駒川の者として   作:マルチビタミン

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「駒川の者として」読んでくださりありがとうございます。

第十一話になります。
それではどうぞ。





第十一話「告白」

 

 

 玉石(ぎょくせき)から生まれし神と、獣から生まれし神。

 それが、穂織の山の神が産み出した神なのだと、榎本さんから貰い受けた書物には書かれていた。

 

 玉石から生まれし神は、黄金色の髪で見た者すべてを魅了するほどの美しい姿をしており、人を慈しむ心を持っていた。

 獣から生まれし神は、白くて大きな勇ましい山犬の姿で、人間に対しては厳しいが、その力で穂織を厄災から守っていた。

 

「二柱の神が、穂織を守っていた……か。土地神から授かったとされる叢雨丸と何か関係があるんだろうか?」

 

 徹夜で解読を進めた結果、新たに分かったことは二柱の神についてだけ。虫食いやカビなどのせいで朽ちた箇所が予想以上に多かったため、これでも完璧に解読できたとは言えないが、新たな情報はより多くの考察を生み出してくれる。

 

「お疲れ様。コーヒー淹れてこようか?」

「ああ、すまない……いや待て、茉子。いつから俺の部屋に居たんだ?」

「三十分くらい前かな?相変わらず、集中すると全然気づかないよね」

 

 呆れた顔で茉子が答える。三十分も前から一緒にいたのに気づかないとは、大変失礼なことをしてしまった。

 

「悪い。自分でも気をつけているんだけど、目の前に資料があるとどうしてもな。体調の方はもう大丈夫なのかい?」

「うん、バッチリ♪誰かさんが看病してくれたおかげでね」

「そうか。そう言ってくれると、その誰かさんも喜んでるだろうな」

「あは。ありがとね、幸彦」

 

 お礼を言われるほどのことはしていないが、ありがとうと言われたら嬉しくなるし、自然と口元も緩んでしまう。まぁ、最終的に姉さんの鉄拳制裁に倒れて最後まで面倒は見れなかったけどな。

 

「それで、なんでここにいるんだい?芳乃様のところにはいかなくてよかったのか?」

「それが……いつも通り芳乃様の家に行ったんだけど、『病み上がりなんだから茉子は休んでて』と言われちゃって」

「それで手持ち無沙汰になったから俺の家に来たわけか。家でゆっくり休むという考えは……なかったからここにいるんだよな」

「あは、そうゆう事。あと言伝も頼まれてるの」

「言伝?」

「有地さんが祟り神退治の時に拾った欠片を調べて欲しいって、ムラサメ様が」

 

 ムラサメ様が調べて欲しいと言い出したという事は、欠片とやらから何か感じ取ったのだろう。さらにその欠片を見つけた場所が祟り神を退治した場所となれば、呪詛関係のものである可能性が高い。

 

「ムラサメ様が言うからには、ただの欠片ってわけじゃなさそうだな。姉さんには……」

「もう伝えてある」

「さすがだな。芳乃様たちはいつこちらに?」

「そろそろだと思うんだけど——」

 

 ちょうどその時、家のチャイムが鳴り来客を知らせる。

 

「来たみたいだね。行こうか」

 

 ここに来て呪詛の謎を解くカギになるかもしれないものが立て続けにでてくるなんて。これは偶然なのか、それとも有地が穂織に来たことで運命の輪が回り出したのか。

 このチャンスを逃すわけにはいかない。俺は一際気を引き締めて、有地たちのところへ向かうのだった。

 

 

 

 

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「ここが駒川診療所か……。幸彦はここに住んでるの?」

「そういえば、有地さんは初めてでしたね。駒川診療所はみづはさんがいつでも対応できるように奥が居住スペースになっているんですよ」

「へぇ〜」

 

 確かに、みづはさんって多忙だからな。こういう造りにしないと家に帰る事もままならないんだろう。

 

 チャイムを押すと中から幸彦と常陸さんが顔をだす。

 

「いらっしゃい。茉子から話しは聞いてるよ」

 

