駒川の者として   作:マルチビタミン

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「駒川の者として」読んでくださりありがとうございます。

第十二話になります。
それではどうぞ。




第十二話「レナさんの気になるあの子」

「それでは、今日は失礼します。ありがとうございました」

「おう、気ぃつけて帰れよ」

 

 結論から言うと、魚海のおやじさんも榎本さんも調査の協力に快諾してくれた。

 

 

◇◇◇

 

 

 “特班”の名前を出したのは一種の賭けだった。俺はじっと魚海のおやじさんの目を見つめる。

 

『まさか特班の名前がこんなところで出てくるとはな。幸彦、お前は今回の件にアストラル使いが関わっていると言いたいのか?』

『はい。それも、人を金で雇ったり、時限爆弾なんてものを用意できるほどの人物です。それなりの富豪、もしくは企業絡みではないかと考えています』

『その可能性は十分あるでしょう。なんにせよ、巫女姫様は相当厄介な奴に目をつけられたようですね。どうしますか、局長』

『元、局長だ。引退した今、俺はただの魚屋でしかない。だが……』

 

 おやじさんは腕を組んだまま考え込むと、カッと目を見開く。

 

『……巫女姫様に手を出そうなんて、穂織に生まれたもんに喧嘩売ってるようなもんだろ。それにアストラル能力の悪用と聞いちゃ見過ごせねぇ。榎本、知恵を出せ』

『まぁ、辞めた身でどこまで動かせるかわかりませんが、巫女姫様のためです。脅し文句の一つや二つ、用意しますよ』

『へっ。それでこそ俺の参謀だ』

『元、ですけどね』

 

 二人は小さく笑うと、俺に視線を向ける。その目はとても活き活きしていた。

 

『不埒ものの捜査は俺たちがなんとかしてやる。幸彦、お前はお前にできることをやれ』

『何かわかれば随時報告します。幸彦、あなたは安心して呪詛を解くことに専念しなさい』

 

 こんなにも頼りになる人たちが俺の師匠で誇らしい。ここまで背中を押されたんじゃ絶対に呪いを解かなくてはな。俺は確固たる意志で頷いたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 芳乃様を嗅ぎ回る者のことは、当分は経過を見つつ、警戒していくしかないだろう。あとは魚海のおやじさんや榎本さんからくる情報を待つしかない。

 

 二人が所属していた国の非公式諜報機関「情報局特別班」通称特班とは、その名の通り、公にできない事件を調査、解決していく秘密組織だ。主に()()()()()使いが起こす事件の解決を行ってきた。

 アストラル。

 それはかつて、超能力と呼ばれていた超常的力のことである。アストラルに関しては専門外なので詳しく知っているわけではないが、たしか、20世紀末頃に発見された粒子“アストラル”が人の脳波と連動することで様々な力を生むというものだ。

 アストラルは現在、生活の中で活かせないか研究が進められていて、暮らしを便利にしてくれるかもしれないものである一方、アストラル使いによる犯罪も横行しているため、なかなか人々に受け入れられてはいない。

 今回の件も、そのアストラル能力を悪用していると思われる。特班の力を借りられることは本当にありがたい。穂織出身の二人が特班になり、故郷に戻ってきて俺と知り合った一連の経緯も、もしかしたら運命だったのかもしれない。

 

 家に戻った俺は、もう一つ調べたいことがあったので、ケースに入れられた欠片を姉さんから借りて自室に戻った。

 ケースを机に置きフタを開けると、ただの石にしては綺麗な欠片が目に入る。

 何故だろう。芳乃様がこの欠片を見てなんだか安心すると言っていたように、俺もこの欠片をみているとどこか懐かしい感覚になる。

 一旦頭を振り思考を整理する。今は検証に集中しよう。

 

「祟り神を退治した場所に落ちていた欠片。昼間の芳乃様の反応から推測するに、きっと俺にも……」

 

 そっと欠片に手を伸ばす。そして表面に指が触れようとしたその時、身体中を電流が流れたかのような刺激が襲う。

 

「っ!……やはり、彼女と握手しようとしたときに感じたものと同じだ」

 

