僕のカノジョは厳しい女上司   作:寿垣遥生

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どうして、若手の平社員である信次と営業課課長で彼よりも一回り年上の理絵が付き合うようになったのか…その切欠に迫る!

OPテーマ
『HELLO』
歌:福山雅治

EDテーマ
『Silent tonight』
歌:BiBi(南條愛乃、徳井青空、Pile)


#2 女上司《カノジョ》と付き合うまでの話(前編)

理絵side

 

 今日は土曜日…仕事が休みということで、私の親友(小学校からの同級生)である坂井田美姫《さかいだみき》と2人でカフェにて楽しくお話(もれなく愚痴込みで)している。ちなみに、美姫は元々はトップ女優としてドラマやバラエティーで超人気者だったのだが…5年前、人気絶頂という中で結婚を機に芸能界を突然引退して現在は双子姉弟(4歳)のママだ。

 

「ところで、美姫のところの旦那さんは元気にしてる?」

 

「うーん…どうかしらね?智くんって競輪選手だからさ、家にいないことがほとんどなのよ~。帰ってきても、仕事の話ばかりだし。」

 

 美姫の旦那さんは東京支部を代表するスターレーサーの坂井田智博《さかいだともひろ》選手で、彼と美姫が出会ったのは彼女が競輪番組にて密着取材をしたことが切欠で付き合いが始まり、やがては交際に発展して結婚…という感じで現在に至る。余談だが、彼は美姫よりも6つ年下で好きなタイプも好きな女優も美姫だという筋金入りのファンなのだ。

 

「それよりも、理絵は信次くんと仲良くしてるの?」

 

「ええ。でも、仕事で彼に強く怒っちゃったのよ…それで結構ショックを受けてたわ。私には"鬼上司"のイメージがすっかり板についていたから…周囲の目が気になってしまったの。」

 

「まあ、貴方が専務の娘ってのもあるし…一時期は本当に"鬼上司"だったから、仕方ないかもね。」

 

「もう…結構気にしてるんだからね?あの時の私は黒歴史よ…忘れたい気分だわ。」

 

 そう、私も一時期は専務であるお父さんから『上に立つ者、下を甘やかすことならざるなり』と教わり、本当に"鬼上司"になっていた時期もあった。その結果、新入社員は次々と3ヵ月以内で辞めていき、この事がネットに拡散された末にそれ以降の新入社員からは私が"鬼上司"と噂されるようになってしまった。そうなった以上、一度被った覆面を外すにも外せる訳がない。

 

「ところでさ…気になっていたんだけど、理絵と彼氏くんの出会いってどんな感じだったの?告白はどっちから?」

 

 そういえば、美姫にはまだ話してなかったわね…信ちゃんを初めて彼女に紹介した時は切欠や付き合うまでのストーリーを話すことなく、いきなり『私、彼氏が出来たの!』って自慢話だけしかしていなかった。でも、今さら話すのって…当時の事を思い出すと、ちょっと恥ずかしいな。

 

「いいじゃないの。そんな今さらになって今に至る経緯を話すなんて…あれは恥ずかしかったんだからね?」

 

「お願い!話してくれたら、何でもおごるから、さ♪」

 

「仕方ないわね…それじゃあ、近くのケーキ屋さんのモンブランで手を打ちましょう。文句ないかしら?」

 

「うっ…あそこのは高いけど、分かったわ。」

 

 とりあえず、美姫とはモンブランを条件として過去の話を語ることにした。彼女の顔がどこか青ざめて見えていたのだが、恐らく気のせいだろう。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

~1年前~

 

 あれは昨年の4月の出来事、東京都内にある4社(本社も含む)合同による入社式を終えた次の日に社内の課内で行われた新入社員と社員による面談式にて、私はある一人の新入社員に目をつけていた。

 

「東京の緑山大学経済学部出身、竜源院信次と申します!趣味は読書、営業課の中心となる人間になれるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!」

 

 この青年こそが私の後の彼氏である信ちゃんこと竜源院信次。第一印象としては見た目は爽やかで、可愛さも兼ね備えていて、私の理想のタイプだ。この子を私の弟のように可愛がりたい…なんて思っていた。それに、この子とは昔関わりがあったこともあるしね…

 

「声は出ていたわ。けれど、自己紹介の中身が薄い…営業課の中心になるのは当たり前、なれない人間はゴミ同然だから、覚えておきなさい。」

 

「わ、分かりました…」

 

 しかし、そんなことを公の場で言うことなどできない…私はいつもの鬼上司として立ち振る舞った。彼のしょんぼりした顔を見て気がついたのだ。この子はメンタルが弱い、と…

 

(ごめんね…でも、貴方だけに優しくはできないの。どうか、短期間で辞めないで…)

 

 私も彼の様子を見て、祈ることしかできなかった。ありのままの自分を社内の仲間達に出せないことが辛い…本当に地獄だった。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

