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妹紅と赫
憎々しい程に青い空の下、私は駆けていた。
「はぁ……はぁ……」
呼吸は荒く、心臓の音はうるさいぐらいに聞こえる。
それも当然だろう。なんの訓練も積んでない少女が、小さいとはいえ重たい丈夫な壺を抱えて走っているのだから。しかも右腕には矢が刺さっていて、未だに血が流れている。
「はぁ……撒いた、かな?」
私は荒れた息を整えるために、木を背もたれにして座り込む。
手元には壺。中にはあのかぐや姫が残していった[蓬莱の薬]が入っている。
事の始まりは一週間前。かぐや姫が月に帰ってしまい、私の父である藤原不比等が息を引き取った日。
かぐや姫が置いていった蓬莱の薬……不老不死不死の秘薬は翁も帝も飲むことを是とせず、これを富士の山で焼こうとした。
しかし、愛する父の死に目所か殺される瞬間を見たこと、様々な心無い噂、それらが私の様々な感情を翻弄し、自暴自棄になってしまった。
その結果が、輸送中の蓬莱の薬の奪取。山から転がるように逃げて現在に繋がる。
「は、ははは……はぁ……」
そもそも何故蓬莱の薬を盗むという行動に出たのか。私にもよく分からない。疲れ切ってまともな判断が出来ていなかっただけかもしれない。もしかしたらかぐや姫に少しでも嫌がらせをしたかったのかもしれない。
さて、この薬をどうするか。どうせ京に戻っても犯罪者だ。いや、それ以前に出血で死んでしまうだろう。
そんな時、私の頭上を大きな影が遮る。
赤い甲殻に身を包まれ、二本の脚に鋭い爪、大きな翼に長い尻尾。明らかに人外の類で、ソイツは私と目が合った。
普通なら恐怖や畏怖を抱くのだろう。でも、疲れ切った私にはなにも感じない。
ソイツが目の前に着地すると、風圧だけで吹き飛びそうになる。それでも目を逸らさずに見つめていると、みるみる形が崩れ、人の形をとる。
赤黒い髪に、私より少し高い身長。小さい頃から一緒にいたため、絶対に見間違えるはずがない。彼は間違いなく赫だ。
「赫……いまのは……」
「妹紅……説明はちゃんとする。だから先に止血を」
「近づかないで」
赫は、とても悲しそうな顔をした。でも、ここで生き延びても未来は暗い。
彼は言葉を重ねる。
「ここに来たのは、自暴自棄になった妹紅を止めるため。妹紅にはちゃんと生きて欲しいから」
赫は妖怪だったけど、心の底から私を心配してくれていた。
「そっか……でも、もう手遅れだ。取り返しがつかないもん……帝の使者を傷つけて、薬を奪って……」
未だに血が止まらない。意識も朦朧としてきた。もう助からないだろう。
「っ妹紅!」
赫が駆け寄ってきて、力なく横倒れになる私を支える。その顔はとても私が拒否した時よりも焦燥していて悲しそだった。
そして、赫は覚悟を決めたように、こう告げる。
「妹紅、後で僕をどれだけ恨んでくれても構わない」
赫は私の左手にある壺の中身を一息で
意識を手放す前に感じたのは、優しい唇の感触だった。
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目を覚ますと空は橙に染っていた。
体を起こすと、目の前で赫が土下座していた。
彼はこう言う。
「妹紅。本当にすまない。僕の感情を優先させて、君の命を無理矢理繋ぎ止めてしまった。それどころか不老不死の業をもムギュッ」
とりあえず喋れないように顔を上げさせて口を摘む。
「赫、これだけ答えて。赫は私のことをどう思ってるの? 妹?娘?」
彼は渋るが、私の視線に耐えられなかったのか、それとも罪悪感からか小さな声で呟く。
「好きだった」
「えっ?」
「異性として、好きだったんだよ」
衝撃的な告白。赫が妖怪だったとわかった時よりも驚いた。
「私もだ」
「えっ?」
今度は赫が聞き返す。
「小さい頃は、兄や父のように慕っていた。でも成長するに連れて一人の男として見始めた」
いつだか、父に見合いを勧められた。でも、こんな素敵な異性が近くにいれば、他に目が向くはずが無い。
「そ、そうか……」
沈黙が辺りを支配する。いつも弄る側にいる赫は珍しく顔を赤く染めているし、私も真っ赤だろう。
ふと、髪を見ると黒かった髪が白く染っていた。これでは迂闊に人前に出れないだろう。
「妹紅……」
彼の言いたいことはだいたい分かる。
だから、私はこういった。
「赫、私をこんなのにした、責任を取ってくれよな」
遠回しな二回目の告白
「……うん、僕の一生をかけてでも」
後悔も反省もしてないです。
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