 はじめはただの偶然かとも思っていたが、ここまでくると何かしらの関係があるとみて間違いないだろう。

 

「レナ・リヒテナウアーさん。海外から来た彼女が、祟り神と何の関係があるというんだ?」

 

 椅子に深くもたれ掛かり息を吐く。

 わからないこと。やらなければならないこと。調べなければならないこと。どれも山積みではあるが、一つずつやっていくしかない。

 まずは呪詛について、一から資料を調べなおそう。

 

 俺は寝るのも忘れて、研究資料に目を通すのだった。

 

 

 

——————————————————————————————

 

 

 

 お父さん、お母さん、それからお祖父ちゃん。お元気ですか?

 レナはとっても元気です!

 

 日本に留学してから数週間が経ちますが、日本も、穂織の街も、お世話になっている志那都荘も、どれも素晴らしいところであります。もし日本に旅行することがあるのなら是非に志那都荘に泊まって欲しいですよ。タタリにオンネンといいこと尽くしですよ♪

 宿でのお仕事は毎日大変ではありますが、オカミや大旦那さん、板長さんに支えられながら頑張っています。

 

 友達もたくさんできました。

 マコにユキヒコ、マサオミにコハルにレンタロウ。お祖父ちゃんが話していた巫女姫様にも会えました!みなさんいい人です。マコとユキヒコは巫女姫様に仕えているらしいのですが、二人とも大人っぽいというか、私に対しても優しく接してくれますし、マサオミとコハルとレンタロウは私がお世話になっている志那都荘の大旦那さんのお孫さんで、いつも私を笑わせてくれます。

 

 穂織に来てから知り合った中で、少しだけ気になっている子がいます。その子は街でたまに見かけて声をかけるのですが、私に気づかないのかすぐに何処かへと消えてしまいます。初めて会った時からその子の目はどこか寂しそうで、どうしても放っておけないのです。なので、これからもめげることなく声をかけ続けたいと思います。

 

 お父さんたちも体調には気をつけて。

 

            レナ・リヒテナウアー

 

 

 

「送信っと。オカミがパソコンを貸してくれて助かりました!」

「いえいえ。レナさんが来てくれたおかげで宿の運営も随分楽になりましたから。このくらい当たり前ですよ」

 

 女将が使わなくなったパソコンを貸してくれることになったので、仕事がひと段落したあとに動作確認も兼ねて家族にメールを送ることになった。

 私が働くことになった宿、志那都荘の若女将の猪谷 心子(いのたに もとこ)さん。おっとりとして物腰柔らかな優しい人だが、怒らせると怖い。とても怖いです。

 

「あとはしっかりとした日本語を学んでいきましょうね」

「うう。申し訳ないであります…」

 

 志那都荘に住み込みで働くことになり、用意されたこの部屋。

 憧れの(タタリ)がある部屋は、今ではすっかり私のお気に入りの場所になっている。この部屋で毎晩、仕事終わりに女将が日本語の勉強を教えてくれるのだ。私は恵まれていると心から思う。

 

 メールの中で書いた、私が気になっている子。

 私は彼女の名前も知らない。どこで住んでいるのかも、何をしているのかも、何も知らない。それなのに、初めて彼女を見かけた時に私は感じた。どこか私に似ていると……。だからだろうか?彼女とちゃんと話してみたいと思ったのは。

 

「それでは今日はお疲れさまでした。明日からもまたお願いしますね」

「はい!オカミ、おやすみなさいませ」

 

 オカミが部屋から出て行き、私一人になる。

 少しだけ感じた寂しさを払うように、私は声を出す。

 

「そうです!明日は巫女姫様をご飯に誘ってみましょう。おなじかまのめしを食べれば仲良くなれるとお祖父ちゃんも言ってましたし。その時にユキヒコにあの子のことについても尋ねてみましょう。ふっふっふ。なんだかやる気が湧いてきたですよ!」

 

 我ながら名案だ。自画自賛しながら寝る準備に取り掛かる。

 宿屋の朝は早い。しっかり寝て食べて体力をつけなければならないのだ。

 

