奏さんの妹になって奔走する話   作:温野菜生活

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明けましておめでとうございます。
今年もゆっくり更新ですが、よろしくお願いします。



「仰せのままに、マイマスター」

 アウトレットモールにて、ノイズとの初戦闘を終えた数日後。

 弦十郎さんたちの尽力により姉さんたちにはノイズの一件はバレずにすみ、現在は何事もなかったようにマネージャーとしての1日を送っている。

 無茶を聞いてくれた二課の人たちには、本当に感謝が尽きない。

 

「にしても体まだ痛いなぁ……」

 

 初めてのノイズとの戦闘からそれなりに時間が経ったが、私の体にはあの時の痛みが残っている。日常生活にはさしたる支障はないけれど、弦十郎さんからは痛みが引くまで訓練は無しだと言われてしまった。

 了子さんからも自然治癒力に頼るしかないと言われたので、仕方ないが痛みがなくなるまでは訓練は控えておこう。

 

 とはいっても、訓練がなくなるとどうにも体力が余ってうずうずしてしまう。どうにかして発散したいんだけど、弦十郎さんたちに見つかった時が怖いから不用意に動くことができない。

 一応こそこそとランニングだったり、自宅での筋トレだったりはしてるんだけど……あーあ、もっと激しく体動かしたいなぁ。

 こんな考え、了子さんにぽろっと言ってしまったものなら「うら若き乙女がする思考じゃないわね……」と、苦笑を交えて言われることだろう。

 

 なんてことを考えながら、二課の廊下を歩いていると

 

「あ、あの唱花……」

 

 聞こえてきたエンジェルボイス。

 光速を超える反応速度で振り返るとそこには、後ろで手を組み頬を朱に染める天使、間違った翼の姿が。

 

「どうしたの、翼?」

「えっとね、その、唱花にお願いがあって……」

 

 顔を横に向け、恥ずかしそうに視線を向ける翼。その可愛さたるや、もはや人の領域を超えた破壊力を持っており。

 自然、私の手は財布へと伸び

 

「どれくらい欲しいの? 唱花ちゃん、いくらでもあげちゃうよ」

「ち、違うよ⁉︎ お金が欲しいんじゃないからっ、だからお財布しまって!」

 

 どうやらお小遣いが所望だったようではないらしい。

 翼にだったらいくらでも貢いであげるのに……。そんな思いとともに財布をしまい、私は再度翼へと視線を向け。

 

「それで、お願いって何?」

「え、えっと……ぉ……の……づけ……」

「ん? なになに、唱花ちゃん聞こえなーい」

 

 ボソボソと呟く翼にそう言うと、ただでさえ赤い顔をさらに赤く染め上げ

 

「お部屋の片付け、してくれない……かな」

「OKマイエンジェル、我が命に代えても」

 

 西洋騎士のようにその場に膝をつき(こうべ)を垂らす。

 

「しょ、唱花⁉︎ その、みんな見るからっ、変なポーズ取らないで!」

 

 わたわたとした翼の声を聞きながら、私はいざ、桃源郷へと足を運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 場所は変わり翼の部屋。

 有名アーティストな彼女の部屋は、普段見せる凛々しい顔とは全く逆。すなわち汚部屋と呼ぶにふさわしいものだった。

 服は部屋の隅々を埋め尽くすように散らばり、布団はシワでグチャグチャ、ペットボトルや空き缶が散乱と、まさに『ひどい』の一言に尽きる。

 

「あちゃー、今回もかなり散らかしたねー」

「うぅ、ごめんなさい……」

 

 申し訳なさそうに頭を下げ、弱々しい声で謝罪する翼。

 昔から剣一筋に生きてきた彼女にとって、家事などは無縁の世界。ましてや片付けなど以ての外で、一週間もあれば立派な汚部屋を作り上げることができる。

 

「前回から二週間……翼にしては頑張ったね、偉い偉い」

「もう、子供扱いしないで……」

「あははっ、ごめんごめん! それじゃ、早速片付け始めよー!」

 

 照れる翼を背中に置き去り、私は汚部屋へと足を踏み入れた。

 掃除はいっつも家でしてるから手馴れたもの。てきぱきと手を動かし、オロオロとする翼へ指示を出しながら、少しずつ汚部屋をお部屋へと変えていく。

 

 片付け始めて二時間。

 なんということでしょう。空き巣に入られたかのように荒れていた汚部屋でしたが、匠(私)の手によって見事、新築同様の輝きを取り戻し立派なお部屋へと様変わり。

 まさしく◯的ビフォーアフター。さすがは匠(私)、見事な御手前です。

 

「よしっ、これくらいかな」

 

 綺麗になった部屋を見渡す。うんうん、汚い部屋を綺麗にするのってやっぱり気持ちがいいよね!

