奏さんの妹になって奔走する話   作:温野菜生活

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天羽唱花の一日

 戦姫絶唱シンフォギア、それが私が転生した世界だ。

 可憐な少女たちがシンフォギアと呼ばれる兵器を身に纏い、ノイズと呼ばれる存在をバッタバッタとなぎ倒していく……的な話だったと思う。

 

 正直な話、私はこの話についての知識がほとんどない。おぼろげながらに覚えているのは物語のインパクトの強かった部分だけで、細かなところなんかとても思い出せる気がしない。

 まぁでもそんなものなくても別に困ることなんてないし、今が楽しめていれば問題ないよね! よし、もうこの話はここまで!

 

 というわけで、今日も今日とて私の1日は始まりを告げるのであった。

 

 

 

 

 

「だぁあああっ、寝坊した!」

 

 ドタドタと、けたたましい足音とともにリビングのドアが開け放たれる。現れたのは寝癖で髪の毛をボサボサに逆立てた姉さんで、寝間着姿のまま朝食のならべられたテーブルへと座る。

 

「姉さんやっと起きたんだ、おはよー」

「おはよう、ってか少しは起こしてくれてもいいじゃねぇか!」

「起こしたよー5回くらい。でも姉さんが『あと5分』って言うからついつい」

 

 自分の分の朝食を乗せた皿を運びながら、ジト目を向けてくる姉さんに言う。起こすのは容易いけど、妹として姉さんの願いは可能な限り叶えてあげたいものなのですよ。

 

「ほら、早く食べないと学校に遅刻しちゃうよ?」

「おお、そうだな……いただきます」

「はい、いただきます」

 

 手を合わせ、私たちは朝食へと箸を伸ばした。

 

 

「ハンカチ持った? ティッシュは? あと学生証も」

「ちゃんと準備したから大丈夫だって」

 

 玄関にて、学校指定の制服を身にまとった姉さんへ確認をとる。

 リディアン音楽院、それが姉さんが通う学校の名前である。設立年数がまだ一桁台という新しい学校ではあるが、学費が安くさらに”タレントコース”というものが設立されている。

 また音楽院というだけあり、各種音楽教科を中心に一般教科を混ぜ込むといったスタイルをとっており、アーティストとして活躍する姉さんにとって通うにはうってつけの高校なのだ。

 

「あ、寝癖ついてるよ……それにネクタイもちょっと曲がってる」

「そんぐらい誰も気にちゃいねぇって。ていうか早くしないと遅刻しちまうだろ」

 

 むむ、その発言はいただけませんな姉さんや。

 

「姉さんはアーティストなんだから、身だしなみはしっかりしないと──ねっ」

「うげっ⁉︎」

 

 キュッ、と制服のネクタイをきつめに締めると、姉さんは苦しそうな悲鳴をあげる。

 なんというか姉さんはアーティストとしての自覚が足りなさすぎる。もうちょっと身だしなみやオシャレに気を使ってほしいものだ。

 

 まぁそういうところをカバーするのが”マネージャー”である私の役目なんだけどね!

 

「っと、私も準備しないと。そろそろ緒川さんが来る頃だし」

 

 そうして私は自室へと向かい、クローゼットにかけてある女性用スーツに袖を通す。そして机の上に置いてある伊達眼鏡をかければ、あっという間に”唱花ちゃん Ver.マネージャ(仮)”の出来上がり!

 なんで伊達眼鏡かって? それは緒川さん曰く『マネージャーモードのオンオフの切り替え』に必要だからだって。

 

 ──ピンポーン

 

 っと、そんなことしてる間に緒川さん来ちゃった。それじゃあ私もマネージャー(仮)として今日も頑張りますか!

 

 

 ……あ、ちなみに私は学校には通ってないよ。高校へ進学したのは姉さんだけだから、そこんとこよろしく!

 

 

 

 

 

「それではよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 そう言い、私は対面の席に座る男性に頭を下げ部屋を出る。今の相手はとある飲料会社の方で、今度のコマーシャルの打ち合わせをしていたのだ。

 こうした仕事の一つ一つが姉さんと翼の仕事の幅を広げていく、とは緒川さんの話である。

 

「唱花さん、打ち合わせお疲れ様です。よかったらどうぞ」

「あ、緒川さん、ありがとうございます」

 

 そっと私にコーヒーを差し出してくれるのは、スーツ姿の爽やかイケメンの緒川 慎次さん。私の先輩であり、ツヴァイウィングの正マネージャーだ。

 

「初めての一人での打ち合わせ、どうでしたか?」

「いやぁ柄になく緊張しましたよ。でも緒川さんがサポートしてくれたおかげでスムーズに話を運ぶことができました」

「それはよかったです。今は”ツヴァイウィング”としての仕事が多いですけど、今後は別々になることもありますから。僕一人では手が回りきらないかもしれないので、唱花さんがいてくれると色々と助かります」

 

 そう言って爽やかに笑う緒川さん……やだ、なにこのイケメン。

 そんな緒川さんにときめきつつ、受け取ったコーヒーに口をつける。あぁ、仕事終わりの一杯はまた格別ですなぁ……。

 

「今日の予定はこれくらいですので、一度もどりましょうか」

「はい、そうですね」

 

 そうして私は緒川さんの車に乗り、リディアン音楽院高等科の校舎へと向かうのでした。

 

 

 

 

