アインツベルンのバーサーカー、真名を茶渡泰虎というらしい。   作:サンゴの友達

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本編始めないと…


巨人の腕 前

「ヤストラ!もっと走って!!追いつかれちゃうわよ!!」

 

茶渡の頭上で鈴の様な声で命令する少女、イリヤスフィール。彼女の錬金術を用いた攻撃で追っ手を牽制しながら茶渡泰虎は走り続けていた。

 

 

「…くっ!さっきから体が重い、血が足りない様な疲労感があるんだ」

 

自覚したのいつだったか、最初は暴れ回っていたための疲労だと考えていた。しかし茶渡泰虎の現在は一流のボクサーだ。いくらボクサーは疲れやすい肉体だと言われていようとも超常的な力を宿した彼はその範疇外だ。

 

そもそも長年肉体管理はしてきている。ならばこの疲労は異常と言ってよいと判断した。

 

「私そんなに重くないわよ!……という冗談は置いといて魔力の消費が激しいのよ。ヤストラ、今の貴方は魔力の供給手段が無いからこのままではジリ貧ね」

 

「…魔力?俺からそれが無くなるとどうなるんだ?」

 

先程から言葉の端々に出てくる単語を茶渡は完全に理解出来ていない。魔術を鬼道、魔力を霊力や霊圧と置き換えて推察してはみたがイマイチ噛み合わない。憶測だが彼の知るものとは別物なのだろう。

 

…但し完全に別物という訳では無いようだが。

 

「貴方は正規のサーヴァントじゃ無いから分からないわね…でも元の場所に戻されるのか、そのまま死んでしまうのか、どっちかじゃない?……そこ左よ!」

 

「さらっと怖い事を言わないでくれ……了解した」

 

イリヤのナビに従い迷宮の様な城の中を駆け抜けてゆく。彼女が敵と鉢合わせしない様に隙間を縫う様な逃走を続けていた。

 

「このまま突き当たりに行けば広間に出るわ、そこで迎え撃つわよ!」

 

「共闘するとは言ってないんだが…」

 

流れで逃げてこそいるが、暴力を使わずに済むのなら茶渡はそちらを選ぶ。こちら側に無礼があったのならば下げる頭ぐらい何のことはない。

 

そもそも茶渡にとってはこの場の何もかもが不明なままだ。唐突な召喚、見慣れぬ人々、魔術という未知の技…元々慎重な彼には目まぐるしく変わる状況に状況の整理が付かないままであった。

 

(ただ逃げていたつもりが少女を肩車して喧嘩を売りに行く事になるとはな…)

 

良く勘違いされやすい茶渡は高校時代など特に知らぬ間に喧嘩を売られる事が多かった。……いや親友の喧嘩にいつのまにか巻き込まれていたことの方が多かったかも知れない。

 

しかし考えてみれば少しばかり個性的な高校生活が死神や(ホロウ)などという超常のものと出会い、自身が異能を手に入れるなどつゆにも思ってはいなかった。

 

(確かに何か行動を起こさない事には展開は無いだろうな…)

 

 

「……勝算はあるのか?」

 

茶渡は問う。巨人の右腕を持つ大男と魔術と呼ばれる不思議な技を扱う少女のたった二人、されど敵は100人を超える常人を超えたの力を持つ集団。数の利、地の利共にあちら側に傾いている。

 

「それは分からないけど心強い味方がいるわ!」

 

出会った時の様な儚さはそこには無く、緋色の瞳には諦めの悪い闘志が宿っていた。

 

少しだけ、その顔は友人に似ていた。

 

 

 

「…分かった、少しスピードを上げるぞ!」

 

言い合えるよりも先に茶渡は加速する。彼に死神、滅却師や破面のような特殊な移動手段は無い。だが霊力を巡らせ、霊子で最適な踏み台を作る事で加速を得る事に成功した。

 

どうにもこの世界は元の場所よりも霊子の濃度が濃い様だ。

 

「はっ…速い!?」

 

「オオオオオオ!!!」

 

右手が唸り、巨大な扉が軋む。加速を加えた一撃は分厚い木製の扉を木っ端微塵に吹き飛ばす。

 