「ふふ♪明日が……楽しみ……です……」

 

 布団に入るとすぐに睡魔が襲ってきて、私はあっという間に夢の世界へと眠りにつくのであった。

 

 

 

——————————————————————————————

 

 

 

「あーーーーーーー!!!しまったーーーーーー!!!!」

「うるさいな。どうしたんだよ」

 

 午前の授業が終わり昼休みに入った時、廉太郎が頭を抱えながら叫んだ。

 

「弁当を、家に忘れてきた……」

 

 この世の終わりのような顔をして床に膝をつく廉太郎。ここまでオーバーな動きをしてもほとんどの女子から無視されている。クラスメイトの田宮と大平から聞いた話では、廉太郎が昔やらかしたという二股事件がきっかけらしい。本人曰く時期はずれていたからセーフだそうだが……。

 自業自得とはいえ、ここまでくるとさすがに同情する。

 

「取りに帰るか?」

「冗談言うなよ。今から走って戻ったんじゃ胃がひっくり返る」

「なら購買で買うしかないだろ」

「はぁ、今から行ってもコッペパンぐらいしか売ってないんだよな〜」

「ないよりマシだろ。少しぐらいなら俺のおかずを譲ってやらなくもない」

「まさおみ〜!やっぱり持つべきものは従兄弟だな!」

「その猫撫で声はやめろ」

 

 男の、それも従兄弟の猫撫で声なんて聞くに堪えないぞ?

 そんな俺の気持ちなんて気にしない廉太郎は、購買へ行こうとして教室を出て行くとき、女の子とぶつかりそうになる。

 

「きゃっ!」

「おっと!ごめんよ」

「もう!危ないじゃん、気をつけなよ廉兄」

「なんだ、小春か。何の用だよ」

「ちょっと、それが忘れ物を届けに来た妹にする態度?」

 

 女の子が小春だと気付いて露骨にがっかりする廉太郎。

 その態度に腹をたてる小春。

 うん。いつも通りの光景だ。

 

「忘れ物って、まさか」

「はい、お弁当。毎日持っていくものをなんで忘れるかな〜」

「おお!小春、いや、マイラブリーシスター!愛してるぜー!」

「キモい」

「そう照れるなよ〜愛い奴め〜」

「猫撫で声やめて。ほんと、そんなだから彼女どころかクラスの女子に嫌われるんだよ」

「ほっとけちんちくりん」

「誰がちんちくりんよ!」

「あれー?小春の姿が見えないなー。おっとそんなところにいたのか。小さくて見えなかった」

「バーカバーカ」

「ブースブース」

 

 相変わらず仲のいい兄妹だ。喧嘩するほど仲がいいと言うが、目の前のこれは喧嘩というよりじゃれ合っているようにしか見えない。二人とも大きく成長しているのに本質は全く変わっていないということだろうか。

 だが、このままでは話が終わらない。

 

「二人ともストップ。廉太郎。素直にありがとうって言えよ」

「お兄ちゃん……。あーあ、なんでお兄ちゃんが本当のお兄ちゃんじゃなかったんだろう」

「ありがとよ。ちんちく」

「誰がちんちくよ!これでも少しは大きくなってるんだから!」

 

 またしてもいがみ合う二人。ここは少し強引に話を別の方向へ持って行こう。早くご飯食べたいし。

 

「そうだ。よかったら小春も一緒にご飯食べないか?久しぶりにさ」

「え?お兄ちゃんと?ん〜……お兄ちゃんと一緒にご飯は食べたいけど……」

 

 そう言って廉太郎の方に目を向ける小春。

 

「しっしっ。帰れ帰れ」

「あれと一緒はちょっと……」

 

 素直じゃなさすぎるだろ……この兄妹……。休み時間ずっと喧嘩、もといじゃれ合いを続ける気だろうか。早くご飯食べたいんだが。

 

「レンタロウ、仲がいいのはわかりますが、妹にむかってその態度はあまりよろしくないと思いますよ?」

 

 一連の流れを聞いていたのか、レナさんが会話に加わってきた。

 

