二人の面倒な日常と、出会いと、恋と   作:柚野鈴

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昨日ぶりです。柚野です。

いやぁ~。書き貯めって偉大ですね(今作二回目)
前回のあとがきでも書きましたが、今回が最終話になります。

それでは、最終話”救いの手”をさっそくどうぞ!!


救いの手

 

 まただ……また笑われてる。嫌だ。誰かも分からないけど嫌だ。

 耳にボソボソと入ってきた不快音が私を水底へと引きずり込む。

 シンとした廊下に出てもこびりついてくる。

 

 もう嫌だ。やめてくれ。私なんか気にしないでくれ。ほっといてくれ。ざわめく様でヒソヒソとした話し声は辞めてくれ。

 ずっとずっとついて回って、一度付いたら離れない。それこそひっつき虫みたいに勝手に張り付いて、その棘が頻繁に私へ牙をむく。

 

 星が瞬く夜空を見ても癒やされない。逆にその黒さが滲み出て私を包み込もうとする。

 星に願いを、どれだけ私がやめてほしい、助けて欲しいと願っても救いなんて何処にも見当たらない。空高く瞬き、都会の光にも負けず煌めく星星だって遠く遠く離れた何処かで今この時には一生を終えているのかもしれない。そこに見えるからこそ願いを託し、触れられないからこそ自らの希望を押し付ける。遠く及ばない存在であったら或いはとの想いを込めて。

 けれどそれは叶わない。物言わぬ存在は唯そこに見えるだけ。私なんてどうでもいい存在だ。無価値で何の益にもならない。居なくなっても世界は周り続ける。それでも心の何処かで願わざるを得なかった。

 どうにかしてくれと……。

 

 

 

「おーい」

 ふと声がかかる。あぁ……彼だ。彼が居たんだ。

「こっちこっち」

 フラフラと誘蛾灯に引き付けられる夜行性の虫が如く寄せられていく。こちらに向けて手を振る彼に吸い寄せられていく。

 決めたばかりなのに……彼にも迷惑がかかってしまうのに……何処かで何かがそう囁いている。けれど彼を捉えた私は一歩一歩近づいていった。ジャリッ、ジャリッと砂粒を立てる音がするたびに彼の足元が大きくなり、ベンチの足が見えてくる。

 

「はい、これあげる」

「……ん」

 

 差し出されたのはココア。キンと冷えた指先を融かすようにゆっくりと確かな柔らかさを伝えてくれる。

 パキッ。小さく音がしてキャップを回す力が抜ける。くるりくるりと回る上蓋をもたつきながらも取り去る。唇に触れ、甘さがめぐり、温かさが喉を抜ける。

 

 温かい……。冷風が止み、ビル風に載せられて木木のざわめきが聞こえてくる。やっと人心地つける、そう思って後ろにもたれかかり、目を瞑った。

 グニャリ。

 真っ暗な目の前が歪む。当然何も見えない、そのはずなのに空が回り始める。

 

「……っ」

 

 慌てて目を開ければ完ぺきに元通り、という訳ではないが視界は落ち着きを見せる。指先にココアの温かさも分かるし、横目に見れば彼がミルクティーを飲んでるのも見えてる。

 大丈夫。問題ない。今のは気のせいだ。一人にも慣れたし大丈夫だ。

 

 もう一度目を瞑る。

 ズズッ、グワンッ。

 

 目の前を中心に時計回りの集中線のような何かを描くようにして視界が回った。

 目を開かなきゃ。そう思っても何故か開けられない。アリジゴクに落ちたように回りながら深みへと沈みこんでゆく。

 

 動きは加速し、気分が悪くなり、うなされそうになる。

 あぁ、もう駄目かもしれない。そんな風にさえ思えた。

 

 

「大丈夫。もう大丈夫……。もう大丈夫だから……」

 

 背中から抱き寄せられ、何かに包まれるような感じと共に声が聞こえる。

 

「大丈夫。大丈夫だから……」

 

 少しだけ低い声は何度も繰り返す。

 そこからの記憶は殆ど自覚(おぼ)えていなかった。

 

 

 

 そっと寄り添うように包まれる。私より少しだけ大きい彼に包まれる。

 嫌悪感とかこれといった感情は無かった。

 ただただ、ただただ暖かかった。

 

 そんな中、大丈夫、大丈夫と言う声と僅かな温もり、背中を擦る手の感触だけが感じられた。冬服特有のごわついた生地が擦れあう感触と、ゆっくりゆっくりと往復するぬくもりが沁み込んでくる。

 私は無我夢中、それもかなりの力で掴んでいた。これでも人一人分の力なのだからそれなりに重くて苦しかったはずだ。それでも抱き止め続けてくれた。普通なら学校で話したことのある人を、それも異性を抱きとめるなんて出来る筈がない。

 そんな風に彼に聞いたことがある。そしたら、彼は『辛そうな山理を見て昔を思い出した』と語ってくれた。きっと彼には彼の何か深い事情があったのだろうし、それ以上踏み込むと私にもブーメランが返ってきそうだったからやめておいた。きっともっともっと歳を重ねていつか笑い話にできるようになった頃、それまで彼と一緒かは分からないけどいつかその時が来たら話してみようと思う。

 

 私にはもうそれしか糸が無かったのかもしれない。縋りつける糸が。

 きっと私の本能がそれを察していたのだろう。

 浅く短い呼吸が徐々に変わってゆき、一定の小さな息遣いと共に意識が微睡んでいったのを覚えている。

 

 

 それからは本当に、四六時中一緒に居るようになった。

 それこそ朝から晩まで、学校に来てから帰り道の途中まで、一緒に居続けた。

 そして決まって別れるときが嫌で嫌で仕方なくて、ほんの少し怖かったのを覚えている。

 

「ね、平川君……」

「ん。どうした……?」

「……ありがとね!」

「え……。あぁ、うん……」

 

 そして今、彼と結ばれている。

 

 

 

~fin~




皆様読了ありがとうございました!!

ここまで1万5千文字少しとは言え、足かけ半年ちょっと。いやぁ~、意外と時間かかっちゃいましたけど、書きたいことは書けたので結構満足してたりします。

何とも歯ごたえの良くない感じや、楽しくニコニコ笑いながら読むような作品では無かったですけど、これはこれで私らしさが出た作品かなと(笑)
今作以外にも投稿しておりますので、ぜひに!!

今作はこれにてお終い!アフターストーリーが付くかもしれないし、付かないかもしれない。そこは私の気分と読者の皆様のコメント次第と言うことで…。

ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。それではまた次回、何処かでお会い出来ることを願っております。
ありがとうございました。
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