東方探求記~secret researcher~   作:ス・ザク

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第5話:護る者と護られる者

「かかって来い、妖怪」

 

俺はただ一点、目の前の妖怪だけを見つめる

 

理由はただ一つ、戦う為に

 

 

「っ…!人間の癖に…!」

 

 

予想外の展開に戸惑いを露わにしつつ、今度は幾つものバスケットボールぐらいの大きさの弾幕をばら撒く

 

俺はサイドステップの要領で回避し、避けられそうにない弾幕には右手を伸ばす

 

 

パキン!という効果音と共にバスケットボールは消滅した

 

 

体勢を立て直し、再び正面に向き直る

 

 

「あんた…一体何者!?」

 

流石にこれには妖怪も驚きの声をあげる

 

無理も無い、仮にも只の人間が妖怪の攻撃を受け流しているのだから

 

 

「もう一度だけ言う、勘弁してやってくれないか?」

 

妖怪の問いかけには応じず、再び目の前を見つめて告げる

 

 

「こいつだって、精一杯生きてんだ、それをお前みたいな奴に、ましてや同じ妖怪なのに…」

 

少し言葉に詰まり、次の言葉を口にしようとしたその時…

 

 

「っ…知った様な口を聞くんじゃないわよ!」

 

突如、少女は俺の言葉を遮り、怒声をあげる

 

 

「あんた達だけが悲しみを背負ってる訳じゃない、私の仲間だって、あんた達人間に食べられた…唐揚げ、焼き鳥という形でね、だから人間は嫌いよ!ひとたび口を開けば綺麗事しか出てこない、あんたは只の偽善者なのよ!そんな奴に閻魔の真似事されるなんて堪ったものじゃないわ!」

「閻魔の真似事?一体何を言って…っ!!」

 

一通り怒りをぶつけた彼女は、突如再び弾幕を放つ

 

俺は咄嗟に右手を伸ばしてそれを打ち消す

 

 

パキン

 

 

俺にとっては飽きる程聞いた効果音、飽きる程見てきた光景

 

だが、目の前の妖怪にとってそれはイレギュラーの存在なのか、顔が強張る

 

 

 

はぁ…と一息つき、俺は口を開く

 

 

「確かにお前の主張も一理ある」

 

けどな、と、接続語を入れ、そのまま続ける

 

 

「仕返しだろうが腹癒せだろうが、自分も同じ事をすればその時点で同類になるんだよ、お前だって人間を食べようとしただろ!同じ事をしたからには一方的に否定する資格は無い!」

 

 

例えばネットの掲示板でも、度々煽りと取れる発言がよく見受けられる

 

当然、それを見ていい気分になる人は居ない、寧ろ、煽り主に対して怒りの念を抱く人もいる

 

でも、そこで煽り返したり、怒りの念をぶつけてしまえば?

 

無論その人自信も‘煽り主’になってしまう

 

 

つまり、仕返しも結局は愚かな行為なのだ

 

 

 

「何よ!そう言うんだったらあんただってそこの下級妖怪を庇う義理なんて無いでしょ!?」

 

確かにそうだ、俺達だって他の生命を食す生き物だ

故に他の誰かが生命を食らおうとする様を否定して横槍を入れるのは間違ってるのかもしれない

 

「あぁ、でもな…」

 

それでも、ただ一つだけ、自信を持って言い張れる事がある

 

 

 

 

 

「誰かを救う事に、理由なんていらないんだよ」

「…っ!?」

 

そう、助ける事に理由なんていらない

 

助けるっていうのは理屈云々じゃなく、所詮その人自身の勝手な行為に過ぎないんだから

 

 

結局、さっきまでの論議は、これに関しては関係の無い、どうでもいい事だった

 

 

「…いいわ」

 

少女は少し冷静さを取り戻し、俺に向かって言った

 

 

「あんた如きにこの能力は使うまでも無いと思っていたけれど、少々侮っていたわ…この私、『ミスティア・ローレライ』の本気、あんたに見せてあげるわ!」

 

自然な流れでさらっと自己紹介する辺り流石だと思った

 

 

さっきまでとは違う雰囲気に、俺は身構える

 

 

そして彼女、ミスティアは静かに目を閉じ…

 

 

 

「夜の鳥ぃ、夜の歌ぁ♪」

 

…何やら歌い始めたのだ

 

 

「人は暗夜に灯(てい)を消せぇ♪」

 

歌詞こそハチャメチャだが、その歌声は中々センスあるものだった

 

 

だが、関心していたその時

 

 

 

「…!?!?」

 

 

 

辺りの景色が、全て暗闇に飲み込まれた

 

 

(な、何だこれは!?)