 そう言うと俺たちを家の中に招き入れる。そのまま幸彦についていき案内されたのはみづはさんの書斎だった。

 

「おはよう諸君。待っていたよ。早速だけど、有地君が見つけたという欠片を見せてはもらえないだろうか」

「はい。これなんですけど」

 

 俺はポケットから例の欠片を取り出し机に置く。

 幸彦とみづはさんはそれを興味深そうに眺める。

 

「なるほど、確かに微力だが霊力を秘めているな」

「それだけではないのだ。その欠片からはなんだかご主人と似たような気配を感じる」

「有地と似たような…ですか。有地はどうしてこれを拾ったんだ?」

「どうしてって言われても、ただ気になったからとしか」

「気になったか。つまり何かしらに引き寄せられてる可能性もあるな。ふむ……」

 

 幸彦は何やら考え込むと、次に朝武さんと常陸さんに目を向ける。

 

「二人はどう感じる?」

「ワタシにはただの綺麗な欠片にしか見えないかな。芳乃様はどうです?」

「私は……そうね。強いて言うならなんだか安心するような、そんな感じがする」

 

 そう言いながら、朝武さんは欠片に手を伸ばす。瞬間

 

「きゃっ!」

 

 何かに弾かれたように手を離す朝武さん。

 

「芳乃様!?大丈夫ですか?」

「平気、ただちょっとビリっとしただけだから」

「また……ビリっとですか」

 

 幸彦は常陸さんに目配りをすると、常陸さんもそれに頷いて答える。どうやら二人には何か心当たりがあるみたいだ。

 朝武さんはもう一度、今度は慎重に欠片に手を伸ばす。そして欠片を掴むと光に透かして覗き込む。

 

「でも、本当に綺麗な欠片ですよね。まるで水晶や宝石の欠片みたい」

「芳乃が触っても耳が生えることはないか。穢れもないようだし、呪詛との関わりは薄いかもしれんな」

「そうだね」

「ムラサメ様はなんと言ってるんだい?」

 

 一人だけムラサメちゃんが見えないみづはさんに、ムラサメちゃんの言葉を伝える。

 

「確かに、そうかもしれないですね。でも、これで幾つかの問題がはっきりしたね。この欠片の大元になっているものがあるのか。なぜ祟り神を退治した場所に落ちていたのか。この欠片以外にもたくさん存在しているのか。これらの問題を一つずつ解いていけば何かわかるはずだよ」

 

 みづはさんがこれから解いていくべき問題を提示してくれる。少しだけ前に進んでいけたような、そんな気がした。

 そんな中、幸彦だけがまだ何か考え込んでいるようだった。

 

「綺麗な欠片。水晶か宝石のよう。祟りに関係あるかもしれないもの。叢雨丸に選ばれた有地が感じるもの。穂織の山で玉石から生まれ出た神様。もしかすると……いや、でも……」

 

 顎に手を当てながらブツブツとつぶやいている幸彦。

 

「幸彦、何かわかったのかい?」

「いや、まだ仮説の段階だからなんとも言えないな。姉さんたちの思考の妨げにもなりかねない」

「わかった。何かあれば相談すること。いいね」

「わかってるよ姉さん。じゃあ早速相談なんだけど、今日は学校を休んで調査に--」

「却下だ。学生の本分は学校での勉強だ。それを疎かにすることは許されない」

「ぐぬぬ」

「調査なら吾輩が行こう。山で欠片を探せば良いのであろう?吾輩なら欠片の気配を感じることができる。それに霊体だからな。休憩も必要ない分効率もいい」

 

 ムラサメちゃんが名乗りを上げる。彼女が言う通り効率はいいだろう。

 

「ムラサメちゃん、無茶はしないでよ。暗くなる前にはちゃんと戻ってくるんだよ?知らないおじさんについて行っちゃダメだからね?」

「ご主人!吾輩を子供扱いするでない!これでも立派なれでぃなのだぞ!」

「ああ、ごめん。つい」

 

 俺からすれば、ムラサメちゃんって普通の女の子って感じだから。

 

