「駒川の者として」読んでくださりありがとうございます。
第十三話になります。
それではどうぞ。
それは、放課後に人知れず行われていた。
カーテンは閉め切られ薄暗い教室の中央には、怪しい儀式を執り行うかのごとく円形に机と椅子が並べられている。
「施錠完了」
「部外者の帰宅を確認」
「足止め班からはなんと」
「教師他、対象Kの足止めに成功との事」
「よし、それでは始めるとするか」
どうやらこの儀式?の幹部らしい、俺のよく知る男が開始の意思を告げると、周りのメンバーもそれぞれ自分の席に座る。
「あのー、聞いてもいいかな?」
「ふむ、有地将臣、発言を許そう」
「これは一体なんの集まりなんだ?廉太郎」
「ちょっ将臣!いいって言うまでは俺の事はRと呼ぶように言っただろ!」
「いや、マジでワケがわからんのだけど……」
事の発端は今日の帰りのホームルームが終わった直後。俺は廉太郎に大事な用があると言われ教室で待つ事になった。他のクラスメイトが帰るのを見送り、最後の女子生徒が帰った頃、同じクラスの男子が続々と教室に舞い戻り何やら準備を始め、今に至る訳だ。
「お前がこっちに転校してきて結構経つだろ?そろそろ親睦をもっと深めようと思ってな」
「親睦を深める?ありがたいけど、それとこれと何の関係があるんだよ」
「わかってねぇな〜。男がより親睦を深めるためには、それ相応の話題があるんだよ」
チッチッチと指を振りながら得意げに話す廉太郎。周りの男子もフッフッフと怪しげな笑みを浮かべている。どうでもいいけど仲良いなお前ら。
「それ相応の話題、ねぇ。一応聞くけど、その話題ってのは……」
「もちろん!下世話な話題に決まってんだろ!好きな女の子のタイプ!ドキッとする女の子の仕草!自分がいったい何フェチなのか!普段話せないあれこれを語るときこそ、男の団結力は固くなるのだ!」
「ゲスいな、ほんと」
そのためだけにここまでの準備をするとか、ある意味このクラスの男子の結束は高いのかもしれない。
「あれ?そう言えば幸彦の姿が見えないんだが」
「幸彦には秘密に決まってるだろ」
「はぁ!?待て、じゃあさっき言ってた対象Kって」
「駒川幸彦。あいつにバレたら……まぁ一蓮托生だな」
「正気か!?下手すりゃ命の危機だぞ!?」
こいつらもクラスメイトなら幸彦、もとい鬼彦の恐ろしさは知っているはずである。それなのにどうしてここまでのことを。
「みんな承知の上でここに集まった。お前のためにな」
「俺の、ために……」
みんなを見回すと、それぞれが覚悟をもった顔で頷いた。
「ちなみに、俺が朝武さんや常陸さんと仲がいいからとか、そんな理由じゃないだろうな」
もう一度みんなを見回すと、ほとんどの男子が目を背けていた。
おい、さっきの覚悟はどこに行った。
「まあ、いいじゃねぇかよ。それじゃあ改めて、有地将臣を迎え入れる儀式を始めようと思う!」
マジで儀式だったのかよ……。
とはいえ、この手の話が嫌いな訳ではない。むしろ前の学校の奴らとしたバカな話を思い出してワクワクしてしまっている。
し、仕方ない。俺のために準備してくれた場なんだから、俺も楽しむべきだよな。うん。
「皆も知っての通り、穂織には美人が多い。大人の女性から、お姉さん系、そして我がクラスの女子も可愛い子ばかりだ。そのなかで諸君が一番いいなと思う女の子は誰だ?」
廉太郎がみんなに問いかける。なんだか知らないが口調まで変わっている。そういえば廉太郎って役に入るやつだったよな。昔戦隊ヒーローごっこしたときも役になりきってたし。
俺が斜め右方向に思考を傾けている間にも、クラスの男子の話は過熱の一途を辿る。
「小野さんに一票。元気があって親しみやすい。幼馴染にしたいタイプだな」
「俺は柳生さんかな〜。たまにおどおどするのが可愛いんだよ」
