アインツベルンのバーサーカー、真名を茶渡泰虎というらしい。 作:サンゴの友達
外を一望できる大窓、しかしその景色はいつも変わらない。雪と氷と針葉樹林、窓際と同じ様に冷たい景色こそが彼女の見慣れた外の世界であった。
そしてそれは彼女の心象風景そのものとも言えた。
「イリヤ、どうしたの?いつもより元気なさげ」
彼女の従者リーゼリットが声を掛ける。イリヤは彼女を一瞥すると再び窓に視線を向けた。
「…なんでもないわ、リズ。ただ少しだけ昔の事を思い出していただけ」
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに思い出と呼べる物は少ない。彼女の18年間の人生は大半が痛みと魔術に占められていた。
そんな彼女が幸せだった瞬間、両親との幸せだった時間があった。
しかしそれは今の彼女には呪いの様にこびりついていた。
「…お母様、私はこれから貴女と同じ様に聖杯戦争に参加します。今度こそ私たちアインツベルンの願いが叶うでしょう。
小さな手が震える。それは決して外の寒気に当てられたものではなかった。
「大丈夫、イリヤは、私たちが守る」
気づけばリーゼリットの手がイリヤに重ねられていた。いつ見てた表情の乏しい顔、しかししっかりとこちらを見る瞳があった。
「…ありがとうリズ、…そうね、こんな事で怖気付いていたら皆に笑われてしまうわ。……そう言えば少し寒いわね、セラも呼んでお茶会にしましょ?取り置きのクッキーがあったわよね?」
「…!お菓子‼︎急いで用意する!」
少し駆け足でリーゼリットが出て行く。これではどちらが世話役か分かったものではない。
「…ほんと食べることが好きよね。……でもこんな日常も最後なのかもね」
現在、彼女の祖父にあたるユーブスタクハイトが召喚の儀を執り行っている。歴代最強のサーヴァントを召喚すると言われたが彼女にとってはハッキリ言ってどうでもよかった。
これから血で血を洗う戦いが始まるのだ。戦う事に恐怖を感じてはいない。自分だって魔術師の端くれだ、常識から外れている事なんて理解している。
ただ漠然と、この胸がぽっかり空いてしまった様な不安がいつまでもイリヤの魂に纏わり付いて離れないのだ。
第五次聖杯戦争の器として生み出された彼女は逆らえない死の運命が待ち構えている。それでも投げ出さなかったのは彼女のプライドの高さと裏切り者への憎悪だった。
衛宮切嗣、実の父でありアインツベルンと母アイリスフィールと私を裏切った罪人。
報復を、宿願を果たすまでは戦い続けると誓ったのだ。イリヤの中で繋がった歴代の聖杯の金型達がこちらにそう囁くのだった。
「…ま、私が勝つのは決まってるんだけどね。お爺様はどんなサーヴァントを召喚するおつもりなのかしら?クラスはバーサーカーらしいけど……キャア⁉︎」
突如として起きた揺れにイリヤは尻餅をつく。何処かで爆発音が鈍く鳴り響いた後、喧騒とした叫び声が遠くから聞こえた。
「…ええっ?なに⁉︎なに⁉︎地震?耐震偽装されてたのこのお城⁉︎待ってさっき爆発したよね?大丈夫なの?」
誰もいない部屋で一人騒ぐイリヤ。従者を呼ぼうとしたが自ら少し離れた台所にやってしまった為情報を得る手段がない。
「…なんだか外が忙しいし、てゆうかドンドン騒ぎ大きくなってない?」
慌しい靴音と共に怒号がこちらに響く。「待てえ!」だの「そっちに近づけさせるな」など普段大人しいホムンクルスが声を張り上げていた。
「…え?本当に何が起こってるの?……こっちから音がするわね」
そう言ってイリヤは音がする方向の壁に耳を当てた。
…瞬間、
「チェストオオオオオオオ!!!」
壁が吹き飛んだ。
「ええええええええ!?!?!!?!!」
自室の繊細な調度品を巻き込んで白磁の壁が土煙を捲き上げながら消し飛んだ。余りの突然の出来事にイリヤは淑女にあるまじきあんぐりとした口を開けたまま固まってしまった。
「…むっ、やっと広い場所に出たか。同じ様な通路ばかりでまるで分からない。しかし一体ここは何処な……んだ…」
壊れた壁の中から現れた巨人。黒い鎧の右腕はその肩口から白いオーラを放ち凄まじい迫力を放っていた。
そしてそんな化け物と目が合ってしまった。
「わわわわわわ、私なんか食べても美味しくないです!?多分リズとかの方が食べる所あると思いますーー!!」
最早そこにアインツベルンの子息としてのプライドは無く、見た目相応に慌てふためく幼子の姿があった。
「お、落ち着け、済まない、ココが君の部屋とは知らなかったんだ。…本当に済まない」
本当に済まなそうに頭を下げる大男、何もしてこない事にイリヤは両目を塞いでいた腕を外した。
「…あ、貴方は?」