「ムラサメ様、よろしいのですか?」

「うむ。吾輩ももっと皆の力になりたいと思っていたのだ。今までは見ていることしかできなかったからな。むしろ任せてくれたら嬉しいぞ」

「わかりました。お任せします。もし欠片を見つけたら有地か俺に知らせてください」

「うむ。了解だ」

 

 ムラサメちゃんは誇らしげに胸を張った。何百年と見守ることしかできなかった彼女にとって、朝武さんたちの役に立てることは本当に嬉しいことなのだろう。

 

「では、俺と姉さんは引き続き欠片の調査を。姉さん、欠片のことは任せていいかな。俺は文献から当たってみる」

「その方がいいだろう。考古学的知識は幸彦の方が上だからね。私は科学者の目線で調べさせてもらうよ」

 

 改めて、幸彦とみづはさんの凄さを実感する。専門的な研究をしているとは聞いていたが、このことで俺が手伝えることはないだろう。

 

「さぁ!学生諸君は早く学校へ行きたまえ。今なら二時間目の授業には間に合うだろう」

 

 みづはさんの掛け声によりこの場は解散となり、学校へと向かうことになる。

 

 診療所を出たところで朝武さんの足が止まった。少しだけ眼を伏せた後に視線を俺に向ける。

 

「朝武さん?どうしたの?」

「……有地さん。今日の夜、夕食が終わったら私の部屋に来てください。お話があります」

 

 女の子から部屋に来てくださいと言われれば、舞い上がってしまうのが男として当たり前の反応だろう。だが、俺を見つめる彼女の眼は真剣で、邪な気持ちになどならなかった。

 

 

 

 

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「……有地さん。今日の夜、夕食が終わったら私の部屋に来てください。お話があります」

 

 芳乃様の緊張した声から、どうやら朝武の呪いについて有地に打ち明ける決心をしたのだと理解する。

 内容が深刻であるだけに、有地に話すことを避けてきた芳乃様だが、これまでの有地の態度や姿勢を近くで見て覚悟を決めたのだろう。

 あとは有地が呪詛の詳しい内容を聞いてどう思うかだが、こればかりは本人次第になるだろう。俺たちができることはないので、今まで通り見守るしかない。

 

「わかった」

 

 有地も芳乃様の気持ちを感じたのだろう。真剣な表情で頷いた。

 

「では急ぎましょうか。もうすぐ二時間目が始まってしまいます」

「そうだな。あんまり遅くなると姉さんにまたどやされる」

 

 茉子がいつも通りの口調で登校を促し、俺も茉子の発言に便乗する。

 ここで今すぐ話をするわけではないし、変にかしこまる必要もない。

 これから有地が聞く話は辛い現実かもしれないが、だからこそ今は学生の本分を果たすべきなんだ。

 みんなが祟り神と、運命と戦わなくてはいけない分、日常生活の平和は何としても守っていかなくては。そう思った時、どこかからか向けられる嫌な視線を感じとる。

 

「すまない。先に学校へ行ってくれ。忘れ物をしてしまった」

 

 有地と芳乃様に気取られないように言うと、茉子に一瞬だけ視線を向ける。

 茉子はそれで理解してくれたらしく、小さく頷くと、芳乃様たちに声を掛ける。

 

「まったくドジですね〜。芳乃様、有地さん、幸彦は置いていって早く行きましょう」

「ぐっ。棘のある言い方だな」

「忘れ物なんかするからですよ〜」

「忘れたものは仕方ないだろ」

「もう、幸彦も茉子も子供みたいな言い合いしないの!」

「あはは、二人はほんと仲いいよな」

 

 どうやら二人に気づかれずに離れられそうだ。

 憎まれ口を叩きながら、俺は視線が向けられていたと思われる場所に向かった。どうやら視線は芳乃様を追っているようで俺の動きに勘付いてはいないようだ。

 

 一キロほど離れた山の中に、その男はいた。

 草の中でうつぶせになり、望遠レンズを付けたカメラを覗き込んでいる。

 おれは気配を消してそいつに近付き、背後から相手の動きを封じるために関節を極めて頭を地面に押し付ける。榎本さんに教えて貰った固め技である。

 男はなんとか逃れようと身悶えるが、この程度で逃すような柔な鍛え方はしていない。

 