 

「あ、ありがとう唱花。それと、いつもごめんね」

「いいのいいの、私は翼のマネージャーでもあるんだから。身の回りのお世話くらいお手の物ってね!」

 

 やることはやったし、翼とともに二課の休憩室へと戻ると

 

「た、助けてくれ唱花ッ!」

「どわぁ⁉︎ ね、姉さん⁉︎」

 

 扉を開けると突如、血相を変えた姉さんに抱きつかれる。身長差からか、年齢の割に出まくっている柔らかな双丘が私の頭部を包み込み、むにゅぅ、と形を変える。

 …………はっ! 危ない危ない、あまりの幸せに一瞬意識が飛でしまったじゃないか。

 

「姉さん、そんなに慌ててどうしたの?」

「了子さんが、あたしに()()を着させようとしてくんだよ!」

 

 叫びながら後方へ指をさす姉さん。その先へ視線を追わせると、これでもかと言わんばかりの笑顔を浮かべた了子さんが立っていたではないか。

 そんな了子さんの手には例のあれこと、布面積の非常に少ない橙色のビキニが握られており。

 

「もう奏ちゃんったら恥ずかしがっちゃって。だ〜いじょうぶよ、ただの水着だから、み・ず・ぎ♪」

「なんで布がんな小せぇんだよ! ほとんど裸じゃねぇか!」

「まぁまぁ、奏ちゃんなら絶対に似合うから! だからちょっと、一回だけでいいから! ね、着てみない?」

「絶対に嫌だ! 翼、唱花、助けてくれ!」

 

 そんなに嫌なのか、目に涙を浮かべて懇願する姉さん。

 大切な相棒の危機に立ち上がったのは後ろにいた翼で、姉さんを庇うよう前に出ると了子さんへ告げる。

 

「櫻井女史、奏で遊ぶのはやめてください!」

「あら翼ちゃん、別に遊んでるわけじゃないわよ? それにあなたも見たくはないかしら? 恥ずかしそうに体を隠す奏ちゃんを」

「…………そんな友人を辱める真似、私にはできません」

「おい翼、今の間はなんだ?」

 

 あらら翼ったら、完全に揺れちゃって。見なよ、了子さんの黒い笑顔。

 翼が攻略されるのも時間の問題だし仕方ない……ここはマネージャーである私が一肌脱ぎますか。

 

 抱きつく姉さんの体を優しく離し、了子さんの前へと出る。

 

「了子さん、姉さんを弄るのもほどほどにしてください」

「あら、唱花ちゃんもそっち側?」

「そっちも何も、初めから私は姉さんの味方ですよ」

「唱花……ッ!」

 

 私の名を呼ぶ姉さんの声を聞きながら、了子さんと正面で対峙する。

 

「ふふ、こうして相対するのは初めてね唱花ちゃん」

「悪いですけど、これ以上は姉さんをイジメさせませんよ」

「あら、私に勝てるつもりかしら?」

 

 不敵に笑みを浮かべる了子さん。

 確かにこの人は底が知れない恐ろしさがある。まだ生まれて十数年の私がどこまで太刀打ちできるか……。

 

「実はね唱花ちゃん……」

 

 先手は了子さん。ごくり、と唾を飲み彼女の一太刀目を警戒する。

 依然笑みを浮かべたままの了子さんは、白衣の中へと手を伸ばすと

 

「水着、実は翼ちゃんの分もあるのよねぇ」

「仰せのままに、マイマスター」

 

 瞬殺だった。白衣の中から出てきた青いビキニを目にした瞬間、私の片膝は無意識に地へ。

 くそ、まさかそんな隠し玉があったなんて! 了子さん、やはり恐ろしい人だ!

 

「おい、一瞬で寝返ってんじゃねぇか! あたしの感動を返せ!」

「櫻井女史、私の分ってどういうことですか⁉︎」

 

 ごめんなさい姉さん。天羽 唱花、人生で初めて姉さんを裏切ります。

 まぁシンフォギア纏った時点で裏切ってるも同然なんだけどね。

 

「ごめんなさい姉さん……。でも私──恥ずかしがってる翼の顔が見たいの!」

「んなシリアス顏で言うなぁ!」

「唱花、考えなおして!」

 

 ごめんね翼、私もう戻れないの。戻れないところまできちゃった。

 了子さん(マスター)から翼の水着を受け取り、顔を絶望に染める翼と姉さんを視界に収め

 

「さぁ行くわよ、唱花ちゃん。私は奏ちゃん、あなたは翼ちゃん」

「はい。互いの理想のため、力を尽くしましょう」

 

「くそ、逃げるぞ翼!」

「う、うん!」

 

 運が悪いことに入り口はあちら側にある。戦いに身を置いてきた姉さん達は、己の不利を悟り扉を開け逃走の選択を取る。

 だが欲望を前にした人間から逃れることは不可能!

 

「さぁ、ゲームの始まりよ!」

 

 了子さんの声を合図に、私たちの願いと尊厳をかけた戦いが始まった。

 

 

 

 

 





続く、のかなぁ……。



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