ぼくときみでつくるヒーロー   作:やんごとなき事情

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6/π+48Σ[n=1~∞]n/(e^(2πn)-1) 話 背負わされたデスティニー

衝撃の雄英高校入試試験から一週間。男の元に

 

実技試験:合格

 

筆記試験:いやもう言うことナッシングっつーかもう頭良すぎてわけわからん一億点ベイベーチェケラ

 

結果:クソ合格」

 

と記された通知が届いた。

 

内容を斜め読みした男は何を語るわけでもなく通知届をクシャクシャと丸めてカウンターキッチンの奥の方にあるゴミ箱目掛けてフリースロー。箱の縁にも壁にもあたらず一直線にゴミはゴミ箱に吸い込まれたことなど、店の表で掃き掃除をする男にとっては「どうせ入ってる」のでどうでもいい。

 

男の腰掛ける車椅子は彼特製だ。三葉のように車軸から三本のアームが飛び出していてその先に取り付けられたハイドロスプリング仕込みスポークの電磁サーボ式ホイールがある程度の段差を難なく通過してくれる。彼がなぜ外骨格式の歩行補助ギアではなく車椅子にこだわるのかと言えば、「関節は増えれば増えるほど故障が増える」からだそう。椅子が可変し起立補助をすることでその場の掃き掃除程度ならこなせるが、カフェのホールや、狭いキッチン仕事は車椅子には無理があるようで、彼は専ら事務や会計、店の内装や備品の整備を主な役目とする。

 

3脚車輪が器用に上がり框を乗り越え店内に入る。カウンターキッチンの横をすり抜けようとするとモーニングセットを両手に抱えたエプロン姿の女性が声をかける。

 

「戦兎ぉ!コンセントになんか液体が垂れたみたいなシミがあるんだけど!」

 

「上のエアコンのダクトから垂れてきたんでしょ 一応使わないでおいで 帰ってきたら見るから」

 

大きな業務用冷蔵庫の横にある小さな冷蔵庫を開けるとあるのは楽しみに取ってあるプリンや牛乳、調味料諸々……という訳ではなく、地下へ繋がる階段とそれに沿うように壁際に取り付けられたレールと椅子。車椅子の着席補助機能で椅子に腰掛けると手元のスイッチを操作し地下へ向かう。

 

螺旋階段を降りきると丁度停止位置に一輪車の親分みたいな乗り物が鎮座しており、彼は「よっ」とうまく言うことを聞かない足を持ち上げ跨ぐと丁字路をすいーっと右に曲がり「戦兎ラボ」に入室する。

 

「おはよう」

 

机の上に置いた飼育箱で口をもごもごしている茶色のうさぎ「アインシュタイン」を撫でる。彼が撫でていた右手を見やると何本か抜け毛がひっついている。その抜け毛に対して彼は「個性」を発動する。すると、左手の中指の爪の間から赤い液体が締めの甘い蛇口のようにチロチロと溢れ始めた。

 

流れる液体を作業机の上に置かれた栄養ドリンク台のボトルに注ぎ込む。キャップパーツを取り付け、透明のパイプや大小の機械からなる大きな機械に装填する。手元のバルブを回し、いくつかのスイッチを上にあげる。すると機械はところかしこから蒸気を吹き上げボトルに注ぎ込まれた液体の加工を始める。様々な工程を経て液体はあっちにいったりこっちにいったりを繰り返す。ひときわ大きなメーターがレッドゾーンを示すと彼はデンジャーマークの刻まれたバルブを思い切り右に捻る。

 

蒸気機関車が発車するような音を奏で、透明なパイプに満たされた液体は逆流を始め、元のボトルへ集まる。直前の装置によって極限まで圧縮され、ボトルに収まる頃には液体は凝固し円柱形の石のような状態になっていた。

 

工程完了を知らせるチャイムが鳴ると彼はボトルを装置から引き抜き今度はパソコンの横に設置した箱型の装置に入れる。PCで3Dデザインソフトを立ち上げ、あらかじめ作成しておいた3Dデータを装置の操作ドライバに転送。開始ボタンをクリックするとプシュー……と空気の抜ける音が聞こえたと思うと、のっぺりとしていたボトルのクリア部分が作成したデータ通りうさぎの顔とにんじんを模した形になり、ボトルの「加工」がすべて完了する。