「動くんじゃない。下手に動くと関節が外れるぞ?」

 

 俺が低い声で忠告すると、男は観念したのかそれ以上動かなくなった。

 

「なぜ芳乃様を監視するような真似をした?答えろ」

「………」

「だんまりか。早く答えた方が身のためだぞ」

 

 関節が外れない程度の痛みを与えるため手の力を強める。すると男の体の中からカチッという音と時計の針のような規則正しい音が聞こえてきた。まるで時限爆弾が作動したような……。

 嫌な予感がした俺は、咄嗟に男を突き放し、木陰に身を隠す。

 瞬間、鈍い爆発音と共に男の体は粉々に弾け散った。

 

「っ!?こんなところで自爆だと?」

 

 あと数秒、男を突き飛ばすのが遅れていたら無事ではすまなかっただろう。

 木陰から慎重に身を乗り出すと、男の元へと向かう。しかしそこには男の肉片の代わりに肌色のプラスチックが転がっているだけだった。

 

「傀儡……いや、ただのマネキンか?」

 

 近くには先ほどの男のようなマネキンの頭が転がっていた。

 

「これはどうやら、本格的に調べる必要があるな。」

 

 呪詛の秘密がわかるかもしれない大事な時に、厄介ごとは次から次へと降りかかってくる。今回の件は、()()()に相談した方がいいだろう。

 俺は散らばったプラスチックの破片を一つ手に取りポケットにしまうと、一旦学校へと向かうのだった。

 

 

 

 

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 診療所の前で言われた通り、夕食を食べ終えた俺は朝武さんの部屋へと向かった。ドアをノックし中に入ると、朝武さんが俺を待っていた。

 

「お待ちしてました、有地さん」

 

 俺は朝武さんの前に腰掛ける。

 朝武さんの部屋は想像どおり綺麗に整頓されている和式の部屋であったが、所々に可愛らしい小物が置かれている彼女らしい部屋だった。

 朝武さんは一度姿勢を正してから話し出した。

 

「最初に、有地さんにお渡ししたいものがあります」

 

 そう言って彼女が取り出したものは、数冊のノートだった。

 

「これは?」

「朝武の呪いに関する資料です。みづはさんと幸彦から借りてきました」

 

 ノートを手に取り中を確認すると、手書きでわかりやすく呪詛やその歴史について書かれてあった。

 

「すべてお話しします。朝武にかけられた呪いについて」

 

 朝武さんは真っ直ぐ俺の目を見つめてくる。その目を見ればわかる。彼女がどれだけの覚悟で俺に話そうとしているのか。それはつまり、祟り神や獣の耳以外にも、朝武家が抱えている呪いが存在しているということだ。

 

「呪いについて話す前に、有地さんは穂織の伝承をどこまで知っていますか?」

「伝承って叢雨丸の話だよね。たしか妖にそそのかされた隣国の大名が攻めてきて、神様から叢雨丸を授かって、妖を見事に退治。隣国の大名も退けたって話だっけ」

「概ね間違ってはいません。その伝承は、本当にあった話なんです」

「まさか、そんなおとぎ話みたいなの……」

 

 そう言ってハッとした。俺はこの穂織に来てから何度となく物語以上の奇怪な出来事に遭遇している。それに叢雨丸が実際に存在している時点で、伝承が事実を語っていることが証明されたようなものである。

 

「だいぶ脚色されている部分もあるので初めから説明すると——」

 

 朝武さんは、呪いのきっかけとなった出来事を俺に説明してくれた。

 朝武家の中で家督争いが発生したこと。

 当時の長男が傍若無人の考えなしだったこと。

 次男は頭脳明晰で思慮深く、周りから信頼されていたこと。

 弟に家督を取られそうになった長男が謀反を起こしたこと。

 大きな厄災が穂織を襲ったこと。

 叢雨丸が誕生した経緯。

 そして……。

 

「結果、長男は次男に敗れました。ですが長男は亡くなる前に生き残った朝武の人間を恨み、呪詛として残しました。呪いには種類があって、一つが、ここ数百年間、朝武の子供には一度も男の子が生まれていないこと。もう一つは、朝武の当主は皆短命だということです。長くても五十歳が限界なんです」

 

 朝武さんの口から淡々と語られる呪いの事実に、俺の頭は混乱していた。

 

 数百年間一度も男の子が生まれていない?

