ぼくときみでつくるヒーロー 作:やんごとなき事情
「よっ!」
「むっ!」
赤い左足を深く踏み込む。多機能バネ・ラビットスプリンガーが許容値を越えるとヤング・クラッチが解除され蓄積された反発エネルギーが火を噴く。床スラブを激震させるほどの跳躍力で前に飛び出し振りかぶった左拳「ヘビーアサルトアーム」を叩き込む。
ドルンッ!と飯田のエキマニの震える音。ハリボテ核爆弾を抱えて瞬時に部屋の右端まで距離を詰める。
「とぉーう!」
「うぉーっ麗日くんっ!!!」
俺の変身プロセスで飯田の視界を固定している隙に自身を浮かせて天井のちょうど飯田から見て大梁が視界を遮る位置に待機していた麗日が個性を解除して核兵器目掛けてダイブ。個性の性質上桁外れの反応速度を誇る流石の飯田でもこの奇襲は当たりだったようだったがこれで終わると思うほど甘ったれてはいない。
「おっ?うわわわわわ!!?」
「2人にかまけて俺を忘れていたな。笑止!」
ずっと部屋の暗がりに身を潜めていた常闇の黒影が麗日をくわえて投げ飛ばす。宙を舞う麗日はそのまま壁に背中から激突しヘルメットが転げ落ちる。
右脚の無限軌道ユニットが地面を掴む。ギャルギャルとその場でターンすると常闇の方へ向かう。常闇は自身の個性「黒影(ダークシャドウ)」を放ち応戦する。
右腕のクイックラッシュアームの俊敏性を生かし黒影の右の今朝払いをいなしヘビーアサルトアームの下段からのカチ上げを放つ。
が……ダメ。黒影の細い身体はするりと風に舞うビニール袋のように避け、口にくわえた捕獲テープを掛けようとしてくる。
無限軌道ユニットをフル稼働ささて身体を持っていかせる形で脱出。滑り込みの容量で地を滑りラビットスプリンガーの反発力で「ドンッ!」と起き上がる。
「いいぞ黒影。このまま間合いを維持しろ。隙を必ず捉えるんだ。」
『アイヨ!』
「あーダメだダメだ この状況ベストマッチじゃない 近接型のラビットタンクじゃ分が悪いわ」
あいつの個性は本当に厄介だ。間合いに入らせてくれないしかと言って今回の捕縛ルールに則った捕獲テープも黒影に巻いたって意味が無い。
待て待て待て。天才的じゃないぞ。いくら「ビルド」は脳に負担がかかるからってこれは迂闊すぎる。一旦整理してみよう。優先度を決めるんだ。それも事細やかに。
間違いなく進行フローチャートにおいてぶっちぎりトップでやるべき事なのはこいつの個性だ。だが勝利の法則に代入する数字にするならば今までの取っ組み合いの中で弾き出した不定指数だけじゃ満足な数値が出てくれない。
次は飯田だ。いくらヴィラン役に徹しているとはいえ飯田の性格からして、下手なリスクを追うのを避け、あちらから手を出してくることはないはず。
決まりだ。ここはまずあの厄介な個性を潰す!
「『回転剣銃』ッ!!」
『DRILL・CRASHAR!!!』
音声入力をするとビルディングモジュールからトランジェムソリッドペーストが充填されたクリアパイプが飛び出し、瞬時に割れ砕け、大気と接触することで瞬間的に硬化する性質を持つ活性化トランジェムソリッドが手持ちドリルのような形になり手に収まる。
摩擦による切断、貫通、破壊、そして実弾の単連射機能を有した多目的ツール「ドリルクラッシャー」。装填したボトルに封じたトランジェムソリッドの成分によってその効果を付与することが出来、スナップライドビルダーを転回する余裕のない時や、決め技の入り用の際に重宝する。
黄緑色のボトルをインベントリから取り出し振る。充分活性化したことを確認しバルブキャップを解放しドリルクラッシャーのインジケータに装填する。
『掃除機!』
『Ready GO!!!』
刀身「ドリスパイラルブレード」にミクロレベルで開けられた噴出口から粒化掃除機トランジェムソリッドが噴出され、刀身が内蔵発動機からドライブシャフトを通りフリーミッションで最適化された回転力で高速回転を始める。周囲にまんべんなく粒化ソリッドがばらまかれるほどその効果は増す。2週ほど待機ミュージックが周回したタイミングでドライブトリガーを押し込み決め技を叩き込む。
『VOLTEC BREAK!!!』
