさぁ!」

 

 爆弾発言にその場が凍りついた。

 

 エマはぎょっと目を見開き慌てて気まずそう顔を伏したがその他の動く兵士たちは聞き耳を立てるようにフランクリンを注視した。好奇の目に晒されわなわなと怒りに震える父の顔を見てカミーユはほどよい快感を得た。

 

「怒ったの? なら殴ればいいだろ、母さんにしてるように!」

「止めないか!」

 

 自分に向けて手を振り上げる父を見てカミーユは心底この男が憎いと思った。

 父親は気に入らなければ直ぐに母を殴っていたことをカミーユは知っていた。どんなに両親が夫婦の問題だと子供にひた隠していたとしても分かるものは分かってしまうのが家族である。愛人のこともその一環として知っていたのだ。

 

 だからカミーユは告げてやった。自分がこそこそバレないつもりでやっていた不義理が実は秘密でも何でもなかったことを暴露して、死んでしまった母の怨みを少しでも晴らすつもりだった。だから娘に手を挙げるその目が愛情ではなく激情に任せた自分勝手な暴力であってもショックではなかった。ただ一つ、この男と血縁にあることが強烈に恥ずかしく屈辱だった。

 

(どうしてこんな奴の娘なんだよ……ボクはっ)

 

 来るであろう平手打ちに目を瞑るカミーユだったがその柔らかい頬が張られることはなかった。ジェリドがその振り上げた手を掴んだからだ。

 

「は、離しなさい! 」

「躾にしてはやりすぎではありませんか? フランクリン大尉」 

「親子の間に口を挟まないで貰いたい!」

「奥さんを亡くされて戸惑う気持ちも分かりますが今は状況を考えて貰いたい」

 

 ハッと我に返り辺りを見渡せば周りから多くの非難の目がフランクリンに注がれており掴まれた手をそのまま降ろす他に選択肢はなかった。

 

「……バスク大佐に会ってくる。カミーユ、後で話そう」

「ご協力感謝しますよ。さて……」

 

 フランクリンの背中を見送ったジェリドは改めてカミーユに向き直り全身を眺めた。

 端的に言って素晴らしい美少女だった。どこぞのアイドルなど目じゃない程に整った顔立ちは失礼な話だがとてもあの両親の子とは思えない。美しい青みがかった髪もさることながら何よりその目は硝子細工のように輝き瞳は星を数多内包したコスモのようにジェリドの視線を惹き付けていた。

 

 しかしどう声をかけていいのかジェリドは戸惑った。カミーユの母親はついさっき死んだのだ。それもティターンズの作戦に従ったとは言え相棒であるカクリコンの手によってその命が散らされたことは言い逃れできないことでありその片棒を担いだ己も非難は避けられないと悔いていた。

 普段プライドの高いジェリドは自分の非を易々と認めはしないが、コックピットから泣きながら出てきたカミーユを見てどうしても何かせねばと、衝動に駆られていた。

 

「カミーユ、俺は……」

 

 だがいざ正面切って対面するとジェリドは言い淀みもたついてしまう。カミーユは今まで相手をしてきた女性とは全く訳が違っていたからだ。年の差は勿論ある。しかしカミーユの放つ気配、雰囲気、オーラとでも言うべき非現実的な感覚を目の当たりにすると豊富な経験だと自負する自分がまるで10代の少年のようにただその出で立ちを指を咥えて眺めることしか出来なかった。

 

「お前がカミーユか!」

 

 そうこうしているうちにコックピットから様々な怒りを顔に浮かべるカクリコンがずかずかと二人の間に割り込んできた。

 

「カクリコン止せよ、彼女はいま酷いショックをだな……」

「俺はこの小娘にガンダムMk-IIをオシャカにされたばかりかさっきも殺されかけたんだぞ! どっちの味方だジェリド!?」

 

 憤慨するカクリコンにしてみればそれは至極当然な怒りであった。ジェリドと同じくティターンズのエリートパイロットであるカクリコンの宇宙での初陣は怒り狂うカミーユの駆るガンダムMk-IIによって手痛い物となってしまった。乗機になるはずであったガンダムMk-IIはスクラップ状態にされ命からがら救出された彼を待っていたのはジャマイカンの嫌味ったらしい小言と同僚たちからの侮蔑の目だった。

 ガンダムMk-IIを操縦していたのがエゥーゴのパイロットだったのならまだ言い訳ができた。だがフランクリン大尉の16歳になる娘にやられたとあっては面目どころか今まで積み上げてきた兵士として彼を構成する全てが汚されてしまう結果に彼は今、怒りに燃える一頭の獣なのだ。

 

「お前が……」

 

 だが、怒りに燃える者ならばここにも一人いた。全身の毛が総毛立つかの如き殺意で染め上げられた少女の瞳がそこにはあった。

 