子猫、というよりは最早バイブレーションの様な震え方をしているイリヤを前に大男は頰を掻いた。
「俺は……気がついたらここにいてな、俺自身よく分かっていないんだ。名前は茶渡泰虎という」
「……突然ここに来たって、もしかしてあなたサーヴァント!?」
魔術師としての目は目の前の茶渡を正確に捉える。明らかに人とは違う成り立ち、しかし人間の肉体を持っている、そんな混じり合わさった様なな気配を感じ取っていた。
「サーヴァント?確か儀式の場に居た奴らもそんな事を言っていた……危ない!!」
「…え?キャアアア!?」
突如としてこちらに伸びた太い腕がイリヤの細い腰を掴みこちらに引き込んだ。
「ちょっと!!何する…
イリヤは文句を言おうとした瞬間、電撃が着弾する。
「ふぇ!?魔術!??誰よ!私の部屋に電撃放ったの!!」
「多分俺に向かって放ったんだな。…済まない巻き込んでしまったらしい」
「本当にね!てゆうか貴方なんで逃げ出してるのよ、使い魔でしょ!?大人しく召喚主に従いなさいよ」
「悪いが話は後だ!今は安全な場所まで逃げるぞ‼︎」
そう言ってやれ茶渡はイリヤの軽い身体を小脇に抱えるとそのまま走り出した。
「ちょっと待ってーー?!私の関係ないんだけどーー!?」
甲高い叫び声をあげるイリヤ。バタバタと手足を振り回すが茶渡は全くブレる事なく走り続ける。
「ギャーー!!セラァァァ!!リズゥウウ!!!たすけてーー‼︎」
「あんな所では君が怪我をするかもしれない!安全な所で降ろすから我慢してくれ!!」
精一杯の釈明をしながら茶渡は走る。見るからにか弱い少女、少し力を加えるだけで折れてしまう、そんな儚さを纏った少女を放置するわけにはいかなかった。
「………。って!!狙われてるの貴方でしょ!?張本人が私担いでたらキリがないわよー!」
「む、それもそうだな。…だが降ろすのはあの集団を巻いた後だ!」
扉を蹴破る、待ち構える敵がいないのを確認すると茶渡は全力で走った。
依然として後ろには兵士が追ってきている。時折炎や雷撃がこちらに飛んできている。何処も同じような廊下をジグザグに曲がりながら避けているが時間が経つごとに増えてきている気がする。
放たれた雷撃の一つが茶渡の真横、イリヤの近くに着弾する。
「ギャーー!!あいつら私が見えてないの?!お構い無しに撃つんじゃのいわよ!!」
「…なんだか、わざと打ってきてないか?さっきから君の方へ飛んできてるんだ…ガッ!!」
上半身をひねり、飛んでくる光弾を避ける。突如の事にイリヤの奇声は更に大きくなる。
「狙ってる!あいつら絶対狙ってきてる!!……絶対わざとよね。となるとお爺様、何か企んでるわね!!」
聖杯戦争に不可欠であるイリヤスフィールを傷つける理由はない。相当の奇跡がない限りホムンクルスが自律的に反逆を起こす事もあり得ない。ならば糸を引いている者がいる。…そうなれば一番に上がってくるのはあの男しかいない。
「……もしかしてあの長い髪の爺さんか?」
「…ええ、融通の利かない堅物よ。……ならそろそろ私が一人前ってこと教えてあげないとね!」
「何をする気だ?何か手はあるのか?」
「貴方も私を見かけで判断してるみたいだから教えてあげる!私がすごいって事その目にしかと刻み付けなさい!!…後、かたぐるまぁ!!」
茶渡の太い首に脚をかけるとイリヤは両手を広げる。すると袖口から光を帯びた金属の糸が縦横無尽に飛び出した。まるで意思を持つかのように金属の糸は組み合わさり二匹の小鳥の形となった。
「
小鳥達から光弾が放たれる。それらは迫り来る兵士に衝突し、爆ぜる。
「これは…鬼道?いや違うな、霊力の起こりは感じるんだが…」
何人かの前衛が吹き飛ばされ壁や地面に叩きつけられる。前衛が崩れ倒れた仲間に後方が引っかかっている。
茶渡はこの間に距離を離すべく全力で走った。
「……いいのか?君の仲間じゃなかったのか?」
前髪にかくれているが明らかに驚いた表情を見せる茶渡にイリヤはニヤリと笑ってみせる。
「いいわよ、お爺様達が何か企んでるっぽいし、……貴方名前なんだっけ?」
「…茶渡泰虎だ」
「じゃあヤストラ?私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。共闘しましょ?お爺様所に殴り込みに行くわよ!!」
○
「アハト翁、茶渡泰虎とイリヤスフィールが共闘を開始しました」
護衛の報告に僅かばかりの反応を示すと、待機していた部隊に号令をかける。
「かの者達を追い詰めよ。殺す気で構わん。さすればあのサーヴァントの力の一端も知れるだろう。さぁ、行け【イリヤスフィールを殺せ】」
武装したホムンクルス、総勢27名が統率者の命に従い走り出した。
チャドどんな喋り方かワカンねぇ…