 それからしばらく経った日のこと。私はなるべく彼を怒らないように気がけていたのだが、入社してしばらくすれば人間には気持ちの緩みが生じる。そして、信ちゃんにもその時が訪れたのだ。

 

「昨日の阪鉄と売売の試合は熱くなったな~!」

 

「稲田も観てたんだね。僕も観てたよ!最後に4番のゴリラ松木の逆転サヨナラ満塁ホームランがもう最高だったなぁ…それも地上波の放送終了2分前だったからね。」

 

「いやぁ、まさか昨年のセーブ王で防御率0.00の珠川玉次郎が2アウトで勝利まで1ストライクという場面であの一発を打たれるとは…信じられへんけど、ゴリラはホンマに凄いで!ウチの阪鉄にFAで来てくれへんかな?」

 

 信ちゃんは大阪から来た新入社員の稲田くんと早速仲良くなっていた…お互いにプロ野球の話題で共感しあったことが切欠である。好きな球団はライバル同士ではあるが、まるで磁石のS極とN極のように凄く良好な関係なのはいいことだ。しかし、仕事中の不要な私語はルール違反である。ここは不本意だけど…仕方ない。

 

「そこ!不要な私語は慎めって説明しなかったかしら?口じゃなく手を動かしなさい!!」

 

「「は、はい!」」

 

 稲田くんと信ちゃんは私からの喝が効いたのか、真面目に定時まで目の前の仕事に向き合ったのだが、それ以降の信ちゃんの表情が今にも泣きそうな感じに見えた気がしたのは私だけなのだろうか…私は心の中で『ごめんね』と謝るのであった。

 

「お先に失礼します。それと、今日は申し訳ありませんでした…」

 

「次からは気をつけなさい、お疲れ。」

 

 定時を迎え、社員が続々と帰っていく中で信ちゃんも私に一言謝ってオフィスを去っていった。ただでさえメンタルが弱いのだから、近いうちに会社を辞めてしまうのではないか…そんな不安が頭を過っていたのだ。

 

(信ちゃんを助けたい…でも、彼だけを甘やかすことなんてできない。どうすればいいのかしら?)

 

 私は自分の不器用さに頭を悩ませた。社員を誰か一人でもひいきをしたら、それこそ本当の"最悪な上司"になってしまう…いくらお父さんとはいえ、流石にそうなったら私がクビになるのは必至だ。でも、信ちゃんのことを守りたい…その瀬戸際に私は立たされていた。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

 その翌日、ついに私はやってしまったのだ…この日は信ちゃんは終始集中力が無い状態で、仕事中もどこか上の空…という雰囲気だった。

 

「竜源院、一昨日の取引先に出した書類に記入漏れがあるとクレームがあったぞ!ちゃんと確認したのか!?」

 

「えっ、ちゃんと確認したのですが…」

 

「口答えすんな!書類にはお前の名前があるって状況で、確認したもクソもねえんだよ!!」

 

「…」

 

 信ちゃんは先輩社員が説教をしているにも関わらず、その人と目を合わそうとせずにどこかダルそうにしている。それに、表情からも覇気を全く感じない…これは明らかな異常だ。

 

「てめえ、人の話を聞いてるのか!!」

 

「とりあえず、落ち着いて!この件については私が何とかするから…貴方は仕事に戻りなさい。」

 

「分かりました…」

 

 説教をしていた社員が信ちゃんの胸ぐらを掴み、怒りを露にしていたところで私は二人の間に入って、ひとまず落ち着かせる。

 

「竜源院、貴方ね…入社してもう1ヶ月経つのよ?確かに、仕事に多少のミスがあるのは仕方ないことだけど…それを相談しないってのはどうかと思うわよ?」

 

「そうですね…」

 

 私もどういう状況なのかはいまいち掴めていなかったので、周囲がミスした時と同じように厳しめな口調で事情を訊ねてみることにした。

 

「それで、あの書類は自宅で記入したの?」

 

「…」

 

「何故黙ってるのかしら…私の質問に答えなさい!」

 

「あ…あの…」

 

 しかし、信ちゃんは私の質問に答えようとするもぼそぼそと声が小さくて聞き取れない。まるで私をバカにしてるかのようにも感じられ、怒りがこみ上げた。そして…

 

バシッ

 

 私は信ちゃんの頬を思いっきりビンタしてしまい、叩かれた彼は糸の切れた人形のようにバタリと倒れた。

 

「私をバカにしてるのかしら?仕事もミスして、人とも話もできない社員はウチには不要よ。すぐに出ていきなさい!!」

 

 最早、この時の私に冷静さはなかった。本心にもない言葉を信ちゃんにぶつけてしまい、彼を本気で叩いてしまった…罪悪感が頭を過る。

 

「ちょっと病院に行ってきます…」

 

