Be the Top!   作:sbue

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Round5 New Challenger!

 3ラウンド終了後、佐伯は自分のコーナに戻らず、鷹村の元へと歩み寄った。木村や一歩は、あまりにも疲れが溜まり正常な判断を下すことが出来なくなったと心配したが、どうやら違っていたようだ。

 

「……鷹村さん」

 

「おろ?おいおいお前のコーナは逆だぞ、逆」

 

「……お願いがあります」

 

「お願いだと?」

 

「最後の4ラウンド目、鷹村さんが俺を殴らないという条件をなかった事にして欲しいんです」

 

「お、おう……?」

 

 佐伯の予想外の発言は鴨川ジムの皆を驚かせた。

 疲れ切った上に、自分を殴ってくれなんていう奴はないないのだ。普通は。言うなればそれは自殺行為に等しいのだ。

 しかし鷹村は何食わぬ顔で提案を受け入れた。

 目は口ほどに物を言う。

 経験の浅い佐伯とのスパーリングで鷹村は彼の考えている事がなんとなくだが分かったのだ。

 拳は語るのだ。

 

「いやいやいや、鷹村さん!流石にそれはまずいっすよ!」

 

「そうですよ鷹村さん!あの方は初心者ですよ!?鷹村さんの本気のパンチなんて喰らったらひとたまりもありませんよ!」

 

 木村、一歩は鷹村を止めにかかるが、当の本人である佐伯の目は鷹村をじっと捉え、両の拳を目の前で構えている。

 

「ま、本人たっての願いって訳だ。それを無視するわけにはいかねぇよな」

 

 「で、でも───」と鷹村の返答に一歩が何かを言いかけたが、微かな声で「お願いします」とう佐伯の声にスパーリングを続行させる他なかった。

 そして4ラウンド目を告げるゴングが鳴り響いた。

 

 

 

 

「それなら……遠慮なくいかせてもらうぜ───」

 

 ゴングが鳴ったと同時に鷹村は三メートル弱あったはずの距離を一瞬でゼロにした。と、同時に佐伯の腹部に激しい痛みが襲い掛かる。

 

「カハッ────」

 

 鷹村の左ストレートが佐伯の腹部を突き刺した。

 耐え難い痛みに顔を歪ませるが、佐伯は耐えた。そして次の攻撃に備え、バックステップで鷹村との距離とった。

 

「こ、これが本物のボクサーのパンチってやつか……」

 

「まだ序の口だぜ」

 

 まるでボクシングの教本そのものと対峙しているかのようであった。間合いのとり方、基本的なパンチの応酬に、熟練の技術を必要とする高難易度のテクニックに佐伯は圧倒された。

 流石の木村や一歩は止めに入ろうと試みたが、佐伯の目はまだ闘えると2人に訴えかける。

 まだ俺はやれるんだ、と。

 

「やるじゃねえか。まぁ、これでしまいだ────」

 

 鷹村の猛攻が刹那だが止まる。

 佐伯は安堵した。

 しかしそれはほんの一瞬に過ぎなかった。

 鷹村はサイドステップで佐伯の死角に入り込み、こめかみ目掛けフックを放つ。それも完璧なタイミングでかつ、絶妙な力加減で。 

 流石の鷹村も、人体の急所を本気で殴るような真似はしないのだ。しかも素人相手に。まぁ、こめかみは人体の急所のうちの一つであるのだが……でも今はそんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。

 品定めとまではいかないが、鷹村的に佐伯はよくやった方だ。そこらの素人なら4ラウンドを迎える前に、バテているのが常だ。例えそれなりの体力があったとしても、リングに上がるとあってないようなものなのだ。

 実際佐伯もばてているが、鷹村が認めたものはその心意気であろう。

 拳をリングに付け、蹲る佐伯。

 鷹村は踵を返し、自分のコーナーへと戻った。

 

「ま、トーシローとしちゃあ、良くやった方───……?」

 

 鷹村はピタリと歩みを止める。

 周囲の反応が、どこかおかしいのだ。

 鷹村は、まさか───、と思い振り返ると、リング上ぇダウンしていた筈の佐伯が立ち上がっていた。

 生まれたての子鹿のように足を震わせ、辛うじてだが立ち上がっているのだ。そして自分の足をボクシンググローブで殴りつけ、意識を繋ぎ止めるように己を鼓舞しているようにもみえる。

 

 確かアイツも────

 

