「駒川の者として」を読んでくださりありがとうございます。
今回は第四話になります。それではどうぞ。
俺の名前は有地将臣。どこにでもいる普通の高校生だ。
春休みの間、じいちゃんの経営している宿「志乃都荘」の手伝いをしに穂織を訪れた俺を待っていたのは、普通では想像のできない体験とたくさんの出会いだった。
「いろんなことが起きすぎてまだ混乱してるけど、あれから二日しか経ってないんだよな〜」
春祭りで叢雨丸の使い手として選ばれ、幽霊少女にご主人と呼ばれ、巫女姫と呼ばれている可愛い女の子の婚約者になった。学校は転校することになり、女の子が住んでいる家に住むよう言われ、忍者を自称する女の子と出会い、最終的には祟り神と呼ばれる存在に襲われた。
三日前の俺に話しても絶対に信じないだろう。ラノベの読みすぎだと笑われるレベルのことが起こっているのだ。
「はぁ〜、本当に、これからどうすればいいんだ?」
考えをまとめるため、俺は安春さんに頼み神社の掃除をさせてもらっている。
叢雨丸の管理者であるムラサメちゃんも、気を利かせて俺を一人にしてくれた。
昨日、俺は祟り神に襲われ意識を失った。今朝目を覚ました時、みんなが俺を心配してくれた。そして、この街で何が起きているのかを知った。
朝武さんも常陸さんも、あんな化け物と戦ってきたなんて。
「夢じゃない……んだよな」
祟り神のことを思い出すだけで心臓が早く脈打つのがわかる。
包帯だらけのからだと右肩の痛みが、俺に現実であることを告げている。
「やっぱり、女の子だけにあんな危険な存在と戦わせるなんてできないよな」
俺が使い手に選ばれた「叢雨丸」には妖を祓う力がある。祟り神とも戦えるはずだ。俺にもできることがあるなら、朝武さんの力になりたいと思った。
「有地様?こんなところで何してるんですか?」
「あ、常陸さん」
家の家事を終えたらしい常陸さんに話しかけられる。彼女は俺が居候している朝武家の家事を全てこなしているらしい。同い年なのにしっかりしている彼女には頭が上がらない。
「あまり無理をしてはいけませんよ。今朝目が覚めたばかりなのですから」
「無理はしてません。ちょっとじっとしてられなくて」
「ああ、お気持ちはわかります。私も家事をしていると落ち着きますから」
常陸さんは腕を組み、こくこくと頷く。
「あのさ、常陸さんは……」
怖くないの?
ふと、今朝祟り神の話を聞いてから胸に湧き上がっていた疑問が口から出そうになる。しかしその先の言葉は口に出さなかった。
「?なんでしょう?」
「いや、えっと……そうだ!その有地様っていうの、よかったらやめてくれないかな?同い年の女の子に様付けされるのは、やっぱり恥ずかしいというか、こそばゆいというか」
「……そうですね。わかりました。では有地さんと呼ばせていただきます」
なんとか誤魔化せたかな?様付けをやめて欲しいのは本心だし。
「なんか、誤魔化せてよかった〜って顔してますよ?」
「え!?いやぁ〜そんなことないですよ〜」
漫画であれば大きなフォントでギクッと書かれたであろう。自分でも挙動不審になっているのがわかる。
「有地さん」
「は、はい」
「いま、祟り神と戦うのは怖くないのかって聞こうとしましたよね?」
「………」
「やっぱりそうでしたか」
いきなり本心を言い当てられて言葉が出なかった。
「どうしてわかったんですか?」
「ワタシ、エスパーですから」
「そこは忍者じゃないんですね…」
常陸さんなら超高校級の忍者として、サイコポップなコロシアイ学園生活も生き残ることができるだろうな。
「もちろん冗談ですよ。ワタシは忍者ですが、人の心を覗く術はありません」
「だったらどうして」
「昔、同じことを言われたんです。茉子は怖くないのかって。その子も、今の有地さんのように思い詰めた表情をしていました」
その時のことを思い返しているのだろう。常陸さんはまるで誰かを慈しむような優しい顔になっていた。
「正直に言いますと怖い気持ちもあります。でも、芳乃様をお守りするのがワタシの使命ですし、ひとりで戦っているわけでもありませんので」
俺は素直に凄いと思った。俺はまだ怖くて尻込みをしていると自分でわかっているから。
同時に男として、少し恥ずかしかった。
「ところで有地さん。この後時間ありますか?」
「ありますけど、どうしたんですか?」
「あはっ、ではワタシとお出かけしませんか」
◆◆◆
「お!茉子ちゃんじゃないか!夕飯の買い物かい?」
「はい、今日はトンカツにする予定です」
気がつけば常陸さんのおつかいに同行していた。お出かけなんていうから少し緊張してたんだけど、なんか騙された気分だ。べ、別にいやらしいことは考えてないから!