 

突然の出来事に戸惑っていると、今度は目の前が一瞬フラッシュする

 

身の危険を感じ、とっさに右手を伸ばす

 

 

パキン!という効果音と共に再び暗黒に包まれる

恐らく今のは弾幕だったみたいだ

 

再び身構えたその時だった

 

 

バキッ!

 

顎に衝撃が加えられ、体が宙に浮いた

 

 

「がはっ…!」

 

そのまま背中から落下し、ドサッと床に打ちつけられる

 

 

激痛が走り、状況整理が追い付かない

 

ただ、顎を蹴り上げられ、今自分は倒れている事は何となく分かった

 

くそ…少女の癖になんつーパワーだ

 

 

「人間…!」

 

ヤマアラシの辛そうな叫び声も聞こえてきた

 

しかし、辺りは暗闇に包まれてどこに居るのか分からない

 

 

「…っ!どこだ!どこにいる!?」

「そんなに大声出さなくても、私はさっきからあんたの目の前にいるわよ♪」

 

声を張り上げると、正面から彼女の声が飛んで来た

 

 

一体どうなってやがる…

 

 

 

(確かこいつ…)

 

働かない頭を無理やり働かせ、状況整理を始める

 

 

 

 

『私の仲間だって、あんた達人間に食べられた…唐揚げ、焼き鳥という形でね』

 

ふと、さっきのミスティアの発言が脳裏に蘇る

 

 

(焼き鳥…鳥?)

 

そこで俺はある事を思い出した

 

 

焼き鳥と言うからにはこいつは鳥の妖怪だろう

 

だが重要なのはそこじゃない

 

 

(鳥…鳥…はっ、そうか!)

 

俺は、鳥で連想されるとある病気を知っている

 

 

(恐らく、俺は‘鳥目’にされたんだ!)

 

鳥目というのは‘夜盲症’の別名で、暗い所だと極端に視力が落ちる病気だ

 

 

人間の眼には明るい環境や暗い環境に馴染む‘明暗順応’というものが備わっている

 

 

例えば真っ暗な部屋で寝ていて途中で目が覚め、照明を付けると最初は眩しくて目を開けられないが、次第に明るさに慣れ、見えてくるようになる、これを‘明順応’と言い、明るい所から急に暗い所、例えばトンネルなどに入ると、最初は殆ど何も見えないが、しだいにうす暗いものが見えるようになる、これを‘暗順応’と言う

 

しかし夜盲症にかかると、後者の‘暗順応’が機能しなくなり、暗闇の中だと何も見えないままになるのだ

 

 

 

 

「くそっ…!」

 

原因は分かった、でも一体どうすれば…

 

 

「ふふふ、これでとどめよ!」

 

しかし妖怪少女はシンキングタイムをくれてやる程親切では無い

 

 

まずい…!

 

急いで体を起こそうとするが、さっきの衝撃で中々言う事を聞いてくれない

 

 

俺は攻撃に備え、右手を前に突き出し、何も見えない空間でギュっと目を閉じた

 

 

 

 

が、その時

 

 

 

 

カキン!

 

 

 

すぐ近くで効果音が響いた

 

 

ただし、それは俺の右手が弾幕を打ち消した音では無い

 

 

 

「やらせて…たまる…かよ…」

 

続いて辛そうなヤマアラシの声が聞こえた

 

一体何がどうなってるんだ…?

 

 

「あら、こんなにボロボロになってもまだ力が残ってたなんてね、正直驚いたわ」

 

ミスティアが俺では無い誰かに向けて言葉を発する

 

言動から察するにあのヤマアラシが割って入って俺を助けてくれたのだろう

 

有難いけど無茶だ、あんな傷だらけの身体で無傷の彼女に挑むなんて…

 

 

「邪魔よ」

 

だが、バンッ!という鈍い効果音と共にヤマアラシが小さな悲鳴をあげた

 

恐らく振り払われ、地面に叩き付けられたのだと思われる

 

 

 

「気が変わったわ、まずはあんたを動けなくしてあげる」

 

鳥少女がそう言うと、ザッザッと、どこかに歩み寄る足音が聞こえてくる、恐らくはあの動物の方へ向かっている

 

彼女の中の優先順位が入れ替わったようだ

 

 

(ま…ずい!)

 

このままでは本当にやられてしまう、これじゃあ本末転倒だ

 

助けないと…でも目が見えないんじゃぁ…

 

 

(ん?待てよ…)

 

ここで俺は、再びミスティアの言葉を思い出す

 

 

 

 

『あんた如きにこの能力は使うまでも無いと思っていたけれど、少々侮っていたわ』

 

 

(能力…そうか!)

