二人の面倒な日常と、出会いと、恋と   作:柚野鈴

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どうもお久しぶりです。柚野です。
いや、一ヵ月ぶりくらいなので久しぶりではないかもしれませんね(笑)

だいぶ転から結にかけて展開に悩みましたがもう大丈夫です。最後まで書ききりました。やったぜ!

という訳で相も変わらず重苦しい雰囲気が続いてますが、今回は一息付けます。では、第六話をどうぞ!!


記憶なき記憶と一抹の不安

 

第六章

 

 ただただ苦痛だった。朝ギュウギュウ詰めの満員電車に揺られて、最寄りの駅から学校まで歩いて、授業を受けて、帰る。たったそれだけの事がひたすら辛かった。

 いや、辛いんじゃない。何も感じられないんだ。唯一記憶にあるのはいつも一人で帰る夕暮れに照らされたアスファルトだけ。朝昼晩の3食食べてる筈のご飯も味を殆ど感じない。今の私に残されているのは布団や味噌汁の暖かさだけ。他は分からない。

 いつしか休みがちになった。親はあれでも心配してくれているようだけど、私の問題だ。私のせいだ。全部私なんだ。そこに疑念の余地も憤慨の1つも起きなかった。

 

 自分が今日何をやって、何を食べたか、どうやって家に帰ってきたかもさっぱり覚えていないような日が続く。教室でもバイト先でも何人かに話しかけられはしたが、いつもに顔でいられたかはさっぱり分からないし、会話の内容すらもほとんど思い出せなかった。

 

***

 

 いつもの教室。男だらけの教室を友人と出て昼飯を学食で食べ、ゲームの話をしながら戻ってまた授業。実に学生らしい1日だ。

「……えぇ〜、あぁ……。ここでこの点aと点bのエネルギーが、このベクトルで表される訳でだな……これをそれぞれの成分で微分すっとこうなる訳でぇ、そんで2点のエネルギー、それすなわち電荷である訳でぇ、外積になる訳だ……」

 

 以下省略。ぶっちゃけ何を言っているかさっぱりだ。ミミズが這い回ったような妙ちきりんな図も、何だかひたすら記号の山で出来た用途不明の図も記憶に入ってこない。まぁその理由がさっきまで寝てたからなんだけども。

 悲しいかな、僅かに覚醒した頭を適当に動かそうとしながら周りを見渡せば、まるで死屍累々。睡魔に勝てなかった同類がわんさか目に付く。暇つぶしついでに数えてみれば、ざっと15人くらい。今年も人数が減って、当初居たはずの50人ちょっとから45人ちょいまで減っているから3割位が寝落ちてる計算。この授業は昼飯直後で、寒いからと締め切った室内の温かなタイミングでやるもんじゃない。そこの所も是非考えて欲しい。いや、やっぱり寝たいからこのままで良いかもしれない。授業時間も1時間を過ぎたから残り30分。眠気で黒板同様ミミズののたくった字を眺めながらプリントに向き合ってみよう。うん、解けないどころか何にも分からん。よし寝よう。

 

 そして起きたら授業終わりの5分前。時間が過ぎ去っていた。突っ伏したせいでメガネが食い込んで鼻の頭がちょっと痛かった。

「それでぇ、次は……これの逆パターンをやる事になるのか……はいじゃあ、これで終わりだな」

 うん。どうやら良いタイミング起きれたようだ。次の授業は無いし、これでトンズラおさらばだ。今週はあと一日で終わりだし、とっととロッカーに白紙に近いノートを入れて教室を抜けだして羽を伸ばしたい。まぁこれと言って行くあても無いから早く帰っても良いけど、温かい部屋にでも行くとしよう。外は寒すぎる。

 

 

「こんちは~」

「あら、いらっしゃい?……って平川君じゃない。早いわね」

「あぁ~。うちは今日、早終わりで暇だから……」

「あら?そうなの……なにか飲む祥くん?」

「あのなぁ……それを学校で呼ぶなと……」

「なんでよ~。良いじゃない別に減るもんじゃないし」

「そりゃそうだけどね……」

 

