僕のカノジョは厳しい女上司   作:寿垣遥生

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夏祭り…あの日、信次はある人物と出会っていた。

その人のことは今も忘れらない…お互いに、いつまでも。

OPテーマ
『願いを呼ぶ季節』
歌:TOKINE

EDテーマ
『打上花火』
歌:DAOKO×米津玄師


#9 夏祭りのお姉さん(前編)

信次side

 

 どうも、竜源院信次です。学生達にとっては夏休みという中ですが、今日も社会人の僕らは暑い中働いています…

 

「信次、ウチにこんなのが届いたんやけどさ…」

 

 そんな中、稲田が1枚のポスターを僕に見せてくる。どうやらこの地域で明日行われる夏祭りのポスターのようだ…

 

「もうそんな季節か…昨年はクレーム対応で忙しかったから行けなかったよね。」

 

「そうやったな。東京の夏祭りがどんなヤツなのか見てみたいもんやで!岸和田とどっちがよりワッショイしてるか楽しみやわ…」

 

「二人とも、随分楽しそうね~。」

 

 すると、僕らの背後から理絵さんがいきなり声をかけてくる。

 

「理絵さん!?」

 

「か、課長…俺ら、別にサボってませんよ?口も手も動かしてました!」

 

「ふーん…でも、稲田くんが手に持ってるポスターは何かしら?」

 

「うっ!?」

 

 稲田は懸命に誤魔化そうとするも、あえなくポスターまでもを背後に隠すことができずに理絵さんにバレてしまった。

 

「へぇ~、夏祭りか…懐かしいわね。私も社会人になるまでは毎年友達と一緒に行ってたわ…」

 

「友達と言いますと…美姫さんですか?」

 

「ううん、美姫とは小学校を卒業してからは全然行ってないの。別のお友達とは毎年一緒に行っていたけどね…」

 

 そっか、美姫さんは中学に入ってから芸能活動を始められたからね…

 

「その美姫さんって人が誰なのかは置いといて、その祭りって楽しいんですか?明日休みなんで、俺も行こうと思ってるんすけど…東京の夏祭りって初めてなんで、よく分からないんですわ。」

 

「そうね。ウチの祭りのオススメはグランドフィナーレの打ち上げ花火じゃないかしら?会場で見るも良し、都会の街並みを背景にして見るも良しって感じで凄く綺麗よ。」

 

「ホンマですか!?ますます行きとうなったわ!」

 

 確かに、あの花火は綺麗だよな…毎年江戸の代から続く老舗の花火屋が揃いも揃って個性豊かな打ち上げ花火を作ってはこの夏祭りに持ち込んでくるからね。それだけに、見る側にとっても最高の花火大会ではないだろうか…

 

「でも、仕事はサボっちゃダメだからね?」

 

「「はい…」」

 

「そうそう…信ちゃん、明日のお祭り一緒に行かない?」

 

「は、はい!」

 

「ふふっ、楽しみにしてるわね♪」

 

 こうして…明日は理絵さんとのデートに決まり、僕はワクワクした気持ちでこの後の仕事に臨む。隣の稲田の視線は怖いが、明日が凄く楽しみだ!

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

~翌日~

 

 時刻は夕方の5時、僕は待ち合わせ場所である会場前で理絵さんを待つ。今日は久しぶりの夏祭りということで2年ぶりにグレーの浴衣に袖を通したのだが、やっぱりこの日と来たらこの格好じゃないとね!

 

「お待たせ!」

 

すると、カツカツと急ぐような足音が聞こえて目の前の女性が僕を見て手を振りながら向かってくる。そう、理絵さんだ…

 

「いやぁ、待ち合わせの時間になっても来ないな~って思って心配しましたよ。」

 

「ごめん、髪型とか浴衣とかセットが忙しくて遅れちゃった…どう、似合ってるかな?」

 

 そう言われてみると…彼女が着ている水色の浴衣は理絵さんのイメージに合っており、髪型も長い髪をまとめ上げていて、いつもよりもさらに大人な雰囲気が醸し出されていた。こういう『和』の彼女も凄く素敵であるが、それと同時にどこか懐かしい雰囲気も出ている…まるで、僕が小さい頃に会った『あのお姉さん』のように。

 

「似合ってますよ。凄く…可愛いです。」

 