「トンカツか〜、じゃあこれなんてどうだい?安くするよ〜!」
そう言って肉屋のおじさんが出したのは遠目でもわかるいいお肉だった。
「いいんですか?」
「春祭りではうまいおにぎりをご馳走になったからね!巫女姫様の舞も素晴らしかったし、約束通りコロッケもおまけしてあげる」
「わぁ、ありがとうございます」
「いいって、巫女姫様には元気でいて欲しいからな。いつもの量でいいかい?」
「あ、今日は一人分多くいただけますか?」
「ん?ああ幸彦も今日は一緒に食べるのかい?いいねぇ、妬けちまうよ」
「違いますって。今日はお客さんがいるんです」
常陸さんも朝武さんも、街の人に好かれていることが会話から伺える。……幸彦って誰だろうか?常陸さんの知り合いかな?
お肉を買った常陸さんがこっちに戻ってくる。
「お待たせしました。次は八百屋さんです」
「あ、荷物持つよ」
「あは、お気持ちはありがたいですが、けが人に無理をさせるわけにはいきません。それにワタシ鍛えてますから。これくらい朝飯前です」
怪我の話を持ち出されると、それ以上持つとは言えなくなってしまう。
それでも、なんだかんだと外を歩いているだけで気分は軽くなる。きっと常陸さんはそれが目的で俺を連れ出したのだろう。
「有地さんは苦手な食べ物はありますか?」
「どうだろう。これといって苦手なものはないかな。常陸さんの作るご飯おいしかったし」
食事の空気はギスギスして最悪だったが、昨日食べた朝ごはんも昼ごはんも美味しかった。あれで朝武さんともっと会話が続けば百点満点だったと思う。
「あは、そう言ってもらえると嬉しいですね。今日の晩御飯も楽しみにしててください」
女の子と一緒に歩いて買い物して、家に帰ったらご飯を作ってもらう。な、なんかこれ、世間一般でいうリア充ってやつじゃないか!?しかし俺には朝武さんという婚約者が……まずい!何にもやましいことはないのに最低のことをしている気がしてきた!
「お!茉子ちゃんじゃねぇか!」
そんな馬鹿なことを考えていたら、商店街の魚屋の前でおおきな男の人に声をかけられた。
「魚屋さん。こんにちは」
「おう!茉子ちゃんは今日もべっぴんさんだなぁ。買い物ちゅうか、い……」
魚屋さんと呼ばれた大男は俺を見た瞬間固まってしまった。
「ま、ま、ま、茉子ちゃん?そそそそそのぉおおと、とと、男はまさか!?」
大の大人がここまで壊れたロボットみたいになる光景は新鮮だったが、なぜだろう。とんでもない誤解をしている気がする。
「ご紹介しますね、こちら……」
「いいや!茉子ちゃん!みなまで言わなくていい。その男は茉子ちゃんのか、か、か、かれ……ゆぅぅきひこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!一大事だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
大男はその巨体からは想像できないほどの速さで立ち去ったかと思うと四軒隣りの本屋さんから一人の男の子を連れてきた。
身長は175センチ以上あるように思える。髪は俺よりは短いが廉太郎よりは長め。雰囲気から俺より年上のようにも見える。Yシャツにチノパン、その上にエプロンを身につけた姿はこの穂織では珍しいものであった。
「魚海のおやじさん。今日は魚政のバイトじゃなくて本屋のバイトの日なんですが?」
「ばかやろう!おめぇ、茉子ちゃんがこの男に取られたちまったかもしれねぇんだぞ!」
「この男って……」
本屋から連れてこられた男の子は俺の方に顔を向けると目を見開き、盛大にため息を吐いた。そして申し訳なさそうに体をこちらに向ける。
「……うちの師匠がご無礼をはたらき大変申し訳ありませんでした、有地様」
「ああ、いえ、お気になさらず……て、あれ?」
なんで俺の名前知ってるんだ?