音声発動と同タイミングで緑色の閃光を纏ったドリスパイラルブレードから激しい吸引力が巻き起こる。刀身を向けられた常闇はチャーミングポイントの小さめの体が仇となりするりと吸い込まれる。
「くぅっ!」
そのまま巻き起こした負のサイクロンに乗せて飯田の構える南側の方へ常闇を投げ飛ばす。あくまで核兵器を死守する飯田に対し常闇は窓にぶち当たる直前に黒影を操作して柱を叩き東側のエリアへ飛び込む。
「ビンゴだ」
思わず口から漏れる。疑いが確信に変わった瞬間ほど気持ちいいものは無い。
ドリルクラッシャーを地面に突き刺しインベントリから新しいボトルを2本取り出す。ショッキングピンク色のボトルと蛍光イエローのボトルだ。
常闇が潜んでいた場所も、飯田と分担して守るエリアも、そのどちらも東側と北側に拘り続けている。
そこは建物の中でも日中光の差し込みにくい場所だ。わざわざ南側に誘導しても一々そっちに戻ろうとするってことはそこにいねぇと都合の悪いことがあるってこったろ。
「麗日。捕獲テープの支度しとけ。合図したら常闇に一直線だ……常闇。さっきからお前、暗いとこに拘るよな。」
「……何の話だ?」
黒影を臨戦態勢にしたまま表情は変わらない。
「さて、何の話かな。知りたかったら……これから起こることをよーく見ておくことだ」
ボトルを振り、キャップを開ける。
俺にとって戦いは実験だ。
戦闘向きの個性を持たない俺にとって、武器はこのベルトと今までに作ったボトルだけ。手数が多いからこそ、机の上では決して得ることのない「命のやり取りでのみ培える状況判断力とそれに応じたボトルのセレクト技術」を磨く。それがこの学校に入った俺の当面の目標だ。
まずはその第一歩。初物にしちゃ大物だ。
「さあ、実験を始めようか。」
開けたボトルをドライバーに装填する。
『タコ!』
『電球!』
『『BEST MATCH!!!』』
再び展開した高速成形機スナップライドビルダーにタコと電球のトランジェムソリッドが流し込まれる。触れた瞬間反応が加速し圧力によって砕け散る。大気に触れたトランジェムソリッドが硬化しそれぞれの半分こスーツになる。
「させるかッ!!」
一度核兵器を捨て置いた飯田が突っ込んでくる。スナップライドビルダーを破壊すれば変身プロセスにエラーが生じ失敗すると踏んだのだろう。
「フッ!」
「ぐおっ!?!」
手元にあるドリルクラッシャーを横にぶん投げて牽制する。飯田が怯んだその一瞬をついて、瞬間的に再起動した制御ドライバに再構築用のパスコードを入力する。
『Are You Ready?』
「ビルドアップ」
承認。スナップライドビルダーが中心で重なると再び排熱処理が加わり、ビルドのスーツの性能がまるで違うものに上書きされる。
『稲妻テクニシャン!オクトパスライト!!YEAH!!!』
肩にへばりついたタコは「フューリーオクトパス」。俺の動きに合わせて自律駆動し敵を拘束したり浮遊する暗黒物質を生成したりできる。
片方の肩のバカでかい電球は「ライトバルブショルダー」。一度発光すれば視界が完全に遮られるほどのIm値を誇る強力な光を放つことができる。
これが例え未だ解明されていないタコの多くの「謎」すら明かすほどの、電球の持つその先を照らす「光」を持ってしての「明かす者のベストマッチ」。オクトパスライトフォームである。
完成と同時に再びハンドルを回す。ニトロダイナモによって伝わる動力が頂点に達するとベルトが今度は有無を言わさず、俺に決め技を押し付ける。
「Ready GO!!!」
肩から外した電球を左手にグローブの要領で装着。内部フィラメントがジリジリと燻ったと思うと手甲と一体になったスポットライト「シェードブレイカー」がヒューズの役割を果たし、ライトバルブショルダーが星が落ちてきたかと錯覚するほどの強烈な光を解放する。
「うおっ……!?」
「わああああ!?!?」
「これはっ!!?」
『ウギャーーー!?!?』
視覚センサーを光学から赤外線へシフト。捉えた。
ぼんやりと移る常闇の影に向かってフル稼働状態のフューリーオクトパスの触手を飛ばし、吸盤側を全て内側にし全身を巻きとる。
『VOLTEC FINISH!!! YEAHHHHHHHHH!!!!』
「(核兵器……は、ギリギリ射程外か)」
