奏さんの妹になって奔走する話   作:温野菜生活

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長らく空けましたが、こちらも投稿いたします。
亀投稿ですが、よろしくお願いいたします。


姉の(おも)い、妹の思い

 二課の会議室。

 そこには私や姉さん、翼を含めた二課のメンバーが勢揃いし、了子さんの映し出したモニターへ目を向けていた。

 モニターに映し出されているのは、完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』。完全聖遺物っていうのは、経年劣化や破損が全くない状態で発掘された聖遺物のことらしい。

 

 私の持っているアイギスや姉さんたちのガングニールに天羽々斬は聖遺物の欠片で、大抵の聖遺物は何かしら破損や劣化しているのが普通。こうして完全に残ってるのは珍しいんだって。

 この『ネフシュタンの鎧』は第二次大戦時に外国から貰ったうんたらかんたらって、そんな感じで教えてもらったけど忘れちゃった。

 

 話がそれちゃったけど、そんな貴重な完全聖遺物の話が上がっているかというと

 

「──とまぁ、これが『Project:N』の内容よ。何か質問はあるかしら?」

 

 説明を終えた了子さんがこちらに目を向ける。

 

『Project:N』──姉さんたちのライブを行い、それと並行して『ネフシュタンの鎧』の起動をやっちまおうって、すっごく省略したらそんな感じの作戦。

 

「問題なし! アタシと翼なら、そんくらいちょちょいのちょいだぜ! なっ、翼?」

「うん、奏がそう言うなら……」

 

 成功を疑わない笑顔で姉さんは翼の肩に手を回し、翼も同意するがその表情はやや曇っている。

 おやおや? 翼ちゃんが不安そうにしている。ならば、マネージャーとして私が元気づけなければ! 

 

「ヘイ、そこのか~のじょ! 暗い顔しちゃってどうしたの? 可愛い顔が台無しだゼ☆」

 

 姉さんの反対側から翼の肩に手を回し、ここぞとばかりに練習していたナンパテクをぶちかます。

 そして次に顔を覗き込ませ、にっこりと微笑みながら顔を近づける。

 

「えっ、しょっ、唱花!? なんで顔を近づけて──!?」

「だって、翼が悪いんだよ? そんな小動物みたいな顔されたら、我慢できるはずないじゃん」

 

 先ほどまでとは一転し顔を赤らめ、わたわたと慌てふためく翼。

 ピュア、純粋、初心──ああもうっ、可愛いなぁ、こんちくしょう! 

 

 かれこれ数年同じことをしているのだが、いつまでも可愛らしい反応を見せる翼。

 まじでこんな女の子って他にいないよね? 人間国宝ってレベルじゃない? 絶滅種じゃない? 

 

「会議中だぞ、少しは自重できんのかお前は」

 

 そして弦十郎さんに猫のように首根っこを掴まれ、翼から引き剝がされる。

 はい、ここまでがいつもの流れです。どうもありがとうございました。

 

「ふふっ、唱花ちゃんは相変わらずね。それじゃ、『Project:N』の決行は一月後。みんな、準備頼んだわよ~!」

「うぇぇっ、一ヶ月ですか!? ちょっとスケジューリングが厳しいような~……」

 

 ライブの宣伝に会場の手配、チケットの印刷に公式ホームページの作成……うごご、想像するだけで眩暈が……。

 頭の中で作戦決行までのスケジューリングが組み立てられていくが、はっきり言います、かなり厳しいです! 

 

「アタシらもライブのレッスン頑張るんだ。頼むぜ、唱花?」

「姉さん……。はぁ、姉さんがそこまで言うなら頑張るよ……」

「唱花、何かあれば私も手伝うから。だから一緒に頑張ろ?」

「っしゃあ! 一ヶ月なんていらんわぁ! 2週間で準備してやりますよ!」

 

 翼に頑張ろうって言われて日和る奴なんているか? いねぇよなぁ!? 

 不肖 天羽 唱花、全力で任務にあたらせてもらう所存であります! 

 

「……アタシと翼で差がありすぎじゃねぇか?」

「でも、唱花は奏のこと大好きだよ?」

 

 それじゃ、まずは広告からだね。一ヶ月って短いけど、『ゲリラライブ開催!』的なこと言っとけば大丈夫でしょ。

 後は会場……これは弦十郎さんや了子さんと相談かな。『Project:N』も並行してできるくらいの広さが欲しいし。

 

「小川さん、そうと決まればやりますよ! 目指せ目標10万人!」

「ははっ、そうですね。目標は高く、成功目指して頑張りましょう」

「もちろん! 目指すは大成功のみ!」

 

 そうして、二課の一大プロジェクトの決行へ向け、各々が動き出したのであった! 