 鷹村ちらりと一歩の方を見る。

 佐伯はハードパンチャーでもない。そして、誰かさん並の桁外れの力がある訳でもない。が、何故だろう。鷹村は佐伯と一歩を照らし合わせていた。

 

「木村も厄介なやつを拾ってきやがって。ったく……。おい!まだやれるんだろうな?」

 

「は、はい……やれ……ます……!」

 

 佐伯はファイテングポーズをとる。

 まだ、自分は闘いたいのだ、と言いたげに。

 

「はぁー……。降参……はするはずないか。それなら人思いに一発で沈めてやらァ!」

 

「お願いします───」

 

 鷹村の射程距離に佐伯が入るまで僅かコンマ数零秒り佐伯が鷹村の右拳を捉える頃にはもう全てがあまりにも遅すぎたのだ。

 しかし、次の瞬間、鷹村の想像をはるか斜めをいく出来事が起きる。

 「や、やりやがった佐伯の野郎────」と思わず言葉をもらす木村と、対照的にジムのメンバー達や一歩はただただ目を見開き、唖然としていた。

 

「つ……突っ込んできやがっただと!?」

 

 佐伯は鷹村の右ストレートに自ら突っ込むという、玉砕覚悟の決死の捨て身技を繰り出したのだ。

 基本的にパンチは目標に到達するその瞬間が、最も速度がある。そして物理的に考えるなら、速度を持つ拳という物質は、速度があればあるほど威力を発揮するのだ。

 故に佐伯の行動は決して間違ったものでなく、寧ろある観点からすれば理にかなっている。しかしボクサー生命を考えるならば、その様な馬鹿げた行動は単なる自殺行為にほかならない。

 また、自らパンチに突っ込むことは精神的に非常に恐ろしいことなのだ。人間の構造てきにも、反射的によけてしまうのが人間の常なのだ。

 

 そして4ラウンド目にして、初めて佐伯は鷹村の身体に己の拳を付けることが出来た。ただ、拳をトン、と鷹村の腹部に当てる。ただ、拳を当てた、それだけである。

 

「や……った────」

 

 佐伯は満足したのであろうか、膝を付き、天井を仰いだと同時にリング上に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────イテテ……俺は……あれ、確かリング上に────」

 

「おぉ、目覚ましたか、佐伯!大丈夫か!?」

 

「あ、木村さん。あのう、あの後は一体どうなったんですか?後半あまり記憶がなくて……その、断片的といいますか」

 

「膝付いて、リングでダウンしたんだよ。鷹村さんにパンチ当ててからな」

 

 

 あぁ、そうか。と佐伯は思い出す。

 

「あの、……俺は……その」

 

「ん?」

 

 佐伯からある言葉が零れでる直前、鷹村が佐伯の前に急に現れ、右手に持っていたスポーツドリンクを佐伯に投げ渡した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「それにしてもよく俺様のストレートに突っ込んできやがったな。あれには俺も引いたぜ、まじで」

 

「す、すいません……」

 

「……が、嫌いじゃないな。その心意気は」

 

「────!!」

 

「明日も来るんだろ?」

 

「え、いいんですか!?」

 

「と、とにかく今日はとっとと帰って寝やがれ!」と言い残し、鷹村はロードワークをしに、ジムから飛び出て行った。

 佐伯は喜んだ。

 少なくとも鷹村の評価的に、自分はボクサーを目指してもよいのだということに喜んだのだ。

 たったそれだけなのかもしれない。

 けれど、佐伯にとっては人生を変えた瞬間なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ということで、次は明日だな」

 

「はい!お願いします!」

 

「今日は帰ってゆっくり寝とけよ。モロに鷹村さんのパンチくらったんだからな」

 

 空気がいつもよりも澄み渡っていた。

 心なしか、気分が良い。

 心のモヤが晴れたような、そんな気分だ。

 けれど、やはり目の前が時たま歪むのは鷹村さんの強烈な一撃のせいなのかもしれない。まぁ、突っ込んでいったのは自分なのであるが……。

 

「正直、まだちょっとだけグワングワンするような気が……」

 

「やっぱり、今日は送っていくわ。なんかあったら危ねーしな」

 

「本当何から何まで……」

 

「あ、そうだ。腹減ってねえか。今から中華でも食いにいこうぜ」

 

「お願いします!」

 

 

 

 ここに新たな挑戦者が誕生した。

 佐伯は手を差し伸べた。

 過去ばかり振り返る自分自身に。

 共に歩もうではないか、と。

 未来を変えべく、力を合わせようと。

 




Round1.2の内容を修正致しましたm(_ _)m
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