「おやじさん。この方は芳乃様の大切なお客人ですよ。茉子の恋人なんかじゃありません」
「へ?……そうなのか茉子ちゃん?」
「そうですよ。有地さんはお客人です。魚屋さんが想像している関係じゃないですよ」
「………」
大男(魚海さんというらしい)は少しの沈黙の後、バッと地面に額をつけて綺麗な土下座を披露した。
「すまなかった!おれぁてっきり茉子ちゃんに彼氏ができたのかと……無礼なことを言っちまった。本当にすまない!!!」
俺はすっかり面食らってしまった。大人に土下座されるなんて初めての経験である。
「有地様、俺からも謝ります。すいませんでした」
本屋からきた男の子も頭をさげる。
「あ、頭を上げてください!全然気にしてませんから!」
謝られているのにすごく居心地が悪い。俺も謝るから土下座はやめてほしい。いやホントマジで。
「ありがとうございます。ほらおやじさんも」
「ああ、ありがとう!せめてものお詫びだ。今度うまい鮎をご馳走する」
「よかったですね有地さん。魚政の仕入れる鮎は絶品ですよ」
なんだか常陸さんが楽しそうだ。この人悪戯好きだもんなー。
俺らが騒いでいると、本屋から今度は蝶ネクタイをした英国紳士風の男性がやってくる。
「まったく、いきなり幸彦を連れていったと思ったら、何をしてるんですか魚屋さん?」
「うう、悪かったよ古本屋」
「あなたはもっと人の話を聞く癖をつけなさい」
大男が英国紳士風の男性に叱られてる。はたから見れば滑稽な姿も、当事者となれば居た堪れなくなる。こんな時どんな表情をすればいいのさ。
「常陸さん、それにそこの君。魚屋さんが迷惑をかけたね」
古本屋さんは俺たちに頭を下げたあと、本屋からきた男の子の顔を向ける。
「幸彦、今日のバイトはここまでで大丈夫です。常陸さんの荷物持ちをしてあげなさい」
「え?俺がですか?」
「女性に荷物をもたせてはいけません。もちろんけが人にも。彼女たちを見てしまった以上放っておくわけにはいきません。だから君が荷物を持ってあげるんだ。今日の分の給料はちゃんと出すから安心してください」
英国紳士風の男性はやはり紳士だった。
ていうか、幸彦って、本屋からきた男の子がさっき話に出てきてた幸彦なのか!?
「って言われてるんだが、茉子、それでいいかい?」
「うん。ワタシは大歓迎だよ」
「有地様もそれでいいでしょうか?」
「は、はい。大丈夫です……」
いろいろ聞きたいことがあるのだが、ここで断る理由はない。というか、話を終わらせて早くこの場から立ち去りたい。
俺の気持ちを察してかわからないが、幸彦と呼ばれた男の子は俺たちを連れて足早にその場を離れた。
魚屋さんの前では、さっきの魚海と呼ばれていた大男が古本屋さんの男性に叱られていた。正直異様な光景だが、周りのお店の人たちが何の反応もしていないので、きっとよくあることなのだろう。
「面白かったね幸彦♪」
「笑い事じゃないぞ、ホント」
二人の反応を見て、よくあることなんだと確信した。きっと幸彦と呼ばれていた男の子は苦労してきただろう。
「有地様、改めて師匠が迷惑をかけました」
「ああ、いや、大丈夫だって、それより……幸彦さん?」
「幸彦でいいですよ」
「……じゃあ、幸彦。なんで俺のこと知ってるんですか?」
常陸さんも幸彦もキョトンとしていた。
あれ?俺変なこと言ったかな?
「そういえば、意識があるときに会うのは初めてでしたね。俺は駒川幸彦と言います。茉子と同じく代々朝武家に仕えている医者の家系の者。本当は今日の夜に挨拶するつもりだったんですが……」
意識があるときに会うのは初めてってどういうことだ?
「昨日、山で意識を失っている有地さんを運んだのが幸彦ですよ」
「え!?そうなの!?」
てっきり大人が数人がかりで運んでくれたものだと思っていたが、幸彦一人であの山道を?しかも俺を担いで運んだのか!?
