カルネ村に転生!   作:ビビリア

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少しは読みやすくなってると良いのですが。


3話

ブンッ!ブンッ!シュッ!

山々の隙間から朝日が昇り、いく筋もの光がまだ残る夜を引き裂く。月が光を失うのと反比例して、剣先の輝きは増していった。

 

朝霧の降りる、まだ肌寒い村の広場で、上半身裸の5歳ほどの少年は、しかし、その身体から湯気を上げていた。

唐竹、横薙ぎ、袈裟懸け、突き、逆袈裟懸け、次々とくりだされる剣撃はー本来ならば鉄の剣に振り回されてもおかしくない体格であるにもかかわらずー洗練されており、1つの踊りのように途切れなく続く。少し剣をかじった程度の人間では視認することすらできない剣速。それを2時間休みなく、体に一切のブレなく行えることは、少年が既に剣士として達人の域にあることの証左であった。

 

「よし、こんなもんかな。」

 

彼の愛剣『龍翔』(なんとなく自分でつけた)を鞘に収め、稽古により生じた大量の汗とこもった熱を拭うために井戸へと向かう。

村の朝は早い。この時間になると、家々の煙突からは煙が立ち上り、朝食の準備をする女性達が忙しそうに動いている。

 

「今日も稽古かい?頼もしいね。うちのバカ旦那にも見習って欲しいもんだ。アディの何倍生きてると思ったんだか…、」

 

1人の女性ー年齢は40代前半といったところだろうかーがアディに話しかける。

 

「いやいや、僕は農作業の手伝いもほとんどしてないし。

好きなことやってるだけだから。おじさんを悪く言わないであげて。」

 

アディは気まずそうな頰を掻くが、その年齢の割に大人びた対応に女性は感心していた。

 

「今度うちの息子にでも教えてくれないかい?」

 

「もちろん。僕でよければいつでも。」

 

そういって女性と別れ、井戸から水を汲むと、ガバッと頭からかぶった。身体中の汗が流れて、足元に小さな水溜まりが出来る。

 

「ふー、スッキリした。」

 

こうしてカルネ村の朝は始まる。いつもと変わらない、清々しい朝だ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「アディ!朝ごはんできたわよ!」

 

「うん!今行く!」

 

母の声に努めて元気に応えて食卓に向かう。

この世界の村、いや他の村は知らないが、カルネ村の人々の食事は実に質素だ。

 

まぁ王国だし?9公1民みたいな馬鹿げた税率だから仕方ない部分はあるのだが。卵かけご飯とか、味噌汁とか、納豆とかさ、まぁ元日本人としては朝はそーいうの食べたくなるんですよ。

 

とは言ってもそんなものがあるはずもない。パサパサでガチガチのパン半分と具のほとんどないスープ、あと漬物みたいなのがつくこともあるが、まぁそんなもんだ。食後のコーヒーとかそんな優雅なものもない。三食食えるだけ良いと思うけど、ちゃんと身長伸びるかな?チビは嫌なんだけど。

 

とりあえずタンパク質に関しては、自分で獣を狩ってこよう。村の猟師のおすそ分けなんて待ってられないからね。俺は食べ盛りなのだ!

 

それよりも、今夜からリグリット師匠による修行が始まる。何日やってもらえるのかはわからない。もしかしたら今日限りかもしれないのだ。全てを吸収して少しでも強くならなければなるまい。今から楽しみだ。

 

「アディ。何かいい事でもあったのか?エンリちゃんに告白でもされたか?」

 

父の言葉に一瞬ドキリとしつつ、表情には出さないよう当たって冷静に応える

 

「あはは、そんなことあったらいいんだけど、残念ながら違うよ。今日は剣の調子が良かったんだ。なんかこう、また一歩上達した気がしてね。」

 

嘘ではない。今日の稽古では袈裟懸けからの横薙ぎに移る動作をより無駄なくできるようになった。1人稽古で見つける自分の動きの改善点は、その剣士の宝となるのだが、だからこそ、そうそう見つけられるものではない。

 

大抵は決められた型を習い、それを体に覚えさせるのでーたとえ自分にとって最善の動きでなくてもー生涯その型通りに剣を振るのだ。

 

また、師を持たずに我流で剣を振っていたとしても、効率化された

「型」を超える『型』を自ら産み出せるものは極僅かである。

その上、これに辿り着いたのが20を超えない頃であるというのは、彼を置いて他にいないだろう。

 

ただ、彼は自分の才能の非凡さにまだ気づいていなかった。

それはそう、彼の場合、毎回の稽古でこの改善を行なっているのだから。

 

「なーんだ。またそんな事だったのか。剣のことはよく分からんが、まぁ楽しいならいいやな!」

 