 

「前のは壊しちまったからな」

 

出来たてのボトルをバッグに放り込む。部屋の照明を落とし、また椅子に腰掛け一階に戻る。

 

車椅子に乗り直し、カウンターキッチンの端に置かれたサンドイッチとコーヒーを頂く。

 

……サンドイッチはこんなに美味しいのに、何故こんなにもうちの店主の淹れるコーヒーはこんなに不味いのか。戦兎は店主である女性……「桐生たすく」の背中を見る。

 

コーヒーの不味さなど客の九割九分が常連であるここの客にとっては常識で、初見の客は最初はそのあまりの不味さに憤慨する者も少なくないが、大体が店主の目の霞むほどの美貌とそのミステリアスな雰囲気と包容力に水に流す……もとい、コーヒーに流すわけで。

 

なのでその不味さを理解した上でコーヒーを注文する者(余談だが彼女は自分のコーヒーに絶対の自信を持っていて、これを注文するとこれ以上ないってほどの笑顔を見せる。それ目当てに注文する客も少なくない。)と、それを危惧し紅茶やミルクセーキ、チャーイなどを注文する者と様々。

 

いずれにしても常連のほとんど、それも日々お勤めの男性諸兄は労働のモチベーションを上げるため、店主の高すぎる顔面偏差値と劣情を煽る肢体を拝むために通い詰めている節はある。その事に当の本人が気づいているかどうかは彼にもわからない(実の所女性の常連は彼のベビーフェイスを拝みに来ている者が多数だということも恐らく分かっていない。)。

 

「ん、そろそろか」

 

厚ぼったいスマートフォンで時刻を確認すると、カバンを抱えて車椅子の動力ユニットに赤黒い色の1気筒エンジンのような形をしたボトルを装填。操作レバーを倒し店内をすり抜け玄関を潜り、店の奥の店主に声をかける

 

「おい年増マスター!行ってくるわ!」

 

「はーい!行っといでかわいいクソ息子!」

 

このカフェ名物の「美人マスターと天才里子の罵倒合戦」。駅に隣接したこのカフェ、出勤前のサラリーマンや納期に追われるノマドワーカー、定期試験前の学生の最終カンズメラインとしても有名。見慣れた光景と「皆の息子」の旅立ちに全員で手を振る。

 

下半身のマヒというハンデを抱えながら「雄英高校入試筆記試験全教科満点」というロケットスタートを決めたヒーローの卵「桐生戦兎」の、ビギンズモーニングだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「おお!そこの君はもしや!」

 

「ん?」

 

ぴりり、と鼓膜に響くハキハキとした大きめの声。地下鉄を乗り継ぎ30分前後の列車の旅を経て健常者の歩行速度と同程度の速度で走っていると後ろから試験ガイダンスで聞いた覚えのある声が聞こえた。操作レバーを戻し後ろを振り返るとこちらに走ってくるいかにも堅物そうなメガネくん。

 

「桐生くんだったかな!ボ……ごほん!俺は私立聡明中学の飯田天哉!今日からお互い研鑽の日々だ!共に頑張ろう!」

 

差し出された手を取る。こういうのに慣れない戦兎は少々小っ恥ずかしい思いをしつつ、飛び出したアホ毛を直しながら自己紹介で返す。

 

「ああ、桐生戦兎だ。実技じゃ中々の成績だったみたいだな。俺は見ての通りこのザマだ。手取り足取り、戦い方ってやつを教えてくれ。」

 

名乗るときのクセである頭の上で指を弾く仕草をして名乗る。力の入らない足をさすり、お互いにこれからの日々に馳せた想いを声色に乗せてビギニングトークを済ませる。

 

「後に発表された試験結果を見て驚いたよ。全教科満点とは……おっと!時間が無いな!押させてくれ!」

 

「あ?まだ余裕あると思うけど……ていうかいいよ。これ動力あるし」

 

「雄英の学徒たるもの現場にいち早く駆けつける者でなければ!始業30分前には教室にいるべきだ。いいんだいいんだ!こういうのはそういうものじゃないだろう?それっ!」

 

ぐっ、と体が一瞬後ろに引っ張られると飯田はずんずんと前へ前へと歩を進める。ここは彼の善意と社交性に甘えよう。と考え、戦兎は動力ユニットに装填していた「ボトル」を引き抜いて仕舞う。