「マサオミ、私もご飯ご一緒してもいいですか?賑やかな方がご飯は美味しくなるですよ♪コハルも一緒に食べましょう」

 

 まさしく救世主。いや、救いの女神か。

 

「レナ先輩とお兄ちゃんがそこまで言うなら……ご一緒させてもらいます!」

 

 レナさんと小春は仲がいい。この前小春が志那都荘の手伝いをした時に知り合い、今ではすっかり小春がレナさんに懐いているようだ。

 レナさんは面倒見がいいというか、包容力があるというか、誰からも親しまれるような性格をしている。小春が懐くのも当然である。

 

 小春が教室にお弁当を取りに行っている間に席をくっつけ場所を確保する。

 

「って、廉太郎。何先に食べようとしてるんだよ」

「え?待たなきゃダメなの?」

「どうせならコハルが来てから食べましょうよ」

「ちぇ〜。まあレナちゃんが言うなら……」

 

 ふてくされながらも箸を置き、ちゃんと小春が来るのをまつ廉太郎。

 

「ふふっ」

「レナさんどうしたの?」

「いえ、レンタロウはなかなかのツンデレさんなのですね」

「ちょ、レナちゃん?俺のどこがツンデレなの?」

「だって、なんだかんだ言いながらちゃんとコハルのことを待ってあげてるじゃないですか」

 

 レナさんが言う通り、たしかに嫌いな相手ならレナさんに言われたとしても待つ必要なんてない。

 

「レンタロウはコハルのことが大切なんですよね」

「べ、別にそんなことないっすけど」

「じゃあ、嫌いなのですか?」

「嫌いってわけじゃないけど……あいつ生意気なことばっか言うんだよ」

「それはきっと、レンタロウが全て受け止めてくれると信じているからではないでしょうか。憎まれ口を叩き合えるなんて、なかなかできることではないと思うのです」

 

 そしてレナさんは優しい笑顔を浮かべて言うのだった。

 

「家族が近くにいるとわからなくなるかもしれませんが、お互いに言いたいことを言い合えるのは素晴らしいことです。これからもコハルのことを大切にしてあげてくださいね?」

「「……」」

 

 その笑顔に思わず見とれてしまう。

 

「廉兄もお兄ちゃんも、なーに鼻の下伸ばしながらレナ先輩を見てるの?」

 

 いつの間にか戻ってきていた小春がジト目で問いかける。

 い、いかんいかん。これでも朝武さんの婚約者なんだから。しっかりしろ俺。

 

「くっ!レナちゃんがじいちゃんのところで働いてなかったら絶対に口説いてたのに……っ!」

「ブレないな。お前」

 

 呆れを通り越して尊敬するわ。さすが廉太郎。

 

「小春もきたことですし、いただきましょうか。オゥ!そうですそうです。マサオミ、コハル、レンタロウ。誘いたい人がいるのですがいいでしょうか?」

 

 特に断る理由もなかったので頷く。でもレナさんが誘いたい人って?

 レナさんは嬉しそうに目的の人のいる場所に目を向ける。そこにいたのは……

 

「マコ!ユキヒコ!姫様!一緒にご飯食べませんか?」

 

 一気に教室がざわめく。

 巫女姫である朝武さんとそれに仕える二人はいつも一緒にご飯を食べている。なんというか、完成されたその空間は誰にも入ることが許されないかのような雰囲気なのだ。まぁ、周りが勝手に思っているだけなのだが。

 とにかく、朝武さんたちに一緒にご飯を食べようと言える勇気が他の生徒にはなかったらしく、ゆえにここまで騒ついているわけなのだ。

 

「ワタシたちとですか?」

「俺は構いませんけど、芳乃様はどうです?」

「ご、ご迷惑でないのでしたら……」

 

 常陸さんと幸彦が優しく微笑んでいる。俺もきっと同じようになっているだろう。これは朝武さんが友達を増やすチャンスかもしれない。

 

「全然迷惑じゃないよ。一緒に食べよう、朝武さん」

「迷惑なんてとんでもない。むしろ一緒に食べれたら超嬉しいよ!」

「私も大歓迎です!巫女姫様たちとご飯……ちょっと緊張する……」

 