「フッお子様め。みづは様が一番に決まっているだろう。あの大人の魅力に気づかないとは愚かな者たちだ。白衣で黒髪眼鏡なのもポイントが高い」
「駒川ファンクラブの人間か。確かにみづはさんもいいが、大人の魅力なら中条先生だって負けていないぞ。優しさと包容力を兼ね備えた美人教師。ああ、叱られたい……」
「田心屋の馬庭さんも美人だぞ。あの人目当てに遠方からお客が来ることもあるそうだ」
それぞれが好みのタイプを言っていく。そんな中沈黙を守る男が一人。
「おい、R。何黙ってるんだよ。」
「全く、お前ら揃いも揃って見る目がないな」
額に手を当てやれやれと首を降る廉太郎。
「なんだと?じゃあR、あんたの意見を聞かせてくれ」
「俺か?俺は断然、レナちゃんを押すぜ。綺麗な金髪、透き通った瞳。笑顔も眩しく、面倒見が良く、親しみやすい。それにお前らも見ただろ。……あのデカさを!」
カッと目を見開き力強く言う廉太郎。その言葉にその場にいる全員がゴクリと喉を鳴らす。
「た、確かにでかいな。あんなに大きなものは生まれてこのかた見たことなかった」
「さすがワールドクラスといったところか。俺なんか目が吸い寄せられるぜ」
「制服のブレザーも大きすぎて入らないって言ってたぞ」
「なんと、それは本当か!?」
教室が一気にレナさんの話題でおっぱい……間違えた、いっぱいになってしまった。ことエロに関してはカリスマ的能力を発揮する廉太郎なのであった。
「将臣、お前はどうなんだ?」
「えっ、俺も言わないといけないのか?」
「当たり前だろ。そのために呼んだんだから」
クラスの視線が俺に集まる。ぐっ、こんな大勢の前で言うのは恥ずかしいが、それは言い訳にならない。俺はもう、他の奴らの話を聞いてしまっている。ここで話さないのは不平等だ。
「俺は……やっぱり朝武さんかな」
「「「「「「「「「「っっっっっ!!!!」」」」」」」」」」
俺の発言にその場の全員が息を呑む。皆目を見開き、口を開けて呆然としたりしている。な、なんだ?俺変なこと言ったかな?
「とうとう巫女姫様の話題が出たか」
「それって巫女姫様の側近、常陸さんも話題に出していいということか?」
「いいのか?巫女姫様と常陸さんだぞ?」
「いや、今日はこのために来たと言っても過言じゃない」
「だが、対象Kに知られたら……」
「諸君、静まりたまえ」
教室のどよめきは廉太郎の一声で静かになった。
「我々はそろそろ、新しい扉を開けるべきなのかもしれない」
「だがRよ!相手は巫女姫様と常陸さんだぞ?それはつまり、彼女たち専属セコム、対象Kを完全に敵に回すことになる」
「落ち着け。幸いこの場に対象Kはいない。それに、魅力溢れる彼女たちの話題を出さずしてこの儀式を終わらせてもいいのか?確かに高嶺の花ではある。しかし!だからこそ燃えるのが男の
「「「「「「「「「「おお!」」」」」」」」」」
「巫女姫様のうなじ!白い肌とは対照的な黒いタイツ!常陸さんのスパッツから溢れ出る魅力的な太もも!諸君は魅力に思わないのか?いや!思わないはずがない!そうだろう!」
「「「「「「「「「「おお!!!!!!」」」」」」」」」」
拳を掲げ力強く発言する廉太郎により、クラスの男子の士気が跳ね上がる。そこには先ほどまでの弱気な姿はなく、みんな目に炎を宿している。
さすがは性のカリスマ、鞍馬廉太郎である。
……俺も朝武さんの綺麗な肌や可愛らしい下着を拝見してしまったことを思い出してしまった。そう。俺は知っているのだ。制服ではよくわからないが、朝武さんも立派なお胸を持っているということを。
い、いや、あれは事故だ。記憶の奥底にしまっておかなくては。……だめだ!一度意識したら鮮明に記憶が蘇ってきた!
くっ!これも性のカリスマのなせる技か!!廉太郎恐るべし!