 そうやって俺の事を呼ぶのはこの学校でただ一人。従姉にしてこの学校で先生とか呼ばれてる黒崎女史その人。互いの家も飛行機なんかを使うほど遠くなく、昔は頻繁に会って間柄とは言え、ここで出会ったのなんて本当に偶然も偶然。互いに知らずにばったり再会した時など二人して驚いてたぐらいだ。

 それが今ではこうして呑気に放課後適当な時間つぶしもかねてお茶を飲んでいるのだから何があるか分からないもんである。まぁ、ぶっちゃけるとタダでまともな飲み物が飲める上に程よい冷暖房で快適だからって話なんだけども。

 

「そうそう……今日は単なるお喋り?それとも真面目なお話?」

「いや、暇つぶしに来ただけ」

「えぇ……。なんか雑な理由だなぁ~……」

「強いて言えばあの子の事かな……俺の事話したんでしょ?」

「ありゃ、それ誰のこと……?」

「あのなぁ……」

 

 当然この他人にお節介やらなんやらを焼くための職業に就いた彼女があの子のことを知って無い筈がない。そもそもこっちからあの子が不安定だと教えた訳だし、あからさまな態度でこちらを見ているのに話しかけて来ない時点で察するに余りある。

 

「まぁ、私も守秘義務があるから特に何も言える訳じゃないけどね……」

「むしろそれで何かこぼされても俺は困るんだけど?」

「そんなの分かってるって。ただ今週末から再来週の途中まで学会だからさ……。諸々心配だね……」

 

 そうやって嘆息する彼女の意見も分からなくはないが、仕事のうちな訳だから何とも言えないところではある。俺も仕事したくないなぁ、とか同時に思ってしまう。とは言え卒業できても進学か就職できなければぷー太郎、すなわちニートまっしぐらな訳で、何もしないという選択は取れないだろう。

 

 その後少しばかり適当な話題で暇をつぶし、タダお茶を堪能し、帰路に就いた。そしてその日から秋から冬にかけてでは珍しく雨が2日間に渡って降り続いた。

 

***

 

 キュッ、キュッ、とリノリウムの床をゴム底で歩く音だけが足元から聞こえてくる。もう幾度も歩き、その度に少しだけ開放され続けてきた私のオアシスへの道。そこはいつも人気が無くて、静かで寂しげだった。が、そこを抜ければ暖かな部屋と柔らかな空気が待っていてくれた。

 ゆるりと視線を上げれば真っ暗な部屋。真っ白なすりガラスの戸には所要のため一時休止の文字が躍っている。休止、休み。その事実だけが背負った荷物をより重くする。どうしようもく矮小で、ボロボロで、みすぼらしい気分だった。

 

 

 ただ黙々と歩き、信号で止まり、車の列を眺め、寒さに身を縮ませる。一歩ずつ帰途を歩み続ける。轟音と共に反対側のホームを列車が通過すれば、後から追いかけるようにして風をあびる。

 

 プアァァァァァン!!!!!

 

 長く強烈な甲高い音に体を震わせ、脳みそが働き始める。ぱっと目についたのが黄色い線を思いっきり踏んだ自分の足。ゴォーッという音ともに真横から風邪を叩きつけられ、目の前をアルミ色の車体が減速しながら横切り、止まる。

 あっという間に人が降り、ベルが鳴り響き、追い立てられるようにして車内へと潜り込んだ。横に引っ張られるような加速感と共に動き出す車窓。横殴りの風と目と鼻の先を通る銀色を思い出し、震えた。




ここまで読了いただきありがとうございました!

今回は視点が行ったり来たりしたので、ちょっと読みにくかったりしないか不安ではありますが、書きたいように書けたので個人的にはニッコリです。

さて、前書きでも書きましたが、最後まで書き終わりました。そしてお知らせです。次回が最終話です!!(ここでばらしていくスタイル)


次回は明日か明後日に投稿しますので乞うご期待!!
それでは、また次回!アデュー!!
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