「全くアディったら、ほんとに剣のことかエンリちゃんのことしか興味ないのね!うちの子はなんになるのかしら、王宮の騎士様とか?」

 

両親の認識としては、小さいうちは家のことなんて気にしないで、好きなことをさせてあげよう。という程度のものであり、そのうち飽きるのでは、とさえ思っていた。

 

三つ子の魂百まで、とは言っても、5歳そこらの頃の気持ちを一生持ち続けるものはほぼいない。僕ウルトラマンになる!というセリフを20歳で言ってるやつは相当危ない奴である。つまりはそう、微笑ましいものを見る目、というやつである。

 

「ハハッ!それは大出世だな!もっといい剣を買ってやらんと。あぁそうだ!鎧も必要だな、王宮で息子がバカにされてはたまらん!」

 

しかしこの5歳児は、精神年齢的にはとっくに三十路を過ぎた、いい大人であった。

 

「母さん?王宮に入れるような騎士様には、農民出身じゃあ逆立ちしたってなれないんでしょ?父さんも、俺はこの龍翔に満足してるし、5歳児に合う鎧なんてなくない?あったとしても、すぐきれなくなるからお金がもったいないよ。」

 

「「…………」」

 

幼い息子に至極もっとな正論で言いくるめられ、2人はなんとも言えない気持ちになった。

先に沈黙を破ったのは、親としてのプライドを守らんとする父親の方であった。

 

「確かにな、しかしアディよ、デケェ夢を持つ男にこそいい女は魅力を感じるもんなんだぜ?」

 

およそ5歳児に向かっていう内容ではなかったが、もはやそんなことは頭になく、この現実主義者をなんとか言い負かそうと必死になっていたのだ。

 

「へー、よくわかんないけど、それじゃあ僕は『アダマンタイト級冒険者』を目指そうかな!」

 

アルディとしては、この微妙な空気をなんとかしようとてきとーに言ったでまかせだったのだが。今までのやり取りで現実主義を叩きつけられていた2人は、もろに間に受けた。

そして、我が子の大いなる目標の為に、自分たちは何ができるだろうか、と真面目に考え出した頃

 

それは訪れた。

 

【バタンッ】

 

ノックもせずに勢いよく訪れた、仕立ての良いシスター服に身を包み、見るからに高価そうな装飾品の数々をつけた老婆

 

リグリット・ベルスー・カウラウが、口元に笑みを浮かべて立っていた

 

「おいおい小僧、お主にはその程度で止まってもらっては困るぞ?さらに先へ、もっと先へ行って貰わねば、な。」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

どうもアルディです。何故か元十三英雄様が家に来てから数分、絶賛現実逃避中であります。夜までには心の準備をしておこうと思っていたのを、朝一番に出て来られては、心臓の1つも止まるというもの。

放心くらいで済んだ自分を褒めたい気分だ。偉い偉い。

 

「というわけじゃから、少しの間世話になるぞい。飯とかは自分で用意するからの、そう迷惑はかけん。では小僧、食べ終わったら修行開始じゃ。」

 

なにやらしらぬ間に話が進んでいた模様。てかうちの両親警戒心薄っ!コミュ力高っ!知らないばあさんをそんな簡単にうちに入れちゃっていいの?大事な息子預けちゃっていいの!?

 

「どうぞよろしくお願いします!うちの息子を、強くしてやってください!俺たちには、してやれる事なんて全然ないですから…。」

 

「私からも、お願いします。」

 

あ、これ、さっきの信じちゃったのか?いや強くはなりたいんだけどね?

……でもまぁ、ラッキーか?災い転じてラッキーだな。じゃんじゃん吸収してスイスイ強くなってやろうじゃないの!

 

「あの、剣は持って行った方が?」

 

「いらんの、わしに剣は教えられん。」

 

「はい、分かりました。すぐに準備して来ます!」

 

ネクロマンサーが剣とか使ってたら焦るわ。いちよー聞いてみただけ、ノープロブレム。死霊魔法とか覚えたいな、かっこいいし。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

森の中、目の前で立っている少年を見つめる。

リグリットは今朝の光景を思い返していた。

 

息を呑むような剣技は、彼の恵まれた剣の才を雄弁に語っており、秘めたる資質は今まで自分が見た剣士の中でも群を抜いているといっても良いものだった。

 

これほどの剣の才の持ち主が、魔法を覚える。一体どれほどになるのだろう。もちろん、魔法の才能は全く無いということもあり得るのだが、それはないと、何処かで確信している自分がいた。

 

「さて、お主にはまず召喚魔法を覚えてもらう。これは位階が上がるごとに強力になって行くものだが、途中を飛ばすことはできない。

お主は剣士じゃが、召喚モンスターは盾役にも使えるし、物によっては後衛も出来る。戦闘の幅は大いに広がるだろう。

次点で、そうさな、付与魔法、強化魔法を教えよう。武技は便利だが、身体に負担を強いる諸刃の剣よ。魔法は覚えておいて損はあるまい。取り敢えず大きくはこの2つじゃ。何か質問はあるかの?」