「では手始めに、巫女姫様と常陸さんのエロスについて語ろうじゃないか」
「芳乃様と茉子の……なんだって?」
「だぁから、巫女姫様と常陸さんのエロスを……」
廉太郎はそう言いながら後ろを向く。
——気配など微塵も感じなかった。
だが俺の目には廉太郎の後ろに立つ男の姿が映っている。どれだけ瞬きをしようが目を擦ろうが、網膜はその男の姿を映し出す。
この場にいる人間もその姿に気付いたのだろう。廉太郎、いや、廉太郎の後ろにいる男から身を遠ざけるため後ずさりをする。
当の廉太郎はというと……
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!」
白目を剥きながら声にならない悲鳴をあげていた。
それもそのはず、廉太郎の後ろには
幸彦に視線を向けられ動けない廉太郎。その姿はまさしく、蛇に睨まれたカエルだった。
「ほう。芳乃様と茉子のエロスか。興味深い話だな」
幸彦は興味深そうにつぶやくと、廉太郎の肩に手を置く。
廉太郎は壊れたロボットの如くガクガクと震えている。
「どうした?二人のエロスを語るんだろう?廉太郎、いや、Rと呼んだほうがいいのか。君は芳乃様と茉子のどこに魅力を感じるのかな?」
「そそそそそそそれは、その、あの、うなじや太ももなんかが、とても、み、魅力的かとおおおおお思いましゅ」
「ふざけるな!」
ダンッ!と幸彦が机を叩く。
ああ、廉太郎、無茶しやがって。お前のことは忘れない。だが心配するな。どうせ俺たちも後を追うことになるだろう。
その場の全員が心の中で廉太郎にお別れを言い、そしてその後に待ち受ける自分の運命に嘆き目を閉じた。
「そんなもの、芳乃様と茉子の魅力のほんの一部でしかない。君はそんな低レベルの次元で話を終わらせる気か」
思いもよらない発言に目を開けると、メガネをクィッと指で持ち上げながら席に着く幸彦の姿がそこにあった。
いや、そのメガネどこから出したんだよ。
「幸彦?」
「幸彦じゃない。今の俺はKだ。クラスの一員として、俺にも語る義務がある。なに、心配するな。古本屋榎本直伝、女に好かれる男の仕草を交えて、君たちをさらに高みへ連れて行こう」
そのまま廉太郎の隣の席に着き、机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持っていく。所謂ゲンドウポーズというやつだ。
「さあ諸君、議論を再開しようじゃないか」
その日、クラスの幸彦に対する好感度が爆上がりした。
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「あー、殺されるかと思ったぜ」
「人聞きの悪いこと言わないでくれないか」
儀式(仮)を終えた俺は廉太郎と幸彦と一緒に帰っていた。本来ならばじいちゃんにしごかれている時間なのだが、廉太郎が事前に学校の用事があるから休むと連絡を入れていたらしい。その行動力を他に活かせないのだろうか。
「だってさ、俺のこと射殺すかのような目で見てたじゃんか」
「当たり前だろ。クラスの俺以外の男子が集まってるのに除け者にされたんだからな。いじめかと思ったぞ」
「わ、悪かったよ」
ジト目で睨む幸彦。どうやら結構傷ついていたようだ。
「でも意外だった。朝武さんや常陸さんの話がでたから絶対怒ると思ったのに」
「思うところがないわけじゃないが、さすがに、思春期男子の妄想を止められるとは思わないからね。実際に手を出したら命の保証はできないけど、本人たちにばれないように話すだけなら害はないからな」
サラッととんでもないことを口にしたように聞こえたんだが。命の保証はできないって、なにをされるのだろうか。
「それにうちのクラスにそんな
「断言するんだな」
「幼い頃から知ってる顔ばかりだからな。それぞれの人間性は把握済みなんだ」
「ちなみに一番注意が必要なのは?」
「廉太郎」
「おい将臣!その質問する意味ないだろ!幸彦も即答はやめろ!」
廉太郎の抗議も「自業自得だ」の一言で一蹴する幸彦。
それからも男子高校生らしい日常のやりとりが繰り返される。授業の話や、友人の話。さすがに廉太郎のオカズの話には冷たい反応をしていたが、廉太郎と話す幸彦の姿はごく普通の高校生だった。これまで呪詛や祟り神が絡んだやりとりが多かったため、なんとなく大人な雰囲気の幸彦しか目にしていなかったのでとても新鮮だった。
ふと、初めて祟り神退治に出かけた夜のことを思い出す。
あのとき幸彦にぶつけられた殺気。思い出すだけでも肌が泡立つ。
今まで気にしたことはなかったが、普通の高校生があれだけの殺気を出せるだろうか。今の幸彦もあのときの幸彦も同じ人物なのに、俺には別人のようにさえ思えてしまう。
(そういえば、朝武さんには呪いのことを教えてもらったけど、幸彦や常陸さん、ムラサメちゃんについては、まだ知らないことの方が多いんだよな)
毎日顔を合わせているから人となりは理解しているつもりだが、知らないことの方が圧倒的に多い。穂織に来てから半年も経っていないので当然といえば当然なのだが……。
「どうした将臣?深刻な顔して。あ!さてはお前もオカズ不足か?」
「そんなんじゃない……ってまだその話し続けるのか?」
「だってよ〜。巫女姫様や常陸さんとほぼ同棲って色々溜まるだろ?俺たちは女の
「その危険性には気づかなかったな……。早急に対策を考えないと」
「襲わないから!ていうか、そういうのは朝武さんの同意を得てから——」
「ほほ〜う。将臣の本命は巫女姫様か〜」
「あっ……!」
しまった!つい本音が出てしまった!