「お前があのハイザックに乗っていたのか!」

「そうだが、こっちはカプセルを撃っただけなのに貴様はいきなり攻撃を───」

「ちくしょう!!!」

 

 怒りの鉄拳がカクリコンの眉間にめり込んだ。少女の拳と油断するなかれ。男に負けぬ為に空手道を学んでいたカミーユの放つ拳はそこいらの男をも悶絶させる威力なのだ。突きを放つ際には威力を増すため床を蹴り上げ不安定な無重力下ですらものともせず正確無比かつ強力な突きは憎き男を吹き飛ばしその体を宙に浮かべた。白い目でくるくると回転する体は意識が抜けきっていることの証明であり辺りを漂う赤い液体はカミーユの怒りの強さを現していた。

 

「カミーユ! 止しなさい! 手錠を嵌められたいの!?」

「いいんだエマ中尉、今のはあいつが悪い。後で俺が医務室に運ぶよ。おい! その子を丁重に扱えよ!」

 

 いよいよ見かねた他の兵士たちに連行されるカミーユをジェリドは心配しつつも会話をする必要がなくなったことに安堵した。今のカミーユにはどんな言い訳も通用はしない。たとえジェリドに非がなかったとしても理屈で納得できるほど今の彼女は穏やかではない。

 

「ジェリド中尉、よくやり返さなかったわね」

 

 エマはカミーユに対する紳士的とも取れるジェリドの対応を素直に称賛していた。それまでのジェリドの印象は自分勝手で傲慢でプライドだけが天井知らずの好ましくない部類の人間だった故に尚更意外であった。

 

「エマ中尉は俺がそんなに残酷な男に見えるか?」

「いいえ、ごめんなさい。でも貴方にあんな命令を出したジャマイカンやバスクのやり方は酷すぎるわ」

「これはこれは、エマ中尉が軍隊批判とは明日は太陽嵐でも吹くかな」

 

 

「……案外、そうかもしれないわね」

 

 冗談を言ったつもりのジェリドに対してエマは沈鬱な表情でガンダムMk-IIを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「攻撃ですか?」

 

 アーガマでの親書受け渡し任務を終えたエマはその足でジャマイカンへ今回の事態の報告をしていた。ガンダムMk-IIのことは当然としてカミーユ・ビダンやエゥーゴに対してはそれなりに温情的な報告を行った。彼女としてはエゥーゴが喧伝されている反地球連邦組織ではなく自分達と同じく地球のことを考える者たちで何かしら和解の道があるのではないかと思い至ったからだったが、ジャマイカンの次なる命令で淡い期待は無情にも切り捨てられる形となった。

 

「そうだ、エゥーゴの戦力は今最も低下している。そこを叩けば沈められよう」

「しかしカミーユ・ビダンとガンダムMk-IIは無事に引き渡され現在は停戦が……」

「停戦などテロリスト相手にはなんの意味もない! これはバスク大佐の厳命だ」

 

 言葉を失うしかなかった。曲がりなりにもこちらの要求を呑んだエゥーゴの船に対して降伏勧告もせずにいきなりモビルスーツ隊を率いて撃沈せよなどとエマを支える軍規が許さない。

 

「無事に成功すれば昇進も約束しよう。中尉はまだ若い、なんなら制服組でも目指すかね? コネは多く繋いだ方がいいぞ」

 

 もはや呆れるしかない物言いに必然、拳を握る力も増す。武功を挙げ報奨を与えれば全て丸く収まると思っているジャマイカンはデリカシー以前の問題だ。バスクやこんな男を据えているティターンズはまるで中世の軍隊擬きにしかエマには見えなかった。

 

 

 

 故にエマはあらゆるしがらみを捨てる覚悟をし、実行に移した。

 

 

 

「さ、カミーユにフランクリン大尉も急いで下さい」

「本当に上手くいくのかね? もし捕まったら……」

「黙ってついて行けばいいでしょう。それともあんたはまたあの狭い部屋に戻りたいんですか」

 

 パイロットスーツに着替え兵士に偽装して一世一代の脱出劇を敢行する最中でも父親の背中を小突き文句を言いながら共に進むカミーユの姿に何だかんだと反発しあいながらも親子なのだとエマは安堵する。

 この段階でエマは収監されているビダン親子を救出するために見張りの兵士を暴行し昏倒させている。軍法会議にかけられれば一切の反論の余地のない凶行であるが仮に計画が失敗しても終身刑や死刑は覚悟の上であった。

 

 それほどまでにティターンズのやり方は彼女の信じていた軍隊の持つ社会的正義を冒涜してしまったのだ。

 

「もうすぐ格納庫よ。フランクリン大尉はモビルスーツの操縦ができますか?」

「私を誰だと思っているのかね。モビルスーツのことはネジ一本まで把握している。自動車より手慣れているよ」

「それを聞いて安心しました。脱出の際はお一人でお願いします。直ぐに動かせる機体はグリーン・ノアから持ってきたガンダムMk-IIの二機しかありませんのでカミーユは私のMk-IIに乗りなさい」