 

彼らが侵入したのは中庭の広場。中央には噴水が設置され周り全てが大理石の壁や敷石で埋められている。無機質さと神秘性を浴びたその空間に少しばかり茶渡は息を飲んだ。

 

「まだ安心するのは早いわ!」

 

そう言うと少女は自身に追尾していた鳥の形を成した針金を先程侵入した扉に突撃させる。衝突の瞬間鳥は形を瞬間的に変化させ、巨大な剣へと変貌する。周囲の城壁が砕け追っ手の迫る扉は無残にもガレキにより封じ込められた。

 

「とりあえず巻いたかしら……?どお?私、強いでしょ?」

 

「ああ、恐れ入った。かわいさとは裏腹に獰猛さすら感じる闘気だったよ」

 

茶渡が走る中彼女は攻撃の手を緩めなかった。それも敵を殺さぬ様にと加減してのものだ。冷静な判断能力は一級品といっても差し支えはないだろう。

 

「……ッ!貴方は恥ずかしげも無くそんな言葉を吐けるの?見かけはもっと無口でも良いと思うんだけど」

 

「…大人になれば多少なりとも社交性は必要だからな。……ところであれが君の言っていた()()()()()か?」

 

茶渡が視線を向けた先、何も無いはずの草陰を凝視する姿を見てイリヤもつられた視線を向ける。

 

 

それは突然現れた。僅かに空間が震えると鈍い光を浴びた鋭い矢がイリヤの眼前に現出する。矢じりと彼女の距離は僅か、防ぐ手段などありはしない。

 

「キャッ!?」

 

 

瞳を閉じる事しか出来なかったイリヤはいつまでも痛みが来ない事に瞼を開いた。

 

「…………へっ!?」

 

「大丈夫か?」

 

矢じりは眼前で停止している。茶渡の分厚い拳が矢を握り締めピタリと動きを止めていた。

 

どんな反射神経と瞬発力があればこんな曲芸じみたことが出来るのか。イリヤは目の前の大男がイレギュラーなれど英雄の資質を秘めた人間である事を認識した。

 

自身の直線上に人影が浮き出る。魔術を解き表したのは物言わぬ瞳でこちらを見つめる黒服の兵士だった。その髪と瞳はイリヤと同様にホムンクルスの特徴を持っている。その手に収まっているボウガンから彼が攻撃を仕掛けてきた事は明白だ。

 

「……ありがとう、それと気をつけて、そいつらはさっきまでの奴らとは違うわ。対代行者用に用意された特化戦闘型、って言っても分からないわね、…警戒度を限界まで上げておきなさい、さもないと死んじゃうから!」

 

アインツベルンには珍しい戦う事に特化した戦士型のホムンクルス。その戦闘能力は平均的な代行者に迫るものだ。普段表に出ない集団の為イリヤに顔見知りは居ない。しかし噂に聞く分にはアインツベルンの最大戦力と呼んで良い部隊だろう。

 

「そうか、なら後ろと屋根に潜んでいる奴らもそうだな?ザッと見積もって30人程度はいるか」

 

 

イリヤにはその言葉が素直に入っては来なかった。30人?何を言っているんだとばかりにとぼけた顔をする少女を置いて茶渡は無造作に右腕を振るった。

 

「ぐあっ!?」

 

突如姿を表した黒服が屋根から落ちていった。

 

先程の矢は手元には残っていなかった。圧倒的な膂力で投げ飛ばされた矢はボウガンよりも速く、威力を持って不可視の兵士の肩口を貫いたのだった。

 

「姿は隠せても、霊圧でバレているぞ?……もしかして俺しか認識していないのか?」

 

 

「スゴイ……、ヤストラ!貴方は彼らが見えているの?さっきも追っ手の攻撃を避け続けてたみたいだけど。……もしかしてそれが貴方の力なの?」

 

彼らの不可視はアサシンと同等という事はない。所詮認識阻害と多少の景色への同化というものだ。匂いなど獣レベルでしか分からない以上機能美を追求した最低限の機能だ。彼らにとって奇襲など手段の一つに過ぎないのだから。

 