 どうやら廉太郎も小春も朝武さんとご飯を食べてみたかったらしい。

 廉太郎は素早く座席の確保をしている。こいつは巫女姫様とご飯をではなく、女の子とご飯を食べれることが嬉しいのだろう。粗相しないか心配だ。幸彦がいることを忘れないでほしい。

 

 朝武さんは少し照れくさそうだ。おそらくだが幸彦たち以外とご飯を一緒に食べること自体初めてなのではないだろうか。

 

「ワォ!姫様のお弁当おいしそうです!ご自分で作ってるのですか?」

「いいえ、これは茉子が作ってくれたんです。茉子は本当に料理が上手なんですよ」

「おお、それは素晴らしい!マコの手作り、食べてみたいです。私のおかずと交換しませんか?」

「そ、それでは!あの、条件というか、ご提案というか……」

 

 朝武さんがもじもじする姿はとても新鮮だった。よく見ると耳が赤くなっている。

 

「私のことを、その……姫様ではなくてですね……芳乃と、呼んでください」

「ですが、穂織の姫様は敬うべきではないのですか?」

「前にも話しましたが、同じ学園で学ぶもの同士、身分の差なんてありません。それに私は……リヒテナウアーさんと、と、と、友達に!なりたいですから!」

「……わかりました、ヨシノ♪」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 声にならない叫びをあげて、みるみるうちに朝武さんの顔が真っ赤になる。

 

「ありがとうございます、リヒテナウアーさん!」

「ノンノン。私のことはレナとお呼びください。それが友達になった証ですよ」

「それでは……レ、レ、レナさん!」

「はい♪なんですかヨシノ」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 微笑ましいやりとりだと思った。常陸さんと幸彦も優しい目でそのやりとりを見ている。完全に娘に初めて友達ができたのを喜ぶ親の目だった。

 

 そこから女の子たちのおかず交換が始まった。

 

「この唐揚げ、常陸先輩が作ったんですか?おいしいです!」

「そう言っていただけると嬉しいです。小春さんのお母様が作られたこの煮っころがしも絶品ですよ」

「なんと!?これはユキヒコの手作りですか?」

「姉さんが忙しいからね。自分でできるものは作るようにしてるんだ」

「幸彦のだし巻き卵は絶品ですよ。ほんのり甘くて上品な味です」

「ヨシノがそこまで言うとは、私も食べてみたいです!」

「そうかい?なら、どうぞ」

「ありがとうございます!お返しに板長のちんきらごぼうを召し上がってください」

 

 女の子たち(約1名男もいるが)を眺めながら廉太郎がしみじみと言う。

 

「なんか、いいよな。こういうの」

「ああ、そうだな」

 

 その言葉には同意する。和気藹々としている彼女たちを見ていると和むというか、自然と笑顔になれる気がする。レナさんも言っていたけど、みんなとご飯を食べるのはやっぱりいいものだ。

 

「女の子と一緒にごはん……。こういうのだよ!俺が求めてたのは!」

「おい」

 

 俺の感動を返せ。

 廉太郎はどこまでも廉太郎だった。

 

 楽しい時間はあっという間で、昼休み終了まで残りわずかとなった。

 次の授業の用意があるらしい小春が席を立つ。

 

「じゃあそろそろ教室に戻りますね」

「コハル、また一緒にご飯食べましょうね」

「はい!レナさん、お兄ちゃん、誘ってくれてありがとうございました。巫女姫様も常陸先輩も駒川先輩も。今日は楽しかったです」

 

 小春が俺たちに律儀にお辞儀をする。

 

「おい小春。兄の名前が見当たらないぞ?」

「廉兄がいなかったらもっとよかったのに」

「ちんちくの癖に生意気だぞ」

「ちんちくじゃないもん!廉兄のバーカバーカ」

「ブースブース」

 

 廉太郎に毒吐きながら小春は教室に戻っていった。

 

