今回は少し長めになっています。
どもども、唱花ちゃんです。
あれやこれやと準備をしている間に、ライブ開催日、もとい『Project:N』の決行日になりました。
この一ヶ月、一生懸命頑張った甲斐があり、なんと、なぁんと! 今回の来場者数は目標の10万人を達成しました! いえーい! ピースピース!
いやー、本当に厳しい一ヶ月だったよね、ほんと。何度このまま死んじゃうかもって思ったことか!
でもそんな苦難を乗り越えたからこそ、感慨深いものがあるよねぇ。
さて、そんな歓喜に打ち震えている私が何をしているのかと言いますと、会場を回りつつどんなお客さんが入場しているのかを確認しているところです。
もしかしたら迷子とか、道に迷っている人がいるかもしれないし、そうした人を探すのも含め見回り中なのです。
会場内を歩きながら、私の頭には何かもやもやとしたものがあった。
……なーんか忘れているような気がするんだよねぇ。こう、大切な何かを見落としているような……。
どれだけ脳をフル回転させてみても、一向に思い出せる気がしない。とても大事なことだと思うんだけど……あーもうだめだ! やめやめ!
「あ、あのっ! ちょっといいですか?」
考え事をしている私へ、誰か女の子が声をかけてくる。
ふわふわとしたクリーム色のショートヘア。優しくも活発そうな顔立ちに、私よりも低い……160㎝くらい? の伸長。
だというのに、出るところは出ているわがままボディ。ていうかこの子、私より大きくない?
っとと、あまりの衝撃に質問に答えるのを忘れてた。いかんいかん。
「はい、どうかしましたか?」
「その、トイレの場所が分からなくって……」
「ああ、それならこの先をまっすぐ行けば看板が見えるので、そこを右に曲がれば着きますよ」
「わかりました! ありがとうございます!」
元気よく返事をした少女は、一礼し私の横を通り過ぎていく。
……あれ? 今の子ってもしかして……。
始めて会ったはずなのに、どこか見たことのあるような感覚に戸惑うが、まぁいいかと見回りを再開する。
──それが、運命の会合だとも知らずに。
ライブも残りあと少しで開演という時間。
私はとある人物を探すため、ステージ裏を歩き回っていた。
どれどれ、このくらいの時間だと多分どこかの隅っこで……おっ、いたいた。
私の視線の先にはL字型の壁の影に隠れ、体育座りで小さく震えている翼の姿があった。そしてその傍には、そんな翼を後ろから抱きしめる姉さんが。
「アタシの相棒は翼なんだから、翼がそんな顔してるとアタシも楽しめない」
「……うん。私たちが楽しんでないと、ライブに来た人たちも楽しめないもんね」
「わかっているならよろしい!」
「私も、奏と一緒なら何とかなりそうな気がする」
優しく励ます姉さんに、翼も徐々に明るさを取り戻していく。
そんな二人を遠くから見守っていた私は、そのなんとも言えない光景にただただ尊さを感じていた。
はぁ、いいねぇ友情ってのは。アーティストとして、シンフォギア装者として特別な繋がりを持った二人。
そんな姉さんと翼だからこそ、ここまで来れたんだろう。来場者10万人という数字がそれを現している。
いつもなら、私も二人の輪に加わっているところだけど、今日はこのままにしておいた方がよさそうかな。
さってと、私も弦十郎さんたちのところに戻るとしますかー。
ライブ会場の別室に設けられたミニ本部。
パソコンやら計測器やら、本部の機器をそのまま持ってきており、ガラス越しには『ネフシュタンの鎧』が制御装置に囲まれて鎮座している。
本日はあれを起動させるのが目的だが……う~ん、見れば見るほど不気味だよなぁ。
「さて、そろそろライブが始まる頃だな。お前ら、気合入れて行けよ!」
『『はい!』』
弦十郎さんの一声に、この場にいる全員の気合が高まる。
私は機械とか特に触ったこともないので、弦十郎さんの隣でライブの様子を確認している。
「お疲れ様、唱花ちゃん♪ はい、コーヒー♪」
「ありがとうございます、了子さん」
「ようやく本番ね。ここまで準備を整えてくれてありがとう♪」