 

「いえ、ありません!師匠!始めましょう!!」

 

勢いよく返事をして修業を急かす彼を見ていると、やはりまだ子供なのだな、と当然のことに気づく。

この少年を見ていると、幼い子供というのを忘れてしまうことが多い。不思議な子だ、改めて思った。

 

猶予はそう長くない。急がねばなるまい。

 

「まずは手本を見せる。よく見ておんじゃぞ。

《サモン・アンデッド・1st/第一位階死者召喚》」

 

目の前の地面から【ゴボッ】という音を立てて何かが吹き出る。

その黒い物体は徐々に盛り上がり、成人男性程の大きさの、異臭を放つ屍が現れた。

 

「ゾンビじゃ。紛う事なき雑魚じゃが、上手くすれば何かには使えるかもの。」

 

自分の説明を聞いて、不満そうに顔をしかめるアルディ。

 

「えー。それじゃあ覚えたって肉壁にもならないじゃないですかぁ。早くもっと上の位階魔法を使いたいです。」

 

「阿呆。帝国のように魔法学の進んだ国で、専門の学校に数年間通ってなお、第一位階魔法を習得出来ないものも多くいるのじゃ。そう易々と第二位階以上などいけるはずもあるまい。」

 

気持ちはわからんでもないがのう。いくら才能があっても、一朝一夕で身につくものではない。しかし魔法論など座学やってる暇もない。

 

まだうだうだと何か呟いているアルディに顔を向ける

 

「とにかくやってみい。話はそれからじゃ。」

 

「了解です…。では、顕現させよ!我が永遠の友!

《サモン・アンデッド・1st/第一位階死者召喚》」

 

彼がイメージしたのはシンプルなスケルトン。

呪文を唱え終わったあと、地中からモゾモゾと姿を現したのは、確かに骨でできた人型であった。

 

「ほう。大したもんじゃ。多少ふらついてるようだが、一発で成功させるとは…、、。しかし、その痛いセリフはなんじゃ?」

 

「いや〜、なんか、厨二心くすぐられちゃって、つい。

あーほら、アンデッドは寿命とかないし、間違ってはいないですよね?」

 

「まぁ、な。普通に時間経過で消えるがの。」

 

「……あ。そっか。」

 

「言ってなかったかの。召喚モンスターはいつまでもあるわけじゃないぞい。術者の力量にも依るが、永遠の友にはなれんな。」

 

「いやーお恥ずかしい。全く考えずに、初めての召喚モンスターだし仲良くしよーなんて本気で…。まぁいいか。それで、このスケルトンどうしますか?」

 

「ほっといてよかろう。色々参考にもなるしの。」

 

第一位階魔法を難なくこなしてしまったアルディに内心驚愕しつつも、他のモンスターの召喚も試していくことにした。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「しかし、消えないなぁ。」

 

召喚して半日ほど経っても、スケルトンは変わらず立ち尽くしていた。

 

あの後召喚した数体のモンスターは、すでに時間経過で消えているのに。これはどう考えてもおかしい。

 

「ふむ…。召喚モンスターは召喚主の命令を可能な限り、全力で遂行する。通常、召喚モンスターが時間経過で消えることは魔法を多少勉強した者なら誰でも知っている。召喚魔法を覚えようと思うならなおのことの。

しかし、お主は本気で、永遠の友になれると思い、願った。俄かには信じ難いが、お主の出来るだろうという純粋な信じる気持ち、あれはその気持ちに応えたのやもしれん。その代償に、フラフラじゃがな、フハハハッ。」

 

「…えーーーー。どんなご都合主義だよ。てか、フラフラのスケルトンなんていても仕方ねーよ!確かにあの時はズッ友!!みたいなこと思ってたけど!ちょっとお熱だったんだよ!」

 

「そーはいってものう。長い事生きてるが初めて見る例じゃ。

壊してしまうのも忍びない。かと言って森に放置というわけにもいかん。お主の家に連れて帰ろう。」

 

……は!??頭大丈夫かこの人!??どこの世界にアンデッドと一つ屋根の下で暮らす村人がいんだよ!?あのー?もしもし?誰も彼もが貴方みたいな人間だと思わないでね?うちの両親ショック死するかもなんだけど!

 

こうして、自由なばあさんは死体を1つひとんちに持ち込みましたとさ。メデタシメデタシ。…………

 

「どうしてこうなった。」

 

もはや小説ではお決まりに近い台詞を吐いて、

朝家を出る時の軽い足取りから一転、とぼとぼと家路に着くのだった。

 

 




頑張れアディくん!
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