 特異災害対策機動部二課。シンフォギアを知っている方なら周知の存在である『対ノイズ』の政府機関。

 その本部は姉さんたちが通うリディアン音楽院高等科校舎の地下に存在しており、日夜ノイズによる被害を食い止めるべく活動している。

 そして私もまたこの二課の一員であり、ノイズと激闘に日々身を置いている……というわけではなく。

 ノイズの発生件数自体はそれほど多くはなく、どちらかといえば戦闘訓練に割く時間の方が多いというのが現状である。

 

「ほらほらどうした! 腰が引けてるぞ!」

 

 ちなみに私、天羽唱花もシンフォギアの適合者だったりする。しかしこのことは二課の人たちだけが知ることで、姉さんと翼は私が適合者だということは知らない。

 それはなぜかを端的に話すのならば、姉さんが私がノイズとの戦いに触れるのを嫌っているからだ。

 

「もっと集中しないか! 戦場だったらその隙が命取りになるんだぞ!」

 

 私の姉さんは数年前、ノイズによって両親を失った。親を失った私たちは二課に引き取られ、姉さんはノイズへの復讐のため、家族の仇を討つためにシンフォギアを纏うことを決意。

 しかし適合者でなかった姉さんがシンフォギアを手にするのは容易ではなく、訓練と薬物投与を繰り返す……まさに地獄のような日々を送り続けた。結果として姉さんはシンフォギアを身に纏うことができたが、それはまさしく血反吐にまみれ手にした力。

 シンフォギアを手にするまでの苦しみを知っている姉さんは私をシンフォギアから遠ざけた。そしてノイズとの戦いにも、私を一切関わらせないようにも。

 

「そうだ、受け止めるだけが術じゃない! 受け流し、反撃の隙を作るんだ!」

 

 姉さんが私のことを思ってそうしたことはわかる。だけど私だって姉さんに無茶をさせたくない。このままアーティストとして夢を追ってほしいと願っている。

 でもそんなことを言っても、きっと姉さんは納得してくれないとわかっている。だから私は決めたんだ、姉さんに黙って力をつけようって。来るべき日までに力をつけようって。

 そのために私は弦十郎さんへ頼み込みシンフォギアとの適合を試みた。そしたらなんと私は適合係数が高かったらしく、純粋な適合者としてシンフォギアを手に入れることができたのです。

 

 ちなみに私が高校へ進学しなかったのはマネージャーとなることの他に、姉さんに気づかれないように訓練をするためだ。だって姉さんが学校へ行っている間に訓練をすれば、気づかれることなく力をつけることができるからね!

 

 とまぁ、こんな感じでシンフォギア装者として日々を送るようになった私なんだが

 

「よし、今日はこのくらいにしておくか」

「はい……ありがとう、ございました……げふっ」

 

 いやもう戦闘訓練がキツイのなんの。毎日毎日死の淵を渡ったり戻ったりの連続で、来る日の前に私にお迎えが来そうな勢いなのですよ……。

 私は身に纏ったシンフォギアを解除しつつ、大の字に寝転がった体を起こす。汗でスポーツウェアが体に張り付いて……うわ、気持ち悪っ。

 

「なんとか形になってきたが、正直まだまだだ。今のままでは実戦に出すことはできないな」

「はい……重々、承知しております……うぐっ」

 

 腕組みをし厳しい意見を口にするのは、私と同じくスポーツウェアに身を包んだ弦十郎さんである。

 いやこの人マジで半端ないんですって。私が素人とはいえ生身でシンフォギアを圧倒できますか、普通。しかもあれ、拳圧だけで吹き飛ばすとかいう人間離れした技もしてくるし……マジでこの人、人間やめてんじゃないかな……。

 

 そんな人としての何かを超えた師匠を見上げていると、弦十郎さんはその表情を曇らせつつ口を開く。

 

「唱花、やはり学校へ行く気はないのか……?」

「またですか……行く気はないですよ」

「そうは言うがお前はまだ子供だ。戦いのことなど忘れ、同年代の友人と過ごす時間があってもいいだろう」

 

戦い(それ)に巻き込んだ俺が言えたことじゃないがな」と続け目を伏せる弦十郎さん。

 まったく、ほんとにこの人は優しすぎる。別に強制されたわけじゃなく、私自身が望んだことなのに。

 

「私はいいんですよ。姉さんが笑っていられるだけで十分なんですから」

 

 私にとって一番大事なのは姉さんだ。姉さんの夢が私の夢であり、姉さんが今アーティストとして夢を追うのなら、私は後ろでそれを支え続けたい。

 

「本当にか?」

「もちろん」

「……迷いはないんだな」

「えぇ、欠片ほども」

 

 あいにくと迷いが入り込む余地なんてないんですよ。これぽっち、1ミリたりとも。

 

 弦十郎さんの瞳をまっすぐに見つめ返す。私の決意がぶれないことを悟った弦十郎さんは、ふぅ、と小さく息を吐く。

 

「やっぱりお前と奏は姉妹だな。頑固なところが特にそっくりだ」

「へへっ、ありがとうございます!」

 

 そうです、この世でたった二人しかいない姉妹なんです。だから大切なんです、この世界のなによりも。だから守りたいんです……私の命に代えても。

 そのためにはもっともっと、今よりも何倍も強くならなきゃいけないんです!

 

「よしっ、続きお願いします!」

「今日は終わりだと言っただろう……だがっ、その心意気は嫌いじゃない! 特別にもうひと訓練付き合ってやる! 全力でついてこい唱花ッ!」

「押忍ッ!」

 

 そして私は弦十郎式訓練の追加コースへと身を投じるのであった。

 

 

 全ては来るべき日──天羽奏の死という、そんな未来を変えるために。

 

 

 

 

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