咄嗟に飯田は俺と対角線を結ぶように退避していたようで、フューリーオクトパスのボルテック状態での触手でも届かない位置に構えていた。
何はともあれ捕まえた常闇をグイッとこちらに引き寄せる。ライトバルブショルダーの光が消えるタイミングで触手を解放すると眩しい中ずっと俺のそばでテープを構えていた麗日が「はいっ!」と常闇のくちばしにくるりと捕獲テープを巻き付ける。
「実験成功」
「ぐおおおおおおおう!!!桐生くん!!!目が!!!目があぁぁぁ!!!」
「悪い悪い」
麗日が目を抑えてその場でごろごろ転がり始める。
「ひふははほへほはーふはほほはひはひひほはひほははふは?」
「なーんて言ってるかわかんないよ」
くちばしにテープを巻かれた常闇がもごもごなんか言ってる。
「まあ、あらかた俺がお前の弱点にいつ気がついたのかってとこだろ。まあ、確信を持ったのは今さっきだよ。お前の個性が「自分の影を操る」とかだったら光の強い場所ならなおさらパワーが出るんじゃねえのかとか考えたけど、どうやらそれとはまた事情が違うらしい。建物の中で一番差し込む光の強い南側開口部を避けて、北側のエリアに拘ってるのを見て、ああそういうこと、ってなったって具合か。」
ああなるからこうなる、が科学の基本だからな。その辺の解体は俺の十八番だ。
常闇を部屋の隅に座らせ、未だこちらを見据えて動向を伺う飯田を見やる。
小回りも効くし瞬発力もある。ギアっつってたな。多分やりようによっちゃパワー比べも得意とするところだろう。やっぱり純粋な身体能力強化系の個性は厄介だ。
飯田メタになるようなボトルがあったかどうか思考を巡らせていると突然建物が激しく揺れ始める。
「おっふ」
「なんだ!?爆豪くんか!?何をしているんだ彼は!!」
「(チャンス!!)」
私怨のみで動く爆豪に対し憤りを隠せない飯田。それを見た麗日がここぞとばかりに自身に個性を仕掛け駆ける。
「ぬっ!!させない!!」
「ほいさ!!」
ぴょいーんとうさぎのように大ジャンプ。恐らくキャパギリギリなのだろう。飯田を飛び越えると即座に解除し核兵器に向かって降下する。
「負担の大きい超必です!」
しかしここで飯田自慢の機動力が唸る。
DRN!!!
「あれーーーーーー!?」
触れる寸前まで来ていた麗日すら振り切る瞬発力と速度で再び距離を取る。クソー。エンジン。思った以上に屋内戦で発揮される光り物がある。
「君の個性は触れられさえしなければ驚異ではない!このまま時間いっぱいまで粘らせてもらうぜ!ぐへへ!」
この取って付けたような悪役ムーブよ。
さて、ボルテック後のスーツは著しく機能が低下する。まあどちらにせよ「俺の限界」が近いのでそろそろ決めにかからなければならないんだけど……
『麗日さん!桐生くん!聞こえる!?状況は!?』
チーム内のプライベートチャンネルで下階の緑谷から連絡が入る。元々ガッツのある奴だとは思っていたけどあの爆豪相手にここまで凌ぐとは思わなんだ。
爆豪が緑谷にやたら固執しているのは見てりゃアホでもわかる。だから緑谷が下階で粘ってるってことはもう暫くはあの爆発頭の襲撃を見越して計算をする必要はないわけだ。それだけでもこちらから答えを整えるために揃えなきゃならん数字が少なくなってありがたい。
「ああ、常闇は抑えた。そっちはどうだ。こっちに来るの無理そうか」
『多分無理!だから、ちょっと今考えたんだ事があるんだ!』
緑谷曰く、
今から全力のスマッシュを直上にぶっぱするからフロア中心を避けてどこかに捕まれと。それに乗じて麗日の個性で叩き折れた柱を持ち上げて瓦礫を野球宜しくカッ飛ばして飯田を怯ませてあとは麗日の個性でくっつけばミッション完了と言った具合だ。
でもそれ、実践じゃアウトだな。飯田がひるむ前に核兵器どっかんでしょ。それ。怯むどころか俺達諸共星になるんですけれども。
「まあそう、焦んなよ。緑谷、そこの爆発頭連れてこっち来れるか?」
『えっ?』
「インスピレーションは実践の中に見つけたりだ。任せなさいよ」
『……わかった!やってみ……どわぁ!?』
直後、今日何度目かの爆破音と激しい揺れ。
勘弁してくれ。そろそろビルドスーツのあれと揺れのあれで俺の三半規管があれであれであれだ。やめて。