ウィンクをしながらお礼を言ってくる了子さん。
確かに何度か死ぬかもと思うほど頑張りましたが、それもこれも小川さんたちの協力があったおかげで。
私はまだまだ新米だから、できることなんて限られているし。スケジュールの合間でトレーニングを頑張っていた姉さんに翼の方が、私よりもよっぽど大変だっただと思う。
「まだライブが終わったわけじゃないですし、その言葉を受け取るのは早いです」
「あ~ら、唱花ちゃんも大人になっちゃって。でもまだ子供なんだから、素直に喜んでもいいのよ?」
「了子くんの言う通りだ。唱花はここまでよくやった。あとは大人である俺たちの役目だ。お前はコーヒー片手にお菓子でも食べてゆっくりしておけ」
子ども扱いされるのはちょっと癪だけど、この二人に反抗しても言いくるめられるだけだ。
ここは二人の言葉を素直に聞いて、コーヒーでも飲んでゆっくりしよう。
そんな話をしている間にライブは開催時刻を迎え、ステージに現れた『ツヴァイウィング』の二人に観客は一斉に湧き上がる。
ボルテージの高潮に比例し、『ネフシュタンの鎧』に送られるエネルギーも増していく。
「どーやらいい調子みたいですね」
「ああ、このままいけば無事に成功しそうだな」
モニターに目を向けつつ、わずかにだが安堵の表情を見せる弦十郎さん。
そして曲は”逆光のフリューゲル”に入り、このステージ特注のトンデモ機能が発揮される。
その機能とはなんと、会場の天井が開きまるで翼のように展開するというものなのです! どやっ!
解放された上空はすでに茜色に染まっており、その演出も相まってか会場のボルテージは急上昇。
「フォニックゲインも想定通り上昇しています」
パソコンを操る一人からそんな報告があり、了子さんは笑みを浮かべる。
「どうやら成功みたいね。おっ疲れ様♪」
その一言で、この場の張りつめていた空気が緩む。どうやら実験は成功したみたいだ。いやーよかったよかった!
『まだまだ! 次の曲いくぞー!』
モニターには、次の曲へ移るためさらに観客を煽る姉さんが。その隣に映っている翼も、ライブ前の緊張や不安の混じった表情ではなく、とても楽しそうな笑顔を浮かべている。
どうやら、ライブ前の姉さんの言葉通り、自分もライブを楽しむことができているようだ。
うんうん、やっぱりステージに立つ人が楽しんでなきゃね! いよーっ、翼! つばさー! 可愛いよつばさー!
なんて、大団円な空気に包まれた室内に、突如けたたましい警報音が鳴り響く。
「何事だ!」
「上昇するエネルギー率に、セーフティーが持ちこたえられません! このままでは聖遺物が起動、いえ、暴走します!!」
「なんだとぉ!」
聖遺物の暴走って、それってやばいんじゃ……。
予想外の出来事に焦る弦十郎さんの背中越しに、必死に『ネフシュタンの鎧』を沈めようとするスタッフたち。
その直後、室内の天井が崩壊し、爆炎が姿を見せる。
ちょちょちょっ、これっていったい何が起こってるの!? 爆発!? 何それ聞いてないんだけど!
「唱花! お前は離れて──!」
私に離れるように忠告しようとした弦十郎さんが、再び起こった爆発により崩壊した天井に飲み込まれる。
これって、まずいってレベルじゃないよね……。聖遺物の暴走に爆発……っ!
ある一つの可能性に辿り着いた私は、すぐさま部屋から飛び出るとライブ会場へと向かって走り出す。
表から言ったら多分逃げている人たちに呑まれる! だとしたら、裏側から!
「あぁくそっ! なんで思い出せなかったんだ、私!」
思い出す要因ならいくらでもあった。聖遺物とライブ、そしてあの時出会った女の子──立花 響。
もう微かにしか残っていない記憶を振り絞り、今まで訓練を続けてきた。だからライブの細部、そしてその日運命に巻き込まれるあの女の子の顔も思い出せずにいた。
今日が、このライブの開催日がその日だったんだ!
「姉さん! 私が行くまで、無茶しないでよ!」
今日このライブに襲撃してきたノイズから立花 響を護るため、私の姉、天羽 奏はその命を散らせることになる。
けど、そんな運命受け入れられるか! それが原作の筋道だとか、そんなもの関係ない!