廉太郎も幸彦もニヤニヤした顔でこっちを見ている。まさかこいつらグルだったのか!?
「いや、確かに朝武さんのことは気になっているけど、まだ付き合ってるわけじゃないし。でも、一応婚約者な訳だし。だからこそ誠実に接していきたいというか」
自分でもなにを言っているのかわからないほどに動揺してしまった。心なしか顔が熱いし口調も早くなってしまう。
そんな俺を見て幸彦は「あはは」と笑い、廉太郎は呆れたようにやれやれと肩をすくめた。
「どうやら芳乃様とは仲良くやっているようだね。安心したよ」
「だから大丈夫だって言っただろ。こいつ、人と打ち解けるの早いから」
「本人から言質を取ることに意味があるのさ」
「いつもの心配性ってやつか。ほんと、巫女姫様や常陸さんのことになると神経質になるよなぁ」
「二人は家族みたいなものだからね。廉太郎だって、小春ちゃんが変な男に引っかかっていたら嫌だろう?」
「そんなことねーよ。てか、小春に限ってそんなことおきやしないって」
「ツンデレだな」
「断じて違う!」
廉太郎がツンデレなのは置いといて、これでは幸彦にいいように手のひらで転がされたままになってしまう。なにか違う話題、違う話題を探すんだ。
そう!こういうとき同じような話題を相手に持ちかけるんだ。前にいた学校では好きな人の話題が出たとき同じ質問を相手に問いかけたら曖昧な感じで話が終わった。目には目を。恋バナには恋バナをだ。
「そ、そういう幸彦は常陸さんのこと好きだよな」
「ああ。大好きだぞ」
「即答!?」
「ももももしかして、幸彦と常陸さんってつつつつ付き合ってるのか!?」
さも当たり前のように大好きだと宣言する幸彦。
どうやら廉太郎も幸彦の反応には驚いたようで興奮気味に問いただす。
「残念だが、君たちが思っているような関係じゃない。茉子は俺にとって大切な仕事仲間。それ以上でもそれ以下でもない」
さっきまでと同じ顔で話しているのに、幸彦の言葉はなぜだか有無を言わせない迫力があった。そういえば常陸さんも同じことを言っていたような。
「じゃあ、俺はバイトがあるからここでお別れだ。廉太郎、次はちゃんと俺に話をつけてからああいうことをするんだぞ」
「へーい」
「有地も、あんまり廉太郎に影響されるんじゃないぞ」
「おう!」
「なんで今日一いい返事してんだよ。てか、俺の扱い雑すぎるだろ!」
「じゃ!」
「あ!待てこら!幸彦!」
幸彦は廉太郎の制止を無視し、ものすごい速さで商店街へと消えていった。
「あ〜あ。相変わらず逃げるのが早いやつだぜ」
「廉太郎がぐいぐい聞くからだろ?」
「だって気になるだろ。常陸さんと幸彦の関係」
「そりゃ気になるけど……。でも幸彦、話したくないみたいだったからさ」
「はぁ〜」
廉太郎はやれやれと首を振りながらため息をついた。
「あのな、将臣。お前幸彦に対してだけおっかなびっくりになってないか。空気を読みことも人間関係のなかでは重要だけど、慎重になりすぎてる気がするぞ。お前らしくもない」
「俺らしくないって、普段は空気読まないって言いたいのか?」
「そうじゃねぇって。いつものお前なら、空気を読んだ上でその壁を壊して仲良くなっていくだろ。相手を知ろうとするのはいけないことじゃないって言ってさ」
廉太郎の発言に目を丸くする。
こいつはたまに核心を突いてくる。みていないようで人をよく見ているところがクラスのムードメーカーたる所以なのだろう。女好きでなければ女子からの人気も高かったことだろう。
たしかに、俺はどこか幸彦を対等の友人とはみていなかったのかもしれない。自分でライバルだなんだと言っていたが、それは友人としてではなく、呪詛の関係者としての面が強かったのかもしれない。
まさか廉太郎に諭される日が来るなんて。
「だからさ、なんとかして幸彦と常陸さんの関係性を聞いてきてくれよ」
「まて、お前は幸彦に直接聞かないのか?」
「んな恐ろしいことできるかよ。だからこうしてお前を焚きつけてるんじゃないか」
「……」
前言撤回。俺の関心を返せ。