「ありがとう。信ちゃんの浴衣もシンプルだけど、男らしくて素敵だよ♪」

 

「ど、どうも…」

 

 しかし、こうも素直に浴衣を褒められると照れるもんだな…僕はろくに褒められるようなデザインじゃないからね。

 

「じゃあ、早速行きましょうか。ここで立ち話するのもアレなので…」

 

「そうね。」

 

 とりあえず、僕は照れ隠しという意味合いもあって理絵さんと一緒に会場へと向かうことにした。

 

「ところで、理絵さんってこの祭りにはよく来られてたんですか?」

 

「ええ、お父さんのお父さん…私のおじいちゃんがこの祭りの実行委員長だったから、その縁があって小さい時はおじいちゃんからよくお小遣いを貰って金魚すくいやヨーヨー釣りもやったし、たこ焼きや焼きとうもろこしを食べたりしたわね。」

 

「なるほど、もしかしたらお互いにどこかで会っていたかもしれませんね。昔の理絵さんに会ってみたかったなぁ…」

 

「…」

 

 僕が何となく独り言を呟くと、それを耳にしたか否かは不明だが、理絵さんが突然俯いてしまう。何か悪いことでも言ってしまったのだろうか…

 

「あの、理絵さん…?」

 

「信ちゃん、実は…」

 

「?」

 

「いや、何でもないわ。」

 

 彼女は何かを言いたげにしていたが、僕の顔を見て躊躇してしまう。ちょっと様子がおかしい感じもするが、ひとまずその件に関しては触れないようにした…

 

「久しぶりね。」

 

 それから会場に入ると、そこには沢山の人達が川のように流れていた。年に一度の地域を挙げての祭りだからね…誰もが心待ちにしていたことだろう。

 

「ええ、こうやって誰かと祭りに行くのは久しぶりですよ。」

 

「そうじゃなくて、あの…「やっほー!」…美姫!?」

 

「俺もいますよ!」

 

 理絵さんがまた何かを言おうとすると、丁度そのタイミングで美姫さんと萌奈ちゃんと悠真くんを連れた夫の坂井田選手が声をかけてきた。

 

「美姫さんと坂井田さん…お二人もお祭りですか?」

 

「ええ、俺も丁度大会を終えたところでね…家族みんなでお祭りって訳ですよ。」

 

「そうそう、智くんね…大きな大会を優勝したのよ!その写真がこれ♪」

 

 美姫さんは懐からスマホを取り出して、1枚の写真を見せてくる。そこにはトロフィーと小切手を持って笑顔の坂井田選手と抱きつく美姫さんが笑顔で写っていた。

 

「へぇ~、これってどういう大会なの?」

 

「松戸のサマーナイトフェスティバルです。お陰様でやっとG2初優勝ですよ、ここまで長かったぁ…」

 

「G2ってことはG1の次に大きい大会ですよね!?おめでとうございます!」

 

「あざっす!これもみんな関東の仲間と美姫たんのお陰ですよ。」

 

「もう、智くんったら♪」

 

 僕は坂井田選手と握手を交わす。デビューから8年、才能がありながらこういう大きなレースを勝てずに苦労を積み重ねてきたのはあまり競輪を見ない僕でもよく分かる。それだけに、今回の優勝は格別なものになるはずだ…

 

「それで、次はオールスターですよね?」

 

「ええ、次はドリームレースからスタートなので…まずは無様な走りをせずにシャイニングスター賞(ここに進めば無条件で準決勝進出が決まる)に進んで、あとは余裕を持って優勝に向かっていければと思います!」

 

「なんかインタビューみたいになったけど…まあ、いいや。それで、お二人さんもお祭りでしょ?何なら、私達と一緒に回らない?」

 

「いいですね。理絵さんも美姫さんと久しぶりに回れる訳ですから…その機会を活かしましょう!」

 

「う、うん…」

 

 やっぱり、今日の理絵さんの様子がおかしい…何かを言いたげではあるが、言い出せない状況である。

 

「決まりね、それじゃあ行きましょう♪」

 

「「オー!」」

 

「オー…」

 

 こうして、僕達の夏祭りは幕を開けた。ちょっと不安はあるけども…

 

「パパ、あれやりたーい!」

 

「やりたーい♪」

 

 会場に入ると早速、悠真くんと萌奈ちゃんがある場所を指差す。その先にあるのは金魚すくい…子供だったら誰だって一度はやったことあるお店だ。

 