──たとえ決められたシナリオだろうと、私はっ、私の大切な家族を守って見せる!
突如ライブ会場に出現したノイズ。
先ほどまで歓声に満ち溢れていた会場は、悲鳴と断末魔に塗り替えられる。
「くそっ、行くぞ翼!」
「で、でも、司令からは何も……」
「この場に槍と剣を携えているのはアタシたちだけなんだ! つべこべ言っていると、みんな殺されるぞ!」
もうすでに何人もの命がノイズにより煤へと変えられてしまっている。
突然の災害に動揺する翼を置き、奏はその身を槍へと化す。
「──Croitzal ronzell Gungnir zizzl」
シンフォギア『ガングニール』を身に纏った奏は、ステージから飛び降りると身の丈ほどの槍を振るいノイズ達を蹴散らしていく。
「──Imyuteus amenohabakiri tron」
遅れてシンフォギア『アメノハバキリ』を纏った翼が、奏とは反対側にいるノイズ達へと斬りかかる。
(くそっ、こいつら数だけはいっちょ前にいやがる!)
歌いながらノイズの数に内心舌打ちをする奏。
会場の奥には儀がノイズが複数体出現しており、その特性である小型ノイズを大量に生み出していた。
「テメェら、好き勝手してんじゃねぇ!!」
頭上に掲げた槍はその穂先を回転させ、巨大な竜巻を発生させる。
十分な威力が溜まったのを確認し、奏はギガノイズ目がけその一撃を開放する。
──LAST∞METEOR──
竜巻は前方にいる小型ノイズ達を飲み込み、しかしその威力を衰えさせることなくギガノイズを捉える。
全てを飲み込み貫く暴風と化した一撃に、ギガノイズの巨体もわずかに耐えることしかできず、天高く持ち上げられその胴体に巨大な風穴を開ける。
「奏! あまり無茶をしないで!」
翼も小型ノイズ達を切り伏せていくが、如何せんその数が尋常ではない。
単騎ノイズの群れへと向かっていく奏に加勢しに行こうとするが、その行く手を阻むようにノイズ達が立ちふさがる。
「邪魔だ、どけぇ!」
これまで装者として鍛えてきた奏にしてみれば、この程度の小型ノイズなど相手にもならない。
次々とノイズ達を貫き、はたまた切り裂いていく奏。このまま再びギガノイズまで接近し、仕留めようとしたその時だった。
突如として自身の持つ槍に異常が現れる。
「──ちっ、時限式はここまでかよ!」
それは本来適合者ではなかった彼女のデメリット。『LiNKER』の投与により仮初の適合者として戦っていた彼女には、時間的な制約があった。
それに加え、今回の『Project:N』へのあらゆる不確定要素が入らないようにするため、暫くその薬品の投与を控えていたのだ。
普段ならば起こらないはずのそれが、この最悪なタイミングで起きてしまった。
(くそっ、インチキ適合者のアタシじゃ、ここまでだっていうのかよ!?)
相棒である翼のように、高い融合計数を得られなかった。
これまで何度も薬だよりの自分を恨んでいたが、それでも戦えるならとその気持ちを押し殺して戦ってきた。だが、こんな大事な場面で効果が切れかけていることに、奏の苛立ちは今まで以上に高まっていた。
そんな刹那の隙を見せた奏に、ノイズ達が一斉に襲い掛かる。体を槍と化して自爆同然の特攻を仕掛けてきた。
「ぐっ……くそが!」
何とか防ぐことはできたものの、観客席程までに押し返され、険しい表情で悪態を吐く。
残された時間もごくわずか。このまま真正面から戦い続けても、制限時間を超えてしまいどちらにせよゲームオーバーだ。
(どうすりゃいい!? どうすれば、状況を打破できる!?)
