ぼくときみでつくるヒーロー 作:やんごとなき事情
「相澤先生もひっどいよね!桐生くんがあんな苦労する必要なかったのに!」
「いや、あの人の言ってることも最もだ。俺は進んでこの道を選んだんだ。きっとこの足とも真剣に向き合わなきゃ行けない時も来ると覚悟してきた。」
帰り足に付き合ってくれた麗日と飯田、緑谷が午後の件の肩を持ってくれる。再び飯田のお節介に甘んじてる訳だが、俺が1番危惧していた周りの自分に対する煙たがりの視線等も杞憂に終わったため、考えていたよりかは良好なファーストビギニングを決められたと安堵に胸を撫で下ろす。
「…………」
さっきからしきりに俺を見てはばつの悪そうに明後日の方へ向き直る緑谷を見て、体力テストで披露した規格外の超パワーに見合わない産まれたての小鹿のような困り顔に一瞬「くふっ」と吹き散らかすと、行き場を失ったようにそわそわしている左手を握って語りかける。
「聞きたいことがあるなら遠慮なく聞けよ。生憎地雷のない性格でね」
「あ……えと……」
握った掌をくすぐると「ひゃわっ!」と生娘のような声を上げて引っ込める。それにつられて麗日と飯田が笑うとボサボサ頭をぽりぽりと掻いて、まだいまいち言いにくそうに答える。
「その……桐生くんはその……実技試験をどうやって合格したのかなって……だって桐生くん、敵ポイントも救助ポイントも満遍なく獲得して、5位とかだったじゃない」
「このザマでどうやってそれを為したかって聞きたい訳だ」
「ええええあああああえとえとそのあのなんというかもちろんそれだけじゃないっていうかまだ個性も分からないからなんともっていうか別会場だから余計気になったって言うかなんというか」
「デクくん……テンパりすぎてなんというかって二回言ってる……」
あまりに手をわちゃわちゃするものだから千手観音みたいになってる彼を内心でくすくす笑いながらその焦燥っぷりを心ゆくまで楽しむ。苦笑いの麗日とは対照的になんとも言えない顔で「言葉を選びすぎて逆に直球になっている……」と心の声を漏らす飯田。なんだかコントみたいなやり取りだ。
「俺の個性の話は多分近いうちわかると思う。でも……そうさなあ……うん、説明がめんどくさいから、そんときに。」
◆◇◆◇◆◇
午前の必修科目を修め、午後のヒーロー基礎学へ移る。昼に食べたレバニラ炒めのニラが歯に挟まって口をもごもごしていると、人によっては親の顔より見た顔が扉から飛び出してくる。
「わーたーしーがーーーーーーーーーー!!!!!!!!普通にドアから来た!!!!!!!!!!!!!!!!」
「おわぁ。本物だ」
「君口がニラ臭いぞ!!」
流石平和の象徴、この距離でも俺の口臭を嗅ぎ分けるとは。きっとあの濃ゆい顔に収まる鼻腔が頭部を縦断するが如く長いに違いない。
引きずり出したニラをごくんと飲み込むとミント菓子を放り込みリセットする。これからはお昼に匂いのきついご飯は控えようと思う。
「本日のヒーロー基礎学は戦闘訓練!!!それに伴って君達にははいこれ!!!入学前に提出してもらった要望に沿って誂えたコスチュームに着替えてもらう!!!各自準備が整い次第グラウンドβに集合!!!」
『『『はいッ!!』』』
壁からせり出したコスチュームケースを各々手に取り中に収まった特注のスーツを装着する。それに対して緑谷はトレードマークの黄色いクソデカカバンから畳まれたコスチュームを広げ袖を通し始める。
それを横目に俺はカバンから取り出したアタッシュケースを抱えひと足お先にグラウンドへ向かおうとする。すると、緑色のスーツに中途半端に袖を通した緑谷が声をかける。
「着替えないの桐生くん?」
「ん、まあね。グラウンドで会おうぜ。」
頭の上で指を弾く仕草をして教室を後にする。
グラウンドへ向かいつつ、パソコンで今日のために徹夜で仕立てた武装の最終チェックを行う。あの場で「変身」しても良かったんだけど、やっぱり、未来のスーパーヒーローの公の初変身は派手でなくちゃ。