 短命で長くても五十歳が限界?

 

「どうして、そんな……」

「恐らく、朝武の血を断絶させるためだと思われます。私の母も、少し前に亡くなりました。そしてそれは、私も同じ」

 

 俺は絶句してしまう。朝武さんは俺が想像していたよりもはるかに重い宿命を背負っていたのだ。慰めの言葉など出てくるはずがない。どれだけ言葉を飾ろうと、呪いというもの自体をどうにかしない限り、彼女の運命は決められてしまっているのだ。

 きっとひどい顔になっていたのだろう。朝武さんはそんな俺の顔を見て努めて明るく言ってくれた。

 

「今すぐどうこうなるわけではありません。私も健康に問題はありませんし、子供を産まずに亡くなった方もいません」

「そっか」

 

 そんな言葉しか出てこない自分が不甲斐なかった。

 

「私は、この呪いを必ず解かなければいけないんです。じゃないと……。いえ、今の言葉は聞かなかったことにしてください」

 

 なんでだろうか。必ず呪いを解かなければいけないと口にした彼女を見た時、とても危ういと思った。

 

「とにかく、これが……私が隠していたことです」

 

 今までの俺の行動を振り返る。朝武さんが抱えているものを知った今、無神経な発言や行動があったのではないかとひどく後悔した。

 

「……ごめん、嫌な話をさせちゃって」

「違います。私が有地さんに知って欲しいと思ったんです。だから、謝らないでください。有地さんにはこれからも、なんといいますか、今まで通りのままでいて欲しい……です」

 

 少しだけ顔を赤らめる朝武さん。

 ヤバい、なんかちょっとドキッとした。同時に彼女が今まで隠してきた意味がなんとなくわかった気がした。

 最初からこの話を聞かされていたら、きっと俺は同情してしまう。腫れ物に触るような態度になっていたかもしれない。そして…朝武さんの事情を勝手に背負って、責任感のようなものからお祓いに参加していただろう。

 きっと朝武さんはそれが耐えられなかったのだ。

 誰かに自分の宿命を勝手に背負われるのが。

 

「うん。そうだね。ありがとう朝武さん。俺に話してくれて」

 

 俺を信用してくれて。

 

「よーし!やる気出てきたぞ!」

「あの、有地さん。ですからあまり気を張り切りすぎないでも——」

「わかってる。でも、呪いをどうにかすることは俺のためでもあるし、何より」

 

 俺は朝武さんの目を真っ直ぐ見つめる。彼女が俺にしてくれたように。

 

「友達が困っていたら助けてあげたい。本当の友達になれた今だからこそ、心からそう思うんだ」

 

 そうだ。俺が朝武さんを助けたいと考えたのは、彼女の境遇や宿命を哀れんだからではない。

 彼女の優しさを知ったから。彼女の笑顔を守りたいと考えたから。

 だから俺は彼女のために何かしようと思ったんだ。

 目的は何も変わらない。

 

「だからさ、朝武さん。これからも一緒に探そう。呪いを解く方法を。俺たちと」

 

 俺だけじゃない。常陸さんも幸彦も安春さんもムラサメちゃんだってみんな想いは一つなんだから。

 

「……そうですね。少し被害妄想が過ぎたのかもしれません。改めて、私からも宜しくお願いします」

 

 お互いに笑いあう。少し前までは、朝武さんと笑いあうなんてできなかった。

 そう。少しだが確実に俺たちは前に進んでいるんだ。

 先の見えない長い戦いになるかもしれないが、明るい未来を迎えるためにこれからも進み続ける。朝武さんとなら、それができる気がした。

 

 

 

 