脳をフル回転させ、逆転の一手を考える奏。
そんな彼女の耳に、ひとりの少女の悲鳴が聞こえてくる。
奏がその方向へ視線を向けると、そこには逃げ遅れた少女がノイズに襲われかけていた。
残された時間もあとわずか。だが奏は迷うことなく少女に襲い掛かるノイズへ斬りかかり、少女の命を救う。
「早く逃げろ!」
短くそう少女に告げると、彼女は怪我した足を引きずりながらも出口へ向かって進んでいく。
少女の盾となる奏へ向けて、ノイズの群れが再び特攻を仕掛けてくる。
もはや押された力もわずかのシンフォギアでは、防ぐことが手一杯。雨霰と降り注ぐ攻撃に、次第に奏の装備には罅が生じ始め
「うぁああああああ!」
ダメ押しとばかりに吐き出されたギガノイズの一撃を受け、遂にはその装甲が弾け飛んでしまう。
その破片がまるで散弾のように背後に飛び散り
「……え?」
欠片の内の一つが、逃げ遅れていた少女の胸に突き刺さる。
鮮血を撒き散らし衝撃で倒れる少女は、何が起こったのか理解することができず、そのまま倒れこんでしまう。
その光景を目にした奏は、すぐさま少女に駆け寄り安否を確認する。
「おいっ、目を開けてくれ!」
揺さぶるが返事はない。
傷口からして、破片が突き刺さったのは少女の心臓部。もはや生存は絶望的な状況だ。
「生きるのを諦めるな!!」
それでも奏は必死に少女へと語りかける。
そんな彼女に天が答えたのか、少女はうっすらと目を開き、声の主である奏を焦点の定まらない瞳で見つめる。
危険な状況であるのに変わりはないが、それでも生きている。その事実に奏は安堵し、小さく笑みを浮かべる。
(このまま戦い続けても、この子が死んじまう。助けるためには、すぐにこいつらを殲滅しないと……)
だが奏に残された力はとっくに搾りかす。翼もまだこの数を一気に制圧できる技量はない。
だとすれば、自身に残された手段はたった一つ。
(……おいていかないでって言ってたのに、ごめんな唱花)
思い出すのはたった一人の妹の顔。
いつも馬鹿みたいに騒ぎ笑う妹。ずぼらな自分に呆れたように笑う妹。ノイズとの戦闘後、帰宅したときに飛び切りの笑顔で迎えてくれる妹。
そして──涙を浮かべながら、夢でも己のことを思ってくれていた妹。
(最後に、一目でいいから見たかったな……)
だがそれも叶わぬ願い。
覚悟を決めた奏は、地面に突き刺さった槍を引き抜き、ノイズの群れへと歩いていく。
(……いつか心と体、空っぽにして歌いたかったんだよな)
アーティストとして駆け抜けてきた日々を思い返し、奏は自身が抱いた夢を思い浮かべる。
(今日はこんなたくさんの連中が聞いてくれるんだ……だから、アタシも出し惜しみなしで行く)
槍を天に掲げ、しかしこれまでとは違う雰囲気を纏う奏。
これまで数々のノイズを貫いてきた槍は、至る所が欠け、今もなお崩れて続けている。
まるで、この後の己の姿をうつしだしているいるかのように。
(とっておきのをくれてやる──絶唱)
これが最後の歌。
『ツヴァイウィング』として、戦士として──そして、一人の姉としての、最後の戦歌。
涙を流し、奏はその禁忌の歌を口にする。
──Shelltos Aigis Seshil torn
その刹那、新たな歌が戦場に響き渡る。
何事かと、奏は掲げていた槍を下し周囲を見回すが、その隙を突いたノイズがトドメを刺そうと襲い掛かってきた。
もはや防ぐ力も残されていない奏は、槍を盾にしその衝撃に備え目を閉じる。
「さっせるかぁあああ!」
──
叫びとともに、ノイズと奏の間に灰色の壁が出現し、襲い掛かろうとしていたノイズ達を粉々に粉砕する。
何事かと、奏が目の前の光景に呆然としていると、彼女の前に一人の少女が降り立つ。
灰色に統一された装甲と、同じ色の身の丈ほどある盾。そして風に揺れる、一括りにされた髪。
そんな少女の後姿を見て、奏は信じられないものを見たかのように目を見開く。
間違いない、見間違えるはずがない。その姿は変わろうが、目の前にいる少女が誰であるか、わからないはずがなかった。
なんで、どうして……様々な思いが胸に溢れ出す。
そんな奏に顔だけ振り返った少女は、夕焼けを背にとびっきりの笑顔を見せ
「よかった、間に合った!」
「……しょう、か?」
奏の瞳には、こんな戦場で出会いたくはなかった最愛の妹の姿が。
シンフォギアを纏った、天羽 唱花の姿が焼きつけられていた。