◇◆◇◆◇◆
「みんな様になってるじゃないか!!!カッコイイぞ!!!」
それぞれのコスチュームを纏った各々がグラウンドに集合し、より一層張りつめた空気が漂う。未だ制服の俺を見て独特のデザインのコスチュームを纏った緑谷が「ギョッ!」と言いたそうな目でこちらを見る。
「今回行うのは屋内対人戦闘訓練!このヒーロー飽和社会、真の悪は闇に潜む!君らにはこれからヴィランチームとヒーローチームに別れて3対3の屋内戦を行ってもらう!」
状況設定はこうだ。
ヴィランがアジトに核兵器(!?!?)を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている。ヒーローは制限時間内にヴィランを捕獲するか核兵器の回収、ヴィランは制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕獲する事が勝利条件となる。
「コンビ及び対戦相手は!!!でれれれれれれれっ、デン!はいクジ!!!」
『『『テキトー!!!』』』
てなわけでちゃっちゃかチーム分けが行われ、俺はAの麗日、緑谷とのチームに振り分けられた。
なんの運命のいたずらかは知らないが、対戦相手はヴィランとなった爆豪、飯田、常闇のDチーム。
向こうは3人とも個性も実力もブッチギリトップクラス。対してこっちは制御の聞かない超パワーに重量制限付きの無重力、車椅子男だ。
なんど「勝利の法則」に揃った数字を代入しても勝てる見込みはゼロ。だがここにとある「未知数」を付け加えることでさあどうなる。ここからは俺の「実験」だ。
本当にありがたいことだ。入学した日から今日まで、二人は嫌な顔一つせずに俺の不自由に付き合ってくれた。今日がそれに報いる日になればいいんだけど。
窓から潜入した俺達はまずは壁に沿って慎重に上の階へ繋がる階段を探す。しばらく進むと丁字路にぶつかり、二手に分かれるかどうするかを話し合おうとした次の瞬間、丁字路の右側から爆豪が緑谷目掛けて奇襲をしかけてきた。
爆破を引っさげて襲いかかってきた爆豪を緑谷は個性を使わずに柔術だけで地に伏せる。焼け焦げたマスクから露出した顔には覚悟と恐怖が入り乱れる複雑な表情が見えた。
「麗日さん!桐生くんと一緒に上階へ!!かっちゃんの狙いは僕だ!!!」
「うんっ!!!」
「気張れよ」
麗日は全力疾走し俺は操作レバーを下まで降ろす。響く爆破音を振り切り、いくつかの階段を登ると核兵器の設置場所とされる階に辿り着く。
そこに居たのはなにやらブツブツブツブツ独り言を言う飯田。先のこともあって真面目な彼は相当ストレスを感じているのではないか、そう考えていると彼は突然目付きを変え、できるだけドスの聞いた声で呟く。
「俺はァ……至極ゥ……悪いぞォ……!!!」
「ぶっふぅ(真面目や!)」
いやこれは麗日を責められない。だって面白すぎる。
割れてしまったので堂々と出ていく。麗日対策でフロアのものをきれいさっぱり片付けたというまあなんとも飯田らしい対処演説を聞いて俺はぱちぱちと拍手をする。
「ブラボーブラボー。お前ならそうすると思ったよ。俺だってそうする。OK。ならこっちも、「計算」をしないといけねぇみたいだ」
車椅子を操作し、起立補助機能で立ち上がる。車椅子の機関部分からつっかえ棒のようなものが飛び出し俺の腰のあたりに合着。射出したつっかえ棒だけを残して車椅子が自動で撤退すると、なんとか踏ん張って2本の足と1本のつっかえ棒で立つ俺はカバンに忍ばせていた「黒い光沢を放つ金属製のなにか」を取り出し腹部に押しつける。
「飯田。お前の質問に答えるよ。」
すると黄色の蛍光色の伸縮自在のベルトが飛び出し勝手に腹部に巻き付く。起動と生体認証を完了した旨を示す電子音が鳴ると、ポケットから青いボトルと赤いボトルを取り出し、顔の真横にそれぞれ構える。