 信ちゃんはゆっくりと立ち上がり、そのまま病院に行ったきり戻ってくることはなかった。その後、同期の稲田くんを通して早退の連絡があったのだ…本当に彼は辞めてしまうのではないか、とその日の午後はずっと不安になった。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

 それから、信ちゃんはおよそ1週間会社を休んだ。原因はインフルエンザとのこと…彼も最初は風邪だと思っていたのだが、病院に行ってみたらそういう風な診断結果だと話してくれた。もちろん、理由を話さずに黙って病院に行ってしまったことも謝ってくれたのだが…仕事どころか日常生活にまで支障を与えるレベルまでに悪化していたあの状態だと会話の余裕すらないはずだから仕方ない。

 

「それでは、ごゆっくり。」

 

 そんな復帰初日ではあったが、私は信ちゃんをお食事に誘い仕事についての話を聞くことにした。

 

「ねえ、仕事は楽しい?」

 

「仕事ですか…正直、辛いですよ。先輩方が結構厳しいですし、他の部署の方とも話す機会が多いですし…営業課って僕が思っていた以上に大変なんですね。」

 

「そう。それで、一つ訊きたいことがあるのだけれど…竜源院くんは私の事をどう思ってる?」

 

「なっ!?」

 

信ちゃんはいきなり、私の顔を見て驚く。異性としてと勘違いしたのだろうか…いずれにしても、信ちゃんからしての私の印象がどうしても気になって訊ねてみた。

 

「どうしてそんなに驚くの?」

 

「いえ、何でもありません…それで、僕から見た課長の印象でしょうか?」

 

「そうね。どう思ってるのかしら?」

 

「そうですね、最初の印象としては怒らせたら怖いなと思ってましたけど…しばらく一緒にお仕事をさせていただいて、社員思いの素晴らしい上司だと今は感じています。それに、綺麗なお姉さんみたいな感じで素敵なお方だとも思いました。」

 

「そ、そう…」

 

 信ちゃんから褒められた私は、恥ずかしくなって照れてしまう。こんな感じで面と向かって褒められたことはないからね…それに、こんな面と向かって『綺麗』と言われるのは結構恥ずかしい。

 

「それに、僕…貴方のようなお姉さんに小さい時に会ったことがあります。だからかな?課長を見ていると、懐かしい気持ちになるんですよね。だから、僕は貴方を見ているとドキドキすると言うか…」

 

「えっ!?」

 

 彼はさらに自分のことを続けて話す。どうやら、『あの時』の事を信ちゃんは忘れていなかったみたいだ。

 

「すみません…本人を目の前に何ということを言ってしまったのだろう。もしかして、引きましたか?」

 

「大丈夫よ。むしろ、貴方には感謝してる…ありがとう、気持ちが楽になったわ。」

 

 信ちゃんのおかげもあって、私は気持ちが楽になって、全てのことを話せる勇気が出た…ありのままの私の事も、何もかも。

 

「私、仕事中はかなり厳しくて時折みんなに酷いことを言っちゃうけど…実は専務である私のお父さんから厳しく言われてね…このままみんなから恐れられるべきか本当の自分としてみんなと接していけばいいのか分からないの。」

 

「…」

 

 私は、信ちゃんに自分の過去を話した。理解してくれたかどうかは定かではないが、聞いている彼は無言ながらも真剣な表情をして頷いている。

 

「竜源院くんはどうすればいいと思うのかしら?」

 

「そうですね、僕の意見としては…仕事中は今のままでいいと思います。でも、仕事が終わってからはありのままの自分として接してみてはいかがでしょうか?」

 

「ありのまま…」

 

「はい。怒る時は厳しくでいいかもしれません…でも、たまにはありのままの自分を出してみるのはいかがでしょうか?僕が言える立場じゃないんですけど、ハハハッ…」

 

 刹那、私は信ちゃんの笑顔にキュンときた。この時からかしらね…私が彼に恋をしたのは。

 

「ありがとう!貴方の意見、参考にさせてもらうわね。そうだ…明日はお仕事休みだから、どこか二人でお出かけしないかしら?」

 

「お出かけですか。僕も明日は予定は空いているのですが…って、ええっ!?」

 

 私がお礼としてお出かけに誘った瞬間、信ちゃんは大きな声で驚く。

 

「何を驚いているのかしら?」

 

「いや、驚くも何も…それってデートじゃないですか!僕のような新入社員に課長の相手は務まりませんよ。」

 

「私がいいって言ってるの!それに、私が貴方のことをもっと知りたいってのもあるわ。だから、ね?」

 

「分かりました。僕ももっと課長のことを知りたいです…だから、是非ともご一緒させてください。」

 

 そういう訳で、私は信ちゃんと真剣に初めて話したこの日に初デートの約束をした。誘うにはちょっと早いかもしれないけど、可愛くてかっこいい信ちゃんだから誘いたくなったのかもしれない。本当に不思議な存在ね…昔も、そして今も。

 

後編に続く

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