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 夕方。日が暮れて暗くなってくると、商店街の人通りはぐんと減る。だいたい19時を過ぎる頃には多くの店が閉まってしまう。

 俺が向かっている魚屋「魚政」も例外ではない。

 ちょうど店の暖簾をしまおうとしている魚海の親父さんが俺に気づいて声をかけてくる。

 

「おう、幸彦。もう店仕舞いだぞ。なんか用か?」

「おやじさん、折り入って相談があります」

「給料は上げないぞ?」

「お金の相談なんかしませんよ」

「冗談だ。そう怖い顔するなよ。ちょっと待ってろ」

 

 そう言うと暖簾やのぼりを店の奥にしまい出す。

 

「あっと、そうだ……相当厄介な相談だろ?今のうちに榎本呼んでこい」

「……まだ相談内容は言ってませんけど」

「ばーか。何年お前の面倒見てると思ってんだ。んなもんお前の顔を見りゃわかるっての」

 

 相変わらずこの人の直感力はすごいと思う。野生の感ともいうのだろうか。ありがたく先に榎本さんのところに向かう。

 

 榎本さんも魚海のおやじさんと同じく、俺の顔を見ただけで察したらしく、俺が話しかける前に『すぐに向かいますから魚海のところで待ってなさい』と言ってきた。本当に頼りになる人たちだ。

 

 榎本さんを連れてくる頃には店の片付けも終わっていて家の中に案内される。

 

「それで、相談ってのはなんだ?」

「私と魚海を呼んでいると言うことは恐らく状況は芳しくないのでしょうね」

「単刀直入に言いますと、お二人の力をお借りしたい」

 

 今日、芳乃様を監視していた人形。それを操っていたであろう人物について、詳しく調べることができる専門家が、この二人だ。

 呪詛を解くカギになるかもしれない欠片の調査と芳乃様を付け狙う輩の捜査。どちらも重要案件であり、早期解決が望ましい。

 二兎追うものは一兎も得ず。どっち付かずにならないようにするにはこれが最善手だと考えたのだ。

 

「今日、芳乃様を監視している怪しい()()を見つけました。それの残骸がこちらです」

 

 俺は拾ってきたマネキンの破片を二人に見せる。

 

「怪しいもの?人じゃなかったのか?それにこいつはプラスチックだぞ?」

「つまり、何者かが人形を操って巫女姫様を監視していた、ということですか?」

 

 俺が取り出した破片を手に取り唸る魚海のおやじさんに代わり、榎本さんが素早くことの次第を推測する。

 頭の回転の速さはさすがとしか言いようがない。

 

「はい。しかも周辺に操っている紐や遠隔操作するような機械は落ちていませんでした。それなのに人形はまるで生きているかのように動いていた。おそらくですが、何者かの()()()()()()によって人形は操られていたのではと、俺は考えています」

 

 俺の発言に二人の目付きが変わる。初めて二人と出会った時もこんな目をしていた。魚屋さんでも古本屋さんでもない。彼ら本来の目だ。

 

「改めて、協力をお願いします。非公式諜報機関“情報局特別班”元局長、魚海政重さん。同じく元参謀、榎本昭二さん」

 

 

 





改めまして「駒川の者として」第十一話を読んでくださりありがとうございます。

今回はオリジナル要素を挟みつつ、朝武の呪いについての告白場面を書かせていただきました。
原作ではみづはさんに呪いについて聞いてしまう将臣ですが、今作では芳乃の口から聞くと心に固く誓っていたため、結果呪いの全てを芳乃から教えてもらう形になりました。
オリジナル要素としては、今作の敵が少しづつ動き出し、オリキャラである幸彦の師匠、魚海と榎本の前職を明らかにしました。
もう少し後にする予定でしたが、ここからリドルジョーカー要素もちらほらと出していくと思います。

次回こそは過去編までたどり着きたい。


作者の事情で次の更新は遅くなると思います。ここまで忙しいと逆に笑えてきて、笑顔で仕事に取り組んでいます。1月になれば今まで通りの更新間隔に戻るように努力いたしますので気長にお待ち下さい。


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