 

俺はあいつの歌を聞いて鳥目になったんだ

 

恐らく、これが彼女の‘能力’なのだろう

 

いい歌のセンスしてるのにこんな事の為に使うなんて勿体無い、コンサートでも開いたら儲かるだろうにな

 

 

それはさておき

 

 

(だとすれば…)

 

俺は思い出したように右手の掌を両目瞼に当てた

 

 

 

パキン!

 

 

脳内であの効果音が再生される

 

 

すると…

 

 

 

 

さっきまで辺りを覆っていた暗黒は取り払われ、再び元の景色が蘇った

 

 

(見える…!)

 

何で最初から気付かなかったんだろう、こんな簡単な解決法があるなんて

 

弾幕や妖怪の力を無力化出来るんだったら、能力による干渉も打ち消せたっておかしくは無い

 

一見根拠の無い理屈のようにも思えるが、何となく直感がそう語っていた

 

 

 

俺はすぐさま立ちあがり、ミスティアの方を向く

 

見ると、こちらに背を向ける形で、ヤマアラシの目の前に立っていた

 

俺は右手をギュッと握りしめて歩み寄る

 

 

 

互いの距離はおよそ10メートル

 

気付かれぬよう、一歩一歩背後から接近する

 

 

そして…

 

 

 

ダッ!と駆け出し、一気に鳥少女へと突っ込んだ

 

 

「ミスティアァァァァァ!」

 

彼女の名を叫び、その声にミスティアはようやくこちらに気付き、振り向く

 

 

そして俺は間髪入れずに右手を振り上げ…

 

 

 

ガッ!

 

 

少女の顔に弾幕(物理)をお見舞いした!

 

 

 

 

「きゃあっ!」

 

ミスティアは小さな悲鳴を上げ、勢いで背中から地面に倒れる

 

 

ドサッ!と背中を打ち付け、目を閉じてぐったりした

 

 

 

 

やっべやり過ぎたか?と思い、念のためミスティアの顔を覗き込む

 

息はしている、気を失ってるだけのようだ

 

 

 

しかしこうして見ると、妖怪とは言え、大人しくしているとそこらの可愛らしい少女と変わらないな

 

そんな子が弾幕放って来たり鳥目にして来るんだから恐ろしい

 

 

 

おっといけね

 

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

俺は先程のダメージも相俟ってぐったりしているヤマアラシに寄り添う

 

本命よりも先に敵の心配をするのはどうなんだと突っ込まれるかもしれないが細かい事は気にしない

 

 

 

「うぐ…情けねぇが…このザマだ…」

 

こちらの方は思ったよりダメージが深刻だった

 

最初見た時よりも傷が増しており、呼吸も活気が無い、徐々に体力が衰えているのを肌で感じる

 

 

このまま放っておくと危ない、けど、一体どうすれば…

 

 

 

「う、うう…ん」

 

やば、鳥少女の意識が戻って来たみたいだ

 

こんな所で考え事をしてる場合では無い、目を覚ます前にここから早く立ち去らなければ…

 

 

(とりあえずあの人の所へ連れて行こう)

 

 

俺はヤマアラシを両手で抱き抱え、人里へと走った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後俺は人里へ帰り、慧音さんの家へと急いだ

 

 

扉をノックし、「何の用だ」と言って中から出てきた慧音さんは、負傷した動物を抱えた俺を見て、只事では無いと察してくれたのか、何も言わずに通してくれた

 

 

すぐに慧音さんは水の入った桶とタオルと救急箱を持ち出し、傷の手当てを始めた

 

最初俺はその様子を傍から見守っていたが、何か手伝える事は無いかと慧音さんに尋ね、指示に従って治療のサポートをした

 

 

 

そして現在

 

 

「これで良し、後は安静にしていればそのうち体力も回復するだろう」

「ありがとうございます、助かりました」

 

敷かれた布団の上には、胴に包帯を巻かれたヤマアラシが眠っている

 

呼吸もだいぶ安定し、順調に回復へと向かっていた

 

 

 

「ところでこの妖怪はどこで拾ってきた?そして何があったんだ?」

 

一段落着いた所で改めて慧音さんが訳を尋ねる、まあそりゃ気になるよね

 

そして俺はその質問に対して…

 

 

「ええと、森の中でミスティアっていう鳥の妖怪に襲われていた所に割って入って助け出し…あ」

 

‘ごく自然な流れ’で答えてしまったのだ

 

 

(し、しまった…!)

 

仮にもこの人から森に行くなって言われてるのを破った事を本人に暴露してどうすんだよ俺!?

