いやぁ~……。展開に迷った挙句、こうでもない、あぁでもないと考えては消え、書いては消えてを幾度か繰り返して何とか最後まで目途がついたのでこうして投稿しております。
前回中々追いやられてしまった感じの由佳子ちゃんですが今回は……。言ったらネタバレなので言いませんけどね(笑)
そんなこんなで第五話”出会いが運んできた甘さ”スタートです!!
静かにエレベーターが止まり、減速して重たくのしかかる何かが気持ち悪い。マンションの廊下特有の低い角度のせいで目に突き刺さるような西日と吹き抜ける風に身を縮めながら、ガチャガチャと鍵を回して重たいドアを開ける。
「あら……お帰りなさい。早かったわね。もしかして今日バイト?」
「うん。1時間したら出る」
「何時頃終わりそう?」
「多分9時には終わる」
「そう……気を付けてね」
「ん……」
我が家はいつもこんな感じ。わざわざ話すこともないと言えばそれまでだけど、基本的には誰も居ないのがデフォルト。お父さんは出張だらけで中々帰ってこないし、お母さんはお母さんで保育士やらをしていて遅く帰ってくる。むしろこんな夕方の時間にいる方が珍しい。
教材やら画材やらなんやらで重くなったカバンを床に放り、マフラーとジャケットもコート掛けにポイっとかける。リボンをずらして留め具を外し、ブレザーとスカートは出しっぱなしのハンガーに吊るして終わり。フリースの緩い部屋用のズボンをはいてベッドに潜り込む。ワイシャツにシワがつくけど気にしない。どうせ洗濯だ。
幾分前に冬用にした布団とシーツは驚くほど暖かく包み込んでくれる。タイマーをセットして枕に顔を突っ込んで寝るモード。いつも嗅いでる枕の匂いが意識をまどろみに引きずり込んで眠りへと誘ってくれた。
「だーかーらー!何度言ったら分かるの?無断遅刻6回目だよ?分かってる?」
「いや、ほんとにすみません。次回からは気を付けるんで……」
向こうの方から 責する声が聞こえてくる。それを聞いてか知らないが、私のレーンの奥にいるおばちゃん二人組も何やら話をしているのが見える。中身までは聞き取れないけど、チラチラと向こうとこっちを見ている視線を感じる。どうせ、『今の若い子は……』みたいな話だろう。
お母さんが持ってきた求人広告に電話して面接して今に至るわけだけども、何故こんなバイトを選んでしまったのか今更後悔してる。レーンに流れてくる品物をひたすらチェックして箱詰めするだけ。同じ品しかないから、パッケージのせいでゲシュタルト崩壊しそうだ。
面接をしたレーン長だか工場長だか知らないけど、基本的にバイト組に関してはノータッチだし、そのバイターやパートも緩いことを良いことに遅刻にお喋り、果てはさぼりまでロクな所じゃない。
それでもバイトはバイト。いくら最低賃金しか出ないとはいえ、時間まではやるしかない。さっき寝たせいで僅かにまだ靄の掛かった脳みそを空っぽにしながら、ただひたすらに作業を続けた。
「あのさ由佳……。わたし、学校辞めることにした……」
課題の残りを死に物狂いで終わらせて、真っ暗になった帰途へとつこうとした時だった。思わず足を止めて自分の耳を疑ってしまった。正直なところ、この学校で留年は勿論、退学もさして珍しいことではない。ともすれば、どの科でも年に一人くらいは辞めると言う話だってあるくらいだ。
でもまさか、数少ない友人が辞めるとは思いもしなかった。
「……ど、どうして」
「なんていうかさ、うちの両親ってデザインの事好きじゃないみたいでさ……。専門の授業がきつくなって成績も微妙になったから中退しろって言われた……」
「え?待って待って……あやちゃんいつも75か80は取ってたよね……?悪くなくない?」
「それがさぁ~、この前67まで落ちたのがばれて大目玉くらっちゃってねぇ~……」
近所のタワーマンションに住んでるあやちゃんとは小学校から一緒だったから覚えている。目つきのちょっと鋭いお母さんで、ゲーム機も携帯も持たせて貰っていなかった。そして未だに、ネットに繋がらない連絡用だけのガラケー一つ。中学の時もずっと二日に一回のペースで塾に通い続けていて、実に優等生だった。まぁ実際の所は時間の許す限り、私の家でゲームしたり遊んではいたけども……。そして同じアニメや動画の話で盛り上がれたのだって結構楽しかった。
そんな彼女が私と同じ学校で、しかも同じ科に居て、凄く嬉しかったのを覚えている。