 

 

 

 

 

 

 会議から二週間が経過した頃。

 二課の休憩室にて、灰のように真っ白に燃え尽きている少女がいた。私だった。

 

「……」

「おーい、しょうかー? 無事かー?」

「……」

「だめだこりゃ、かんっぜんに燃え尽きてやがる」

 

 姉さんが何かを言っているが、私は反応することができなかった。

 この2週間、ライブの計画の立案からマスコミへの報道、電話への対応などを並行してやってきた。

 おかげでようやく形になってきたが、もうあれです、限界です。

 

「……私の骨を、真珠湾の風に乗せて……」

「……頭もおかしくなっちまったか。まぁ、ここ最近ずっと忙しそうにしてたからな。無理もねぇか」

 

 ったく、仕方ねぇな。

 そんな姉さんの声が聞こえたかと思うと、不意に体が持ち上げられたような感覚が襲い、どこかへと寝ころばされる。

 そして次いで訪れたのは、後頭部から伝わる柔らかくも暖かな感触だった。

 

 何事かと目を開けると、私を覗き込む姉さんの顔が視界いっぱいに広がっていた。

 姉さんの顔があって、それで天井があって……これって、俗に言う膝枕……? 

 

「ん? 悪い、寝苦しかったか?」

「姉さん……?」

「あの体勢だと寝づらいだろ? これからもっと忙しくなるんだから、今のうちにゆっくりしとけって」

 

 そう言い、優しく微笑みかけてくる。そして、私の頭を子どもを寝かしつけるように優しく撫でる。

 ……ああ、あったかいなぁ。こんな気分、いつ以来だろう……。

 

「いつもありがとな、唱花。アタシと翼のために頑張ってくれて」

「ねえ、さん……」

「だから今は休んでくれ。起きたらいつもの唱花でいられるように」

「……ん」

 

 そうだね。起きたらいつもの私でいられるように……。

 今だけ、今だけは……姉さんに寄りかかってもいいよね……。

 

 そうして、私の意識は遠のいていく。

 いつも通りの私でいられるよう、力を蓄えるために。

 

 

 

 

「奏、いる……って、唱花?」

「翼、しーっ」

 

 休憩室へ入ってきた翼に、人差し指を立てて唇へ当て静かにするようお願いする。

 翼もその意味を理解したらしく、小さく頷くと静かに入室する。

 そしてアタシの隣へ腰を掛け、眠りについた唱花の顔を覗き込む。

 

「珍しいね、唱花が仕事中に眠るなんて……」

「それだけ忙しかったからな。さすがの唱花でも限界だったんだろ」

「そうだね……毎日毎日、私たちのために走り回ってたし。それに、私たちのことも気にかけてくれてた」

「ああ、アタシたちの前じゃへらへらして弱みを見せない。心配かけないようにしてるつもりなんだろうけど、無茶しすぎなんだよな」

 

 日中はマネージャーとしてライブの準備。ノイズが出ればその後始末。

 了子さんじゃねぇが、うら若き乙女が送る日常ではないだろう。

 

「唱花って、こんな顔して寝るんだ……」

「アタシも一緒に暮らしてるけど、何時ぶりだろうな、唱花の寝顔を見るのは」

 

 思い返せば、アタシが二課に入ってから見たことはない。ずっとアタシが眠るのを見てから寝ていたから。

 興味がないと言えば噓になる。いったいどんな顔して寝ているんだろうな。

 

……ねぇ、さん……」

「わっ、奏、かなでっ! 今の寝言、聞いた?」

「聞こえてるよ。だからそんなにはしゃぐなって」

 

 夢でもアタシの事を考えてるのかよ。

 そりゃ嬉しい気持ちはあるけど、ちょっと過保護すぎやしねぇか? 

 

 なんてことを考えながら、唱花の寝顔を鑑賞していると

 

「……ねえさん……わたし……まもる、から……」

 

 どこか悲しげな表情で、まるで縋るように吐き出された言葉は、アタシも初めて聞く声音だった。

 

「……だから、しなない、で……おいて、いかないで……」

 

 目じりに涙を溜め、苦悶の表情を浮かべる。

 そこにはいつも馬鹿騒ぎして周りを賑やかす唱花はおらず、ただ恐怖と寂しさに苛まれる小さな妹の姿があった。

 

 アタシにとって、唱花が唯一の肉親であるなら、唱花にとってもまた然り。

 ノイズとの戦闘は命懸けだ。いつこっちが殺られるのか、アタシにもわからない。

 唱花からしてみれば、いついなくなってしまうか、不安に襲われるのも仕方がないことだ。

 この力を手にしたときはノイズへの恨みから考えもしていなかったが、唱花には残酷なことをしてしまった。

 

 けど、ノイズがいる限りアタシは戦い続ける。その決意はあれから、そしてこれからも変わらない。

 

「……死なないよ。これからも先も、ずっと一緒だ」

 

 だから、唱花が少しでも安心できるよう、今よりももっと強くなってやる。

 そしてこの先、ノイズを完全に消し去ることができたのなら、その時は──

 

 ──直後、本部内に警報が鳴り響く。

 

「ノイズか……行くぞ、奏」

「……うん」

 

 未だ深い眠りについている唱花を起こさないよう、優しく膝から降ろすと、アタシたちは弦十郎の旦那の元へと向かう。

 

「……絶対に生きて帰るぞ、翼」

「……うん!」

 

 大切な妹が、また笑顔で過ごしてくれる。

 そんな日常を守るために、今日もアタシたちは戦場(いくさば)に立つ。

 

 この身に授かった槍と剣を携えて──。

 

 

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