「そうとは知らないで、お礼が遅くなりました!昨日はありがとうございます」
「気にしないでください。あれは芳乃様たちが悪いですから」
やっぱり大人な反応だな。同い年とは思えない。穂織に住んでるとみんな大人っぽくなるんだろうか?……いや、少なくとも廉太郎は俺と同種な気がする。
その後、幸彦は俺の体調の心配や、生活面で困っていることはないかいろいろ聞いてきた。なんだかお医者さんに問診されてる気分だ。
常陸さんが八百屋で野菜を買っている間、幸彦と二人になってしまった。正直、さっき会ったばかりなので気まずい。
「あのさ、幸彦……さん」
「幸彦でいいと先ほど申し上げましたよね」
「ああ、うん。ゴメンなさい」
やっぱり話しづらい。
「幸彦、お願いがあるんだが」
「なんですか?」
「敬語も様付けもやめないか?同い年なんだし、やっぱり男とは気楽に話したいというか、なんというか」
俺の言葉を聞いた幸彦は予想外の言葉に驚いたのか目を丸くした。
「……ははは、それもそうか。うん。これからは有地と呼ばせてもらうよ」
笑われると、やっぱり恥ずかしいこと言った気がしてくる。
「う、笑わなくてもいいだろ」
「ごめんよ。やっぱり周りが女性だらけの生活は大変かい?」
「そりゃもう、いろいろ気を使っちゃって」
「わかるよ、芳乃様も茉子もムラサメさまも無防備な所があるからな」
「そうなんだよ。だからと言って居候の俺が注意するのもどうかと思って」
「その辺は任せてくれ。俺から気をつけるよう言っておく」
「本当か!?助かる!」
この二日間、男との会話は安春さんぐらいだったのでなんだか落ち着く。決してそっち側の人間じゃないがな。
「随分と楽しそうにお話ししてますね。」
「男だから共感できることもあるってことだよ」
今の会話の間に常陸さんからさりげなく自然に荷物を受け取る幸彦。
お、大人だ!大人の男だ!俺も古本屋さんでバイトすれば紳士になれるだろうか?
「買い物はこれで終わりか?」
「うん。それじゃあ戻りましょうか。幸彦もこのまま来るでしょ?」
「もちろん。荷物持ちとして派遣されたわけだからな」
このまま帰ってもいいのだけれど、俺には話を聞きたい人がいた。
「あの、常陸さん。朝武さんがどこにいるか知らないかな?」
「芳乃様なら少し仮眠をとるといってましたので、今は神社にいるかと」
「そっか。常陸さんと幸彦は先に帰ってて」
俺は神社へ向かうことにした。
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「それで、幸彦から見て有地さんはどうだったの?」
走って行く有地を見送りながら茉子が聞いてきた。
「そうだな、いい意味で期待を裏切ってくれたかな」
「………」
「なんだよ?鳩が豆鉄砲食らったような顔して」
「いえ、意外に好意的なんだなーて」
「別に、頭ごなしに彼を否定したいわけじゃないさ。知ってるだろ?俺が心配性だってこと」
ただただ俺がこの目で確認したかっただけ。叢雨丸に選ばれた人間がどのような人物なのか。
「友好的な関係を築けるならそれに越したことはない。そうだろう?」
「そりゃそうだけど、幸彦って芳乃様のこととなると何するかわかんないんだもん」
「人のこと言えないだろ?」
「幸彦ほどじゃないですー」
そう言って互いににらみ合う。
「「……っぷ、あははは」」
なんだか、そうして睨み合っていることが可笑しく思えて二人とも笑いが溢れる。どれだけ成長しても、この関係は昔から変わらない。
「結局、お互い芳乃様が大好きなんだよね」
「違いない」
だからこそ、俺たちはこれまで頑張ってこれたのだろう。
「……今夜も、芳乃様をたのむ」
「うん。任せて」
昨日の晩に発生した祟り神。時間が経過するごとにその力はどんどん強くなってしまう。有地が襲われたことで昨日は退治に行けなかった。
これ以上被害を出さないためにも、今夜、祟り神を祓わなければならない。
なんども経験していることだが、慣れることなんかない。
今夜も茉子と芳乃様が無事戻ってくることを、俺はどこにいるのかもわからない神様に祈るのだった
改めまして、
「駒川の者として」第四話を読んでくださりありがとうございます。
今回は将臣視点に挑戦しました。
本当は祟り神退治までいく予定でしたが、あまりにも文章量が多くなってしまったので分けました。
というわけで、次回は祟り神退治に向かう一行とそれを見送るその他を書いていきたいと思います。