 

 

 

「ほう、森の中で妖怪に…か」

 

あの…もしもし慧音さん?何か目つきが怖いですよ?そして何でこっちに向かって歩み寄って来るんですか?

 

 

俺は後ずさるが壁が背中にくっつき、あっさりと接近を許してしまった

 

 

慧音さんは俺の目の前に立ち、ガシッと両肩をホールドする…ちょ、痛いって!あまり力入れないでください!ってか握力いくつですか貴方!?

 

 

「お前は…」

 

慧音さんはそう言って頭を後ろに引く

 

一体何をする気ですか!?…ってこれってもしや

 

 

嫌な予感は鳥肌として表れた

 

 

 

 

「何故私の言いつけを破ったんだ!」

 

彼女がそう叫ぶや否や、頭を俺のお凸目掛けて振り降ろし、ガンッ!という鈍い音がした

 

 

 

 

 

その直後、慧音さん宅から少年の悲鳴が漏れ、静かな人里に響き渡り、せっかく眠りに就いていた人々から大層迷惑がられたという

 

 

ああ、この人怒ると怖いんだな、これからは人の言いつけはしっかり守る事にしよう、じゃないとまたダイナミックな頭突きを真正面から喰らう事になってしまう、こんな痛い経験はもうニ度と御免だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、ヤマアラシが心配だった事もあり、慧音さんの家に泊めて貰った

 

勿論俺から図々しく頼みこんだ訳では無く、慧音さん直々の善意だった、ついでに腹も減っていたので、おゆはんも頂く事に…善意に甘えたとは言え十分図々しいなんて思ってはいけない

 

 

 

布団を敷き、明かりを消して就寝する態勢に入る

 

俺は横になって布団をかぶり、隣で寝ている動物妖怪に目を向ける

 

 

するとヤマアラシはこちらに気付いたのか、静かに目を覚まし、口を開いた

 

「ここ…は?」

 

声こそ静かだが、あの時の弱々しさは無い、何とか回復しているみたいだった

 

 

「やっと気が付いたか、ここは慧音さんの家、つまり人里だ」

「何故、俺はこんな所に?」

 

どうやらこの様子だと今の今までずっと気を失っていたようだ

 

 

俺はヤマアラシにこれまでの経緯を説明した

 

俺が慧音さんの家に運んで行った事、手当をして頂いた事、俺が頭突きを喰らった事(どうでもいい事だが)など…

 

 

一通り聞いたヤマアラシは「そうだったのか…」と呟き、涙を零した

 

 

 

「あんたは命の恩人だ、もしあの時あんたが駆けつけて来なかったら俺は死んでいた…」

 

最も俺自身も鳥目にされ、結構危ない所だった

 

一歩間違えればそれこそ懲らしめられていただろう

 

 

 

「それで、一つ頼みがあるんだが…」

 

すると動物は少し改まって、こんなお願いをして来たのだ

 

 

 

「あんたと行動を共にしたい、恩返しと言っては何だが…あんたの力になりたいんだ」

 

RPG等にありがちのベタベタな展開だった、まさかそれをリアルで目にする事になるとは…

 

 

俺はしばし考える

 

 

 

どのみち一人ではこの世界で生きていくのは辛いだろう、現にこうして慧音さんの世話になってる訳だし、かと言って毎日のように手を煩わせる訳にはいかない

 

それに、この妖怪の誠意を台無しにしたく無い

 

 

 

出した答えは簡単だった

 

 

「ああ、是非とも力を貸して欲しい、俺と一緒に来てくれ」

「本当か?」

「ああ」

 

本音言うと一人だと不安だった

 

だから常に自分の支えとなってくれる存在が欲しかった、俺は小さい頃から、両親に支えられた事なんて必要最低限しか無かった

 

 

だから欲しかった、いつも自分の傍にいて、いつも自分の、心の支えとなるような存在が…

 

 

 

 

 

「俺は岡野正也、君の名前は?」

「俺は…不知火だ、これからよろしく頼む」

 

自己紹介を交わし、俺は静かに微笑んだ

 

まさか、これほど温かい体験をする日が来るなんてな

 

 

 

 

「ああ、よろしくな、相棒」

 

 

俺はこの世界に来て、初めてのパートナーを手に入れた

 

明日からもっと頑張れる、そんな気がした

 

 

 

TO BE CONTINUED




そういえばミスティアのヘアカラーって何色なんでしょうか?
永夜抄、花映塚の絵を見る限りではピンク、桃色っぽい気がするのですが、皆さんはどうでしょう?
桃色って書くと何となくゆゆ様を思い浮かべますね…
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