「ボクだって操縦できますよ! それにMk-IIは三機のはずでしょう?」

「貴方がグリーン・ノアで壊したMk-IIはあの後核融合炉に問題が発生して廃棄されたのよ。知らなかった?」

 

 カミーユの駆るガンダムMk-IIの激しい大立回りによって無惨な姿に変えられたカクリコン機はその後ティターンズが改修しようとするも、ミノフスキー・イオネスコ型核融合炉の安定的な核融合を保つミノフスキー粒子の格子が壊れ核爆発寸前のところまで行っていた。そんな危ないものを手元に置く訳にもいかず仕方なくティターンズはカクリコンのガンダムMk-IIを宇宙へパージした後に自爆させ事なきを得ていた。

 

「あれにいくら予算が注ぎ込まれたか。それにモビルスーツの操縦だなんてここは戦場で危ないんだぞ」

「アンタよりは上手く扱えるよっ」

「しっ 黙って!」

 

 自分だけのけ者にされたと感じたカミーユは隠密が大事にも構わず主張する。背後で言い争いを始める親子に先ほどまで微笑ましさを感じていたエマも苛立つ。

 また手を出しかねない両者を咎める為に警戒を怠ってしまった彼女の背後から黒いパイロットスーツに身を包んだジェリドのがやって来るのをカミーユが一番に気づいた。

 

「エマ中尉じゃないか。部下まで連れて早くも部隊長気取りかな?」

「……え、えぇ。ジャマイカンからエゥーゴの船へ攻撃命令がでましたから」 

 

 上ずりそうになる声を理性で抑え平静を装うエマに習いただの部下に徹するカミーユたちだがその素振りはぎこちない。

 平時ならば嫉妬の入り交じった皮肉に気を悪くする所だが今のエマにはそんか余裕はなかった。カミーユたちはパイロットスーツのヘルメットバイザーを閉めているため外側からでは相当近くで目を凝らさなければ中身はバレない。だがそれは注意すれば見えてしまうことと同じでもあるため自然とカミーユたちの挙動は不審なものとなっていた。

 

「それじゃあ私たちは格納庫に行くわ。出撃の為にいろいろあるから」

「……待てよ」

「きゃっ」

 

 床を蹴り重力に沿って足早にその場を離れようとする3人の中で一番後方にいたカミーユはいきなり肩を掴まれつい女性特有の甲高い声を出してしまう。

 

「君、カミーユだろ」

「ち、違う」

「なんのこと? カミーユは収容されているのよ」

 

 精一杯声色を低くしたしゃべり方をしてなんとか誤魔化そうとするカミーユだが幼さを内包した少女の声はそうそう隠せるものではない。エマはホルスターの拳銃をいつでも取り出せるよう身構える。

 

「とぼけるなよ。そのパイロットスーツ、かなりブカブカだ。そんな小さなナリのパイロットはアレキサンドリアにはいない」

 

 ビクッと体を震わせるカミーユに確信がいったようにジェリドは笑った。その答えを合わせようとヘルメットに手を伸ばした瞬間、エマが素早く拳銃を抜く。

 

「そこを退きなさい! 貴方に怪我をさせたくないわ」

「おいおい、バスクに殺されるぞ」

「早く退きなさい!」

 

 おどけるように手を挙げたジェリドだったが自身に向けられる銃口が虚仮威しではないとエマの表情から察し緊張が走る。この緊迫した状況にどうすればいいのか分からず困惑するばかりだがジェリドを撃たないでほしいと心の中で願っている感情にカミーユはまだ気づいてはいなかった。

 

 いつ誰が来るとも知れぬ場所で双方睨み合いが続く中、引き金に掛ける指を引く決断をしたエマだったがジェリドは突如カミーユを掴む手を離しゆっくりと離れていった。

 

「味方に撃たれるのは御免だ。俺は何も見ていない。行けよ」

 

 呆気に取られるカミーユだが直ぐ様当初の脱出を急ぐエマに腕を引かれる。

 

「待て!」

 

 逡巡したように視界から遠ざかるカミーユを振り返りながらジェリドはカミーユを呼び止めた。

 

「お母さんの事は……俺が撃ったんじゃないが……気の毒に思ってるよ」

 

「…………っ」

 

 それはジェリド渾身の謝罪だった。素直にごめんなさいと言えるほど大人でない彼にすればギリギリ言葉にできる譲れる一線、口に出せば卑怯にも思えたがそれだけヒルダの一件では重い罪悪感を引きずっていたのだ。

 

 ジェリドの謝罪に少しでも誠意を感じたのか、それとも更に油を注いだのかは分からない。だがカミーユは振り返らず、誰も見えないバイザーの奥でホロリと涙を溢した。

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