「では、私たちも片付けを始めましょうか」

「そうね。レナさん、誘ってくれてありがとうございました」

「いいえ、私が一緒に食べたかっただけでありますから。ヨシノと仲良くなれて嬉しかったですよ」

 

 朝武さんは顔をまた赤くしながら俯きがちに微笑む。なんだか最近、朝武さんの表情が柔らかくなった気がする。

 

「ありがとな、有地」

「へ?なんでお礼なんか言うんだ?」

「芳乃様があんなに嬉しそうに笑えるのが有地さんのおかげだからですよ」

 

 この二人に感謝されるとむず痒いな。とはいえ、俺は大したことはしていない。朝武さんが変われたのはきっと彼女自身が変わろうとしたからだ。

 少し離れて朝武さんとレナさんを見守っていた俺たちだったが、思い出したかのようにレナさんがこちらに目を向ける。

 

「おぉ!そうでした。ユキヒコにお聞きしたいことがありました」

「ん?俺にかい?」

「はい。私がユキヒコに初めて話しかけた時に緑色の髪の小さな女の子と一緒にいましたよね。」

「っ!」

「何度か街で見かけたのです。それで、自分でも不思議なのですが、とても気になっているんです」

 

 その場にいた廉太郎以外の人間が息を呑んだ。何故ならレナさんが言った特徴を持つ女の子は、俺たち四人にしか見えないはずだから。

 俺たちは小さく言葉を交わす。

 

「なぁ、レナさんが言ってる女の子って」

「まだそうと決まったわけじゃないけど、レナさんと初めて会ったとき俺の近くにいたのは、ムラサメ様だ」

「でも、ムラサメ様はワタシたちにしか見えない筈では?」

「それを調べるためにも、ここは俺に任せてくれるかい」

 

 俺たちが頷くのを確認すると今度は朝武さんに目を向ける。

 朝武さんも幸彦の視線に気づくと、まるで任せたというように頷いた。

 

「ユキヒコ?どうしたでありますか?」

「いや、なんでもないんだ。それよりレナさん。今度その子に会ってもらえないか?」

「おい、幸彦!?」

「大丈夫だ。有地、君があの子のことを心配してくれるのはありがたいが、レナさんと友達になれればあの子にとってもいい刺激になるだろう」

 

 思わず声をあげてしまった俺のフォローをしつつ、幸彦は話を続ける。一体幸彦はどうするつもりなんだ?

 

「マサオミもその女の子の知り合いなんですか?」

「ああ。何故かは知らないが有地に懐いてしまったんだ。それ以来有地には良くしてもらっている。な、有地」

「う、うん」

 

 有無を言わせない視線を送られ頷く。

 

「彼女は俺の親戚の子なんだ。体が弱くてなかなか外に出られないから、できればレナさんにはあの子の友達になってほしい」

 

 よくもまあ、この短時間でそんな嘘を思いつくな。流石は幸彦といったところか。

 

「お、じゃあ俺にも紹介してくれよ」

「廉太郎はダメだ」

「え〜なんでだよ」

「自分の胸に手を当てて考えるんだな」

 

 廉太郎に容赦ない仕打ち。さ、流石は幸彦といったところか……。

 言われた通り自分の胸に手を当てて考え込んでいる廉太郎を余所に、幸彦はレナさんに問いかける。

 

「どうかな、レナさん」

「私も彼女とお友達になりたいと思っていたですよ!」

「それじゃあ決まりだね。日程はレナさんの都合になるべく合わせるよ。仲居さんの仕事は忙しいからね」

 

 幸彦はそう言いながら再び視線を俺らに向ける。この話はここで切り上げようとその目は語っている気がした。

 ちょうどその時、5時間目の予鈴が鳴り、その場は解散となった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 放課後、案の定幸彦に呼ばれ、俺たちは保健室に集合する。

 会話を切り出したのは朝武さんだった。

 

「それで、これからどうするの?レナさんにはあんな約束しちゃったけど」

「実際にレナさんにムラサメ様を会わせてみようと思います。どのみち、彼女について少し調べたいと思っていたので」

「レナさんを調べるってどういう事?」

「彼女が少なからず祟り神や呪詛に関係している可能性があるという事さ」

 