「おっ、金魚すくいだな…信次さん、寄って行きましょうか!」

 

「ですね。理絵さんと美姫さんはどうしますか?」

 

「私はパスするわ。理絵もそうでしょ?」

 

「えっ、あっ…うん。」

 

 大人の女性二名も誘ってみたが、ここは遠慮されてしまう。昔からそうだけど、金魚すくいってあまり女の子はやらないものなんだね…女の子ってどちらかと言えば射的なんだよな。(意外にも)

 

「いらっしゃい!」

 

「すみません、俺と子供二人とこの人の分をお願いします。」

 

「坂井田さん、それは悪いですよ…自分のはちゃんと払いますから!」

 

「いいっすよ…こういう大きなレースを勝った時ぐらい大盤振る舞いさせてください!そうでないと、親友として俺の立場がないですからね。」

 

「分かりました。そこまで言うのなら、お言葉に甘えさせていただきます…」

 

 こうして、金魚すくいの料金400円(一人一回100円)は坂井田選手が負担することになった。

 

「パパ~…」

 

「全然取れないよ~。」

 

 まずは悠真くんと萌奈ちゃんがやってみるものの初めての金魚すくいってこともあってポイが破けてしまった…こうなるとは大体予想はついていたけどね。

 

「どれ、パパに貸してみな!俺が長年鍛えた金魚すくいの技術を見せてやるぜ!!」

 

ビリッ

 

「残念、破れちゃったねぇ…」

 

 張り切って坂井田選手は父親らしいお手本を見せようとするも、その気合いが空回りして見事にポイが破れてしまうのであった…

 

「「パパカッコ悪い…」」

 

「ハハハ…ポイが頑丈じゃないせいだよ。いつもはこんな破れやすくないのにな…」

 

 坂井田選手は負け惜しみのごとく言い訳の言葉を並べていく。仕方ない、ここは僕が敵討ちということでやるしかなさそうだ…昔から金魚すくいは自分で言うのもアレだが凄く得意で、周りの友人も僕のテクニックにみんなが舌を巻くぐらいのテクニックは持っていると自負できる。(あくまでも金魚すくいの方だけど…)

 

「さあ、次はそこのお兄ちゃんだ!自信はどうだい?」

 

「あります!」

 

 そして、僕はポイを構えて金魚に立ち向かう。一見すれば簡単に泳いでいて楽勝ムードを漂わせているようにも感じるが、それ故に焦りが出て大方は失敗するのがオチである。しかし、僕は小さい時に金魚すくいのコツをあの時のお姉さんから教わったことにより僕は金魚すくいの技術が格段に上がり、友人も舌を巻くぐらいのセンスを身に付けたんだ。もう何も怖くない!

 

(お姉さんは教えてくれた…『泳いでいる金魚の中には弱っている金魚もいる』と!その金魚は…)

 

 ちょうどその時、他の金魚よりも一際弱っている赤くて大きな金魚が目に映る。

 

「それだああああッ!!」

 

それに狙いを定めた僕は渾身の一発で掬い上げる。結果、ポイは破れることなく大物をゲットすることに成功した。見たか、これが僕の実力だ!

 

「凄ぇ…あんた、一体何者なんだ?」

 

「通りすがりの営業マンですよ。」

 

「そりゃあ恐れ入ったね…ほら、金魚とたこ焼き無料引換券だ。楽しんできなよ…」

 

 そして、お店のおじさんから手渡されたのは先ほどゲットした金魚と近くにあるたこ焼きの屋台で使える無料引換券である。

 

「ありがとうございます。それじゃあ、理絵さん…たこ焼き屋に行きましょうか!」

 

「そうね、夏祭りと言えばやっぱりこれじゃないと!」

 

「信次さん、それ下さいよぉ~。俺だってたこ焼き大好きなんですから…」

 

「智くんは自分のお金で買いなさい♪」

 

「はーい…」

 

 僕達は次にたこ焼き屋の屋台へと向かう。その道中、僕は理絵さんと並んで歩いている訳だが…何だか不思議と懐かしい気分になる。この感情は一体、何なのだろうか…昔にもこういう場面があった気がする。右も左も分からなかった子供の時、迷子になった僕はお姉さんと一緒にこの祭りの会場を回って楽しんでいた…歩いている時も常にそのお姉さんと一緒である。そして、今も僕は彼女と手を繋いで歩いているのだ…

 

「どうしたの、信ちゃん?」

 

「いえ、別に何も…」

 

「変な信ちゃんね…あっ、この引換券が使えるのってこの店じゃない?」

 

 しばらく歩くと、そこには引換券が使える『~関西名物~ ガンちゃんのまいどたこ焼き』という名のたこ焼き屋の屋台があった。このお店も何か懐かしい感じがする…これって僕だけなのだろうか?