「数字」は揃った。
「さあ、実験を始めようか。」
構えたボトルを激しく上下に振る。するとその衝撃がボトル内部の成分の反応を加速させ、個体だった「トランジェムソリッド」は液体になる。それと同時に突然俺の周りを立体投射された数式が空中を漂う。
「これ……!?桐生くん何を……!?」
「言ったろ麗日。実験だよ。」
十分に反応させたボトルのバルブキャップを開封。上下を反転させ腰にまきつけた実験機具「ビルドドライバー」に装填する。
『うさぎ!』
『戦車!』
『『BEST MATCH!!!』』
エコーがかった電子音声が装填されたボトルの成分を感知し発声。その直後うさぎと戦車はベストマッチであることを高らかに示す。
口角を上げる。右手でしっかり右のハンドルを握り回す。するとそれを初動に内部の内燃機関ニトロダイナモが始動し注入された二種の活性化トランジェムソリッドを内部で増幅加工しビルディングモジュールによって形成されていく透明のパイプに送る。
突如床からせり上がる形で出現した高速成形機「スナップライドビルダー」と形を為していくパイプがドッキングすると内部に注入されたトランジェムソリッドが隅々まで行き渡り、前部と後部で別々に注入された二種のトランジェムソリッドが接続パイプ内でぶつかり合うとエネルギーは爆発的に増幅し、膨張することで透明のパイプを割壊し、待機に触れることで瞬時に硬化。
この間およそ5秒。「うさぎハーフボディ」と「戦車ハーフボディ」が完成。内部駆動音が停止すると制御ドライバが立ち上がる電子音が響き、先程とおなじ声の電子音声が、俺に戦いの意思の有無、そして最終セーフティを解除するパスコードの入力を求めてくる。
『Are You Ready?』
「変身!!」
音声入力されたパスコードが認証された瞬間、スナップライドビルダーのフロントビルダーとリアビルダーが中心の俺に向かって迫ってくる。まるでたい焼きのあんこのように両側から挟み込まれると高速成形によって発生した熱を内部の排熱機構が一気に気化残留トランジェムソリッドペーストを排出することで冷却。
全ての工程を終了すると、制御ドライバが有効になり、パワーアシストによって力の入らない脚に尋常ではないほどのパワーが宿り、今までの俺を見た奴なら到底信じられないほど軽快に、変身後の決めポーズをとる。
『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!!YEAHHHHHHHHH!!!!!!!!!!!』
プロレスの入場のようなド派手な名乗り口上音声とバックミュージックがドライバーから爆音で発せられる。これだよこれこれ。これがなきゃ変身した気がしない。
戦車の走破力とうさぎの健脚。
俺が初めて変身した姿にして全ての基本となる「機動力のベストマッチ」。
「まさかそんな……君は一体……!!」
飯田が驚きつつも警戒を解かない。流石と言っておこう。
だがご生憎様。こっちにはもう既に「数字」は揃った。
公の初変身てなわけで、俺は目の前の「怪人エンジン男」に対して、いつもの穏やかな声色とは明らかに違う、余裕綽々の自信過剰でナルシストめいた声色で名乗る。
「『仮面ライダービルド』。作る、形成するって意味の、ビルドだ。」
授業をするように天に指した指を、右手版フレミングの法則のように組み直し、飯田に向ける。
「以後、お見知り置きを。」
「なるほど、パワードスーツを纏う「個性」か!だがヒーロー!俺様のスピードについて来れるかな!?ぐへへへへ!!!」
思い出したように悪者演技を挟む飯田。それじゃあこっちも、ヒーローらしい決めゼリフをひとつ。
圧倒的な勝利宣言。それも自己を追い込むためのものでなく、あらゆる「数字」を代入し、勝利を確信した時にのみ放つこのセリフを、今お前のためだけに言ってやる。
「勝利の法則は……決まった!」
飯田くんのキャラすち