「それにさ、前までは楽しかったんだけど、なんかつまんないんだよね……」
「つ、つまんないって……あやちゃんいつも先生に褒められてるじゃん……」
「まぁそうなんだけどね……ほら、何か思ってるのと違うって言うか、思ってるように描けないって言うかさ……」
「そっか……」
きっとスランプと言うか、時々創作上で目にする、目が肥えて手が追い付かないと言う現象だろうと思った。私だってこれじゃないとか、上手くいかないって葛藤みたいなのは抱えてる。それでも彼女の場合、そんなレベルじゃないのだろう。
中学を卒業する前頃だったか、受験シーズンというのもあったのかもしれないが、空気が張り詰めたようにピリピリとしていて、彼女もその一人だった。たった一問のミスやたった一度の思い違い、それをずっと引き摺っていた気がする。
「ほら、一回ダメだったらわたしは何にもできなくなるくらい弱っちいからさ……」
「そうかもしれないけどさ、あやちゃんが弱っちかったら私なんてどうなんの……」
「いや、由佳は弱く何かないよ。弱いのはわたし。何やってもそこそこしか出来なくてさ、いっつも中途半端で器用貧乏ってやつなんだよ。いや、わたしが器用って言ったら皆に怒られちゃうか……」
「そ、そこそこって……いつも学年一桁くらいじゃなかった?」
「そりゃ中学だとね……今は上2割か3割が良いとこだよ……ほんと、自分がダメすぎてやんなる……」
「それ十分高いと思うんだけど……」
「そう言ってくれるのは由佳だけだよ……結局私はいつも詰めが甘いんだ」
そう言って微かに笑みらしき何かを浮かべる彼女の表情は痛々しかった。昔から完ぺき主義だったというのは言い過ぎかもしれないが、一度決めたらとことんまで上を目指す気質なのは小学校の頃から変わっていなかった。けれどそれだけじゃ上手くいかなかったのだろう。
いつからか彼女の両親に丸め込まれるようにして勉強へ打ち込み、周りとの調和を気にし、学級委員等を務めるようになっていた。そんな中、いつも先頭に立ったり必死で勉強しているのを見ているのは辛かった。周りは応援するどころか、勉強バカ、内申のため、出しゃばり……。その当時の私は褒めるような言葉を聞けなかった。
それでも彼女はいつも笑って過ごしていた。
そんな彼女が辞める。中退する。その事実が重くのしかかり、結局最寄り駅まで一言も話せなかった。
授業が早めに終わり、荷物をまとめて逃げ出すように教室を出た。廊下に出れば身を縮こませるような冷たい一陣の風が吹き込んでくる。喧騒と離れるようにして中庭に飛び出せば、奥の方に黒い短髪の頭が見える。ジャリッ、ジャリッと中庭にしかれた石が音を立てる。背もたれに寄りかかるようにして浅く腰掛ける一人の男子生徒が徐々に露わになってゆく。前方に投げ出された脚、耳に付けた白いイヤホン、胸ポケットに差し込まれたメガネ。そのすべてが彼を表す特徴と合致する。
きっと気配か音か何かで気付いたのだろう。軽く覗き込めば、ばっちりと目が合う。
「久しぶり、でもないか……」
「うす。先週ぶりだな……」
「ん、そうだね……。横、いい?」
「おっ、すまんすまん。今荷物退ける」
「いや、気にしないで……」
バック一つ分の隙間が、微妙に近くて遠い距離が今の私たちのようだった。何の気なしに上を向けば、ほんのりと朱く染まり始めてゆく。ビルの陰になって西日は遮られ、周りの薄黒く染め上げながら何度も肌を刺すような風を起こす。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……ねぇ」
「ん……?」
「……やっぱいい」
「……そっか」
「……っ」
「チョコ……いる?」
「え……ぅん。貰う」
「ほらよ」
「ありがと……」
たったこれだけ。
されどこれだけ。
カサカサと金色の包み紙を開ける音と共にふわりと甘さが広がる。
甘い。
それだけ。
ただただ甘い。
ただ単にそれだけ。
でも、
それだけで十分だった。
ほいほい、皆様読了ありがとうございました!!
いやぁ~、由佳子ちゃんこの前決めちゃったこと反故にして大丈夫なんでしょうかね~……。
まぁなんにせよ、まだ終わる気配が見え隠れするレベルですけど、きちんと数話(伸びても5話以内)には完結させますのでご安心をば。
次回こそは早めに上げます(もはや恒例行事)!
てことで次回またお会いしましょう!ちゃおちゃお~!!