 

「すみません…って、何でお前がいるんだ!?」

 

 僕が先陣を切ってお店の人に声をかけると、そこには稲田の姿があった。

 

「よう、信次!実はな…店長である岩田のおっちゃんがぎっくり腰でたこ焼き作れんくなってもうてな…それで、大阪時代の常連だった俺に『茂ちゃんやったらワシの代わりはやれる!』と言われたんや。」

 

「大阪って…この店ってそんなに有名なのか?」

 

「ああ、ガンちゃんは岸和田に本店があってな…これが全国で五本の指に入るぐらいに美味いたこ焼き屋としてめっちゃ有名なんやで?今は息子さんに岸和田の本店は譲りはったけど、この東京では創設者である岩田のおっちゃんがバリバリで作ってはって、今回は昔からの常連やった俺にレシピを譲ってくださって現在に至るって訳なんよ。」

 

 なるほど、五本の指に入る美味しいたこ焼きね…そこの常連にしてレシピを手中に納めている稲田が作るのだから、これは期待できそうである。

 

「なるほど。じゃあ、早速美姫さんと坂井田選手の分を作ってくれないか?お子さんもいることだし、お願いするよ。」

 

「ええっ!?美姫さんって…あの伝説の女優である沢峰美姫さんのことやったんか!」

 

「まあ、今は坂井田だけど…君が稲田くんね?理絵から聞いているわよ、佐倉工房のムードメーカーとして活躍してるんだってね?応援してるわよ♪」

 

「あざっす!それじゃあ、気合い入れて作りますわ♪」

 

 そして、稲田はたこ焼きの素を型に流し込んでからたこを素早く入れていく。この立ち振舞いはまさにプロと遜色ないものである…

 

「それで、信次はどないするん?」

 

「ああ、僕の分は引換券を使って理絵さんの分は…「私達は1パックでお願いね。」…えっ!?」

 

「いやいや、一人前じゃ足らんでしょう!?もう1パック買っておいた方がええと思いますよ?」

 

「そうですよ!もう1パックのお金は僕が払いますから…」

 

「私が1パックでいいと言ってるの!上司の言うことは聞きなさい?」

 

「「はい…」」

 

 こういう時だけ上司として振る舞うなんて、理絵さんはズルい人だ…何がしたいのかはある程度は察している。でも、僕だって彼氏としてかっこいいところは見せたいところだ…せめてこの場面だけでもそういう一面をアピールしたかったよ。

 

「まずは美姫さん達の分っすね。ご家族みんなでお召し上がりください!」

 

「ありがとう、稲田くん。」

 

「あざっす!」

 

「そして、これが課長と信次の分…でええんか?」

 

「ああ…」

 

 こうして、それぞれの分のたこ焼きが出来上がる。美姫さんの方は旦那の坂井田選手、悠真くん、萌奈ちゃんも含め4人で二人前、僕の方は理絵さんと2人で一人前を分けることになった…あっちは人数がいることもあるし、こうやって家族みんなで仲良くたこ焼きを食べてるところを見てると本当に羨ましい。

 

「それじゃあ、私達も食べましょう♪」

 

「ええ…」

 

 すると、理絵さんは何を思ったかつまようじに刺したたこ焼きをいきなり僕の前に差し出す。やっぱりこのシチュエーションだったか…理絵さんは平気そうな感じではあるが、僕は凄く恥ずかしい。いい年頃でこんな所謂バカップルみたいなことはしたくないのだが、仮にも上司である彼女には逆らえなさそうだ…

 

「はい、あーんして?」

 

「あーん…」

 

 僕は理絵さんの息で冷まされたたこ焼きを食べる。そういえば、小さい時の僕もこういうシチュエーションがあった記憶がある…一回り年上のお姉さんからこうやってたこ焼きを食べさせてもらっていた。その時の理絵さんはまさにあのお姉さんのような感じである…実に不思議な感覚だ。