 幸彦の発言に朝武さんと俺は驚く。事情を聞いていたらしい常陸さんは、驚かなかったが、疑問を投げかける。

 

「確証はあるの?」

「ああ。芳乃様、有地が拾った欠片を触ろうとした時、ビリっとしたと言っていましたよね」

「ええ。それとレナさんと関係が……あっ」

 

 朝武さんは何かに気づいたようで、幸彦を見る。幸彦はそれに応えるかのように頷くと説明を始める。

 

「実は俺も、欠片に触れる瞬間全身に電流が流れたような刺激を感じたんだ。そしてそれは、以前にも感じた事のある刺激だった。そうですよね、芳乃様」

「……たしかに、レナさんと握手しようとした瞬間感じたものと同じだったかも」

「それに、ムラサメ様がレナさんを見た時言っていたんです。『ご主人に似ている気配を感じる』と。ムラサメ様は欠片を見た時も同じ事を言いました。そして今日の昼、彼女の口からムラサメ様のような少女を見たと証言を得た。ここまでの事から推測すると、決して無関係とは言えないと思わないかい」

 

 確かに、偶然とは言い難い。むしろ関係がない方がおかしいのではと思ってしまうほどだ。

 

「レナさんを朝武の呪いに巻き込む気なの?」

「安心してください、芳乃様。巻き込まないためにムラサメ様に合わせるんです」

「巻き込まないために?」

 

 誰かしらに聞かれるとわかっていたのだろう。俺の疑問に幸彦は一度頷いて答えてくれる。

 

「人の好奇心というものは抑えられたり秘密にされると大きくなる。俺たちが知らないところで勝手に調べられるより、ある程度の情報を与える事で行動を制限する方が安心なんだ」

「幸彦の言う通りかもしれません。下手に隠し事をして、夜の山に入ってしまってはワタシや幸彦でも助けようがないですからね」

 

 秘密にされると知りたくなる、か……。俺自身にも覚えがある事だったので痛いほど理解できた。レナさんが危険な目にあう可能性はあるのなら、少しでもリスクを減らした方がいい。心配性の幸彦らしい案だった。

 

「芳乃様。これからレナさんに、少なからず嘘をつく事になりますが、よろしいですね」

「……レナさんを騙すような事はしたくないけど、危険に巻き込みたくはないもの。幸彦がその方がいいって言うのなら、私が拒否する理由はない」

 

 朝武さんは優しいから、友達に嘘をつくのは心苦しいのだろう。いや、ここにいるみんながそう思っているはずだ。だけど、祟り神の恐ろしさや、呪詛の残酷さを知った今、とてもじゃないがレナさんを巻き込むような真似はしたくはなかった。俺の時もみんなこんな気持ちだったのだろうか。

 

「とりあえず、ムラサメ様や安春様、みづはさんと玄十郎さんにも話をつけておきましょう」

「そうだね。口裏を合わせないとだな。まずはムラサメ様に同意を頂くところから始めようか」

 

 こうして、レナさんとムラサメちゃんを会わせる計画が立てられた。

 

 

 パズルのピースが揃うように。

 歯車同士が噛み合うように。

 ゆっくりと、着実に、運命の輪は回りだしている。

 

 

 この日の稽古はなかなか集中できなかったのだった。

 

 

 




改めまして「駒川の者として」第十二話を読んでくださりありがとうございます。

もっと遅い更新になる予定でしたが、なんとか二週間経つ前に更新できました。
今回はレナが物語の主軸になりました。彼女の中の家族に会いたいという寂しい気持ちががムラサメちゃんの抱えている感情に気づき反応しているのでしょう。
レナの話に加えて、鞍馬兄妹の関係性や、前回明らかになった魚海、榎本の前職の説明なども詰め込んだら一万字超えてました。前回次こそは過去編と言いながら、たどり着けませんでした。有言実行できず、申し訳ありません。

次回こそは十二年前のお話が書けたらいいなと思います。。。

更新も二週間以上空くかもしれませんが、ご了承ください。


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