 

しばらくすると雄英高校正門と全面カーテンウォールのド派手なファサードが見えてくる。ちらほらと見える門をくぐる雄英の制服を着た生徒を横目に2人はどんどこ1-Aの教室に向かう。

 

「動線は全部ユニバーサルデザインか。進んでるな雄英は」

 

大きなドアをパスして教室に入る。先んじて知らされていた席を探そうとすると、丁度前列あたりに、机に足を乗せてふんぞり返っている「いかにも」な生徒がこちらを睨みつけているのが分かった。

 

それを尻目に戦兎は真ん中より少し後ろあたりの、ひとつだけ椅子のない机を目指して手動用のハンドルを手で回し自走して向かう。

 

またこの後、飯田がさっきのツンツン頭に食ってかかる展開があるのだが、特に進展がなかったので割愛する。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「自分の最大限を知り、今自分に何ができて何ができないのかを測れ。それがヒーローを志す者の踏むべき第一歩だ。」

 

入学式等諸々をかっ飛ばし、突然始まった「個性使用身体能力テスト」。最下位は除籍処分という初日から大きな受難を投げかけられた1-Aの生徒たちは、それぞれの個性を全力で振るい、8種目でそれぞれが目覚しい記録を残している。

 

「…………」

 

対してこの男はどうだろうか。先程地面にへたれこんだまま投げたボールは10メートルそこら。50メートル走はほふく前進よろしく体を引きずりながらなんとか2分程度掛けてゴールテープを切る始末。戦兎自身の個性は直接身体強化を施すわけではないため、下半身が言うことを聞かない彼はこの手のテストの結果はどれも散々に終わってしまう。

 

「はあっ……はあっ……」

 

思い下半身を引きずりながら50メートルを進むのはなかなかにキツく、進み終えた後の戦兎の顔は汗と涙と鼻水でとんでもないことになっていた。

 

グラウンドの砂を握りながら、なんとか車椅子まで戻ろうと今一度震える腕に力を込めようとすると、突然両の脇から腕を通され担がれる。

 

「ブラボーだ桐生くん。水を飲みに行こう」

 

「大丈夫?車椅子持ってきたよ!」

 

両の脇をそれぞれ担いでくれたのは飯田と緑谷だった。飯田はまだしも、緑谷は先程のボール投げで指をボッキリやっているのにも関わらず駆け寄ってくれた。

 

二人は丁寧に車椅子に戦兎を座らせると、キッ、と飯田の方が相澤の方へ向かい朝のような大きくハキハキとした声で投げかける。

 

「相澤先生!桐生くんはテストを免除すべきです!彼にはあまりに酷な仕打ちではないでしょうか!?」

 

「駄目だ。実際の現場に歩けないやつを見逃すヴィランなんぞいない。あいつだけ特別扱いすることは無い」

 

「お言葉ですか先生!平等とはある者が無い者に救いを差しのべ共に同じ高さで同じ景色を見ることであります!それに彼の本質はこのようなテストでは計り知れないと言うことはご存知でしょう!」

 

「……いいよ飯田、ありがとう。俺は大丈夫だ。」

 

「桐生くん……しかし……!!」

 

ペットボトルの水を頭からぶっかけた戦兎が取り繕った笑顔でこの場を抑える。

 

「先生。俺をクビにするかどうかは……『スーツを使った授業』をしてから御判断を。どうせ道を断つ御積りならば、いつ切ったって『あなたの知ったこっちゃない』でしょう?」

 

「初めからこうなることが分かって棄権の意志を伝えなかったな?なるほどいい度胸だ。よし、次の実習で結果を残さなければ桐生は即刻除籍処分だ。各自解散。最下位除籍処分は合理的虚偽だ。今日感じ、考えたことを各々しっかり覚えておくように。」

 

戦兎に吹き込まれた相澤は「その安い挑発に乗ってやる」といった態度で機材を抱え撤収する。それの背中を見つめながら、恐らく早ければもう次あたりにお目にかかるだろう授業のことを考え、今中途半端になっている諸々の作業を間に合わせる算段だけを頭の中のソロバンで弾いていた。

 




近いうち戦兎の設定画みたいなの用意します
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