「……分からない。ただ魔術というものを使う時、霊圧……魂が発する圧力の様なものが分かるみたいだ。理屈までは俺も知らない」

 

 

「霊圧…ね。聞いたことのない概念ね。礼装も使わずにそんな事が出来るなんて、それが俗にゆう超能力って奴なのかしら。取り敢えずアイツらの不可視は貴方には障害にはならないようね」

 

「だが数が多い、流石の君でもこれは押し切られるぞ」

 

「…心配ないわ、ちゃんと私の従者が追いついたみたいよ?」

 

そう言って天を仰ぐイリヤつられて茶渡も空を見る。黒い雲が空の果てまでも覆い尽くす淀んだ空の中に白い目で人影がこちらに向かって来たのを認めた。

 

人では骨折必至の高さからの跳躍も彼女達は問題無く着地する。少し変わった白を基調とした修道服の様な衣装。見え隠れする髪は同じ様に白く、瞳と共にイリヤと同様の輝きを見せていた。

 

「お嬢さま!ご無事ですか!?」

 

「ええ、大丈夫よセラ。彼のお陰で全くの無傷よ」

 

心配そうに駆け寄った従者にイリヤは余裕を持って答える。ここだけみれば気品あるお嬢さまの様にしか見えない。

 

 

「…恐れながらお嬢さま、何故にそのお方の肩に座っていらっしゃるので?」

 

「「そういえば…」」

 

考えてみれば肩車したままである事を理解した茶渡は速やかにイリヤを肩から下ろす。

 

「…貴方はだれ?イリヤを助けてくれたのは貴方?」

 

もう一方の従者、巨大なハルバートを担いだ従者が茶渡に問う。

 

「茶渡泰虎だ、正確に言えば巻き込んでしまったと言うべきだが……」

 

「お爺様に私の力を証明して差し上げるのも一興かと思っただけよ。ああ、あとこの二人はリーゼリットとセラ、私の従者よ。……自己紹介は後にしましょう?周りの奴らがいつまでも待ってくれないみたいだし」

 

気付けばかなりの距離を詰められている。仲間が増えたとはいえその差は未だ歴然とした差がある。

 

「二人は戦えるのか?そのハルバートはかなりの業物の様だが…」

 

「大丈夫、戦える。この巨人の腕(リーゼンアルム)はすごく強い。」

 

リーゼリットは表情は乏しいながら自慢げに構える。

 

「【巨人の腕】か、いい名前だな」

 

サムズアップする茶渡にリーゼリットも同じジェスチャーをする。

 

「はいはい、……さっさと終わらせるわよ。リズとセラは左右面をお願い。ヤストラは正面から吹き飛ばして頂戴、私が援護してあげる」

 

「…お嬢さま、その前にもう一つだけ。……茶渡泰虎、お前は戦わずとて良かったはずです。なのに何故お嬢さまに味方するのです?……貴方は何故戦うのです、答えなさい」

 

その目は臆せず泰虎を捉える。その真剣な眼差しには泰虎も真摯に答えなければならないと感じた。

 

「…そうだな、俺はイリヤスフィールを信頼しても良いと思ったんだ。これは直感に近いものだが、確かに俺の中で納得のいくものだ。背中を預けてもいい、そう思える程にはな」

 

「…そうですか、一先ずその言葉信じるとしましょう」

 

セラは素っ気なく後ろを向き敵へと立った。

 

「…やっぱり貴方は少し世辞が過ぎるわ。これは殆ど自己満足だってゆうのに……さぁ!やるわよ!!パッパッと終わらせるわよ!!」

 

顔を赤面させながら小さな体が号令をかける。それに応えてセラとリーゼリットは戦闘態勢へと切り替えた。

 

「了解だ。…開幕の一撃は俺がやろう!」

 

茶渡は右腕を高く掲げ、地面を殴りつけた。敷石は弾け飛び、大地が割れる。天変地異を思わせるような地割れに敵陣は足を取られることとなる。

 

 

激戦の狼煙がここに上がった。

 

 

 

 

 

 

 




セラってどんな魔術が得意なんですかね?

10/05少し書き加えました
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