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茉子は俺にとって仕事仲間。それ以上でもそれ以下でもない。
今の俺にはそれ以上の関係性を語る資格なんでない。なんて、我ながら卑屈だな。
昔から何も変われない自分に嘲笑しながら商店街を一人歩く。少し強引に話題を切ってしまったことを後悔した。有地はきっと考えてしまうだろう。自分に話せない何かがあるのではないかと。
たしかに、人に話したい話題ではない。聞かれなければ話すつもりもない。……もしかしたら、話すのが怖いだけなのかもな。
「にゃー」
「ん?って、猫丸。また勝手に出てきてたのか」
俺の相棒である式神の猫丸が心配そうにこちらを見つめていた。こいつは俺が呼び出さなくてもたまに勝手に出てきてしまう。本来ならば勝手に出てくることなんてありえないはずなのだが、猫丸は昔から他の式神より何かと異質だった。
そもそも駒川の式神は陰陽道で言われている式神とすこしだけ異なり、使役するのではなく、自らの霊力を差し出す代わりに力を借りているのだ。霊力の強さや質によって呼びかけに答える
「にゃっ」
「うわっとと。いきなり飛びつくなよ」
「にゃ〜♪」
俺の方に乗ってご機嫌な猫丸。ご機嫌なのはいいが、ここは商店街の真ん中。猫を肩に乗せながら歩くのは恥ずかしい。俺はポ○モンマスターは目指していない。仕方がないので抱きかかえるとゴロゴロと喉を鳴らしながらご満悦の表情の猫丸。
「慰めてくれたのか?」
俺の問いに答えるように尻尾が楽しそうに揺れる。
「ありがとな、猫丸」
お礼に首元を撫で回しながら歩く。猫丸も気持ちよさそうに目を細めていたが、ピクンと耳が動き顔を上げる。そのまま俺の腕から飛び降り駆け出してしまった。その先にいたのは……。
「きゃっ。もー、猫丸。いきなり飛びつくと危ないよ」
「にゃ〜♪」
俺の複雑な心持ちの原因である幼馴染がそこにいた。彼女は猫丸を抱きかかえると周りを見渡し俺と目が合う。
俺は普段通りを心がけて声をかける。
「夕飯の買い物かい?茉子」
「うん。幸彦は猫丸とお散歩?」
「いや。バイトに向かう途中で猫丸がまた勝手に出てきちゃってね」
「はは〜ん。さては研究に熱中しすぎて猫丸のこと構ってあげてなかったんでしょ」
「あー……そういえば」
「あは、困ったご主人様ですね〜」
「にゃ〜」
茉子の言葉に猫丸も返事をする。猫丸さんや、一応君の雇い主は俺なんだけど?……まぁ、最近散歩に連れて行くのを忘れていた俺が悪いので何も言えないのだが。
猫丸は茉子や芳乃様にも懐いている。むしろ俺より仲がいいかもしれない。
「なん度も言うけど、無理だけはしないでね」
「ああ、気をつけるよ。猫丸も、今度一緒に遊ぼうな」
茉子に抱きかかえられている猫丸を撫でると満足そうににゃんと鳴いた。
「バイトまでまだ少し時間あるし、買い物手伝うよ」
なんとなく、ここで別れるのは寂しいと感じてしまった俺がそう提案する。すると茉子はキョトンとしたあとニヤニヤした表情で詰め寄ってくる。
「今日はやけに素直なんだね。あは、もしかしてやましいことでもあったんですか〜?」
やましいことか。ないわけではなかったが、ここは廉太郎の名誉のために黙っておこう。
「まさか。今日はそんな気分なだけだよ」
「あやしい」
「あやしくない。ほら、行くよ」
「目を見ないところがあやしい」
「くどいな君は」
お互いすこしだけ離れて並び歩く。近づきすぎず遠すぎないこの距離が、今はとても心地よかった。
改めまして「駒川の者として」第十三話を読んでくださりありがとうございます。
ようやく更新できました。気がつけば2019年が始まってました。
今回はあえて言うなら廉太郎回です。エロゲの親友ポジってどうしてあんなにいい奴ばっかりなんですかね?なんだかんだ仲がいい幸彦と廉太郎とか、将臣をクラスに馴染ませるためにバカをやる廉太郎。あいつなんであんなにいい奴なんですかね?いつか廉太郎と小春メインの話も書いてみたいです。
今日は18時にも第十四話投稿予定です。
それでは、今年も「駒川の者として」を宜しくお願いします。