 

「美味しい?」

 

「はい…とっても。」

 

 しかし、たこ焼きは相も変わらず…いや、いつも以上に美味しかった。少々の恥ずかしさもあるが、それ以上にカノジョがいるという幸せの方が大きいので特には緊張しない。

 

「ちょっと動かないで?ほっぺにソースがついてるわ…」

 

「えっ!?」

 

 前言撤回、僕は凄く緊張しています。何しろこういうことをしてもらうのは大人になってからは初めてだからね…

 

「信ちゃんって本当に可愛いね…こういうところは♪」

 

「参りましたね。理絵さんには敵わないですよ、ハハハッ…」

 

 こういったムードで僕達はたこ焼きを二人で全部食べきった。理絵さんに関しては自分で食べているので結果的には不公平だが、僕だけが恥ずかしい目に遭ったのは言うまでもない。

 

「それじゃあ、私達はそろそろ帰るわね。ウチの御兄妹がお眠だから…」

 

「今日はありがとうございました。俺、オールスター頑張るんで応援よろしくお願いします!」

 

 そして、坂井田夫妻は寝てしまった悠真くんと萌奈ちゃんを坂井田選手が背負う形で会場を後にした。

 

「それじゃあ、二人きりになったから花火がよく見える場所に行きましょ♪」

 

「よく見える場所…ですか?」

 

「それはついてきてみれば分かるわ。きっと信ちゃんが懐かしいと思うんじゃないかしら?」

 

 そう言って理絵さんは出口とは反対側の方向へと歩いていく。一体どこへ向かうと言うのだろうか…そして、懐かしいと思うの意味とは?

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「さて、ここが私達の特等席よ。そのベンチに座ってくれる?」

 

「はい…」

 

 僕は理絵さんに言われるがままに森の中にあるベンチに隣り合わせで腰かける。この場所は会場よりも幾分高台にあるが、誰も立ち寄らないこともあり祭りに来た際は毎年ここで花火を見るのが最大の楽しみだった…しかし、何故に彼女はその秘密の場所を知っているのか?そこが謎で仕方ない。

 

「理絵さん、どうしてこの場所を知ってるんですか?ここは僕と学生時代の友人しか知らないはずなのに…」

 

「えっ!?何を言ってるの…昔、私と一緒にここで花火を見たでしょ?」

 

 彼女は一体何を言ってるのだろうか?そんな記憶はどこを辿っても存在しない…それ以前に僕は彼女と昔会った記憶がないのだ。

 

「それじゃあ、これを見れば思い出してくれるかな?」

 

「は、はい…」

 

 混乱している中、理絵さんは僕にある一枚の写真を渡す。

 

(この写真は…まさか!?)

 

それは僕が5歳の時の夏祭りに撮られた写真だった。この時は迷子になっていたところを一人のお姉さんに助けられ、その人と楽しく遊んだ後に撮られた写真なのだが…これを持っているのは僕とそのお姉さんだけである。思えば、彼女の名前も"りえ"で今の彼女が着ている浴衣も当時のものそのものだ…

 

「思い出してくれた?」

 

「ええ、でも…少々驚いてます。まさかあのお姉さんが理絵さんだったなんて…」

 

 僕は全てを思い出した。この場所は僕だけが知ってる秘密の花火スポットじゃなくて、あのお姉さん…理絵さんから教えられた場所であることも。

 

「そうね。まさかあの泣き虫な男の子が私の部下として再会するなんて私も考えてなかったわ…だけど、どんな形でもまた君に会えて私は嬉しいよ。」

 

「理絵さん…」

 

「信ちゃん…」

 

 そして、僕達は夏の夜空の下でお互い静かに見つめ合うのであった。もしかしたら、あの昔からこういう関係になるのは運命だったのかも…そう考えると、本当に素晴らしい話だと心から思う。

 

続く




とりあえず、平成最後の日に中途半端な感じではありますが投稿できました。

しかし、まだ肝心の後編はエブリスタですら完成していないので…令和になってもいつ次をこちらで投稿できるかは分かりませんが、もうしばらくお待ちください。

それでは、皆様にとって明日(5/1)から始まる令和が幸せであるように心からお祈りいたします!
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